一般財団法人 環境イノベーション情報機構

EICネット ヘルプ

メールマガジン配信中

H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.051

Issued: 2007.04.05

第51講 キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる

目次
キューバから帰国
前講へのお便り
食品リ法改正案
温泉法改正案
NOX・PM法改正案
海洋汚染防止法改正案
第三次生物多様性国家戦略と自然公園全面見直し
低炭素社会に向けて ──拡大排出権取引

キューバから帰国

Aさんセンセイ、キューバに行ってたんですってね。

H教授うん、一昨日(30日)の夜に帰ったばかりだ。
まだ時差ぼけも取れてない。だから、今日は簡単に終わらそう。

Aさんまた、そうやってすぐさぼろうとする。
センセイはともかくとして、アタシの登場を待ってるヒトがいっぱいいるんだから、ダメです。
でもセンセイ、前回がベトナムで今回はキューバですか。どちらも社会主義国ですね。やはり似ているんですか。


H教授そんなの、どちらも表層をなでただけだから、わからないよ。
ただ、ハノイやホーチミンとハバナとでは、街の印象はまったく違う。ハノイやホーチミンはクルマとバイクの波で、キューバへの往き帰りに立ち寄ったメキシコシティーに近いような気がした。ま、メキシコシティーはクルマオンリーだけどね。

Aさんじゃ、ハバナじゃ、クルマは少ないんですか。

H教授うん、それだけ貧しいということなんだろうな。でも人々の表情は明るく陽気だった。それに6年前に行ったときよりは、印象としてだいぶクルマが増えてたけどね。

Aさんえー、二回目なんですか。なんと物好きな。

H教授趣味で行ったんじゃない。二回とも仕事で行ったんだ。
前回は6年前、帰路ハバナからメキシコシティーに降り立ったときが、ちょうど例の9・11で、足止めをくらい、ひどい目にあったよ。

Aさん仕事? だって、センセイ、英語ならカタコトくらいはわかっても、スペイン語なんてチンプンカンプンでしょう?
そんなの受ける方も受ける方だけど、頼む方も頼む方だわ。

H教授うるさい、なんかの本で読んだんだけど、国際的なプロジェクトを担う人材として、一番望ましいのはキミが言うように、英語ができて仕事ができるヒト。これを「プラス2」というらしい。その次は英語ができなくても仕事ができるヒトで、「プラス1」。3番目は英語も仕事もできないヒトで「プラマイゼロ」。一番ダメなのは英語だけはできるけど、仕事ができないヒトで、「マイナス」だそうだ。スペイン語でもそれは同じ。
つまりぼくは自分じゃゼロと思ってるんだけど、回りからはプラス1と評価されたんだろう。スペイン語をしゃべれるヒトはそれほどいないからな。


Aさん(呆れて)そうそう、誰かに聞いたんだけど、センセイって、女性のゼミ生がセンセイにニコッとするだけでオレに惚れてるからだと思い、視線をそらすとやはりオレに惚れてるからだと思うそうですね。

Aさん(呆れて)そうそう、誰かに聞いたんだけど、センセイって、女性のゼミ生がセンセイにニコッとするだけでオレに惚れてるからだと思い、視線をそらすとやはりオレに惚れてるからだと思うそうですね。

H教授(不思議そうに)え? おかしい?

Aさん(小さく)ホント、そのポジティブ・シンキングぶりにはあきれちゃうわ。
それだけじゃなくて、センセイもキューバに行きたかったんじゃないですか。


H教授もちろん、ボクは学生時代からキューバが大好きだったのも事実だし、ボリビアの密林で斃れたゲバラは今でもボクの心の中では英雄だけどね。
92年のリオサミットで先進国を震撼とさせたカストロさんの演説もすごかったし、サトウキビのモノカルチャー体制から、循環型有機農業に切り替えて苦境を耐えていると伝えられたその実相を見てみたかった。
二度行って、光だけではなくて、いろんな影の部分が見えてきたキューバだけど、だからこそますます好きになったし、心の底から応援したいと思ってるんだ。

Aさんじゃあ、今回はキューバ環境紀行ですね。

H教授いや、それは次回にしよう。資料もアタマの中も整理できてないし、二度行って余計に謎が深まった部分もあるしね。

Aさんいいじゃないですか、どうせ、それ以外のなんの準備もしてないでしょうから。

H教授(断固とした口調で)イヤだ!

Aさん(不思議そうに)どうしてですか。

H教授<キューバ凌ぎ>はいやなんだ。

Aさん(絶句)その駄ジャレが言いたかったのか…。
じゃ、今回はどうします?


前講へのお便り

H教授前講【1】に対しては随分熱心なお便りを何通もいただいた。まずは次の二つのお便りを紹介しておくか。

地球温暖化に対して様々な意見があるようです。「不都合な真実」を見たあとから、温暖化に対してしっかりとした取り組みをしなくては・・・と考えていたのですが、このような記事を読むとまた「本当に温暖化っておきているのかしら?」と考えてしまいます。政府が住みよい国にするためにも、CO2を減らす取り組みをするとしている以上、私も積極的に協力しますが、それにしても温暖化は世界的な問題だというアル・ゴアさんの映画も捏造されたデータが根拠になっているのでは?と疑いはじめてしまいました。(あまりにも温暖化の事実が明らかに示されていたので)

結局誰にも地球温暖化と地球生命への悪影響の関係は分からないということがよく分かりました。ちょっと安心。

Aさんなんだか反温暖化対策論者に塩を送ったような感じですね。

H教授ボク自身は断固としたラジカルな温暖化対策論者のつもりで、前講は反温暖化対策論者への揶揄のつもりだったんだけど、こういう読まれ方もするんだとちょっとショックだった。

Aさんでもセンセイも前講で書いてたじゃないですか。
「われわれ国民自体が、温暖化など起きていないかもしれないし、起きたとしても大した問題じゃないんだと思い込みたい気持ちがどこかにあって、それが反映しているんじゃないかなあ」って。その通りなんですね。

H教授あと冒頭のクジラについても面白い二つのお便りがあったので、これも紹介しておこう。


特に日本では、残念ながら捕鯨に関して(私はこれらの研究者とも顔をあわせることもあるのですが)バランスの取れた論評が少なく、なかなか素晴らしいと思いました。
特に「鯨害獣論」については「鯨が魚を食べる」ということだけがクローズアップされていて、例えば、ほかに思いつくだけでも
1.それがそもそも「資源の競合」なのか(クジラが魚を食べていることと、人間の漁獲に影響することはイコールではない。古からクジラは魚を食べていたはず)
2.仮に競合だとして、魚類もクジラも(ミンクは増えているがそれ以外の種類や鯨類全体のバイオマスはかつてより減少している)減っている状況で
2−1.それを「害獣」として認識することが妥当であるかどうか(単に少なくなったパイの奪い合いの場合「害獣論」はほとんど言いがかりに等しい)
2−2.「害獣」と認識したところで、捕鯨をすれば解消されるのかどうか(単に餌があるところにクジラが引き寄せられている場合、有害鳥獣駆除のように前線で捕獲しても意味がない)
…などの疑問点が出てくるにもかからず、生態学の専門家からは明確な批判があまりなかったように思います。あまり「専門外」のことには口を出さないという、科学者の「美徳」であるのかもしれませんが…
食糧事情についても、せいぜい日本の最盛期でも30万トン/年以下の鯨肉の供給しかできなかったのにまるで蛋白源の救世主のような物言いがされてしまうのには驚きます。
学生が大真面目にそう言っていたのには耳を疑いました。彼らは、日本が年間500万トン以上の肉類を消費していることすらも知らないのでしょうか。
それよりも、よほど沿岸を含めた魚類資源の保全に注力したほうが有益だと思いますが…
いずれにせよ、今回の指摘は重要だと思います。
適切な「資料批判」というか…、
身もフタもなく言えば、思考力がないということなのかもしれません…。

もう一通はこうだ。

「──これは日本の水産庁の主張なんだけど」と捕鯨再開についての水産庁見解について紹介していますが、本当に「健全な海洋生態系を復元するために捕鯨を再開すべき」という主張を水産庁はしているのでしょうか。捕鯨問題と水産庁の見解を読む限り、水産庁の主張の骨子は、
・捕鯨反対の立場が科学的根拠に基づかない暴論によって決定されるのは間違っている、
・持続可能な資源の利用の原則に反する主張であって、これを質すことが野生生物資源の合理的な利用の秩序維持に向けた貢献につながる、
・世界の食糧資源の保存・管理が必要、
・伝統文化の尊重、
とされていました。
食糧資源の保存・管理というのも、(表面上は)特定の鯨類を除いて、資源量が回復しているからそれを活用するべきではないか、ということのようですし、むしろ比重としては持続可能な開発の原則を遵守することの重要性を打ち出しているのではないかという印象を受けます。ですから、「クジラが魚をやたらめったら捕食してしまうのが問題だから間引かないとならないという論法で、捕鯨再開を求めている」というのは、それこそやや暴論に近く、バイアスのかかった決め付けになってはいないでしょうか(そんな下手な理論武装で説得できるわけがないということぐらい、水産庁もわかっているのでは?)。
まあ、本論のメインテーマである「我、疑う故に我あり」という観点からは、(読者は)H教授の主張も鵜呑みにしちゃあいかんよ!と言われそうですから、あえてねらっているのかも知れませんが...。

Aさんセンセイ、まな板の上の鯉ならぬクジラですね。

H教授(苦笑して)ま、評価は読者にお任せしよう。

Aさんで、いよいよ本論ですよ。

H教授うーん、そうだなあ。とりあえず前講で編集部がまとめてくれたものを片付けておくか。


食品リ法改正案

Aさんというと、まずは今国会提出法案ですね【2】
最初が食品リサイクル法改正です【3】

H教授大規模な食品メーカーや外食チェーン店について食品廃棄物や再生利用状況の報告を求めることにするそうだ。
多分、容器リ法改正と同様に、具体的な規制というよりは、マスコミ等の報道による社会的制裁を恐れる企業の体質を見越して自主削減を促す手法なんだろう。
あわせて、肥飼料など農業に再生利用される場合の廃棄物処理法の規定の緩和というアメとセットになったものじゃないかな。


Aさんそういえばローソンでは、賞味期限が切れる2〜6時間前に早い目に販売棚より引き上げ、廃棄=飼料再生に回すという取り組みをしていて、一部ではそのタイムラグを利用して、貧しい人向けのNGOがやってる食堂に直接無料で提供しているというのをテレビで見ました。
その後半では、米国じゃ、ラベルや外箱だけが痛んでいるだけで中身は何ともない食料を寄付する「フードバンク」という運動があって、それを貧しい人たちに無料で提供する仕組みがあると放映されていました。日本でも同様の取り組みがはじまっているそうです。

H教授へえ、息子がコンビニでアルバイトしているときは、期限切れの弁当はバイトのお腹の中に入ったそうだけどな。
ま、いずれにしてもそうした直接お腹の中にいく取り組みの方が、食料廃棄物の再生利用としては有効なのは事実だから、そうした取り組みに対する税制の面の優遇措置などもセットで考えた方がいいんだろうな。もっとも、財務省がうんと言わないんだろうけど。


温泉法改正案

Aさん次が温泉法改正ですね【4】

H教授こちらは温泉をめぐる不祥事件への対応だね。
今までは成分分析を一度やれば何年経ってもOKだったんだけど、定期的に行って、その都度、表示を行うことを義務付けた。
それと、温泉法に基づく掘削や利用を許可する際、条件を付せられるようにした。
ちゃんとアメの方も付いていて、従来は温泉の権利者が相続や合併等の際に許可を取り直さなければいけなかったんだけど、それを緩和するそうだ。


Aさんこれに対するご意見は。

H教授もちろん、いいことだと思うよ。
あとねえ、温泉に行けばいつも成分分析表というのがあるんだけど、普通の人が読んでも意味不明だよね。いろんなイオンの値がずらーと書いてあって、あとpHの値が出てきて、弱酸性とか弱アルカリ性とか書いてある。
だけど、高校の理科では水素イオンと水酸イオンの比で酸性かアルカリ性か決まるって習ったんだけど、あのイオン分析表ではそれがよくわからない。

Aさんわからなくたっていいじゃないですか。きちんと分析表があって、専門家が太鼓判を押してあるんだったら。

H教授そういういい加減なことを言ってるから、「あるある」なんかにコロっと騙されるんじゃないか。


NOX・PM法改正案

Aさんへいへい。
自動車NOX・PM法も改正案が出されていますね【5】

H教授うん、審議会の意見具申である「今後の自動車排出ガス総合対策のあり方について」を受けたものだ。
窒素酸化物SPMについては依然として、一部環境基準未達成地域が残っているんだけど、そうした地域で特に必要な地区を「重点対策地区」として指定し、新たな交通需要を生じさせる建物を新設する者に対し、排出量の抑制のための配慮事項等の届出を義務付ける。また、重点対策地区内のうちの指定地区へ運行する自動車を使用する一定の事業者に、窒素酸化物等の排出の抑制に関する計画作成・提出や定期報告を義務付けるというのが目玉のようだ。


AさんNHKが報じていたPM2.5ロードプライシングはどうなったんですか【6】

H教授審議会の意見具申でも検討課題としているだけで、法改正では一言も触れてない。やはりNHKの勇み足だろう。そりゃあ、環境省としてはやりたいに違いないだろうけど。


海洋汚染防止法改正案

Aさん海洋汚染防止法も改正するらしいじゃないですか【7】

H教授ロンドン条約の96年議定書を締結するための国内法対応だ。ようやく準備が整ったということだろう。

Aさんどんな中身なんですか。

H教授油、有害物質および廃棄物の海洋投棄の全面禁止だ。

Aさんそんなの当たり前じゃないですか。今まで規制されていなかったんですか?

H教授日本では屎尿の海洋投棄が昔は当たり前だった。もちろん数十年前からどんどん縮小してきたんだけど、それがようやく全面禁止OKというところまできたんだろう。
ただし、これには例外規定があって、CO2の海底投棄、つまりCO2の地中隔離は許可があればOKということだ。でもねえ、この技術はまだ不完全だし、将来漏れ出す可能性だってないとはいえないし、そうなったときの生態系に及ぼす影響も未知数だ。だからどんな慎重にやっても慎重すぎということはないから、簡単にガイドラインなど決めない方がいいと思うよ。


第三次生物多様性国家戦略と自然公園全面見直し

Aさんあとは自然環境の方でもいろんな動きがありますね。
自然公園の指定と管理についての検討会の検討結果、それに第三次生物多様性国家戦略に向けての懇談会の論点整理が同時期にまとまって、いずれもパブコメにかけられてますね【8】
連動しているんですか。

H教授当然だろう。国家戦略の方は秋頃に審議会答申に持ち込みたいみたいだから、自然公園法やその他の保護関連法もそれに向けての改正を考えているんだろう。
そううまくいくかどうかはわからないけど。

Aさんで、その二つの内容は?

H教授じっくり調べないとそんな簡単にコメントできないよ。だから次回送りにしよう。
まあ、こんなところかな。

AさんあとSEAのガイドラインが出されて、パブコメにかけられてますね【9】

H教授あのガイドラインの中身については異論はないけれど、あれをSEAというかどうかについては疑問だね。
「事業を行わない(で対象計画の目的を達成する)」という案も含めて複数の代替案が構想された時点でのアセスのガイドラインとして策定しようとするものだから、現行の事業アセスと国際的に言われているSEAとの中間段階──つまり外国で行われている普通のアセス──のようなものじゃないかと思うよ。


Aさん国際的なSEAって?

H教授例えばODA、政府開発援助をやるときには、最近ではSEAをやる方向にきていて、そこでのSEAはそもそも事業や計画の必要性の段階から住民を巻き込んで議論することになっているそうだ。
今回のSEAのガイドラインでは、必要性の部分は自明の前提になっているような気がする。

Aさんでもそうしたら、「環境」だけじゃなくて、いろんな要素について事前評価することになって、そうしたら総合アセスというか政策の事前評価の話になるんじゃないですか。

H教授うん、だからそちらの方もセットで考えなくちゃいけない。ODAの世界でSEAと言われているのは、実はそうしたものも含まれているらしい。
それとこのガイドラインでは現行のアセス法対象事業を念頭においているみたいで、それ以外のものはとりあえずの対象に考えてないようだ。
おまけに発電所については、3日前の新聞では電事連や経済産業省の強い異議で、このガイドライン対象事業から外すことにしたそうだ。

Aさんひっどーい。だって、発電所は、いまや、不祥事隠しがぼろぼろ発覚しているじゃないですか。中には原発の定期検査時の制御棒が外れて臨界になったなんてとんでもないことが明らかになって、何度も謝罪会見までしているのに、一方じゃそんなこと…(絶句)。

H教授けしからんと思うけど、これがわがニッポンの現実なんだ。


Aさんそれでそのガイドラインをアセス法で定めるんですか。それとも閣議決定するんですか。

H教授さあ、発表資料には何も書いてなかった。今度調べてみるよ。

Aさんちゃんと調べておいてくださいよ。センセイは、“環境政策のプロ”だなんて、何にも知らない学生の前では言ってるんだから。
あ、そうか一昨日キューバから帰ったばかりか。それじゃあ仕方ないですね。

低炭素社会に向けて ──拡大排出権取引

Aさんそれはそうと、環境省と国立環境研究所が「40年後にはCO2を7割削減することが可能」って、発表したそうですね。

H教授詳しくは知らないけど、「脱温暖化2050プロジェクトチーム」がまとめたものだね【10】
人口減や合理的なエネルギー利用によるエネルギー需要減、需要側でのエネルギー効率改善により、2050年までに日本のエネルギー需要の40〜45%削減が可能と推定。これと供給側での低炭素エネルギー源の適切な選択、エネルギー効率改善の取り組みを合わせて、「豊かで質の高い低炭素社会を構築し、日本が主要温室効果ガスであるCO2の排出を、2050年までに90年比で70%を削減することは可能」と結論したそうだ。
技術革新を前提にしているし、確かにそのポテンシャルはあるんだろうけど、それを発揮させるような価値観や社会システムの方の改革がなければどうにもならないと思う。
そして今年度も来年度も、そういう意味ではびっくりするような大きな変化はないと思うよ、残念だけど。


Aさんだって、安倍サンの「美しい国」に関連しての「21世紀環境立国戦略」も夏には決まるそうだし【11】、超長期の低炭素社会のビジョンづくりもそのプロジェクトチームの提言をベースにして審議会での検討もはじまっているようじゃないですか。

H教授そうはいかないさ。関係各省の合意を取り付けるんだから、総論賛成だけの国民のライフスタイルの見直しを訴えて終わる、きれいごとの作文に終わる可能性が強いと思うよ。
環境税だって安倍サンの時代はムリだろう。国内的にはコイズミ改革のひずみ──格差拡大――を是正するための何かをやらなくっちゃ、内閣自体が保たないだろうから、環境税みたいな増税路線は当面取れないだろう。

Aさんそんなあ。暗くなるようなこと言わないでください。

H教授でもねえ、当たるも八卦、当たらぬも八卦だけど、2009年度には急展開する可能性があると睨んでるんだけどね。


Aさんえ? どんな?

H教授その頃になればEUは京都議定書を何とかクリアできることが明白になるし、一方じゃ米国も大統領交替を機に、熱心に温暖化対策に取り組むようになるのは確実。
そうなるとお互い競争するかのようになり、第二約束期間に向けての何らかの積極的で定量的な枠組みへの合意も見えてくるだろう。
そうなると日本だけがこれまでみたいな呑気なことを言ってはいられなくなる。外圧に弱いのがお家芸だからね。

Aさん米国のバイオエタノール転換がうまくいき出すということですか。

H教授いや、むしろ伝統的な米国のお家芸で、SO2で実績のある排出権取引へのシフトが中心だろう。いくつかの州ですでに動き出した国内排出権取引を合衆国全体に広げて制度化すると思うよ。
またイラクで失墜した信用を回復するためにも、CDMJIに乗り出すに違いない。

Aさんじゃあ、日本もそれにつられて環境税が導入されるってことですね。

H教授さあ、それは特会見直しと絡んでの厄介な制度設計、それに直接の税負担をイヤがる産業界の抵抗もあって、そう簡単にはいかないだろう。
でも、そうなったとき、ボクにはそれに関する秘策があるんだ。

Aさんへえ? どんな?
「化石燃料の輸入制限」だとか、「電気代などのエネルギー使用料の累進性」なんて夢物語はだめですよ。

H教授「拡大国内排出権取引制度」だ。大発生源にまず排出可能量つまりキャップを割り当てる。キャップを決めるのに少しもめるかも知れないが、その頃にはインベントリーも整備されているだろうし、外圧もあることだからアメも同時にセットすればなんとかなるだろう。

Aさんそんなこと言ったって、国内企業の省エネ努力は限界に来ているらしいし、そう簡単にいかないんじゃないですか。

H教授うん、だからキャップの決められた企業はこぞってCDMに乗り出す。今だってその兆候は出ている。

AさんでもCDMって海外の適当な案件発掘もそう簡単じゃないみたいだし、折衝も大変なんじゃないですか

H教授だから「拡大」排出権取引制度と言ったろう。つまり、国内版CDM制度が動き出す。


Aさんはあ? なんですか、それ?

H教授省エネが限界に来ているのはキャップが決められるような大発生源に限られるんじゃないかな。多分、それ以外の中小発生源はそれほど排出抑制策が取られていないんじゃないかな。
だからそうした中小発生源の排出抑制に協力した場合、その抑制量を協力したキャップのある大発生源の抑制量にカウントする制度を作る。
メディアもそういう企業に対しては好意的な報道をするだろうから、一気に国内CDMがブームになって、競争がはじまる。
日本は伝統的に大企業と中小企業の二重構造と言われていて、格差拡大の一因はそこにあるんだけど、それが国内CDMによって、一挙に解消に向かうかもしれない。

Aさん…(呆然と聞いている)。

H教授それだけじゃない。そうなるとアイデア競争になるから、中小発生源だけじゃなく、例えば熱心なNGOやコミュニティと共同しての自然エネルギー開発にも力を入れるだろう。
さらに吸収源も抑制量にカウントするようにすると、吸収源対策にも乗り出す。
これまで何度も言ってきたように、日本には戦後のスギ・ヒノキの一斉造林された人工林で今や放置林化したところがいっぱいあるし、中山間地域には休耕田畑が藪化したところもいっぱいある。
そうしたところでも企業と市民による健全な森造りがはじまる。放置林を計画的に伐採して、出てくる膨大な材はバイオマス発電にも使える。
生物多様性の回復にもつながるし、一石二鳥じゃないか。

Aさんそれをみんな大発生源の企業がやるんですか。
じゃあ行政は何をするんですか。


H教授行政はカネがない。なんせ800兆円以上の借金を背負っているんだから。
だからキャップの決まった大発生源に関して抑制量に見合う減税をするシステムをつくるのが行政の役目。
役人はカネよりアタマを使うんだ!
その減税分を補填するための薄く広い増税をすればいいんだ。制度設計の大変な環境税――炭素税――でなくても、水源税みたいなものでもいいかもしれないし、税金を払うのがイヤな人は、年に一日森造りの労働奉仕に代えたっていい。
そうなると市民の価値観やライフスタイルも変わってくる。
2012年、つまり京都議定書の第一約束期間の最終年度には一気に大幅カットできて、国際公約をクリアできるかもしれない。

Aさんセンセイ、冗談も過ぎますよ。まるで夢物語。ひょっとすると熱があるんじゃないですか(額に手を当てようとする)。

H教授こらこら、逆セクハラだぞ。
まあ、いいじゃないか。今日は4月1日、つまりエイプリルフールだ。


Aさん…。

注釈

【1】前講
【2】国会提出法案
【3】食品リサイクル法改正について
【4】温泉法改正について
【5】自動車NOx・PM法改正と、中環審の意見具申
【6】NHK報道のPM2.5やロードプライシングについて
【7】海洋汚染防止法の改正について
【8】自然公園の指定と管理、第三次生物多様性国家戦略策定に向けた懇談会論点整理
【9】SEA導入ガイドラインについて
SEAに関するこれまでの言及:
【10】2050日本低炭素社会プロジェクトチーム」の報告
【11】21世紀環境立国戦略

(平成19年4月1日執筆、同年同月4日編集了)
註:本講の見解はEICおよび環境省の見解と一切関係ありません。