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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.082

Issued: 2009.11.11

第82講 友愛か憂曖か ―― 苦悩する鳩山政権

目次
東京オリンピック流れる
友愛政治とはなにか ─鳩山所信表明
政治家と官僚のビミョーな関係
概算要求をめぐって
大蔵省の復活?
切り込み不足の深因―付:G30ドタバタ劇
「コンクリートから人へ」―八ツ場、泡瀬干潟、普天間基地、鞆の浦…
温暖化対策最前線
温暖化対策と自治体
FITとマイクログリッド、スマートグリッド
SEAの試行―高速道路無料化

東京オリンピック流れる

Aさん東京オリンピックが流れましたね。ちょっと残念だわ。

H教授仕方ないだろう。途上国が経済発展の起爆剤にしたいと、あの手この手で頑張っているんだから、もともとムリだったんだと思うし、立候補すべきじゃなかったと思うよ。
それでもブラジルに決まったときには、内心コンチクショーと思っても、にこやかにエールを送るのが当たり前だというのに、石原サンは悪態をついたと言うんだから、ちょっと人間として情けなくなっちゃうね。
で、ムダになった税金が100億円。新銀行東京では…【1】

Aさんセンセ、センセイ。世間には石原ファンも多いんですから、押さえて、押さえて。
そうそう、鳩山内閣発足から一ヶ月半が過ぎました。悪戦苦闘しているようですね(強引に話をそらす)。


友愛政治とはなにか ─鳩山所信表明

H教授(渋々)うん、いよいよ国会が開幕。就任後初の所信表明演説を行った。
ふつうは役所が原稿を書くものなんだけど、鳩山サンは役所には書かせなかったようで、友愛政治というのを前面に打ち出した。

Aさん「友愛」ってなんだか甘ったるいコトバですね。

H教授フランス革命の旗印は「自由・平等・博愛」だったって習ったけど、この博愛は友愛とも訳すらしい。そして「友愛」はフリーメーソンの合言葉。
鳩山サンの祖父、鳩山一郎元総理がフリーメーソンだってのはよく知られている話だけど、それと関係があって使ったのかどうかは知らない。


Aさんな、なんですって。フリーメーソン! 世界転覆の陰謀を企んでいるユダヤの秘密結社じゃないですか。

H教授なにをバカなことを言ってるんだ。そんなのは一部の陰謀論系のトンデモさんの妄想に過ぎない。フリーメーソンなんて、今じゃあライオンズクラブとかロータリークラブと大差ないもんだと思っても間違いはないと思うぞ。

Aさんえっ、そうだったんですか。
それはともかくとして、所信表明で特徴的なことは?

H教授「政治主導・国民主導の政治への転換」「国民生活と弱者の重視」「地域主権」「コンクリートから人へ」等々、美しいコトバを羅列したけど、それが財源との絡みの中で、どこまで具体のものになるかだよね。
やや下降気味ながら、依然とした高い支持率と期待のなかで、マニフェストをめぐって相当苦悩しているようにみえる。“友愛”どころか“憂曖”といっていいのかもしれない。

Aさん政府与党内あちこちに不協和音も聞かれます。そんな中で、いよいよ始まった国会の論戦、無事乗り切れるんですかね。


政治家と官僚のビミョーな関係

H教授数だけからいえば問題ないだろう。論理で勝てるかといえば、危ういところもあるけど。
それに官僚との関係を巡っては、朝三暮四のようなところもあり、混乱している感が拭えない。

Aさんどういうことですか。

H教授例えば、官僚の国会答弁を禁じるとしたんだけど、細々した事実関係のことを国会で質問されても、大臣や政務官が全部答えられるわけがない。大体、課長だって自分の課のことをすみずみまで知っているわけじゃあないからな。
かと思えば、総理も官房長官も知らないうちに、首相官邸から総理答弁資料の作成要領を各省に示し、あわてて取り消しただとか、与党議員の国会質問をやめさせるかどうかだとか、毎日のように新聞ネタになるような混乱が生じているみたいだ。
「質問取り」も官僚に行かせないとしていたが、方針変更、やはり官僚に行かせるようにしたそうだ。政治家が質問取りに行ったって、質問の意味がわからないようじゃあどうしようもないもんな。


Aさん「質問取り」ってなんですか。

H教授やれやれ質問取りも知らないのか。
国会の本会議では、あらかじめどういう質問にするかの通告があるんだけど、委員会などでは質問通告がなされるようになっていない。だから、どういう質問が出るかわからないので、事前に各省の補佐クラスが議員会館を回って、どういう質問をするか探ってくる。これを「質問取り」といっている。

Aさんへえ、カルタ取りの親戚じゃなかったんだ。で、誰が取りにいくんですか。

H教授国会詰めの職員や総務課の補佐が行き、アウトラインをつかんだら、直接担当する課の補佐が行き、詳細に質問内容を聞いてきたり、場合によっては質問をとりやめてもらったり、変更してもらったりもする。ボクも昔は随分と行ったよ。
当時の与党の議員なんかは、どういう質問をしたらいいか考えてくれなんてのもあった。「質問取り」どころか、「質問与え」だ。

Aさん県でもそうなんですか。

H教授K県の県議会の委員会では、事前の質問取りというのはやらなかった。
だから、各課の課長はどんな質問が出てもいいように、ものすごい量の資料を部下に持たせ、質問があれば、部下はその資料を選び出して、課長に見せるんだ。
資料探しに時間がかかるとその間は「暫時休憩」。

Aさんセンセイもそうしたんですか。


H教授はは、ボクはカッコつけて、うすっぺらい自分で作った資料だけを持って行って、どんな質問に対しても適当に答えてた。
議員サンもそれほど勉強していないのがふつうだから、なんとかなったよ【2】

Aさんまた得意のハッタリで誤魔化したんですか。いつか罰が当たりますよ。
それはともかくとして、国会での官僚の出番についてセンセイのご意見は?

H教授実際問題として、すべての問題に政治家が答えるなんて不可能だろう。
事実関係の質問だったら、官僚というより担当の役人に答えさせるのが一番だろう。
質問取りはやめて、事前通告制にするか、いっそのことぶっつけ本番で、わからないことはその場でテレビ電話か何かで担当の役人に聞くのもあり、とすればいいんじゃないかな。

Aさんなるほど、そうすればあまり重箱の隅を突っつくような質問もしなくなるかも知れないし、答える政治家も勉強もするし、いつテレビ電話がかかってくるかもしれないとなると役所でも緊張感も漲るというわけですね。

H教授面白いとは思うけど、まあ、ムリだろう。そんなことをすれば、国会会期中は全職員が出張できなくなってしまうかもしれないもんな。


概算要求をめぐって

Aさんふふ、では当分、国会論戦では珍問珍答が聞けるかも知れないですね。
ところで先日、概算要求再提出版が締め切られましたね。

H教授ああ、総額95兆円、事項要求だけして金額の入ってないものを含めると実質97兆円。

Aさん来年度の税収見込みは40兆円を切るかもしれないなんて話もありますよね。その倍以上の金額じゃないですか。財源はどうするんですか。

H教授概算要求が97兆円もあれば、どんなに切り込んだとしても90兆円を割るのは難しく、最終的には赤字国債の大幅増加ということになりかねない。
藤井財務大臣は来年度の国債発行は50兆円に達すると認めている。

Aさん各省の大臣は、各省の代弁者ではなく、内閣の一員として予算要求を随分切ったというんだけど、到底そうは思えないですね。やっぱり取り込まれちゃったんですか。

H教授というか、数人の素人の政治家が、この道一筋の役人に理詰めで来られたら敵うわけがない。

Aさんだから、「行政刷新会議」で3000の項目のうち、大幅圧縮や廃止を見込める240事業程度を選定し、「事業仕分け」という手法で「不要」だとか「民営化」だとかに区分けして、ムダを徹底的に省くというわけですね。


H教授事業仕分けについては以前にも論じたことがあるが【3】、基本的にはムダかムダでないかというのは、国がやるべきものは何かという原則をきちんと定めない限り恣意的なものになってしまう。

Aさんその事業仕分けをするメンバーに民主党の新人議員を大量に入れたというので、小沢サンがオカンムリ。人選を一からやり直したそうですね。
でも、本来、それを定めるのは菅サン率いる「国家戦略室」じゃなかったんですか。なんだか影が薄いのが残念ですねえ。


大蔵省の復活?

H教授うん、で、予算を切り込む行政刷新会議の背後にあるのは財務省だといわれている。国家の中の国家と謳われた旧大蔵省が復活したんじゃないかとの見方も一理ある。
だって日本郵政のトップにデンスケ氏を持ってくるってんだから何をかいわんやだ。

Aさんデンスケ氏?

H教授うん、齋藤次郎氏はボクの現役時代の最後の頃の大蔵事務次官。10年に一度の大物事務次官と言われていたんだが、渾名がデンスケ。
マージャンがうまくて、上がるとき、デーンと掛け声を挙げるからついたそうだ。

Aさんセンセイ、面識があるんですか。

H教授向こうは陣笠代議士など屁とも思わない、飛ぶ鳥を落とす大蔵事務次官。ボクは弱小環境庁の出先機関の長。あるわけがないだろう。

Aさんそりゃそうですね。
でも民主党は天下り根絶が公約でしょう。完全に公約違反じゃないですか。おまけにワタリになるわけでしょう。

H教授コイズミさんが引っ張ってきた日本郵政の西川前社長は三井住友銀行の元頭取という大物民間人。デンスケ氏はそれに匹敵するキャリア官僚の超大物。
つまり民からの天下りが、小沢サンや亀井サンと仲のいい官からの天下りに変わるだけといえばそれまでだし、官からの天下りが必ずしも悪いとは思わない。
だけど、民も官も、法文系重視の構造をまず変えなきゃいけないし、それになにより、やはり大蔵官僚上がりはまずいだろう。

Aさんどうしてですか。

H教授民主党は官僚主導の政治を廃すると言っている。なのに官僚主導の政治を地で行った人物を持ってくるというのはあんまりだろう。鳩山サンがそれを追認したのはいただけないなあ。

Aさん日本郵政のトップに元・大蔵官僚を持ってきたというのは、それ以上に深いわけがあるんですか。


H教授さあなあ。でも、財務省と日本郵政がツーカーの仲になれば、かつてのように郵便貯金で国債を引き受けるだとか、聖域のような特別会計を支える財投の原資になりかねない。
郵政の民営化がいいとは思えないけど、政府・財務省の思い通りになる貯金箱になるというのもまた問題だ。
ボクらが現役の頃は、大蔵省は国家の中の国家と言われ、それこそ予算要求のときなんかは、いわば課長補佐にすぎない主計局主査が、他省庁の課長よりずうっと偉そうにしていた【4】
鳩山内閣はそういう官僚主導を廃するといいながら、官僚主導の象徴のような人物を担ぎ出し、予算査定でも財務省主導に任せるというのなら、ちょっとその神経を疑うね。

Aさん財務省主導か…。少なくともそういう疑念をもたれても仕方ないですね。

H教授そのデンスケ氏を引っ張り出した亀井サンは10兆円規模の補正予算が必要だなんて言ってるしね。

Aさんコイズミさんが総理に成り立ての頃、党首討論で鳩山サンがコイズミさんにエールを送ったことがありますよね。
一方の亀井サンはコイズミさんとは犬猿の仲というか、正反対に位置する、古き良き自民党時代そのままの「大きな政府」主義者ですもんね。

H教授警察官僚上がりの強面だけど、でもいい人だと思うよ。

Aさんどうしてですか。胡散臭げな話もちらほらしているんじゃないですか。


H教授亀井サンの尊敬する人は、あのチェだそうだから。

Aさんチェって、あのゲバラ? へえ、人はみかけによらないんだ。
でも、ゲバラが好きな人だったら「いい人」なんですか。ほんとうにセンセイは単細胞なんですね。

H教授人を評価するのはなかなか大変だけど、好きな本や映画、歌、それに尊敬する人物などで、まずフィルターをかけるのが一番手っ取り早いからいいんだ。


切り込み不足の深因―付:G30ドタバタ劇

Aさんヘンなの。それにしても、前原サンはじめ各省大臣はみな結構切り込んだと新聞にありましたが、なんで概算要求は97兆円にもなったんですか。

H教授そりゃあ、マニフェストで約束したものは予算化しなくちゃいけない。その分がオンされる。
だから、それ以外のものを大幅にカットしなければならないんだけど、前講でも言った通り、どんな予算にも背後にはそれを仕切っている省庁の組織とヒトが付いている。
その予算を切るということは、その組織とヒトは不要だと言うようなものだから、なかなか切れなかったんだ。
ま、そうは言っても、もちろん切ったものもいろいろある。

Aさん大型公共事業ですね。国立マンガ喫茶と揶揄されたのも姿を消しました【5】

H教授それは補正予算の見直しの方だろう。
例えば、G30というのがある。国際化の最先端を行く30大学を選んで、文科省が5年間の補助を出すものだ。今年は13の大学が採択され、来年残りの17大学を採択するとしていた。

Aさんそれがどうかしたんですか。

H教授キミ、自分の大学の動きぐらいちゃんと知っておけよ。
これに採択されるには留学生を大幅に増やさねばいけないだとか、英語だけで卒業できるコースを作るだとかの厳しい条件がある。だからわが大学は今年は立候補を見送ったんだけど、来年は立候補すべく、その準備に向けてボクたちは四苦八苦、悪戦苦闘していたんだ。
ところが…。

Aさんどうかしたんですか。

H教授文科省が出し直した概算要求からは、G30はきれいさっぱり消えていた。G13で終わっちゃった。

Aさんプッ。まあ、いいじゃないですか。大体がセンセイが国際化を言うなんておかしいんです。まずご自分が英語ぐらい話せなきゃあ。


H教授うるさい、ボクはカラオケで英語の歌のレパートリーなら何曲か持っている。
キミこそどうなんだ。キミの英語の失敗談ならBクンからいっぱい聞いたぞ。なんならここで披露しようか。

Aさんちょ、ちょっと、やめてください! (小さく)ヤブヘビだったか。
ま、それはともかく、予算を切るにはセンセイだったらどうします。

H教授来年一年かけて精査するので、それまで待てといえばよかったんだ。
大型公共事業は、来年一年は徹底的に必要性を洗い直すとして、来年度は凍結、ハコモノ予算をまずゼロにする。
その他の公共事業はじめ法定以外の予算は、マニフェストに掲げたもの以外のものは、来年度は徹底的に見直すとして、とりあえずは半減。
そうすれば、来年度はなんとかなっただろうと思うけどな。

Aさんそれができなかったんでしょう。それをすれば来年は大変なことになるって、泣きと脅しがいっぱい入ったんじゃないですか。

H教授そうかもしれない。
でもねえ、大体が、公共事業の対GDP比が日本は6%と先進国の中では群を抜いて高いんだ。最高時は8%にも達した。でも欧米諸国なんか大体2から3%なんだ。
一方、教育費の対GDP比が日本は3.5%だが、北欧などは軒並み6%。
一年かけて国の在り方を考え直すいいチャンスじゃないか。


AさんI先生の受け売りですね。

H教授う、ばれたか。

Aさんま、そのマニフェストにしても、高速無料化だとか、ガソリンの暫定税率廃止などというものをやめれば、少しは予算編成もしやすくなるんでしょうけどね。


「コンクリートから人へ」―八ツ場、泡瀬干潟、普天間基地、鞆の浦…

Aさんじゃ、ぼちぼち鳩山内閣の環境政策を見てみましょうか。
キャッチフレーズの一つが「コンクリートから人へ」。
前原サンはダム以外の治水、総合治水【6】ということを言い出しましたね。

H教授うん、総合治水というのを考えるのならば、それこそ他のいろんな組織との連携が必要になってくる。縦割り社会の官僚主導政治では「言うは易く行うは難し」で、まずはムリ。
だから治水というと、河川区域内だけでやれる対策ということになってしまう。そして、その世界に閉じ込められてきた専門技官が主導し、政治屋と組んで、延々とダムの設置と堤防の嵩上げだけでやってきたんだ。
他の公共事業もおおむね同じ構造だ。

Aさんでも同時に前原サンは、八ツ場ダムでもやみくもに「中止」を言うんじゃなく、必要性の再検証をまずはするって言い出してますよ。

H教授中止が本音だけど、戦術として一歩下がったというところだろうと思うよ。やはり住民との対話が必要だろうしな。

Aさん泡瀬干潟埋立の行方も見逃せませんね。


H教授うん、10月15日に控訴審判決があり、基本的に地裁判決を支持し、「土地利用計画が定まっていないのに埋立を行うのは、経済的合理性を欠く」として公金の支出を差し止めた【7】

Aさんで、県と市は上告しなかったんですよね。

H教授うん、だけど一期工事を中止する気はないようで、東門沖縄市長は経済的合理性のある土地利用計画を至急決めれば工事は続行可能だと言ってるらしいし、県もそのようだ。

Aさんセンセイ、どう思われます。

H教授(失笑して)「経済的合理性のある土地利用計画」だと誰が判断するのかな。
ま、前原サンはその翌日、今年度の入札をとりやめ、埋立中断を表明し、あとは「土地利用計画」を見てから判断するとしているが、おそらくやる気はないだろう。
経済的合理性があると思うなら、県と市が国の支援なしでやってみりゃあいい。ただし、結果的に失敗に終わり赤字を出した場合は、それを主導した首長や政治家は、せめて赤字分の半額は自分たちの私財で補填するぐらいの責任を取るべきだと思う。
ま、東門サンが自分ではじめた事業じゃないけど。


Aさん同じ沖縄では普天間基地の移転問題でも、鳩山内閣は苦戦しているみたいですよ。

H教授うん、閣内不一致も目立つしね。
これまでの内閣は辺野古へ移転ということで進んできたんだが、民主党は国外・県外移設を公約としてきた。だが、米国の壁は厚く、沖合いに出すかどうかはともかくとして、辺野古への移設を容認する方向に進んでいるようだ【8】
岡田サンは嘉手納基地との統合を主張しているようだが、これも難しそうだ。
ボクは基地撤去で徹底抗戦すべきだと思うけどね。

Aさんまた、リアルポリティックスを無視した発言を。
あと、埋立がらみの話では、鞆の浦埋立に地裁はノーの判決を下しました。

H教授県は告訴したからどうなるかはわからないが、埋立面積はわずか2ヘクタールで住民の利便性は随分増すらしいから、歴史的景観を損ねるとしても、以前なら文句なしに認められた埋立だろう。

Aさん瀬戸内法の規制は及ばなかったんですか


H教授瀬戸内法は埋め立てについては瀬戸内海の特殊性に配慮せよとしているだけで、もともと確たる規制をしているわけじゃない。
具体的には審議会の答申で「埋立の基本方針」というのを定めている。その前文で「埋立は厳に抑制すベし」としていて、やむをえず埋め立てる場合の基本方針を列挙しているんだ。
鞆の浦の埋立はこれらからみると、直接は違背しないんじゃないかな。
公有水面埋立法の免許だって、この規模じゃ小さすぎて、環境省は関与できないし、県の環境部局だってフリーパスだったんじゃないかと思う【9】
そういう意味では、ほんとうに時代が変わったんだと思うな。

Aさんセンセイのご意見は?

H教授現場を知らないから何とも言えない。
ただ受益者負担がゼロなら、住民の多くが埋立を望むのはある意味当然だろう。
住民の大多数が一戸あたり一万円でも負担する覚悟があるのなら、認めてもいいように思う。だけど、その覚悟がないなら、中止が妥当だろう。

Aさんこれも公共事業がらみの話ですけど、これまでタブーとされてきた羽田のハブ空港化を前原サンが言い出しましたよね。

H教授うん、便利さじゃあ、成田とは格段の差だから、羽田周辺の住民が反対しないなら、ある意味当然だろう。
でも、だったらなんで激烈な反対運動を踏み潰してまで成田に空港を作ったんだということになるね。

Aさんちょっと伊丹と関空の関係のようですね。

H教授うん、伊丹廃港を叫んでいた周辺市町は関空の整備が決まる頃になってから、伊丹存続に180度転換したものな。
関空を神戸沖に作ることに猛反対した神戸市も、ある日180度転換して、神戸空港建設に動き出した。
ホント、みな節操というものがないのかな。


Aさん君子は豹変するんですよ。でも神戸空港は大赤字で大変なようですねえ。

H教授自業自得さ。空港推進派だった元の市長サンや議員サンには私財でせめてその一部でも補填してもらってもいいんじゃないかな。

Aさんセンセイ、まだ20年前の恨みが残っているみたいですね【10】


温暖化対策最前線

Aさんさ、次に温暖化の話です。毎講毎講、温暖化の話が絶えませんが、仕方ないですよねえ。いろんなニュースが次々と飛び込んでくるんだから。

H教授うん、まずはポスト京都の枠組はCOP15で決めるとしていたが、気候変動枠組条約のデブア事務局長は新たな議定書の採択は「物理的に不可能だ」との認識を示し、政治的合意文書の作成に全力を尽くすとしている。
となると、京都議定書から新しい議定書が発効するまでの間の、空白期間ができる可能性だって出てきた。

Aさんその合意文書はまとまるんですか。


H教授さあなあ。先進国、新興国、途上国との溝はまだ埋まらないみたいだし、米国の温暖化対策法の成立にオバマさんは熱心で、下院では可決されたけど、上院での可決のメドはまだ立っていないようだ。だとすると、かなりの苦戦が予想されるなあ。

Aさんそうした中で、条件付ですけど、鳩山サンは2020年対90年比25%カットを打ち出しました。でも、その具体的な中身はまだ見えないですね。

H教授うん、そもそも25%カットのうち「真水」がどれくらいかも決まっていない。

Aさん真水?

H教授うん、「真水」とはつまり国内の実際の排出量ベースでどこまで減らすのかということ。途上国へのCDMや、排出権購入などの京都メカニズムをも利用しての25%だろうけど、どの程度利用するつもりなのかも決まっていない。
いろんなケースでのシミュレーションをようやく開始した段階だし、またその場合の経済への影響も試算しなおしている。

Aさんそういえば、麻生内閣のとき、2020年25%カットの場合の国民負担は年間36万円に達すると、経済官庁や産業界は大キャンペーンを張ったけど、計算ミスが発見、実は22万円だったと下方修正される一コマもありましたね。
しかも産業構造の低炭素社会への転換によるプラス分も、カウントしていないようですから、もっと下方修正される可能性だってあるんじゃないですか。

H教授いずれにせよ鳩山サンはすべての政策手段を導入と言っているんだけど、まずは何が考えられる?


Aさん温暖化対策税の創設を含め、税制の環境シフトですよね【11】。そして一日も早く国内排出量取引を試行だとかの間の抜けたことを言ってないで、厳しいキャップを課した本格導入を行い、国際市場と連携していくこと【12】フィードインタリフ(FIT)、即ち自然エネルギー固定価格買取制度の大幅拡充なんかですよね。
でもセンセイはどれが一番効くと思われます?

H教授 一番効くかどうかは別にして、温暖化対策税がいよいよ本格的に導入されそうだ。昨年までは環境省の出した案は、税収が高々3600億円程度のもので、それすら産業界や経済官庁からの激しい集中砲火に晒され、流産したが、今回はまるで様変わり。
政府税調でも議論が開始されたばかりで、具体的な設計はまだできてないようだが、税収は2兆円から3兆円に達するという本格的なものになりそうだ。

Aさん鳩山サンも必死ですよね。なんとしても国際公約を遵守しなくちゃあいけないし。
あ、そうか。それだけじゃないですね。むしろ、ガソリンの暫定税率撤廃による減収2兆5千億円をカバーしなきゃあいけないからですね。

H教授鳩山サンは名家のボンボンだから、そんなことは言わず、国民の理解を得られるかどうかだなんて言ってるけど、財務省なんかはそうなんだろうなあ。

Aさん国内排出量取引も現在は試行中ですけど、本格実施も早まるんじゃないですか。

H教授そうだろうね。ただ国際的な排出量取引市場というのは、マネーゲームの場になっている感じがするね。実際の削減効果はどうなんだろう。
途上国援助は無論必要だが、排出量取引の国際市場には余り深入りしない方がいいんじゃないかな。まあ、無責任な直感だけど。
それよりは国内で厳しいキャップをかけ、それでもって国内のCDMにも力を入れた方がいいような気がする。


温暖化対策と自治体

H教授それと自治体の役割が大きく変化するんじゃないかな。

Aさんと、いいますと?

H教授今までは自治体の温暖化対策というのは、普及啓発にパフォーマンスぐらいしかやることがなかった、というか、やれなかった。
規制にしても税による誘導にしても、ツールを持っているのは国。その国が産業界に弱腰だったから、厳しい態度を取れたのは国に依存しない財政基盤を持つ東京都ぐらいだった。
でも、これからは圧倒的な支持率を背景に、政府は大工場などに対して、本格的に厳しいキャップを課していくと思う。
となると県に期待される役割は?

Aさんあ、そうか。国のキャップがかかっていない規模の発生源に対する、キャップ&トレード規制ですね。

H教授そうだな。ただ、それだけじゃないと思う。
さっきも言ったように、政府は温暖化対策税を導入すべく検討をはじめたが、国税だけじゃなく、地方税部分もあるかもしれない。
鳩山内閣のキャッチフレーズは「地方主権」だ。だとすれば、現在は自治体が厳しい制約を受けている徴税権についても、大幅に認めるようになるかもしれない。
そうなれば、税を武器に自治体の創意工夫で、いろんなことが可能になるかも知れない。
あと、市町村は?

Aさん県がキャップ&トレード規制する規模以下の発生源に対する、キャップ&トレード規制ですかねえ。

H教授うーん、それができる技術スタッフのいる市町村は少ないと思うぞ。
国や県のキャップ&トレード規制は、当然国内CDMも認めるだろう。となると、そういうCDM案件の発掘と仲介にこそ、もっとも現場を知っている市町村の役割があるんじゃないかな。


Aさん都市部の市町村だと中小工場、中山間部の市町村だったら吸収源―森林の整備―の発掘というわけですか。

H教授無論それだけじゃあない。
「見える化」対策を進めた事業所への、税制上の優遇措置だとかの、きめ細かい、そして、それこそ抑制効果が定量的に測れる施策が、市町村に求められるようになると思う【13】


FITとマイクログリッド、スマートグリッド

Aさんあとの施策としてはFITですね。鳩山内閣は大幅に拡充するんでしょう?

H教授民主党の「政策INDEX」にはそうなっているが、まだ具体案は見えない。
それより太陽光発電に関してだけ、麻生内閣が限定的ながらFITを導入した。今年の7月1日に成立した「エネルギー供給構造高度化法」というんだけど、太陽光発電に限り、余剰分を従来のRPS法で買っていたものの2倍の値段で電力会社が買うというものなんだ【14】
その告示が衆院選翌日の8月31日で、施行が11月1日、つまり明日。
ところがそれに伴い、小型風力発電などはRPS法での買い取り価格が、半減することになるという。

Aさんだって、この制度の拡充を公約していた民主党政権ができるのが、事前にほぼ分かっていたんでしょう。だのに、選挙翌日に告示するなんてのは、あまりにもひどい話ですねえ。
太陽光発電だけじゃなく、すべての自然エネルギー、再生可能エネルギーによる発電に拡大すべきだし、余剰分だけでなく、全量買取にすべきでしょう。

H教授うん、ただそうなるとそのコストは電気料金に加算される。ダメージを受ける貧しい人々への影響を少なくするように、料金体系の変更も考えなくちゃいけない。
それに日本は自然エネルギーのなかで太陽光発電だけを重視していて、温暖化対策としてはむしろ原子力重視だね。このあたりの感覚が少しずれている。
環境省は川内原発の増設で、アセス法【15】に基づいて、「原発の最大限の活用を」という大臣の意見書を出したそうだ。
社民党首の福島サンはこれに反発するなど、ここでも不協和音を奏でているし、ボクも放射性廃棄物問題など別の未解決の問題を抱えているから疑問に思うけどね【16】

Aさん欧米では主力はむしろ風力発電ですよね。

H教授うん、日本だって北海道なんかでは風力発電は随分発電可能なんだけど、RPS法がガンになっていて、北電は一定量以上の買取を拒んでいる。
RPS法は、本来コストの高い自然エネルギーの一定量を、電力会社に買い取り義務を課すことで、その普及を図るはずなんだけど、その義務量がわずか1%台で、それをオーバーしているからっていって買い取らないんだ。
米国では買い取り義務量は州によって違うけど、発電量の10〜30%。それがおしなべて1%台の日本はあまりにもお粗末というしかない。
ま、FITを導入するということは、RPS法を廃止するんだろうけど。


Aさんでも、風力発電は風が吹かなければダメですし、太陽光発電は夜や曇り、雨の日はダメですよね。不安定な電源ですから、電力会社としては質の悪い電気ということになるんじゃないですか。

H教授それはそうだ。蓄電技術が進めばいいんだけど、現状ではイマイチのようで、そのコストも高い。
先日、S先生に教えてもらったんだけど、ある程度の広い地域全体で、そういう自然エネルギーによる発電ネットワークを作ればいいんだそうだ。
風力がダメなときは太陽光が、太陽光がダメなときは風力が発電するだろうし、両方ダメなときは買電し、両方OKなときは売電し─というようにすればいいんだ。
これがマイクログリッド、分散型電力網とでもいえばいいのかな。こういうものを各地に市民参加で立ち上げていけるといいんだけどねえ。

Aさん日本だと急流が多いから、小型水力もいいんじゃないですか。

H教授うん、それはそうなんだけど、水利権の問題があって、それを解決するのが結構たいへんらしい。地熱発電は景観破壊のうえ、スケール(垢)がパイプにくっついて詰まってしまうという問題があるし、温泉への影響も心配。バイオマスは利用のメドがない間伐材や廃材は山ほどあるが、一定の質をもったものを回収するにはコストがかかってしまう。自然エネルギーではないが、新エネルギーとされるごみ発電は効率が悪い。
一言で言うと、どの自然エネルギーも一長一短、帯に短し襷に長しといったところで、だからこそその弱点をお互いに補うようなマイクログリッドをつくればいいんだ。

Aさんスマートグリッドという言葉もよく聞きますが。


H教授オバマさんがしきりに進めようとしているやつだね。
大規模な系統電力に高度なIT技術で通信・制御システムを組み込んで、効率的に電力を安定供給し、状況に応じて使用電力自体も制御しようとするものだ。で、そのために開発されたのがスマートカード。
これもさきほどのS先生の受け売りだが、米国は電力については供給量と需要量の差が小さいところから編み出された苦肉の策らしい。需要量が供給量に近づくと、電力料金がはねあがり、需要を落とすよう誘導したりすることができるらしい。

Aさん日本はどうなんですか。

H教授先年の柏崎・刈羽原発が地震でダウンしたときは、大口需要者の需要を抑えるのに駆けずり回ったことがあるけど【17】、一般的には日本では供給余力が結構あり、需要サイドを押さえる必要が少ないらしい。

Aさんじゃそんなものを導入する必要はないということですか。

H教授いや、ボクはこれからの日本では総需要をなんとしても抑えることが必要だと思う。だからこそ、日本も見習わなくちゃいけない。
もっとも日本は9電力体制で、電力会社間で融通しあうラインが細いという問題があるし、しかも東日本と西日本では周波数が違うという大問題があり【18】、その問題をなんとかするほうが先決かもしれない。


SEAの試行―高速道路無料化

Aさん世論は決して支持してないと思うんですが、高速道路の無料化をやはり鳩山内閣は断行しそうですね。

H教授マニフェストは国民との約束だからというんだけど、世論調査なんかではネガティブな意見が多い。
これについては民主党の公約の一つであるSEA、つまり戦略アセス【19】をやってみるべきだね。

Aさんアセスって公共事業や開発計画についてのものなんじゃないですか。
そしてそれを構想段階の早い時期にやるのがSEAじゃなかったですか。
環境省のSEAガイドライン【20】でもそうなってましたよ。

H教授SEAはPolicy, Plan, Programについてやるものという定義がなされている。
高速道路無料化なんて、環境に最も影響のあるPolicyじゃないか。SEAの試行にもってこいのケースだと思うけどねえ。

Aさんあと、生物多様性COP10が来年名古屋で開催されますけど、こちらの方の動きも急ですね。今月には「神戸生物多様性国際対話」が開かれたし、環境省も「ポスト2010年目標日本提案」素案というのを発表しています。

H教授もう時間がない。それは次回にまわそう。

Aさんあ、ところでセンセイ、まだ禁煙は続いているんですか。

H教授うん、もう4ヶ月になる。

Aさんよかったですねえ。税収不足を補うため、タバコは大幅に値上がりしそうですよ。
タバコ一箱500円とか1000円時代が来そうです。いいときにやめましたよねえ。
ホント悪運強いのにはあきれちゃうわ。オカネが随分浮いたでしょう。今度たっぷりご馳走してくださいね。

H教授…(浮かぬ顔)。

Aさんどうかしたんですか。

H教授タバコをやめたら、またまた腹が出てきて、ズボンが全部合わなくなっちゃった。かえってカネがかかりそうなんだ。

Aさんだったら、せっせと運動して、脂肪を燃焼させればいいじゃないですか。


H教授うん、で、ウォーキングを始めたんだ。そうしたら今度は腰痛になっちゃって、通院するのにまたカネがかかるんだ。

Aさん…。


注釈

【1】新銀行東京
第63講「新銀行東京に桜は咲くか」
【2】勉強していない議員
第18講「断想―原子力安全対策室長の頃」
【3】事業仕分けの是非
第72講「「政策棚卸し」の行方」
[編註]脱稿後の11/9(月)、政府の行政刷新会議は事業仕分けの対象として、447の事業・組織等の案を発表した。
【4】かつて国家の中の国家といわれた、大蔵省
第41講「回想―総理府審議室の日々」
第24講「地方分権と環境行政 ―三割自治」
【5】国立マンガ喫茶
第77講「補正予算とキョージュのマンガ論」
【6】総合治水
第22講「時評2 ─総合治水」
【7】泡瀬干潟の控訴審判決
第81講「鳩山内閣と公共事業」
第71講「「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決」
【8】普天間基地の移転問題と辺野古への移設
第26講「辺野古沖埋立ての新転回」
第21講 「時評2−普天間飛行場の辺野古沖移設を巡って」
【9】埋立の基本方針
第10講「瀬戸内法行政の先駆性・先見性と限界」
【10】20年前の恨み
第6講「コーベ空港・断章」
【11】温暖化対策税の創設を含む税制の環境シフト
第35講「環境税と特会見直しと第二約束期間」
第34講「環境税と特会見直し」
第9講「温暖化対策税の在り方を巡って」
【12】国内排出量取引の本格導入
第51講「低炭素社会に向けて ──拡大排出権取引」
【13】見える化対策に向けた優遇措置
第66講「福田ビジョンの可能性と限界」
【14】 RPS法とエネルギー供給構造高度化法
第70講「経済危機と温暖化対策」
固定価格買取制度(フィードインタリフ制度)入門
【15】アセス法
第2講「ミテイゲーション私論」
【16】川内原発の増設
第18講「原発のリスク」
【17】柏崎・刈羽原発の停止と大口需要者の需要抑制
第56講「日本の一番暑い夏」
【18】東日本と西日本の周波数の違い
第73講「日本版グリーン・ニューディールは可能か?」
【19】 戦略的アセス
第17講「SEAと立地地点選定」
【20】SEAガイドライン
第51講「SEAガイドライン」

(平成21年10月31日執筆、同年11月4日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。