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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.064

Issued: 2008.05.15

第64講 エコツーリズム推進法と小笠原

目次
福田内閣低空飛行
道路特定財源の一般財源化で変わること変わらないこと
暴走?する橋下サン
米国の新GHG総量目標発表
生物多様性基本法の動き
エコツー法と特定自然観光資源
小笠原の旅

福田内閣低空飛行

Aさんセンセイ、ガソリン代が下がったかと思ったら、5月になった瞬間、GWのど真ん中だというのに、ぽーんと上がっちゃいました。一体、政府は何をやってるんでしょうね。
後期高齢者医療保険の問題でも世間から総スカンを食らっちゃってるでしょう。
だから、先月末の山口補選でも自民党は惨敗を喫しちゃったし、世論調査でも福田内閣の支持率は2割を切りそうな低空飛行。このままじゃ、福田内閣は洞爺湖サミットまでもたないんじゃないですか。

H教授うーん、忍の一字で乗り越えようとするんじゃないかな。第一、福田サンに代わるタマがないだろう。
ボクは、安倍サンやコイズミさんより、よくやってると思うし、福田サンに対して好感を持ってるだけに、この低人気ぶりはちょっと残念だなあ。

Aさんよく、やってる??

H教授そうだよ。そもそも後期高齢者医療保険の問題は、福田内閣になって決めたわけじゃない。
道路特定財源の一般財源化問題については、コイズミさんも安部さんも何もできなかったというのに、与野党のねじれを利用して、一般財源化に大きく歩を進めたじゃないか。
それに気候変動問題では、国内排出量取引制度導入の方向に舵を切ったし【1】、国別総量目標についても洞爺湖サミットまでに決めると明言した【2】。セクター別アプローチについてはEU、米国それに中国まで、一定の評価を得られるようになったのも、福田サンの功績だと思うよ。
もっともセクター別アプローチはいろんな側面があって、自国に都合のいい側面だけをみて評価したというのが真相だろうし、前講でも言ったようにセクター別アプローチだけじゃダメだ、というのがボクの評価だけどね【3】

Aさんでも、道路特定財源については、この時評がアップされる頃には特例法も再可決して、法律上は10年間の道路整備計画と道路特定財源制度の維持が決まっちゃうんでしょう【4】
それでもって来年度から道路整備計画を見直し、一般財源化するなんて、どう考えてもヘンじゃないですか。


H教授うん、だからホントにそんなことできるのかって疑心暗鬼になる人もいるだろうし、道路特定財源制度の維持に巻き返しを図る連中もたくさんいると思うよ。
だけど福田サン自身の一般財源化という方針は本気だと思うよ。だからもう一歩進めて、環境税創設を言ってくれればと思うんだけどねえ。

Aさんそんな無茶な。これだけ不人気なのに増税なんて言い出せるわけないじゃないですか。

H教授減税部分を振り替えることだって考えられるし、既存税を模様替えするだけで増税しなくても財源をつくることは可能だ。要はガラポンすればいいんだ。
暫定税率の部分は目的税として環境税というか温暖化対策税の一部にする。あと自動車・道路関連以外の化石燃料にも課税すればいい。とはいっても化石燃料には、エネルギー関連の税がかかっているから、これの大半を環境税に切り替えるだけで済ませるという考え方もできる。

Aさんじゃあ、「減税部分」っていうのは?

H教授今だってグリーン税制で、ある程度は自動車の排気量に応じた課税がされているけど、それをもっと徹底してやるんだ。
だいたい、普段は一人でしか乗らないというのに、2,500ccだとか3,000ccだとかいった、でっかくて立派なクルマに乗っている人って、結構いるよなあ。何を考えているんだろうって思うよ。


Aさんセンセイのクルマはあまりにもオンボロすぎます。それにセンセイのクルマが小っちゃいのは、小回りが利いて鉱物採集で山に行くのに便利だからでしょう。

H教授(無視して)例えば、自転車は、消費税も非課税。軽自動車やコンパクトカーは現状程度の課税でよいけど、大型の乗用車は大幅に税金を重くして、都心へのクルマの乗り入れにも課税する。一方で、公共交通機関用の燃料や電気料金は非課税にする──なんて具合に、アイデアはいくらでもあると思うよ。
どうせ不人気なんだから、もっと思い切った政策提言を国の内外にすればいいんだ。

Aさんうーん、また暴論を。
…読者のみなさん、センセイは経済学オンチですから、マジに受け取らないでくださいね。

H教授うるさい。ま、いずれにしても今後の環境問題の焦点は洞爺湖サミットを控えて、温暖化対策になると思うけど、道路特定財源の一般財源化問題や、あと国際的に問題になっている食料危機の環境問題への影響についても目を離さないことだ。



道路特定財源の一般財源化で変わること変わらないこと

Aさんところで、道路特定財源を一般財源化したところで、現状から大きく変わると思いますか?
一般財源化した税収を、国税じゃなくて地方税にして、使途を自治体に任せない限り、財務省の査定で大半が従来どおりの道路整備になる可能性だってあるんじゃないですか。

H教授おっ、いいところを突くねえ。このままいけばキミの言う通りになってしまい、財務省の力が増すばかりだろう。
ただねえ、今だって一部は地方税になっているけど、全額地方税化は不可能だと思うよ。そんなことしちゃえば、都市と地方の格差は広がるばかりだ。だから国税中心にした上で、一定の計算式で地方に手厚く配分できるように、交付税として再配分した方がいいと思うな。
ただ、地方が本当にそれを望んでいるかどうかだ。

Aさんそんなもの望んでいるに決まっているじゃないですか。現在の特定財源制度だと国土交通省、一般財源化しちゃうと財務省が一方的に決めちゃうんでしょう。

H教授そうとも言えないんじゃないかあ。
現在でも、府県別の割り当ての予算はおおよそ決まっている。国土交通省だって、補助金のみならず直轄施行分も含めて、府県の要望の優先順位を勘案して割り振っていると思うよ。
府県には市町村から要望がいっぱいあがってくる。その中でどう考えてもムリな要望だと思っても、市町村に対して「ムリだ」とは言わずに、優先順位こそ低くするものの、一応は国土交通省に要望するんじゃないかな。そして、「国土交通省がウンと言わなかったから」ってあきらめさせる。つまり、国土交通省を悪者にしちゃうことが結構あるんじゃないかって思うな。
同じように、市町村だって市町村内のいろんな地域からのムリな陳情に対して、「ムリだ」とはっきり言わずに、優先順位を低くして県に要望を出す。そして、「県(あるいは国土交通省)がカネをつけてくれなかった」って言ってあきらめさせる。つまり、県や国を悪者にしている面があると思うよ。
市町村は市町村なりに、また都道府県は都道府県なりに、内々の優先順位を決めていて、市町村は県に、県は国土交通省に要望していると思うけど、その優先順位は公表しないのが普通だからなあ。
真の地方分権とは、国を悪者にしたりせず、自らが責任を負うということなんだ。これは結構キツイものがあると思うよ。


Aさんじゃあ、道路と福祉と教育と、といった予算の配分なんて、どうしているんですか。

H教授国の場合、各省が予算要求を出して、財務省が査定する。県の方は各課が要求を出して財政課が一次査定を行う。
とはいっても、そもそも要求段階でシーリングがかかるから、青天井で予算要求ができるわけじゃなく、基本的にはドラスティックな割り振りの変更はない。ただ自治体の場合は首長が覚悟を決めれば、ドラスティックな変更も可能だ。
あと、国の場合も自治体の場合も、査定案に対してどちらも復活折衝がある。ただ──今は知らないけど──、ボクの現役のころはそれも99.9%は筋書きの決まった猿芝居だった。

Aさんじゃあ、国も県も予算案の決定の仕方はまったく同じなんですか。

H教授違う点といえば、国の方は各省が要求案を出した時点で世間にオープンにするけど、県の方はそれもオープンにしないのが一般的だ。だからボクが県にいたときには、県会の委員会やマスコミに、「要求したけど財政課が認めてくれなかった」という台詞を言わせてくれなかったのが口惜しかった。
国の場合は各省と財務省、県の場合は各課と財政課の折衝や査定過程をオープンにしたら、随分変わると思うよ。鳥取県などではすでにそういう取り組みを始めているらしい【5】


暴走?する橋下サン

Aさんそういえば大阪府も1100億円カットという改革プロジェクトチーム(PT)案を公表し、各課とPTのやりとりや知事と市町村長とのやりとりまで、オープンにしているそうですね【6】

H教授橋下サンのやっていることで、唯一評価できることだね。

Aさん“唯一”? ひゃあ、これは点が辛いですね。

H教授今のところは拍手喝采、圧倒的な支持率みたいだけど、それは現時点で総論しか言っていないからだ。あの路線がもたらす激烈な痛みが府民には実感できていないんだろうし、一方で、テレビ受けするパフォーマンスが好感を与えているんだと思うよ。
やがて各論に入って予算編成にとりかかるけど、あのPT案通り、強引に1100億円カットを断行しちゃえば、「手術は成功したけど、患者は死んだ」ってことになりかねず、ブーイングの嵐の中で失速するんじゃないかなあ。
府財政は好転したけど、傘下の市町村が次々と夕張のようになっちゃったら、どうしようもないだろう。

Aさんでも財政再建しなければいけないことは確かでしょう。

H教授そりゃあそうだ。だけど、ただカットするだけじゃあ、だめだよ。
例えば、既存のある事業について、それと同等の効果を生む、もっと安価なやり方のアイデアを全庁的に募集すればいいだろう。
また、ユニークで、格差拡大にはつながらない法定外目的税のような、なんとか収入を増やすようなアイデア募集だっていい。職員にやる気を出させる方法がもっとあると思うな。
そのくせ、御堂筋イルミネーション構想なんて思いつきに20億円出すって言うのは、一体なんなんだ。
それから、今まで何度も話題にした淀川水系【7】の話だけど、3800億円かけて4ダムを建設するという国土交通省近畿地方整備局の河川整備計画原案に対し、同局の諮問機関である淀川水系流域委員会が「ダム建設は不適当」って意見書を出した。4ダムの建設費については、地元負担もあり、その額は大阪府では400億円だという試算もある。
新聞報道では、橋下サンは費用対効果と「わかりやすい説明」を同局に注文しただけだ。
今じゃあ、利水と言ったって水は余っているし、治水の方は総合治水という考え方が世界的な主流だ【8】。しかも流域委員会の委員長はウラのウラまで知り尽くした淀川工事事務所長だった元技官のMさんだ。どう考えても流域委員会に軍配があがるだろう。
橋下サンは「冗談じゃあない」って、どうして即座に蹴飛ばさなかったんだろう。

Aさんまあ、最後には蹴飛ばすことになるんじゃないですか。

H教授でも、マスコミも随分と橋下サンを持ち上げてるよね。これこそダブルスタンダードだ。

Aさんえ? どうしてですか。


H教授橋下サンは公務員の給料は高すぎるなんて言って、府民のルサンチマンにおもねっている。
だけど、よく考えてみろよ。橋下サン自身は公務員としての最高収入を得ながら、タレント活動をやめてはいないんだ。
太田サンは90万円の講演料で散々マスコミから叩かれたのに、橋下サンの公務外でのもっと高い収入に対して一言もクレームをつけないというのは、明らかにダブルスタンダードじゃないか。
H流フィフティ・フィフティ【9】ぐらい主張したっていいと思うけどね。
大体、大阪府は人事委員会勧告を無視して給料を抑制してきたんだ。府下の自治体だってそうだ。それでも人件費が高いと言う橋下サンを無責任に持ち上げるマスコミの連中は、府の職員よりもはるかに高給とりなんだぜ、まったく。
…もうやめよう、この話は!


米国の新GHG総量目標発表

Aさんはは、相当カッカきてますね。
ところでブッシュさんが米国の温暖化対策の目標を提示しましたね【10】

H教授うん、2025年にはGHGの排出量の伸びを止める、つまりあと17年間は増やし続けるって内容だね。呆れてモノがいえない。

Aさんドイツの環境相は「ネアンデルタール人の演説だ」って酷評してましたね。

H教授冗談じゃない。それはネアンデルタール人に対する侮辱だ。SF界最高の賞であるヒューゴー賞受賞作の「ホミニッド ─原人―」(R・ソウヤー)を読んでみろよ。

Aさんそんなペダンチックな話はどうでもいいです。
7月に洞爺湖サミットがあって、その前哨戦で、今月下旬に神戸で環境大臣会合がありますよね。それに関連して、いろんな会議やイベントが神戸で行われるんでしょうけど、可哀想に、またブッシュさんがボロカスに叩かれるんでしょうね。

H教授自業自得だろう。

Aさんところでセンセイは、環境大臣会合に関連する会議やイベントで、出番があるんですか。

H教授当然だろう。5月18日にうち大学が主催、毎日新聞、神戸新聞共催で「ポスト持続可能社会を見据えて──誰がために鐘をならすのか」というイベントに出ることになっている。滋賀県知事の嘉田(由紀子)サンと兵庫県知事の井戸(敏三)サンが対談し、そのあと、ボクを含めた4名に嘉田サンも加わって、パネルディスカッションを行うことになっているんだ。

生物多様性基本法の動き

Aさん(小さく)そうか、みんなの引き立て役になるわけね、センセイも可哀想に…。
ところで、生物多様性基本法を作るという動きがあるそうですね【11】

H教授うん、与党と民主党それぞれが検討していて、与党の法案要綱も決まり、民主党はすでに独自の法案を提出している。GW明けから一本化協議がはじまるそうだ。
政治空白とか言われているけど、これはすんなり議員立法で決まるかもしれないな。

Aさんどういう内容なんですか。

H教授基本的には基本法だから理念的なものになるんだけど、与党の要綱では生物多様性条約に基づいて閣議決定されていた生物多様性国家戦略の根拠法にするとともに、生物多様性に影響を及ぼすような開発行為に対して早期の段階からSEA、つまり戦略アセスを義務付けるらしい。
民主党案では、SEAに関しては別途法案を検討中とのことで、外しているようだ。

Aさんアセスの義務化について、規模要件も決めるんですか。

H教授いや、そこまでは要綱には書いてなかった。そもそもこの基本法でそこまで規定するのか、それとも具体的なことはアセス法改正でやろうとするのか、どういう規模要件にするのかというのは、ちょっと議論がいるような気がするけどなあ。
まあ、こういう理念法はあってもいいけど、既存の自然環境保全法だとか、アセス法との整合性を図る作業は大変だろうな。


エコツー法と特定自然観光資源

Aさんこの生物多様性基本法とも関係あるかもしれませんが、エコツーリズム推進法 …ええい、まだるっこしい、エコツー法がこの4月から施行されたそうですね。

H教授うん、第41講で取り上げたことがあったけど、結局時間切れで一年延び、昨年の6月に議員立法として成立した【12】。エコツー法とセットだろうと言った観光立国推進基本法の方は一足早く、一昨年暮れに成立したそうだ。

Aさんエコツー法案のそのときの内容と、最終的に成立した法案の内容はだいぶ変わったんですか。

H教授いや、ほとんど同じだよ。その後、施行規則が今年に入ってからパブコメを経て定められたので、細部がだいぶはっきりしてきた。
そして今年に入って、エコツー法で定められるとされた「政府の基本方針」(案)がパブコメに出され、つい先日締め切られた。

Aさんじゃ、市町村中心で関係者を集めた協議会で策定する「エコツー全体構想」を、環境省や国土交通省などの主務大臣が認定すれば、それに則って市町村が条例により「特定自然観光資源」を指定でき、いろんな規制ができるんですね。

H教授土地所有者の同意が得られればね。中でも市町村は特定自然観光資源について必要があれば立入り制限ができることが目玉といえば目玉だ。
立入り制限することにより、自然環境を保全するだけでなく、認定されたガイド付きツアーに限って立入りを認めることにより、エコツーの推進を図ろうとしているんだろう。

Aさん特定自然観光資源の規制と、自然公園など既存の規制との関係はどうなっているんですか。

H教授うーん、そこのところは釈然としないんだけど、二重規制は避けるということで、自然公園の特別保護地区原生自然環境保全地域などの厳しい規制がなされているところには、原則として指定できない。
ただ、こっからがややこしいんだけど、ただし書きもあって例外を認めている。これについては後で話そう。

Aさんじゃあ、自然公園の特別地域自然環境保全地域内での指定はOKなんですか。
それよりは厳しい規制を特定自然観光資源ではやるんですね。

H教授自然公園の特別地域や、自然環境保全地域の野生動植物保護地区では指定動植物への規制を行っているので、同じ規制はできないが、それ以外はOKということのようだ。
ただ、自然公園や自然環境保全地域内の特定自然観光資源については、厳しい規制というよりは、自然公園法や自然環境保全法での規制以外の規制、つまり横出し規制のようなイメージじゃないかな。
エコツー法では特定自然観光資源での規制自体の内容が漠然としていて、最終的には条例で決めるみたいだ。


Aさんはあ?

H教授つまり規制の具体的内容は条例で決められるんだ。
また、必要な場合には立入りについても規制できることになっていて、これがいわば目玉だ。
ところが、自然公園の特別保護地区や原生自然環境保全地域は、落葉落枝の採取のような細かい行為まで規制、つまり事実上の禁止としているんだけど、地区内や地域内への立入りまで規制していない。それを規制しているのは、自然公園の場合は利用調整地区、原生自然環境保全地域の場合は立入制限地区だけなんだ【13】

Aさんはあ、だからただし書きで例外的に自然公園の特別保護地区や原生自然環境保全地域でも「特定自然観光資源」の指定をして、立入り制限ありうべしというわけなんですね。

H教授自然公園の利用調整地区と原生自然環境保全地域の立入制限地区以外はね。

Aさんなんだかよくわからないなあ。


H教授うん、ボクも役人をやめて13年だ。法律を読まなくなって久しいから自信はないけど、ま、そういうことじゃないかな。

Aさんでも、自然保護の観点から立入り制限が必要な箇所があって、それが自然公園内にあるんなら利用調整地区に、原生自然環境保全地域内にあるんなら立入制限地区に、どんどん指定しちゃって、自然公園などの保護規制がなされていない地域に限ってエコツー法の特定自然観光資源を指定するようにすれば、もっとわかりやすくなるんじゃないですか。

H教授そりゃあそうなんだけど、ただ自然公園内で利用調整地区を指定するのは容易ではないという現実があるんだ。
現に、利用調整地区は吉野熊野国立公園の西大台ケ原しか指定できていない。
民有地なら利用調整地区の指定になかなか地権者が同意しないだろうし、国有林の場合だって、国有林当局が環境省の指定には、拒否反応を示すことが多いんだろう。

Aさんそんなの特定自然観光資源に指定しようとするときだって同じでしょう。

H教授いや、環境省が指定しようとするなら地権者は抵抗するけど、地元市町村の言うことなら同意するってことも、可能性としてはあるかもしれない。
国有林当局だって、地元とはうまくやりたいから、市町村が言い出せばうんと言うことだってあるかもしれない。
それにね、現実問題として、利用調整地区に指定した場合、環境省の地方環境事務所レンジャー事務所単独で、立入り制限のコントロールができるかっていう、マンパワーの問題だってある。

Aさんあ、そうか。数人のメンバーじゃあね。かといってバイトを大量に雇えるだけのカネがあるかってことですよね。

H教授まあ、逆に言えば、自然公園の管理に市町村を積極的にかかわらせるチャンスになるかもしれない。その場合、国立公園内であれば地方環境事務所やレンジャーが協議会の中心になり、エコツー全体構想の策定に寄与することが必要だけどね。

Aさんそううまくいくかしら。

H教授うん、心配なのは、エコツー全体構想をとりまとめるのは、どこへいっても東京のコンサルだったりして、全国で金太郎飴のような同じ顔をした全体構想ができてしまうことだね。かつてのリゾート法の時がそうだった。そしてそれを防ぐ手立てはなさそうなんだ。

Aさんふうん、他に問題点はありますか。

H教授パブコメの形骸化だ。

Aさんは?

H教授Sさんのブログで知ったんだけど、施行規則に対するパブコメはたったの二通だけで、うち一通がSさんだったそうだ。
しかも施行規則案にはパブコメ募集があったけど、おおもとのエコツー法案そのものには、議員立法だからという理由でパブコメ募集がなかったそうだ。

Aさん別にエコツー法に限らず、動物愛護法のときもそうだったですねえ。
パブコメ自体のPR不足ですか。だったら、公共放送でパブコメ募集の時間を設けて、人気アイドルがその趣旨説明をわかりやすくするとか、すればいいんじゃないですか。

H教授PR不足は確かだ。ボクだって知らなかったんだから。
でもそれだけじゃあない。パブコメをフィードバックする仕組みがないことが問題なんだ。だったらパブコメなんてするだけ時間のムダってことじゃないか。
結局のところは、施政者がパブコメを真剣に考えていないということじゃないかな。
いろんな法案は、たいがい、そのもとになる審議会などの答申があり、答申案ができた時点でパブコメにかけられることが多い。だけど、そうじゃなく、答申案についていろいろ議論している段階でパブコメを常時求め、それを審議に組み込むようなことが必要じゃないかな。


Aさんあ、センセイ、まったく同じことを前に言ってましたよ【14】

H教授え? そうだっけ、覚えてないな。

Aさんやだ、やだ。老化現象進行中。

H教授う、うるさい。
エコツーは地域の活性化を図るというんだけど、現実にはエコツー業者だけが儲けて、それを地域に還元しないという批判があるそうだ。
税収という形で間接的には貢献しているんだろうけど、エコツーの推進がかえって地域コミュニティを分断させる恐れがなきにしもあらずだ。
だから真っ向から、エコツー法そのものに反対する人もいる【15】

Aさんま、地元にとってと、旅行者にとってと、事業者にとってとで、エコツーの持つ意味はまるっきり違うでしょうからね。センセイ自身は旅行者として「エコツー」をどう思われますか。


小笠原の旅

H教授え、ボク? 50年間、自然、つまり鉱物を学び、鉱物から学ぶ、という意味での究極のエコツーを、ひとりで、あるいは仲間と実践してきたと思ってるよ。
家族サービスだとか、石仲間以外との旅行のときは、ガイド付きツアーもいいけどね。
先日の小笠原でのホエールウォッチングなど面白かったし、迫力があったよ。

Aさんあ、そうだ。小笠原の話をしてくださいよ。前講で予告したじゃないですか【16】
原生的な自然でいっぱいの島なんでしょう。

H教授いや、違うよ。昔っからの無人島は別にして、人が住んでいた島は大半が開拓されたんだ。
太平洋戦争で負けて米軍統治になって以降、ほとんど放置されて自然回復が進んできたけど、今でも植物に関してはアカギやモクマオウ、リュウキュウマツなどの外来種がかなり多く生育している。

Aさんあ、そうなんですか。じゃあ、何が貴重なんですか。

H教授小笠原は日本の中で唯一の大陸とは無縁の海底火山起源の海洋島だ。
聟島列島、父島列島、母島列島を総称して小笠原群島という。多くの島から成り立ち、戦前は結構有人島が多かったが、今では父島、母島の二つの島に合わせて2,300人ほどが生活し、あとは無人島だ。
小笠原に初めて人が住みついたのはわずか180年前。多くの人が移住し始め、本格的な開拓が始まったのは明治中期頃からなんだ。だから原生林が少なくなったとはいえ、独自の進化を遂げた貴重な固有種がきわめて多い。「東洋のガラパゴス」と言われてるくらいだ。そういう意味では地史を知るうえに貴重だし、そこにつくられた生態系に独自のものがあって、そうしたものが世界自然遺産にふさわしいということなんだろう。
ところで小笠原にはじめて住んだのはどこの人か知っているか。


Aさん江戸? それとももっと地方の人ですか。

H教授実は日本人じゃないんだ。発見したのは日本人なんだけど、住み始めたのは欧米系の人たちなんだ。
当時は欧米では鯨油を得るためのクジラ漁が盛んで、世界の海をかけめぐっていた。そうした人たちの一部が住み着いたらしい。だから明治維新のとき、小笠原はどこの領土かということが問題になったんだけど、島自体の発見は幕府だったこと、先住していた人々の国籍がバラバラだったことなどから、日本の領土ということで決着した。今でもその欧米系の人たちの末裔がわずかだけどいるんだ。ボクらの乗ったホエールウォッチングの船長もそうだった。
“国家”ってなんだ、“領土”ってなんだって、少し考えさせられるねえ【17】

Aさんそんなことはいいですから。センセイは30年ほど前にも行かれたことがあるんでしょう。だいぶ変わってましたか?

H教授うん、すっかり観光の町、エコツーの島になってたね。
30年前には往復の船もがらがらだったけど、今度は往きも帰りも、老若男女の旅行者で満員。
あの頃は宿も数軒だけだったし、レンタカーもなかったんだぜ。今回はレンタカーがすべて出払っていて借りられず、仕方がないんで宿のクルマを借りた。港周辺は旅行者相手の商店が立ち並んでいる。
30年前は旅行者もまばらというか、ほとんど見かけなかったけど、今はどこに行っても旅行者がいるって感じだったな。
ホエールウォッチング、ドルフィンスイミング、グラスボートなどエコツー関連のさまざまなアクティビティもいっぱい準備されていて、老若男女を問わず楽しめるようになっている。
小笠原村の産業構成では、8割が第三次産業らしいから、屋久島や西表よりもさらに観光業に特化していて、文字通り観光の島といってもいいだろう。ダイビングに来た若者がはまってしまって、そのまま居ついてしまうことも結構あるそうだ。
ああいう離島は老人ばかりというのが普通なんだけど、若者の姿も目立ち、少子高齢化がウソのようで、随分活気に満ちているなあという気がした。
ま、ボクにとっては、30年前の方が素朴でよかったという気がしないわけじゃないけど、そんなのは旅人の感傷というかエゴだから、これ以上は言わないでおこう。

Aさん環境保全の方で気づいたことはありますか?

H教授やはり世界遺産登録に期待しているようで、方々にポスターや垂れ幕があった。立派なビジターセンターに、都の職員が何人もいた。港のタラップのところでも都の自然保護監視員だかなんだかの腕章を巻いた人がいて、環境省の影はなんとなく薄かったなあ。

Aさん世界遺産登録の話はどうなっているんですか【18】

H教授93年に屋久島と白神山地が世界自然遺産に登録されたんだけど、その後、多くの地域が名乗りをあげ、2003年に環境省と林野庁が検討会を設けた【19】。その結果、世界自然遺産に登録できる可能性が高い地域として知床、小笠原、琉球諸島の3地域が選定され、2005年には知床が自然遺産に登録された。
検討会では小笠原については外来種対策と重要地区の保護担保措置をとる必要があるとされ、調査検討が開始。2007年1月には「暫定リスト」へ記載された。

Aさん暫定リスト?

H教授将来推薦を予定しているものは、正式の推薦・登録の1年以上前に「暫定リスト」に記載しなければいけないことになっている。
今後外来種対策などに取り組み、3年後をメドに正式に推薦することを目指しているようで、2007年には環境省、関係機関、自治体、専門家の手により「保全再生基本計画」が策定された【20】

Aさんふうん。で、ホエールウォッチングはどうだったですか。


H教授うん、勇壮だったね。何頭も船の近くでジャンプしたりして飽きなかった。ボクは捕鯨再開には消極的賛成派なんだけど【21】あれを見ているとさらに消極サイドにシフトしちゃった。

Aさんちぇっ、いいなあ、自分だけ。

H教授あとホエールウォッチングの船は南島というところに行ったんだけど、ここは都条例で立入り制限がされているんだ。ガイド付き15人以内で2時間以内、しかも上陸しても歩けるところはごく一部に制限されている。沈水カルストで素晴らしいところだったなあ。
ここは小笠原国立公園の特別保護地区なんだけど、自然公園法の利用調整地区にはなっていなくて、都条例の自然環境保全促進地域としての立入り制限をしているというのが印象的だった【22】

Aさん動物の外来種は見ました?

H教授子ヤギは見たけど、昔来たときにいっぱいいた大型のカタツムリ、アフリカマイマイは見なかったなあ。グリーンアノールも見なかったし。


Aさん空港問題【23】はどうなったんですか。

H教授石垣と同じで候補地が二転三転したけど、今は戦時中軍用空港のあった国立公園以外の場所が候補地になっているみたいで、いろいろ調査しているらしい。
滑走路が短すぎるので、延長するため地先海岸を埋め立てねばならないが、小型飛行機が発着する小型飛行場なら可能だと思う。数年先にはアセスメントに入るんじゃないかな。
もし空港を作るのなら住民が優先的に利用できるようなものとし、旅行者は原則として船を使うという選択肢もあると思うよ。間違ってもジャンボジェットなどを考えちゃいけないと思うな。

Aさんそういえば前にアホウドリの移住の話題がありましたけど、あれはどうなったんですか【24】

H教授うん、聟島への移住をようやく開始したという話だった。


Aさんあーあ、小笠原か。アタシも彼氏と一緒に行きたいなあ。青い海原で彼氏と二人でイルカと戯れる…、ロマンチックだわあ。

H教授ぷっ、彼氏を探すのが先決だろう。

Aさんしっ失礼な! キー!!


注釈

【1】国内排出量取引制度
第62講「国内排出量取引制度の検討開始へ」
【2】国別総量目標の設定について
第61講「ダボス会議は政策転換の表明か?」
【3】セクター別アプローチ
第63講「温暖化対策の国内動向」
鴨下大臣記者会見録(平成20年4月8日(火))
「2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話:中国」の結果
気候変動枠組条約第13回締約国会議、京都議定書第3回締約国会合
【4】道路特定財源
道路IR・財源(国土交通省道路局)
【5】鳥取県「予算編成過程の公開」について
予算編成過程の公開(鳥取県ホームページ)
【6】大阪府「財政再建プログラム試案」について
財政再建プログラム試案(大阪府ホームページ)
【7】淀川水系の話題
第2講「脱ダム宣言と淀川水系流域委員会提言について」
第5講「淀川水系脱ダムの行方」
第8講「読者のお便り part2」
第9講「夏のできごと・4 ──淀川水系5ダムのその後」
第12講「淀川水系のその後」
第45講「新たな河川行政の芽生え」
第47講「淀川水系流域委員会休止」
第56講「淀川水系流域委員会再開」
【8】総合治水について
第22講「時評2 ─総合治水」
【9】フィフティ・フィフティ論
第59講「拡大フィフティ・フィフティ」
【10】アメリカ政府の温暖化対策に関する中長期目標について
鴨下大臣記者会見録(平成20年4月18日(金))
環境事務次官会見要旨(平成20年4月17日(木))
【11】生物多様性基本法(案)
生物多様性保全・法制度ネットワーク>「民主党・生物多様性基本法案(仮称)」に対する意見書
【12】エコツーリズム推進法と観光立国推進基本法
第41講「エコツーリズム推進法案」
第41講「回想―総理府審議室の日々」
エコツーリズム推進法(環境省)
エコツーリズム推進法施行規則の公布及び意見募集(パブリックコメント)の実施結果について(お知らせ)
エコツーリズム推進基本方針(案)の意見の募集(パブリックコメント)について(お知らせ)
エコツーリズム推進に関する基本方針検討会(環境省)
観光立国推進基本法(観光庁)
【13】利用調整地区制度について
第54講「国立公園ヌーベルバーグ」
西大台利用調整地区ガイド(環境省近畿地方環境事務所)
【14】パブコメのフィードバック──案パブコメから戦略的パブコメへ
第46講「再び動物愛護管理法」
【15】エコツー法への異論
JanJan News >自己矛盾に気付かぬ環境省「エコツーリズム推進法」
【16】キョージュの小笠原紀行
第63講「ボン・ボヤージュ」
【17】国家としてのレゾンデトール
第27講「道東周遊随想―世界遺産登録と海域保護」
【18】小笠原の世界自然遺産登録について
第37講「来年度予算案と環境政策の新たな動向」
第47講「世界遺産と国立公園見直し」
【19】環境省・林野庁の検討会
世界自然遺産候補地に関する検討会
【20】小笠原の自然環境の保全と再生に関する基本計画
自然を守る取り組み(小笠原自然情報センター)
【21】捕鯨問題とキョージュのスタンス
第50講「我、疑う故に我あり―「水伝」ブーム」
第15講「獲るべきか獲らざるべきかそれが問題だ 〜クジラ〜」
【22】小笠原における立入制限
小笠原諸島における自然環境保全促進地域の適正な利用に関する協定(東京都環境局)
自然公園法に基づく利用調整地区について
【23】小笠原の空港問題
第37講「空港、食う幸」
【24】アホウドリの移住計画
山階鳥類研究所「アホウドリ 復活への展望」
山階鳥類研究所「聟島のアホウドリ 順調に発育」
アホウドリ新繁殖地形成事業によるヒナ移送日の決定について
第41講「アホウドリ移住計画」
アンケート

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(平成20年5月3日執筆、同年5月8日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。

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