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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.071

Issued: 2008.12.05

第71講 いまこそ「時のアセス」を!

目次
オバマ政権を占う
官僚テロ?
麻生サン寸評
真の行革とは?―パーシャル・アライアンスの勧め
「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決
追い詰められる国交省 ──大戸川ダムと道路整備中期計画
マグロとクジラ
COP14前夜
遠慮しつつも「ぼく自身のための広告」

オバマ政権を占う

Aさんセンセイ、オバマさん、地すべり的な大勝利でした。代議員数でダブルスコアですよ。よかったですね。やはり合言葉の<チェンジ!>が利いたんですかね。

H教授代議員数はそうだろうけど、それはアメリカの選挙制度のせいで、票数ではそんな大差じゃないことを忘れちゃいけない。もちろん、“ブッシュ・ノー、チェンジ!”ということの表れだろうけど、マケインさんもブッシュさんと距離を置こうとして涙ぐましい努力をしていた。ただ、マケインさんの奇策が裏目に出たこともあるんじゃないか。

Aさんというと?

H教授副大統領候補にアラスカ州知事のペイリンさんを担いだ。まだ若い庶民的な主婦候補だということで、支持率は急上昇したけど、彼女のお粗末な知的レベルが露わになってから、一気に評判は下落した。

Aさんそんなお粗末なんですか。

H教授そりゃあ、アフリカを一つの国だと思っていたなんて知的レベルじゃ、有権者が見放すのも当然だろう。どっかの国の総理大臣が、漢字の読み間違いをしょっちゅうしているそうだけど、そんなことの比じゃない。

Aさんへえ、“そんなことアラスカ”って感じですね。

H教授オバンギャグか…。


Aさん(真っ赤になって)セ、センセイのレベルに合わせただけです!
そんなことより、オバマさんになってどう変わるかの方がはるかに重要でしょう。

H教授うーん、具体的にはよくわからない。規制緩和一辺倒だったブッシュさんだって、サブプライムローン問題が明るみに出たり、リーマンブラザース破綻以降はそうはいかなくなったみたいだから、経済政策は基本的には変わらないかもしれない。
ブッシュさんはやむを得ない不本意な緊急対策だと思い、オバマさんは本来的な政策だと思ったとしても、この超不況期にはやることは基本的に変わらないんじゃないかなあ。

Aさんでも外交政策や環境政策は変わるでしょう。

H教授外交では単独主義から協調主義に変わるだろうし、イラク侵攻はそもそもの誤りだったと公言はしても、イラクから即時撤退とはいかないだろう。アフガンについても軍事圧力を強めると言っているから、そう大きな変化を期待する方がムリだろう。
ただ、反米色を強めていた中南米なんかとの関係は好転するかもしれない。

Aさんでも日本政府は、オバマさんが「イラク侵攻はそもそも誤りだった」と言ったら、どうするんでしょうね。

H教授ふふ、できればコイズミさんに聞いてみたいよね。

Aさん環境問題はどうですか。

H教授ブッシュさんがゴーサインを出した、ユタ州沿岸の原油開発方針は取り消すそうだ。
温暖化対策でも「2050年にGHG80%カット」を表明して、一応、日米欧の長期目標は平仄がとれるようになった。

Aさんよかった。早くブッシュさんは歴史のくずかごに消えてほしいですね。

H教授ふふ、キミのブッシュさん嫌いも相当なものだな。
ただ、2020年の中期目標については90年レベルに戻すということで、日本の経産省や経団連と同レベルのことしか言っていない。

Aさんなんだ、ちょっとがっかりだな。


H教授ま、2025年まで増やし続けるというブッシュ路線【1】に較べりゃ、ぐっとマシさ。
でも、オバマさんは軸足を民主党リベラル左派に置かずに、共和党穏健派を取り込む中道路線を意識的にとるように思えてきた。経済危機に対応するための挙国一致政権ということを意識しているのかもしれない。国防長官だって留任という話だし。

Aさんで、うまくいくんですか。

H教授わかんないけど、米国の経済危機は泥沼の様相を呈してきた。シティグループやファニィ・メイも危ないらしいし、GMなども救済するとすれば、米国の不況は一層深刻になり、ドルは遠からず基軸通貨から転落することだって考えられる。
つまり、ソ連崩壊以降、米国の単独覇権が続いてきたけど、それが崩れて一気に多極化時代に入るということかもしれない。

Aさんじゃあ、ひょっとして円が世界通貨になるのかしら。

H教授日本だって安泰じゃない。農林中金が危ないなんて話もあるし、GDPは確実にマイナスが続くだろう。むしろ、今後の日本はGDPマイナス成長を前提として、それでも楽しく暮らしていけるという構造改革を考えなきゃいけないんじゃないかな。
そういう意味では、相も変わらずプラス成長を至上命題にしている日本社会は、まだまだ能天気だと思うけどな。


官僚テロ?

Aさん気が滅入るから、その話題はやめましょう。
センセイ、元厚生事務次官を狙ったテロ事件が起きました。センセイも知っている人じゃないんですか。

H教授殺された山口サンは厚生省ではボクの二期上だけど、幸か不幸か、レンジャーに関しては厚生省は人事院試験がどうあろうと、一切キャリア扱いしなかったから【2】、面識はないんだ。でもいい人だったという話はよく聞かされてたから、たまらないよね。奥様ともどもご冥福をお祈りしよう。
でもねえ、あんなのをテロだなんていうから世の中おかしくなる。いつの時代にでも起こりうる異常人格者の異常な犯行であって、それ以上でもそれ以下でもない。テロだとかなんだとかいう、変な意味づけだけはするべきではないと思うよ。

Aさん「2ちゃんねる」じゃあ、賞賛の書き込みが結構あるそうですね。


H教授そちらの方も大問題だね。匿名ネット社会は、封印された人間の負の情念を解放するという、極めてネガティブな面も持っているんだ。これで模倣犯が出てくるなんてことにならなきゃあいいけどね。

Aさんかと思えば、海外に目をやればムンバイの惨劇ですもんね。

H教授うん、やりきれないことが多い。


麻生サン寸評

Aさんやりきれないといえば、日本のソーリは「怪我」をカイガと読んだそうですね。「踏襲」はフシュウだそうです。

H教授ま、日本の顔がそれじゃあ正直恥ずかしいけど、キミだってエラそうなことはいえないだろう。コウソウ、コウソウっていうから、なんだと思えば「更迭」のことだったもんな。

Aさん(真っ赤になって)そんなこと、ばらさなくたっていいじゃないですか。もうセンセイを更迭したいわ。

H教授ま、それはともかくとして、麻生サンに関して言えば、就任2ヶ月でもう政権末期の様相だね。定額給付金にしたって、地方整備局と地方農政局との統合、廃止の話にしたって、言った次の日からころころ変わるようじゃどうしようもない。
閣僚も官僚もバカにしてマトモに相手にしていないみたいだし、失言か本音かはともかくとして、非常識な発言をぼろぼろしては、陳謝取り消しの繰り返し。
しかも、そのことを恬として恥じる気配もないんだから、どうしようもないじゃないか。

Aさんセンセ、そんな一刀両断じゃダメですよ。
ただ単にセンセイが麻生サンを嫌ってるだけのように聞こえますよ。
ま、確かに麻生サンは毛並みもいいし、大金持ちですから、センセイが僻むのもわかりますけどね。

H教授バカいうな。嫌ってなんていないよ。人は悪くないんだろうけど、お粗末だなあって思ってるだけだ。
じゃあ、一つひとつ見てみようか。
まずは定額給付金のドタバタ。
全世帯に給付するって言ったけど、金持ちにも給付するのかって言われたら、金持ちは除くなんて言ってしまった。

Aさんま、確かに金持ちに給付するのは、国民感情からしてオカシイですよね。


H教授だからといって、国民総背番号制を敷いているわけじゃないから、その事務手続きは膨大なものになり、実施は困難だ。

Aさんだから、辞退を呼びかけると言ってみたり、とどのつまりが、給付事務に当たる市町村の判断に委ねるそうで、要は自治体に丸投げ。で、これが地方分権だなんて言ってのけたから、自治体はカンカン。

H教授しかもその給付金は緊急対策だなんて言っておきながら、結局のところ今国会ではその給付金を含めた二次補正予算案は提出せず、来年回しになった。

Aさんで、センセイのご意見は?

H教授いやあ、これぞ世紀の愚策だろう。何年か前に総額7000億円の地域振興券という愚策があったけど、今回は額が違う。その3倍、なんと総額2兆円だぜ。
2兆円あれば、いろんなことができる。それをただばらまくってのはあんまりだろう。
だったら低額所得者中心に大幅な所得減税をし、所得税も免除されているような世帯には生活保護費の増額などで対応するだとか、いくらでもやりようがあったと思うよ。
同じばらまくのなら、昔竹下サンがやった「ふるさと創生」のような、市町村へのお年玉の方がまだマシだと思うよ。

Aさんお年玉?

H教授うん、交付税不交付団体以外の全市区町村に、それぞれ1億円をばらまいたんだ。市町村はそれで温泉を掘ったり、金塊を買って展示したり、世界一の滑り台を作ったりといろんなことをした。
それでも総額三千何百億円かだ。
今度は桁外れの2兆円。だったら人口に比例させて市町村に配って、使い道を市町村に任せりゃあいい。
人口5000人の村だって1億円近い金額になるし、ボクのいるS市は10万人ちょいだから、20億円近い金になる。そして、市町村はそれをどう使うかをみんなで議論すればいい。議論が盛り上がり、その議論だけで地域は相当活性化すると思うよ。


真の行革とは?―パーシャル・アライアンスの勧め

Aさん国土交通省の地方整備局と農水省の地方農政局の廃止だか統廃合だかの話はどうなったんですか。

H教授うん、麻生サンは地方分権改革推進委員会の、出先機関の原則廃止・地方自治体への移管という路線にいったんは同意しておきながら、すぐに真意は統廃合だといい直した。
ところが党内や政府部内の反発がものすごいらしく、その後は口を噤んでいるようだ。

Aさんセンセイはどう思われるんですか。

H教授今、出先機関の問題については、改革推進委員会と各省の綱引きの真っ最中で、各省は出先機関廃止は論外とのことで、ごく一部だけを人質に出して、逃れようとしている。そんなときの麻生発言だったので、反発もすさまじかったみたいだ。
特に地方整備局の廃止は、コイズミさんの郵政民営化よりももっと本質的な、いわば官僚機構の<本丸>だから、そう簡単にいかないだろう。
廃止して自治体に移管というけど、今のままの自治体では難しくて、むしろ道州制と絡めて議論する必要があるんじゃないかな。
ボク自身は道州制の議論は続けるとしても、とりあえず、政策分野ごとに必要に応じて「一部事務組合」のようなものを導入して、そこが地方整備局の部署と統合すればどうかと思う。

Aさん一部事務組合?

H教授消防とか廃棄物処理だとかでよく見られるけど、複数の市町村で分野を限定して広域行政にあたる組織で、市町村と同じような権利義務を負う特別地方公共団体だ。
淀川水系のように複数の府県にまたがっている治水なんかは、この一部事務組合のような複数の府県間でのパーシャル・アライアンスを作ればいい。瀬戸内海の沿岸管理だってそうだし、複数県にまたがっている国定公園の管理だってそうだ。こういう予算も権限もあるパーシャル・アライアンスを、制度的に保証し、積み重ねることが、道州制などの広域行政へ向かう現実的な道筋だと思うけどな。

Aさんパーシャル・アライアンスなんてはじめて聞いたわ。

H教授そりゃそうだろう。ボクもはじめて言った(笑)。
ひょっとすればボクの造語かもしれない。「一部事務組合」なんて、なんだか野暮ったいから、思いつきでそう呼んだだけ。
いずれにしても麻生サンは単なる思い付きをほいほい垂れ流すんでなく、口に出したことは不退転の決意で臨むべきだと思うな。

Aさんぷっ、思い付きをほいほい口に出すとこはセンセイにそっくりですね、


H教授うるさい。あと、福田サンのときに道路特定財源の一般財源化を閣議決定したけど【3】、麻生サンは今回の経済危機の緊急対策として、このなかから地方自治体に1兆円配布するとした。
道路族や財務省は猛反発して、面従腹背どころか真っ向から歯向かう構えだし、麻生サン自体もこの1兆円が既存の配分と合わせてのものなのか、オンするものなのか、道路整備以外のものに使える自由な財源なのか、ご自分でもよくわかってないような節があって、これもよく先が見えない。

Aさんそりゃあ、お粗末ですね。

H教授まあ、麻生サンのために弁解すれば、麻生サンは軸足を財務省より総務省、つまり旧自治省に置いているようだ。その証拠に筆頭秘書官は慣例を破って、自治省出身のO氏だ。
O氏はボクが県に出向しているときにいっしょになったことがある。切れもののうえ、運転手さんとでも気さくに飲み交わすようなところがあって、ボクは割りと好きだし、評価していたんだ。
このO氏が麻生サンの智慧袋だというのが、もっぱらの噂のようだけど、このO氏の提言を、じっくりと詰めきらず、アバウトにわかったつもりになったところで、麻生サンはついつい発言してしまうんじゃないかと思うけどね。
地方整備局と地方農政局の廃止や統廃合にしたって、道路特定財源の一般財源化に伴い自治体へ広く使える財源として手厚く配分することにしたって、そのこと自体はボクだって基本的に賛成だもの。

Aさんその割には酷評してましたねえ、

H教授 一国の総理なんだから、口に出す以上はある程度の見通しを持って、不退転の決意で臨み、「文句あるならオレの首を斬れ」くらいの迫力でなきゃあダメだ。ボクがコイズミさんを評価するのはその点だけだ。


Aさんじゃ、同じ出先機関でも地方環境事務所の廃止は? 全国知事会は廃止を提言しているようですけど。

H教授冗談じゃない。地方環境事務所で予算や権限を持っている業務は、国立公園の施設整備や許認可などの管理が中心だ。
国立公園の管理は国で全部やれって言って、自治体が投げ出してしまったからできた組織なんだ。知事会の事務局はそんな中身もしらず、今さらなにを言ってるんだと思うね【4】

Aさんふふ、地方環境事務所のルーツは、センセイが言いだしっぺの「ブロック専決制」だったですものね【5】
でも麻生サンはお粗末だっていうけど、センセイよりは英語がうまいですよ。

H教授前にも言ったろう。英語だけができて仕事ができないやつは、英語も仕事もできないやつよりさらに悪いって【6】。ま、善人か悪人かっていえば、正直な分だけ悪人じゃないんだろうけど。

Aさんセンセイもいつか言ってたじゃないですか。「英雄のいない国家は不幸だが、英雄を必要とする国家はもっと不幸だ」って。センセイにしちゃあ名言だと思ったんですけど、そういう意味では、ああいう人でもソーリになれる国家って、そう悪くないんじゃないですか。

H教授ぷっ、そのセリフはボクじゃない。「三文オペラ」のブレヒトだよ、ベルトルト・ブレヒト。
ま、キミも騙されやすい分だけ悪人じゃないけど、それじゃあ、これからの人生渡っていけないぞ。


「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決

Aさんええい、もう。早く時評に入りましょう。
沖縄の泡瀬干潟の埋め立てについて、地裁はノーという判断を下しましたね。

H教授うん、高裁、最高裁でひっくりかえる可能性が高いけど、画期的な判断だと思うよ。形式論からいえば、あの埋立は一応の法的手続きを済ませている。司法は、中身がどうあれ正当な法的手続を経たものであれば、否定的な判断を下すことはまずないからなあ。

Aさんそもそも泡瀬干潟の埋立計画ってどんなものなんですか。

H教授泡瀬干潟は、本島中部の東海岸にあって、サンゴ礁で囲まれた中城湾の北部に位置している。南西諸島で最大と言われる300ha近い干潟と、100haを越す藻場からなる礁湖性の浅海域で、貴重な動植物がたくさん棲息している豊かな生態系の海だ。
そこに出島方式で、200ha近くを国と県が埋め立てるもので、その総工費は500億円近い。埋立地は県と沖縄市が半分ずつ購入し、そこに一大リゾート開発をしようとしていて、市の開発費は300億円近くになるというんだ。

Aさんな、なんだかバブル華やかなりし頃みたいな話ですね。時代遅れじゃないですか。

H教授はは、まさにバブル華やかなりし頃に計画されたものだ。
最初は陸続きの埋立計画だったけど、反対運動が起きて、出島方式に変更し、規模を縮小したり、漁業補償に手間取ったりして、2000年暮れにようやく公有水面埋立の免許がおりたものだ。
アセスでいろいろ注文がつき、ミティゲーション【7】の検討をしたりして、2002年にようやく着工。
第一区域と第二区域に分かれるが、現在は第一区域の外周護岸ができた段階で、本格的な埋立は来年1月からはじめる予定だった。
一方、反対運動はその後も継続。市議会に求めた住民投票条例案は二度も否決されたが、昨年の市長選挙で慎重派の現市長が、推進派の前市長を破って当選した。

Aさんえっ、それなのに工事を続行していたんですか。

H教授法手続きは終了していたからね。
新市長は第一区域については土地利用計画の見直しを表明し、未着工の第二区域については計画を撤回するとしていたが、県はその後も工事を続行し、県民580人が、今後の公金支出差し止めを請求していた。
本格的な埋立がはじめる直前の判決で、今なら事業を中止して干潟保全することに間に合う、ギリギリの時期だ。

Aさん判決内容は?

H教授市の土地利用計画の見直しが定まっていない段階で埋立を続行することは、経済的合理性が認められず、地方自治法に違反するとし、これ以上の公金支出を差し止める判決を下した。

Aさん当然県は控訴するんでしょうけど、市はどうなんですか。

H教授市長は苦渋の決断とかで、結局控訴することにした。市長選で現市長を支持した反対派住民の失望は大きいようだ。

Aさんセンセイのご意見は? って、もう決まってますよねえ(にやり)。

H教授(にやり)当然だよ。財政難の時代だというのに、こんな時代遅れの開発をなお続けるというのは、カネを泥海に投げ込んでいるようなものだ。
ましてや、未曾有の経済危機の中なんだ。とにかく住民投票を一度やってみるんだな。

Aさんそれに埋立をするということは、干潟・藻場の環境破壊だけでなく、それだけの土砂を持ってこなければならないわけでしょう。それだって環境破壊につながるんじゃないですか。

H教授いや、もともとが隣接する新港の浚渫土の処分地が必要だからということで、はじまった計画らしいよ。港湾をつくるということは、これからの浚渫土をどうするかまで考えなくちゃいけないということだ。
それにその新港だって企業誘致がうまくいかず、遊休地が随分とあるらしい。

Aさん環境アセスメントをしたそうですけど、それで止められなかったんですか。


H教授日本の場合、環境アセスメントにそこまで期待する方がムリなんだ。
開発するとしたら、環境保全上最低限こういうことをやれというところまでしかできないのが普通【8】
だからこそ、SEA【9】だとか、住民投票制度が必要なんだというのがボクの持論だ。

Aさんこういう時代遅れの開発計画が、方々にまだあるんでしょうね。

H教授大規模なダムだとか埋立だとかの巨大公共事業には、20年30年かかって各種調整や補償や用地交渉などの事前準備を行っているうちに、時代遅れになってしまうものが多々ある【10】
この手のロングランのものは、行政内部にストップする仕組みがないのが問題なんだ。そういう意味では、何年か前に話題になった「時のアセス」の制度化が必要だと思う。

Aさん「時のアセス」?

H教授うん、十年くらい前に北海道知事が言い出し、流行語大賞で上位にランキングされたけど、具体的な制度はできず終いになった。
EICネットの環境用語集にもあるけど、ボクなりに発展的に解釈させてもらえば、着工や完成が遅れている巨大公共事業について、新たな社会経済情勢を踏まえ、その必要性や費用対効果をいったんゼロベースに立ち帰って検証するシステムのことだ。

Aさんでもその検証は誰がするんですか。環境アセスのように事業部局がやるんですか。

H教授そりゃダメだ。泥棒に留守番をさせるようなものだろう。
首長が専門家、有識者等からなる第三者委員会を立ち上げる。お手盛りになるのを防ぐため、委員の半分は公募制にする。審議はもちろん公開だ。


Aさんそれじゃあ、意見がまとまらないんじゃないですか。

H教授まとまれば、それに越したことはないけれど、まとまらなければ両論併記でも構わない。その場合はその両論について、住民投票で賛否を問うんだ。
川辺川ダム【11】にしたって、淀川水系4ダムにしたって、こうした「時のアセス」で再評価すりゃよかったんだ。

Aさんすでに工事が終わったものとしては、長良川河口堰、徳山ダム、諫早干拓【12】などがありますけど、これらだって本来「時のアセス」をやるべきだったですね。

H教授うん、新聞によると、本格利用のメドが立たない長良川河口堰の水を、徳山ダムの水と合わせて渇水対策に転用する計画があるそうだ。徳山ダムの導水路の総事業費が890億円で、それにプラス長良川河口堰分の導水路が60億円だそうだ。

Aさんそれにこの手のものは実際に工事が始まると、到底それで収まらなくなるのが通例でしょう? 1000億円は優にかかっちゃうんじゃないかしら。いや、ひょっとすると2000億円かな?

H教授うん、まあそれはさておいて、本来、正当な法手続きを終えた案件に対して、司法が介入するのは問題だと思うけど、こんなことを延々と続けていったら、それこそ日本は破産してしまう。
泡瀬干潟の地裁判決はそういう意味では、ボクの言う「時のアセス」における第三者委員会の役割を果たしたとも言えるんじゃないかな。
昭和40年前後、公害問題に関しては司法が行政・立法をリードする時代があった。昔の時代をいつまでも引きずった、愚かな巨大開発をやめさせるための「時のアセス」のような仕組みをビルドインさせるためには、もう一度司法がリードしなければダメかもしれないと思っちゃったよ。


追い詰められる国交省 ──大戸川ダムと道路整備中期計画

Aさんそれに関連して、例の淀川水系4ダムですけど【13】、大戸川ダムについては明確に反対との4府県知事の共同意見書が出されました。もっとも滋賀県が県議会の承認を得る必要があるそうですから、正式には国土交通大臣には提出していないようです。
地元の大津市長らは依然としてダム早期完成を要望していますが。

H教授まあ、共同意見書では2ダムについては容認としているし、残る丹生ダムについては、具体的な計画が明らかになっていないからということで、態度を表明しておらず、流域委員会【14】とは一線を画しているけど、国土交通省に真っ向から異議申し立てをすることの意味は大きい。
それだけじゃなく、知事らはその後のシンポジウムで流域自治を主張している。ボクのいう「パーシャル・アライアンス」だ。
それに、あまりにも長引いて、すっかり時代遅れになってしまった大型公共事業をやめる場合のルールつくりが必要だとも語っている。つまり「時のアセス」だ。
吉野川第十可動堰の住民投票や田中前長野県知事の脱ダム宣言に始まり、川辺川ダム、そして今回の大戸川ダムと確実に国土交通省は追い詰められている。

Aさんそういう意味では、麻生サンの地方整備局の廃止だか統廃合の検討という発言は、タイミング的にはよかったんですね。
そういえば国土交通省は交通量予測を下方修正するそうですね。


H教授うん、02年に将来予測をしていたんだけど、それによると2020年頃まで交通量は増え続けるということだった。これをもとにして、昨年末道路整備中期計画案をまとめ、今後10年間に必要な道路整備費を弾き出した。面白いことに、今後10年間の道路特定財源の総額がほぼ同額【15】
つまり、当時巻き起こっていた一般財源化議論を牽制するための、水増しされた恣意的な予測として問題視され、当時の福田ソーリは精査を指示した。

Aさんそして06年の交通量の実績は予測通り増えるどころか、漸減していることが明らかになったんですね。そこで渋々下方修正したということですか。

H教授うん、それだけでなく、今年末に公表予定の道路整備中期計画では、事業費総額を盛り込まないことにした。それだけ追い込まれているということでもあるが、暫定税率による税収総額と中期計画全体での道路整備費との差もみえなくなってしまい、将来に向けての議論もしにくくなってしまう。

Aさんまあ、いずれにしても戦後日本の、「土建屋国家」としての発展を支えてきた公共事業については、抜本的な見直しをしなければいけないということですね。


マグロとクジラ

Aさん話題を変えましょう。本マグロの漁獲制限が厳しくなったそうですね。

H教授うん、地中海を含む東大西洋での漁獲枠は、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)が決めているんだ。ICCATの科学統計委員会は、乱獲で資源が減少しているとして、半分近い削減を求めていたんだけど、漁場を抱えるEU諸国が抵抗し、結局2割削減ということに落ち着いた。

Aさんなんだ。温暖化ではかっこいいことをいうEUも、自分のことになると豹変するんですね。

H教授何言ってるんだ。そのEU諸国が漁獲した本マグロの、最大の輸入国はわがニッポンだということを忘れちゃいけない。
いずれにせよ今後マグロの値上げは必至だろう。持続可能な社会をつくっていく上では、われわれ自身の食生活も変えなきゃいけないということだろう。

Aさんそうか…。ところで、クジラの方も新たな動きがあるそうですね。


H教授うん、国際捕鯨委員会(IWC)の作業部会が来月行われるそうだ。調査捕鯨のありかたなどが、本格的に議論されることになるそうだ。
日本の南極海での調査捕鯨は、このところ実績が捕獲目標を下回っている。調査捕鯨の妨害だけでなく、鯨肉の需要低迷もあるとのことだ。調査捕鯨事業は鯨肉の売り上げで賄っているんだけど、日本政府は採算を維持するための最低漁獲量はどれぐらいかの試算を、いろいろしているようだ【16】

Aさんえー、捕獲目標というのは、科学的な調査のために必要な頭数じゃないんですか。

H教授はは、そうみたいだな。だから国際的な批判を浴びているんだろう。商業捕鯨の是非以前に、調査捕鯨のありかたをきちんと議論しなきゃいけないだろう。


COP14前夜

Aさんところでいよいよ明日からポーランドのポズナニでCOP14が始まりますね。

H教授うん、その前に、気候変動問題に関して、前講以降の動きを整理しておこう。

Aさんえーと、まず昨年度のGHG排出量の速報値が出ました【17】。過去最大だそうです。

H教授うん、2006年度より2.3%増え、対90年比では8.7%の増加となる。最大の原因は中越沖地震でいまだに柏崎刈羽原発が停止していることだ【18】
それでもギブアップ宣言をせず、京都議定書の目標は達成可能だと言い続けている日本政府の神経を疑うね。
ギブアップ宣言をしたうえで、今後はあらゆる政策手段をとるべきだ。

Aさん政策手段というと、国内排出量取引【19】と国内CDM環境税【20】、再生可能エネルギー固定価格買取制度【21】ですね。

H教授カーボンフットプリントやカーボンオフセット、フィフティ・フィフティ【22】の制度化、電気料金など公共料金制度の見直しからはじまって、化石燃料の輸入制限まで視野に入れるべきだろう。
それらについて、どういう問題点があって、それをいつまでにクリアして、いつ導入するかという行程表をつくるべきだと思うよ。

Aさんそんなこと、麻生サンはおろか、民主党内閣ができてもムリなんじゃないですか。

H教授まあね(肩を落とす)。

Aさんあと、環境省が新たに環境税に関する提案をしましたよね。

H教授うん、いつかボクもいったように、既存の化石燃料にかかるエネルギー関連税をガラポンして、CO2排出量に比例するように見直すという提案だ【23】。名を捨てて実を取るという戦略だろうね。
ヨーロッパ諸国に較べれば、日本の化石燃料にかかる既存の税は低く概ね半分以下、石炭や天然ガスはデンマークに較べるとなんと数%なんだぜ。

Aさん米国と較べれば?

H教授そりゃあ高い。だけど、その米国流のやりかたこそが元凶なんだ。

Aさんで、反応は?

H教授政府税調の答申がまとまったけど、まるで無視。ひどいものだよ。
福田サンは税制の大幅環境シフトを明言したけど、完全に消えてしまった。


Aさんま、ま、そう落ち込まないで。あれほど中期目標を総量目標にすることを嫌っていた経団連ですけど、先進国や大量排出国については容認しました。

H教授そりゃあ、そうだろう。オバマさんは大統領就任前に、はや自らの所信を示している。先進国の中期目標を総量目標にすることに経団連だけが反対すれば、それこそ世界の笑いものになる。
オバマさんが国内排出量取引や環境税を連邦レベルで実施するとなれば、やはり追随することになるだろう。

Aさんその中期目標ですが、官邸に設けられた中期目標検討委員会は、選択肢として複数の総量目標を示すことにしたようですね。

H教授他の諸国の出方をうかがってということもあるだろうけど、環境省と経産省の主張には隔たりがありすぎて【24】、両論併記にして、あとは政治決断に任せるしかないということじゃないかな。
COP14を目の前にして、オバマさんの所信も含めると、先進国はすべて中期目標としての総量目標値を出しているのに、日本だけがギリギリまで出さないで済ませようとしているのは、いかにも情けないね。
で、委員会の座長は前・日銀総裁の福井サン。不祥事が発覚しても居座り続けた人【25】だ。彼のインタビュー記事が出ていたけど、相変わらず経済成長を至上命題にしているようで、こりゃあ、ダメだと思ったね。

Aさんで、COP14のみどころは?


H教授ブッシュさんが一応はまだ米国大統領なんだから、さしたる進展はないだろう。
ただ、今の経済危機が各国の主張にどう影響を及ぼしているかということには興味があるね。
あと、日本の主張する、セクター別アプローチや途上国から新興国を分けるという提案、さらには基準年として90年を絶対視すべきではないという意見がどう受け止められるかだね【26】

Aさんセンセイのご意見は?

H教授日本の主張はそれぞれある意味もっともなところがある。
でもねえ、それは日本がやるべきことをすべてやり、中期目標でも高い旗を掲げていてこそ、はじめて説得力が出てくるんだ。
ただ単位GDP当たりの排出量が低いというだけで、中期目標の数値も明示せず、ODAは減らす一方で、環境税も国内排出量取引も本格実施せず、再生可能エネルギーへの大幅導入も消極的だったら、およそ相手にされないんじゃないかなあ。


遠慮しつつも「ぼく自身のための広告」

Aさんまあ、蓋を開けてのお楽しみですね。この時評がアップされる頃にはわかっているんじゃないですか。他に何かありますか。

H教授前々講で予告していたボクの著作の第二弾がでた。自主流通本だけど、発行部数も5割増しだ【27】

Aさん例のオタク本ですね。で、発行部数は?

H教授(答えず)あと、ひとつはボクのホームページ(http://www.prof-h.net/)があらかた復元した。

Aさん確か、立ち上げはゼミ生のY君にやってもらってたんでしょう。で、センセイのポカで炎上しちゃったんですよね。
彼はもうとっくに卒業して東京ですよねえ。へえ、センセイ、やっと自分でそういうことができるようになったんだ。

H教授…。

Aさんえ? 違うんですか。

H教授Y君は東京生活もようやく慣れてきたらしく、勤務終了後シコシコと復元作業をしてくれていたんだ。


Aさん情けない。パワーポイントも使えない、ホームページも自分でいじれない大学教員なんて、全国探してもセンセイくらいじゃないですか。

H教授キミがやってくれればよかったんだ! キミはそういうことに関してはボク以下だもんなあ。ホントに情けないよ。

Aさん(弱々しく)類は友を呼ぶってやつなんですかねえ。

H教授

Aさん…(激しく落ち込む)。


注釈

【1】ブッシュ政権のCO2排出削減方針
第64講「米国の新GHG総量目標発表」
【2】厚生省のレンジャーに対する扱い
第56講「回想―役所新人時代」
【3】フクダ前総理による、道路特定財源の一般財源化
第63講「ガソリン暫定税率期限切れをめぐるドタバタ劇」
第64講「道路特定財源の一般財源化で変わること変わらないこと」
【4】地方環境事務所の成り立ちと役割
第23講「時評3 地方分権と国立公園管理」
第25講「地方環境事務所誕生!」
【5】ブロック専決制
第7講「レンジャーの現在と将来」
【6】英語だけができて仕事ができないやつは、英語も仕事もできないやつよりさらに悪い
第51講「キューバから帰国」
【7】ミティゲーション
第43講「アセスとミティゲーション」
【8】環境アセスの限界
第2講「環境アセスメント私論」
【9】戦略的環境アセスメント
第2講「戦略アセスと政策決定システム」
第17講「SEAと立地地点選定」
第51講「SEAガイドライン」
【10】時代遅れの巨大公共事業
第5講「止まらない公共事業の真相=深層」
【11】川辺川ダム問題
第5講「川辺川ダム高裁判決」
第69講「脱ダムの流れ本格化 ―川辺川、淀川水系」
【12】諫早干拓問題
第29講「諫早干拓の新たな転回」
第66講「諫早干拓で原告勝訴」
【13】淀川水系4ダム問題
第69講「脱ダムの流れ本格化 ―川辺川、淀川水系」
【14】流域委員会
第66講「淀川水系4ダムと橋下府政」
【15】道路整備費の恣意的な試算
第59講「道路特定財源をめぐる混迷」
【16】日本の調査捕鯨事業
第66講「捕鯨小論」
【17】温室効果ガス排出量の平成19年度速報値
環境省>地球温暖化国内対策>我が国の温室効果ガス排出量
【18】柏崎刈羽原発の停止
第55講「中越沖地震と柏崎刈羽原発」
【19】国内排出量取引
第62講「国内排出量取引制度の検討開始へ」
【20】国内CDMと環境税
第9講「温暖化対策税の在り方を巡って」
第35講「環境税と特会見直しと第二約束期間」
【21】再生可能エネルギー固定価格買取制度
第70講「経済危機と温暖化対策」
【22】カーボンフットプリントやカーボンオフセットとフィフティ・フィフティ制度
第66講「温暖化対策最新動向」
第59講「カーボン・オフセットとフィフティ・フィフティ」
【23】化石燃料に係るエネルギー関連税の見直し
第64講「福田内閣低空飛行」
【24】中期目標に対する環境省と経産省の主張の隔たり
第63講「温暖化対策の国内動向」
【25】福井前日銀総裁の不祥事
第42講「世事―国内編」
【26】セクター別アプローチなど日本の主張について
第63講「温暖化対策の国内動向」
【27】Hキョージュの著作第2弾
新刊『Hキョージュの鉱物冗報通信 四人組・誤認組編』

(平成20年11月30日執筆、同年12月1日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。