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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.081

Issued: 2009.10.13

第81講 鳩山革命の行方は?

目次
理工系ソーリ誕生
公務員制度、抜本的改革か?
鳩山イニシアティブ
鳩山内閣の試金石
鳩山内閣と公共事業
最新環境ネタ─PM2.5、健康に関する水質環境基準、小笠原自然遺産、ツキノワグマ事故
廃消火器と適正処理困難物の謎
シルバーウィークとバカンス革命

理工系ソーリ誕生

Aさんセンセイ、鳩山内閣が成立して2週間が過ぎました。センセイの評価はいかがですか。

H教授鳩山サンは工学博士号を持つ研究者出身の総理で、専門は経営工学。一方、副総理の菅サンも応用物理出身だ。政府のトップ2人を理工・技術系出身者が占めたというのは敗戦以降はじめて、いや、ひょっとしたら明治維新以降、はじめてじゃないかな。

Aさんはあ? また、そんなどうでもいいことを。

H教授いや、どうでもいいことじゃない。これまで理系離れを嘆いていろんな施策を打つとしてきたけど、例えば公務員のI種試験の合格採用者の過半は理工系でありながら、事務次官・局長といった役人のトップは8割以上を文系、そしてその大半を法律事務官が占めている。こんなバカなことをやっていれば、理系離れが起こるのは当然だろう。
こんな国は世界で日本だけだ。

Aさん法律事務官が優遇されているのはなぜなんですか。

H教授法的根拠はまったくないんだ。

Aさんじゃ単なる慣習ですか。


H教授というより既得権擁護以外の何ものでもない。このことは以前にも論じたことがある【1】
公式見解では、適材適所を貫いたら結果的にこうなってしまったということになるんだろうが、そんなばかげたフィクションを信じる役人はひとりとして存在していない。
今や総理、副総理が技術系出身者になったんだから、具体的な人事はともかくとして、少なくとも理工系技官が割を食うことのないよう指示を出すことは可能だろう。
今までは、そうした理工系技官の不満をなだめるために、特定部局の行政の大半の実質的権限を技官に与え、技官独立王国化を容認してきた。例えば国土交通省の河川局や道路局がそうだし、八ツ場ダムの問題だって、そうした技官の独立王国化と無関係ではない。
これからは、理工的なバックグラウンドと思考法を持った役人が、専門バカにならずに、広い視野と大局観を持って、いろんな分野で活躍することが必要だと思う。


公務員制度、抜本的改革か?

Aさんそういえば鳩山内閣は公務員の勧奨退職を禁止する方針だそうですね。

H教授うん、天下りの禁止とあいまって、役人の多くは定年までいることになるし、定年延長だって視野に入れなければいけない。
天下りができないとなれば、同期でも成績によって随分待遇に差が出ることは覚悟しなければいけないし、年下の上司に仕える事だって出てくるかもしれない。
25年・50歳で勇退・天下りするという構造が人件費の抑制に役立ってきたんだが、それができないとなれば、現在の等級号俸制やI種、II種、III種という公務員制度の全面的な見直しも必要になるだろう。公務員にスト権を付与するということも視野に入ってきているんじゃないかな。
いずれにしろ、年功序列型の人事システムの元になっていた勧奨退職がなくなるんだから、今後は、厳しい評価型の人事システムに移行せざるを得ないだろうな。

Aさんうーん、そういう意味で、公務員制度をめぐっては、大改革というか明治以来はじめての革命がはじまるかどうかということかもしれませんが、政策はどうなんですか。

H教授その話はもう少しあとでやろう。公務員制度同様、さまざまな役所のシステムが今や急激な勢いで変わっている。
例えば予算。単年度予算システムを複数年予算に変えるだとか、年度間繰越をOKにするとか、以前の常識じゃあ考えられなかったことを鳩山内閣はマジメに議論し始めた。
年度内に予算を使い切るのが当たり前とか、多額の予算を取ってきた役人が優秀だとかいう、そういうこれまでの常識を覆そうとしているようにも思えるぐらいだ。

Aさん民主党は議員立法を原則禁止するという方針を打ち出しました。
政府と党の二重権力化を防ぐとのことです。


H教授ボクは鳩山内閣の目指す方向を基本的には評価しているんだけど、評価できないものもあって、その一つがこの問題だ。三権分立の大原則を否定しているようなもので、バカバカしいとしか言いようがない。立法府というのは政府の出した法律案を審議するだけなのか。おまけに党議拘束を敷いているから、議会はまったくの形式だけになってしまう。
あとひとつ、鳩山内閣は官僚の記者会見の禁止ということを言い出した。さすがに強い反発の中で事実上撤回したが、これもトンデモない話だ。
そんなことより役所とマスコミとの馴れ合い・癒着の象徴のような記者クラブ制度を廃止すると言っていたのに、いまだにやっていない。
新聞・テレビは絶対この話は書かないから、声を大にして言わせて貰うけど、記者クラブ制度こそがどの新聞もテレビ局も個性のないつまらないものにしている元凶だし、情報版独禁法違反の最たるものだ。


Aさん(あやすように)はいはい、わかりました。(小さく)センセイ、よっぽどマスコミには恨みがあるのね。
さ、ぼちぼち現内閣の政策の話にいきましょう。センセイの評価はどうですか。


鳩山イニシアティブ

H教授内閣発足後2週間だけど、総じてよくやっていると思う。
前講でボクが期待したように、鳩山サンは「鳩山イニシアティブ」と称して、GHGの2020年対90年比25%カットを、条件付きで国際的に宣言した【2】し、途上国援助を惜しまないと言っている。

Aさんで、鳩山サンはそのための政策を総動員するといったんですね。

H教授うん、これまで産業界とタッグマッチを組んで、CO2対策に消極的だった経済産業省も、もう抵抗はできないだろう。
温暖化対策税の創設や国内排出量取引の前倒し、太陽光発電に限定されていた自然エネルギー固定価格買取制度の大幅な拡充、オフセット・クレジット制度の環境省と一体となっての拡大等、今必死でメニューの検討、そしてそのための予算要求の再提出の準備をしていると思うよ【3】

Aさんでも、ついこの間まで官僚たちは不可能と言ってたじゃないですか。

H教授かつて、「攘夷」を唱えていた連中は、ある日あっさりと開国派になってしまった。「鬼畜米英」と叫んでいた連中は、敗戦でさっさと親米派に転向した。それと同じだろう。
そういう意味では、今革命が起きていると言っても過言ではない。

Aさんでもサボタージュしませんか? だっていつ自民党政権に戻るかわからないじゃないですか。

H教授その可能性はごく低いと思うよ。

Aさんどうしてですか。

H教授総裁戦で谷垣サンが選ばれたけど、それの対抗馬だった河野サンとはコイズミ改革に対する評価が正反対だ。これじゃ一つの党としての結集軸がなく、あまりにも迫力不足だ。
あともうひとつ最大の理由は、今までの自公政権の闇がオープンにされる可能性が高いことだ。


Aさん闇って?

H教授いっぱいあるじゃないか。米国との核をめぐる密約問題、官邸・外務省の機密費問題、警察・検察のウラガネ問題、そして何よりも公共事業を巡る利権絡みのドロドロした話がいっぱいあると思うよ。JR事故報告書の漏洩問題だって、明るみに出たのは鳩山内閣成立後だ。
こんな政と官が癒着した怪しげな話がボロボロ表に出てくれば、とてもじゃないけど、自民党政権に戻るとは思えない。

Aさんまた話が戻りますけど、その温暖化対策に関連して、一方じゃあ、高速道路無料化とガソリンの暫定税率廃止をマニフェストにあげているのはどうかと思いますね。


H教授高速道路の無料化は、一般道の渋滞緩和につながるし、一方じゃエコカーも増えるだろうから、CO2は増えないと言っているけど、そりゃあ“三百代言”というものだろう。フェリーやJRなど、公共交通にとっての経営的なダメージも大きいし、クルマ社会化を推進するようなものは政策として誤っていると思うよ。
ま、暫定税率廃止の方は、スジ論としてはその通りだから、温暖化対策税の創設と同時にというのなら構わないと思うけどね。

Aさん日本の2020の対90年比25%カットは、世界が足並みを揃えられればという条件付きですから、COP15がどうなるかですね【4】

H教授その条件というか前提は、「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意がなされること」なんだ。ただ、草稿にはあったし、新聞などでは予定稿でそう書いているけど、実際の国連での演説ではこの部分は聞き取れなかったという噂もある。
本当かどうか知らないし、本当だったら日本はただの「お人よし」になって国益を損なうんじゃないかと懸念する人もいるだろうが、ボクはひとつくらい国益を無視して人類益に殉ずる国があってもいいじゃないかと思ってるから、気にしていない。


Aさんそりゃあ、センセイは老い先短いからそれでいいでしょうけど…。


鳩山内閣の試金石

H教授じゃ、いいじゃないか(突き放す)。
で、COP15の前の試金石が10月15日に設定された各省の概算要求の中身だろう。各大臣の官僚への統制力がそれでわかる。
またそれに先行して、補正予算の組み換えを図るべく、執行停止・凍結に大号令をかけ、その額も3〜4兆円を期待していたらしいけど、2兆円がせいぜいだろうという話もある。

Aさん財源論ですか、前途多難ですねえ。
ところで、鳩山サンは訪米、そして国連と外交デビューをしましたが、オバマさんは親米の麻生サンにはなかなか会わなかったのに、インド洋給油の継続をしないと表明し、米国とは距離をとる鳩山サンにはすぐに会いましたね。

H教授そりゃあ、いつも尻尾を振るのがわかっているやつよりも、いつ離れていくかわからないやつの方に気を遣うのは当たり前だろう。

Aさんつまりポチの時代は終わったと。

H教授うん、これからはミオの時代だ。

Aさんミオ? ああ、センセイんちの老いた、ちょっと鈍なデブのメス猫ですね【5】。くっだらない。

H教授そういうなよ。先日、臼井義人サンが遭難しただろう?

Aさんあ、あの『クレヨンしんちゃん』の。

H教授うん、ボクはたまに『クレヨンしんちゃん』を見ていたから、臼井サンの無事を祈っていたんだけど、残念な結果に終わってしまった。ご冥福をお祈りしよう。
そのあと、久々に『13年後のクレヨンしんちゃん』という2006年に書かれてウェブで公開されているオマージュ作品を読んだんだ。
で…ミオはもう14歳だと思うと、ぞっとしてきた。

Aさんまあ、気持ちはわかりますけど、ここは公的なウェブですから、私情を差し挟むのはやめましょう。

H教授うるさい。ボクは“私情原理主義”なんだ!


Aさんその駄洒落が言いたかったのか…。


鳩山内閣と公共事業

Aさんさ、本線に戻りますよ。鳩山内閣ですが、八ツ場ダムや川辺川ダム【6】でも随分がんばってますね。

H教授うん、川辺川ダムは地元に強力な反対派がいて、知事も白紙撤回を主張していたから問題は少ないだろうが、八ツ場ダムは地元住民も首長も建設中止という方針に猛反発している。

Aさん八ツ場ダムの必要性はどうなんですか。


H教授うーん、もともとの計画が生まれた何十年も昔だったら効果はあったろうが、今では社会状況もすっかり変わっている。
首都圏の水も今ではあまり気味で、水需要もなく利水面からの必要性は乏しい。治水も、いろんなダムが各地にできた今となっては、その効果はほとんどないと国土交通省の内部資料でも言っているらしい。
はっきり言って、建設業や関連業界への経済効果、雇用効果だけと言っていいだろう。

Aさんつまり景気対策。ダムは要らないがダム事業は必要だってわけですね。

H教授地元はもともと何十年間も反対し続けてきた。それを脅したりすかしたり、札束で頬っぺたをひっぱたいたりして、ようやく反対の矛を収め、ダム建設を前提としてのまちづくりを考え出した矢先のことだから、まあ、気持ちはわからないわけではない。
でも、そこは「かつて建設に猛反対していた自分たちが正しかったんだ、最後に正義は勝つ」と思ってくれればいいんだけどねえ。補償法案も作ると言っていることだし。


Aさん補償法案って?

H教授そもそも動き始めた大型公共事業をやめるための仕組みがないんだ。
ダムの建設を中止しても住民の生活再建のための事業は継続しなければいけないんだが、現在の法律ではダム建設を中止すれば、ダム建設の代替として進めてきた生活再建のための事業もやめなきゃいけない。だから、鳩山政権では、生活再建事業を国の責任として続けるための法律を作ると言っている。「時のアセス法」のようなものと言っていいかも知れない【7】

Aさん八ツ場ダムや川辺川ダムはともかくとして、あとの大型公共事業については、民主党本部は全面見直しを主張していますが、民主党の地方議員は必ずしもそうじゃなく、公共事業ウェルカムのところも多いんじゃないですか。

H教授うん、ダムや道路は要らないとしても、ダム事業や道路事業は必要だと考えているんだろう。でも、それは従来システムを前提とした話。
ダムとか道路といった使い道の決まった補助金でなく、使い道の自由なオカネだったら地元住民が本当にダムや道路を選ぶかどうかはわからない。
つまり民主党中央の言う「官僚主導政治の打破」が、地方議員レベルでは浸透していないってことだ。だから首長戦では自民党に相乗りしてまで与党になりたがる。

Aさん与党になれば、自分たちの政策を実現しやすくなるからじゃないですか。

H教授だから今となっては政策じゃないんだってば。強いて言えば、政策以前の「構え」のようなものだ。
自治体にしても、縦割り構造は国と同じだし、各部局一律○%カットとなりがちで、メリハリはつけにくいから、結局は、国と同じ「官僚主導」になってしまう。
つまり「政策」は、形式上は議会や有識者、市民の意見を聞いて決めたことになっているが、原案は役人がつくり、役人同士が調整して実質的に決めてしまう。
もはや、有権者のかなりはそういうやり方に飽き飽きした結果の民主党勝利だってことがわかっていないんだね。
だから堺市長選でも、無風だと思われていた相乗りの現役市長が、橋下サンに仕えた府官僚上がりに惨敗しちゃったんだ。ボクに言わせればどっちもどっちだと思うがね。

Aさんということは、地域主権とは言っても、首長・地方議員主権じゃないということですね。


H教授うん、従来型のやり方が通用しなくなったんだ。だから地域主権の担い手は不可視の住民ということになる。
鳩山内閣は大型公共事業はいったんストップし、精査すると言っている。そのとき不可視の住民が見えるようになるか、どうかだ。
田中康夫チャンが長野の知事になり、「脱ダム宣言」はじめ、従来の行政の常識をひっくり返すようなことを随分やった。だが、康夫チャンは早すぎた鳩山サンだったみたいで、県民の意識がそれに追いつかず、ついに退陣。
そのあと登場した村井知事は、以前のやり方に逆戻りして、淺川ダム計画も復活、民主党県連もそれを支持しているが、さて鳩山内閣はどうするのかねえ。
また、大戸川ダム以外の事業続行になった淀川水系4ダムはどうするのか…【8】

Aさんへえ、本当に課題は山積しているんだ。

H教授もともと国土交通省の河川局は、技官の独立王国と言われてきて、とにかく治水のためにすべての河川に堤防を築きあげ、築き終えると今度はより安全にと嵩上げを図り、さらにダムを延々と造り続けてきたところだ。
逆に言うと、彼ら砂防技官に広い識見と大局観を持たせるような世界を知らしめないまま、河川局という中に閉じ込めてしまったから、政治屋と結びついて、そういう発想にならざるを得なかった。
ここから脱皮できるかどうかだな。


Aさん泡瀬干潟もありますよねえ【9】

H教授うん、こちらは港湾局サイド。河川か港湾かという差だけで、あとはまったく同じ構図だ。
民主党のつくった「沖縄ビジョン」では、泡瀬干潟埋立は一期は中断、二期は中止を謳っているのに、地元選出の民主党議員が一期工事推進と言っている。このネジレをどうするかだ。

Aさんそれだけではありません。新聞報道によると、高速道路についても前政権がどさくさ紛れに6区間の4車線化を決め、補正予算で3千億円もの予算を付けましたが、それを全面凍結する方針を固めたそうですよ。


H教授6区間の整備着工を決めたのは国土開発幹線自動車道建設会議、略して「国幹会議」と言われるものだ。たった1時間半審議しただけで決めたというから、形式だけの追認のための会議と言われてもしかたがない。
ま、今までの政府の審議会というのは、こういうタイプのものが大半なんだけどね。
民主党議員もこの国幹会議のメンバーに入っていて、「一方的な説明だけでは判断のしようがない」と異論を述べたらしいが、結局のところ計画案には反対しなかった。
前原サンはこの「国幹会議」の廃止を打ち出し、着工の決定ルールを根底から見直すとしている。
ちょっと前の新聞では、民主党議員も参加しての会議で決めたことの責任は民主党が引き受けざるを得ないと言っていて、何だか高速道路整備だけは容認するのかと思ったけど、方針変更したようだ。

Aさんあと空港整備特別会計、いわゆる「空港特会」も廃止の方針だそうです。

H教授うん空港特会は、高額の空港使用料や着陸料、それに航空機燃料税相当分の一般会計からの繰入れ分などを原資として、直轄空港の整備や地方空港への助成を行ってきたんだ。
このために赤字空港をどんどん作ってきた。一方、高額の使用料、着陸料、燃料税に加えて、赤字路線も政治的に飛ばさざるを得ないから、日航は今深刻な経営危機に陥ってしまった。
赤字増大を必然にしてしまう構造的な部分にメスを入れるというんだから、大いに期待できるね。


Aさん神戸空港【10】やできたばかりの静岡空港にとってはショックでしょうね。でも、やっぱり赤字空港なんか作っちゃあいけないですよね。

H教授いやボクは必ずしもそうは思わない。神戸空港や静岡空港は不要だと思うが、高速道路も新幹線もないようなところに空港を造り、赤字路線を運行することはあってもいいと思う。離島だってそうだね。高速道路だって、赤字覚悟で造るところがあってもいい。

Aさんその場合、高速道路にしても、空港にしても、なんらかの整備に関する優先度の基準のようなルールが必要でしょう。

H教授うん、皆が納得しうるようなルールがつくれるかだね。そのためには首長や民主党の地方議員の意識が変わらなければいけないし、赤字必至の公共事業の場合は、受益者、つまり住民自体が、例え一戸あたり1万円でも自己負担するような覚悟もいると思うよ。

Aさんうーん、ところで環境問題についての民主党のマニフェストは温暖化と大型の公共事業だけなんですか。


H教授いやそんなことはない。マニフェストの要約版では温暖化や八ツ場ダムのことしか言ってないけど、実際に「民主党政策集INDEX 2009」には、それこそ総花的に色々書いてある【11】
新法だけで「化学物質政策基本法(仮称)」「シックハウス対策2法」「殺虫剤規制2法」「石綿対策総合的推進法」の制定を目指すとしている。
また、生物多様性COP10が来年日本で開かれるんだけど、「湿地保全法」制定だとか、干潟・サンゴ礁の保全を言っているし、SEAの義務化も言っている。アセス法の見直しも開始したところだし、この面でも期待したいんだが…【12】

Aさんだが?

H教授ま、本当に全部出来るかどうかは、マンパワーのことを考えただけでも疑問だけど。

Aさんじゃあ、いずにせよ、鳩山内閣の前途は大いに期待できますね。

H教授さあ、それはどうかわからない。というか人気の高さ、期待の大きさとは裏腹に危険いっぱいの前途だと思うよ。
今挙げたような問題のほか、子ども手当て、農家戸別補償、まるで徳政令のような中小企業の銀行への借金返済猶予問題、嘉手納基地普天間飛行場の辺野古移設問題【13】、郵政民営化見直し問題等々難しい課題がいっぱいあるし、医療・年金・雇用だって依然として大問題。
どれかひとつでも一歩処理を間違えれば、内閣の人気が急降下どころか内閣が空中分解しかねない。その場合は、民主党分裂だとか政界再編ということもでてきかねないと思うなあ。

Aさんじゃあ、案外1〜2年で自民党政権に戻る可能性もあるんじゃないですか。

H教授ただ、“ルビコンは渡ってしまった”んだ。万一、自民党政権に戻ることになっても、かつてのような「官僚主導の政治」を行うことはできないだろう。
ま、それでも別の形での「官僚主導」というか「官僚共導」のやり方があるんじゃないかとは思うけどね。ボトムアップで今までやってきたということは、それだけ日本の役人のやる気を示していて、これを捨てさせてはいけないと思う。

Aさんセンセイの十八番。「盥の水と共に赤子を流すな」ですね。

H教授いずれにせよ、経産省、国土交通省、農水省、外務省、法務省、防衛省といった省庁は、従来の発想から180度の変換を強いられて大変だろうが、環境省はこれまでやりたくても他省庁との関係でやれなかったことができるかもしれないと大張り切りじゃないかな。


Aさんさあ、どうでしょうか。案外過労死寸前の状態で、鳩山サンを恨んでいるかもしれませんよ(笑)。
ところで民主党はパートナーの国民新党や社民党とうまくやっていけるんですかね。

H教授さあ、とりあえず来年の参院選までの連立だろうが、これから一波乱も二波乱もありそうな気がする。民主党は原発推進の立場だけど、社民党は反対だとか、真っ向から相反する政策を掲げていることもあるもんね。

Aさんさて、ここまでは政局がらみの話ばかりでしたが、それ以外の環境ネタも少し紹介してください。


最新環境ネタ─PM2.5、健康に関する水質環境基準、小笠原自然遺産、ツキノワグマ事故

H教授ひとつはPM2.5と言われる粒径2.5ミクロン以下の大気中に浮遊する「微小粒子状物質」【14】大気環境基準を9月9日付けで告示したことだ。
年平均値で評価する長期基準と日平均値で評価する短期基準の2つだ。米国の基準値が採用され、より厳しいWHOの大気質ガイドラインの値は採用されなかった。

Aさん達成方策はどうするんですか。

H教授答申では排出実態把握や科学的知見の蓄積がなお十分でないと指摘している。ふつう、環境基準を設定するときは連動して規制強化が図られるが、今回はパス。測定体制の整備や排出インベントリの作成を先行するとのことだ。
パブコメは1万通を越したそうだが、多分に組織的なものじゃないかな。

Aさんこれは大気環境基準ですが、水質の方もいろいろと検討されているそうですね。

H教授うん、中央環境審議会水質部会で健康に関する環境基準の見直しについての第二次報告が先月発表された。新規に健康保護に関する水質環境基準項目として1.4-ジオキサンの追加、また地下水環境基準として1,2-ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー、1.4-ジオキサンの3項目の追加を目指しているようだ【15】

Aさんあと小笠原諸島世界自然遺産登録も前進したそうですね。

H教授9月25日付けで政府は世界遺産委員会事務局に推薦書(暫定版)を提出した。
硫黄島を含む小笠原諸島の陸域6千ha、海域1千haを推薦区域としている。
あとは管理計画をとりまとめ、推薦書の正式版を提出、IUCNによる現地調査を経て、平成23年夏の登録を目指すそうだ【16】

Aさんうまくいくといいですね。自然遺産はこれで打ち切りですか。

H教授政府としては琉球奄美も狙っているようだが、世界遺産委員会のハードルは高いようだ。やんばる国立公園化とかいろいろ構想はあるようだが、泡瀬のような開発計画との調整もあって、まだ相当の時間がかかるんじゃないかな。


Aさんあと、不幸な事故もありました。乗鞍岳の山頂付近でツキノワグマが出現、人を襲い射殺されました。


H教授ああ、あれはショックだった。
乗鞍スカイラインの終点を畳平というんだけど、ぼくが平湯でレンジャーとして赴任していたときに開通したんだ。だから畳平には何十回も行った。とても見晴らしのいいところで、あんなところに臆病なはずのツキノワグマが出てきて、人を襲うなんてのはちょっと信じられなかった。
一日も早く専門家による再発防止策、それもハードでなくソフトな対策を検討してほしいね。


廃消火器と適正処理困難物の謎

Aさんほかにも残念なことがありました。古い消火器の爆発事故が相次いで起きました。
廃消火器の廃棄物処理法上の処理責任はどうなっているんですか。

H教授うん、家庭ごみの回収処理の責任は市町村にあるんだけど、例外もあるんだ。
廃棄物処理法第6条の三では「市町村の技術や設備では適正に処理することが困難な一般廃棄物」を環境大臣が指定できることになっていて、市町村長がメーカーや販売者に協力を求めることができるし、環境大臣はその事業を管轄する大臣に必要な措置を要請することができるとされているんだ。
これを環境省では「適正処理困難物」と呼んでいる。

Aさんなあるほど、廃消火器は適正処理困難物なんですね。ウチの市のゴミ回収のチラシにも「消火器、ガスボンベ、廃タイヤ…などは回収できません」とあったわ。

H教授(困惑顔で)いやそれが、廃棄物処理法6条の三に基づいて環境大臣が指定しているのは、廃スプリングマットレス、廃ゴムタイヤ、廃テレビ、廃電気冷蔵庫の4種類だけだそうなんだ。

Aさんおかしいじゃないですか。第一、使用済みのテレビや電気冷蔵庫は家電リサイクル法の適用製品だから、わざわざ指定しなくても禁止されているじゃないですか。市町村の条例で決める「適正処理困難物」ってなんのことなんですか。


H教授自治体は一般廃棄物処理計画を作成し、それにのっとって回収処理をするんだけど、その計画の中で「排出禁止物」として、回収を行わないものを条例で定めることができる。
自治体によって少しずつ異なるが、廃消火器だとか、廃ボンベなどは大抵これに指定されているんだけど【17】、これを条例で「排出禁止物」でなく「適正処理困難物」という名称をつけているところが結構あるんだ。
廃棄物処理法を改正して6条の三を追加する前から、自治体によっては排出禁止物のことを「適正処理困難物」と呼んできたんだから、廃棄物処理法で6条の三を追加したときに、「適正処理困難物」とせず別の名称にすればよかったと思うけどね。
本当に廃棄物処理法ってのはわかりにくい法律だ。図解入りでわかりやすいものにしてほしいね。


Aさんふだんの不勉強がたたっているんですよ。

H教授うるさい、だけど法律こそは国民にわかりやすいように作らねばいけないものだ。それを一部の法律専門家だけにしかわからないようにしてしまうというのが、冒頭で言ったように、明治以来の法律屋の陰謀で、理工系差別の元凶だと思うぞ。
それにしても環境省は、廃消火器はじめ個々の自治体が条例で回収しないとしているものの実態調査なんかはしているのかな。
廃棄物処理法6条の三のものと合わせて、これこそ拡大生産者責任(EPR)の適用が必要だと思う【18】。一日も早く法改正をしてほしいね。


シルバーウィークとバカンス革命

Aさんところで、9月は5連休がありました。シルバーウィークというそうですね。
でも大学ではその中日の二日間は授業でした。
祝日だというのに、あんまりじゃないですか。アタシャ、さぼりましたけど。

H教授迷惑な話だよ。セメスターごとに15回の授業をきちんとしろという政府筋のお達しなんだ。わが大学は定期試験を1回とみなし、14回の授業をしようということになったんだけど、秋学期は例年のスケジュールだと学園祭だとかいろいろあって、14回ですら不可能なんだ。
特に月曜の授業は11回くらいがやっと。だから、夏休みを10日間短縮し、多くの祝日も授業するようにしたんだ。

Aさんセンセイ、いつかバカンス革命っておっしゃってたでしょう【19】。祝日に授業だなんて、まるで逆行していますね。
ところで、アタシ、バカンス革命についてアイデアがあるんです。ゴールデンウィークGWとシルバーウィークSWは今みたいに飛び飛びで年ごとのカレンダーで変わるんじゃなく、それぞれちょうど一週間として固定すればどうでしょう。


H教授キミ、若い癖に陳腐なアイデアしか浮かばないんだなあ。そんなことすれば、GWとSWはどこに行っても渋滞と混雑、他はガラガラという状況を深刻化させるだけじゃないか。
お盆と年末年始の各一週間は伝統的なものだからともかくとして、GWやSWのあり方は思いっきり考え直した方がいい。


Aさん(ふくれて)じゃあ、センセイのアイデアは?

H教授今、祝日は年間14日間ある。つまり2週間だ。

Aさんそれがどうかしたんですか。

H教授祝日は記念行事をやるだけで、休日とはしないようにする。祝日=休日という既成概念を打破するんだ。ただし祝日数を休日数にカウントするようにする。

Aさんはあ?

H教授祝日がトータルで2週間というのをアタマに入れておけよ。
さて、1ヶ月は4週ちょっとだけど、これを4週とすれば年48週になるだろう。一方、都道府県の数は47だ。仮に東京都を区部とそれ以外に分ければ48で同じになる。

Aさんそれがどうかしたんですか?

H教授まず祝日の数を集めて半分にするとちょうど一週間だ。だから、お盆と年末年始を除いて、くじ引きか何かで何月の第何週かを都道府県ごとの休暇週間と決めればいいんだ。

Aさんそんな無茶な。


H教授残った祝日の数を集めるとやはり一週間だ。その一週間は自己選択で義務としての集中休暇、つまり個人の休暇週間とすればいい。
そうすると休暇週間が年に2回あり、それ以外にお盆、年末年始の2週間と、20日間の有給休暇があることになる。
有給休暇は以前も言ったように権利ではなく義務にすると、年に一回超大型休暇をとりたい人は、個人の休暇週間に有給休暇を年末年始かお盆に接続させれば、なんと2週間+20日、つまり一月以上の大型バカンスがとれる。それとは別に、県の休暇週間も一週間ある。
これでも年間の総休日数は変わらないだろう。制度を変えるだけだから、カネもさしてかからない、それでもって観光地の渋滞とか極端なシーズンとオフシーズンの格差は縮小される。こういうのを構造改革というんだ(自画自賛、自己陶酔)。

Aさん学校なんかはどうするんですか。学生、生徒個人としての休暇週間なんてとれるはずないじゃないですか。

H教授その場合は個人としてでなく、学校としての休暇週間に代えりゃあいいだけだ。


Aさん(小さく)あほくさ。「馬鹿んす革命」だわ…。


注釈

【1】慣習? いや、既得権擁護以外のなにものでもない
第21講「環境行政の人的側面」
【2】新政権による2020年中期目標
第80講「政権交代と環境政策」
【3】温暖化対策税、国内排出権取引、固定価格買取制度、オフセットクレジット等に関する話題
第35講「環境税と特会見直しと第二約束期間」
第51講「低炭素社会に向けて ──拡大排出権取引」
第70講「経済危機と温暖化対策」
第74講「乱立するクレジット」
【4】COP15の話題
第79講「夏の課題、秋からの見所」
【5】ポチの時代からミオの時代へ
第46講「動物愛護とミティゲーション」
【6】八ツ場ダムや川辺川ダム
第5講「川辺川ダム高裁判決」
第69講「脱ダムの流れ本格化 ―川辺川、淀川水系」
【7】時のアセス
第71講「「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決」
【8】事業続行となった大戸川ダム以外の淀川水系4ダムの行方
第68講「淀川水系4ダムと地方自治体」
【9】泡瀬干潟
第71講「「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決」
【10】神戸空港
第6講「コーベ空港・断章」
【11】民主党政策集INDEX 2009
「民主党政策集INDEX 2009」
【12】SEAやアセス法についての話題
第17講「SEAの必要性・可能性 ―付:S湾アセス秘話」
第2講「環境アセスメント私論」
【13】辺野古移設問題
第21講「時評2−普天間飛行場の辺野古沖移設を巡って」
第26講「辺野古沖埋立ての新転回」
【14】PM2.5
第10講「ディーゼル排ガス規制強化― トピック・1」
第49講「PM2.5の環境基準制定へ動き出す?」
「微小粒子状物質に係る環境基準の設定について」(答申)(案)(PDF)
【15】健康に関する環境基準の見直し論議
水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の見直しについて(第2次報告)(PDF)
【16】小笠原諸島の世界遺産登録に向けて
「小笠原諸島」を世界遺産一覧表に記載するための推薦書(暫定版)の提出について(お知らせ)
第64講「小笠原の旅」
【17】自治体の指定する「適正処理困難物」
第22講「時評5 ─混迷・漂流する廃棄物問題」
【18】拡大生産者責任の適用
第9講「夏のできごと・2 ──環境基本法見直しに向けて」
【19】バカンス革命
第76講「バカンス革命?」

(平成21年10月1日執筆、同年10月5日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。