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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.056

Issued: 2007.09.06

第56講 上方環境夜話 付:回想―役所新人時代

目次
日本の一番暑い夏
京都議定書目達計画見直し中間報告が出る
観光庁創設?
世界陸上とボランティア
西大台で入山規制開始
関空、第二滑走路オープン
淀川水系流域委員会再開
回想 ― 役所新人時代

日本の一番暑い夏

Aさん昨日(8月28日)、内閣改造がありました。環境大臣は鴨下一郎サン、お医者さんだそうです。ほかに舛添(要一)サンが厚生労働大臣、前の岩手県知事で改革派知事として名を馳せた増田(寛也)サンが総務大臣です。なにかコメントはありますか。

H教授うーん、特にないなあ。とにかく暑くてアタマがまわらない。


Aさんそうですねえ、8月16日に熊谷と岐阜の多治見で40.9℃が出ました。日本の暑さ記録更新です。一体どうなってるんですか、この暑さは。もう8月も末だというのに、相変わらず真夏日に熱帯夜が続いているし。ラニーニャか何か知らないですが、やはり地球温暖化だという俗説に与したくなりますよ。

H教授ま、この会話がアップされる頃には少しは涼しくなっているだろう。それにしてもホントに暑いねえ。ボクは我が家では来客時以外はエアコンのスイッチを入れないという主義なんだけど、さすがに2〜3日は日中にエアコンを入れたもの。ま、ボクとワイフだけだったら我慢するんだが、ミオがぐったりして可哀想だったからな

Aさんウソばっかり、ミオちゃんはぐったりしていてもエアコンの入っている部屋には入ってこないと先生ン家に行ったBクンが言ってましたよ。

H教授はは、バレたか。前にも言ったと思うが、この暑さは地球の脈動みたいなもので、自然現象がメインだと思うが、その暑さを凌ぐためにエアコンを入れたりして電気の消費量が増えることでヒートアイランド現象温暖化を加速させているのは事実だろう。
前講でもちょっと触れたけど、柏崎・刈羽原発がダウンした東京電力管内の電力需給はパンク寸前だ【1】。で、ついに8月22日には随時調整契約と言って、料金の割引を行う代わりに需給逼迫時には電気の使用を控えるという契約を交わした23件の大口顧客に対して17年ぶりという電力カットを要請した。


Aさんうーん、ケチなセンセイですらエアコンのスイッチを入れたくらいですから、「1人1日1kgのCO2カット国民運動」【2】なんて、それを支える何らかの仕組みがない限り、絶対ムリですよね。

京都議定書目達計画見直し中間報告が出る

Aさんところでセンセイは京都議定書の目標達成はまず不可能だって前からおっしゃってましたけど【3】、政府も事実上のギブアップ宣言を出したそうですね。

H教授うん、閣議決定された京都議定書目標達成計画、いわゆる目達計画の見直しの中間報告を8月10日に中央環境審議会と産業構造審議会の合同会議で発表した【4】
すでに素案段階で新聞報道がなされていて、その内容は前講で触れたけど【5】、発表された中間報告の中で2010年の排出量の推計をしている。その推計自体、原発稼働率を甘めにカウントするなど、非現実的だという批判も強い──まさに今回の原発事故でもそれが立証されたと思う──んだけど、その推計ですら、京都メカニズムを目一杯活用しても達成は不可能だとしている。

Aさんへえ、そうなんですか。まあ、推計は推計として、削減への提言もまとめたんじゃないですか。やはり前講で触れた素案通りなんですね。

H教授うん、国内排出権取引制度は「総合的に検討していくべき課題」で、環境税も「真摯に総合的検討を進めていく」だけだそうだ。
ま、その代わり、安倍サンは内閣改造前だというのにせっせとインドやインドネシアを回って「美しい星50」への協力を要請して回ってきたみたいだよ。
インドでは、故パル判事をやたらにほめちぎってたな。

Aさんああ、東京裁判で唯一日本無罪論を唱えた人ですね。

H教授うん、だけどそれは日本の行為をなんら是認したわけじゃない。歴史を紐解くと、「欧米戦勝国に日本を断罪できる資格はない」ということなんで、パルさんは日本の侵略行為自体には厳しい目を向けていたことも知っておくべきだ。

Aさんま、それはそれとして、国内でやるべきことをやらずになんだと思っちゃうけど、そのアジア来訪に成果はあったんですか。

H教授ま、抽象的な協力は取り付けてきたみたいだよ。リップサービスの域は出ていないと思うけどね。
だって8月10日に閣議了解された概算要求基準、いわゆるシーリングなんだけど、ODAも聖域にあらずとして、今年もまた対前年△3%だもんな【6】
ま、「重点施策推進要望」という別枠の方である程度補填するつもりかも知れないけど、ODAを年々減らすようじゃ、途上国の信頼は勝ち取れないと思うよ。もちろん、ODAの中身はきちんと審査して、途上国の住民の生計と信頼の向上につながるような、そして環境にきちんと配慮したODAにしなければいけないけどね。 ところでキミ、ODAとかJICAとかって知ってるだろうな。

Aさんバカにしないでください! ODAは政府開発援助、JICAは独立行政法人国際協力機構に決まってるじゃないですか。そんなの中学生でも知ってますよ。

H教授あ、ワルイ、ワルイ。
でもねえ、大学の編入試験では必ず面接をするんだけど、国際協力に興味あるって受験生に「ODAって知ってる」って聞いても「?」、「JICAって知ってる」って聞いても「?」…だ。
環境問題をやりたいって言う受験生に「温暖化について知ってることを言ってごらん」というと、「ゴミを燃やすとオゾン層が破壊されて温暖化が起きます」っていうのが結構多いんだ。いやになっちゃうぞ。


Aさんつまらないことを言わないでください!
ま、そりゃあ、アタシだって、昔はそうでしたけど。
でも、センセイだって、ついこの間までは「UFJ銀行」を「USJ銀行」だなんて言って、アトラクション施設とごっちゃにしていたじゃないですか。

H教授う、うるさい。ボクはどっちにも興味ないんだ。UFOと間違わなかっただけでもよしとしろ。
それよりも前講で政治のリーダーシップが不在になるんじゃないかと危惧したけど【7】、内閣改造間近の頃、防衛省では次官人事を巡って大臣と次官が対立し、大騒動になっていた。


Aさんあのドタバタ劇は面白かったですね。センセイはどちらに非があると?

H教授ま、どっちもどっちとしか言いようがないね。
次官在任4年で、なおやめようとしなかった次官も次官だけど、その次官に面と向かって申し渡さずに、闇討ちのように後ろから切りつける大臣も大臣だと思うよ。
以前、外務省でもいろいろあったけど、まだあのときのマキコさんの方が、事務方に直接対決しようとしただけマシじゃないかな。

Aさんま、改造以前の話ですから。
ところで観光庁っていうのができるそうですね。

観光庁創設?

H教授8月23日、国土交通相が観光庁という外局を設ける方針を明らかにした。以前、観光基本法を全面改正して観光立国推進基本法を制定するって話をした【8】けど、昨年12月に議員立法で制定された。そして、それに基づく「観光立国推進基本計画」を今年6月に閣議決定した。
このブームに乗って総合政策局にある関係6課を集約再編した外局を作るってわけだ。


Aさんへえ、環境立国戦略というのがあったけど、こんどは観光立国ですか。で、その基本計画に観光庁設置のようなことが書いてあるのですか。

H教授いや、何も触れてない。まあ、役人ってのは組織の拡大と格の高い指定職・管理職ポストを増やすことが生きがいみたいなところがある。ボクだってそこにいれば画策したと思うよ。それにうまく大臣が乗せられたってところだろう。

Aさんできるんですか。

H教授うーん、普通だったら難しいと思うよ。行革ブームで、2001年に中央省庁を統廃合し局の数などを減らしたばっかりだもんな。人事院や財務省の目も光っているし。
ただ、大臣は公明党で今度の内閣改造でも留任した。今、公明党を怒らせるわけにはいかないから、案外できるかもしれない。
もともと旧運輸省時代に観光部というのが一時あったんだ。外局というよりは、それに戻すことがオチかもしれないと読んでいるんだ。


Aさんま、センセイの読みはたいてい外れますけどね。
でも、組織を大きくすることや組織の格を上げることと、それで観光立国に向けて飛躍できるかどうかは別ですよね。

H教授はは、そりゃそうだ。来訪客数の目標だとかの数値目標を基本計画で示しているのが新味だといえば新味だけど、そのための仕掛けはもう一つはっきりしない。観光庁なるものをつくって新たに何をやろうとしているかが見えてこないとなんとも言えないな。


Aさんさ、ぼちぼち本論に入りましょう。今日はどんな話?

世界陸上とボランティア

H教授いっつもいっつもオールジャパンの話じゃなしに、たまにはローカルな話で行こう。ちょうど世界陸上も大阪でやっていることだし、関西の話でもしよう。

Aさん世界陸上! そうだ、もう今日は早くやめましょう。ワタシ、テレビで観戦したいわ。

H教授それにしても日本は振るわないなあ。キャスターもあまり希望的観測ばかり述べるのはやめたほうがいいねえ。終わった後、しらけるばかりだ。
まあ、それはともかくとして、あの裏方として、たくさんのボランティアが登録されていて活躍しているらしいんだけど、大阪市の段取りの付け方が悪いというか、お粗末というか、参加しているボランティアからは苦情続出らしい。

Aさんああ、新聞にも出てましたね。

H教授すでに閉鎖してしまったが、世界陸上ボランティアの掲示板にもボロクソに書かれていた。どうもボランティアは役所の手足として動かす無償の現業作業員だと勘違いしているようだ。
こんなイベントの場合、役所の想定外のことがいろいろ起きて融通の利かない役人じゃどうにもならないことが多々起きるに決まってるんだ。
だから、もっと企画・管理の段階からボランティアを噛ませて、相当部分を自主管理に委ねるぐらいの覚悟がないと、これからの時代、うまく行かない。 環境関係の分野でも似たようなことがこれから多々出てくると思うよ。

Aさん失敗すれば役所の責任が問われるからでしょう。

H教授だったらもっと税金を上げて、思いっ切り大きな政府にしなければしょうがない。だけど今だって国、地方合わせて1000兆円も借金してんだから、詮無い繰言だ。
だったら、新しいやり方を模索していかなきゃあ仕方がないじゃないか。

西大台で入山規制開始

Aさんはいはい、ところで関西の話ってなんですか。あ、そういえば、第54講(その2)で国立公園の利用調整地区の話をしましたけど【9】、利用調整地区の第1号に指定された奈良県の西大台ケ原でいよいよ9月1日から入山規制が始まるそうですね。

H教授ボクは大台のことはほとんど知らないんだけど、西大台っていいところらしいね。
入山客は平日30人、土日祝日は50人に制限し、1グループ10人までにするそうだ。入山希望者は指定認定機関に3ヶ月前から2週間前までに申請し、手数料1,000円を支払うそうだ。
無断入山には罰則がかかる。


Aさんふうん、ちゃんと周知されてるんですか。

H教授申請者数はまだ少ないそうで、100人に達していない。つまり“大台”に乗ってないそうだ(笑―自分だけ)。

Aさん周知されてないんじゃないですか。

H教授でも、一方じゃ9月1日からだというんで、それまでの駆け込みツアーが殺到しているようだぜ。だから、それなりに周知されてるんだろう。でもちょっとセコイねえ。

Aさんセンセイだってタバコの値上がりのときは、その前に買いだめするじゃないですか。

H教授関係ないだろう!
まあ、初の試みでいろいろ問題が出てくるかもしれないが、うまくいってほしいね。


関空、第二滑走路オープン

Aさん他に、何かありましたか。

H教授関西国際空港、つまり「関空」の二期工事が行われていて、途中当初計画から縮減したりしていろいろあったんだけど、8月2日にようやく第二滑走路が供用開始された【10】

Aさんこれで24時間運用の本格的な国際空港らしくなったわけですね。

H教授うん、その第二滑走路でバードストライクが多発しているという記事が出ていた。絶滅危惧II類に分類されている渡り鳥のコアジサシが被害にあっていて、対策に苦慮しているらしい。
大阪湾にはほとんど砂浜や砂地が姿を消したんだけど、空港工事中は一時的に広い砂地ができるから、そこに営巣しちゃうんだね。

Aさん罪作りな話ですね。

H教授神戸空港でも似たような話があったね【11】
バードストライクは空港だけじゃなくて、風力発電でも大きな問題になっている。
一方じゃ、ロードキルといってクルマにはねられるキツネやタヌキなどの動物が後を絶たない。高速道路のロードキルだけで、昨年一年、全国で3万5千件にも達したらしい。一般道も入れるとそれの何十倍にもなるんだろうなあ。沖縄では絶滅危惧IA類に分類されている超希少種のヤンバルクイナが今年だけで21羽が被害にあい、環境省事務所では「非常事態宣言」を出したほどだ【12】
人と自然との共生って口で言うのは簡単だけど、実際にはなかなか難しい。高速道路だったら侵入防止のフェンスとかで対応はある程度できるけど、一般道じゃそれも難しいし、動物が道路を挟んで往来するのを妨げてしまうこと自体にも問題がある。


Aさんドライバーのマナー任せで啓発するしかないんですかねえ。どうもクルマを持った近代文明の原罪のような気がしますね。

H教授関空に話を戻すと、その反面、今度はスナメリが空港島の周辺で繁殖している可能性が高いという記事も出ていた【13】

Aさんスナメリってクジラですよね。

H教授うん、世界最小のクジラだ。大きさはほぼ人間並み。全国的に激減していて、大阪湾では個体密度が低いとして環境省の調査も行わなかったほどだけど、近年目撃情報が相次いでいて、水族館や動物園のスタッフを育成する専門学校が調査したところ、空港島周辺を餌場として春から夏にかけて繁殖している可能性が高いことがわかったそうだ。

Aさんいいですねえ。瀬戸内海をスナメリの里にしたいですねえ。

H教授関係者は「大阪湾スナメリネットワーク」を結成し、保護活動に乗り出したそうだ。
空港島建設がやむをえないとするならば、できるだけ環境負荷を抑えようとし、緩傾斜護岸や藻場の造成などに取り組み、漁業権も消滅させて、禁漁にした。そういうことが効いたのかもしれない。

Aさん他には何かないですか。


淀川水系流域委員会再開

H教授淀川水系流域委員会が8月9日から再開された。

Aさんあ、流域委員会の休止のことは第47講(その3)でかなり手厳しく批判されてましたねえ【14】

H教授うん、それまでのことを高く評価していただけにねえ。
流域委員会ってのは国土交通省近畿地方整備局の諮問機関だ。今までの諮問機関はともすれば御用機関になってしまったんだけど、時の整備局の英断で公募制とし、そこから第三者委員会が選んで、整備局ご用達という形にはしなかった。そして流域委員会は「河川整備基本方針」のあり方を徹底的に議論。問題の流域5ダムを「原則として建設しない」と提言。
一方、国土交通省は05年に流域委員会の提言とは異なる「5ダムのうち2ダムは当面実施しない」という方針を打ち出したあと、今年の2月に流域委員会そのものを休止してしまった。
そして今年7月に5ダムすべてが必要とするという「河川整備基本方針」を決めてしまってから、今度はその具体的な内容を決める「河川整備計画」について意見を聞くため流域委員会の再開を決めたそうなんだ。

Aさん近畿地方整備局はその計画の原案を昨日(8月28日)発表しましたが、1ダムを除いては建設を進めていくという原案らしいですね。

H教授うん、今日(8月29日)その流域委員会の第1回目が開かれるそうだけど、実は委員選定の方法も変更、整備局の意向が強く反映されるようにしてしまったし、前委員長は年齢制限で外しちゃった。

Aさんやれやれ、外堀も内堀も埋めてしまったあとで再開ですか。じゃ、今度こそ単なる御用機関になっちゃうんじゃないですか。

H教授そうなってしまう可能性は高いかも知れないけど、面白いことに、元の流域委員会を実質的に立ち上げ、画期的な運営をはじめたキーパーソンは当時の近畿地方整備局淀川工事事務所長だった。彼はその後、退官して家業を継いだんだけど、再開された流域委員会に公募で選ばれたんだ。

Aさんへえ、じゃあ今度は役人=事務局としてでなく、委員として発言するわけですね。

H教授元役人が天下りしていろんな委員になるときは大抵は元の役所の意向を代弁するんだけど、多分彼は違うと思う。これはボクの勘だけど、彼は当時から随分板挟みの立場で苦しんだと思うんだ。退官したのもそれがきっかけだったんじゃないかとも思う。ボクも元役人として、彼がどういう発言をしていくのか、すごく気になるんだ。

Aさんセンセイなんかはもともと環境省の意向を代弁しようにも、そもそも環境省の意向がなんだかわからないまま、こんなところで与太話やってますもんね。

H教授う、うるさい…。

Aさんところでお盆はどうされてたんですか。


H教授ゼミ卒業生の同窓会が何度かあって、それに呼ばれた。社会人になるというのが、どういうことかようやく実感したらしくて、みな初々しかったよ。

回想 ― 役所新人時代

Aさんあ、そうだ。センセイの社会人1年生ってどうだったんですか。50年前の話を聞かせてください。

H教授ばか、50年前じゃない、40年前だ。
ボクは昭和42年にレンジャーになりたくて厚生省に入省したんだ。レンジャーになるには「造園職」という公務員試験の職種で入らなくちゃいけない。造園職試験はそれまでは人事院試験じゃなくて、人事院のお墨付きをもらって行う省庁独自試験だったんだ。それが、ちょうどボクのときから正規の人事院試験に昇格した。
だからボクらはその1期生ということになるんだけど、残念ながら1期生だなんて言うのはボクら同期だけで、局内じゃあレンジャー15期生と言われた。
また、その前の年には大臣官房国立公園部はついに国立公園局に昇格した。
だから、「キミたちの前途は洋々たるものである」と恩師に言われて上京してきたんだ。


Aさんへえ。で、どうだったんですか。

H教授はは、人事院の研修を一週間受けてから国立公園局に配属されたんだけど、若い女性は課にまったくおらず、庶務の主任さんにしごかれて新人の仕事は朝の床掃除や灰皿清掃、お茶入れから始まる。上級職だなんてプライドは3日で徹底的に粉砕されちゃった。
その頃、国立公園局はオンボロな別館にあって3課構成。レンジャーの先輩たち技官と、国立公園行政一筋といういわゆるノンキャリ──まあ、あまり好きな言い方じゃないけど──の事務官それぞれ20名くらいの2つのグループで構成されていて、それ以外は局長以下、数名の腰掛のようなキャリア事務官がいるだけ。
キャリア事務官以外は他の部局との人事交流はほとんどないという独自の小宇宙だった。


Aさん独自の小宇宙? スゴイ表現ですね。

H教授これ以外の表現を使おうとすると差別語になってしまうから仕方がない。

Aさんでもどうしてそうなっちゃったんですか。

H教授多分出自の特異性だろう。
日本の国立公園行政というのが本格的に始まったのは戦後だけど、決して内発的なものとは言えなかった。

Aさんえ? どういうことですか。

H教授米国は国立公園が大好きなんだ。なんせ世界ではじめて国立公園をつくった国だからな。
日本も最初に国立公園が指定されたのは戦前だったけど、まもなく戦争の中で、国立公園事務は停止されてしまった。
戦後も国立公園どころじゃないというのが、日本の政府中枢の本音だったんだろうけど、進駐軍の指示であれよあれよという間に、国立公園課が立ち上がった。
公務員試験だとか定員だとかいう体制がきちんと立ち上がる前に、大学の林学や造園を出た若者が、当初は雇いのような形態で入省、全国各地のレンジャーとして散っていった。
このあたりの苦労話は以前に紹介した本に詳しく出ている【15】
他方、造園技官なんていうのは、厚生省には他に配属のしようもなかったし、本人たちだって厚生省の公務員という意識なんてほとんどなくて、レンジャーだって意識の方が強かった。
国立公園行政はそういうレンジャーやレンジャー経験者の手によって専ら担われた。
ま、そういう厚生省としては特異で傍系の傍系みたいな部署だったから、そこに配属される事務官もおのずと国立公園行政一筋みたいなものになっていったんじゃないかな。


Aさんでもセンセイが正規の上級職一期生だったかもしれないけど、センセイが入るずうっと前からレンジャーの多くは人事院の認定する上級職扱いだったんでしょう。そういう上級職、今でいうI種採用者って、横のつながりがあるんじゃないんですか。

H教授うん、どこの省でもそういう白表紙の名簿みたいなものがあって、職種を超えたつながりが生まれてくるんだけど、ボクらはそういう世界からは徹底的に排除され、名簿にも載せられなかったし、第一そういう名簿があることすら知らされなかった。
だから役所関係でつきあう相手と言えば専らレンジャーの同期や本省にいるレンジャーの先輩ということになる。
当時は、新人は1年間本省で丁稚奉公のあと、現地のレンジャーとして配属されるか、都道府県の観光課あたりに出向させられるかだった。

Aさん観光課? 自然保護課じゃなくて?

H教授うん、当時は国立公園は許認可にせよ施設整備にせよ厚生省と県が共同で管理しているようなものだった。その頃は県には自然保護課なんていうのはなくて、担当しているのはほとんどが観光課だった。その実働部隊のかなりの部分は厚生省でレンジャーとして採用された職員の出向組が占めていた。
つまりレンジャーとして厚生省に採用された職員が働く場所は、本省国立公園局か、現地レンジャーか、県の観光課で、そうしたところをグルグルと異動していた。
現地レンジャーだって県に行けばたいてい係長とか補佐でレンジャーの先輩がいるし、庁費や旅費なんかも県に面倒みてもらわなくちゃいけなかったから、県との関係は深かった。たいてい県の無給の併任技師という辞令を貰っていたしね。
ありていに言えば本省と県とは限りなく対等に近い関係にあったんだ。
威張りくさった国とぺこぺこする県なんていうのが当たり前だった時代に、極めて特異な世界だったと言えるだろう。
あと、ボクらの世界では「左遷」という概念がまるでなかった。僻地に異動を命じられれば大喜びして、本省勤務を命じられればしょげてしまうみたいな感覚だった。


Aさんへえ(絶句) ところで現地レンジャーの組織的な位置づけというのはどうだったんですか。

H教授日光と箱根の2箇所には数名からなる管理事務所があって、これは国立公園局筆頭課の課内組織だったけど、他の単独駐在レンジャーは国立公園局筆頭課の末端職員が「国立公園管理員」として現地に駐在しているというだけの話じゃなかったかな。


Aさんセンセイは上京して、厚生省というか国家公務員の独身寮に入ったんですか。

H教授新宿御苑国民公園ということで国立公園局の管理下にあった。その中に、伝聞では大正皇后が蚕を飼っておられたというオンボロの建物があって、それを国立公園局独自の職員宿舎にしていた。そこで一年間過ごしたんだ。そういうことが許されていた時代だったんだねえ。なにせ初任給が23,300円だった。

Aさんじゃあ、仕事はもっぱら下働きですね。

H教授そりゃそうさ。当時は貧しい時代だったから、電卓なんてなくてソロバンが幅を利かせていた。コピーもなくて、青焼きかガリ版さ。真夏にもエアコンなんてなく、扇風機だと書類が飛んでしまうから、水を入れたバケツに足を突っ込んで仕事をしたよ。
今と違って、国会で取り上げられるようなことも滅多になかったから、国会待機もなくて、暇な時期のアフターファイブはマージャンか屋台の飲み屋だった。もちろん給料日一週間前は3食コッペパンの生活だったけどね。
で、新人が一番重宝され、期待されたのが市外電話をかけるときだ。

Aさんなんですかそれは。

H教授課には直通電話が一本だけ。庶務の主任が管理していて予算が乏しいから、よほどのことがない限り使わせてくれないんだ。

Aさんじゃ、県との連絡なんかどうするんですか。

H教授内線電話は都内にはつながるから東京事務所に電話して「県から電話してくれ」と言えというんだ。だけどそんなのじゃあ仕事にならないから、代々新人から翌年の新人に伝わる秘儀があって、その非合法なテクニックを使うと、内線から外線につなぐことができたんだ。

Aさんそんな馬鹿な。その電話代は誰が払うんですか。

H教授さあ、本省の会計課あたりじゃないかな。だから、それができないように向こうもそのテクニック封じにかかる。そうするとまた別の手口を開発するんだ。

Aさん信じられない。そんなことどこでもやってたんですか。


H教授知らない。他の部局との交流は一切なかったから。

Aさんへえ、そんな閉鎖的な空間だったら、皆仲がいいんでしょうね。

H教授そんなことはないさ。いつだって派閥があり近親憎悪みたいなことは起きる。とくにレンジャーと事務官の間では一緒に飲んだり遊んだりはタブーだったみたいだ。

Aさんセンセイ、それに素直に従ったんですか。

H教授はは、それに関しては居直って、若い事務官たちとよく遊んだよ。その方が楽しいもの。事務官の方でもレンジャーと付き合うなという指示みたいなものがあったらしいけど、彼らも無視してボクたちと付き合った。
どちらの方も上の方では「最近の若い連中はー」と嘆いたみたいだけどね。
そういう職種間交流を始めたというのが、ボクらの後に残る功績第一号じゃないかな。
キミも知っているEICのMさんとは、その頃からの腐れ縁だ。


Aさんふうん、でも終戦後の国立公園係から国立公園課、国立公園部、そして国立公園局と組織はどんどん大きくなったんですね。

H教授いや、いつの時代にも何年かに一度は今でいう行革が起きるんだ。せっかく国立公園局になったのに一年で元の木阿弥、一省一局削減とやらで翌年からまた大臣官房国立公園部に逆戻りだ。
その過程で、観光行政の一元化だというので、先ほど話した運輸省観光部との統合案が一時出されたこともあった。
ボクら国立公園局内の人間は国立公園という枠の中とはいえ、自然保護行政をやっているつもりだったんだけど、外部からは観光行政の一部だと看做されていたのかも知れない。

Aさんうーん、でも聞いた限りでは厚生省時代というのは本当に特異な組織だったんですね。

Aさんそしてセンセイは他の部局との人事交流という美名でレンジャー世界から放逐されたままで、役人時代の後半生を送る羽目になったわけですね。

H教授キッ、キミー!(図星を指され声が裏返る)


注釈

【1】柏崎・刈羽原発の操業停止と電力供給
【2】1人1日1kgのCO2削減キャンペーンについて
【3】京都議定書の目標達成の可否
【4】京都議定書目達計画見直し中間報告の発表
【5】京都議定書目達計画見直し中間報告(素案)について
【6】平成19年度概算要求基準の閣議決定について
【7】政治のリーダーシップ不在に関するキョージュの危惧
【8】観光立国推進基本法の制定についての話と、観光立国推進基本法および基本方針の策定
【9】国立公園の利用調整地区制度と、西大台の入山規制
【10】関空の第2滑走路の供用開始
関西国際空港>2007年8月2日、第2滑走路オープン!
【11】神戸空港の利用率と“野鳥の楽園”化
【12】ヤンバルクイナの交通事故被害防止「非常事態宣言」
  • 【通知】ヤンバルクイナ交通事故非常事態宣言
  • 【開催予定】平成19年度ヤンバルクイナ交通事故防止キャンペーン
  • 【通知】ヤンバルクイナ交通事故防止キャンペーン中におけるヤンバルクイナの交通事故
【13】関空の空港島周辺水域におけるスナメリの生息と繁殖について
【14】淀川水系流域委員会の休止批判と、再開について
【15】レンジャー創設期の苦労話
第7講「レンジャー私史」

(平成19年8月29日執筆 同月末編集了)

本講の見解は環境省およびEICの見解とは全く関係ありません。
「H教授のエコ講座」(「瀬戸内海」第51号収録予定)の一部及び朝日新聞の記事を参考にしました。