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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.021

Issued: 2004.10.07

第21講 Hキョージュ、環境行政の人的側面を論ず

目次
時評1−国際情勢と温暖化対策の動向
時評2−普天間飛行場の辺野古沖移設を巡って
時評3−諫早干拓工事中止仮処分と核燃サイクル
3Rプロジェクト、その後
環境行政の人的側面
役人のロイヤリティとシマ・システム
久々の読者のお便り

Aさんセンセイ、やっと涼しくなりましたね。これでやっと食欲もでてきました。

H教授キミの辞書には「勉学の秋」ってコトバはないみたいだな。
ま、それはともかく、連続真夏日が過去最高【1】で、台風が7つ襲来、豪雨被害も各地であった。これが偶発的な今年だけの現象であることを祈ろう。
さて、前講以降のできごとをおさらいしてみよう。まずは国際情勢だ。


時評1−国際情勢と温暖化対策の動向

Aさんパウエルさんがイラクの大量破壊兵器云々はガセネタだったことを認めました。アナンさんもイラク侵攻が国際法違反だと明言、これでブッシュ政権の信用はガタ落ち、こんどの大統領選でも敗北必至じゃないですか。

H教授そりゃ、キミの単なる願望だろう。ブッシュ政権に神風が吹いているじゃないか。

Aさんえ? 神風って?

H教授チェチェンの学校爆破事件だ。昔、読んだカミュの本でテロリストが大公暗殺を企て馬車に爆弾を投げようとしたんだけど、大公のいたいけない甥と姪が大公のそばにいたのを見て断念したという話があったけど、それとは隔世の感があるね。

Aさん悲惨な事件だったですねえ。ワタシもあんまりだと思いました。

H教授あれで少なくとも短期的にはテロリスト掃討を叫ぶブッシュ大統領の支持が高まったことは間違いない。
ビンラディン一派はもともとCIAが育てた鬼っ子だったという話があるけど、敵役としてのブッシュ大統領が今後も必要だと思って、エールをああいう形で送ったのかも。

Aさんじゃセンセイはブッシュ再選は必至だと?

H教授そうなることも覚悟しておいた方がいいということだ。ついでに言っておくと、この事件がきっかけでプーチンはブッシュ支持を強め、ロシアは最後まで京都議定書を批准せず、京都議定書はオクラ入りという可能性もかなり出てきたような気がしてきた【2】


Aさんえー、そんなあ。

H教授でも、EUは京都議定書がどうなろうとCO2削減をしていくと思うよ。米国に対抗して軍事的にではなく文化的倫理的なヘゲモニーをとろうとするだろう。英国も世論に逆らっていつまで米国追随路線をとっていけるか怪しい。
だから問題は日本だよねえ(ため息)。

Aさん温暖化対策大綱はどうなりそうなんですか。

H教授各省ばらばらに骨子案を出したけど隔たりは大きく、どうなるか先行きはまだまだ不透明だ。
環境省は環境税(温暖化対策税)創設を農水省と共同で来年度の税制改正要望の中でするみたいだけど、既存のエネルギー税制との関係も不明瞭なままだし、経産省も産業界も反対している。まあ、それでも京都議定書が発効すればなんとかなるかもしれないけど、発効しなければむつかしいんじゃないかなあ。
あとの環境省案の目玉は国内の排出権取引制度と大発生源の温室効果ガス排出量公表義務付けだけど、どっちも経産省も産業界も反対してるから、これもどうなるかわからない。

Aさんなんか暗いですねえ。

H教授絶望の虚妄なるは…

Aさん(遮って)まえに聞きました。老人の歌でしょう。ほんと、ワンパターンなんだから【3】


H教授老人じゃなくて魯迅なんだけど…

Aさんその人だって年寄りなんでしょう。じゃ、同じじゃないですか! もっとワタシたち若い世代に希望のある話はないんですか(怒)。

H教授(断固として)希望は自分で作り出すものなんだ。


時評2−普天間飛行場の辺野古沖移設を巡って

Aさんへいへい、ところで沖縄に行かれたんですね。どうだったんですか。

H教授向こうの新聞は連日8月に起きた宜野湾市の米軍ヘリ墜落に端を発した普天間基地の辺野古沖移設問題でいっぱいだった。

Aさん辺野古沖移設って随分前に決まってたんじゃなかったんですか。

H教授そりゃそうだけど、これも長い歴史があってねえ。

Aさんへえ、どんな?

H教授もともと沖縄島民のほとんどは日本復帰を願っていたけど、それは米軍基地撤去とセットの要求だった。でも、冷戦のさなか、そんなことできようわけもなく、復帰はしたものの、基地はそのまま。それに対する不満がずうっとくすぶっていて、それが何かの事件のたびに燃え上がる。
ヘリ墜落のまえ、'95年にも米軍兵士による少女暴行事件がきっかけで反基地感情が盛り上がり、ついに米国は宜野湾市の中心部を占めていた広大な普天間飛行場撤去に条件付で同意した。

Aさんよかったじゃないですか。でもまだ撤去していませんよ。

H教授だから「代替施設が完成し、運用可能になれば撤去する」という条件付きだったんだ。
となると日本政府が移転先を探して代替施設をつくらなきゃいけない。でもねえ、そんなものおいそれと引き受けようとするところなんてふつうはないだろ。だから結局は移転先は沖縄県内となって、ほっぺたを札束でひったたくようにして、やっと決まったのが名護市の辺野古沖の海上埋め立てで、これが'99年暮れ。


Aさん反対運動は起きなかったんですか。

H教授そりゃ起きるよ。美しいサンゴ礁を埋め立てるんだし、貴重なジュゴンの回遊場所でもあるみたいだから、強い反対運動が起きてなかなかアセス調査にも入れないまま今日まで来たんだ。

Aさんじゃ、いつまでたっても普天間飛行場撤去なんてできないじゃないですか。

H教授米軍だって本心から移設を望んでるわけじゃないから、日本に圧力もかけなかった。日本でも橋本内閣が熱心にこの話をまとめたんだけど、それ以降の内閣は強力に推し進める気持ちもなかったみたいだから、ずるずると延びてきた。

Aさんだって、それじゃあいつまでたっても普天間飛行場は撤去できないから、宜野湾市民は怒るでしょう。

H教授怒ればその矛先は辺野古沖埋め立て反対派住民にいくだけだとタカをくくってたんじゃないかな。

Aさんそこにヘリ墜落事故が起きたんだ。しかも事故後の米軍の対応がひどすぎて、宜野湾市民の怒りが爆発したってわけですね。

H教授だからそれまでアセスのためのボーリング調査だって反対派住民の抗議行動のたびに延期してきたんだけど、ここへ来てそうはいかなくなって強行突破して調査を開始した。

Aさんうーん、どう考えればいいんですか。宜野湾市民の立場に立って辺野古沖移転を進めるべきなのか、ジュゴンやサンゴ礁保護のため辺野古沖移転に反対すべきなのか。

H教授宜野湾市民の大半は辺野古沖移転なんて望んでないよ。かれらが望んでいるのは普天間返還だけだ。そして怒りの矛先は辺野古沖埋め立て反対派に向かず、米軍と弱腰の日本政府、そして沖縄にツケを押し付けて平然としている本土住民に向いているといっていいと思う。
そのことにわれわれはもっと痛みを感じるべきだね。

Aさんじゃ、センセイは日米安保を破棄して米軍基地全面撤去を求めるべきだと?


H教授そんなことここで言えるわけないじゃないか! ここはEICネットなんだから。

Aさんセンセイ、早く個人HP作ってください。

H教授自慢じゃないが作り方がわからない。

Aさん情けないですねえ。それでも大学キョージュなんですか。

H教授じゃ、キミ作ってくれるか。

Aさんえ? いま修士論文に忙しくてそんなヒマありません。

H教授へえ、修士論文に忙しいねえ、へえ。合コンに行くヒマはあるみたいだけどねえ。


時評3−諫早干拓工事中止仮処分と核燃サイクル


Aさんほっといてください!
(話題を変える)ところで諫早干拓工事差し止めの仮処分決定がでましたよ。

H教授ああ、あれにはびっくりしたな。ま、工事自体はほぼ完成しかけているし、地裁段階の決定で、国は直ちに異議申し立てをしたから、ひっくりかえる可能性が高いだろうけど。

Aさんでも川辺川ダムの場合【4】とちがって、内容はともかくとしてあの干拓事業は個別法の手続き上の瑕疵は別になかったんでしょう。それなのにそんなこと可能なんですか。

H教授と農水省側は思ってるんだろうな。でも個別法を遵守したからって、すべてが許されるわけじゃない。公害の場合でも排出基準をきちんと守っていても現に被害が出れば排出者の責任になる。

Aさんそうした場合、法律上の根拠はなんなんですか。


H教授憲法とか民法上の保護に値する権利の侵害ということじゃないかな。
いかに個別法をクリアし、きちんと民主的に手続きを踏んだとしても、だれがどうみてもおかしいものはおかしいと裁判官が判断すれば、そういう決定が出てきても不思議ではない。
現に60年代、公害法規が未整備なときにそういう司法判断が続出し、これで一気に公害立法や公害行政が進展した。そういう意味ではマトモな市民感覚を大事にした司法判断じゃないかな。
ま、あれだけの干潟を埋め立てて環境上の影響は軽微だとするアセスがそもそもおかしいと思うよ。それに減反減反と騒いでいて、一方では優良農地を造成するという計画も筋が通らない。

Aさんえ? あれは治水のためにやった事業じゃないんですか。

H教授もともとは農地拡張の計画で、それじゃあ理屈が通らなくなったから、そういう理屈の後付けをしたんだ。
長良川河口堰だって似たようなもんだったなあ、利水目的をいつのまにか治水目的にすりかえて強行突破したもの。


Aさんでもセンセイがその担当だったらやっぱりそうしたんじゃないですか。

H教授そりゃあそうだけど、個々の役人はそう動くしかないから、それを止められなかった政治家の責任だろう。

Aさん政治家の責任といえば、核燃サイクルなんかもそうじゃないですか。

H教授うん、あれだけ騒がれた核燃サイクル【5】だけど、やっぱり経産省・エネ庁は初志貫徹、核燃サイクル路線で行くみたいだ。

Aさんえ? あれは原子力委員会の新計画策定会議の議論に委ねるんじゃなかったですか?

H教授そのメンバー構成が核燃サイクル維持派に偏っているそうだし、来年度予算要求案では核燃サイクル推進を前提としている。で、新聞情報ではそのため省内庁内のサイクル見直し派官僚を一掃したと出ていた。
政治家はなにをしているのかなあ。まあ、まだこれから一波乱も二波乱もあると思うけどね。

Aさんセンセイ、そんなことを言って、現役の頃は神輿に乗って官僚の振り付けどおりに動いてくれる政治家を大歓迎してたんじゃないですか。それに政治家だけの責任じゃないでしょう。

H教授そりゃそうさ。そういう政治家を選んだのも国民だし、そういう愚策を見過ごすのも国民だから、国民の責任がいちばん大きいよ。

Aさんだけど国民がいくらそう思って発言してもどうなるものでもないでしょう。

H教授そんなことないよ。例えばプロ野球だ。
ろくでもないオーナーたちが密室で独断専行しようとした1リーグ制への移行を止めるため立ち上がったのは古田をはじめとする選手会だし、その選手会のストを支持したファンたちだ。
もちろん、まだ勝負がついたわけじゃないが、新規参入容認、2リーグ制維持ということになるんじゃないかと思うよ。
だから、環境問題でもなんでもそうなんだけど、声を挙げることが大事なんだ。

Aさんさて、ほかにはなんかありました?


3Rプロジェクト、その後

H教授いつかとりあげた3Rプロジェクト【6】が提言を出したので、それをみてみよう。
これは別に環境省だけじゃなく、霞ヶ関の中央省庁共通の病根を激しくえぐってるよ。

Aさんああ、「環境省を変える若手の会」ですね。ところで3Rってなんなんですか。マサカReduce, Reuse, Recycleじゃないでしょう?

H教授提言ではReform, Restructuring, Regain, Reengineering, Renaissance, Return home early などなんでもいいそうで、要は環境省を改革し、元気な職場にしようという思いだそうだ。

Aさんへえ、そもそものきっかけは?

H教授やっぱり慢性的な残業と、にもかかわらず環境行政が国民のニーズに応え切れていないという若手職員のあせりだろうな。月平均の残業時間が95.5時間にも及ぶらしい。

Aさんなんで、そんなに残業しなきゃあいけないんですか。

H教授その話は19講でもしたよ【7】、覚えてないか? いずれにせよ、全職種の若手職員170名が参加して昨10月に発足。アンケートをやり、いくつかのプロジェクトチーム(PT)を発足させ、ことし2月末に第1期の提言をまとめた。いまは第2期目の活動に入ってるそうだ。

Aさん提言にはどういうことが書いてあるんですか。

H教授アンケート結果等で現状分析を行い、PTごとの検討内容と提言、そして提言を実現するためのアクションプランと今後の課題が記されている。

AさんどんなPTがどんな提言をしているんですか。

H教授えーと「タイムカードPT」は、各人の机にあるパソコン(PC)のタイムカード機能を各人が使うようにし、上層部が勤務状況を定量的に把握するとともに、それを広く公表するというものだ。

Aさんセンセイの頃は?

H教授ボクの頃はそもそも各人にPCなんてなかった。出勤簿は一応はあったらしいんだけど、ボクは総理府時代の2年間以外見たことがない、見たことがないから押印したこともなかった。


Aさんへえ(あきれている)…。つぎは?

H教授「人材育成PT」だ。採用面接時の評価基準の作成、研修体制の強化、定期的な人事担当や管理職との面談、各種マニュアルの整備などを提言しているし、長期的な課題としてFA、つまり空きポストの公募制導入などを挙げている。
それから「リフレッシュ休暇・消灯日PT」で、月1回のリフレッシュ休暇をルール化すること、各課室ごとに月1回消灯日を設け、全員定時退庁するという提言だ。

Aさんなるほど、あとは?

H教授「業務合理化PT」で、国会業務の効率化、予算作業の電子化、旅費事務の合理化などについて具体的な提言をしている。
最後は「タクシー券使用削減PT」だ。

Aさんはあ、タクシー券?

H教授タクシー券ったってばかにならないぜ。終電過ぎまで残業すればタクシーを使うしかない。その額が環境省だけで年間2億円近い。これをきちんと管理するとともに、使用状況を公表することによって削減を図ろうとするものだ。
もっともぼくが環境庁の自然保護局にいたときはタクシー券なんて使わせてくれなくて、終電過ぎれば役所で寝てたけどね。

Aさんこれらの提言を読まれてどう思われました。

H教授うーん、印象としては現行の制度下でやれることを極限まで追求したって感じがした。ボクは基本的にはどれも大賛成だけど、でもだからといって、できるとは限らない。

Aさんなにが問題なんですか。


H教授いろいろあると思うけど、どうしてもやらなければいけない仕事があって深夜までかかることがあるのも事実。国会対応だとか、予算対応だね。こうしたものは提言どおり、大いに省力化、マニュアル化を進めるべきだ。
だけど、そうじゃない場合も多々ある。自発的に意欲に燃えて残業する人もいれば、管理職が残業大好き人間で帰りづらい雰囲気だったり、自分ひとりで帰ってなにかするより、みなと一緒にいて仕事する方が好きだって思う人も決して少なくないだろうと思うよ。そういう意味では、これはカルチャーの問題なんだ。

Aさんカルチャー?

H教授そう、県には県のカルチャーがある。ボクのいた県では出勤時間や昼休みはパンクチュアルだった。忙しいときはもちろん残業したけど、霞ヶ関のように毎夜午前様みたいなことはなかった。

Aさんだとして、カルチャーを変えるにはどうすればいいんですか。

H教授その前に、ルールには建前のルールと実態上のルールがあることを知っておいた方がいい。
例えば勤務時間に関して言うと、一応明文化されたルールがあるけど、これはあくまでも建前。実際にはそのルールよりも朝は遅いし昼休みは長い、だから定時を過ぎても1時間くらいの超過勤務はあたりまえというのが実態上のルールだ。
ただし、実態上のルールというのはこそこそした身内だけのものになるから甘えも入ってくる。

Aさんそれを建前どおりに戻せと?

H教授いや、そうなるにはそうなるだけの理由がある。だから綱紀粛正だけ叫んで建前上のルールに実態を合わそうとしてもうまくいかないんだ。
実態上のルールとして合理的でほんとうにやむをえないものは真のルールとして明文化し公開すればいい。そうすれば身内にしか通用しない変な甘えはなくなる。これをやるのは上の責務。
カルチャーというのはルールのもとに形成されるものだから、守られるルールにすればいいんだ。そうすれば新たなカルチャーができてくるよ。
ただ、カルチャーというのは目的意識的に作っていく面があって、それを自覚的に担う部分がいないとなかなか変わらない。そこのところを3Rの諸君に担ってほしいよな。

Aさんでも環境省だけじゃないシステムの問題も大きいんでしょう。

H教授そりゃ、そうだ。もちろんかれらもそのことを知っていて、対外的な動きを強めようとしている。
ただ、そうしたシステムというのは中から変えるのはむつかしい。だけど、外圧で簡単に変わることもある。でも外圧だけだとみせかけの改革で終わることもあって、ほんとうに意味のある改革にするにはそれに呼応する内部からの動きも必要なんだ。
あとは角を矯めて牛を殺すことのないようにしなければいけない。


環境行政の人的側面

Aさんなんだか抽象的ですねえ。ところでセンセイ、環境庁時代いろんな部署を回ってこられたわけですけど、そうするとセンセイの専門ってなんなんですか? 環境政策全般ということになるんですか?

H教授そんなことはないよ。強いていえばやっぱり生態学じゃないかな。

Aさんはー? センセイの専門が生態学? なんの生態学なんですか。林学出身だから森林生態学なんですか。それにしては樹木の名前はあんまりご存知ないようですけど。


H教授うるさいなあ、役人生態学に決ってるじゃないか。役人の論理、倫理、心理、生理から病理まで任せといてくれ。なんせ29年間役人やってきたんだからな。

Aさんバッカバカしい。

H教授キミ、そういうけどなあ、行政施策や政策を理解するためには、背景にある行政の組織・機構だとか人事だとかを理解しておかなきゃダメだよ。メディアで取り上げることは滅多にないけどね。そうすればさっきの3Rの提言の意味ももっとわかるよ。

Aさんへえ、そうなんですか。じゃ、ウラガネとか接待の真相もご存知ですよね。

H教授もちろん、真相だけじゃなく、深層もね。まあ、興味があれば、こんど話してあげるけど、今日はもう少しまっとうな話と行こう。

Aさんじゃ、行政改革なんてどう考えればいいんですか。


H教授わが政府は行革といっても、省庁や局の統合と人数減らしを省庁に一律に割り振る(第○次定数削減計画)ようなことしかしていないよね。
省庁や局の数を減らすことは事務次官や局長の数を何人か減らす程度の効果しかなく、一方では弊害も多い。その代わりの中2階の管理職が増えて、クリアしなければならない関門ばかり増えて、迅速な対応ができなくなるからね【8】
行革の真骨頂は権限の大胆な下部委譲で、その際に誤った判断をしたり不正をしたリーダーや、そうしたリーダーを任命した者に即座に相応の責任をとらせる仕組みをつくるべきじゃないかな。

Aさんどうしてそれができないんですか?

H教授その原因のひとつは人事システムだと思うよ。
まずは国家公務員の人事システムからみてみよう。
国家公務員は決して国家や政府に採用されるのでなく、各省庁ごとに採用されていること、同じ行一(行政職(一)俸給表適用職員、いわゆるお役人はほぼこれに該当する)であっても「I種」(旧上級職、広義のキャリア)、「II種」(同中級職)、「III種」(同初級職)の別があること、さらにさまざまな職種(「I種」の場合だと「法律」「経済」「土木」等、多くの職種)があり、大きく事務官と技官に大別されることは知っているよね。

Aさんええ、でも具体的な中身は知りません。

H教授うん、環境省を例にとって具体的に眺めてみよう。
建前上は環境省も大臣を頂点に単一のピラミッドを形成している。しかし人事という観点からみると、実態は大きく異なるんだ。あえていうならばピラミッド自体がいくつもの非公式な小ピラミッドから形成されている。この小ピラミッドをシマとかムラと称する。すべての省庁はこのシマの複合体といって過言ではない。


Aさん環境省の場合は?

H教授行政職(行一)には大きく分けて法文系キャリア、レンジャー、公害系技官、事務系ノンキャリの4つのシマがある。
法文系キャリアは「法律」「経済」や「行政」といったI種試験合格者。レンジャーは自然保護系技官で「造園」職というI種試験合格者が多いんだけど、最近ではII、III種も増えている。公害系技官はやや複雑で、環境庁時代はプロパー技官と称する「物理」「化学」などのI種試験合格者よりなる環境庁採用技官と、厚生省(水道環境部)1日採用でただちに環境庁に出向し、環境庁と厚生省を行ったり来たりする「土木」職I種試験合格者技官がいて、後者は「衛工」(衛生工学の略)と呼ばれて別のシマだったけど、環境省になってからは1つのシマに統合されたらしい。
このうちレンジャーとノンキャリ事務官は当初は環境庁への移籍組からなっていたんだけど、徐々に環境庁採用組が増えてきて、いまじゃほとんどが環境庁・環境省採用組になった。
つまり環境省はそうした移籍を含めた広義のプロパー職員と相当数の他省からの出向組により構成されている。

Aさんじゃ、局とか課とかいうのは?

H教授局−課という行政上の単位組織はそれらの混成部隊からなるんだけど、技官に関して言えば自然環境局はレンジャーの牙城で、公害系技官の拠点は環境管理局と官房の廃棄物・リサイクル部という縄張りと言うか、棲み分けができている。

Aさんじゃ、ポストは?


H教授事務次官以下すべてのポストはどのシマのものか不文律として決まっている。ま、一種の縄張り(ジッツ)だね。もちろん環境庁創設時はすべてのポストが出向・移籍組だったけど、その後、徐々に環境庁採用組に置き換わってきている。しかし、まだ出向組のポストは多く、次官もそうだし、局長級の半分は出向組だ。
なお、補佐や係長級でも専門性や人数の関係から、他省庁からの出向ポストも依然かなり多く見られるが、それはそれで貴重な戦力だし、プロパーにしばしば見られる独善性を中和する意味でも、環境省シンパを他省庁につくっていく意味でも、プロパーだけで構成するより、よほどいいと思うね。
また、ノンキャリ事務官は課長ポストが1つあるのみで、このポストはなお数年は移籍組だろうな。

Aさんでも人事は秘書課でやるんでしょう?

H教授建前はね。でも官房長―秘書課長ラインは事実上は法文系キャリアの人事を所管するだけで、それ以外の人事や処遇は、枢要ポストを法文系キャリアが優占している見返りとして、それぞれのシマに基本的に委ねているし、天下り先の確保までシマごとの責任で行われていることが多い。
つまりシマのトップがシマ内の事実上の人事権を有しているし、他省からの出向者に関しては環境省は基本的に発言権を有していない。

Aさんそんなシマのシステムで育ってきたんですか。じゃ、つきあうのも同じシマだけ?

H教授冗談じゃない、ぼく自身はシマという発想は大嫌いで、そういうことは一切考えずに人間関係を構築してきたという自負があるし、それが財産だと思っているよ。多くの役人もそうじゃないかな。

Aさんシマのシステムの問題点は?

H教授こういう強固な不文律である法文系キャリア優位のシマ・システムは、どんな意味でも正当化しうる法的根拠はなにもないんだ。
その弊害を昔の有名なO事件でみてみよう。厚生事務次官だったOは厚生省法文系キャリアのトップで人事権者だ。人事権を握られている法文系キャリアがどんな良心的な人間であっても、Oの悪事を諫めることは極めて困難だし、かりに正義感に駆られて諫めても飛ばされるのがオチ、それよりはできるだけかかわりあわぬようにして、悪事が露見したOおよびその一派が失脚してそのポストが空くのを待った方が賢明だよ。
なぜなら空くポストは法文系キャリアの指定席だからだ。
つまり、シマ内部に自浄のためのシステムは存していない。
自浄システムを内部にビルトインする唯一の現実的な手段は、不祥事を起こした者のポストはすべからく他のシマで埋めることだと思うよ。そうすればそのシマの部下も必死に諫めるよ。


役人のロイヤリティとシマ・システム

Aさんでも技術屋さんが次官なんてやっていけますか? 技官って専門職でしょう。

H教授O次官の後任は法文系キャリア以外からというと、技官は専門職だからできないという声が聞こえてくるけど、それは大きな間違い。そんなことをいえば法律職の人間は法務省しかトップになる資格がないはずじゃないか。
たかだか、大学の後半2年間で学んだ法律や技術などどうっていうことはない。事実、技官の仕事もその大半はマネジメントだし、調整だよ。
ボクも造園職のはしくれだったけど、「造園」に関する専門的な知識はないに等しいし、役人生活の後半は「造園」と縁もゆかりもないところばかり歩んできたよ。
それに技官でなくノンキャリ事務官だって有能だったらいいじゃないか。

Aさんじゃ、役人には専門職はいらないと?

H教授そんなことはないよ。一般論としてはどの職種であったにしても、本人の志向と適性を踏まえ、専門性を最優先させる「専門職」と、幅広い知識とマネジメント能力を持った「総合職」に分化させること、前者は特定領域に深い見識のあるスタッフ職として、ラインを司る「総合職」に劣らない処遇をすることが必要だと思うよ。

Aさんふうん、でもそうしたシステムだと役人のロイヤリティの対象はどうなるんですか。もちろん建前は国民でしょうが、実際は出身省庁の自分のシマということになりそうですね。


H教授多くの場合はイエスであり同時にノーだね。日本の役人の生き甲斐は、現在所属している組織での評価だし、それは組織の権限や予算、人員を伸ばすことなんだ。
よくマスコミでは、環境省がダメなのは他省からの出向者が多く、かれらは出身省庁にしか目が向いてないからだといわれている。まあ、そういわれても仕方のないような連中がいるのもウソではなかったけれど、多くの場合は事実と異なる。
出身省や自分のシマの本家組織に弓を引いてでも、現在の組織に忠誠を尽くすことが、ある意味では役人の本能だし、結果的には、そのことがそのポストを出身省や自分のシマでひきつづき維持させることにつながり、ポストの維持拡大を至上命題とする出身省庁やシマにおいても評価されることになるからだ。ま、局長級は知らないけど。

Aさんでも、このシステムでは国民にとってさして意味がなくなった組織や予算であっても、中にいる役人自らが削減しようとするインセンティブが働かないですよね。

H教授その通り。それをいかにビルトインするかだね。

Aさん天下り問題はどうですか。


H教授事務官、技官を問わずキャリアは勤続25年かつ50歳になれば、後進に道を譲るということで肩たたきが始まってたんだ。公務員は当初薄給だが、40代半ばになり管理職になるとトントンと給料(というか手当)があがり出す。そうなれば数年後にはやめなければならない。
しかしこれは民間や財団法人、特殊法人といった公的団体のような天下り先があって始めて機能するシステムだよね。
役人が予算や権限の拡大に奔走し、法律つくりや団体つくりに励むのは、それが国家のため国民のためと思い込んでいるのは事実だけど、同時にこうした受け皿つくりに資するという側面もあることは忘れちゃいけない。
でもいまじゃ、この25年・50歳という肩たたきシステムも風前の灯だ。環境省のようにもともと予算も権限も少ないし、民間との接点が少なく、自前の団体も脆弱なところでは、より深刻だと思うよ。
出身省庁が面倒をみる次官・局長クラスの高級官僚以外は、天下りすることで給料は大幅ダウンだから、天下りという語感とはだいぶちがう。ボクだってダウンした。いずれこのシステムも見直し必至だろうな。

Aさんいままでは環境省の話だったですよね。自治体の環境部局はどうなんですか。

H教授もう時間だ。その話はまたいつかしよう。この役人生態学だけど、じつはなにも役所の専売特許じゃない。大なり小なり日本の企業と相通ずるところがあると思うよ。
こうしたやり方が高度経済成長を可能にしたんだけど、右肩上がり成長が望めなくなった今日、限界というか制度疲労の極に達していることは否めないね。
だからといって世界のどこを見渡しても、それに代わる理想的な人事システムがあるわけじゃないことも知っておくといいよ。


久々の読者のお便り

Aさんなるほどねえ、環境省の出した法律や施策、その背後にどんなシマや人間のドラマが繰り広げられたか想像の羽を広げるのも、秋の夜の夢の一興かもしれませんねえ。
でもこんな身内の話だけだとまた厳しいお便りがきますよ。これ前講へのお便りです。


大学教授がするような内容とも思えない、大学教授でも色々あるけれど…。資格も要らなくピンキリと言うところかも。うすらぼけの与太話を4頁も書くよりも、密度を濃くして1頁にまとめたらどうか。400字当たりの原稿料ならばなるべく長い方がよいが。戦争反対、時代の首相・政権などには全て反対、昔、これを文化的進歩人(ママ)と呼称していた。お役所仕事と言われていた時代から、小泉政権になり、県や市レベルまでかなりスピードアップし、対応も変わってきている。製造業では、現地現場主義を徹底しない会社は成果もあがらない。官公庁の現状をもう少し現場レベルで確認したらどうか、バブル時代に自分がしていたお役所仕事を書かれても困る。何れにしても内容をもっとしっかりしたものにすべきである、新聞を読んでいれば書いてある程度の知識では…大学教授がこの程度で勤まる大学は何れ廃校の憂き目にあうことでしょう。石油は微生物が作りだし、メタンハイドレートが多量にあり、アメリカが自国内の莫大な資源を利用せず他国に依存している…等は世の常識・市井の常識。

H教授(落ち込んで)そうか、ボクは三流キョージュどころか、キョージュ失格だったんだ(涙ぐむ)。でも原稿料は関係ないんだけどな。いずれにせよ廃校になるまえに、赤いちゃんちゃんこでも羽織って(註:キョージュはまもなく還暦)引退したほうがいいか…。

Aさんそんな落ち込まなくてもいいですよ。その前日にはこういうお便りもきてました。

私はH教授よりやや年下(だと思いますが)で環境庁ではない官庁で環境問題に取り組んでいましたが、ほぼ同時期に官僚人生を歩んでいたH教授のお話はなつかしく拝見致しました。内容だけでなく、語り口が大変親しみが持て、皆さんこんな先生ばかりであれば学生さんもハッピーだろうと思います。これからも面白い記事を楽しみにしています。

H教授え、ホント!(目を輝かす)

Aさん(ひとりごと)だけど学生はハッピーだなんて思ってないのになあ。

H教授(激しく落ち込む)


注釈

【1】2004年の真夏日
東京における気象の記録※東京の真夏日の日数、継続日数順位表(前者は2002年8月更新、後者は2004年8月更新)
【2】京都議定書とロシアの批准
編集部註:予測を裏切って、9月30日、ロシアは京都議定書批准を閣議決定した。なお、ロシアの批准前(2004年9月下旬)の時点では、ロシアを含まない125ヶ国が批准し、批准国による排出量の合計は44.2%となっていた。
【3】第12講「2004新春 環境漫才」より
第12講
【4】川辺川ダム高裁判決(第5講)
第5講
【5】核燃料サイクル問題入門(第18講)/原発・核燃サイクル論補遺(第19講)より
第18講
第19講
【6】環境省3Rプロジェクト
第11講 トピック2 「環境省3Rプロジェクト」―環境役人生態学序説 より
【7】環境役人生態学―休暇考(第19講)
第19講
【8】行革の弊害(第18講より)
第18講

(平成16年9月24日執筆、同年9月30日編集了)

註:本稿の見解は環境省およびEICの公的見解とはまったく関係ありません。

(参考 南九研時報第22号(平成12年5月)、瀬戸内海第37号(平成16年3月)の拙稿)