一般財団法人環境イノベーション情報機構

ヘルプ

サイトマップ

メールマガジン配信中

H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.076

Issued: 2009.05.15

第76講 低炭素革命雑感 ―― 附:漂着ごみの行方

目次
春の椿事―草なぎクン、全裸に
鳥インフルから豚インフル
低炭素革命(1)
バカンス革命?
低炭素革命(2)
脱線―ポリティカル・アポインティーについて
低炭素革命(3)
低炭素革命(4) 米国の場合
低炭素革命(5) 原発について
地域環境保全基金と漂着ごみ対策
自然公園法・自然環境保全法改正案のその後

春の椿事―草なぎクン、全裸に

Aさんセンセイ、SMAPの草なぎクンが公園で裸になり、公然わいせつの容疑で逮捕されました。ヒトって見かけによらないものですねえ…。

H教授ま、有名人だからこその何らかのストレスが溜まっていたんだろう。傍目からみりゃあ、カネにも不自由しないし、女性にもモテモテだろうから、うらやましい限りだけどね。

Aさんでも逮捕するほどのことなんですか。

H教授留置所に一晩泊めておくぐらいで十分だろう。そりゃあ、覚醒剤を疑っての尿検査くらいは仕方がないとしても、家宅捜索までやるなんてのは明らかに行き過ぎだと思うよ。
マスコミも大騒ぎするほどの問題じゃないというのに、袋叩きにしてしまう。警察権力の横暴への批判などこれっぽっちもなく、迎合するだけだもんなあ。
でも、なんで裸になったんだろう。よっぽど自信があったのかなあ。うらやましい…。

Aさんセンセイ!(睨みつける)


鳥インフルから豚インフル

H教授う、今のは取り消し。
ところで、メキシコ発の豚インフルエンザが米国に飛び火。カナダでも発病者が出たし、その他の国でも疑いのある患者が発生した。WHOは緊急事態宣言をし、日本も検疫体制を強化するそうだ【1】

Aさんメキシコじゃあ、死者も百人以上出て、学校もすべて休校、街を歩く人はみなマスクをして、握手や抱擁も控えるよう政府は国民に呼びかけているそうです。

H教授昔から豚インフルエンザは、豚と濃厚に接触した場合にヒトにもかかることが知られていたが、ヒトからヒトへの感染はしにくいと考えられていたんだ。
ウイルスが変異したのではないかと言われている。


Aさん新型ウイルスで人類絶滅なんてならないように祈るしかないですね。

H教授小松左京のSF小説にそんなのがあったね。
でも、ウイルスは宿主に寄生してしか増殖ができない。宿主が全滅してしまえばウイルスも自滅する。だからウイルス自体がどんどん変異していって、宿主と平和共存できるようになるって聞いたことがあるから、そこまでの心配は無用だろう。
それでもスペイン風邪のように、その過程で何千万人のヒトが犠牲になれば大変だけどね。
今回の件はまだわからない点だらけだ。情報収集に全力をあげるとともに検疫体制の強化を行うのは当然だけど、メキシコに対しての緊急援助も必要だね。

Aさんアタシ、豚肉食べるのをやめようっと。

H教授そういう発想が流言飛語を招くんだ。豚肉は加熱処理すれば、大丈夫らしい。


低炭素革命(1)

Aさんそうか。でも経済危機でアップアップしているのに、弱り目に祟り目ですね。一日も早く収まってほしいです。
ところで麻生サンは「低炭素革命」なんてことを言い出してますが、その中身はどうなんですか。

H教授「低炭素革命」は4月に入って発表した『経済危機対策』【2】の主要な柱になっているんだけど、それだけじゃないよ、自民党では仮称「低炭素社会形成推進基本法」というのを5月中にまとめて、今国会に提出するそうだし、国連に対してはポスト京都の枠組みについての議定書原案を提出した。

Aさんようやく麻生サンも本腰を入れたってところですか。

H教授そうならばいいんだけどねえ。

Aさん結局はパフォーマンスだけって言いたげですね。

H教授「経済危機対策」ってことで、補正予算を15兆円組んだ。財源は国債つまり借金11兆円と、いわゆる埋蔵金から4兆円。当初予算と合わせると今年度の財政規模は100兆円を越し、国債発行は44兆円にも達するんだ。
44兆円というのは今年度の税収にも匹敵するぜ、いや税収を上回る可能性だってある。

Aさんでも非常事態なんですから…。

H教授「低炭素革命」はその補正予算の柱の筈で、日本版グリーンニューディールの中身なんだろうけど、その額は1.6兆円。補正予算のわずか一割に過ぎない。
残りの半分以上はばらまきと言われても仕方ないんじゃないかな。どうみても抜本的な構造改革を促すものとは思えない。
三大都市圏の環状道路早期完成だとか羽田−成田両空港間の移動時間を50分以内にするなんてのは、まさに悪乗りだ。

Aさんまあ、でも1.6兆円というのは、それなりに巨大な額です。

H教授大雑把に言うと、そのうちの半分近くが低燃費車とエコポイント制度とやらでの省エネ家電の購入補助【3】だ。残りは公共施設への太陽光発電の設置だとか、自治体の地域環境保全基金への積み増しなどだ。
再生可能エネルギーで太陽光、太陽光と騒いでいるけど、風力小規模水力にも力を入れなきゃ、不公平なような気がする。

Aさんま、それはともかくとして、購入補助でもって低環境負荷型製品にシフトさせていこうというんですね。いいことじゃないですか。

H教授でも、まだ使えるものをどんどん新しいものに買い替えを進めるっていうのが、本当にエコライフなのかっていう疑問を持っちゃうね。


Aさんうーん、でもそれでもって内需を増やして景気回復を図ろうとしているんでしょう。
そうすれば、ひいては雇用対策にもなるんじゃないかしら。

H教授それを税金でやるなんて、タコが自分の足を食っているようなものじゃないのかな。それで本当に景気回復が図れるのかな。
ボクは基本的にはそんなことで景気回復ができるのか疑問なんだけど、仮にそうだとしても、購入補助で恩恵を受けるのは、買い替えをできる層、つまり比較的富裕な人たちということになる。そういう富裕な人たちに税金を投入するってことは、ますます格差を助長することになりはしないかということだ。

Aさんつまりセンセイは反対なんですね。

H教授買い替え補助というのは基本的には賛成できない。もし、やるとすれば、格差縮小と総エネルギー需要抑制につながるように、税制体系と公共料金体系も同時に、全面的に見直すべきだ。


バカンス革命?

Aさんまあ、ご荒説はお伺いしますけど、抽象的ですね。雇用促進とか、格差是正について何か具体的な提案はないんですか。

H教授うーん、そうだなあ。残業規制の徹底と有給休暇の義務制はどうだ。

Aさんん? どういうことですか。

H教授残業は、一応は労働基準法や三六協定【4】である程度規制されていて、月100時間以上などの場合には労働基準局から是正勧告があることになっている。でも、実態はサービス残業も多いし、第一、厚生労働省の本省なんかでも月100時間は平気で残業しているんじゃないかな。
残業規制を徹底して原則残業禁止とすれば、その分失業者の雇用機会が増える。

Aさん昔はそうだったかも知れませんが、お役所はともかく、民間では不況になってからは、残業がなくなっているそうじゃないですか。残業手当が減って生活が苦しくなったなんて話を聞きますよ。

H教授残業手当が減った分、自由時間が増える。その分はアルバイトをしてもいいし、なにより余暇を満喫できれば十分じゃないか。

Aさんいくら余暇があったって、オカネがなけりゃ…。


H教授そんなことはない。ブランド品がほしい、いろんな電化製品がほしい、コンサートに行きたい、旅行に行きたいなんていう欲求を全部満たそうというのがそもそもムリなんだ。
ボクなんか石さえ採りに行けりゃ、あとのことは大抵ガマンできる。
カネのかからない楽しみ方を憶えるのにいいチャンスじゃないか。

Aさんそりゃあそうでしょうけど…。
それに残業規制を厳しくしたら、もともと残業手当のない管理職だけがトクすることになるんじゃないですか。これだって格差拡大につながりますよ。

H教授管理職だって、実質的には結構サービス残業をやっているという話もある。だから片っ端から管理職にして問題になったことだってあっただろう。それを原則禁止するとともに、非管理職の残業手当の減収に見合う程度の手当ての切り下げをすればいい。

Aさんそれだけですか。現実にはメーカーなんかでは残業がどんどん減っているという現実からすれば、たいして有効とは思えませんけど。

H教授そこでとっておきの秘策がある。有給休暇の義務付けだ。

Aさんそんなもの、どこでもやってますよ。有給休暇を与えなければ、労働基準法違反でしょう。

H教授違う違う。現在の有給休暇は労働者の単なる権利だ。でも実際には100%消化しているかといえばそうじゃない。ボクの役人時代だって、風邪かなんかのときに使うくらいで、実際には大半はとれなかった。
つまり、権利じゃあダメなんだ。有給休暇は強制的に取らなきゃいけない義務にしてしまう。余分に残した場合は、年度末にその分出社拒否をしなければ、法律違反にする。

Aさん…。

H教授そうすれば非正規であっても雇用機会は格段に増える。
フランスを見習わなきゃいけない。大恐慌のとき、米国はニューディール政策を取ったが、フランスは強制的な休暇取得政策を取った。
今は非常時なんだ。両方やればいい。そして“働き蜂”という汚名を雪ぎ、オカネがなくても、時間的にゆとりのある生活のエンジョイの仕方を覚えるんだ。
大体どこの量販店でもコンビニでも年中無休、深夜営業や終夜営業が当たり前なんて社会は異常なんだ。深夜や休日は当番制で営業するようにすればいい。
いうならばバカンス革命だ。

Aさんうーん。

H教授もちろん、例外は必要だろう。だけど原則をまず明示すべきだ。


低炭素革命(2)

Aさん…ちょっと考えてみます。
ところで話を戻して、低炭素社会基本法の方はどうなんですか。

H教授反対はしないが、すでに温暖化対策法があり、一方では環境基本法があって、2050年低炭素化社会に向けてのいろんな閣議決定もなされている。
だから問題はその中身だ。6月中に決めるとされている2020中期目標とセットらしいが、その中期目標がどうなるかだ。

Aさんすでに官邸は6つの案について、検討を進めているみたいですね【5】

H教授うん、そして経団連に代表される産業界は、第一案のGHG排出の対90年比+4%か、第二案の対90年比+1%―△5%しか受け入れられないと表明している。

Aさん両方とも国際常識からは非常識ですよねえ。大体、+4%から△25%までって、あまりにも選択肢が広すぎるんじゃないですか。

H教授結局、環境省と経産省の対立がそのまま持ち越したってわけだ。


脱線―ポリティカル・アポインティーについて

Aさんでも各大臣は総理大臣が任命するんですよね。将来は低炭素社会にするって内閣の方針が決まっているんなら、それでもって大臣は自分の省にそれをやらせなきゃいけないんじゃないですか。

H教授日本の場合、各省の大臣はその省の役人の代弁者になってしまうんだ。
そうさせないためには、高級官僚も同時に代えなきゃいけない。米国なんかは大統領が変わるたびに、高級官僚は総とっかえになってしまう。
いわゆるポリティカル・アポインティー、つまり政治任命制度だ。

Aさんなぜそうしないのですか。

H教授政治任命制度がいいとは限らないよ。いい面も悪い面もあるということをまず押さえておかなきゃいけない。
ブッシュさんが大統領になった途端、京都議定書を離脱するなど、米国連邦政府の環境政策は最悪なものとなっただろう。これが政治任命制度の欠陥だ。
もっとも首長や大臣の個性が発揮されるってことは、日本の制度でだっていくらでもある。
田中長野県知事のときに脱ダムをやった【6】し、石原サンはあのとんでもない「新銀行東京」を作った【7】。「かんぽの宿」問題だって鳩山邦夫サン(総務大臣)の個人プレーだろう。


Aさんそういえば、環境省は温暖化対策で原発推進に舵を切り替えたそうですね。あれも斉藤大臣の方針ですか。

H教授うん、その話はもう少し後でしようと思うが、斉藤サンは大学での専攻は原子力工学で、原子力利用には思い入れがあるのかもしれない。
ただ、一般的には日本のシステムでは、長は「君臨すれども統治せず」で、対外的には役所の代弁者になりがちだと言うことは知っておいた方がいい。

Aさんで、センセイの「政治任命制度」に対するご意見は?

H教授平時には日本のような制度の方がいいのかも知れない。ただし、急速に方向転換しなければいけない時期には、日本流では対応できなくなるのも事実だし、今がまさにそのときだろう。
この緊急時に、いまだに泡瀬干潟埋立【8】だの八つ場ダムだの静岡空港だのの建設を続けているし、経済危機だ、補正予算だというと待ってましたとばかりに「三大都市圏の環状道路早期完成」だとか「第二名神高速早期完成」だとかというのが騒がれるのがその証拠だ。
このままじゃあ、「低炭素革命」なんてコトバだけが上滑りして、日本の未来があるんかなと心配してしまう。

Aさんだから“若者が政治と将来に絶望する”んですね。


H教授はは、赤木智弘の『若者を見殺しにする国―私を戦争に向かわせるものは何か』(双風舎 2007年)を読んだな。でも、ボクのゼミ生たちを見ているとそんなふうじゃないけどな。キミだってそうだろう?
ボクは経済学は門外漢だから池田信夫氏の論が正しいかどうかわからない。彼の温暖化軽視論はナンセンスだと思うけど、4月19日付けのブログの記事「希望を捨てる勇気」には膨大な数のコメントが寄せられていて【9】、いろいろ考えさせられる。


低炭素革命(3)

Aさん話を元に戻しましょう。
麻生サンは6案からどれを選ぶんでしょうか。

H教授さあなあ。ただ経産省や産業界の主張する経済へのマイナス効果は最大年率0.5%ということだ。でも、それは現在の産業・社会構造が現状のまま推移するとした場合の見積もりであって、問題は産業・社会構造そのものを変えなければいけないということだ。その場合は果たしてマイナスのままかどうか、どの程度のマイナスかということは示されていない。
そして、もうひとつ、低炭素化社会の実現は、人類の存続のために科学的に要請されていることだということを忘れちゃいけない。

Aさんたとえ経済レベルが下がっても、それが必ずしも不幸だということを意味しないという、センセイの持論につながってくるわけですね。


H教授そう、第一次産業の復興、農山村への回帰と、新たな地域コミュニティの創出につながりさえすればね。

Aさんところで政府が国連に提出した、ポスト京都の枠組みに関する提案というのは?

H教授うん、以前にも言ったことがあるけど、それとほとんど同じだ【10】
世界全体で2050年にGHG半減という長期目標を明記し、先進国は2013年度以降の一定期間内にGHG排出総量削減目標を国ごとに明示する、そして途上国は「新興国」と「途上国」に分ける。
韓国、メキシコ、中国、インド、ブラジルなどは「新興国」として、自主的な削減計画の策定義務と、産業別の省エネ目標値の設定義務を課す。排出量の少ない途上国は自主行動計画のみとするというものだ。
また、数年おきに削減目標を見直すとしている。

Aさんセンセイはどう思われます。

H教授条件付だが、いい案だと思うよ。

Aさんお、珍しく評価しましたね。で、どんな条件ですか?

H教授2050年には日本はGHG80%カット、そしてそのため2020年には最低でも対90年比25%カットを公約するとともに、単位GDP当たりのGHG排出量は2050年まで一貫して世界一の少なさを維持することを宣言する。そして、途上国へは省エネ技術の無償支援を謳いあげる。
こうしたものとのセットでなら、それなりの説得力があるんじゃないかな。


Aさんうひょお、官邸で検討している6つの案とでは、相当の隔たりがありますねえ。

H教授ああ、マジメな顔をして「対90年比+4%」なんてことを、選択肢の一つにしているうちは何を言ったって信用されないし、オバマさんにも置いていかれるだけだ。
第一案とか第二案なんてのは、この経済危機が続けば何の努力をしなくても達成可能だ。というか、不幸にも自動的にそうなってしまうぐらいの案でしかない。


低炭素革命(4) 米国の場合

Aさんどうもこれからのキーを握るのはオバマさんみたいですね。

H教授うん、それと連邦各州政府の動向だろう。
4月に入り、オバマさんはEU首脳と会談、オバマさんは温暖化交渉に「復帰」を高らかに宣言。COP15で先導していくと大見得をきった。MEM(=主要経済国会合)も名称を変えて継続させるとして、新興国への影響力を強めようとしている。
確かに現時点では2020年目標は対90年比ゼロだが、前のブッシュ時代には90年比で2割だか3割アップだと言って平然としていたんだから、革命的な変化だよ。しかもそれだって大幅に変わる可能性がある。
もちろん2020年だとあと10年ちょっとしかなく、現実的に難しいということになれば、ひょっとすれば2030年目標などと言い出しかねないし、EUと張り合うような数値目標を出してくるかも知れない。そのとき日本はどうするつもりなんだい。


Aさんえー、そんなこと、何か根拠はあるんですか。

H教授別にないよ。だけど、そんなことあるわけがないという根拠だってないだろう。なにせ「100年に一度の大津波」だ。何でもありだろう。
それに米国内では、州政府だって大きく変わっている真っ最中だ。
カリフォルニア州では2016年までにクルマからのGHG排出を3割カットするという規制を導入するそうだし、他の13州も追随するそうだ。ブッシュさんはそれを断固拒否したが、オバマさんはそれを推奨している【11】
カリフォルニア州知事のシュワルツネッガーさんは、今やクルマの燃料の生産過程で出るGHGの一割カットという世界初の規制まではじめた。


低炭素革命(5) 原発について

Aさんへえ、センセイがいつか言ってた原油の輸入制限に一歩近づいたんじゃないですか【12】
でも、それって必要なエネルギーを原発の推進によって賄うつもりなんじゃないですか。

H教授確かにブッシュさんは原発推進に舵を切ろうとしたが、オバマさんはどうかわからない。
それどころか、使用済み核燃料の再処理施設と高速増殖炉【13】を断念する方針を発表した。
まあ、このこと自体は温暖化対策とは関係ないんだけど、この延長線上で原発依存からの切替だって言い出す可能性があると思うな。

Aさんそれもセンセイの根拠のない憶測ですね。


H教授(苦笑い)そう、「なんでもあり」のね。

Aさんで、日本はどうなんですか。環境省は原発推進に舵を切ったそうですが。

H教授4月17日の経産省主導でまとめられ、経済財政諮問会議で決定した経済戦略、「未来開拓戦略」【14】では、低炭素革命を謳い、2020年には再生可能エネルギーの最終エネルギー消費に占める割合の20%目標を決定したんだけど、その中で原発の新規建設を推進すると明記している。2018年度までに9基の新設を目指すそうだ。

Aさん環境省も発表しましたね。

H教授うん、4月20日に「緑の経済と社会の変革」、グリーン・イノベーション・ジャパンを発表した【15】。未来開拓戦略と重複する部分が多いが、キャップ&トレード型の排出量取引環境税導入を主唱している【16】
それはいいんだが、一方じゃ、最初に言ったとおり、原発の設備利用率の向上、新規建設と高速増殖炉も含めた核燃料サイクルの早期実用化の必要性を明記した。これは斉藤大臣の強い意向だったらしい。

Aさん環境省はこれまであまり積極的じゃなかったのにねえ。

H教授京都議定書でもあくまで補完的な措置としか位置づけられていない。それは原発の安全性に残る一抹の不安だけでなく、原発は実はプルトニウム製造装置にほかならず、核拡散を招きかねないという危惧だったと思う。


Aさんそもそも未来開拓戦略にしても前提は経済成長なんでしょう。
で、成長のためにはエネルギーが必要、再生可能エネルギーだけではそれはムリ、化石燃料の使用の増加もダメ。…だとしたら原発しかないってことなんでしょうねえ。

H教授前にも言ったけど、経済の無限成長という呪縛【17】は解けてないようだ。

Aさんところで今回の補正予算や経済戦略の中で、環境部門は低炭素社会関連だけなんですか。


地域環境保全基金と漂着ごみ対策

H教授そんなことはない。目立ったところでは「地域版グリーンニューディール基金」がある。

Aさんそれはなんですか。

H教授うん、平成元年に58の都道府県・政令指定市に対して、「地域環境保全基金」なるものの創設に国は助成したことがある【18】
基金は最低額が一自治体当たり1億円で、確か対象となったほとんどすべての自治体が基金を創設したんじゃなかったかな。
基金の運用益で、環境保全のための広報などソフト事業に充てるというものなんだけど、今の金利では運用益ったって、ごくわずかだ。
その基金に今後3年間、毎年550億円を積み増すということのようで、その際自治体の負担は不要とするようだ。


Aさんでも金利が今のままじゃあ、雀の涙というか、焼け石に水みたいなものじゃないですか。

H教授いや積み増し分は、取り崩しても構わないということのようだから、いろんなことが可能だと思うよ。
今想定されているのは、温暖化対策法で作られた実行計画に基づく事業や、アスベスト廃棄物不法投棄対策、PCB対策【19】、それに漂着ごみ対策などのようだ。
でも使い道を指定するんでなく、できるだけ自治体の自由にすべきだと思うし、もっと有効にするためには、規制や税制に対する地方分権をもっと進めなきゃいけないと思うけどね。

Aさん550億円の配分計画は?

H教授これからルール作りにとりかかるらしいけど、基本的には事業計画内容と人口等で配分を決定するとしている。
でも前者で査定するなんてなると、また三割自治になっちゃいそうな気がする。どうしてもそうするというなら、査定過程をすべてオープンにすべきだろうな。

Aさん何かその想定している事業で目新しいものはありますか。


H教授海岸漂着ごみ対策に毎年50億円を充てることを検討しているそうだ。以前から問題が指摘され、検討していたんだけど、カネがネックになっていたらしい。
それをセットにして、仮称「漂着物処理法」の骨子がこのほどまとまったそうだ【21】

Aさんちょ、ちょっと。順序立てて説明してください。

H教授海岸をちょっと歩けばわかるけど、浜にはいろんなものが打ち上げられている。


Aさん♪名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実ひとつ♪(「椰子の実」島崎藤村作詞、大中寅二作曲)とは時代が違いますものね。ペットボトルやら何やらが一杯で…。

H教授廃棄物処理法では産業廃棄物は排出者が、それ以外の一般廃棄物は市町村が処理責任を負っている。
漂着ごみは、普通は産業廃棄物ではないから、一般廃棄物ということになる。一般廃棄物の処理は「住民が出したごみだから、住民にもっとも密着している自治組織である市町村の責任」という理屈なんだけど、漂着ごみや海底のごみの場合、他の地域や場合によっては他国から流れてきたものが多くを占め、そんなもの処理する謂れはないとなるのが普通だ【22】

Aさん土地所有者の処理義務はないのですか。

H教授土地の占有者には清潔の保持に努める旨の規定があるが、これでもって海岸の管理者に処理義務があるというのは酷だろう。

Aさんそもそも海岸の管理者は誰なんですか。


H教授プライベートビーチというのがないわけではないが、一般的には国有地だろう。ただし、港湾区域や漁港区域のそれぞれの管理者は公共団体とされていて、実態としては都道府県か市町村――以下、県にしちゃうよ――が多い。また、それ以外の海岸でも「海岸保全区域」は原則として県が管理者だ。海岸保全区域以外の海岸は国の普通財産だったが、管理は市町村に委任されていたんじゃなかったかな。
ただ、海岸法の大改正で、ほとんどの海岸は海岸保全区域に指定され、今では港湾区域や漁港区域以外でも原則として県が管理者になっていたと思う。
気を付けなきゃいけないのは、一口に県といっても、港湾区域と漁港区域、そしてそれ以外ではすべて所管する課が異なることだ。

Aさんふうん。で、現実の処理はどうなっていたんですか。

H教授ボランティアなどが回収して、燃えるものは燃やしたりしていたんだが、現在では市町村の処理場に持ち込んでいることが多いんじゃないかな。
でもさっき言ったように、なぜ市町村が処理しなけりゃあならないかって不満が鬱積していたんだ。カネだってかかるからね。

Aさんで、その新法ではどういうことになりそうなんですか。

H教授政府は「基本方針」を定める。県は単独または共同で「地域計画」をまとめ、その中で役割分担を明確にする。また住民、ボランティアも含めた推進協議会を組織することができるとしている。
処理責任という言い方はしていないが、海岸管理者、つまり知事が清潔保持の観点から必要な措置を講ずるとしている。
そして他府県からのごみが多い場合は、当該県に協力を求めることができるし、外国の場合は外務大臣が外交上対応するとしている。さらに、環境省の協力規定も盛り込まれているし、国民の協力義務規定も設けるようだ。
そして決定的に重要なのは、政府は必要な財政措置を講じるし、他府県や外国からの漂着ごみが多い地域では、財政上特別な配慮をするということだ。


Aさんつまりカネの面は見通しがついたので、県が中心になって処理をするということですね。

H教授うん、実務上は窓口が廃棄物処理主管課になるか、海岸管理者サイドになるかの問題はあるが、直感的には前者だと思う。また、実際の処理は処理場を持っている市町村が行うけど、ちゃんとそのための経費を県が面倒をみるということだろう。

Aさん廃棄物処理法で、一般廃棄物と違うジャンルとして漂着ごみを位置づけるのですか、また漂流ごみや海底ごみも適用されるのですか。

H教授さあ、どうだろう。後者は多分含まれるだろうと思う。
あとこの予算措置は3年限りとしているが、それから以降もこの枠組みでいくことにならざるを得ないんじゃないかな。


自然公園法・自然環境保全法改正案のその後

Aさんふうん、ところで前講で取り上げた自然公園法の改正【23】はどうなったんですか。
あれも沿岸域の保護強化が重要なテーマだったですね。

H教授うん、無事4月17日に成立した。自然環境保全法も同時に改正された。
そうそう、前講(第75講)で、
「今の役人の間では、法律を制定したり、改正すること自体が目的になってしまっているような気がするんだ。法律は目的達成のための手段であって、目的そのものじゃないんだ。だけど、法律の制定や改正は役人の勲章みたいに思ってるところがあるんじゃないかな。」
と書いたんだけど【24】、改正に携わった環境省の幹部職員から、決してそんなことはない、われわれにレンジャーマインドは健在だとの抗議文が届いた。
ぼくとしてはエールを送ったつもりだったんだけど、カチンと来たようだな。不徳のいたすところだ。
まあ、その言やよしで、今後の頑張りに期待しよう。
ただ、90年前後の環境庁時代――ボクが水質規制課長時代――には、庁議のたびに、なんか法改正のタマはないのかと、各局長が事務次官から毎度毎度せっつかれていて困っていたのは事実だけどな。

Aさんねえ、センセイ。さっき、漂着ごみの話があったでしょう。それと自然公園法、自然環境保全法の改正とリンクさせればどうかしら。

H教授えっ、どういうことだ。

Aさんアタシ、学部生のときにゼミの実習【25】で、山陰海岸国立公園の竹野海岸に何度か行ったんですけど、ホントにきれいな海で感激しました。
でも打ち上げられた漂着ごみには閉口しました。中には明らかにハングルや簡体漢字のごみもありましたし、医療廃棄物まで漂着していました。
ボランティアの方と一緒にごみ拾いをして、自治体で処理してもらったんですけど、自然公園行政でも何かやれることはないのかしらと思ったんです。

H教授なるほどねえ。考えてみる余地はあるねえ。


Aさんよかった! だって、どんなキレイな国立公園の海岸だって漂着ごみがあるだけで、げんなりしちゃいますもの。
もしあの海岸に漂着ごみがなくなれば、心置きなくカレシとロマンチックな愛を語れるわ。ウフ。

H教授漂着ごみが消える日と、キミがカレシを見つけるのとどちらが早いかだね(鼻で嗤う)。

Aさんヒッ、ヒドーイ(泣き出す)。



注釈

【1】豚インフルエンザのヒトへの感染
米国やメキシコで発生している豚インフルエンザの状況を発表
豚インフルエンザのヒトへの感染について政府の対処方針を発表
【2】内閣府発表「経済危機対策」
経済危機対策(平成21年4月10日)
『経済危機対策』本文(「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議/平成21年4月10日)(PDF)
【3】エコポイント制度による省エネ家電への購入補助
「エコポイントの活用によるグリーン家電普及事業(仮称)」は、「エコ・アクション・ポイント」とは異なる制度で実施へ 5月15日からポイント付与(国内ニュース)
【4】三六協定(サブロク協定)
労働基準法第36条に基づき、時間外労働や休日労働について使用者と労働者代表(労働組合等)が書面で取り交わす協定。日本の法令上、時間外労働が許されるのは、非常事態等において行政許可を取る場合や公務員が公務のために必要な場合、または三六協定を締結して行政官庁に届け出た場合のいずれかに限られるとされる。
【5】低炭素社会基本法と6つの案
第73講「日本の中期目標をめぐって」
【6】田中知事の脱ダム宣言
第33講「時評2年半を振り返る ─1」
【7】石原都知事の新銀行東京
第63講「新銀行東京に桜は咲くか」
【8】泡瀬干潟埋立問題
第71講「「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決」
【9】池田信夫氏のブログ記事に対する膨大な数のコメント
4月19日付けブログ記事「希望を捨てる勇気」
【10】政府が国連に提出したポスト京都の枠組に関する提案
第69講「ポスト京都へ ─国内排出量取引制度開始前夜、政府のポスト京都案」
【11】米各州のGHG排出3割カットに対する合衆国政府の対応
第75講「米国はどこへいく──」
【12】キョージュの原油の輸入制限構想
第18講「温暖化対策大綱改定作業」
【13】使用済み核燃料の再処理施設と高速増殖炉について
第18講「核燃料サイクルと高速増殖炉」
【14】未来開拓戦略
経済財政諮問会議(平成21年第10回) 会議資料
【15】緑の経済と社会の変革 グリーン・イノベーション・ジャパン
環境省 「緑の経済と社会の変革」について
【16】排出量取引と環境税に関する話題
第62講「国内排出量取引制度の検討開始へ」
第35講「環境税と特会見直しと第二約束期間」
【17】経済の無限成長という呪縛
第72講「2009年、霧中の旅」
【18】地域環境保全基金
平成2年版環境白書(第1章 第3節 1 環境管理の推進)
【19】PCB対策
第3講「PCBの教訓」
【21】漂着物処理法の骨子
海岸漂着物処理推進法案を了承 漂流・漂着物対策特別委員会・関係部会合同会議
【22】漂着ごみの処理責任
第48講「水俣病50年と漂流・漂着ごみ」
【23】自然公園法の改正と沿岸域の保護強化
第75講「自然公園法の改正と海域保護の課題」
「自然公園法及び自然環境保全法の一部改正法律案」を閣議決定へ 生物の多様性の確保など(国内ニュース)
【24】法律の制定、改正自体が目的化していないか
第75講「法律は目的でなく手段である」
【25】ゼミ実習
第32講「経験的ボランティア考」

(平成21年4月27日執筆、同年4月末日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。