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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.026

Issued: 2005.03.10

第26講 国土計画と自然保護

目次
辺野古沖埋立ての新転回
オオクチバス再論
温暖化対策最新動向
全総の廃止と国土計画
もうひとつの国土計画―土地利用基本計画
自然環境保全地域等の蹉跌

辺野古沖埋立ての新転回

H教授先週、沖縄に行ってきた。

Aさんへえ、沖縄旅行ですか、うらやましい。

H教授うん、ゼミの卒業旅行だったんだ。以前、普天間飛行場の辺野古沖移設問題を取り上げたよね【1】。あれが急転回しそうなんだ。
辺野古に立ち寄って、反対運動を続けている人たちのテント村を訪ねてきたんだけど、ちょうど翌日の新聞誌面を賑わしていた。


Aさんどういうことなんですか?

H教授もともと普天間飛行場を辺野古沖に移設する計画だったんだけど、移設には、順調に行っても――まあ、行きっこないけど――10年以上の期間を要する。「冗談じゃない! そんなに待てない」と米側が言い出した。政府内部でも他の移設地がないか内々検討しだしたって記事だ。

Aさん反対運動の結果ですか?

H教授そんなこと公式に認めるわけないじゃないか。ただ現地の反対運動のほか、IUCNの勧告が出るだのといったジュゴンサンゴ礁の保護運動の広がりが影響しているのは確かだと思う。

Aさんテント村のひとたちは欣喜雀躍していたんじゃないですか。

H教授難しいコトバを知ってるな。10人くらいの中高年の人たちがいたけど淡々としていたよ。だって新聞に出たのはその翌朝だったもん。


Aさんそういえば嘉手納基地の軍用機騒音訴訟の地裁判決も出ましたね。

H教授うん、普天間は宜野湾市にあるんだけど、嘉手納基地というのは、その北の嘉手納町にあって、なんとその町の面積の83%を占めているんだ。米軍機の夜間・早朝の航行差し止めと騒音被害の賠償請求を求めた集団訴訟の判決が先月出された。飛行差し止めは権限なしということで却下されたけど、国に28億円の損害賠償を命じたんだ。

Aさんじゃあ原告の勝訴ですか?

H教授いや、差し止め請求が認められなかった点や、賠償の範囲が過去の判例より狭かったというので、とても勝訴という雰囲気じゃないね。沖縄の人たちの政府不信や反米感情は高まる一方じゃないかな。

Aさんで、辺野古沖は今後どうなるんですか。

H教授まったくわからない。在アジア米軍の再編・再配置問題の行方次第だろうな。
ただ、他の代替地を探すったって、どこへ持っていっても猛烈な反対運動は必至だ。政府財政も逼迫しているから札束でほっぺたをひっぱたくようなことも難しい。かといって、現状のまま放置するわけにはいかない。
もはやこの問題は単なる沖縄の環境保全の問題じゃなく、日本の安全保障をどう考えるかという日本全体の問題になってきているんだ。


Aさんふうん、いよいよ総合政策的観点が必要だってわけですね。

H教授そうそう。キミは総合政策研究科の一員なんだから――一応はさ――、環境だけじゃなく、総合政策的視点を忘れちゃダメだ。
で、辺野古ってのは観光地じゃない寒村でね、付近に昼飯を食うところもないから、「勤労者いこいの村」っていうところに行ってきた。山頂にあって、ヤンバルの照葉樹林や海岸を見渡せる絶景を楽しみながら食事したんだけど、ほとんど貸し切り状態だった。ホント閑散としていたなあ。
この「いこいの村」というのは、旧雇用促進事業団が雇用保険の掛け金から融資を受けて造った施設だけど、どこも大赤字で地方自治体に売りに出しているという代物だ。
この手の施設は、70年代から80年代にかけていろんな省庁で造り出したけど、まあまあうまく行ってるのは老舗の休暇村(環境省)【2】くらいで、あとはバブルが弾けて以来、軒並み崩壊状態だね。

オオクチバス再論

Aさんその話は今度ゆっくり聞きます。
それよりも前講に対する批判が何通も来ていますよ。オオクチバスの件【3】ですけど、『自分できちんと調査しないで、水域の生物を食べ尽くしてしまうなどといういい加減な発言をするな』ですって。どうやらオオクチバスの特定外来生物の指定【4】に反対している方々のようですが。

H教授もちろん自分で調査したわけじゃないよ。だけど学生のレポートで『オオクチバスが、その水域の生物を食べ尽くしてしまい、共食いまでしている』というのがあったから、マサカと思ってネットで「オオクチバス 共食い」と検索したら452件ヒットした。
在来魚や漁獲量に影響を与えているという調査がいくつも出てきて、それらをざっとみて、在来種に対するインパクトは相当ありそうだと判断した。
水域の生物を食べ尽くすというのは、岩魚も悪食で共食いするから、それだけで判断したわけじゃない。東北地方の小さなため池ではブラックバス以外の魚がほとんどいなくなったという話もその中に出てきていて、信憑性もありそうだった。とはいえ、二次情報だから「という話もあるみたいだ」としたんだ。


Aさんなあるほど。

H教授もちろん湖なんかでは隠れ家もいっぱいあるだろうし、オオクチバスも自分の体長の半分以上になると捕食しないなんて話もあるから、完全に食い尽くすことは、まあまずないと思うけど、在来種を圧迫しているのは否定しがたい事実だと思うな。
少なくとも生態系保全という観点からはオオクチバスの放流はなに一ついいことがないのは確かだな。もちろん食糧確保だとか、全国民的観点から必要だということがあれば話は別だけど、そういうわけじゃなくて釣り人の楽しみだとか、釣り業界の振興みたいな観点から容認しろといわれてもちょっとなあ。

Aさんセンセイは釣りをやらないからなあ。ゴルフもやらないからゴルフ場開発には厳しい見方をするんですよね。

H教授もちろん、オオクチバスはさして在来種にインパクトを与えていないというポジテイブな情報を教えていただければ、この欄で紹介するよ。
公平を期するため『皇居のお堀でブラックバスが大繁殖して全体の7割〜8割を占めるとして大問題になっていましたが、実際に水抜して調査した結果、匹数割合で全体の0.59%しかいなかったことはあまり知られていない事実です』という投書があったことも紹介しておこう。
調べてみたら環境省の調査結果【5】が発表されていた。それによると、移入種の大部分をブルーギルが占め、オオクチバスは投書の通り、全体のわずか0.59%だった。ブルーギルとブラックバスを合わせて12.6%で、残り87.4%は在来種だったという結果だ。
ただ、環境省で外来魚の駆除事業に取り組みはじめてから、根絶を目的に、水を抜いて全数捕獲したときのデータのようだから、それまでの実態調査の結果とはおのずと意味が異なる。過去に、5〜10年おきに定期的に実態調査を実施してきた結果では、ブラックバスはともかく、ブルーギルの移入が深刻で、捕獲個体の8割に上るという結果が出ていた【6】
「ブラックバスが」じゃなくて「外来魚が」とすれば、問題の深刻さは疑いようはない。

Aさんふうん。『ブラックバスは被害者だ』という投書もありましたが、それはどう思われますか。

H教授そりゃそうだ。ブラックバスにはなんの罪もない。密放流する人間に罪があるだけでね。
それにブラックバスやブルーギルが生態系破壊の元凶みたいな言い方がされているけど、同等かそれ以上に、水際線をコンクリートで固めたり、水辺植生を破壊したり、排水を流入させる人間の責任があることを忘れちゃいけない。
ブラックバスだけをスケープゴートにしちゃいけないというのは、まったくその通りだ。

温暖化対策最新動向

Aさんところで、このところ新聞に出る環境の話といえば大半が温暖化の話ですね。ほかにもいろいろあるでしょうに。

H教授まあ、しかたがない。京都議定書【7】が2月16日に発効したばかりだもの。メデイアってのはそういうもんだという前提で記事を読まなきゃいけない。


Aさんで、温暖化の方ではなにか新しい展開はあったんですか?

H教授5月の閣議決定を目標にしている「京都議定書目標達成計画」【8】で、産業・運輸・民生の三部門別の削減目標案が固まったと新聞報道されていた。産業部門の削減目標がアップされるみたいだ。

Aさんへえ、いいことじゃないですか。経済産業省もOKしたんですか。

H教授そこまで書いてなかったけど、そうじゃないかな。でもこれはあくまで目標だから、実際に削減されるかどうかは別だ。

Aさんで、90年比6%削減は達成されそうなんですか。

H教授経済産業省も環境省も達成可能だと言っているし、細田官房長官も達成される可能性が高いと言っているよ。ボクは不可能だと断言しておくけどね。

Aさんまたセンセイのペシミズムがはじまった(笑)。
環境省念願の環境税【9】はどうなったんですか。

H教授さあ、まだ水面下の攻防が続いているんだろうな。まあ、落としどころとしては、既存の税制の一部を環境税として組み替えて、実質的な増税、特に企業増税とはしないみたいなところじゃないかな。具体的にはエネルギー財源である石油石炭税の一部だとか、揮発油税などの道路財源の一部だね。


Aさんでも、それじゃ環境税の本来の目的である、経済的手法によるエネルギー消費の節減にはつながらないんじゃないですか。

H教授うん、それはそのとおりで、ボクはそれでいいと言ってるわけじゃない。でも強い政治のリーダーシップが働かず、従来型の調整で行くとすれば、最大限うまくいってもその程度だろうということだ。
従来型の調整とは、名をとって実を捨てる――というか、その逆かはわからないけれど、ある省庁の一人勝ちにはさせないということだ。

Aさんふうん、足して2で割るとか、玉虫色とかいうやつなんですね。
あと大規模発生源である大きな企業には、事業所ごとに温室効果ガスの排出量の報告義務を課し、原則公表することを温暖化対策法に盛り込む方針を決めたそうじゃないですか。

H教授うん、そうすることで自主的な排出削減を期待しているんだろう。それにいずれ日本でも、企業間の排出権取引制度の構築が必至だと思うけど、その場合のキャップ(割当排出量)を決める際の重要なデータにしようということなんだろうな。

Aさんでも、オフィスや家庭などの民生部門はどうすればいいんですか。節約とか節電とかを訴えるだけでいいんですか。環境家計簿だとかコンセントを抜いて待機電力を減らすとか、メニューだけはいろいろあるけど、それだけじゃどうにもならないんじゃないですか。

H教授うん、実はそこが大問題なんだ。現にどんどん増えてるものなあ。
とりあえずは電気代やガス代のシステムを変えることだと思うな。使用量が倍になれば使用料金は三倍になるような累進料金制を採用するとともに、戸別のメーターやさらには個々の電気製品やガス製品に累積使用料金の表示を義務付けるくらいの大胆な方策をしなくちゃいけないな。

Aさんまた無茶苦茶な暴論を。

H教授今は暴論に聞こえるかもしれないけど、第二約束期間の頃には当たり前になっているかもしれない。

Aさん温暖化ではそんなところですか。

H教授(暗い顔で)またぞろサマータイムの話が出てきた。こんどは京都議定書という水戸黄門の印籠があるから、ひょっとしたら実現するかもしれない。

Aさん夏の間、時計の針を一時間早めるというものですね。センセイ、反対なんですか。

H教授夜遊び時間が長くなるだけで、それほどエネルギー消費の抑制にはつながらないと思うよ。ずうっと昔、日本でもやったけど、世間に混乱をもたらすだけだからというので廃止されたものなんだ。


Aさん当時と目的が違うでしょう。エネルギー消費の抑制につながらないなんて、そんなのやってみなければわからないじゃないですか。理論的にはつながる可能性だってあるし、海外ではやっている国だって多いじゃないですか。

H教授う、うるさい。とにかく反対だ!

Aさん(諭すように)センセイ、要は朝起きが苦手なだけなんでしょう。人間は太陽の昇るときから活動を始めて、夜は早く寝るのが本来のライフスタイルなんじゃないですか。
(ひとりごと)でもふつう歳をとれば早起きになって枯れていくっていうのに、このセンセイったら、いつになっても生臭さだけはとれないんだから...。

H教授...。

Aさん仕方がない、話題を変えますか。環境問題は温暖化一色ですけど、ほかに何かありますか。


H教授うん、もちろんいろいろあるよ。法案関係【10】でいうと、今国会には前講で言った地方環境事務所【11】設置に関連して環境省設置法の改正案が出されているし、湖沼法下水道法浄化槽法廃棄物処理法なども改正案が出されそうだ。また、先に大気汚染防止法の改正で導入されたVOC規制【12】の具体的な手法が固まったなどいろいろある。だけど、やっぱり新聞にはほとんど出ていないなあ。

Aさんで、今回のメインデイッシュは何を取り上げますか。

全総の廃止と国土計画

H教授そうだなあ、今言った法改正は、まだ骨子案の段階で、各省協議だとかあって完全に固まっているわけじゃないから、先に延ばそう。今回は国土計画の話でもするか。

Aさんえ? 西武コンツェルンの堤義明サンですか? ...とうとう逮捕されちゃいましたねえ。

H教授ちがうちがう、そっちの方は確かに昔は「国土計画」という会社名だったけど、今はコクドのはずだ。
...それにしても時代は変わったねえ。高度経済成長のシンボル、中内功サンが没落したかと思ったら、今度は堤義明サンだもんねえ。こうした古い超カリスマが没落し、外資の尖兵役だか知らないけど、ホリエモンとやらいう、わけのわからない若者がフジ・サンケイグループを震撼とさせているんだもんねえ。


Aさん時間のムダです。早く本論にいきましょう。

H教授わかったわかった。先日、新聞にゼンソウ廃止の話が出ていた。

Aさんゼンソウ? 禅僧の話ですか? それとも前奏、プレリュード?

H教授ばか、全国総合開発計画【13】、略して全総だ。国土総合開発法に基づいて国が作る10〜15年間を計画期間とする国土開発、社会資本の整備計画だ。
超長期なんて言ってるけど、たかが10〜15年の計画なんてボクに言わせりゃ、まあせいぜい中期計画だと思うけどね。
1962年に全総、'69年に新全総、'77年に三全総、'87年に四全総と作り、今は'98年に作った五全総の計画期間中ということになるんだけど、こうした全総を廃止する方針を固めたらしいんだ。


Aさんどうしてなんですか。

H教授全総っていうのは上位計画とか先行計画とか言われていて、各種の公共投資計画などの上位に位置するとされている。ま、実際には各省の各種長期計画や長期構想が先にあって、それらを鳥瞰的にとりまとめたものなんだけど、全総に書かれてあるっていうと、予算などもとりやすいことがあって、それなりに力も権威もあり、時代、時代の旗印役を担った。

Aさん確か環境基本計画も上位・先行計画だったですよねえ。

H教授そりゃそうだけど、話の腰を折るなよ。
でも、そうした全総による上位・先行計画が可能だったのは、絶えざる経済成長で財政余力があるときで、事実、四全総までは投資総額も明示していた。しかし五全総では、もはや投資総額を示していない。多分示せなかったんだろう。
もし六全総を作ろうとしても物理的な意味での夢ばらまきの未来なんて描けないだろう。それに地方分権との関係もある。将来的には道州制に移行ということも現実味を帯びてきた。そんな中では、全総を廃止するしかなかったんだろうな。

Aさんやだ、また暗い話になりましたね。

H教授だって、政府の借金は地方分も含めて公称で800兆円になって、さらに毎年何十兆円と増えている。2000年までは年3.5%、2000年以降は年2%という実質GDPの伸びという政府の見通し――というか、変わらぬ願望――は、取らぬ狸の皮算用ということがはっきりしているじゃないか。
人口は2007年からは減る一方で、キミの支払う国民年金総額は、給付総額を確実に下回る。政府は公式には認めていないけど、年金財政の破綻は日の目を見るより明らかだよ。


Aさんなんでそんな社会になっちゃったんですか。だれがそんな社会にしちゃったんですか。政府や与党ですか。

H教授野党はそう言っている。でも野党だって同罪かそれ以上だ。だって、より低負担、より高福祉を求めて、結局与野党ともども未来世代にツケ回ししたんだから。そして、そうさせたのはわれわれ国民だ。

Aさんその話をし出すと止まらないから、やめましょう。
でも全総をやめても、それに代わる何かを作るんじゃないですか。

H教授新聞にはそう書いている。そうしなきゃ担当部局は廃止されちゃうもんね。
国土開発計画法の後継法を作り、5年ごとの脱開発型の「全国計画」と「広域地方計画」の二本立てで、地方が計画作りに参加する仕組みを作るそうだ。

Aさんセンセイはどう思われるんですか。

H教授前々講で言ったように、真の超長期計画は必要だと思うよ【14】。人口減少、GDPの停滞、膨大な借金、そうした現実を直視した脱新規開発型社会、脱化石燃料社会、エネルギー抑制型社会、農工共生型社会の具体像をどこまで描きだせるかだけどね。

もうひとつの国土計画―土地利用基本計画

Aさんふうん、その全総だとか国土開発計画法が現在の日本の国土計画の根幹なんですね。

H教授いや、それはまた別だ。全総や国土開発計画法は開発の基本的な方向を示すためのもので、国土利用計画というのが、また別にある。

Aさんややっこしいなあ。わかりやすく説明してください。

H教授国土開発計画法や全総のずうっと後、'72年、田中角栄内閣のときに列島改造論が一世を風靡。おかげですさまじい地価高騰が起きた。それを契機に74年、国土庁が誕生するとともに国土利用計画法ができたんだ。
ちなみにこの頃、オイルショックが襲い狂乱物価騒ぎとなり、環境熱がすうっと冷めていった。キミが生まれるちょっと前かな。

Aさんちょっとじゃありません! 10年以上前です。

H教授ホントかなあ。ま、それはいいや。
で、この国土利用計画法は土地投機を抑えるためにできたんだけど、そのなかで国土利用計画と土地利用基本計画というものを規定している。これらも上位・先行計画なんだけど、国土利用計画の方はよく知らないし、ざっと見た限りではたいした意味も感じられなかったから、今回は土地利用基本計画の話をしよう。
これは簡単にいってしまえば、国土全体を地図上で都市地域、農業地域、森林地域、自然公園地域、自然保全地域の5つに区分しようとするものなんだ。


Aさんそんなきれいに区分できるんですか。

H教授はは、もちろん重複は許されている。だから、この5地域区分の合計は国土面積の100%をはるかに上回ってるさ。

Aさんこの土地利用基本計画上の自然公園地域と自然公園法の国立、国定、都道府県立の3種類の自然公園とはどんな関係になるんですか。

H教授うん、土地利用基本計画は上位・先行計画だから、例えばある地域を自然公園とすることが望ましいと基本計画でオーソライズされれば、それから個別法――この場合は自然公園法だね――、自然公園法の3種類の自然公園のどれかの指定作業に入るということになる。
都市地域だと都市計画法の都市計画区域、森林地域だと森林法の森林計画地域、農業地域だと農業振興地域の何とか法、略称農振法の農業振興地域、自然保全地域だったら自然環境保全法の3種類の保全地域にそれぞれリンクしているんだ。

Aさんその土地利用基本計画はだれが作るんですか。

H教授都道府県ということになっているけど、当時の国土庁と事前協議を義務付けていて、実質的には国土庁が作るんだ。

Aさんひえー、じゃ国土庁が土地利用の基本的なあり方を全国津々浦々決めるんですか。国土庁ってのは凄い権限を持ってたんですね。旧大蔵省じゃないけど、それじゃあ国家の中の国家じゃないですか。

H教授うん、法文だけをみていればそうなるけど、そんなことを他省庁が許すわけがないから実際の運用はまったく別なんだ。

Aさんというと?

H教授要するに各省庁や系列下の自治体部局の個別法の指定のための作業の方が先行しているんだ。で、いろんな調整が終わり、ようやく指定のメドが立ったら、国土庁に土地利用基本計画の変更を申し入れて事務的に変更する。つまり上位・先行計画といっても、まったくの形式だけなんだ。

Aさんそんなんで国土庁は怒らないんですか。


H教授個別法の方が古くて実績もある。国土庁は新しい役所で、実際の個別法の指定にふさわしいかどうかを判断するだけの人材も人数も足りていない。しかも役人はほとんどが関係省庁からの出向だから、そうするしかなかったのさ。

Aさんじゃ、なんのために土地利用基本計画なんてあるんですか。

H教授はは、国土全体やある地域の土地利用の動向などを知るのに役立つじゃないか。

Aさん(がっくりして)今もそうなんですか。

H教授現在は知らないけど、多分そうだと思うよ。国土庁が国土交通省として再編されただけで。

自然環境保全地域等の蹉跌

Aさん自然公園は確か国土の14%でしたよね。土地利用基本計画の自然保全地域というか自然環境保全法の3種類の保全地域というのはどれくらいなんですか。5地域区分のひとつになるくらいだから、やっぱりそれくらいあるんですか?

H教授はは、コンマ以下だ。0.3%くらいかな? 実質的な規制がかかる特別地区だけに限定すると、0.1%だ。

Aさんはあ? そんなバカな。

H教授まあ、当時の環境庁が5地域区分のひとつにと押し込んだんだと思うんだけど、まさかこんなに指定が進まないなんて思ってなかったんだろうな。


Aさんどうしてなんですか。

H教授自然公園の場合は地方からの指定の陳情が絶えない時期もあったんだ。

Aさん自然保護派の人たちですか。

H教授いや、むしろ地元の自治体だ。観光による地域振興がねらいだろうな。観光地のステータスになるしね。
事実、公園利用という名目で、行き過ぎた観光開発があり、自然破壊を起こしたこともあった。で、そうしたことに対する反対運動が方々で起き、公害反対運動と相俟って環境庁設置に至ったんだ。
で、自然公園の許認可についても自然保護に、より留意するようになるとともに、指定の陳情は減ってきた。環境庁になってからは指定解除の陳情の方が多いくらいだ。そんな中で新たな保全地域制度を作ろうとしたんだ。

Aさんそれが自然環境保全法の原生自然環境保全地域自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域という3種類の保全地域――面倒だからまとめて自然環境保全地域等といいますよ――ですね。

H教授そうそう、で、名前だけ見てもわかるように国立公園国定公園都道府県立自然公園という自然公園法の体系に似ているだろう。事実、規制そのものの強さは原生自然環境保全地域を除けば自然公園法と同等で、ほぼパラレルなんだ。

Aさんじゃ、何が違うんですか。

H教授目的から「利用」というのを排除した。でも、それは利用そのものを拒絶するというんじゃなくて、利用施設の整備を国が行ったり助成したりしないというだけの意味なんだ。だから原生自然環境保全地域以外の保全地域の、ほとんどの場所では許可基準さえ満たしていれば自治体が遊歩道や駐車場を作ったり、民間がホテルを作ったりという利用施設の設置を妨げるわけじゃないし、一定の規模以下であれば別荘や住宅だって許可されるんだ。

Aさんじゃあ、なぜ指定が進まなかったんですか?

H教授自然公園には施設整備などのアメがあるし、知名度も高まるから観光地の看板としての意味も大きい。
でも自然環境保全地域等のようにアメがなくてムチだけだと地元がまず陳情してこないし、観光開発の期待も出来ない規制だけがかかるような指定には地権者も難色を示す。
だから国有林などの国公有地中心の指定にとどまる。林野庁も最初のうちは将来とも伐採できそうにない地域の指定には同意してくれたけど、社会全体の環境熱が引くとともに非協力的になった。
ボクが県からの情報をもとに、林野庁に交渉に行っても、「ここは将来的には伐採する可能性もゼロではない」とか、「ここはわれわれが保全するから環境庁さんがわざわざ指定されなくても結構です」とか言って、けんもほろろだった...。


Aさんセンセイはその担当だったんですか。

H教授うん、苦労したよ。で、法制上はさして強い規制でもないんだけど、実際に指定できたのは、将来とも開発の可能性のまったくない狭い地域ばかりで、その実績が自然環境保全地域=厳正保護のイメージを与えてしまい、よけいに指定を難しくした。
でもその代わり、白神山地【15】だとか、ふつうじゃ行けないようなところへも出張できた。マタギの人や地元山岳会の案内で1週間近くテント泊まりの出張だった。

Aさんじゃあ、やっぱりなにかアメがないと指定は難しいんですか。

H教授そうだと思う。白神山地の場合は、林道の整備とブナ林の保護をめぐって大きな問題になったし、その後国際的にも問題になり、例外的に広い面積の指定が可能になったけど、あとはホント、点みたいなものだもんな。
国際的にはWise Useとかエコツーリズムだとかしきりに言われている。そうしたものと連動させるような仕組みにしないといけないと思うな。

Aさんうう〜ん、やっぱりその辺が地域制の限界ですかねえ。

H教授うん、都市周辺では旧建設省が同じ頃、都市緑地保全法というのを作り、緑地保全地区という制度を創設した。やはり自然公園や自然環境保全地域等みたいな地域制なんだけど、自然環境保全地域等よりもはるかに悲惨な指定実績しかない。

Aさんでも国有林や公有林に関しては赤字経営が続いているから、いっそのこと特別会計制度をやめて、ほとんどを自然公園や自然環境保全地域等にすることは考えられないんですか。で、林業の方も適地だけど採算が合わないようなところは、そのなかの自然体験地域とかにして体験林業の場にするとか...。

H教授ほお、地域制というより日本型の営造物制の保全・体験地域というわけだね。なるほど、一考の余地はある。キミにしては珍しくいいことを言うじゃないか。そういう農林漁業の体験というのは重要だもん。
...キミなんか体験というと恋愛体験というか失恋体験ばっかりだけど。

Aさん(憤然と)もう帰ります。


環境庁小史

H教授冗談、冗談、そう怒るな。
あ、そうそう。最後になったけど、ひとつだけPRさせてもらおう。共著だけどボクの論文が本になったぞ。

Aさん前回もそう言ってましたよねえ。何ページ書いたんですかと聞いたら、「はじめに」の2ページだけだって。

H教授ちがうちがう、今回は50ページ以上ある。タイトルは「日本の環境庁行政の総括・序説」、つまりボクの目から見た環境庁小史だ。

Aさんセンセイの失敗談とか裏話集ですね。私史ってわけだ。面白そう。

H教授冗談じゃない。マトモな小史だ。

Aさんよく十年史とかありますよねえ。あのたぐいですか。


H教授うん、環境庁は約30年間の歴史を持っている。大部の十年史、二十年史は環境庁が作成してるんだけど、三十年史は出てないし、作成するという話も聞こえてこないから一足先にボクがそのエッセンスを書いたんだ。

Aさんへえ、どうせ独断と偏見だらけなんでしょう。何という本なんですか。

H教授「韓国社会と日本社会の変容 ――市民・市民運動・環境」。慶應義塾大学出版会から先月市販された【16】。本体3,800円。買う必要はないけど、図書館ででもみてもらえばうれしい。

Aさんへえ、珍しく謙虚ですねえ。

H教授売れたって印税が入るわけじゃないから...。

Aさんところで、なんで韓国と関係があるんですか。

H教授じつは日韓共同研究フォーラムというのがあって、そこの社会学チームに環境問題をやる人がいないので、入ってくれないかというお誘いが人を介してあった。
ハングルができなくても、日本語だけで大丈夫、しかも韓国へ行けるからというので、入ったんだけど、はは、他の研究者はみんなハングルぺらぺらで、えらい恥を掻いた。

Aさんぷっ、ほんとにバカなセンセイですねえ、海外旅行に釣られるなんて。で、そのあとは?

H教授2回韓国へ行ったけど、原稿を書くというオブリゲーションがあったんだ。

Aさんそれで日本環境庁小史なんですか。韓国と関係ないじゃないですか。


H教授両国語に翻訳されて日本語版、ハングル版が同時出版されるという話だったから、主たる読者を韓国の識者に設定して、日本の環境行政を知ってもらい、韓国の環境行政を考える上での参考にしてもらおうと思ったんだ。だからちゃんと副題に「――韓国との対比のために」と付けてあるし、ごく簡単に韓国環境行政にも触れてある。こちらはそれこそ2ページあるかないかだけどね。

Aさん...。

注釈

【1】普天間飛行場の辺野古沖移設問題
第21講 「時評2−普天間飛行場の辺野古沖移設を巡って」
【2】休暇村
(財)休暇村協会のホームページ
【3】オオクチバスの件
第25講「バスに乗り遅れるな ――特定外来生物ドタバタ劇」
【4】特定外来生物
特定外来生物等の選定について(環境省)
【5】皇居外苑濠の魚類調査結果について
「皇居外苑・牛ヶ淵濠における在来種保全作業に係る魚類捕獲状況(環境省皇居外苑管理事務所)」より[関連資料]
皇居外苑濠魚類調査の結果
平成13年9月11日報道発表資料「皇居外苑濠移入種対策事業の実施について
平成12年6月14日報道発表資料「皇居外苑濠魚類フォローアップ調査の結果について」
EICネット Pick Up!「移入種(外来魚)一掃! ――皇居外苑で環境省が掻い掘り作戦を実施」
【6】ブルーギル等の移入の実態
過年度の調査結果/環境省
【7】京都議定書
気候変動枠組条約、京都議定書関係(環境省)
京都議定書の発効は人類にとって大きな一歩(平成17年2月16日環境大臣談話)
【8】京都議定書目標達成計画
気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書の締結及び地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律について 法改正の要点
中央環境審議会地球環境部会(第27回会合)資料より京都議定書目標達成計画に盛り込まれることが想定される対策一覧<暫定>
京都議定書目標達成計画に盛り込まれることが想定されている対策・施策<暫定版>(エネルギー起源CO2について記述)
【9】環境税
環境税(温暖化対策税)の検討状況について(環境省)
【10】環境省の国会提出法案
環境省の国会提出法案
【11】地方環境事務所
第25講「地方環境事務所誕生!」
【12】VOC規制
第15講「VOC規制導入!」
【13】全国総合開発計画
第5次全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」(国土交通省)
「全国総合開発計画」の比較(国土交通省)
【14】真の超長期計画の必要性
第24講「持続可能社会超長期ビジョンの必要性・可能性」
【15】白神山地
世界遺産「白神山地」(青森県)
日本の世界自然遺産「白神山地」(インターネット自然研究所)
【16】「日本の環境庁行政の総括・序説」
服部民夫・金文朝【編】、慶応義塾大学出版会(2005-02-15出版)

平成16年3月4日執筆、3月9日編集
註:この時評の見解はEICおよび環境省の公的見解とはまったく関係ありません。