一般財団法人 環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.042

Issued: 2006.07.06

第42講 キョージュ、今国会での成立法案を論じる

目次
ワールドカップ
世事―国内編
世事―国際編
通常国会閉会
エコツーリズム推進法案をめぐって
環境省提出法案の概要
環境省提出法案の概要
温暖化対策法改正と京都メカニズム
排出量取引制度の陥穽
容器リ法見直しの顛末
神戸製鋼の不祥事
さいごに

ワールドカップ

H教授どうしたんだ、随分やつれて。それに目が真っ赤じゃないか。
そうか、またオトコに逃げられたんだ、可哀相に。(涙)

Aさんバカ! 連日連夜のワールドカップのテレビ観戦で睡眠不足なんです。

H教授へえ、Jリーグに関心はなくても、ワールドカップには燃えるのか。ニッポンは早々と敗退したというのに。

Aさん4年後があります! それにせめて、日本が惜敗したブラジルには優勝してほしいじゃないですか(編註:その後、そのブラジルも準々決勝でフランスに敗退)。

H教授惜敗?

Aさんいいんです! 先に一点取りました!

H教授でもまあ、ニッポンは頑張ったと思うよ。対クロアチア戦なんて絶対負けると思ってたから、引き分けと知って、お、ラッキーと思っちゃったもんなあ。対ブラジル戦なんてゼロ敗必至だと思ってたのに、なんと先取点を取っちゃった。ありゃあ、まさに奇跡だぜ。

Aさんホント、センセイは非国民なんだから。ニッポンが負けてうれしいんですか。

H教授そんなことはないさ、はじめから悲観的な予想を立てて観ていると結果を落胆せずにすむ。そういう観方もあるし、もともとたかが球蹴りじゃないかと無関心な人もいていいんだ。それこそが「多様性の保全」なんだ。全国民がそろって熱狂するなんてのはどうかと思うよ。
それよりも、もっと社会的なニュースもいろいろあっただろう。


世事―国内編

Aさんえーと、村上ファンドの村上サンが逮捕されました。元通産官僚なんですってね。元環境官僚じゃなくてよかったですね。
ホリエモンさんもそうだったけど、一世を風靡したニューヒーローが次々と逮捕されますね。検察には何か社会的な意図があるんですか。

H教授さあねえ、でも結果的には何となく怪しげなニューリッチが転落していくことに、庶民は溜飲を下げているんじゃないかな。「他人の不幸はわが身の幸せ」って奴かもしれない。

Aさん「庶民は」って、他人事みたいに言って、ご自分がそうなんでしょう。時価数万円のオンボロクルマぶつけてオタオタしているご自分にひきかえ、何十、何百億円を動かしているあの若造が、ザマアミロってんじゃあないですか。

H教授こらこら。そんなこと思ってても口にしたりするほどボクは品格がないわけじゃあない。
ま、品格といえば、「国家の品格」という本がベストセラーになっている。
800兆円を越した財政赤字を少しでも減らすために5年間で十何兆円か歳出削減をするとかで、ODAまで減らそうとしている。
一方じゃ、国家の中央銀行総裁が村上ファンドに投資して「濡れ手に粟」がバレても、法律にも日銀内規にも違反してないからやめないと頑張ってるんだからねえ。わがニッポンは品格に問題があると言わざるを得ないねえ。
それと驚いたのは金融資産2億だか3億で年収何千万円ってのはともかくとして、そういうリッチな人が年金収入800万円もあるというのには呆れ返った。
年金財政はピンチで、毎年のように支給が切り下げられているというのに、そんなバカな話があるかって思うよね。オリックスの宮内サンだって年金収入は満額あるって以前、講演で聞いたことがある。カネと権力のあるお年寄りにそこまでサービスしておきながら、社会保障の切り下げに、挙句の果てはODAカットじゃあ「国家の品格」がなさすぎるよ。それに…。

Aさん(遮って)センセ、その「国家の品格」ってベストセラー自体はどうだったんですか。

H教授え? そんなの読んでないよ。タイトルを拝借しただけで。

Aさんやっぱりか。そんなことだろうと思った。相変わらずの“インデックスマン”なんですね。
でも「品格」と言ったら、一番品格がないのはセンセイなんじゃないですか。…あるのは「貧格」だけでしょ。

H教授(真っ赤になって)キミはどうなんだ、キミは! 断りもせずに勝手にコーヒーを入れて飲んでるじゃないか。それで品格があるのか。

Aさんだってアタシャ賓客だもん。学生なんてセンセイのこと毛嫌いして誰も来ないでしょう。アタシぐらいじゃないですか、うるわしい敬老の心を持っているのは。

H教授(小さく)ホント、減らず口が直らないなあ。せめて性格だけでもよければ少しは救いもあるんだけど。なにが敬老だ、キミなんか“刑牢”がお似合いだ。ブツブツ…。

Aさんえ?


世事―国際編

H教授いや、なんでもない。それとイラク問題でも動きがあった。

Aさんさまざまな反米テロ事件を指導していたとされるヨルダン生まれのアラブ人テロリスト・ザルカウィ氏が米軍の爆撃で殺害されました。これでアメリカもほっとしたんじゃないですか。

H教授多分、第二・第三のザルカウィが出てくるよ。それにマスコミはほとんど無批判だけど、空爆の狙い撃ちで6人だか7人だかが巻き添えになって死んでいる。女性や子どももいたという報道もあった。テロリストの仲間や家族かも知れないが、だとしても大いに批判されるべきじゃないかな。
ま、日本の自衛隊もようやくイラク撤退をはじめるそうで、それはよかったけど、本来の復興支援を忘れちゃいけない。

Aさん


通常国会閉会

Aさんところで国会が閉会になりました。国民投票法案だの教育基本法改正案だの、いろんな問題法案をすべて積み残したまま、仕切り直しになったみたいですね。

H教授ま、もともとコイズミさんは郵政民営化と靖国参拝以外はさして関心がなかったんだろう。そんなことで会期延長するより、海外訪問で有終の美を飾りたかったんじゃないのかな。“憂愁の尾”かも知れないけど。

Aさん意味不明の語呂合わせはやめてください。
ところで環境関係の法案はどうなったんですか。

H教授政府提案の環境省所管法では前講以降、鳥獣保護法、温暖化対策法、フロン回収・破壊法、そして容器包装リサイクル法が改正された。国立環境研究所法もだったな。


エコツーリズム推進法案をめぐって

Aさんその顛末はあとで聞くとして、前講で取り上げた議員立法の「エコツー推進法案」はどうなったんですか。

H教授うーん、事前調整の段階で野党から異論も出て、時間切れのまま提出できずに終わった。次期国会までに調整を終えて提出したいといってるらしい。
これに関して、前講でお便りをいただいた。
「今回のエコツーリズム推進法案ですが、ちょっと、ブログ「コモンズ的視点を欠いたエコ・ツーリズムでいいのか?」に、感想を書いてみました。」とのことだ。ボクも読んでみたけど、地方からの視点でのなかなか鋭い切り口だと感心させられた。

Aさんそれだけじゃなんのことだかわかんないじゃないですか。それに他人のブログのURLを勝手に公開していいんですか。

H教授公開に関してはエコツー協会の理事もされている公人の方だから問題はない。
いくつか指摘されているが、大きくは以下4点に集約できるのではないか。
第1に、自然観光資源を守り育んできたオーナーへの換金回路がなく、推進法でなく規制法になっているのでないのかということ。
第2に、「特定自然観光資源」が点的保全で、ネットワークでの保全という観点が欠如しているのでないかという指摘。
第3に、市町村単位だとダブルスタンダードになる危険があるのでないかという懸念。
第4に、「特定事業者」というエコツー業者の役割として、「全体構想の素案を添えて、協議会の組織を提案することが可能」と法案ではしているんだけど、リゾート法全盛期のように、東京のコンサルが結局のところ跳梁跋扈するんじゃないかという懸念だ。
事実、80年代末期のリゾート法に基づく全国各地の計画なんて、ほとんどが似たり寄ったりの三点セットだったもんな。

Aさん三点セットって?

H教授山岳地帯だとスキー場、ゴルフ場と分譲別荘。海岸だとマリーナ、ゴルフ場と分譲別荘。この三点セットで東京のコンサルが地方のリゾート計画を立ててまわったんだ。

Aさんところで先の4点のご指摘、センセイはどう思われるんですか。

H教授いずれも傾聴すべき論点だと思う。
第一点目に関してだけど、民有地とか土地所有者と一口にいってもいろいろだ。特に山間僻地へ行けば行くほど、近代以前からの入会慣行に起源を発する昔ながらの共有地、部落有地が少なくない。

このような自然観光資源は、コモンズ的な意味合いを持ち、「使いながら育てる」という、長年の地域の人の知恵に支えられているものなのであり、決して、プレパラートのごとく、凍結的保存をし、特定の許可されたものだけが、その希少性を享受するという、閉鎖的な環境観光クラブ的な発想では、その自然観光資源なるものの本来持つ、コモンズ的な社会的意義は、失われるのではなかろうか。

──という指摘は鋭いし、だからこそ、このスキームではそうした「コモンズ」が協議会の主要メンバーとしての役割を期待されるんだと思う。だけど、一方じゃ、農林漁業を捨て「使わず育てず」だのに既得権だけに乗っかって、法外な換金回路を要求されても困る。漁業権とか「みなし水利権」などでしばしばそういう例を耳にする。
現法案では、東京のコンサルや観光業者が、「独自の企画力」を持ち得ない自治体に対して、「中身を変えずに、表紙だけを変えた提案書」を売りつけるようなことを避ける手だてはない。ただ、そもそもこの法案で具体的にイメージしている“地域”ってのは、多分、現にエコツー業者が存在しているところじゃないかな。

Aさんセンセイは、どうすればいいとお考えですか?

H教授ご指摘の点も含め、さまざまな問題があることを念頭に置きつつ、みんなで議論することからスタートするしかないだろう。
まずは議員立法の案がまとまれば、それを叩き台としてパブコメを求めたり、全国行脚して地元の意見を汲み上げればいい。
あとこういう問題だと、これまでは地元の意見を基礎自治体、つまり市町村がある程度は汲み上げてきたんだけど、この平成の大合併で市町村と地元の距離が遠くなったのがマイナスにならなければいいなあと思う。

Aさんなんだかピンと来ないなあ。

H教授うん、こういう問題はものすごく地域性が強いんだ。だから一般論は抽象的過ぎてしまう。具体的なケースごとに論じなければ仕方がない。「神は細部に宿る」んだ。


環境省提出法案の概要

Aさんまた、わけのわからないことを。
じゃ、あとは他の法案ですね。国立環境研究所法の改正って?

H教授独立行政法人には役職員の身分を公務員とする公務員型のものと、そうじゃない非公務員型のものがある。今回の法改正では、前者から後者にするということらしい。
具体的に何が変わるのかよく分からないけど、少なくとも「研究官」とかいうような名称は使えなくなったようだ。

Aさんじゃあ、まったくの民間というわけですか。

H教授そんなわけないだろう。守秘義務だとかなんだとかはまったく変わりがない。
官批判の一環で「公務員の数」がすぐ問題にされるから、公務員削減という実績を稼いで矛先をかわそうという意味はあるかも知れない。
ま、国民向けの意味はあっても、国民にとっての意味はなさそうな感じがするけど。

Aさん鳥獣保護法改正は?

H教授狩猟者が年々減ってきており、しかも農作物被害が増えているところもあるという現状に鑑み、規制緩和するという面、一方じゃ、個体数が減ったり生息環境が悪化している面に対応しようとする両面があるみたいだ。
具体的には、(1)休猟区における狩猟の特例制度創設、(2)狩猟の免許区分を見直し、農家のわな猟をやりやすくすること、(3)県による入猟数調整制度の創設、(4)危険性の高いわな猟の禁止制限区域制度の導入、(5)網やわなの設置者表示義務付け、(6)鳥獣保護区における保全事業の創設、(7)輸入鳥獣を識別するための標識(脚環等)装着の義務付け ──ということらしい。
この分野は詳しくないので、それ以上は聞かないように。

Aさんへえ、なにか詳しい分野があるかのようなおっしゃり方ですね。
フロン回収・破壊法は、確か業務用冷凍空調機器からの回収率アップを目指して、回収工程管理制度の導入だとかを図ろうとするものでしたよね。いわば、フロン・マニフェストが義務付けられるということでしょうか。

H教授うん、第29講「フロン・マニフェストとオゾン層破壊」で述べたように検討会報告書に沿って法改正がされたということだ。現在の回収率はたったの3割らしいからね。
それと、これはオゾン層保護対策だけじゃなく、温暖化対策の意味もあるんだ。「京都議定書目標達成計画」にも明記されている。
じゃ、その温暖化対策法改正の話をしてごらん。


温暖化対策法改正と京都メカニズム

Aさんは〜い。こちらは京都メカニズムのスムーズな活用を推進させるための規定を整備する改正ですね。CDM(クリーン開発メカニズム)JI(共同実施)排出量取引で民間が取得した「排出削減したとみなされる量」を、国際的にはクレジットと呼んでいます。
そのクレジットをこの法律では「算定割当量」とし、国はこの算定割当量口座簿をつくって、これにより算定割当量の取得、保有、移転を行うための口座を開設します。
算定割当量口座簿では国の口座と民間も法人ごとの口座があります。法人が口座を開設しようとする場合には…。えーい、なんだかよくわからなくなっちゃった。

H教授はは、ボクもよくわからないよ。国会議員もこの仕組みがきちっと理解できたかどうか。要は、このクレジットをきっちりと管理できる仕組みを作ろうということだろう。
もともと京都メカニズムへの参加資格として、「国別登録簿」という国として排出枠の移転や獲得などを管理するための記録簿の整備が義務付けられている。そのための国内法整備として、温暖化対策法を改正したんだ。
改正法でいう「算定割当量口座簿」が、「国別登録簿」に相当するんだろう。
それよりも京都メカニズムそのものをきちんと理解しておくことのほうが大切だ。CDMっていうのは?

Aさん途上国に対して資金・技術援助を行い、GHG(温室効果ガス)が削減できた場合はその削減量がクレジットとして援助国に与えられるということで、そのための認証をCDM理事会という国際機関が行うんです…よね。

H教授うん、実際には理事会が指定するDOE(指定運営機関)に任せられているんだけどね。旧式の火力発電所を最新鋭の発電所に建て替えるときなんかは現実に排出量が削減されるんだからわかりやすい。
じゃあ、未電化地域に先進国が援助して新たに最新鋭の火力発電所を建てる場合はどうなる? この場合はGHGは増加するよね。とするとCDMとしては認められないの?

Aさんそりゃそうでしょう。増加するんだもの。

H教授いや、ところがこの場合も、どうやらCDMになり得るらしいんだ。
途上国がある開発プロジェクトを先進国の援助でやる場合と、自前の資金及び技術でやる場合のGHG(温室効果ガス)排出量見通しの差、すなわち仮想の削減量見通しがクレジットとして認められるらしい。
さっきの例で言えば、未電化地域のあるような国は資金も技術も乏しいに決まっているから、自前でやれば旧式の熱効率の悪い発電所しかつくれない。そうなると大量のGHGを出すことになるわけで、先進国の資金援助・技術支援によって、排出量がぐんと削減するという理屈のようだ。
つまり現に排出量が削減される場合だけでなく、現実には増加する場合もあるということだ。

Aさんホントですか。

H教授環境省の法案趣旨説明の資料を読む限りはそうとしか読めない。
それがクレジットとして認められないなら、そんな援助はや〜めたってなることを考えると、あながちおかしいとも言えないだろう。
では、JIは?

Aさん先進国同士が協力して行うプロジェクトの場合のことです。

H教授例えば?

Aさんえ? …どんな場合が想定されるんだろう?

H教授先進国といったってさまざまだ。先進国ではあっても技術の低い国に、より技術が高い国が技術のノウハウや資金を提供することによって、排出量の削減につながることだってある。

Aさんじゃあ、JIでも現実に削減する場合だけでなく、増加する場合もありうるということですか? さっきの未電化地域の発電所のようなケースで。

H教授う〜ん、どうなんだろう。だけど先進国である以上、割当量が決まっているからなあ。

Aさん日本はマイナス6%だけど、プラスの国だってあるわけでしょう。マイナスの場合だって必要なケースもあるでしょうし。

H教授そりゃまあ、そうなんだけど…。うーん、多分そうなんだろう(自信なさげ)。
(思い直して)ま、ことほどさように法や条約というのは難解なんだ。
今国会の法改正にしても環境省関連法案がアスベスト関連以外は新聞でほとんど報道されないというのは、マスコミが無関心なんではなくて、やっぱり中身がわかりにくすぎるんだろうと思うよ。
法の条文がわかりにくいのは仕方がないとして、概要説明、趣旨説明を読んでもよくわからない。キミやゼミ生が読んでふんふんと納得するような、わかりやすいものにしなきゃいけないんだ。

Aさんなんだか責任転嫁しているような気もするなあ。

排出量取引制度の陥穽

H教授うるさい。あと、排出量取引の説明をしてもらおうか。

Aさんえ〜と、排出量取引は排出権取引ともいいます。
もともと米国の二酸化硫黄削減に用いられた手法で、あらかじめ発生源ごとに排出枠というか排出限度量を決めておいて、それよりも多く削減した企業はその分を未達成の企業に売ることができ、買った企業はそれを自分の削減量としてカウントできるという制度です。
アメリカご自慢の制度だけど、センセイは必ずしも評価されてないようですね。

H教授だって単位GDPあたりの二酸化硫黄排出量を日米で比較すれば一桁もアメリカの方が高いんだぜ。だからこそアメリカ・カナダ間での酸性雨問題が生じるんだ。
せめて単位GDP当たりの二酸化硫黄排出量を日本の2倍くらいにまで削減する規制や対策をしてから、補完的に導入すべき制度だと思うな(怒)。

Aさんまあまあ(となだめて)。
その排出量取引制度をGHGに応用し、国家間で認めたものを国際排出量取引と言います。
買い手国と売り手国が、取引の種類、取引量、価格、時期などについて合意したら、条約事務局が管理する国際取引ログというコンピューターシステムに通知し、検証を受けた後、両国の国別登録簿が書き換えられることによって排出量の取得、移転が完了します。

H教授ちゃんとイメージできるかい?


Aさんぺろっと舌を出して)えへへ、実はもうひとつピンとこないんです。
ロシアなどは、排出量というかその排出権を高く売り付けようとしているって聞きますけど。

H教授うん、ロシアの場合、別に排出削減に努力した結果じゃなくて、経済の不調が結果として排出枠のあまりを生み出したんだ。これをホットエアと呼んでいる。
実際にはCDMや排出量取引のクレジットは企業間でも取引され、自国企業の取得したクレジットを国に移転する。それをスムースに動かすための仕組みを決めたのが、さっきの温暖化対策法改正なんだ。

Aさん確か、英国でも導入していませんでしたっけ?

H教授英国では、すでに国内の工場間で排出量取引制度を運用していたが、EU全体として域内工場間の排出量取引の枠組や市場の設定等を規定するEUの指令が昨年(2005年)1月にスタートしたんだ。

Aさんところで、日本では何で国内の排出量取引制度を取り入れないんですか? 環境税もそうですけど。

H教授別に国内企業間で排出量を売り買いしたって構わないよ。それは勝手だ。現に環境省の呼びかけで、自発的な参加による企業間の排出量取引が試行されている。
ただ、排出量取引という制度はキャップ、すなわち排出限度量というか排出枠というか、主要工場ごとにどこまでなら排出しても構わないと割り当てて、その違反に対してはペナルティを与えるようにしないと動きっこない。つまり規制とセットなんだ。
そのキャップをどう決めるかがネックになっていて、当面は動きそうにない。
そのためには主要工場ごとの排出量をきちんと把握しなきゃいけないしね。
もともと京都メカニズムの参加資格にはGHGの排出量と吸収量が国内で算定されるシステムが確立しなくちゃいけないことになっていて、こちらの方も動き出したばかりだからな。

Aさんキャップなんて、現在の排出量をきっちりと把握し、それからマイナス6%分を差し引けばいいんじゃないですか。

H教授そうすると、今まで一所懸命省エネに取り組み、GHGの排出抑制に努めてきた企業が損をするとういうか、不利になるじゃないか。

Aさんだったらそれを加味した計算式を作ればいいじゃないですか。

H教授そりゃそうなんだけど、その計算式の係数をどう決めるかによって不利になったり有利になったりする業種や個別工場が出てくる。全員が納得するものなんてできっこない。こういうときこそ強いリーダーが必要だと思うね。
それに産業界の言い分は、CO2などのGHG排出抑制を産業、運輸、民生と分けて考えると、産業界が一番努力している一方で、運輸と民生部門が増やしているじゃないかということだ。
国民のライフスタイル、つまりわれわれのせいだと言うわけだ。

Aさんだって、運輸にしたって民生にしたって、その増加の元になる電化製品やクルマを作って、売って、儲けてるのは産業界じゃないですか(怒)。

H教授ボクに怒ったって仕方がない。


容器リ法見直しの顛末

Aさんさて、最後は容器包装リサイクル法ですね。

H教授これは随分以前から議論されてきて、その議論の経過も公表されている。この時評でも何回か取り上げてきたし、詳しくは安井先生のホームページを参照してもらうことにして、簡単にいこう。

Aさん結局、レジ袋の有料化はどうなったんですか。

H教授直接法文ではうたっていない。
「小売業等について、「事業者の判断の基準となるべき事項」を主務大臣が定めるとともに、一定量以上の容器包装を利用する事業者に対し、取組状況の報告を義務付け、取組が著しく不十分な場合は勧告・公表・命令を行う措置を導入する」
──という条文が入った。
これを根拠に「事業者の判断の基準となるべき事項」をガイドラインとして定め、そのなかで有料化を示唆するような文言が入るんじゃないかなあ。わからないけど。

Aさんもうひとつは自治体と事業者の負担区分の見直しですね。

H教授これも随分と後退してしまったようだ。
「事業者が、再商品化の合理化に寄与する程度を勘案して算定される額の資金を市町村に拠出する仕組みを創設する」
──となっている。
分別などを熱心にやる優良自治体にご褒美をあげるみたいな書き方だね。

Aさんペットボトルの中国輸出が増え、せっかくできた国内リサイクルルートがうまく回っていないという問題もありました。こちらはどうなったんですか。

H教授条文によると、
「廃ペットボトルの国外への流出等にかんがみ、「再商品化のための円滑な引渡し等に係る事項」を基本方針に定める事項に追加して国の方針を明らかにする。」
──そうだ。つまり先送りだ。
これに関連して、今までは自治体が回収した廃ペットを(財)日本容器包装リサイクル協会に無償で渡し、協会がリサイクル業者にお金を支払ってリサイクルさせていたんだ。その額は入札で低いところに決めていたんだけど、ついにオカネを渡すんじゃなくて受け取る、つまり売るようになったそうだ。
当たり前だといえば当たり前だけど、それでリサイクル業者がやっていけるかどうか心配になるねえ。

Aさん他には?

H教授「容器包装廃棄物排出抑制推進員」制度ができた。
どこまで実効性があるかわからないけど。

Aさんつまり、抜本的な見直しからは遠いものに終わったということですか。s

H教授まあそういわれても仕方がないんだろうねえ。
昨日(27日)の朝日の夕刊記事によると、韓国ではかなり思い切った政策をとっているようだ。レジ袋にまでデポジット制度を導入、容器包装や電気製品など9つの製品群に拡大生産者責任を適用し、業種ごとにリサイクルの目標値を設定、未達成の業者から課徴金を徴収、過剰包装規制や飲食店・ホテルなどでの割り箸、つまようじ、歯ブラシの無料提供の禁止 ──などなど。
韓国と比べると、日本は循環型社会と騒いでいる割には随分と遅れちゃった気がするねえ。


神戸製鋼の不祥事

Aさんところで話は変わりますけど、神戸製鋼の不祥事件が問題になってますねえ。

H教授ああ、あれには驚いた。詳しくは中西準子先生のホームページを見てほしいんだけど、データ改ざんなんて絶対しちゃあいけないことを、随分昔からやっていたというんだから、あきれてものがいえない。
神戸製鋼といえば、関西の環境優秀企業と思われてたものなあ。
石原産業の場合は前科があるから驚かなかったけど、神戸製鋼はISO14001やら環境報告書やらでは常に関西のトップリーダーだったし、環境部の人とは昔から付き合いがあって、随分熱心だと常々感心していたんだけどなあ。
トップや本社環境部の人は知らなかったんだろうけど、現場ではああいうことが日常茶飯事だったとすれば、根本から見方を変えなきゃいけない。


Aさんどういうことですか。

H教授行政では抜き打ち検査をやったりしてるんだけど、それでも見つけられなかったとすれば、検査のやり方に問題があるんだろうと言われても仕方がない。それと同じだよ。
それと、中小企業はともかく、大企業では規制導入前は猛反対しても、いったん規制が始まれば遵法精神は人一倍あるというのがボクらの常識だった。つまり先日の耐震偽装のときもそうだったけど、今の法規制は基本的に性善説に立っているんだ。これを性悪説に立って法規制をやるとすれば、これまでの何倍も人手もかかるし、オカネもかかる。今の日本じゃ、そんなことは不可能だからねえ。どういう実効性のある再発防止策が取られるかだ。

Aさんそもそもなぜ発覚したんですか。

H教授経産省の内部調査が入って発覚したというんだけど、本当のところはわからない。内部告発でもあったのかもしれない。
各工場では明示していたかどうかはともかくとして、生産ラインをどんなことがあっても止めちゃいけないみたいな雰囲気が濃厚に支配していたんだろう。本社の環境部は知らなかったかもしれないけど、各工場の環境担当がまったく知らなかったとは思えない。
となると、本社と工場の関係、それぞれの指揮命令系統、各工場の環境担当と本社の環境部との関係がどうなってたか、建前でなく実態を知りたいところだねえ。


Aさんなんか知事と自治体の環境部局と環境省の関係みたいですねえ。

H教授だから、そこの実態を知りたいし、それを知るところからしか始まらないと思うんだ。

さいごに

Aさんだけど、今回の話、特に温暖化対策法と京都メカニズムの話は本当に先生の理解でいいんですかねえ。

H教授正直言って、あまり自信がない。

Aさんそりゃあ、無責任じゃないですか。読者に叱られちゃいますよ。
だいたいセンセイの理解が正しいかどうか、環境省に問い合わせれば済む話じゃないですか。

H教授本来は、国会議員や国民が簡単に理解できるための資料が必要なんだけど、環境省OBのボクが法案の趣旨説明を必死に読んでもよくわからないところがあると言いたいんだ。だからあえて問い合わせはしなかった。
もしボクの理解が間違っていたら、それを指摘してもらうとともに、もっとわかりやすい説明資料をつくるよう心がけて欲しい。

Aさんなんか変な理屈だなあ。とても大学キョージュとは思えないわ。


アンケート

この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

(平成18年6月29日執筆、同月末編集了)
★本稿の見解は環境省およびEICの公的見解とはまったく関係ありません。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。