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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.080

Issued: 2009.09.11

第80講 政権交代と環境政策

目次
衆院選―民主党圧勝、自民党惨敗
小選挙区制のマジック
「官僚主導政治」とはなにか?
官僚主導の限界―縦割りとボトムアップ
予算編成と官僚主導
誰のための政治か ─ダブルシンクの怪と天下り
民主党政権は官僚主導政治を打破できるか ─国家戦略局構想
政権移行期間の課題―マニフェストをどうするか
予算編成は可能か ─財源論の陥穽
ムダな仕事、マイナスの仕事
政権交代と環境政策
自民党の再生は可能か
新型インフルエンザ蔓延
夏の終わりの余談

衆院選―民主党圧勝、自民党惨敗

Aさんセンセイ、山が動きました! ついに政権交代が実現することになりました。

H教授うん、すごかったねえ。郵政選挙のちょうど裏返し、いやそれ以上だった。下馬評どおり民主は過半数をはるかに越える300議席超えの圧勝で、社民・国民新党を合わせるとほぼ議席数の3分の2だ。
逆に自公は壊滅的な敗北。派閥の領袖、現職閣僚や党三役も、小選挙区では無名の刺客相手にぼろぼろと落ちていき、まるで無血革命が起きたかのようだったね。
真夜中までテレビをみていて、すっかり寝不足になっちゃったよ。
それにしても小沢サンの辣腕ぶりは聞きしにまさるものがあるねえ。

Aさん森サン、福田サンはなんとか踏ん張って低空飛行で当選しましたが、海部サンはあえなく落選。それに公明党は党首や幹事長までが落選してしまいました。

H教授小泉チルドレンがほぼ姿を消し、小沢ガールズをはじめとする小沢チルドレンがどっと出てきた。議員の平均年齢も52歳だって。昔だったら、ボクぐらいの年齢だと政治家の間ではハナ垂れ小僧扱いだったけど、もうそういう時代は終わり、世代交代は一段と進んだようだな。あ、自民党は小泉チルドレンの大量落選で、そうでもないか。


小選挙区制のマジック

Aさんなんでこうなったんですかねえ。

H教授その前に議席数に比例するほど、票差はあいてないことを確認しておこう。要は10人のうち2人が、自民党政治に愛想をつかし、受け皿として民主党に投票したんだ。つまり自民党に投票した人と民主党に投票した人の比が6:4から4:6になった。

Aさんえ? たった2人?。

H教授うん、10人中の比率だけどね。ただ、これが小選挙区制の恐ろしいところだ。前回の衆院選ではコイズミフィーバーで自民圧勝。その2年後の参院戦では民主党が勝利して、野党連合で過半数を獲得。今回はその流れがもっと大きくなったというわけだ。

Aさん10人中2人が自民党を見放したわけはなんですか。


「官僚主導政治」とはなにか?

H教授麻生サンは「責任力」と言ったけど、選挙の洗礼を受けずに安倍、福田、麻生とコロコロ政権が変わったんだぜ、それで「責任力」ったって、まるでマンガじゃないか。
格差が拡大し、リーマン破綻以降の未曾有の不況の中で、もう自民党の個々の政策というより、「自民党的な政治」そのものに見切りがつけられたんだろう。

Aさん民主党が言う「官僚主導政治」ですね。でも、官僚主導政治ってなんのことだかよくわからないわ。


H教授例えば法律を作るのは立法、つまり政治家の役割のはずだけど、実際は政府提案、つまり役所が法案を作って国会に提出することがほとんどだ。

Aさんでも議員立法というのもあるじゃないですか。

H教授あれだって、実は黒子の省庁がいることがほとんどだ。ま、米国なんかとはそもそも議員のスタッフの数が違うんだから、しょうがない面もあるんだけどね。

Aさん確かに法案を一から書き上げるのは無理かもしれませんけど、骨子だけでも箇条書きにして、それを役人が法案として仕上げていくっていうふうにはできないんですか。

H教授だから、それを民主党はやろうとしているんだろう。

Aさんこれまでだって、やろうと思えばできたんじゃないんですか。


官僚主導の限界―縦割りとボトムアップ

H教授日本の場合、中央官庁での仕事のやり方は基本的にボトムアップなんだ。所掌業務の改善にしても、新たな施策立案にしても、予算要求にしても、自分たちでまず考えるところからスタートする。
さまざまな業務の分担は省庁部局から課室係まで細分されていて、もっとも下のレベルは「係」。国の場合は、課長補佐がいっぱいいて、それぞれがひとつの係をみるということが多い。つまり課長補佐―係長―係員の3,4人が一つのチームを作って、一定の業務を分担しているし、そのチームの予算というのを持っている。これが仕事の最小単位といっていいだろう。
ここが、ルーチンの仕事をこなしつつ、必要と思われる施策について新たなアイデアを考えるんだ。「事務連絡」や「通知」といったチーム限りでできるものから、法律改正や新法のような上の了解や他省庁との調整を必要とするものまでいろんなレベルのものがあるが、基本的にはこのチームが考え、ボトムアップしていくんだ。


Aさん上司とか政治家から“これこれこのような法律をつくれ”というような指示はないんですか。

H教授ぼくの知っている限りではなかった。あったとしても抽象的なものだったり、スポットだけだったりして、体系だったものはまずないと思う。
だって、自分の抱えている分野の業務について限界や問題点を一番わかっているのはやはりこの一番下の「チーム」なんだもん。
「なんか法律改正のタマはないか」としょっちゅうせっつく上司はいたけどね。

Aさん聞いている限りでは、それが「官僚主導」ということで、打破しなければいけないことだとは思えないんですが。むしろ役人にやる気がある証拠じゃないですか。


H教授そりゃそうなんだけど、大きな施策を打ち出そうとすると、日本の場合、極端な縦割りの世界だから、たいてい別のチームの業務とぶつかって厄介な調整をしなければならない。
その調整もチームの仕事だけど、もろにぶつかってしまう場合、普通は断念せざるを得ない。なんとか調整がつく場合というのは、相手方の顔も一定程度立てるということだから、大胆な改革というのはできないことが多いし、そもそもがそういうシステムだと、どうせできやしないからと、自主規制しがちになってしまう。
そもそもそういう新たな施策を行ったり、それどころかその可能性を調査するための予算だって、シーリング体制の中では確保することが難しい。
つまり抜本的な改正は、現行の強固な縦割り体制の下、ボトムアップでやろうというのがもともと無理なんだ。


Aさん「シーリング体制」ってなんですか? それと、政治主導というのもあったんじゃないですか。国鉄の民営化とか、郵政の民営化…。

H教授シーリングっていうのは、"ceiling"、つまり「天井を設ける」という意味だ。概算要求で金額等に上限の基準を設定して、各省横並びで対前年度何%まで膨らませて予算要求していいかというガイドラインが示される。
政治主導は、もちろんあったさ。でもそれは一内閣でいくつかというくらい限定されたものにならざるを得なかったんだ。逆にいうと、どの内閣も政治課題としてやらねばならない政策以外は、基本的に官同士──強いて言うとそれに族議員同士──の調整に委ねていたんだ。


予算編成と官僚主導

H教授それから予算だ。予算の仕組みは以前に話したことがあるけど【1】、もう一度おさらいしておこう。
5月くらいから、それぞれの課内の係単位で、来年度予算要求のタマを考える。それを課内、局内とだんだん上に上げ、絞っていく。
一方、夏前には大蔵省──今じゃ財務省だけど──、そこから来年度予算のシーリング(概算要求基準)が示される。
そのシーリングの枠内で、8月はじめには省庁ごとの予算要求案をまとめ、与党の部会の了解をとりつけて、9月早々に財務省に提出するんだ。
そして財務省が基本的な予算編成を行い、政治家はそれにちょこっと注文をつけるだけ。

Aさんこの予算要求もボトムアップなんですね。

H教授うん、そして各課の各係すべてがなんらかの予算を持っているから、それがいわば既得権になって、あとはスジのいい世間受けしそうな新規予算をどれだけオンできるかということになる。
予算要求で重点事項というのを各省は毎年記者発表しているが、もっともらしいキャッチフレーズごとに、全予算をいくつかのグループに分けているだけなんだ。
つまりこういう縦割り体制下では、総花的にならざるを得ない。「選択と集中」なんて、夢のまた夢なんだ。

Aさんで、各省の予算要求は今年も出揃ったんですか。

H教授うん、各省とも財務省に提出したと新聞に出ていた。8月末には衆院選があって、下馬評では政権交代の可能性が強いとわかっていても、やっちゃうんだね。こういうのも官僚主導と言われる原因だろう。
9月1日に強引に発足させ、民主党を怒らせた消費者庁の方は政治主導だろうけど。
その予算なんだけど、各省、もっというと各部局、各課室、そして各係ごとのベースの予算額は決まっているし、例えば公共事業に関して言えば各省ごとのシェアもほとんど決まっていて、大きく変わることはなかった。
組織定員要求に関しても、各省ごとにスクラップアンドビルドするのが原則になっている。

Aさんつまり時代の流れに即応して変わるようなシステムじゃないんですね。

H教授うん、これが右肩上がりの時代だったら、パイの大きくなった分を時代が要求する分野に充てればよかったんだが、もう右肩上がりの時代はとうに終わったんだ。
つまり一言で言えば制度疲労を起こしていたんだけど、それを自民党政権はついに変えられなかった。


誰のための政治か ─ダブルシンクの怪と天下り

Aさんふうん、あと民主党が、官僚主導の政治というのは国民のためでなく、官僚のためにやっているんだ、天下りを見よ!なんて言ってますが、実際のところは、どうなんですか。

H教授はは、厳しいねえ。省益あって国益なしというわけだね。
あのね、役人というのは、省のため、もっというと、自分の属しているシマのために尽くすことが、国民のためにもなるんだと本気で信じることができるんだ。
この辺りの心理の機微はG・オーウェルの『1984年』を読んでみればいい。この『1984年』の「ダブルシンク ─二重思考」を地でいっているといっていいかもしれない。

Aさん『1984』ですか? 『1Q84』なら知っているんだけどなあ…。
じゃあ、天下りはどうなんですか。

H教授今まで何度か天下りに関しても話したはずだよ【2】。25年勤務50歳で大半のキャリア役人は後進に道を譲る不文律があった。そのためには天下りは不可欠だったし、人件費総体の抑制にも役立った。
それに天下りと言ったって、ぼくらレンジャーの世界では収入が下がるのが当たり前だし、自治体だって三役クラスはいざ知らず、ほとんどが収入は大幅ダウンだ。
こういう構造がここ10年すごい勢いで壊れていっているのに、今頃言われてもなあという気がする。
ついでに言っておくと、こういう天下りや談合といったシステムは、マスコミも含め、大企業もみんな同じ構造で、業界によっては今も健在だ。

Aさんそりゃあそうかもしれませんが、今だってワタリを繰り返してとんでもない高給を取っている元高級官僚がいるじゃないですか。

H教授それは事実だし、ボクだってけしからんと思うよ。でも、多分、彼らは彼らなりに「天下りすることが国民のため」と思い込んでいるんだろう。自分の大学時代の同級生で銀行の頭取になった奴より、オレの方がアタマもよかったのに、収入が少ないのはけしからん! と思い込んでいる輩もいるかもしれないぜ。
あと一つだけ言っておくといわゆる特権官僚にしても個人差が大きい。
天下り先でなんの仕事もせず、ふんぞりかえって皆の顰蹙を買うような下司もいれば、一生懸命仕事をし、分け隔てなく部下と接し、部下から慕われている人もいるんだ。


Aさんあ、そうか。大学のキョージュもそうですね。
研究にも教育にも熱心でダンディな教授もいれば、(チラッとキョージュをみて)研究業績ゼロで学生をいびるだけの、いけすかないメタボなエロ親父もいますもんね。


H教授…。

Aさんそれにそういう天下りできるような財団を作ることが、現役役人の仕事だって聞いたこともありますよ。

H教授そりゃあ、ちょっとオーバーだが、その場合でもそういう団体を作ることが、国民のためでもあると本気で思い込めるんだ。ダブルシンクの極致といっていいかもしれない。


民主党政権は官僚主導政治を打破できるか ─国家戦略局構想

Aさんじゃあ、民主党はその何十年と続いてきたシステムをガラッと変えるというんですね。どういうふうにするんですか。

H教授政府に100人の政治家を送り込むと言っているけど、今だって6〜70人送っているはずだから、数の問題じゃないと思う。
各省の大臣というのは内閣の方針をその省で徹底させるために就いたはずなんだけど、実際には内閣の方針というのがこれまでは曖昧模糊としていたから、役人のご進講を受けて、その省の省益の代弁者となってしまっていたんだ。

Aさんつまり内閣の方針というのを、きちんと作っておかなきゃいけないということですね。あと、事務次官会議を廃止すると新聞に出てましたが。

H教授まあ、廃止したっていいけど、ほとんど意味がないと思うな。

Aさんどうしてですか。

H教授だって、事務次官会議自体が、各省間の調整が終わった案件しか扱わないんだもん。


Aさんえ? 調整をする場じゃないんですか。

H教授だから日本はボトムアップの文化なんだってば。調整は下々の方でやるんだ。調整がつかなかった案件は、いつまで経ったって陽の目を見ない。それこそコイズミさんのような<変人>が介入しない限りは。

Aさんじゃあ、やはり本丸はさっき言った「内閣の方針」を具現化することと、首相直属の「国家戦略局」なんですね。ここで予算や政策の骨格をつくり、その具体化を各省にやらせるというわけだ。その構成はどうするんですか。

H教授さあなあ。政治家に民間のシンクタンク、NGO、学者…。役人もある程度入れなきゃあ仕事は進まないと思うが、その場合は出身省庁の省益の代弁者にならないよう、片道キップで来させるなどの工夫が必要だろう。問題はトップに誰を据えるかだね。
実は自公政権だって、近年は経済財政諮問会議を設けたりして、予算編成の方針を出していたりするんだけど、結局のところ事務局が原案を作っちゃうから、やはり官僚主導と言われても仕方がなかったんだ。
事務局に原案を作らせない予算、政策の骨格作りが果たして可能かどうかが問われていると言っていいだろう。


政権移行期間の課題―マニフェストをどうするか

Aさんでもうまくいくのかしら。今後のスケジュールはどうなっているんですか。

H教授首班指名は9月16日。それまでにやることは、社民党・国民新党との連立協議だ。

Aさん民主党は単独過半数だったんでしょう。なぜ連立内閣を目指すんですか。

H教授参院は民主だけでは過半数に届かない。連立を組んでおかないと安定的な政権運営ができないんだ。ここで政策協議をやるんだけど、同時にもう一方で、まずマニフェストをどうするかの方針を固めておくことだと思う。

Aさんどうするかって国民との約束なんだから、やらなきゃいけないに決まっているでしょう。あ、そうか、財源がないんですね。

H教授それ以前に、あのマニフェストにはバラマキみたいなのがいっぱいあったり、他の政策と整合性がとれていないものだとか、いろいろ問題がある。
新聞で読んだんだけど、新聞社の世論調査では、目玉の「子ども手当て」にしたって「高速道路無料化」にしたって、おかしいと思っている人がいっぱいいるそうだ。民主党に投票した人でも、前者で賛成43%、反対37%と拮抗しているし、後者なんかだと賛成が27%なのに対して反対が56%にも達している。
つまり、民主党の政策に賛成したから投票したんじゃなくて、とにかく政権交代を望んだんだと言えるだろう。
だったら、マニフェストの修正をやったっておかしくないだろう。

Aさんダメです。それは選挙民への裏切りです。ま、財源的にできないんだったら仕方がないけど。


H教授(苦笑して)わかった、わかった。だったら、一応、マニフェストを予算に落とし込むことを最優先に考えるとしよう。
それの具体化のためにも国家戦略局が必要になる。
ただ、国家戦略局を作るには法律改正が必要だから、とりあえず規則レベルで設置が可能な「国家戦略室」を立ち上げることとして、そのための組織の構想を今から考えておかなきゃいけない。
一方、すでに出されている各省の来年度予算要求を白紙に戻してやりなおさせること、また、成立した補正予算だって、執行を相当部分凍結して組み替える方針を明らかにしなければいけないだろう。でなければ財源だってどうにもならない。
すでに例の“国営マンガ喫茶”【3】は凍結・廃止する方針のようだし、不要不急とみなした1兆円の基金も凍結・廃止するとのことだ。


予算編成は可能か ─財源論の陥穽

Aさんでもそれだと年内予算編成は難しいんじゃないですか。
混乱を防ぐためにもとりあえず一年間は従来路線で行って、その間にじっくりとマニフェスト実行の準備を進めたらいいんじゃないかしら。

H教授だってマニフェストには来年度から実施と書いてあるんだぜ。それに来年夏には参院選がある。だから、マニフェストで掲げたことは、強引にでもそれまでに実施に移さなければ、政権が持たなくなる可能性だってある。

Aさんでも国家戦略室で予算編成の骨格がすぐにできるのかしら。仮にできたとしても、各省がそれを踏まえて予算要求の作業をするなんて時間的に不可能じゃないですか。
サボタージュだってするかもしれないし。


H教授これだけ選挙で大勝すればサボタージュはないだろう。
すでにマニフェストが出されているんだ。ま、ボク自身はこのマニフェストにはさっき言ったように、不満は山ほどあるし、そもそも現実的に可能な20年先30年先のシビアなビジョンをまず作るべきだと思うんだけど【4】、それはさておいて、マニフェストをブレークダウンして予算の骨格をつくればいいんだから、それほど難しくはないと思う。各省の方だって、もう内々には作業を始めていると思うよ。

Aさんそんなこと言ったって、財源はどうするんですか。

H教授マニフェストの実現のために来年度に必要な予算は、とりあえずは7兆円ほどだそうだ。
義務的経費以外の予算をいったんチャラにしたら、7兆円ぐらいは簡単に出てくると思うよ。

Aさんじゃあ、問題はないというんですか。

H教授そんなことはないさ。もしそういう風にチャラにされたら、仕事も予算もなくなってしまう組織が──大は省庁まるごとから、小は一つの係まで──いっぱい出てくるし、そういうところは、それをチャラにすることが、どういう大きな弊害になるかを必死になって訴えると思うよ。
そうしたものを全部却下すれば、役人の意欲は一気に失われかねない。それで生活している企業や団体も多いし、実際に国民生活に欠かせない予算だってあるだろうから、そう簡単にチャラにできないだろう。
これをどう捌くか、捌けるかだ。


ムダな仕事、マイナスの仕事

Aさん天下り役人のために、十数兆円の予算を支出しているなんて民主党は言ってますけど、どうなんでしょうか。

H教授それはあまりにもオーバーで、ためにする物言いだ。
もともと必要な仕事をさせるためにつくった団体で、民間にやらせればかえって高くつくケースだっていっぱいある。
ムダ遣いなんていうけど、まったくのムダ遣いなんてのは、天下り役人のうちでカスのような連中の人件費分くらいだと思うよ。

Aさんえ? ムダ遣いがいっぱいあるんじゃないですか。

H教授優先順位が低い仕事や、マイナスになる仕事はいっぱいあるだろう。だけど100%ムダな仕事なんてあるわけがない。

Aさんなんですって! 「マイナスな仕事」って、ムダな仕事に決まっているじゃないですか。


H教授必ずしもそうとは言えない。例えば、泡瀬干潟の埋立【5】は、トータルではものすごくマイナスな事業だと思うけど、微視的にみれば地域の雇用を生み出したり、隣接する港の浚渫土砂の処理に役立ったりということはある。その意味では、まったくムダな仕事というわけでもないだろうし、まったく無駄な仕事というのもないといえる。


Aさんなんか屁理屈みたいですね…。まあじゃあそれはそういうことにして、まずはまったくムダではないけれど、トータルでマイナスな事業はやめなきゃいけないということですかね。

H教授うん、例えば八ツ場ダムとか川辺川ダム【6】、泡瀬干潟埋立というのが典型だと思う。ただ、その一方で、地方分権とか地方主権とかいうのが流行になっている。

Aさんそれがどうかしたんですか。

H教授例えば、泡瀬干潟埋立は、民主党中央では一期工事は中断、二期は廃止と言っているが、そこの首長も、今回当選した当該選挙区の民主党の議員も一期は推進と言っている。
八ツ場ダムだって、当初猛反対した地元も今となっては推進を言っているし、首長もそう言っている。こういうのをどう捌くか、捌けるかだ。
淀川水系4ダム【7】だってそうだ。


政権交代と環境政策

Aさんセンセイ、もう予定の時間の半分を過ぎています。政権交代と環境政策との関連に絞りましょう。

H教授まずやることは、ポスト京都の2020年中期目標で、対90年比25%削減という方針を閣議決定することだろう。そしてそのバックになる「エネルギー需給見通し」を全面改正することを宣言する。
ガソリンの暫定税率廃止【8】だとか、高速道路無料化【9】だとか、低炭素化社会づくりに逆行するようなとんでもないことを、民主党はマニフェストに掲げてしまった。
これはやめるべきだと思うけど、国民との約束でどうしても守らねばならないというのなら、それを補ってあまりあるような、対90年比25%カットを可能にするだけの環境税というか温暖化対策税と、厳しいキャップをかぶせた国内排出量取引制度の即時導入と、自然エネルギー固定価格買取制度の大胆な拡充が必要だろう。

AさんでもそれじゃあGDPはマイナスになってしまうんじゃないですか。雇用にだって大きく響きます。


H教授新たな政策で新たな経済的効果と雇用も生まれるだろう。それにしても、キミの言いっぷりからすると、いまだに成長神話が生き続けているんだな。
そういえば、先日、環境省は2050年にGHGを80%カットするための2つのシナリオを示した。「経済発展・技術志向」「地域重視・自然志向」の2つなんだけど、前者は成長率は年率2%、後者は1%と言っている【10】
やっぱり40年先まで延々と経済成長をつづけているというシナリオなんだよねえ。
未来永劫に成長を続けなければいけないのか、また、続けられるのか。
ボクはやはり「成長の限界」というのがあって、すでにそれに限りなく近づいているんじゃないかと思っているんだけど、民主党も含めて、やはり無限成長の呪縛に縛られているんだ。
まさにダーウィン・ディレンマ【11】だな。
先進国で必要なのはもはや成長ではなくて、安定と持続なんだ。

Aさんご荒説、伺っておきます。あとはなんかないですか。

H教授民主党自体も一枚岩じゃないし、国民新党なんかは公共事業重視派で、政策協議がきちんとできるかどうか不安なんだけど、とりあえず道路やダム、港湾などの大型公共事業はいったんストップさせて、本当に必要かどうかを一から検討しなおすことが必要だろう。
それでなくても来年は生物多様性条約COP10が日本で開催されるんだ【12】
この際、埋立などの新規の面的開発は原則禁止という方針を打ち出してもいいんじゃないか。


自民党の再生は可能か

Aさん…経済界、産業界は戦々恐々だろうなあ。
ところで自民党は今後どうなるんですかねえ。

H教授さあなあ、きちんと自分たちの敗北の原因を総括できるかどうかだよね。
コイズミ改革の評価だって、コイズミ改革自体が誤りだったとするのか、コイズミ改革それ自体は正しかったが行き過ぎの点があったとするのか、最後までコイズミ改革をやりきらなかったことがいけなかったとするのか、なんだかさっぱりわからないままだ。
それにカネの切れ目が縁の切れ目ということもある、政党交付金は大幅に減らされた上、権力を手放せば政治献金だってぐっと減ってしまうだろう。
そうなると下手すれば解党の危機だってあるんじゃないかな。
もちろん民主党の失政で、再び振り子が逆に戻る可能性だってないわけじゃあないけど。


Aさんじゃあ、とりあえずの一、二ヶ月は新政権のお手並み拝見と洒落込みますか。
ま、いずいれにしても、環境行政、環境政策にとっては大きなチャンス到来ですね。
もう時間がなくなってしまいましたけど、他の話題も簡単に触れておきましょう。


新型インフルエンザ蔓延

Aさんまずは新型インフルエンザの話題【13】です。とうとう流行し出したそうですね。

H教授すでに日本でも世界でも流行期に入っていて、9月末、つまり新政権発足直後にピークに達するなんて話もある。致死率も従来の季節性インフルエンザよりも高そうだし、ワクチンはまったく不足している。こういうことこそ新旧両政権が協力して被害を最小限に食い止めるよう努力すべきだろうねえ。

Aさんお年寄りは免疫ができていて罹らないという話もありましたが、どうやらガセだったようで、もうすでにお年寄りにも死者が出ています。センセイも気をつけてくださいね。


夏の終わりの余談

Aさんそれから、この夏、センセイの好きそうな世間を賑わせた話題としては、酒井法子の覚醒剤事件があります。センセイ、一時このニュースばっかり追っかけてたでしょう。ファンだったんですか。

H教授ボクはのりPより大原麗子の方が好みだったよ。それにしても、あの大原麗子があんな無残な死に方をするなんてなあ…。
のりPの方は、気分転換に、2ちゃんねるで幸福実現党についての書き込みと併せて見ていただけだ。でも、のりPよりも押尾学の事件の方が死者も出ているし、政官界とも関係ありそうで、もっと闇が深いと思うんだけど、のりP一色なのは腑に落ちないなあ。なんか作為を感じないか。

Aさんそういうのを陰謀史観というんです。
それからもう一つセンセイ向きの話題がありました。ミスユニバース日本代表の宮坂絵美里サンの、奇抜で破天荒というか、破廉恥な着物のデザインに非難が殺到しました。

H教授ウフフ、ぼくは涎を垂らしたけどねえ。


Aさんほんと、センセイったら品がないんだから。
楽しい話題もひとつくらいないですか。

H教授いっぱいあるぜ、ウサイン・ボルトの陸上100メートル、200メートルの驚異的な世界新もそうだし、ウチの高等部が70年ぶりに高校野球で甲子園に出場してみごと実質的に準優勝の栄光に輝いた。

Aさんえっ、二回戦敗退でしょう。

H教授「実質的に」と言っただろう。二回戦の対戦相手が中京大中京。ここが優勝したんだけど、ここと大接戦したのはウチの高等部だけだから準優勝みたいなものだ。

Aさんばっかばかしい。そういうのを詭弁というんです。
さあ、ぼちぼち終わりましょうか。


H教授あ、ひとつだけ前講の修正をしておこう。読者から指摘があったんだけど、土砂災害警戒区域は法定の地域指定じゃない【14】と言ったのは誤りだった。土砂災害防止法に規定があって、周知の徹底や警戒態勢の整備が行われることになっているし、不動産取引でも告知の義務があるそうだ。
土砂災害防止法自体、できてまだ10年の法律で、ボクが家を買ったときにはなかったんだよ。

Aさん情けない。結果的に読者をだますことになるんですよ。そんなのヤフーか何かで調べればすぐわかることでしょう。

H教授申し訳ない。ただ豪雨災害だったから…、

Aさんそれがどうかしたんですか。


H教授…「上手の手から水が漏れた」んだ。

Aさん??(意味が分からずキョトンとしている)


注釈

【1】予算の仕組み
第19講「環境役人生態学―休暇考」
【2】天下りについて
第53講「談合と天下り余聞」
第45講「25年50歳体制の崩壊」
【3】例の“国営マンガ喫茶”
第77講「補正予算とキョージュのマンガ論」
【4】20〜30年先のシビアなビジョン
第79講「…日本社会の現実性のある長期ビジョンをつくること…」
【5】泡瀬干潟の埋立
第71講「「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決」
【6】川辺川ダム
第69講「脱ダムの流れ本格化 ―川辺川、淀川水系」
第5講「川辺川ダム高裁判決」
【7】淀川水系4ダム
第71講「追い詰められる国交省 ──大戸川ダムと道路整備中期計画」
第69講「脱ダムの流れ本格化 ―川辺川、淀川水系」
【8】ガソリン暫定税率廃止
第62講「山場に来たガソリン暫定税率延長問題」
第61講「ガソリン税暫定税率延長をめぐる混迷」
【9】高速道路無料化
第79講「自公政権の落日―新たな政策形成回路創出に向けて」
【10】2050年 GHG80%削減のための2つのシナリオ
「温室効果ガス 2050年80%削減のためのビジョン」(平成21年8月14日)(PDF)
【11】ダーウィン・ディレンマ
第70講「ヒトは「ダーウィン・ディレンマ」を超えられるか」
【12】生物多様性条約COP10
第57講「第三次生物多様性国家戦略案まとまる」
【13】新型インフルエンザの流行
第77講「新型インフルエンザ論」
第76講「鳥インフルから豚インフル」
【14】前講の訂正(土砂災害警戒区域について)
第79講「西日本を豪雨襲撃」

(平成21年9月3日執筆、同年9月4日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。