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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.059

Issued: 2007.12.06

第59講 『翼よ、あれがバリの灯だ! 付:拡大フィフティ・フィフティ』

目次
守屋事件の余波
道路特定財源をめぐる混迷
温暖化をめぐる攻防―バリを目前にして
バリを占う
ハンガリーから排出枠を買う
環境雑感―水俣病新救済案、家電リ法見直し、第三次生物多様性国家戦略閣議決定
カーボン・オフセットとフィフティ・フィフティ
拡大フィフティ・フィフティ

守屋事件の余波

Aさんセンセイ、守屋逮捕ですって! 奥さんもだそうですよ。前代未聞ですね。

H教授うん、問題は疑獄事件として政治家まで波及するかどうかだけど、とにかく徹底的にやってほしいね。テロ特措法なんかより、膨大な国防利権構造を抉り出す方が先決だ【1】

Aさんヌカガさんは「証拠」まで出してきて、守屋と宴席で同席したことを徹底否認していますね。

H教授宴席同席に対しては逃げ切れたみたいで、本人も自民党もほっとしているだろう。でもなあ…。

Aさんでも?

H教授国防利権の闇は深そうだ。政治家にもメスが入るんじゃないかなあ。となるとヌカガ喜びに終わるかもしれない。


Aさんそのダジャレが言いたかったのか

H教授ま、それはともかくとして、小沢サンの大連立構想破綻後のドタバタ騒ぎで、民主党も信用を落としたかに見えたけど、この守屋事件の露呈でまたもや世論は反転、いよいよ自民党の政権与党の座も怪しくなったね。
大阪市長選で自公推薦の現職が敗退したのも、役人上がりの現職が飽きられたのに加え、守屋事件の影響で役人への不信感が増幅したんだと思うよ。
市民感覚では理解しがたいカネの問題が露呈したにもかかわらず、問題ないと突っぱねて府民の顰蹙を買い、のちに謝罪した大阪府知事も、やはり通産官僚上がりだ。自公民とも彼女を見放す方針のようで、三選出馬に意欲を燃やすものの出馬辞退に追い込まれるんじゃないかな。
でも、こうした事態に対して国民以上に怒っているのは、大多数のマジメな役人だと思うよ。


Aさんそうでしょうねえ。センセイが役人時代マジメだったかどうかは知りませんが。

H教授冗談言うなよ。「謹厳実直が背広を着たようなH」とか「清廉潔白温厚篤実人畜無害のH」とか…。

Aさんと自分で言って笑いをとってたんですよね。

H教授う、うるさい。


Aさんそれはともかく、小沢サンが大連立構想を画策したということは、まだ二大政党制がきちんと根付いてないということでしょうかねえ。

H教授それどころか、政界再編成がまだまだ起きる可能性はあるぜ。ボクはもともと二大政党制がいいなんて思ってないしね。

Aさんまた、天邪鬼なことを言い出した。

H教授外交の主軸はアメリカかアジアか、大きな政府か小さな政府か、都市優先か地方優先か、環境か経済発展か、いっぱい軸があって、それを2つの政党に収斂させるのはムリだよ。4つか5つかの中政党ができ、時々に応じて連立を組みかえる方がよほどいいと思うな。で、その一つがヨーロッパにあるような緑の党であってほしい。

道路特定財源をめぐる混迷

Aさんはいはい、その話は聞き飽きました【2】
ところで、福田政権が誕生して2ヶ月になりますが、センセイの評価はどうですか。

H教授まだわからない、これからの1ヶ月が試金石だと思うよ。

Aさんと言いますと?

H教授これから予算編成や税制改正でチャンチャンバラバラがはじまる。
例えば道路特会の問題だ。ガソリン、軽油、自動車などへの税金は道路特定財源として道路整備のみに充てられている。しかもその税率は暫定税率として、本来の倍になっている。この仕組みが日本の道路整備を進め、クルマ国家に変えていった。
だけど、今じゃあ一般財源の方が財政難で苦しんでいる中で、道路特定財源はダブついていて、ろくに利用されもしないような道路を全国津々浦々に造っていると、以前から批判を浴びていたんだ。
コイズミさんのときから、道路公団民営化では大騒ぎしてたけど、この道路特定財源を一般財源化するかどうか、また今年度末で切れる暫定税率をどうするかについて、コイズミさんは暫定税率維持、一般財源化という方針を匂わせつつも、結局は結論を出さないまま安倍内閣まで持ち越しちゃった【3】
昨年末に財政構造改革の一環として安倍内閣の結論が出た。つまり暫定税率は今後とも維持するが、「真に必要な道路」だけを今後は整備し、余った部分は一般財源化するという方針だ。でも、「真に必要な道路」がどれだけかというのは国土交通省で精査するという、玉虫色の決着だったんだ。

Aさん地方じゃ道路のような公共事業がまだまだ必要だ、という意見は根強いんでしょう。

H教授うん、格差問題が騒がれる中で、参院選で自民党が大敗。結果、そういう意見が再び自民党内で強くなった。先日、国土交通省が発表した「真に必要な道路」の道路整備計画によると、今後10年間では国費35兆円、地方自治体の負担分を含めると68兆円にのぼるとされた。

Aさんへえ、道路特定財源の規模って、いくらくらいなんですか。

H教授う国の道路特定財源は暫定税率を維持した場合、今後10年間で31兆円から34兆円という見通しらしい。

Aさんということは、一般財源化するのは…。

H教授そう、みごとにゼロ、というかマイナスだ。土建屋国家健在というわけだ。
都会との格差に苦しむ地方では道路整備推進派が多く、地方自治体や地方住民の支持を見込めると思ったんだろう。
おまけに自民党としては連立している公明党に配慮しなければいけない立場で、国土交通大臣は公明党だ。

Aさんあれだけ改革、改革と言っといて、そんなの詐欺じゃないですか。
一般財源がなくて苦慮している財務省はカンカンでしょうね。
経産省や産業界はどうなんですか。

H教授彼らは本来の税率に戻せ、つまり減税しろという派だ。
国際的な投機筋によって原油価格が高騰している。多くの国民は、ガソリンの値上げだとか苦しんでいるから、その方が国民に支持されると思っているのかもしれない。

Aさん民主党は対案を出しているんですか。

H教授こちらは税収の大半を占める揮発油税を廃止し、その代わりに環境税化しろということのようだ。そして、それ以外の自動車重量税等は全額一般財源化という方針らしい。ただ党内には道路整備推進派もいて、内情は複雑らしい。

Aさんつまり三すくみ、四すくみの状態なんですね。福田サンはどうなんですか。

H教授福田サンとしては政府与党内をちゃんと調整して持って来てくれれば一番ありがたいんだろうけど、今のままじゃそうはいきそうにない。かといって、福田サンが裁いてみんなが納得するかといえば、それもできそうもない。
納得しなくても強引に納得させてしまうだけの、力ある官邸かどうかの試金石というわけだ。

Aさんへえ、環境省はどうなんですか。

H教授環境税導入を言っているけど、この問題には態度を表明していない。
環境税に対して産業界、経産省は真っ向から反対しているが、国土交通省は中立を守っているだけに、敵に回したくないんだろう。
おまけに特定財源のままでも、道路関係の環境保全予算に回してくれることも期待しているだろうから、なおさら態度は表明しづらいんだろう。

Aさんこのまま放っておいたらどうなるんですか。

H教授暫定税率は放っておけば、今年度で終了、減税ということになり、歳入が半減してしまうから、それだけは避けたいだろう。

Aさんひぇえ、センセイはどう思われるんですか。

H教授スジからいえば減税だ。だけど、国家財政の膨大な赤字はやはり無視できない。それにこうした税金の高さが、クルマ社会化したとはいえ、欧米並みまでいくことをセーブしている。日本では、公共交通機関がそれなりに機能していることは、やはり評価しなくちゃいけない。


Aさんへえ、そうなんですか。

H教授例えば米国では、ニューヨークとワシントンの間ですら新幹線は通ってないし、本当かどうか知らないが「地下鉄は治安がよくないから観光客は乗るな」などと言われているくらいだ。

Aさん地下鉄の話は別の要因によるんじゃないですか。格差が極限まで広がったとか、そういうことじゃないんですか。

H教授ま、それはそうかも知れないが、暫定税率を廃止したとしても、その減税分を環境税化して、結果的にガソリン価格やクルマの価格を下げないことには賛成だ。
また、本来の税率に戻したとしても、それを全額道路整備に充てることは反対で、道路関連の環境保全に充てたり、公共交通の整備に充当すべきだと思う。

Aさんなるほどねえ。でも福田サンも大変ですねえ、テロ特措法のことだってあるし。

H教授テロ特措法で給油活動の継続なんて言ってるけど、米国の対イラク政策だけじゃなく、対アフガニスタン政策だって破綻しかかっているんだ。もっと根本から議論するいいチャンスじゃないか。


温暖化をめぐる攻防―バリを目前にして

Aさんそんなもんですかねえ。さて、いよいよ来週からCOP13ですね。

H教授うん、温暖化のね。とっくにその前哨戦がはじまっているよ。

Aさんそうですね、それからざあっと見ていきましょう。

H教授ブッシュ包囲網がせばまってきた。ブッシュさんの盟友がまたひとり姿を消した。米国に引き続いて京都議定書を離脱したオーストラリアで総選挙があり、ハワード首相率いる与党・保守連合が敗退、ハワードさんまでが落選しちゃった【4】
勝利した労働党は京都議定書を批准、ポスト京都に向けても厳しいGHG排出抑制を行うとしている。記録的な旱魃で農業被害が深刻化し、国民の間に温暖化の懸念が広がったからだという識者も多い。
外交も対米より対アジア重視に転回するだろうという見方が強い。


Aさんそういえば米国の連邦議会の上院でも、結構ラジカルな温暖化対策法案が小委員会で可決されたそうですね。

H教授「米気候安全保障法案」だ【5】。2050年までにGHGを63%減らすという長期目標を掲げている。小差での可決だったけど、反対票の中にはラジカルだからでなく、これでもまだ微温的だという反対票まであったらしい。もちろんブッシュさんは本会議で可決されても、拒否権を発動するだろうけど。

Aさんそれからカナダ、米国の11の州が、EUと排出権取引市場の共通化を目指すことで合意し、政治宣言に署名しました。

H教授この11の州はGHGを現状から2050年には60〜80%減らすことを目標としていて、その手段のひとつとして排出権取引を活用するということだろう。将来的にはEUの排出権取引市場(EU ETS)に一本化するんじゃないかな。
カナダも連邦政府は温暖化対策に及び腰だけれど、先進的な州政府が独自に動き出した。米国とまったく同じ構図だね。
シュワルツネッガーさんのカリフォルニア州政府も、米連邦政府を提訴した。2020年までに25%GHGを減らすことを目的とした州の自動車排ガス規制を、連邦政府が許可しないからだ。
ブッシュさんは日本やカナダと一緒になって、中国やインドを味方につけてポスト京都では国連やEUに対抗しようとしているけど、これだけ身内からの反乱が起きてりゃどうしようもないんじゃないかな。
日本政府も、ブッシュさんが転けて、ふと後ろを振り向くとアガサ・クリスティじゃないけれど「そして誰もいなくなった」と驚くことのないようにしてほしいね。


Aさん国際機関の動きも急ですね。IPCCの第四次統合報告書が先日出された【6】かと思えば、UNEP(国連環境計画)は「第4次地球環境概況(GEO4)」を公表【7】し、その中で温暖化や種の絶滅、食料や水資源等地球環境の危機は一層深刻化しているとしているそうですし、UNDP(国連開発計画)も人間開発報告書を発表【8】。その中で先進国は2050年までにGHGを90年比で80%削減しろと言っているそうです。

H教授うん、パン・ギムン国連事務総長も温暖化の影響を探るとして、南米から南極に降り立った。COP13に向けてのパフォーマンスだろうけど、国連機関はEUやノーベル賞委員会と手を組んで、ブッシュさんを包囲しようとしているように見えるね。

Aさん国連とブッシュさんは反りが合わないんですか。

H教授そりゃあそうさ。ブッシュさんはアフガニスタンでもイラクでも、国連など意に介さず軍事介入。分担金も滞納して国連に圧力をかけ続けたからなあ。

AさんところでGHGの排出量や濃度の最新データはどうなっているんですか。

H教授WMO(世界気象機関)は06年の全球平均のCO2濃度は381ppmに達し、観測史上最高を記録したと発表した。
一方、気候変動枠組条約事務局は、05年までの先進国のGHG排出量を公表した。それによると対90年比でドイツが18.4%減、英国が14.8%といずれも大幅に減少させていて、EU全体では1.5%減。それに対し日本は6.9%、米国は16.3%、カナダも25.3%といずれも増えているそうで、くっきりと分かれている。
またIEA(国際エネルギー機関)の見通しでは、07年には中国が米国を上回る世界最大の排出国になるそうだ。

Aさんでも単位GDP当たりのGHG排出量は、日本の方がドイツや英国よりまだ低いんでしょう。
ドイツは旧東ドイツの旧式の生産設備を最新のものに変えるだけで、また英国は石炭から石油や天然ガスに切り替えるだけで、相当GHG削減を稼げるなんて、ちょっとズルイんじゃないですか。


H教授うん、そりゃあそうだし、産業界や経産省は盛んにそれを言い立てているけど、日本の場合、省エネは温暖化対策ではなくコスト削減、国際競争力アップのためにやったことで、そんなに威張ることじゃない。
また再生可能エネルギーの割合は、両国とも日本よりヒトケタ高い。
それに第30講(その4)でも言ったけど、1973年以来、両国とも一次エネルギー消費を増やしていないのに対し、日本は5割以上増やしていることも忘れちゃならない【9】
ドイツやイギリスは、もはや「果てしない成長」や「生活の物質的な快適さ」だけを求めることから脱皮していることは素直に認め、見習わなくちゃならないよ。

Aさんうーん、で、来週始まるCOP13&COP/MOP3はどうなるんですか【10】

H教授あ、それはもう決まっている。激しい議論はされるだろうけど、平行線に終わり、何も決まらないことは明らかだ。新たな議論の展開はポスト・ブッシュに持ち越されるだろう。
09年までの妥結を目指すという「バリ・ロードマップ」についてだけは合意されている【11】が、ポスト京都の中身が固まるのには、さらに1〜2年かかるんじゃないかな。

バリを占う

Aさんで、いよいよ来週からゴングが鳴るわけですが、やはりCOP3のときのようにEU−米国−途上国の三すくみになるわけですか。

H教授基本はそうだけど、COP3では米国と途上国は対極にあった。
「途上国に義務を課さないのはけしからん」という米国と、「温暖化の原因は米国を先頭とする先進国だから、そんな義務を課される覚えはない」とする途上国が激しく対立していたんだ。
でも今回、米国はおそらく対EU戦略もあって、途上国には融和的な態度を示すだろう。
つまり、先進国、途上国ともに自主的に目標を定めて削減努力をすることと、途上国に対して技術的・経済的支援を行うことを米国は主張して、なんとか中国やインドを自陣営に引き込もうとするだろう。

Aさん日本はポスト京都の国としての方針は決めたんですか。

H教授いや、討議の進め方だとかの提案はしているが、中身については決めてない。
だけど、とりわけアジア諸国とは友好的に対話を進めていくということで、いろいろやっているけど、結果的には米国と同一歩調を取っていると言われても仕方がないんじゃないかな。

AさんAPECのシドニー宣言に引き続き、東アジアサミットでは温暖化防止宣言、いわゆる「シンガポール宣言」が出されました【12】が、ああいったものですよね。
シンガポール宣言では、域内森林面積を1500万ヘクタール以上を増やすという努力目標を盛り込みましたが、エネルギー効率の数値目標はインドの反対で盛り込めず、シドニー宣言より後退を余儀なくさせられましたね。
対するEUはどうなんですか。


H教授EUはすでに2020年までに対90年比20%削減という自主目標を公表している【13】が、COP13では先進国に京都議定書よりさらに厳しい削減義務を課し、2050年までに全世界での排出量を90年比で50%カットし、気温の上昇を産業革命前より2℃以内に抑えるとしている。
途上国に対しては削減義務を課すとはしておらず、それなりに気を遣っているようだ。また、国際炭素市場の強化・拡大や船舶や航空機からの排出規制も提言している。
国際炭素市場については先ほど述べたように、カナダ、米国の中央政府でなく州政府との合意を得ている。一方、船舶・航空機からの排出規制に関しては、EUの欧州議会で、EU域内のみならず域外と結ぶ航空機に対する規制を行うと決めたが、日米や航空機会社は猛反発している。

Aさん途上国はどちらに付くのでしょう。

H教授どちらにも付かず、先進国責任論と途上国への支援強化を言い立てるとともに、米国とEUの論戦を観戦すると思うよ。
日本や米国は、2050年に世界のGHG排出量半減と言っているけど、その割り当てなどには口を閉ざしたままだ。「世界各国が自主目標を設定する」という方向らしいけど、そんなんで達成できるかまったく説得力がないよね。
おまけに日本も米国も、2050年までに自国でどれだけ削減するかという点は明言を避けている。
途上国が手本にする先進国の姿を変えてみせるという意味では、圧倒的にEUに軍配があがると思うな。
もちろんこうした国際交渉はリアルポリティックスの世界だから、どうなるかわからないけど。
北極の話はよく聞くけど、ヒマラヤでも氷河の後退が著しく、氷河湖の決壊による大洪水の危機が増しているなんていう話もある。先日のバングラディシュのサイクロン被害だって、温暖化とまったく関係ない自然災害だとは言い切れない。
途上国も一枚岩じゃない。近代化から程遠く、温暖化の被害を真っ先に受ける国や住民は、EUに共感するんじゃないかな。そして日本や米国に対しては厳しい目を向けると思うよ。

Aさんきっとバリ雑言を浴びせるんでしょうね。

H教授くっ、くだらん!


ハンガリーから排出枠を買う

Aさんところで、日本政府はハンガリーから排出枠を1000万トン買うことにした、と新聞に出てましたね。200億円くらいになるんじゃないかという話です。

H教授うん、いわゆるホットエアーだね。
ロシアや東欧などの経済移行国は、社会主義体制の崩壊で依然として経済体制は立ち直らず、そのために京都議定書の削減目標を過剰達成しているので、それを排出権取引で買うというわけだ。
CDMならわかるが、別段意図的に排出削減に努力してできた枠でもないのを買うというのは、売る側、買う側どちらの国にもモラルハザードを起こしかねない。ボクは反対だな。

Aさんでもその代金は、ハンガリーの環境対策に使うという条件らしいですよ。

H教授でも経産省は、それは今回はそうだというだけで、必ずそういう条件をつけるわけじゃないと言ってるぜ【14】
それこそ以前から言ってるように、CDMを充実強化させるとともに、国内排出権取引制度と国内CDM制度を導入した方がよほどいいよ【15】。東京都がなんとか導入しようと苦闘しているらしいけどね。

環境雑感―水俣病新救済案、家電リ法見直し、第三次生物多様性国家戦略閣議決定

Aさんぼちぼち別の話にいきましょう。
与党プロジェクトチームの水俣病未認定患者の新救済案【16】は、一部の患者団体が拒否したうえ、チッソも拒否の姿勢を明確にしたことで、デッドロックに乗り上げましたね。


H教授まあ、チッソの拒否の方は一種の条件闘争で、駆け引きかもしれないけどね。
新救済案では「水俣病被害者」というコトバをはじめて使ってるんだけど、「水俣病患者」とは言ってない。このあたりが姑息だよね。
それに「救済」などというコトバを使うのもおこがましい。やはりカネだけじゃ解決しないと思うな。

Aさんそれから家電リサイクル法の改正ですが、産業構造審議会と中央環境審議会の合同会合で見直しの方向が固まったそうです。
センセイ持論のポジティブリストなんて話題にもならず、懸案だったリサイクル料先払い制度への変更も見送りだそうです【17】
次は建設リサイクル法の見直しに着手するそうですが、なかなか政策のブレークスルーというのは難しいですね。

H教授もうひとつ第三次生物多様性国家戦略は閣議決定されたが【18】、ボクの取っている新聞には、ただの一行も載ってなかった。
この国家戦略で挙げられた4つの基本戦略の最初のものが、「生物多様性を社会に浸透させる」というのもむべなるかな、だな。まるで世間は無関心だもんな。

カーボン・オフセットとフィフティ・フィフティ

Aさんさ、いよいよ12月ですね。バリの動きと、国内では税制や予算の動きをしっかりとフォローして、福田内閣の方向と「強さ」を見ておかなくちゃなりませんね。
でも温暖化に戻りますけど、センセイが以前から言ってた国内排出量取引制度、国内CDM、環境税、自然エネルギー固定価格買取制度以外になにか新しいアイデアはないんですか。

H教授ひとつはカーボン・オフセットだ。

Aさんカーボン・オフセット?

H教授うん、新たにGHGを排出するときは、それを帳消しにするようなことをしようということだ。例えば海外旅行に出かけるということは、それだけ新たなCO2を排出するということだから、それに見合う分を吸収するために、自宅の庭などに植樹するといった方法だ。
環境省が「カーボン・オフセットのあり方に関する指針案」というのを今日(11月30日)発表して、パブコメにかけている【19】が、今のところそれをどう政策に組み込むかという段階までいってないようだ。

Aさん他には?

H教授フィフティ・フィフティというのが一部で行われはじめた【20】

Aさん五分五分? なんです、それ?

H教授学校の省エネプログラムだ。
例えば学校で省エネを徹底させることによって、年100万円の電気料金が節約することができたとする。そうすると節約分の半分の50万円はその学校で自由に使っていいという、節約にインセンティブを与える方法だ。
生徒なんかはこういうのを制度化すれば、必死になって省エネに励むんじゃないかな。
もともとドイツで始められたプログラムなんだけど、日本でもすでにいくつかの自治体では取り入れているらしい。

Aさんへえ、それは面白そう。

H教授ボクはA市の温暖化推進協議会長なんだけど、A市でもやらないかと言ったんだ。環境課は乗り気だったけど、やはり導入はできなかった。

Aさんどうしてですか。


H教授―タテ割りだ。それでも奥の手として市長を説得できれば、他の部局はOKせざるを得ないんだけど、学校は教育委員会系列で全く独立しているんだ。環境課の提案に鼻もひっかけず、市長も教育委員会には何の権限もなく、人事権も持ってないから、どうしようもないって憤慨していたなあ。

拡大フィフティ・フィフティ

Aさんでもその手法は他にも応用が効くんじゃないですか。


H教授うん、学校に限ることはなくて、いろんなところで応用は可能だと思うよ。
ボクはこの考えをもっと進めて、温暖化とか環境問題を超えた次元での「拡大フィフティ・フィフティ」はどうかと思っている。

Aさん拡大ミティゲーション、拡大CDMの次は拡大フィフティ・フィフティですか【21】。何ですか、それは。

H教授冒頭の話だけど、太田大阪府知事が高い講演料を貰って世間の批判を浴び、そうなると与党も突き放し、今や三選が危うくなっている。
だけど、実は講演は秘密でもなんでもなかったし、記者クラブや与党の連中だって、太田サンがタダで講演しているなんて思ってなかったはずだ。
有名人に講演してもらえば、50万円とか100万円とかの講演料というのは、決して稀じゃない。
故・宇井純サンだって中西準子サンだって講演をお願いすれば、世間から見れば高額の謝礼を払うことになるし、それはある意味当然という見方もできる。

Aさんそりゃあそうかもしれないけど…。

H教授太田サンの場合、その講演料は別に税金から出ているわけじゃあないよね。じゃあ、いいじゃないか。それで府の政策のPRなんかすれば、広報活動にもなる。もちろん、高額の講演料を自分から言い出したり、講演料目当てで自分の方から仕掛けたりしちゃいけないけどね。
問題はその額が、やはり庶民の目からみると高額すぎるうえ、それを全部自分のフトコロに入れていたことだ。


Aさんじゃ、センセイはどうしたらいいと?

H教授大阪府は赤字で困っているんだから、知事は講演依頼があれば公務に差し支えない範囲でどんどんやってもらい、講演料の半分を府の収入にすればいいんだ。そして残りの半分は太田サンの収入にすればいい。
ただ、そうはいっても公僕なんだから、常識外れの高額にならないように、上限──例えば1回10万円──を決めておいて、講演料の半額が10万円を越せば、10万円で打ち切りにするんだ。
100万円の謝礼だったら、10万円を自分のものにして、90万円は府の収入にする。10万円の謝礼だったら、5万円を自分のものにして、5万円は府の収入にすればいいんだ。

Aさん…。

H教授そして講演依頼や執筆依頼については窓口を決めておいて、すべてホームページで公表する。どの団体からいくらの講演料で講演依頼があり、どういう理由で受けたか、断ったかまで公表すればいいんだ。
公表しないからよくないんだ。堂々と公表してやればいいんだと思うな。
そうすると非常識なものは淘汰されるよ。
これが拡大フィフティ・フィフティだ。

Aさんなるほど。そのやりかただったら、一般の役人にも適用できそうですね。

H教授実は霞ヶ関の役人が講演して謝礼を貰うというケースは以前は日常茶飯事だったし、形を変えたワイロみたいなものもあったらしい。あくまで噂だけど、大蔵官僚なんてちょこっと講演してウン十万円の謝礼を貰い、そのあと宴席、翌日は接待ゴルフという、守屋みたいなのがゴロゴロいたという話も聞いたことがある。
でも環境庁じゃ、そういうのは聞いたことがない。せいぜい「お車代」くらいだった。
ところが、形を変えたワイロみたいなのが、世間にばれて批判を浴び、それからは役人は講演をしても一切謝礼を受け取ってはいけないことになった。いや、それどころか、交通費さえ講演先から貰うことは難しくなってしまった。
今度の太田サンの場合は、役人とはいえ特別職だから、そうしたルールに抵触するわけじゃないんだけど、「隗より始めよだろう」と批判を浴びて、今後は謝礼を貰わないと言い出している。
でもねえ、こうした内向きの発想はガラっと変えるべきだと思うよ。


Aさんだから拡大フィフティ・フィフティですか。

H教授だって特別職であれ指定職であれ一般職であれ、要請があれば公務に差し支えない範囲で、どんどん世間に出て行ってPRしたり講演するのは当然だ。今じゃあ、行政職員による環境出前講座なんてのもあるくらいだ。
だけど一円も謝礼を受け取っちゃいけない、交通費も受け取っちゃダメだなんてなれば、頼む方だって頼みづらいし、やる方だってやりたくなくなってしまうのは当然じゃないか。
それは決して国民にとっていいことじゃない。

Aさんそりゃあまあそうかも知れませんけど、高給をとっておいて、さらに高額の謝礼をもらうなんて、反発を買うのも当然じゃないですか。

H教授今まではね。だからさっき言ったように、限度額を越えない範囲で半額を貰えばいいんだ。知事が限度額10万円なら指定職は5万円、管理職は3万円くらいかな。
原稿料だって同じようにすればいい。これが拡大フィフティ・フィフティだ。そしてそれを完全にガラス張りにするんだ。


Aさんセンセイの役人時代はどうだったんですか。

H教授もちろん頼まれれば引き受けたよ。といってもポストによってまったく依頼のないときもあったし──というかそちらの方が多かったけど──、多く頼まれたポストにいたときだって年数回程度だったけどね。
頼まれると、日曜に自宅で講演用の資料をせっせとつくっていた。忙しい部下に、そんなこと、とても頼めないからな。
で、宴席も招待ゴルフもなく、講演だけやって、まっすぐ帰ってきたけど、「お車代」をくれるときは貰った。大抵1万円、たまに2万円。
で、貰った半分を課の親睦会に寄付していた。拡大フィフティ・フィフティを実践してきたんだ。
環境庁では、来客に出すお茶だって、ボクら職員が自腹を切って積み立てた親睦会のカネを使っていたんだぜ。だから、お車代2万円なんて言うと課員一同大喜びしていた。
今じゃ、それも許されないというのはヘンだと思うな。

Aさん蟹は自分の甲羅に似せて穴を掘るそうですね。なんだかいじましくて、涙が出そうだわ。拡大シリーズ、今度のが一番ショボイですね。

H教授…(赤面)。


注釈

【1】守屋氏逮捕と国防利権の闇
【2】二大政党制より中政党の競合制
【3】道路特会の行方
【4】オーストラリア連邦総選挙と、京都議定書の批准
【5】米気候安全保障法案
【6】IPCC 第4次評価報告書統合報告書の公表
【7】GEO4(第4次地球環境概況)
【8】UNDP「人間開発報告書」
【9】一次エネルギー消費とCO2排出推移の国際比較
【10】COP13&COP/MOP3
【11】バリ・ロードマップ
【12】APECのシドニー宣言と、東アジアサミットのシンガポール宣言
【13】EUの自主的削減目標「CO2排出を抑制する包括的なエネルギー・気候変動戦略」
【14】ホットエアー ──日本政府の排出枠購入
【15】キョージュの拡大排出権取引私案と、東京都の取り組み
【16】与党の水俣病新救済案
【17】家電リサイクル法の改正
【18】第3次生物多様性国家戦略
【19】カーボンオフセット指針に関するパブコメ
【20】フィフティ・フィフティ・プログラム
【21】拡大シリーズ

(平成19年11月30日執筆 同年 12月4日編集了)