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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.055

Issued: 2007.08.09

第55講 政治の空白に直面する環境政策―と標題だけは大げさに

目次
自民党政治の終焉か?
中越沖地震と柏崎刈羽原発
エネルギー問題と温暖化
PSE法見直しに
食品不祥事と食品安全委員会
日本の黒い霧
水俣病新救済案の行方
その他の話題
原油の起源をめぐって
ゼミ名物実習、いよいよスタート

自民党政治の終焉か

Aさんセンセイ、参議院選挙すごかったですね。

H教授ああ、自民党は改選64議席のうち40を割り込んで結党以来初めて参院第一党の座を明け渡すという歴史的な大敗だ。民主党の一人勝ちで、自公の与党は非改選を含めても過半数割れとなった。年金問題やさまざまな不祥事が続いた上に、コイズミ改革の後遺症――格差拡大、地方切捨て――が地方の反乱を起こしたんだろう。
後者は安倍サンの責任とは必ずしも言えないからちょっと気の毒な気もするけど、今度の惨敗には安倍サンの国家観、歴史観が多くの国民に違和感を覚えさせた面も影響したと思うから、自業自得というものだろう。

Aさんこのあとどうなるんですか。


H教授安倍サンが続投できるかどうかだよねえ。続投するとは言ってるみたいだけど、遠からず辞任に追い込まれるんじゃないかな。いずれにせよこれからの政局は目を離せないし、一方じゃ政治空白が続くから、政治の行政に対するリーダーシップは落ちざるを得ない。ということは環境政策の方は環境省単独でやれること以外、大きな変化は期待できないんじゃないかな。

Aさんもし安倍さんが辞任するとしたら、ポスト安倍さんはどうなるんですかねえ。
コイズミさんの再登板という声が強くなるんじゃないですか。

H教授ご本人が固辞するだろう。
それに純然たる二大政党制に近づいたように一見すると見えるけど、まだまだどうなるかわからないぜ。

Aさんどういうことですか。

H教授そもそもが自民党と民主党の政策の違いが実はよくわからない。環境政策も然りだ。安倍サンのユニークな国家観、歴史観で自民党内がまとまっているとは思えないし、小沢サンの民主党にしてもそれは同じ。だからこれから政界再編成が起きるかも知れない。
いずれにせよ個人的には二大政党よりは3〜4ぐらいの中政党が競い合って、そのうちの一つを日本版緑の党みたいなものが占めるというのが健全な姿だと思うけど、その夢は遠のいた。

Aさん(小さく)また、現実離れした世迷言を言ってるわ。

H教授れよりもテレビ各局とも選挙特番と銘打って報道しているけど、投票締め切り直後から出口調査の結果だけでバンバン当確を出すのはやめてほしいねえ。開票速報をみる楽しみがなくなるじゃないか。

Aさんそんなこと、どうでもいいじゃないですか。


H教授いずれにせよ、日本の今後をどうするかというビジョンと戦略で各党が競い合ったとは思えない。もうこれ以上の自民党政治は耐えられないという民意は明らかになったとはいえるし、それはぼくも同じだ。だけど、有権者の大半も民主党の政策に賛同して投票したとは思えない。というか、民主党が実現可能な政策を提示したと思えない。
どの党も膨大な財政赤字をどうするのか具体的な政策を語らず、一方で役人叩き・公務員減らしを言うのはどこも同じだ。
温暖化対策のために社会システムをどう変えるのか具体的にはどの党も語らないし、経済成長あってこその環境対策なのか、環境保全の大前提のもとで経済を考えるのかについても語るところがないというのは寂しいねえ。

Aさんはいはい、次の話題にいきましょう。

中越沖地震と柏崎刈羽原発

H教授7月16日に中越沖地震が発生、幸い死者は少なかったものの、今も多くの人が避難所暮らしで、水道・ガスなどのライフラインも一部ではまだ復旧してないようだ。
被災者のみなさん、心よりお見舞い申し上げます。


Aさんで、その地震で柏崎刈羽原発も火災だの放射能漏れなどがあって大騒ぎになりましたね。

H教授うん、それが今度の選挙で安倍サンにトドメを刺したといっていいかも知れない。
何と言っても、東電の対応も国の対応もあまりに悪すぎた。
まず変圧器の火災では自治体の消防車が来るまで何の対応も打てず、発電所の消火機能・体制がゼロだということを満天下に知らしめた。
しかもその言い訳が、“想定外”の大地震。
原発の場合、「想定外」のことなどそもそもあってはならないことだ。活断層などの立地調査がいかにいい加減なものだったかが露呈してしまった。
当初、「放射能漏れはない」と発表しておきながら、実はあったことも判明した。
「発電所本体は無事」と言っておきながら、実は発電所屋内のクレーンの破損などが、その後に見つかっている。
早々と、国の原子力委員会委員長は内部調査もせずに、「原子炉本体は無傷で安全機能は維持されている」などと言っているが、こんな調子じゃあ、アテにはならない。廃炉も視野に入れて、何年かかろうと徹底的に検査した方がいいだろう。
記者が東電社長に「責任は?」と聞いたときに、社長が傲然と「何の責任?」と聞き返す姿がテレビで放映された。心証が悪すぎる。これで原発の信用は地に落ちたね。

Aさんでもこれから真夏、電力供給は大丈夫なのですか。

H教授うん、だから他の火力発電をフル稼働させたり、福島原発の定期点検を先送りして稼動させたり、よそから買電してなんとか凌ぐつもりらしい。
でもねえ、こんな事故があったんだから、全国の原発を一斉にストップさせて緊急点検をさせるのが本来じゃないかなあ。定期点検先送りなんて、とんでもない話だと思うよ。

Aさんそんな無茶な! 停電が頻発して、大混乱に陥っちゃいますよ。

H教授前にも言ったけど、日本は地震と火山の巣なんだ。どこの原発でも「想定外」の大地震が来る可能性があるし、どこの原発でも同じような状況にあることは間違いない。だとすれば、安全が第一優先じゃないか。
エアコンなしで、汗をだらだらかきながら打ち水したりと“スローライフ”とかいうのを経験するのも悪くないだろう。40年前までは皆、そうしていたんだ。
我が家では今だって、来客のとき以外はエアコンを使っていない。


Aさんそりゃセンセイがケチなだけでしょう。大学の研究室じゃあ遠慮なくエアコン使ってるじゃないですか。

H教授…うっ、うるさい。
今度の原発事故は国際的に話題になり、IAEA(国際原子力機関)が緊急調査を申し入れた。それをいったんは断っておきながら、新潟県知事が異議を申し立てたりして世間の批判を浴びると、あわてて受け入れを表明するなど、国の方の対応もあまりにお粗末だ。
ところで、各原発の近くには「緊急事態応急対策拠点施設」──略称オフサイトセンターという国の施設があって、ここがそういう緊急時の対策本部になるはずなんだ。当然柏崎・刈羽原発にもあるんだけど、ネット情報によると、今回の事故ではまったく機能しておらず、本部も立ち上がらなかったそうだ。事実だとすれば、まったくのムダガネだったよねえ。11億円をかけた施設だというのに…。


Aさんセンセイは、このことから何を学ぶべきだと。

H教授前講でも言ったけど【1】、不幸なことにわが国の政治や行政は何か事故だとかが起きない限り大きくは変わらないことが多い。
原発だって同じだ。平時だったら自衛消防組織や設備の設置、耐震補強の徹底などは経費もかかるから電力会社は嫌がるし、原子力安全委員会や原子力安全・保安院だって、外向けには「大丈夫です」の一点張りだったに違いない。
実は耐震設計審査指針が不十分だということは原子力安全委員会も内々承知して見直し作業をしていたんだけど、遅々として進まなかった。それが一昨年の志賀原発2号機の差し止め訴訟で富山地裁が耐震設計審査指針が不十分だとの判断を示した【2】ことにより急ピッチで作業が進み、昨年9月に耐震審査指針を改定したんだ。
多分この判決がなければ、今だって「鋭意検討中」ということで改定はされてなかったと思うよ。
まあ、改定した矢先のこの事故で、日経新聞ではさっそくこの改定耐震審査指針が再度見直されるという記事を載せていて、原子力安全委員会は否定するのに大わらわだ。ただ、緊急措置として、何かを打ち出さないと、われわれ国民としても納得できないだろう。
いずれにせよ、今回の事故がチェルノブイルのようなことにならなかったのが不幸中の幸いだ。
これをきっかけに徹底的に病巣をえぐってほしいね。


Aさんでもそのためには莫大な経費がかかるでしょう。それは消費者に電気料金として跳ね返るんじゃないですか。それに電力会社だけじゃなくて、国や自治体だって新たな対応が迫られて、また巨額の税金が投じられるんじゃないですか。

H教授そりゃあそうだ。電力料金があがったり、税金があがったりすることも仕方がない。それでなくても日本は政府、自治体合せると1,000兆円なんて借金をしているんだ。何とかして税収を増やさなきゃどうしようもない。
問題は、それで国民の間の格差が広がることのないような料金体系や税制の工夫が必要だということと、もうひとつはハコモノにすぐ目がいくけど、システムなどのソフト面の見直しが大事だということだ。オフサイトセンターを建てることよりも、もっと先にカネをかけずにできることがあっただろうという感が拭えないね。


Aさんでも、これで原発の新規立地は、ますます難しくなりましたね。

H教授もともと電力会社自体あまり原発に乗り気じゃないという話が昔から聞こえてくる。国がやいのやいのと言うから渋々やってるというわけだ。ホントのところは知らないけどね。
ボク自身も、こんな地震・火山大国で原発なんてとんでもない、長期的には脱原発に向かわなければ仕方がないと思ってるよ。

エネルギー問題と温暖化

Aさんだとすると当面火力発電に頼らざるを得ないですよね。つまりCO2は増える一方。「美しい星50」だなんて、絵空事じゃないですか。
自然エネルギーとか再生可能エネルギーだけじゃあ、とても賄いきれないし。

H教授ひとつは技術革新だ。それも水素とか燃料電池といったアテにならないものじゃなく、コジェネとかコンバインドサイクルなどの確立した技術だ。今の火力発電にしても原発にしても、エネルギー効率は4割程度しかなく、あとは廃熱として大気中や海に捨てているんだけど、コジェネやコンバインドサイクルなどの技術では廃熱を利用し、エネルギー効率が6〜8割に達するようだ。
既存の火力発電はできるだけ早くそうしたものに置き換えていくことが必要だ。

Aさんなぜそうしないんですか。

H教授今だって、都会に近い火力発電所の場合、新規の建設や建替の時には大抵、導入しているよ。
もうひとつは、やはり自然エネルギーの活用だろう。確かに不安定だとか、いろいろ問題はあるけど、至るところで風力小規模水力発電太陽光発電バイオマスなどのミニ発電・マイクロ発電を行い、融通しあえるシステムを構築すればある程度は賄えると思うよ。
現に7/14付けの朝日新聞の夕刊によると、千葉大とNPOの調査では民生部門の電力需要の20%以上を再生可能エネルギーで賄っているところが4県あり、トップの大分県では30%を越しているそうだ。大分では地熱の割合が高いんだけど、全国的には小規模水力が6割を占めている。
市町村ベースだと、76市町村で民生部門の需要を上回る生産をしているそうだ。
現在は全国で3%強にしか過ぎないけど、その気になりさえすれば、田舎では民生部門の半分くらいを賄うことが可能じゃないかな。
問題はそうした方向へと経済的に誘導する明確なインセンティブのある施策がないことだ。


Aさんでも補助金なんて、また財政赤字が膨らむだけじゃないですか。

H教授優遇税制を活用し、優遇分を非優遇分からの増税で賄えばいいんだ。
それともうひとつ肝心なことは、総エネルギー需要=供給を漸減させるような社会システムを何としても構築しなければいけない。電気料金の累進制とかいろいろあると思うけどな。そういうことを与党も野党もまったく言わないのが残念だ。

Aさんまあ、その話は何回も聞いたからいいです。
その話とも関連するんですが、閣議決定された京都議定書目標達成計画の見直しの中間報告素案が固まったという記事が出てました。

H教授ああ、中央環境審議会と産業構造審議会の合同会議でまとめたものだね。
環境省のホームページにもEICネットにもまだ出てないから、あくまで新聞情報だけど、それによると自主行動計画未策定の業界に計画策定を要請したり、住宅などの省エネ法の強化、トップランナー方式の拡大強化等々を挙げているが、依然として環境税国内排出権取引制度も、「最終報告に向けて、適否・具体化を検討すべき事項」の扱いのようだ。
EU諸国などで行われている自然エネルギー固定価格買取制度なんて検討課題にすらなってないんじゃないかな。前講で言った都の気候変動対策方針とは大違いだ【3】。「美しい星50」が泣くよねえ。
参院選でボロ負けするわけだ。


Aさんそんなの安倍サンのせいじゃないですよ。審議会の意見でしょう。

H教授審議会は一部の例外を除いて多数決じゃなく、満場一致でものを決めることが多い。だから審議会委員でそうしたものに強硬に反対するメンバーがいれば答申できないことになってしまう。
この場合、環境省はともかく経産省自体がそれに反対の姿勢を崩してないことの証左なんだろう。経産省自体が導入と腹をくくれば、そういうメンバーを強引に説得するはずさ。日本では、審議会の意見をいかにうまく自省の思う方向に誘導するかが役人の優秀さの評価の指標のひとつなんだ。依然として「世界に冠たるMITI」(註:MITIは旧通産省)の面目躍如というところじゃないかな。

PSE法見直しに

Aさんところで第39講で話題にした【4】PSE法を見直す方針を経産省は固めたそうですね。PSE法施行前に製造された中古品にはPSEマークは不要だとするそうですよ。

H教授うん、産業構造審議会が「PSEマーク導入以前の製品の経年劣化は認められず、PSEマークは不要」という答申をだしたそうで、秋の臨時国会で改正案を出すそうだ。
思い付きで中古品にPSEマークを義務付けるなんて、ホント、経産省もバカなことをしたもんだ。
とあるネット掲示板で見つけた話だけど【5】、それを読むとどうやら第39講でボクが当てずっぽうで言ったことも概ね正しかったみたいだぜ。どうだ、ボクの勘もなかなかのものだろう。エヘン。


食品不祥事と食品安全委員会

Aさんたまたまでしょう(軽くいなす)。
それにしてもBSEの問題だけでなく、国内でもミートホープの事件が起きたり、外国牛を和牛と偽って給食に入れたり、中国ではダンボールをほぐして肉まんの中に入れて増量しただとか──中国政府は、あとになって否定していますけど──、食の安全性が問われる事件が頻発していますねえ。企業のモラルが崩壊したんじゃないですか。


H教授それはどうかなあ、昔からああいう事件があったことはあったからね。以前には老舗の雪印乳業や不二家までも不祥事を起こしているしね。ボクだってやったことがある。

Aさんはああ?

H教授35年も前の話だけど、平湯でレンジャーしてた頃、シーズンになるとバイトだかボランティアだかわからない大学生が事務所兼住宅に何人もゴロゴロしていた。毎晩、貰い物のサントリーオールドを飲ませてやってたんだけど、あっという間に在庫が尽きかけて、仕方がないのでポケットマネーでサントリーレッドを買ってきて、それをオールドと混ぜて飲ませた。最後にはレッドをオールドの空き瓶に移し変えて飲ませたんだけど、「さすがオールドだ、うまいうまい」って、連中は飲んでたぜ。

Aさん食品安全基本法や食育基本法ができたりして、食の安全性への関心が高まっているんですよ、茶化さないでください!

H教授わかった、わかった。それにつけても不思議なのは食品安全委員会だね。そもそもは、平成15年に食品安全基本法が制定されたのに伴って内閣府に発足した「関係行政機関から独立して、科学的知見に基づき客観的かつ中立公正」で強い権限を有する委員会のはずだ。事務局も4課1官を持っているというのに、あそこのホームページをみても中国の食品問題については、ただ厚生労働省の通達や事務連絡を転載しているだけだし、国内の問題じゃあミートホープのミの字も出てこない。
同じように内閣府に設けられた原子力安全委員会のホームページでは、中越沖地震による柏崎刈羽原発の事故について、さっそく一応の見解を示している。この違いは何なんだと思っちゃうよね。


日本の黒い霧

Aさんそれにしてもミートホープの事件や赤城農水大臣の訳のわからない話、そしてそのあと中越沖地震と話題の事件続出ですっかり霞んじゃいましたけど、元・公安調査庁長官が逮捕された事件って、なんか奇怪ですねえ。

H教授われわれには窺い知ることのできない闇があるんだねえ。松岡大臣の謎に包まれた自殺といい、“日本の黒い霧”は連綿と続いているみたいだ。

Aさん日本の黒い霧? なんです、それ。

H教授今は亡き松本清張の書名だ。彼が後半生、追い続けていたテーマなんだ。彼が生きてりゃあ、きっと突っ込んで真相に肉薄してくれたと思うけどねえ。
ところでキミ、松本清張ぐらい知ってるだろうな。

Aさん…。

H教授情けないなあ。貧しさのどん底の中、ちびたエンピツで小説を書きはじめ、ついに「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。「断碑」や「菊枕」「真贋の森」などの初期の短編は森鴎外や菊池寛を凌ぐ大傑作だと思うぞ。後に推理作家として一世を風靡したけど、古代史にも造詣が深かったし、現代の闇にも挑んだんだ。
…そうか、清張を知らないんなら、吉本ばななは知ってても、父親の隆明の方は知らない口なんだろう。


Aさんバナナ? 隆明? (きっぱり)両方とも知りません。
でもセンセイ、アタシ吉本興業の話なら結構ウンチクがあるんですよ。

H教授(ため息)はあ、こりゃダメだ。

水俣病新救済案の行方

Aさんところで水俣病については今までも何回か話題に出ましたが【6】、与党プロジェクトチームの救済案が出てくるそうですね。

H教授最終案が固まったのかなあ。新聞情報だけでは救済の対象となる未認定患者を水俣病患者と位置づけるかどうかがよくわからないけど、水俣病の認定基準そのものを見直さないままの救済案じゃあ、どうにもならないと思うよ。破産した95年の政治決着をもう一度やることになるだけだろう。
一度目は悲劇だとしても、二度目は茶番劇だ。

Aさん出ましたね、得意のセリフ。でも認定基準を見直したら、莫大な補償金がいるでしょう。

H教授水俣病と認定することと、補償金の一律制とは別だろう。症状の深刻さなどに応じた一定の計算式をつくればいいんじゃないかな。
水俣病患者じゃないと決め付けられた上で、「救済のためにカネを出す」と言われること自体が耐え難いという心理的な側面もあると思うよ。「オレたちはニセ患者でもなければ、物乞いでもない」って思っちゃうんじゃないかな。
テレビでちらっとみただけだけど、第二水俣病に関して、新潟県知事は国の未認定患者も水俣病と認めた上で、県独自で救済することを考えると言っていた。環境省も大いに見習うべきじゃないかと思うよ。

Aさんでも認定基準は医学的判断ですでに決着済みって環境省は言ってますよね。

H教授その見解はどうかと思うよ。7/21付けの朝日新聞の記事によると、肝心の医学界からも今の認定基準は医学的でないと異議が出ているらしいからねえ。そもそもが71年の認定基準を77年により厳しい現行のものに変えてしまったこと自体が政治的な匂いがしないでもない。
政治的に認定基準を変えるのはもちろんいけないことだけど、いろんな立場の医学者や公衆衛生の専門家が公開討論をするようなところからスタートするのがいいんじゃないかな。
もし、水俣病の認定基準に複数の解釈が医学的に成り立つとすれば、より多くの国民や被害者の納得するようなものにするのが妥当じゃないかと思うけどね。


その他の話題

Aさんところでセンセイ、今回は自然関係の話はないんですか。

H教授そうだな。前講で尾瀬国立公園の独立の話をしたけど【7】、自然公園の再編成は他でも具体的に動き出しているみたいだ。
西表国立公園は石垣島にも区域を拡張して、名称も「西表石垣国立公園」になるし、日本三景のひとつの京都の天橋立は若狭湾国定公園から独立して、区域を周辺に拡大して「丹後天橋立大江山国定公園」が誕生するそうだ。
まあ、ぼくはウラの事情はまったく知らないから、これ以上の言及はできないけど。

Aさんリサイクル関係などは?

H教授いろいろあるようだが、それはこの次にしよう。
あと海洋基本法が議員立法で成立した。沿岸管理については各省の利害や権限が交錯しているんだけど、その一元化というか交通整理をきちんとやろうというのが立法目的の一つらしい。本部も立ち上がったらしいんで、これからどういう議論が展開されるか目を離せない。

Aさんなるほど、ところで前講に読者から誤りの指摘がありましたねえ。

H教授うん、不勉強で申し訳なかった。前講で環境省が自治体に補助しているSO2やCOの環境基準の常時監視は大幅に縮小して、その分の経費を他に回せばいいという趣旨の発言をしたんだけど【8】、補助金はもうすでに地方分権の名の下に廃止されているというご指摘を複数いただいた。あわてて訂正したんだけど、そのうちの一通はこうだ。


実は三位一体の改革により、水や大気の常時監視に係る補助金は既に廃止され、地方に税源移譲されています。しかし、地方の事情は厳しく、「人減らし」、「金べらし」にあえいでおり、これに「2007年問題」(団塊世代の大量退職)が追い打ちをかけています。ご指摘のとおり「SO2やCO」などの見直しはそのとおりなのですが、浮いたお金は財政当局に召し上げられてしまうというか、予算カットのためにSO2やCOの測定の見直しをしていかざるを得ない状況にあると思われます。したがって、環境行政の基盤を支えてきた「環境の常時監視」は、今「大きな転換期を迎えている」といえますし、「危機的な状況にある」ともいえるのではないかと考えています。

Aさんうーん、考えさせられますねえ。
政策絡みの話以外には、何かありませんか。

原油の起源をめぐって

H教授第20講で原油が化石燃料ではなく、マントルから沁み出してくる地下深層ガスだという説があるって紹介しただろう【9】。トマス・ゴールドって人の説だけど、この説によると原油は事実上無尽蔵ということになり、オイルピーク説が間違っているどころか、そもそも資源枯渇なんてありえないことになる。
その論拠のひとつが、石炭なら太古の植物起源だと示す証拠は山ほどあるけど、原油は化石燃料だとする実証的な証拠がないということだったんだ。海底に沈殿するプランクトン起源だとする説はあったけど、裏付けるものがなかった。つまり元の生物がわからなかったんだ。


Aさんあ、そうだったですね。テレビなんかでも有名なキャスターがそんなこと言ってました。

H教授でも今じゃあ、分析技術も進み、朝日新聞の記事によると原油の元となった生物がひとつは特定されたそうだ。
それが藍藻の仲間のシアノバクテリアで、こちらははっきり証明できたらしい。他にも時代ごとに多彩な生物が原油の起源だとわかりつつあるそうだ。
シアノバクテリアが群生したものをストロマトライトといい、今でもオーストラリア北西部の海岸で見ることができるんだけど、光合成を行い酸素を出すという方式を最初にはじめた原核生物だ。それにより大気の組成が現在のように酸素を大量に含むように変化したと言われているんだけど、原油を含む黒色頁岩にごく微量存在するポルフィリンという有機物の起源がこのシアノバクテリアの葉緑素だということが証明できたそうだ。

Aさんじゃあ、地下深層ガス説は完全に否定されたんですね。

H教授いや、マントルから沁み出したできた原油がまったくないという証明は難しいだろう。「ない」ということを証明するのは事実上不可能だからね。でも少なくとも原油の大半は生物起源だと言うことは、ほぼ立証できたんじゃないかな。
いまだに温暖化懐疑論者や資源枯渇否定論者がいて、専門家の間では相手にされなくなっても、大衆ジャーナリズムの間でもっともらしくもてはやされることもあるけど、地道な研究がその論拠を一歩一歩崩していってるんだね。

ゼミ名物実習、いよいよスタート

H教授さ、今日はこの程度にしておこうか。ところで夏休みはどうするんだ。

Aさん(キッと睨みつけ)そんな個人情報を聞いてどうしようというんですか。
センセイに教えるつもりはまったくありません。

H教授(小さく)ヒドイ院生をもったもんだ。挨拶代わりに聞いただけだのに。ボクは別にキミが何をしようとどうでもいいんだ。どうせまたオトコに逃げられてカリカリ来てるんだろう。


H教授いや、なんでもない。
ボクの方は、またゼミ実習の留守本部だから、どこにも行けない【10】

Aさんあ、そうか。センセイのゼミ生は全国各地に散るんでしたよね。

H教授うん、北海道から九州までね。


Aさんそういう場合、公的な手続きはどうしてるんですか。

H教授いろいろさ、メールで了解を取り付けるだけで、特に文書を出さないところもあれば、ボクの個人名で依頼文を出すところもあるし、学部長名でインターン契約を取り交わし、ゼミ生ひとりひとりに誓約書を書かせるところだってある。 まあ、別にいいんだけど、環境省のインターンってホームページを見る限り、「就業体験の機会を与えてやる」って高圧的な感じで、ちょっといただけないね【11】

Aさんえ? 「一緒に楽しくボランティアで手伝ってくれませんか」って感じじゃないんですか。

H教授全然違う。受け入れ側でも大変なのはわかるし、受け入れてくれることにはもちろん感謝している。
だけど、少しは労働力として手助けしてくれてありがたいと思ってほしいんだ。
そして、学生としても手弁当でお手伝いすることでボランティアとしての満足感を感じることができるうえ、学ぶこともできる。つまりWin-Winの関係であるべきだと思うんだよね。
もちろん、受け入れ先ではそう思ってくれていると確信しているんだけど、いざ正規の手続きとなると、本省で決めた書式通りにしなくちゃいけない。
その書式をみるとWin-Winなんて感じがまるでしないんだ。誓約書なんて、「絶対にご迷惑をおかけしません」みたいなことをずらずら書いてあって、万が一の問題が起きたときの“役所の責任逃れ”そのものだ。
ま、それは仕方ないんだけど、おかげで実習生の住所から生年月日まで学部事務室に行って調べなきゃならず、大変だったよ。

Aさん短期のインターン=研修生という位置づけになっちゃうんですね。もっと長期の研修生というのもいるんですか。

H教授もちろんいるよ。というか、いなければやっていけない。ボクが環境庁にいたときの経験じゃ、どの課室でも自治体から研修生という名目で職員を派遣してもらい、人手不足を補っていたんだ。
だったらもっと素直に「研修してあげます」じゃなく、「人手不足を助けてください、その代わり勉強にもなりますよ。一緒に楽しく仕事しましょう」と言えばいいと思うけど、書面じゃそうはならないんだよね。

Aさんまあ、いいじゃないですか。役所ってのはそういうところなんでしょう。
さ、いよいよ夏休みですね。じゃ、ワタシ1ヶ月間、ドロンしますので。
しばらくセンセイとは会えないですね。ホント残念だし、悲しいわ(ニコニコ)。

H教授ああ、ほんと悲しいね(ニコニコ)。

二人じゃ、読者の皆さん、いい夏をお過ごしください。


注釈

【1】平時には大きく変わり得ない、わが国の政治・行政の体質
【2】原発の耐震設計審査指針の改定
【3】 都の気候変動対策方針
【4】PSE法の見直しについて
【5】PSE騒動に関するネット情報
【6】水俣病についての話題
【7】 尾瀬国立公園独立について
【8】前講に対する誤りのご指摘
【9】石油の非化石起源説
【10】H研のゼミ実習について
【11】環境省インターンシップ制度

(平成19年7月30日執筆 同年同月末日編集了)
本講の意見は環境省及びEICネットの見解とまったく関係ありません。