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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.005

Issued: 2003.06.05

第5講 脱ダム、自然再生、環境教育 三題噺

目次
淀川水系脱ダムの行方
川辺川ダム高裁判決
止まらない公共事業の真相=深層
自然再生事業と環境教育
環境教育・環境学習推進法案

淀川水系脱ダムの行方

Aさん(ニッコリ)センセイ、これみてください(新聞記事を差し出す)

H教授え、なになに。「脱ダム提言生きず」【1】? なんのことだい?

Aさん第2講で淀川水系流域委員会の脱ダム提言について国土交通省が怒り狂ってるんじゃないかってワタシ言ったんですよ。そしたらセンセイ、なんていいました?

H教授そんなの覚えてないよ。春眠暁を覚えずだ。

Aさんなに、わけのわかんないこと言ってるんですか。これをみてください。


Aさんそう言えば1月に淀川水系流域委員会が脱ダムを提言しましたねえ。あれには国土交通省も怒り狂ってるんじゃないですか。

H教授そんなことはないよ。国土交通省も承知の上の出来レースに決まってるじゃないか、委員を選ぶのは国土交通省なんだから。つまり、国土交通省は大きな反対運動が予想できるようなところでのダム建設はあきらめるって遅まきながら宣言したんだと思うよ。

(※第2講の該当記事は、→こちらへ

Aさんこの記事には、国土交通省近畿地方整備局は委員会の提言に対して5つのダムとも、「現段階では建設は有効」って見解を述べたんですよ。ちょっとも出来レースじゃないじゃないですか。

H教授(うろたえて)うーん、なるほどねえ。落としどころについての役人の読み違いかな、それともコントロール能力を失ったのかなあ。いやいや、国士型官僚から利害調整型官僚に変わったと思い込んでいたんだが、もはや成行任せ官僚に変わったのかなあ(ブツブツ)。

Aさん(そ〜っと、キョージュの額に手をあてようとする)

H教授おい、やめろ。逆セクハラだぞ。

Aさん失礼な! なにかブツブツ言ってるから、熱出したのかって心配してあげたんじゃないですか。まさかSARS【2】じゃないでしょうね。

H教授いやあ、ゴメン、ゴメン。うーん、ちょっとびっくりしたんだ。
ぼくらが役人の頃には、役人というのは利害関係者の反応を考えながら、みんなが渋々ながら納得するような「落としどころ」を見付け、それに向けて誘導するもんだったんだ。委員会なんかの運営もそうだった。もちろん、根回しするし、選んだ委員の意見も柔軟に取り入れて、可能な限り修正もするし、場合によっては真っ向から反対するような先生にも1人、2人は入ってもらい、それにより御用委員会じゃないってアリバイつくりなんてのもしたもんだ。
やっぱり時代が変わったんだねえ。

Aさんどう変わったんですか。

H教授ひとつは委員の選び方で、学識経験者を国土交通省が選ぶんでなく公募制みたいなのをとったのかもしれない。そして根回しなんていうことをせずに自由闊達に議論してもらったのかもしれない。もちろん、事務局が委員を説得しきれなかったのかもしれないんだけど。
ひょっとすると利害関係者のだれもが渋々ながら納得する落としどころなんて考えられなくなった、あるいは落としどころなんて傲慢なことを考えるのは役人の僭越だって考えられる時代に入ったのかもしれないねえ。

Aさんだとしたら、提言にそのまま乗っかればよかったんじゃないですか。

H教授地元が納得しなかったのかもしれないし、多元化時代に入ったから、国土交通省と地元市町村、流域委員会が独立した対等の立場で公開の議論を行っていけばいいと腹をくくったのかもしれない。

Aさんそんなあ。だって平行線のまま行けば、最後はだれが結論を出すんですか

H教授議論していくうちに、そのこともいずれ落ち着くところに落ち着くし、落ち着かなければ、それもまたよしってことかな。
キミ、この経緯を今後もずうっと追っていってごらん。Σだとか∫の記号にわけのわかんない変数ばかりを並べてなんとかモデルだなんて言ってる、くだらない研究論文より、よっぽどいい卒論ができるよ。

Aさん(にっこり)センセイは英語がしゃべれないだけじゃなくて、数学もできなかったんですね。マトモな論文が書けないわけだ。


H教授ほっといてくれ!

Aさんはいはい、でも、落としどころが見つからないことだって昔からいっぱいあったでしょう。そういうとき、昔の役人はどうしたんですか。

H教授そのときは調査とか検討とか言って先送りというのがひとつのパターンだよね。そのまえに可能ならば逃げて、よそに押し付ける。
役所の権限争いってよく言うよね。でも、それにはふたつあるんだ。一つは積極的権限争い、これはだれでも知ってるよね。で、もうひとつが消極的権限争い。落としどころがみつかりそうにないときには、しばしば、「それはウチの仕事じゃない」って言って、お互いに押し付けあうんだ。

Aさんへえ、消極的権限争い?

H教授例えば80年前後に温暖化問題が日本でも問題にされはじめた頃には、霞ヶ関で消極的権限争いがあったらしいよ。結局環境庁が引き受けることになったんだけど。
でもねえ、80年代も終わり近くなると、国際的に炭酸ガスの排出抑制に向かわざるをえないという見通し、つまり落としどころが見えてきた。そのためには法律の制定とか、予算の確保とか組織の拡大につながるようなことがいっぱいある。となると、どの省庁もこんどはウチの出番だといって積極的権限争いがはじまった。


Aさんなるほどねえ。でもそういうのは全部水面下だったんですね。そういう意味では情報公開が相当進んだんですね。
でも、淀川流域のダムの件は、これからどうすればいいとセンセイは思ってるんですか。

H教授一個、一個自分で調べたわけじゃないから、なんともいえないけど、基本的に水の需要は余っているし、世界的にも脱ダムの流れにあるし、だいいち日本は借金漬けで、このあいだの統一地方選挙をみても、公共事業削減をみんな言いだしてるから、もはやできないんじゃないかなあ。
問題は昔、ダム建設を無理やり納得させられて、ダム建設を前提に地域おこしを考えざるをえなくなった人たちを、どうやって説得し、自立を援助できるかだと思うよ。

川辺川ダム高裁判決

Aさんそういえばダムじゃもうひとつ、川辺川ダムの高裁判決がでましたねえ【3】。あれはどうなんですか。

H教授ダムそのものじゃなくて、ダムを水源とする利水事業、つまり土地改良事業の計画を決定していたんだけど、その際、受益者である事業予定地の農家のうち3分の2以上の同意がいる。その同意書のなかにはインチキなものがあり、それをカウントすると3分の2にはならないから無効だって判決だ。


Aさんじゃ、ダムの建設には直接関係ないんですか。

土地改良法に基づく国営事業の実施フローチャート

土地改良事業のフローチャート(農林水産省の資料などより作成)
[拡大図]


平成5年農水大臣が利水計画の変更決定
平成6年対象農家が計画変更決定に異議申立て
平成8年農水大臣が異議申立てを棄却
平成8年対象農家が棄却処分の取消しを求めて提訴

平成15年5月16日(金) 福岡高裁判決
(有資格者)農業用排水事業4,161名
区画整理事業1,640名
農地造成事業1,014名
(同意者数)農業用排水事業2,732名
区画整理事業1,063名
農地造成事業698名
(同意率)農業用排水事業65.66%(3分の2未満)
区画整理事業64.82%(3分の2未満)
農地造成事業68.84%

昭和59年 農水大臣が国営川辺川総合土地改良(利水)事業計画を決定

平成5年  農水大臣が利水事業の変更計画を決定

H教授そんなことはない、あれは多目的ダム、つまり利水、治水双方が目的になっている。そのうち利水について手続きが不当だということになれば、やり直すか、治水目的のみに変更しなければならないけど、そのためには県知事の同意だとか議決が必要。 でもねえ、治水にしたってダムは不要だという、かなり強い地元反対派の意見があるし、公共事業削減というのが本音かどうかはともかく地方レベルでもコンセンサスが得られつつあるから、中止になる可能性もあるんじゃないかな。

止まらない公共事業の真相=深層

Aさんでもなんで公共事業って、いったん走り出したら止まらないんですか。長良川だって、最初は利水っていっておきながら、状況がかわれば治水だっていいだしたでしょう。どうしてやめられないのかしら。役人のメンツ?

H教授メンツよりもっと大きいいくつかの原因がある。
一つは工事費や補償金、用地買収費などのカネの問題だよね。いままで投資したカネが無駄になる。川辺川の場合は漁業補償がまだ終わってないんだけど、長良川のように同意しちゃって漁業補償を貰っちゃったら、中止した場合、返さなくちゃいけない。用地買収だってそうだ。事業をやるからって買収したのに、途中でやめちゃったら、まるでムダ金で責任問題になっちゃうよね。
それから、公共事業で地域にカネが落ちるし、就業機会も増えるっていういままでの構造だよね、多くはゼネコン経由だけど。政治家はそれでもって、利権と票が期待できるし、役人は天下りのチャンスも増える。
でもねえ、最近はこうした構造がニッポンを借金漬けにしてしまったって批判が強くなってきているよね。
ま、ここまではいろんな人が言ってるんだけど、あと、もうひとつあまり正面切って言えない理由がある。
こうした大きな公共事業は他のいろんな各省庁の公共投資計画と複雑に絡み合ってるんだよね。だから、環境庁、現・環境省も含めて、各省庁や自治体との面倒な調整を何年も、ときには10年以上もかかって、やっと計画ができあがったんだ。それを変更するとなると、またおっそろしく面倒なことになるし、責任問題だってでてくる。こうした社会的コストはものすごく大きいんだ。だからいったんできた計画は多少のことに、いやどんなことでも目をつぶって強行突破ということになりがちなんだよ。


Aさんなあるほどねえ。ここでやめたらそれまで投資したオカネが無駄になっちゃうのか。だからといってさらに巨額のオカネを使うのもねえ。

自然再生事業と環境教育

H教授ま、いずれにせよ、国土交通省にしたって、農水省にしたって、着工済みのような事業はいきがかりってものがあるからどうなるか判らないけど、新しくやろうとするものはみんなが賛成するような環境配慮型あるいは自然再生型事業に軸足を置くにちがいないと思うよ。

Aさんふ〜ん。そういえば自然再生推進法【4】なんていうのもできて、元旦から施行されましたよね。


H教授そう、そして4月1日には自然再生基本方針が閣議決定された。
過去に損なわれた自然環境を取り戻すため、NPOをはじめとする多様な主体の参加と創意による地域主導の -という触れ込みの新たな事業が本格的にスタートすることになった。

Aさん具体的にどう進めるというんですか?

H教授行政機関や意欲あるNPOが呼びかけて、当該地域の自然再生協議会を設置して、地域の多様な主体の参加機会や専門家の参加を確保することとされている。
協議会では、事業区域の周辺地域を含めた「全体構想」を作成し、これに基づいて各事業実施者が立てる「実施計画」についても協議するわけだ。これらの計画は広く一般に公表され、事業実施者は協議会と連絡調整を取りながら事業を実施するとしている。

Aさん縄張り争いがなければいいですけどね。

H教授先行して環境省、農水省、国土交通省が連携したモデル事業を行っている。これからもいろんな問題があるだろうけど、時代が要請しているからなあ。でも問題は自然を復元するだけじゃないんだ。復元した自然とどういう風に付き合うかということだよね。だから環境教育が重要なんだ。

Aさんどういうことですか?

H教授多くの場合、ヒトが親しんできた自然環境ってのは、人為を拒んできた環境じゃなくて、ヒトと共生してきた結果なんだ。別にヒトが共生しようとしてやったのじゃないけど、生きるために干渉してきたし、そういう生き方、ライフスタイルを何千年とやってきたんだよね。里山なんてのはそういうライフスタイルが生み出した環境なんだ。
でも生き方自体も変わってしまった。昔は都会の真ん中に住んでいても、ある意味では自然と共生していた。


Aさんえ? どういう風に?

H教授だって、食べ物なんて、基本的に自然、つまり季節によって強制されていたし、台風が来るとなると、窓に板を打ち付けたり、停電に備えてろうそくを準備したりした。暑い夏は窓をあけっぱなしにして、蚊取り線香をつけて団扇でぱたぱた。

Aさんそんなの共生っていうんですか?

H教授そうだよ、昔は自然と共生してただとか循環型社会だったってよく言うけど、それはやむなくそうしていたんだ。自然の恵みを受けるとともに、自然の恐怖にもおびえながら、自然とともに、そして地域の人々とともに生活していたんだ。
でもそうした社会は完全に滅んでしまった。ぼくがこどものころは人々の3分の2が田舎に住んでいた。いまじゃ3分の2が都会暮らしだし、田舎に住んでいる人だって、暮らしそのものは都会と同様の暮らしだ。エアコンつけて、クルマに乗って。

Aさんそれがいけないというんですか。センセイだってクルマ乗り回しているじゃないですか。オンボロ車だけど。


H教授いけないなんて一言も言ってないよ。ただ、それが文明の進歩だとして、無条件に謳歌するんでなくて、頭の片隅でいいから、これでほんとうにいいのかという疑問を持つことが必要だと思うよ。
大体、こんな暮らしを世界60億の人が享受するだけのゆとりを地球は持ってないんだ。しかもそれが温暖化だとかヒートアイランドだとか、ひょっとするとヒトの存亡に関わるかもしれない問題の原因なんだから。

Aさんセンセイ、センセイ。どんどん環境教育の話題と離れていってしまうんだけど。

H教授そんなことはない、だから先人の自然とのつきあいかたをせめても追体験することこそが、生きた環境教育の第一歩だし、新たな循環型社会を考えることにつながる。
工業化・都市化に伴う古典的な公害は「病理」だった。病理はクスリで直せる。これが70年前後の公害規制なり、すぐれた自然の保護ってことだった。
だけど自然と生活との共生の様相が変貌したというのは文明の「病理」というより「生理」だよね。生理を変えるのは本来的には日々の「鍛錬」しかない。それこそが環境教育なんだ。
さっき話した自然再生事業なんだけど、閣議決定された自然再生基本方針でも自然環境学習の推進が謳われていて、自然再生事業が自然環境学習の場として活用されることを求めている。ぼくも大賛成だ。でもねえ、自然再生推進法が想定している自然再生事業って随分大規模なものをイメージしているみたいだねえ。釧路湿原だとか四万十川【5】だとかの大型の事業もいいけど、もっと身近なところに失った水辺をつくるみたいなミニ自然再生事業こそもっと進めなくちゃいけないと思うよ。

Aさんたとえば?

H教授三面張りの川のところどこにちょこっとした水辺をつくり、そこに降りられるようにしたり、溜池だったら転落死を防ぐための段差だけつけて立入禁止柵を外すとか、学校のなかに手づくりでビオトープをつくるとかね。
可能ならば、それをすべて行政がやるんじゃなくて、市民やNGOが計画し参加してほとんどオカネのかからないような事業をほうぼうでやるべきだと思うな。そして、そこで昔の知識と知恵を持ったお年寄りたちに昔の自然とのつきあいかたを教えてもらう。

環境教育・環境学習推進法案

Aさん環境教育といえば、法律を作ろうって動きがあるって聞いたんですけど【6】

H教授そう、NPOが中心になって去年の5月に骨子案をつくり、議員に働きかけているようだ。
与野党では、民主党案が今年の2月に国会に提出されたほか、与党3党は小委員会を設置して内部調整を急いでいるとも伝え聞く。今国会中にでも議員立法でなんとか成立させようとしているみたいだね。


Aさんふ〜ん。で、どんな内容なんですか。

H教授詳しいことは別に定める基本計画にあずけられるようだけど、NPOの骨子案等に書かれている内容はこんな感じだ。
学校では環境教育という科目を設け、専任の教員を置く。また、市町村は住民に、事業者は従業員に環境教育を行う義務を背負わせる -というんだけどねえ。


Aさんセンセイは反対なんですか。

H教授反対じゃないよ。もちろん賛成だよ。問題は環境教育のイメージだ。

Aさんどういうことですか?

H教授中学でも高校でも各教科の教科書にはいっぱい環境のことが書いてあるよ。

Aさん書いてあったって、理解してなければしようがないじゃないですか。そのためにも環境教育という科目をつくるっていうんでしょう?

H教授でもねえ、知識レベルでいえば、環境教育先進国といわれるドイツより、日本の方が、正しい環境に関する科学的知識を持っているという調査結果もある。
だけど、環境問題は知識レベルを高めれば解決するってものではない。環境教育も、環境に関する知識を教えればいいわけでは決してないと思うんだ。環境教育の科目を設けたり専任の教員を配置するのもだいじかも知れないけど、むしろさっきも言ったように、学校での空間・時間全体が本当の意味での環境教育の場となるような工夫が必要なんじゃないかな。
そのためには環境教育専任の教師だけじゃなくて、教師全員が最低1ヶ月は実地研修を受けて、先人の知識と知恵を共有するようなことも必要だと思うけどな。

Aさんセンセイ、それ大学で実践してます?

H教授(話題を急に変える)さあ、もう時間だ。また、来月。

注釈

【1】脱ダム提言と国土交通省近畿地方整備局の見解
国土交通省近畿地方整備局の「建設は有効」との見解につき、新聞各紙にいくつか報道されている。
毎日新聞 滋賀版(5月17日付)
日本経済新聞 関西版(5月17日付)
同地方整備局では、5月16日に開催された第21回淀川水系流域委員会において、計画中の丹生(滋賀県余呉町)、大戸川(大津市)、余野川(大阪府箕面市)の淀川水系の3ダムにかかわる見直し案についての説明がなされた。
会議の結果報告(委員会庶務担当より)によると、「流域委員会の提言の理念に沿って見直しを行っている」ものの、現段階では計画を「『調査検討』と位置づけ」、「『実施』と位置づけられるまで本体工事は原則中止とする、としている」と記されている。
第21回淀川水系流域委員会の会議資料等
【2】新型肺炎 重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)
英語で、Severe(重症) Acute(急性) Respiratory(呼吸器) Syndrome(症候群)といい、頭文字をとってSARSと表記される。日本では、「サーズ」もしくは「エス・エー・アール・エス」などとも呼ばれる。
5月28日のWHO総会決議では、「21世紀最初の重度の感染症」と位置づけられ、国際協調による封じ込めの必要性などが強調された。
感染から発病までの潜伏期間は10日以内で、症状はほぼ1週間おきに3段階で進行するとされる。38度以上の急な発熱や咳からはじまり、いったん熱が下がるものの、発病後9日前後で再び熱が上がる。さらに肺炎症状など呼吸器障害がおきて急速に重症化し、死亡率は14〜15%にのぼる(世界保健機関=WHO が5月7日に修正発表した試算値)。病原は、新種のコロナウイルスと判明し、ハクビシンなどが感染源ではないかと疑われている。
感染の仕組みは、感染者のくしゃみや咳を通じて広がる飛沫感染が主で、「患者と2m以内の近距離で接触したり、排泄物に触らない限り感染の恐れはない」(WHO)とされる。発病後10日頃が、体内ウイルスの検出量はピークとなり、この時期がもっとも感染力が高まるとみられる。
なお、国内では、98年制定・翌年施行の「感染症法」に関して、施行後5年の見直しに向けて、バイオテロへの対応などの盛り込みが指摘されていたが、今回のSARSへの行政の対応の遅れを教訓に、国の権限を大幅に強化して、部分的に前倒しで改正する方針も発表されている。
世界保健機関(WHO)のSARS最新情報(英語)
厚労省検疫所「海外渡航者のための感染症情報」
国立感染症研究所 感染症情報センター
感染症法改正について(厚労省事務次官会見より)
【3】川辺川ダム 福岡高等裁判所判決
国営川辺川土地改良事業計画も含めて、川辺川ダム問題について、熊本日日新聞では「考 川辺川ダム」という特集を組んで、関連記事などを中心に整理している。
また、同訴訟控訴審判決について、農林水産大臣および事務次官の会見、また国土交通大臣の会見の概要が、それぞれ農林水産省HPおよび国土交通省HPより確認できる。
考川辺川ダム(熊本日日新聞社)
農林水産省大臣等記者会見
1. 亀井農林水産大臣5月16日記者会見概要
2. 同19日会見概要
3. 同20日会見概要
4. 渡辺農林水産事務次官記者会見概要
5. 同19日会見概要
6. 同22日会見概要
国土交通大臣会見
1. 扇国土交通大臣5月16日記者会見概要
2. 同20日記者会見概要
川辺川ダム本体事業(場所や目的、環境調査報告や事業進捗などについて)
【4】自然再生推進法と、同基本方針
【自然再生推進法】
過去に損なわれた自然環境を取り戻すため、行政機関、地域住民、NPO、専門家等多様な主体の参加により行われる自然環境の保全、再生、創出等の自然再生事業を推進するため、2002年12月議員立法により制定された法律。所管は環境省、農林水産省、国土交通省。
自然再生の基本理念として多様な主体の連携、科学的知見やモニタリングの必要性、自然環境学習の場としての活用等が定められており、また、自然再生を総合的に推進するため「自然再生基本方針」を定めることとされている。この他、自然再生事業の実施にあたっては、関係する各主体を構成員とする「自然再生協議会」を設置することや「自然再生事業実施計画」を事業主体が作成すること等が定められている。

【自然再生基本方針】
「自然再生推進法」第7条に基づき自然再生を総合的に推進するための基本的事項を定めたもの。環境省が、広く一般の意見を聞きながら農林水産省、国土交通省と協議して案を作成し、2003年3月閣議決定された。
基本方針においては、自然再生の推進に関する基本的な方向として、(1)過去の社会経済活動により損なわれた自然環境を取り戻すこと、(2)地域に固有の自然環境の再生を目指すため、地域の自主性を尊重しつつ地域の多様な主体の参加・連携を図ること、(3)科学的知見に基づき、長期的視点で順応的に取り組むこと、を定めている。また、「自然再生協議会」の設置・運営、「自然再生事業実施計画」の策定等、法に基づく手続き等について基本的事項を定めている。
環境省自然環境局 自然再生推進法のページ
【5】釧路湿原・四万十川 自然再生事業
自然再生事業について(環境省生物多様性センターHP)
国土交通省の自然再生事業
釧路湿原における自然再生事業
国土交通省 四国地方整備局・中村河川国道事務所 河川事業の概要
四万十川再生協議会
【6】環境教育法案
いわゆる「環境教育法(案)」については、与党三党と、民主党がそれぞれ独立した動きとして、法案や骨子を作成し、議員立法による法制化をめざしている。
1. 与党三党では、『環境教育推進に関する小委員会』(委員長・鈴木恒夫衆院議員)が設置され、検討・調整がされている。
2. 民主党では、平成14年9月に骨子案がまとめられ、明けて2月19日に民主党内で承認され、同時に第156回国会議案として受理されている。
「環境保全の普及及びこのための環境教育の振興に関する法律案」(仮称)骨子
民主党「環境教育振興法案」
第156回国会議案 参第七号「環境教育振興法案」

これらの背景として、以下の関連や影響が伺える。
● NPO法人環境文明21内「環境教育部会」が平成14年5月に法案の骨子案を提案。同年8月には関係者等に呼びかけて「環境教育・環境学習推進法をつくろう!推進協議会」(会長・愛知和男元環境庁長官)が組織され、議員への働きかけなど積極的なロビイングがされてきた。
「持続可能な社会のための環境教育・環境学習推進法案」の骨子案
● 環境省では、環境保全活動の活性化や底上げの方策に関して、環境大臣から中央環境審議会に対して平成14年4月に諮問され、同年12月に中間答申が公表された。この中では、環境教育を環境保全活動推進のための方策と位置づけている。
中間答申「環境保全活動の活性化方策について」
● また直接的な連動・関連はないものの、ヨハネスブルク・サミットにおいて日本政府が提案し、国連で採決された「国連・持続可能な開発のための教育の10年」推進に向け、国内法整備や国際社会への発意等も指摘される。 (外務省HP)
「『国連持続可能な開発のための教育の10年』に関する決議案の国連総会における採択について」
● 一方、サミットに向けて「持続可能な開発のための教育の10年」の提言とりまとめに関わってきた市民セクターでは、環境だけでなく、開発、人権、平和など社会的課題に関する教育に取り組む団体・個人の交流や意見交換を促進するための新たなネットワーク設立の動きも見られる。
「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議(ESD-J)設立について
参考:フォーラム「環境教育推進法を考えよう!」
こうした環境教育を巡る立法化の動きに対して、どのような考えの下に、どのような人たちによって、どのようなプロセスで進められているのかを明らかにし、公開で議論を進めていこうと、環境教育に携わってきた研究者・実践者を中心に呼びかけられ、2003年4月に立ち上がったもの。これまで東京で、2回の集会が開催されている。
フォーラム「環境教育推進法を考えよう!」

(参考:南九研時報27号、39号)

(2003年5月1日、文:久野武)