一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.079

Issued: 2009.07.30

第79講 新たな政策形成回路創出に向けて ―― わが国の政権運営の行方は

目次
西日本を豪雨襲撃
大雪山遭難事故を巡って
自公政権の落日―新たな政策形成回路創出に向けて
太陽光発電普及策の検証
G8とMEF
異動の季節
夏の課題、秋からの見所

西日本を豪雨襲撃

Aさんセンセイ、梅雨明けどころか、台風みたいなとんでもない豪雨で、中国や九州北部で随分被害が出ています。今日いっぱい、雨は続くそうです。

H教授随分死者も出ている。心からお悔み申し上げるとともに、被災者の方にお見舞い申し上げよう。ボクは来週山口に集中講義に行くことにしているんで、呼んでくれた大学の先生に連絡したところ、やはり避難勧告が出て避難していたそうだから、他人事とは思えない。

Aさん防災対策がきちんとされていたのか疑問ですねえ。

H教授そりゃあ、治山治水が大切なことは論を待たない。でも、それで100%災害を防止するなんていうのはそもそも不可能。総合治水という考え方を以前話したよね【1】。そして、いざというとき避難できる体制を普段から整えておかなければいけない。

Aさん大きな災害に遭った山口県の防府市では、避難勧告の遅れが指摘されていますね。

H教授実際問題として避難勧告というのは相当の混乱が予想される。しかもそれが空打ちに終わった場合、非難に晒されるのは行政。だから、上の方の判断としては「もう少し様子を見てから」ということになりがちだ。防府市の場合はそれが最悪の結果となったと言えるだろう。

Aさん防府市でも、行政の避難勧告以前に、地域コミュニティの自主判断で避難して危うく難を免れた地区がありましたねえ。

H教授うん、その地域の自然を知り尽くした古老の判断が尊重されるような、よほどしっかりしたコミュニティが残っていたんだろうなあ。高度経済成長以前の日本社会はそんな自然発生的なコミュニティのネットワークで覆われていた。
でもねえ、今ではそれが美談とされるほど稀なことになってしまったんだ。そういう自然発生的な共同体が負っていた自己責任は、今では行政の責任ということになってしまった。
そのこと自体はある程度は仕方がないことだろうが、何から何まで全部を行政に押し付けてよしとしちゃあいけないと思うな。

Aさん自分の住んでいるところに、どの程度の危険が潜んでいるのか、普段から知っておく必要があるということですね。

H教授うん、実はボクも市のホームページからハザードマップを確認してみたんだ。ボクの住宅も「地すべり危険箇所」「土砂災害警戒区域(急傾斜地)」になっていた。


Aさんひぇええ、それは法律か何かで指定されているんですか。

H教授いや、そうじゃなさそうだ。そういう法定の地域指定ということになると、建築規制も必要になるし、地価だって大幅に下がるだろうから、抵抗も強く、そう簡単には指定できないようだ。だから、注意を促すためだけのようだ。ぼくだって買ったときに不動産屋からそんな話は聞いた記憶がないもんなあ。
でも、緩い規制しかできない、あるいは建築規制はできないにせよ、何らかの法定地域にして、不動産売買時に情報開示を義務付けることぐらいは必要じゃないかなあ。


大雪山遭難事故を巡って

Aさんまあ、いずれにせよ、今も激しく雨が降りしきっています。これ以上の被害がでないように祈りましょう。
ところで、西日本の豪雨災害の前には、北海道の大雪山系で、多くの中高年登山者が遭難しました。

H教授あれには驚いた。低体温症というらしいんだけど、夏山で次々と凍死するなんて、本土じゃあまず考えられないものなあ。なんでも最低気温は10度以下で、雨と強風で体感温度は零度以下になったらしいから、本土だったら、夏山じゃなくて秋山だね。

Aさんやっぱりガイドが悪いと?

H教授参加者の責任もあるだろうが、ガイドの責任が大きいし、そもそも3人のガイドのうち大雪山系の経験者が一人だけなんてのは論外だ。
そもそも、あんなツアーを企画したツアー会社の責任が一番大きいだろう。
後知恵になってしまうけど、予備日なしの大雪縦走ツアーという企画そのものが無茶苦茶と言わざるを得ないし、ツアー会社の過失責任は免れないだろうと思うね【2】

Aさん昔から山岳ガイドのツアーというのはあったのですか。

H教授ぼくが北アルプスでレンジャーをしていたのはもう40年近い昔になるけど、その頃だって山岳ガイドがいた。だけど、それは登山者個人か、登山者のパーティが依頼するのが普通じゃなかったかなあ。旅行会社が企画してという形式はあったとしても、それほど一般的じゃなかった気がする。
予備日なしで往復の飛行機の切符まで確保、技術も装備も経験もバラバラで、気心もしれない中高年ばかりの即席パーティ。これで、大雪山系縦走だなんて、考えるだにぞっとする。最低でも予備日が前後1日ずつ、2日は必要だろう。

Aさんでも登山者って中高年が多いんですねえ。

H教授ぼくらが学生の頃は、山男ってのはカッコいい存在のように思えたんだ。だからみんな山に行った。でも、その後、テニスだ、サーフィンだ、ボードだと趣味が多様化し、ある時期から、若者は山からほとんどいなくなってしまった。
奥多摩や六甲にでも行ってみればわかるけど、トレッキングシューズや登山靴を履いて山歩きをするグループは、多分その8割までが中高年だろう。
そういえば、大昔のキャンパスや職場の周辺での娯楽と言えばマージャンだったけど、今じゃあ、若者はマージャンなんてやらなくなっちゃったし、雀荘そのものも絶滅危惧種になっちゃった。


Aさんあら、アタシ、マージャンゲームならできますよ。

H教授盲牌もできない、点数も自動的に計算されて出てくるし、対局者との軽口の応酬というか、クチゲバもない、そんなものは“マージャン”とは呼ばないんだ。

Aさんへえ、センセイ、マージャンは得意だったんですか。

H教授ああ、自慢じゃないが、大学時代から役人時代の前期までは随分ならしたものだ。

Aさんそのエネルギーを英語や学問に注ぎ込んでおけば、もう少しマトモなキョージュになれたんじゃないですか。

H教授うん、そうなんだよな。今になればつくづく後悔…(ハッとして)バ、バカ!

Aさんぷっ、それはともかくとして、センセイと同世代の人がバリバリ山登りしています。三浦雄一郎サンは75歳でエベレストに登頂したそうですよ。
それにひきかえセンセイは元レンジャーだというのに、ゼミ合宿で登る伯耆大山ですら今年はギブアップするんでしょう。思いっきりメタボで、ありとあらゆる成人病を抱え込むなんて、日頃の節制と鍛錬がなってないんじゃないですか。

H教授その代わり、皆に遭難騒ぎで迷惑かけることもないし、トムラウシに登りたいなんて高望みをすることもない。大体歳をとれば体力、脚力が落ちるのは当然なんだ。問題は精神の柔軟性、アタマの若さなんだ。

Aさんそういえば、先輩からおもしろいことを聞きましたよ。7〜8年前、ゼミ生とスキーに行かれたそうですね。何十年ぶりだとかいいながら、結構うまく滑っていて、転ぶときも理想的な転び方をしたので感心したら、足の筋力がまるでなくて、そのまま起き上がれなかったとか(笑)。


H教授(真っ赤になって)う、うるさい…!


自公政権の落日―新たな政策形成回路創出に向けて

Aさんあ、ぼちぼち政治の話題にいきましょうか。都議選では自民党は歴史的な大惨敗。自民党内はその責任問題で一時分裂騒ぎかと思われましたが、もはやそういうエネルギーも喪失したのか、そのまま7月21日、衆院を解散、総選挙に突入してしまいました。8月18日公示で30日投開票だそうです。
麻生内閣も自民党も支持率が下がる一方の中での解散ですが、このまま自民党は下野しそうな雰囲気ですね。

H教授ボクの偏見かもしれないが、今年に入って検察とメディアはつるんでるんじゃないかと思うほど、民主党バッシングに走った。もちろん、民主党の側に、それだけの隙というか弱みもあったということなんだけど、いろんな首長戦から都議選まで民意はほとんどぶれず、民主党に軍配を挙げた。
これからまだ一月以上あるから、この延長線上で自民党の歴史的な惨敗、民主党圧勝に終わるのか、それとも意外なほど自民党が善戦して、民主党辛勝という結果になるかはわからないが、自公で過半数ということはありそうにないね。

Aさんということは、ようやく本当の二大政党時代になったということですか。

H教授もちろんその可能性はある。社民党も姿を消し、二大政党+共産、公明という時代が来て、選挙ごとに政権交代の可能性があるということだってないとは言えない。だけど、別の可能性だってあると思う。

Aさん別の可能性って?

H教授自民党が惨敗すれば、一気にいくつかの小政党に分裂してしまうかもしれない。
それに民主党だって一枚岩でいられないかもしれないよ。つまり政界再編成みたいなことが生じる可能性は小さくないと思う。

Aさんまた勝手なこと言って。なにか根拠はあるんですか。


H教授民主党のマニフェストを見る限り、やれそうにない、あるいはやるべきでない“バラマキ”がいっぱいある。また一方では、例えば「GHG 2020年△25%」という温暖化対策を言っておきながら、高速道路の無料化だとか、ガソリンの暫定税率廃止【3】などというまるっきり辻褄の合わないことを言っている。

Aさんそういえば国土交通省はコイズミ時代に高速道路整備計画9,342キロ以外の新規着工はいったん白紙に返したはずだのに、この4月には新たに4路線の「新直轄方式」での高速道路建設を決めました。また、便益が小さいとして着工済み国道18路線についても、この3月に凍結したはずなのに、今月に入ってうち17路線で工事再開が決まったそうですね。

H教授うん、つまり政府与党は総選挙対策としてバラマキを再開、コイズミ改革の事実上の全否定に踏み込んだ。これに対して民主党の地方議員にもこのバラマキ再開を支持する声が大きい。

Aさん地方の住民が望むからという理由ですね。

H教授地方の住民に道路をほしいかと聞けばほしいと答えるだろう。でも、そのオカネを、道路も含めて自分たちで自由に使ってもいいよといえば、また違った答えが出たかもしれないじゃないか。
ま、いずれにしても戦後日本を、よい意味でも悪い意味でも主導してきた自民党政治が、今、音を立てて崩壊している。決して麻生サンというタマが悪かったわけじゃあないんだ。「おもしろうて やがて悲しき 鵜飼かな」って芭蕉の句が思い浮かぶな。


Aさんさっきのバラマキの話は地方向けですよね。つまり自民党も民主党も都会派と地方派に再編成されるかもしれないということですか。

H教授いや、そうとは言えない。むしろ政治家と役所との関係、役割分担をどう考えるかということでいくつもの分岐が出てくるということだろう。

Aさんえ? どういうことですか。

H教授右肩上がりに成長していく中で、パイをどう再配分するかというのが経済成長期の政策だよね。財務省、つまり旧大蔵省の予算編成権を軸に、基本的にはそのための具体的な政策形成も政策間調整も役所に丸投げしていた。
政治家は基本的にどれかの省庁の応援団になる他は、自分の選挙区や自分の支持母体に有利になるように圧力をかけるだけ。
これが前講で言ったように、全省庁一律対前年何%という横並び主義がはびこるようになった元凶だ。高度成長期にはそれでもよかったんだが…。

Aさんそんなこと言ったって、バブルがはじけてもう20年近いんですよ。

H教授うん、キミが言った通りで、バブル崩壊以降はそうはいかなくなったにもかかわらず、借金を増やすことによって見かけ上のパイを膨らましてきて、同じやり方でやろうとしてきた。

Aさんそれが行き詰ったからコイズミ改革じゃなかったんですか。


H教授コイズミ改革は、パイがなくなってきたことをなんとかせねばという問題意識の下に、福祉などを切り捨て、公共事業も予算を減らしていき、バラマキを小さくした。
だが、郵政民営化以外の政策形成や政策間調整は今まで通り、基本的には役所に委ねた。しかも米国流のマネー資本主義というか新自由主義の跋扈も許した。その結果が格差拡大だし、一昨年の参院選での与党敗北以来、コイズミ改革の流れは止まった。昨秋のリーマン・ブラザース破綻以降は、コイズミ改革はもはや禁句のようになった。
そして、日本政治に閉塞感が蔓延するようになったんだ。

Aさんつまりバラマキ路線も、コイズミ改革も同じ穴の狢。政策形成と政策間調整を役所任せにしていることこそがその閉塞感の元凶だと、ようやく国民が気付いたということですか。

H教授うん、だからこそ、世論は民主党の過剰なまでの役所叩き、役人バッシング路線に拍手喝采したんだと思うな。決して民主党のバラマキ路線を支持しているわけじゃなく、役所と一体になった自民党政権に心底から嫌気がさしたんだと思う。
橋下人気の秘密もそうだよね。役人叩きだ。
だけど、民主党内閣が自らの手でシビアな政策形成や政策間調整ができるかといえば、それはまた別問題。つまり第一に役人との距離をどうとるか、役人をどう使いこなすか、第二にマニフェストに掲げてきた無茶なバラマキを引っ込めるか、新たに借金してでもやろうとするか、そして第三に外交政策も含めた日本社会の長期的なビジョンをどう考えるかで、民主党内で分岐が起こる可能性は十分あると思うな。


Aさん―ま、センセイはもともと二大政党制には批判的だったですものね【4】
じゃあセンセイは、多分誕生するであろう民主党政権はどうしたらいいと思いますか。

H教授まず第一に日本社会の現実性のある長期ビジョンをつくることだと思う。
少子高齢化の進行、返すあてのない借金の山、破綻確実な年金財政、膨大なハコモノの維持費とその更新、BRICsの成長と輸入大国化等々のシビアな現実に立脚した未来図をどこまで描けるかだ。
土台、人口が減少していくのに、GDPは増え続けていくなんて願望というか妄想をまず捨てなければいけない。国全体としてのマイナス成長は必至だが、幸福度や生き甲斐度は増えるという具体的なビジョンを描くことが先決だ。

Aさんうへえ、それこそ大変そう。

H教授で、次に、各省庁部局に、そのビジョン実現のための個別具体的な政策を代替案を含めて出させる。

Aさんつまり政策形成は役人に委ねて選択権だけは持つというわけですね。

H教授ただし、政策間調整は役所に一切任せないし、間違っても足して二で割るような調整はやらないことが肝要だ。

Aさんということは政策立案は各省、つまり行政の仕事で、立法の仕事ではないということですか。

H教授(うっと詰まって)い、いや。各党に議員数に応じた数百人規模の政策秘書団を公費で設置させる。各党はそこで各省庁部局の政策を徹底的に検証して、自らの党の政策を決め、国会の場で立法の役割を果たすとともに、与党は総理総裁を通して政府全体を、そして各省庁大臣や副大臣等を通して各省庁をコントロールする。それが議院内閣制ということだ。

Aさんうふ、なんだか苦しそうですね。


太陽光発電普及策の検証

H教授そんなことはないぞ。じゃあ、具体的な政策論にいこうか。
例えば、太陽光発電の普及策として、経済産業省は余剰電力を電力会社が従来の倍で買い取るように義務付けるようだし、それだけじゃなく設置者への補助金も復活させた。
太陽光だけでなく、他の自然エネルギーもそうすべきだという話はあるが、それはひとまず置いておこう。
一方では、自治体でも太陽光発電設置のための補助金制度を設けているところがあり、太陽光発電ブームに乗って予算は一気にパンクしそうだ。現にパンクした自治体も続出している。自治体はどうすればいい?

Aさんそりゃあ、太陽光発電を普及させることが温暖化対策としていいことなんだから、国は補正予算を自治体に手当てしてでも、普及に全力を尽くすべきじゃないですか。

H教授そんなことすればいくらカネがあっても足りなくなる。そういうのをバラマキというんだ。
地域によっては国、都道府県、市区町村の三つから補助がもらえるところもあるそうなんだけど、それでも初期投資にはウン百万円必要だ。で、10年か15年で元が取れるという話なんだけど、何だか少しおかしいと思わないか。


Aさんどこがおかしいんですか。

H教授つまりウン百万円を用意できる人たちへの優遇策じゃないか。格差拡大につながるとは思わないか。

Aさんそりゃあ、まあ、そうかもしれませんが…。じゃあ、センセイはどうすればいいと?

H教授自治体、特に市区町村レベルでは独自でできる温暖化対策はほとんどない。そんなときに割高な太陽光発電への補助策はパフォーマンスとしての意味はあった。
でも国が倍額の買取を電力会社に義務付けるんなら、自治体は、そして国も、太陽光発電設備設置のための補助金などやめて、そのカネを別の方面に使うべきだ。

Aさんでも、それだったら普及に弾みがつかないんじゃないですか。

H教授その代わりに、貧しい人でも設置できるよう、無利子、あるいは低利子で太陽光発電設備の資金を融資するようにすればいいじゃないか。10年か15年で元がとれるということは、設置後も設置前と同じように毎月の電力料金相当額を10年か15年払い続ければ返済できちゃうということだろう。補助金をなくしたって、それが15年か20年払い続けることになるだけで、新たな負担が生じるわけじゃない。


G8とMEF

Aさん…ご荒説はうかがいました。
ところで国際的な動きはどうなんですか。

H教授今月(7月)上旬、イタリアのラクイラで行われたG8と新興国も含めたG20とも言うべき「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」(MEF)だけど、なんとなく前途に不吉な予感が漂った。

Aさんえ、どういうことですか。

H教授G8の国々は、なんとしても新興国にポスト京都で定量的な削減の枠組みに加わらせねばいけないし、そのための前提として2050年全球でのGHG排出量半減に同意させるべく、先進国はよりラジカルな削減案を出さなければならないというので「先進国全体で90年比または最近の複数年比で80%またはそれ以上削減する」というG8首脳宣言を出した【5】

Aさん麻生サンの中期目標の前提は、2050年に日本の排出量は60〜80%カットじゃなかったんですか。

H教授そう、中期目標を出して一月も経ってないというのに、その前提が否定され、無理矢理80%を飲まされた。ま、ボクは90%でも当然だと思うがね。
それはともかく、そうまでして首脳宣言を出したというのに、MEFは2050年全球での排出量半減に同意しなかったんだ。
もっともMEF会合では中国の胡錦濤主席はウイグル暴動で慌てて帰国するというハプニングが起きた。少数民族問題はこれからも中国のアキレス腱になりそうな気がするな。

Aさんうーん、ホントにCOP15でポスト京都がまとまるのかしら。
明るい話はなかったんですか。


H教授工業化以前の水準より気温上昇は2℃を越えないという目標が合意されたことかな。IPCC第四次報告書では政治的な配慮で2〜3℃としていたんだ。すでに0.7度上昇しているから、あと1度ちょっとだ。でもねえ、2℃上昇ということは、やがてほとんどのサンゴが白化することを容認【6】するということでもある。悲しいねえ。


異動の季節

Aさんこれから9月まで政治空白が続きますね。日本が出遅れないか心配だわ。いっそのこと全世界が夏季休暇に入ればいいのに。
ところで、民主党政権登場に備えて、多くの省庁では次官以下の人事異動があり、民主党シフトを敷いたそうですね。環境省もそうなんですか。

H教授環境省も異動があり、事務次官以下変わったが、ボクも環境省の内部情報に疎くなったので、それが民主党政権登場に備えてのものかどうかはわからない。

Aさんダメじゃないですか。センセイの取り柄は、環境省の内部情報くらいしかないのに、それもなくしたんじゃどうしようもないじゃないですか。


H教授ゴメン。ん? なんでキミに謝らなくちゃいけないんだ。
ただねえ、幹部人事がもはやOB人事とは連動しなくなったみたいなんだ。ワタリが事実上禁止されたというのもあるし、環境省関係では、天下り先で現給の7〜8割も出してくれそうな外郭団体がそもそも少なくなってきているということなんだろう。


夏の課題、秋からの見所

Aさんうーん…。
ところで、今度の解散で低炭素社会基本法は流れてしまいましたね。

H教授まあ、元々与党と民主党と2つの案が出てきていて調整もできなかったらしいから、仕方ないだろう。すべては9月以降だ。
また「環境保全活動・環境教育推進法【7】の改正は与野党の意見が一致したにもかかわらず、時間切れ廃案になるようで、少し残念。環境行政へのNGOの参加、対等な立場でのNGOの協働取組の推進等を盛り込もうとしていたようだが、9月以降に再提出するんだろう。
あと、第76講で触れた漂着物処理法【8】は成立したそうだし、中身は知らないけど土壌汚染対策法改正も成立したそうだ。

Aさんいよいよ8月ですね。政局は総選挙一色でしょうが、役所の方はそうは言ってられないでしょう。司令塔不在の中でもいろいろ準備もしなければいけないんじゃないですか。

H教授とりあえずは年末のCOP15【9】に向けて、どう対応していくかというのがあるよねえ。
オバマさんの人気がここに来て下降気味というのも少し気になるし、中国もウイグル族の暴動以降、少数民族対応に追われ温暖化対策は後回しというところかもしれない。
なにより日本だって、世論調査では温暖化問題はほとんど選挙の争点に挙げられていない、というのが悲しいけれど、ポスト京都がどうなるかを無視はできない。

AさんもうひとつのCOPもあるんじゃないですか。


H教授うん、来年の名古屋での生物多様性条約COP10だ。これに向けて環境省は生物多様性国家戦略の見直しをすでに審議会に諮問した。ま、見直しといっても根拠規定を変える──つまり、今までの国家戦略は閣議決定だったんだけど、生物多様性基本法に基づくものに変える──というだけらしく、本格的な第4次国家戦略はCOP10を受けて考えるということのようだけどね【10】
ボクとしては、生物多様性基本法第25条にあるSEAの具体化具現化を期待したいんだがなあ【11】
でも、いまだに泡瀬干潟埋立【12】みたいなことをやっているようじゃあ、COP10も何もないだろうと思うけどな。

Aさんまあ、そんなところですかねえ。
そしてセンセイの夏の課題です。ニコチン切れの禁断症状をいかに克服するか!

H教授キミは「恋の禁断症状をいかに克服するか!」だろう

AさんH教授―フン!!



注釈

【1】総合治水
第22講「時評2 ─総合治水」
【2】トムラウシのツアー登山と大量遭難
北海道大雪山系 トムラウシ山 大量遭難を考える。
【3】ガソリン暫定税率廃止
第61講「ガソリン税暫定税率延長をめぐる混迷」
【4】二大政党制に批判的なキョージュ
第19講「キョージュの参院戦総括 ―2大政党制の陥穽」
【5】MEF(イタリア・ラクイラ)
G8ラクイラ・サミット(概要)
第78講「今後の見通し」
【6】サンゴの白化
第69講「サンゴ礁の危機」
【7】環境教育推進法
第8講「環境教育推進法の成立」
【8】漂着物処理法
第76講「地域環境保全基金と漂着ごみ対策」
【9】年末のCOP15
第73講「EUの温暖化対策提案」
【10】生物多様性国家戦略の見直し
第49講「生物多様性保全を巡って」
第57講「第三次生物多様性国家戦略案まとまる」
【11】生物多様性基本法とSEA
第65講「生物多様性基本法成立」
【12】泡瀬干潟埋立
第71講「「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決」
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(平成21年7月27日執筆、7月30日編集了、8月4日一部修正)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。