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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.046

Issued: 2006.11.09

第46講 「動物愛護とミティゲーション」

目次
狂育問題を論ずる
安倍政権の滑り出し
温室効果ガス排出量速報値
動物愛護を巡って3 ──動物との共生
ミティゲーションと先住権
再び動物愛護管理法
「拡大ミティゲーション」 ──読者のお便りから

狂育問題を論ずる

H教授いやあ、いよいよ紅葉の秋、勉学の秋だな。一所懸命勉強しているか。
(じろっと見て)まさか食欲の秋じゃないだろうな。

Aさんいやらしい目つきで見ないでください! それより新聞じゃあ、多くの高校で必修科目を履修してないことが発覚しただとか、イジメ問題だとかで大変じゃないですか。

H教授必修科目の未履修問題だけど、やはり日本は建前社会だと思ったなあ。

Aさんえ、どういうことですか。

H教授だってそうじゃないか。発覚した高校側は例外なく申し訳ないと謝罪しているし、自殺した校長先生までいた。


Aさん悪いことをしたんだから、謝罪するのは当然じゃないですか。

H教授そうかなあ。高校の評価は大学進学率で決まるんだ。だったら受験に関係ない科目なんてやらない方がいいと高校側は思うだろうし、生徒だって保護者だって、それを望むに決まってるじゃないか。
「どこが悪いんだ。必修科目にしておきながら大学受験科目にしない大学や、それを許している文科省の方が悪い!」って居直ればいいんだ。

Aさんえー、センセイはそんなこと思ってたんですか。

H教授違うよ、まずは本音をぶつけあうことが必要じゃないかってことだ。

Aさんでもうちの大学だってそうでしょう。そんなんでいいんですか。

H教授いいとは思ってないよ。だけど現実に受験科目が一科目増えると受験生がガクンと減るのが現実なんだ。となると受験料収入が減り、ひいてはわれわれの給料にも響いてくる。

Aさんだったらどうしたらいいと?

H教授就職試験でよくやっているような「教養」という受験科目を設け、それと今までぐらいの受験科目にすればどうかと思うけどなあ。そういうふうにすれば一般教養や時事問題に強い学生が集まるし、そうした学生ばかりになると切磋琢磨もするだろうから就職にも強くなるだろう。そうなれば受験生も殺到、学校経営もうまくいき、ボクの給料も上がる…ということにならないかなあ。

Aさん風が吹けば桶屋が儲かるというわけですね。で、その「教養」という受験科目のレベルはどうするんですか。

H教授中学生低学年の全教科書レベルと時事問題でいいんじゃないかな。そうすれば佐賀県が四国にあるとか花崗岩をハナオカガンと答えるトンチンカンな学生はいなくなるだろう。

Aさんだって地理とか地学の授業はなかったし、受験科目じゃなかったからです! 古い話持ち出さないでください! センセイだって「循環型社会」って黒板に書くとき漢字を書けなくて「じゅんかん」なんてかなで書いたじゃないですか!

H教授(真っ赤になって)ちょ、ちょっと。あれこそ寄る年波で度忘れしただけじゃないか。なにもこんなところで言わなくたって。

Aさんへん、これでオアイコだわ。あとイジメ問題はどうですか。

H教授イジメは昔からあった。特に増えたわけじゃないと思うよ。イジメの被害者の駆け込み寺みたいなところがあれば問題の大半は解決すると思うけどなあ。
それよりも、なんでこういう教育の話が今頃大問題になっているかを考えた方がいい。結局のところ、安倍内閣の主要課題として教育基本法の改正だとかの教育問題を打ち出したからじゃないか。


Aさんなあるほど、教育再生会議を立ち上げたり、教育担当の首相補佐官を任命したりしましたからねえ【1】
でもやはり教育って国の要ですよね。

H教授国の要には違いないけど、お上が先頭に立って教育、教育なんて言い出すと、大体ろくなことがないってことも知っておいた方がいい。

Aさんまた天邪鬼がはじまった。

H教授うるさい。だって、200年前に識字率が一番高かった国がどこか、知ってるか。

Aさんイギリスかな? 大英帝国の時代ですもの。

H教授ニッポンだよ、ニッポン。読み書きそろばんは江戸時代後期には9割の人ができたらしいよ。そんな国は他にないぜ。

Aさんどうしてですか? 江戸幕府が教育に力を入れたからですか。

H教授とんでもない、庶民向けには、まったく何もしなかった。今でいう文部官僚なんて一人もいなかったんだ。けれど世界一教育レベルが高かった国民だったんだぜ。いや、だからこそ世界一教育レベルが高い国民になったのかもしれない。つまり文科省なんてのは、廃止してもいい唯一の省庁かもしれない。


安倍政権の滑り出し

Aさんまた暴論を。
そんなことより安倍政権発足一月、いろいろ見えてきたことがあるんじゃないですか。

H教授ここでは二つだけあげておこう。
ひとつは選挙向けでもあるんだろうけど、来年の選挙までは増税路線を取らないことがはっきりした。むしろ企業減税をして成長率を上げたいと言っているぐらいだ。
つまり、環境税はまたも日の目をみないということだ。

Aさんもうひとつは官邸主導型の政治を目指すということですね。さっきの教育再生会議だとか首相補佐官制度だとか。でもうまく行くのかしら。

H教授ムリだと思うよ。

Aさんまたあっさりと切り捨てましたね。

H教授法律で目一杯の5人にしたけど、スタッフがほとんどいない。その数少ないスタッフも各省からの出向。おまけに教育担当とか外交担当とかという担当区分じゃ、文科省とか外務省とかともろにオーバーラップする。屋上屋を重ねるだけでプラスマイナスを考量すれば、圧倒的にマイナスが大きいに決まっているじゃないか。


Aさん他のやり方はなかったんですか。

H教授要するに各省庁は縦割りになってるんだから、補佐官がいくつもの省庁に関連しているなんらかのシングル・イシュー、つまり単一課題を担当し、それで各省を横に串刺しするようにすりゃあいいんだ。そして補佐官ひとり当たりスタッフを最低でも何十人か付けて、そのシングル・イシューに関する指揮命令権を持たせりゃあ少しは変わるかもしれない。
例えばバイオマス担当補佐官とかね。ことバイオマスに関する限り、農水省も経産省も環境省も、担当官はそこの大臣よりも担当補佐官の指示を優先するシステムでも作らなきゃあ、動きっこない。最終的にはすべての役人は縦の序列で動くとともに、新たにできた横の系列からの指示にも従わなければならないようにすればいい。

Aさんまた無茶苦茶を。ヘッドが二つできるとなりゃ、大混乱するに決まってるじゃないですか。

H教授混乱はあるだろうが、一度そういう形でシャッフルすれば、日本も少しは変わるかもしれない。

Aさんいいですねえ、大学キョージュって。無責任に好き勝手言えて。
安倍外交はどうですか。前講直後に北朝鮮の核実験なんてとんでもないことがありましたが。

H教授安倍サンにとっては神風みたいなものじゃなかったかな。表向きマイルドにしていたけど、もともと持論だった制裁一本槍の強硬路線を公然と言えるようになり、それが支持を集めて大阪、神奈川の補選勝利にも結びついたんだから。
だけど国際的なリアルポリティックスの観点からは拙劣だったというしかない。6者協議が再開しそうだけど、まるで蚊帳の外みたいだからなあ。
ま、これ以上は長くなるから言わないけど。


Aさんだって、核を持とうなんてトンデモない国なんだから、強硬路線も当然じゃないですか。

H教授核実験が成功したかどうかも定かじゃないんだぜ。それにいくつかの国々は持っていいけど、あとの国は持っちゃいけないという倫理的根拠なんてないじゃないか。

Aさん日本は持ってません!

H教授だけどアメリカの核の傘の下にいるんだから、他国はそうは思わないよ。
核保有国が制裁とかなんとか言える倫理的な根拠があるとするならば、自らが核軍縮を続け、最終的には核全廃を目指し努力する場合だけだと思うよ。

Aさんじゃあ、センセイは北朝鮮が核を持つことに賛成なんですか。

H教授反対に決まってるだろう! だけど“飴と鞭”の鞭だけじゃあ難しいし、そもそも北朝鮮のねらいは何か、どう対応すればいいかという、もっと冷静で戦略的な思考が必要なんだ。
あとは福島、和歌山といった自治体トップの不祥事続発だけど…。

Aさん(遮って)今頃、編集部のMさんの禿げ上がった額のこめかみがピクピクしてますよ。
もういい加減に環境行政時評にいかないと。

温室効果ガス排出量速報値

H教授そうか、じゃあさっそく始めよう。
先月の半ば、昨年度のCO2等の温室効果ガス排出量の速報値が発表された【2】

Aさんまた増えたそうですね。

H教授うん、対前年比0.6%増。京都議定書基準年の90年からは8.1%増になっちゃった。

Aさんということは14.1%削減しないと、目標が達成できないということですね。

H教授森林吸収源が3.8%、排出権取引CDM京都メカニズム活用で1.6%という当初計画が達成されても、さらに8.7%の削減が必要となる。


Aさん厳しいですね。ゴールの第一約束期間が2008〜2012年ですから、達成不可能はほぼ確実ですね。

H教授そんなことは前からわかってることだ。EU諸国などでやっていることをすべてやった上で達成できなかったというのならわかるけど、国内排出権取引制度も環境税もやらずに未達成だったら、環境後進国と嘲らわれても仕方がない。
でも、現在の安倍政権の企業減税路線だったら、環境税導入は不可能だし、コイズミさんのときに決めた道路特会の見直しだってどうなるかわからない。
ま、これから年末にかけて、税制などの議論の決着がどうなるかだけど、ほとんど期待が持てないな。

Aさんまあまあ、冷静に議論しましょう。その内訳というか、トレンドはどうなんですか。

H教授依然として増加傾向に歯止めがかからないのが、家庭やオフィスからの排出で、昨年は厳冬で暖房需要が増えたのに加えて、電力のCO2原単位が悪化したのが拍車をかけた。

Aさんえ? 原単位の悪化? どうして? だって原発の稼働率はアップしたんでしょう?

H教授その分を別のところで食っちゃった。具体的には渇水による水力発電の利用率が低下したことと、火力発電では効率の高い天然ガスから石炭石油にシフトしたことだ。

Aさん今後どうなるんですかねえ。


動物愛護を巡って3 ──動物との共生

Aさんそれって「動物の権利」とか「動物の解放」などというラジカルな環境倫理の考え方と一脈通じるものがありそうですね。

H教授うん、第44講のホモ・フローレシエンシスの話の中でしたと思うけど、「人間」というものの概念がどんどん広がっていった【5】。もちろんそれはいいことだし、正しいことなんだけど、それと呼応するように、現代社会では動物の地位もあがっていき、愛犬や愛猫は今や完全に家族の一員になっちゃったんだ。そうしたペットだけじゃなく、他のさまざまな野生動物――現時点では哺乳類、鳥類どまりだけど――も生態系の一員として大事にしていこうという方向に来ている。
こうした方向に今後とも進んでいくのは間違いないだろう。
一方じゃ、今年も熊が人里に出現して物議を醸すだろうけど。

Aさんだとしたらそれが極限までいくと哺乳類、鳥類を食べるのをやめろいうことにならないですか。それに同じ動物なんだから魚類だとか昆虫だとかすべての動物を愛護すべきだということに論理的にはなるんじゃないですか。そういえば昔、石油からタンパクをなんて話がありましたね。動物を食べるのをやめて石油タンパクで生きるのって、なんとなく味気ないな。

H教授石油タンパクはそもそも石油需給が逼迫しているから現実性がないだろう。
動物を食べることだけど、食肉用の家畜は神にそうつくられたんだからいいんだという人もいるけど、なんだかちょっとご都合主義だよね。
そういう意味での原理主義者として菜食主義者もいるけど、彼らだって植物は食べている。植物ももとをただせば同じ共通の原始生物の子孫なんだから、なぜ動物だけ特別扱いするのかってことになる。
ただねえ、自然界は食物連鎖で成り立っていて、人間も他の生物を食べなきゃいけない宿命を背負ってるんだ。だから無用の殺生はできるだけ控えるけど、食用に必要な生物は感謝しつつ食べる、人間生活に駆除が欠かせない場合も最低限必要な範囲の駆除にとどめ、種の絶滅は避けるということしかないんじゃないかな。ま、人間の勝手といえば勝手な話には違いない。
ユダヤ陰謀論を盛んに吹聴している太田龍、通称ドラゴン将軍は昔「虐げられた鼠やゴキブリのために立ち上がれ」なんてトンデモないアジテーションをしていたけどね(笑)。

Aさんま、それでも白人だけが人間だった昔や、犬猫を平気で殺していた昔よりは進歩しているということですね。


H教授昔は平気で犬猫を殺していたかもしれないが、それでもトータルな動植物などの自然環境の破壊は現代社会の方がはるかに大きいんだ。だから簡単に進歩といえるかどうか問題だ。戦争だって大規模になっちゃったしね。
昔は自然と共生してた、あるいは動物と共生していたというのはその通りなんだけど、いわば粗野な強いられた共生だったという面も持っている。
貧しい社会では本当の意味での豊かな共生は難しいんだ。だから綱吉の高邁な動物愛護の考えも、現実に適用すると悲惨なことになって“犬公方”と嘲られることになった。
でも今のような豊かな社会なら意志的な高い共生ができるはずで、それを目指さなきゃいけない。“豊かな共生”ってのも今のところ不可視なんだけど。

Aさんそんな抽象的な話でなく、具体的な話をしなきゃダメですよ。

ミティゲーションと先住権

H教授そうか、じゃ土地は誰のものかということを考えてみよう。例えば土地の所有権は憲法で保障されている。でもそれは絶対的な、何をしてもいいという権利じゃない。

Aさん当たり前じゃないですか、公共の福祉のために一定の制限をかけられるんでしょう。確か公用制限っていうんですね。

H教授うん、そういうのを土地所有の内在的な制約と言っている。でもそれだけじゃないだろう。

Aさんえ? どういうことですか。


H教授土地の所有権なんて勝手に人間が決めたものにすぎない。
土地の所有なんて観念自体持たなかった先住民が生まれ暮らし死んでいった土地をわれわれのご先祖は侵略し、占有していったんだ。ネイテイブアメリカンやアイヌ、あるいはアボリジニなんかもそうだよね。今じゃ、そういう先住民の権利を尊重し回復させるというのが一つの国際的な流れになっている。

Aさんそれがどうかしたんですか。

H教授その延長線上で考えればいいんだ。われわれが自分の土地だと思って開発しようとしているところにも、先住生物が人間が生まれるもっと以前からいるんだ。
彼らの先住権を尊重すべきじゃないか。

Aさんうーん、だけどどういうふうに尊重するんですか。

H教授つまり土地の内在的制約の中に先住生物の先住権を含めるんだ。いつかミティゲーションって話をしたと思うけど、それこそがミティゲーションを義務付けるときの倫理的根拠だし、それを法的に認めればいいんだ。
日本の場合だったらみせかけの代償ミティゲーションなんかより、多額の開発税を課すことで開発を抑制するとともに、その税収で自然環境の保全復元に充て、先住権を蹂躙された先住生物に幾分かの償いをする。こういうことこそが新たな動物との共生の道を切り開いていくんじゃないか(自分のアイデアに酔っている)。

Aさん(呆れ顔で)センセ、センセイ。動物愛護管理法の話から随分脱線しましたよ。
元に戻しましょう。今後の課題はなんですか。


再び動物愛護管理法

H教授人間の管理下にある哺乳類、鳥類、爬虫類の愛護や管理は動物愛護管理法、野生の哺乳類、鳥類の保護は鳥獣保護法、絶滅が危惧される動植物の保全は種の保存法、外来種による生態系の撹乱を防ぐには外来生物法といろんな法律があるんだけど、その間の関係が今ひとつすっきりしないし、それらでもカバーされていない隙間の部分があって一般国民にはきわめてわかりにくい。だけどこれらは全部環境省所管の法律なんだ。
だったら、これらをすっきりとわかりやすい一本の法律にできないのかなあというのが一点。

Aさん 一本化したってわかりやすくなるとは限りませんよ。

H教授うるさい。
もうひとつ、動物愛護管理法も鳥獣保護法も対象動物の範囲をもっと広げるべきだ。衛生害虫などを除いて一定の大きさ以上になる全動物種を対象とすべきだろう。
鳥獣保護法は動物保護法あるいは野生生物保護法に名称も変更する。

Aさん小さい動物への差別じゃないですか。


H教授そりゃそうかもしれないけど、数ミリの動物を愛護しろたって、まずぼくの老眼じゃみえないもの。ぱっとわかる程度のものでなけりゃムリさ。

Aさんまあ、そういうこと以前に、現行法のPRが足らなさ過ぎるんじゃないですか。
動物愛護週間というのがあるみたいですけど、ほとんどの人が動物愛護管理法なんて知らないでしょう。

H教授うん、今回の動物愛護管理基本指針についても案の段階でパブコメ、即ちパブリックコメントを募集したんだけど、来たのはたったの264通なんだぜ。そういうものを作ろうとしているなんて、ペット関係業界団体の人と一部の動物愛護団体くらいしか、そもそも知らなかったんじゃないか。

Aさんセンセイは知ってました?

H教授…知らなかった。

Aさんやっぱりねえ。どうすればいいんですかねえ。
そうだ!「動物奇想天外」とか「志村動物園」といったテレビの人気番組がありますよね。ああいうところで5分間でいいから取り上げてもらえばいいんだ。
他にも動物園やペットショップでわかりやすい掲示をさせてもらうとか、いろんなアイデアがあると思うんだけど。

H教授それ以上に問題なのは、そもそも役所側はパブコメがどっと来たら対応に困るから、一応はパブコメ募集をしましたという形だけのものにして、本気でパブコメを募集する気がないことだと思うよ。
だってパブコメが来たからって案を変更するわけじゃないんだもの。
つまり、案の段階でパブコメするんじゃなく、案を作成する審議過程の段階でパブコメを募集し、それを審議の場で披露するというような、パブコメがフィードバックできる体制をつくることをしなければいけない。

Aさんなあるほどねえ。事業アセスから戦略的アセスへの転換が騒がれているように、案パブコメから戦略的パブコメへ、ですね。

H教授ま、それはともかくとして、やはり動物愛護は語るものでなく、実践するものだ。早く帰ってミオと遊んでやろう。

Aさん「ミオに遊んでもらおう」でしょう。
その前に、最近何かお便りありました?
いつだったか「内容の劣化が甚だしい」なんて厳しいクレームがついてましたね。

H教授うん、でも嬉しかったよ。だって、だとすると以前は内容が結構よかったということだから、キミとの対話はまったく無駄じゃなかったということになる。

Aさんほんと、うらやましいぐらいポジティブシンキングなんですね。


「拡大ミティゲーション」 ──読者のお便りから

H教授それより43講で「拡大ミティゲーション」を論じたろう。キミは馬鹿にしてたけど、こういう長文のお便りをもらったぜ。やはり見る人は見ているんだと思ったね。


「拡大ミティゲーション」構想、興味深く拝見しました。
これまでのミティゲーションバンキング構想に、空間だけではなく「時間」という要素を取り入れて考えてみては、というお考えですね。
ミティゲーション・バンクの考えかたは、生態系を有する土地の持つ価値をCreditsという単位で評価し、開発によって喪失する生態系の価値を、Debitsという単位で換算し、このDebitsと同数のCreditsを、ミティゲーション・バンクから購入することで、開発許可を得ることができる。
というものといえますが、先生の考え方は、これに時間的要素を加味しようとするもののようですね。
すなわち、単なるミティゲーション・バンクの考えかたに、オプション取引的考えを取り入れるようなものとも、見えます。
生態系を有する土地の持つ価値Creditsと、開発によって喪失する生態系の価値Debitsそれぞれに時間的価値を持たせて、取引する、という考え方ととらえてよろしいでしょうか。
一般のオプションの考え方では、タイム・ディケイ(Time Decay、時間価値の腐食)という概念があり、売り建てたオプションは、それによって、時間的価値を失い、これを安く買い戻すことができることによって、利益を得、買い建てたオプションは、これを転売することによって、時間的価値の腐食の進行を免れる、という考え方ですね。
開発許可を利得と考え、環境価値には、タイム・ディケイが発生する、と、考えていくと、これまでのミティゲーション・バンキングの考え方では、環境価値を買い建て(買ったものをより高く転売する。─環境価値を高めて売る─)という考え方のみでしたが、それだけでなく、環境価値が高いうちに、売り建てしておき、環境価値が下がった時点で、買い戻すことによって、開発許可という利得を得る。という考え方になるでしょうか。
排出権取引にも、単純なスポット売買に加えオプション取引もできるように、世界的には、なっているようですので、この排出権オプション取引のミティゲーション版を考えれば、先生の考えられる構想に近いものが得られるものと思われます。(ひょっとして、ノーベル賞もの???)
このようなパラダイムの構築で、オルタナティブな環境価値のオプション取引形態が生まれるような気がしていますが。
先生の言葉から連想しただけのスキームですので、たぶんに、荒っぽい、または、先生のご意図とは異なったデザインとなっているかも知れないことをお許しください。
ミティゲーション・バンキングについては、だいぶ以前に『日本にミティゲーション・バンキングは可能か』http://www.sasayama.or.jp/policy/S_2_06.htm
にまとめてありましたので、御笑覧ください。

以前、エコツーリズムについても鋭いご指摘をされた方だけど、どうだい、ひょっとするとノーベル賞ものかも知れないとまで、仰ってるんだぜ。エヘン。

Aさんへえ、で、センセイ、この方の仰るオプション取引についてはどう思われるんですか。

H教授いや、悲しいかな、そっち方面はチンプンカンプンなんだ。

Aさんやっぱりねえ。たまたま「犬も歩けば棒にあたる」だったんだ。

H教授そういうこともあるから犬や猫を大事にしなけりゃいけないんだ。
さ、じゃあ、ミオが待ってるから帰るぞ。

注釈

【1】首相官邸「教育再生会議」
【2】温室効果ガス排出量
【3】動物愛護管理基本指針について
【4】動物愛護管理法に基づく特定動物
【5】「人間」という概念の拡大

(平成18年11月2日執筆 同月7日編集了)
註:本稿の見解は環境省及びEICの公的見解とは一切関係ありません。