一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.029

Issued: 2005.06.02

第29講 目に青葉、山ホトトギス、MAY(迷)時評 ──水難事故、諫早干拓、レジ袋、フロン四題噺

目次
JR事故余談
用水路水難事故雑感
レジ袋の法制度化談義
諫早干拓の新たな転回
読者の声
フロン・マニフェストとオゾン層破壊

JR事故余談

Aさんセンセイ、JRの事故から1ヶ月近いですけど、一向に開通しませんねえ。そりゃあ安全第一は当然ですけど、福知山線利用者の一人としては不便で困ります。

H教授ボクだってそうだよ。大阪へはしょっちゅう行ってたし、上京するときだって、福知山線を使ってたんだ。亡くなられた方のご冥福、そして負傷された方の一日も早い快復をお祈りするとともに、こんな事故を二度と起こさないようにしなければならない。だけどそれと開通が遅れるのとはまた別だと思うよ。

AさんそれにしてもJR西日本ってヒドイ会社だったんですねえ。事故後、いろんな不祥事が次々と明るみに出て、もうカッカですよ。

H教授ま、JRの場合はいままで表沙汰にならなかった国鉄民営化の負の部分が一斉に噴出したということなんだろうけど、日本のマスメディアは「水に落ちた犬は打て」みたいなところがあるからなあ。ついこの間まで大阪市が袋叩きだったけど、一般の会社だって、大学だって、いざとなると似たようなことになるさ。

AさんJR西日本は当初、できるだけ早く再開なんて言ってましたけど、いったいどういうことなんですか?

H教授新型ATSの設置が終わるまでまかりならぬって国土交通省からストップがかかって、6月いっぱいはダメみたいだ。でもそれもひどい話で、新型ATSのない線なんていっぱいあるのに、福知山線だけダメってのは、利用者イジメだよ。やむを得ない3〜5分間の遅れで運転手を責めるようなことは誰もしないと約束して、一日も早く再開する、そして一方では過密で過酷なダイヤ・スケジュールを見直すとともに、新型ATSの設置を急ぐという同時並行的な対応をなぜとれないか不思議だ。
もちろん利用者の方も、3〜5分間の遅れでジタバタしないようスローライフを心がけることだ。


Aさんそうですよ、ワタシはあの事故以来、1時間は早く家をでなくちゃいけないんですよ。

H教授ウソつけ。キミはあれ以来、1時間遅刻の常習になったじゃないか。

Aさんえ、知ってたんですか! でも、センセイがいうスローライフを実践しているんですよ。


用水路水難事故雑感

Aさんところで兵庫県の三木市で児童二人が工事用の水路に転落して、ひとりのお子さんがついに亡くなっちゃいましたね。

H教授ああ、気の毒にね。あの事故に関しては明らかに管理者のミスだし、刑事責任を問われても当然だと思うけど、ちょっと気になることがあるんだ。

Aさんえ、なんですか。

H教授三木市ってのはボクのいるS市と同じで、ため池の多いところらしいんだけど、新聞によると、学校ではふだんからため池や川で遊ばないように指導していたらしいんだ。
今度の事故がきっかけで、ため池なんかはいっせいに立ち入り禁止が強化されそうな気がするなあ。でもそれは方向が逆だと思う。

AさんS市でも立ち入り禁止の標識や柵が結構ありますよ。

H教授それは万一事故が起きた場合の責任逃れのためで、実際に立ち入って釣りをしたり水遊びをしたりというのをやめさせることは稀だ。でもこういうことがあると、ちょっとやそっとでは入れないようなフェンスや鉄条網をめぐらしたり、見つけるたびにやめさせたりするところだって出てくるんじゃないかな。
本当は、池への安全なアプローチを整備して、そこから池にはまっても水死しないような構造の段差をつくるとか、安全のための措置をとって自己責任で遊ばせるべきなんだ。
子どもの成長にとって、水や水生生物との触れ合いは欠かせないものだと思うし、ため池や川なんてビオトープとしての利用と活用をこそ考えるべきだと思うけどねえ。

Aさんでも、万一事故が起きたときの責任はどうなるんですか。

H教授ひとつは自己責任の範囲ということをはっきりさせておかなきゃいけない。すべての責任を管理者に押し付ければ、どこもかしこも立ち入り禁止になってしまい、海水浴もロック・クライミングもできなくなっちゃうよ。
現にどこかの幼稚園では滑り台を使うときは教師が必ずつきそい、マットを下に敷かなくちゃいけないなんていう話を聞いたことがある。
一時期、日本でも裁判で管理者の瑕疵責任というのを問い過ぎたことがあったからなあ。
だからボランティアや地域共同体の協力で、そうしたビオトープとしての活用を進めるべきだと思うけど、万一の事故の責任を問われるんじゃ腰が引けると思うよ。

Aさんでも、やはり子どもをそういう事故で亡くされた遺族は、それじゃおさまりがつかないんじゃないですか。

H教授ボクが小学校低学年のとき、3軒隣のぼくより1〜2学年上の女の子が、川遊びをしていて亡くなったことがある。

Aさんへえ、裁判になったんですか。

H教授ま、今だったら河川管理者の責任を問うということにもなりかねないけど、当時はそんなこと誰も考えなかった。で、その年の夏の地蔵盆のとき、そこのお母さんが近所の子どもたちを全部呼んでお菓子をご馳走してくださった。亡くされたお子さんへの供養ということなんだろうねえ(しんみり)。

Aさんでも時代がちがいますよ。

H教授そうだろうねえ。昔だったら遺族の悲しみを地域共同体の皆でケアしてあげたんだろうけどね。
管理責任と自己責任の問題を考えるとき、不幸な事故の場合には補償ではなく相応のお見舞金を出すというシステムをつくることも必要だと思うな。もちろん保険の活用もね。
環境行政でいうと、国立公園などでの自然とのふれあいについても、管理責任と自己責任をどう考えるか、その原則をはっきりとさせておく必要があるだろうなあ。


レジ袋の法制度化談義

Aさんスーパーやコンビニのレジ袋の問題が、ここ数日の新聞に出ていましたが、どういうことなんですか。

H教授レジ袋ってのは過剰な快適さ、便利さの追求がごみを生じさせるということの一つの象徴なんだ。そんなの買い物袋を持参していけば必要ないものだし、実際ボクの母親の時代はそうしていたんだから。
ごみ減量に手を焼いている自治体ではいろんな買い物袋持参キャンペーンを実施しているけど、なかなか成果が挙がらない。

Aさんセンセイは買い物のときどうされているんですか。

H教授小さいものだったら断っているけど、ある程度以上の量のときは遠慮なくもらっている。で、それを全部畳んでわが家で保管している。

Aさんはあ? なんのために?

H教授趣味の鉱物採集のとき、サンプル袋として重宝するんだ【1】。繰り返し繰り返し、ボロボロになるまで使っている。リユースの実践だ。

Aさんばっかばかしい。でもスーパーやコンビニだってレジ袋をやめた方が経費節減になるんじゃないですか。

H教授そりゃそうだ。だから生協なんかはレジ袋有料制にしているんだけど、普通はサービスの低下だと消費者に思われて他の店との競争に負けるのがイヤだから、スーパーなんかでは買い物袋持参者にはポイント制で若干の優遇措置をするくらいで、レジ袋そのものはやめられないでいる。ま、一種の固定観念、妄想だと思うけどね。一方、コンビニなんかではその程度のことすらやらず、レジ袋を垂れ流している。
自治体の中にはシビレを切らして、レジ袋に課税しようというところまで出てきた。

Aさんあ、それが杉並のレジ袋条例なんですね【2】

H教授一応条例は可決されたけど、施行されないままもう何年か経った。

Aさんどうしてですか。

H教授さあ? 消費者の支持を得られるかどうか、また裁判に訴えられたら勝てるかどうか、ということで、二の足を踏んでいるんじゃないかな。
でもここのところ新たな動きがいくつか報じられている。

Aさんたしか新聞に環境省ではレジ袋禁止の法制化を検討しているって出てましたね。

すぎなみ環境目的税 関連情報「Pick Up! No.035 「どう減らすレジ袋」──シール制度やかごのレンタルなど削減の工夫が進む 関連情報「エコライフガイド 「買い物」の生活フィットネス(1)──何気なくもらっているレジ袋について気にしてみる

H教授それだけじゃない。スーパー業界ではレジ袋有料化をきちんと法律で義務付けるべしとの意見をとりまとめたって話だ【3】

Aさんいい話じゃないですか。

H教授ボクの住んでいる自治体でスーパーを集めた懇談会を開いたときも、スーパー側は法律とか条例で決めてほしいといってた。
そういう意味では、レジ袋の禁止だとか有料化だとかレジ袋税だとかいうのをなんらかの形で法制化すればいいと思うけどねえ...。

Aさんなんだか奥歯にモノがはさまったみたいな言い方ですよ。

H教授これは法律家に聞いてみなくちゃわからないけど、そこまで法律で縛れるかどうか、憲法違反にならないかだよねえ。

Aさんだって業界も賛成しているんでしょう。

H教授コンビニ業界は依然反対みたいだし、仮に賛成に回ったとしても業界の異端児、アウトローが出現してレジ袋無料配布をやめず裁判になったときに、勝てるかどうか。

Aさんうーん

H教授でもスーパーにしたってコンビニにしたって、レジ袋が経営を圧迫しているのは事実だから、業界挙げて買い物袋持参キャンペーンを行い、買い物袋持参者へのポイント制などの優遇措置を大々的にPRする。そして接客マニュアルで「袋はご入用ですか」と必ず聞いてから渡すようにするというのを、今すぐはじめるべきだと思うよ。なんでもかんでも法律で決めなきゃいけないってのも情けない話じゃないか。


諫早干拓の新たな転回

Aさん昨夏、佐賀地裁で出された諫早干拓の工事中止の仮処分命令がセンセイの予測どおり【4】、先日(5月16日)福岡高裁で取り消されましたね。

H教授うん、やはり旧来の法的慣習が勝ったということだな。
ただねえ、取り消したのは取り消したんだけど、干拓工事の漁業への悪影響については高裁も強い疑念を呈していて、長期にわたる開門調査は国の責務だとまで言い切ったんだ。
でも、国の方は取り消したという結果だけでただちに工事を再開することを決めた一方で、開門調査はまったくやる気がないみたいだ。
一般の裁判でも判決には長文の判決理由というのがあって、国を被告とした裁判なんかでは国勝訴の場合でも判決理由で国を厳しく批判したりしているんだけど、国は判決だけで、判決理由はまったく無視ということがよくあるんだ。今回もその例に漏れないんだけど、地裁での常識的にはムリと思われた仮処分決定も、たぶんにそうした国のやり方がよくわかっていて、それへのレジスタンスという面があったんじゃないかと思わせちゃうね。

Aさんセンセイは昨秋、諫早に行かれたんでしょう。行かれてどう思われました。

H教授まあ、いずれにしても工事は9割以上終わっていて、今さら工事中止を命じてもどうにもならないって気がした。だって潮受け堤防も干拓もほぼできあがってんだもの。今さら潮受け堤防や干拓地の取り壊しなんてできるはずもない。

Aさんじゃあセンセイは長期開門調査は必要じゃないって?

H教授そんなことはないさ。調査するのはもちろん必要だけど、その先どうなるかってことだ。
潮受け堤防の両端に水門があって、これの操作で堤防の内側に残った湾──これを調整池といっているんだけど──、この淡水化をしているんだ。長期開門調査ってのは、ここを開けっ放して、海水を行き来させて調査しろっていうことなんだ。
だけど、有明海の生態系や環境の変化にはいろんなインパクトが加わっていて、100%の因果関係の解明なんてまずできないし、干拓工事が有明海全体の環境にどの程度の悪影響を与えたかを定量的に解明するのは困難だと思うよ。それにいずれにしても干拓地を干潟に戻したり、潮受け堤防を撤去することは不可能だろう。

Aさんじゃあどうすればいいというんですか。

H教授潮受け堤防ってのは実は諫早湾の横断道路としても機能しうるんだ。だったら横断道路として割り切っちゃえばいい。有料だっていいと思うよ。ボクの同僚のK先生はそれをムツゴロード構想って名付けている。
水門は開けっ放しにしておいて、調整池の淡水化なんていうことはやめるんだ。
潮受け堤防の内側の調整池は干拓地の灌漑用水の水源として利用するつもりだったみたいだけど、それは断念する。干拓地の灌漑用水は別途考えるけど、基本的には農地にするとしても、あまり水を必要としない農業を考えること。
もっとも、潮受け堤防の内側と外側の水の交換をよくし水位差をなくすためには、いまの水門2箇所だけじゃなく、もっと方々に水門をつくらなきゃダメだろうけどね。
そうすれば漁業への悪影響は最小限に抑えられるし、何十年かすれば干拓地の地先水面にまた干潟ができてくるよ。


読者の声

Aさんところで前講へのお便りです。

はじめまして、瀬戸内海、播磨灘で海苔養殖を営んでいる漁師です。私の海はとんでもない事になっています。一般には干潟が無くなっているから海が壊れていると言っていますが、大きな誤解です。干潟に生息する水生生物を残留塩素によって殺している事を隠しているのをご存知ですか?終末下水処理場と電力会社の温排水には驚くほどの残留塩素が検出されています。参考に成るリポートをご覧ください。http://poseidn77.com ご意見をお願いします。

──というものですがどうですか。

H教授リポートも見せていただいた。有明海でもそうだったけど、確かに播磨灘での海苔が色落ちして問題になっている。行政や大企業の対応に不審と怒りをもたれた漁業者の方が独力でこれだけのデータを集められたということに驚いた。ボクも知り合いの何人かの専門家の方に聞いてみたんだけど、皆一様に驚いておられたし、行政や大企業の対応にも問題があるんじゃなかろうかというご意見だった。

Aさんで、内容的にはどうなんですか。

H教授うーん、ボクはキミも知っているように研究者じゃないからよくわからない。
塩素が用いられていることは事実だし、放流先水面などでは残留塩素が悪影響を与えている可能性もあると思うけど、それが海苔の色落ちの直接的な原因かどうかボクにはわからないし、専門家の方も色落ちはたぶん複合的な原因で特定は難しいだろうとのご意見だった。
下水処理場では殺菌のために塩素処理がされるらしいんだけど、中環審の部会でも塩素処理をやめて紫外線処理に転換すべきだという意見を述べた委員もいるらしい。明石のO下水処理場では殺菌のため紫外線処理しているという話だ。ただ塩素処理をしないとアンモニア態チッソが増えるため、そのための脱窒処理もしているらしい。
いずれにしても大企業や都市化が海を壊し、貧しくしたことは疑いようがないんだし、その被害をもろに受けられたのは漁民の方々なんだから、疑いを招くような塩素処理は考え直した方がいいかもしれない。
とにかく海苔の色落ち被害が出ていることは事実なんだから、まずは第三者的な専門家を入れたオープンな情報開示と調査、議論の場が必要だと思ったね。

Aさん残留塩素には水質環境基準は決められていないんですよね。

H教授うん、水質環境基準は亜鉛をとっかかりに水生生物保全という観点も入ってきた【5】。残留塩素についても、そういう基準を考えるべきかもしれない。
それと、この方は富栄養化対策としてのチッソ削減などすべきでないというご意見なんだ。確かに適度の栄養塩は必要だし、特に海苔の養殖なんかでは相当量の栄養塩が必要らしい。ただ、一方じゃ赤潮貧酸素水塊などに対してN、Pの削減といった富栄養化対策も必要なことは間違いないし、海苔などの養殖については密度と量の問題だって出てくるかもしれない。
ボクの信頼している専門家は、「海域によって富栄養化の基準となるレベルを見直すことが必要だし、海水の流動と酸素供給という環境容量を勘案し、貧酸素化を起こさない程度の富栄養化にとどめることが大切」であり、「漁師たちの実感につながる環境レベルとしては、海底の底質が改善され、貝類(アサリなど)が生息できる状況というのが目安になるだろう」とおっしゃっている。
あと、現在の「環境基準」というのはおおまかな健全性の指標にはちがいないけど、それがオールマイティではないということだ。

Aさんどういうことですか。

H教授広域レベルでの水域の健全性の指標としては、アバウトには「環境基準」でいいのかも知れないけど、個別具体的な水域ではもっと掘り下げた議論が必要だということだ。
ひとくちにNといったって、アンモニアもあれば硝酸、亜硝酸もあるし、各種の有機態チッソもあるしねえ。N-P比や鉄、マンガンといった微量元素の問題もあるし、微量化学物質の生態系影響だって解明されたとはいえない。
これらの問題は環境基準だけ、総論だけで割り切れないと思うよ。真実は細部に宿るっていうからね。
環境基準をクリアしているからといって、現に漁業だとか生態系に被害が出ていれば、放置しておいていいわけがないじゃないか。


フロン・マニフェストとオゾン層破壊

Aさんところで環境省がフロン回収・破壊法を改正して、産廃と同じようなマニフェスト(管理票)制【6】を導入して回収率をアップさせる方針を定めたって新聞に出ていましたね。

H教授うん、現在の冷媒用フロンの回収率は3割弱にしかすぎない。フロンは、一方では強い温室効果ガスでもあるから、回収率を6割に上げることを目指しているらしい。今年の3月にフロン回収推進方策検討会の報告書が出されていて、先日(5月20日)記者発表された【7】
じゃ、今日はちょっとフロンとオゾン層の話をしようか。知っていることを話してごらん。

Aさんえーと、大気中にはオゾン(O3が常に一定程度の量で存在していますが、成層圏になると大気自体が希薄になるので相対的に濃度が増します。もっとも濃度の高い、地上15〜35キロあたりの成層圏がオゾン層と呼ばれています。
オゾンは紫外線を吸収するので、生物に有害な宇宙からの紫外線を相当程度カットします。このオゾン濃度が極端に薄い“オゾンホール”が極地上空の成層圏にできていることがわかり、大問題になりました。
地表に届く紫外線の量が増えると、皮膚ガンが増加するそうです。
そうしたオゾン層を破壊する原因がフロンガスだとわかりました。

H教授まあ、皮膚ガンは白人に多く、われわれ黄色人種はそれほど気にしなくてもいいということだ。
詳しくは知らないけど問題は紫外線の増加が生物や生態系に与える悪影響だと思う。先を続けて。

Aさんフロンは長い間、安定で無害な物質と思われてきましたが、成層圏まで上ると、オゾンを分解することがわかってきました。
で、1985年にはオゾン層を保護するためウィーン条約が採択され、88年に発効しています。日本も同年加盟しました。また同条約に基づき、より具体的な規制の内容を決めたモントリオール議定書が87年に採択、89年に発効していますし、日本では国内法も整備されました。
それが1989年に制定されたオゾン層保護法です。フロンなどのオゾン層破壊物質が製造禁止されるなど規制が進展しています。一方、フロンは冷媒などに広く用いられてきたので、廃棄時にそれを回収・破壊しなければならないということで、2000年にフロン回収・破壊法が制定されています。で、今回は、その回収と破壊がより確実に行えるように改正するというわけです。


H教授ま、そんなところかな。地球環境問題の解決は口で言うのは簡単だが、実際は難しい。そんな中でオゾン層保護は例外的にうまくいったといっていいだろう。96年以降、フロンなどのオゾン層破壊物質が次々と製造禁止されたり製造禁止の年限が示されたりしており、大気中のフロン濃度は減少に転じた。タイムラグがあるからまだ十年やそこらはオゾン層の破壊は止まらないかもしれないけれど、基本的には解決の方向に向かっている。
もちろんまだまだ課題は多いけど。


Aさんどういう課題ですか。

H教授ひとつは、空調やカーエアコン、冷蔵庫などの冷媒として用いられている冷媒用フロン以外のフロンの回収と破壊だ。冷媒用フロンの回収については、フロン回収推進方策検討会の報告書が出されていて、それに基づいた対策を打てばいいんだけど、フロンはいろんなところで使われていて、例えば、断熱材を作る工程で発泡剤として用いられるフロンについては、回収・破壊の技術的対応のメドがまだ立ってないらしい。具体的には、ウレタンフォームなどだ。これが課題の一つ。
もう一つある。代替フロンの一部は、オゾン層破壊物質ではないからということで継続使用が認められているんだけど、実は強い温室効果ガスなんだな。温暖化対策としても代替フロン対策が必要だということだ。

Aさんま、フロンやその仲間は温室効果ガスということは知っていましたけど、そもそも温暖化とオゾン層破壊はどういう関係なんですか。

H教授詳しい理屈は忘れたけど、典型的な正のフィードバック関係らしい。

Aさん正のフィードバック?

H教授うん、オゾン層破壊が進めば温暖化の進行を促進するし、温暖化が進めばオゾン層破壊を促進するという関係らしい。


Aさんふうん。じゃあ、オゾン層問題が解決しつつあるということは、温暖化の進行をストップさせる面もあるということですか。

H教授そこまではいかないだろう。温暖化の進行を加速させることはなくなったというくらいで。

Aさん負のフィードバックについてはどうなんですか?

H教授ある環境問題が他の環境問題を緩和するってことはある。いつか話したように、中国の砂漠化が進行すれば黄砂が増える、黄砂はアルカリ性だから酸性雨を中和するって。ま、酸性雨が降れば砂漠化の進行を抑制するってことはなさそうだから、負のフィードバックとまではいえないし、そういう本来の意味での負のフィードバックはないかもしれないけどね。
ところでフロンってそもそもなんだ? 気体か液体か、どういう化学式だ。

Aさん一口にフロンといってもいろいろあります。炭素原子が1から4のフッ素(F)を含む低級炭化水素の総称です。

H教授うん、メタン(CH4)とかエタン(C2H6)などの水素(H)をフッ素にチカンした...。

Aさん痴漢?


H教授ばか、置換、置き換えだ。水素をフッ素に置き換えたものの総称で、炭素原子の数や、水素のいくつがフッ素に置き換わったか、あるいはフッ素の替わりに塩素(Cl)で置き換えるものなど、たくさんの種類がある。
ちなみに、メタンの水素を、フッ素じゃなくて、すべて塩素で置き換えると四塩化炭素CCl4になり、これがフロンの原料になるんだ。この塩素が、そもそもオゾン層破壊の元凶なんだよ。
また同じハロゲン元素である臭素(Br)も塩素と同様の働きをするらしい。臭素を含んだフロンと同様のものはハロンといい、消化剤などに使われているんだけど、こうしたものを総称してフロン類といったっていいだろう。
沸点はさまざまだから常温常圧では液体のものもあれば気体のものもある。

Aさんところで、塩素がオゾン層を破壊するメカニズムはどういうものなんですか。

H教授塩素を含んだフロン類が成層圏で紫外線を浴びると塩素原子を放出する。これがオゾン(O3)を次々と連鎖反応で壊していくらしい。だから、塩素や臭素を含まないフロン、HFC(ハイドロフルオロカーボン)はオゾン層破壊には関係しない。でも強い温室効果ガスであることには変わりない。
塩素がなぜオゾンを壊すかってことだが、ちょっと話が専門的になりすぎるから、興味があれば自分で勉強してくれ。

Aさんあ、逃げましたね。


H教授不論(ふろん)だからな。

Aさんまたわけのわからないことを。ところでセンセイは、現役時代にフロン問題に関わったことはあるんですか。

H教授まったくない、...こともないかな。一度だけニアミスしたことがある。

Aさんへえ、その話をしてください。

H教授たいしたことじゃない。昔、県にいた頃に県内のハイテクトップメーカーの環境部の人がやってきて、部品洗浄にそれまで使ってきたトリクロロエチレンをやめて、フロンを使うことにしましたって言ってきたことがある。フロンは安全で無害で安定な物質だからってね。
ボクはフロンによるオゾン層の破壊の話がマスコミを賑わすところまではいってないけど、国際的な課題になりつつあるってことを聞いたことがあったから、フロンは問題になる可能性がありますよって忠告したんだけど、怪訝そうな顔をされただけだった。あまり信用されなかったみたいだ。

Aさんそりゃ普段が普段だからでしょう。人徳の問題ですね。

H教授うるさい。でもそれから5年も経たないうちにフロンがあれほど大問題になるとは思わなかったな。

Aさんで、そのメーカーさんはフロンに切り替えたんですか。切り替えをやめたんですか。

H教授切り替えをしたって報告だったと思ったが、記憶が定かじゃない。

Aさんもし切り替えたんだったら随分無駄な投資をしたことになりますね。

H教授うん、オーゾンだ(笑─自分だけ)。おあとがよろしいようで。

Aさんシラー)...。


注釈

【1】キョージュの密かな趣味 鉱物採集について

【2】杉並区のレジ袋税条例
【3】レジ袋の有料化と法制化について
【4】センセイの予測
【5】亜鉛の水質環境基準と水生生物保全の観点
【6】マニフェスト制度
【7】フロン回収推進方策検討会
アンケート

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【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

(平成17年5月23日執筆、6月1日編集)
註:本講の見解は環境省およびEICの公的見解とはまったく関係ありません。
筆者HPのURL:http://www.eurus.dti.ne.jp/~hisatake/

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。