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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.024

Issued: 2005.01.06

第24講 2005 ―地方の時代のために

目次
時評1 COP10 ―コップの中の嵐
時評2 持続可能社会超長期ビジョンの必要性・可能性
時評3 大増税時代と環境税
時評4 地方分権と環境行政 ―三割自治
時評5 脱線 ―ウラガネ考
時評6 環境省と自治体環境部局の関係 ―主従か仲間か
時評7 国家と地方の公務員文化
時評8 地方分権の本音と建前
時評9 自治体環境部局の組織論
時評10 出向秘話
時評11 読者のお便り&訂正

Aさんセンセイ、おめでとう!

H教授やあ、オメデトウ。今年こそ、ちゃんと修士論文に取り組めよ。
読者のみなさまもおめでとうございます。今年もよろしくご贔屓ください。


Aさん(小さく)とはいっても、まだクリスマスですけどね。

H教授シー、それをいっちゃダメ。約束ごとなんだから

Aさんでもセンセイ、この時評、もう満2年ですよ。よく続きましたよねえ。
(読者に)じつはセンセイ、還暦を迎え、成人病オンパレードなんです。ホント、年寄りの冷や水ですよねえ。

H教授こらこら、ぼくはまだまだ元気だよ。相手さえいれば大恋愛だってできるぞ。ま、キミだけはごめんだけどな。

Aさんへん、それはこっちのセリフですよおだ。第一相手ができるはずないじゃないですか。なんの取柄もない白髪の爺さんが。

H教授シ、シッケイな。「蓼食う虫も好き好き」というじゃないか。

Aさんセンセイ、それ英語でいえますか。

H教授ん?


Aさん情けない。Love is blindに決まってるじゃないですか。

H教授うーん、恋は盲目か、こりゃあ一本とられたな。
さ、はじめるぞ。昨年の環境関連トピックスで最大のものはなんだと思う。

Aさんやっぱり酷暑、最多台風、豪雨、地震とつづいた天災ですよねえ。それにツキノワグマ騒動なんかもありましたし。

H教授うん、去年を象徴する漢字として選ばれたのは「災」だった。「災」ってホント、こわいものなあ。(小さく)「妻」もこわいけど。


COP10 ―コップの中の嵐

Aさんそれと温暖化問題ですよねえ。ロシアがついに批准して京都議定書発効が決まりましたもの【1】。でも先日開催されたCOP10【2】では、第二約束期間に向けての枠組み作りもほとんど進展がなかったですねえ。

H教授そうだよね。COP10ではEUと米国、それに途上国が三つ巴で、COP3の二の舞。歴史は繰り返す、一度目は悲劇、二度目は茶番劇として...。


Aさんマルクスの『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』ですね。ヘーゲルはどこかでこういっている、というやつですね。

H教授(ギクッ)なんだ、知ってたのか。

Aさん(冷笑して)センセイのオハコは大体覚えましたから。

H教授チェッ、尊敬のまなざしで見てくれるかと思ってたのに。で、第二約束期間については日本は経産省サイドと環境省サイドで思いっきり足並みが乱れたなんてことが新聞に出ていた。

Aさんでも米国は京都議定書を離脱したんでしょう。なんでのこのこと会議に出てくるんですか。

H教授COPは気候変動枠組条約加盟国会議。米国は条約加盟国だもの。今年11月に開催予定のCOP11では議定書批准国会議(MOP)も併催されるそうだ【3】

Aさんで、COP10ではなにが決まったんですか?

H教授途上国の関心が高い温暖化による洪水、干ばつなどへの「適応」のための「5カ年行動計画」(ブエノスアイレス作業計画)【4】を策定することが決まった。また来月には京都で議定書発効を祝うイベントが開催される。でも本命の第二約束期間については討議にすら入れず、5月にそのための「政府専門家セミナー」を開くそうなんだけど、これも米国の横槍で、COP11には直接反映させない単なる勉強会となったそうだ。

Aさんふうん、前途多難ですね。第二約束期間に向けての日本の考えは?

H教授なにも決まっちゃいない。環境省は京都議定書の延長線上でさらなる厳しい数値目標を目指しているみたいだけど、経産省や産業界は米国と歩調を合わせて、数値目標は補助的なものとし、メインを技術援助と技術開発に持っていきたいようだ。

Aさんセンセイはどう思われるんですか?

持続可能社会超長期ビジョンの必要性・可能性

H教授もちろん経産省や米国はけしからんと思うけど、第二約束期間云々以前に数十年単位、例えば2050年を目標とした持続可能な国家のビジョンを作らなければいけないとしみじみと思った。
EU諸国ではそうしたものをつくっていて、英国は2050年までに排出量を現状より60%カット、フランスは75%カット、ドイツは2020年までに対'90年比40%カットを国家プランとして定めているそうだ。そして、環境税(炭素税、温暖化対策税)やEU域内の企業間排出権取引の制度も動き出している。


Aさん日本でも一昨年、環境省が白書で循環型社会の3つのシナリオっていうのを発表しましたよ。技術開発推進型、ライフスタイル見直し型、環境産業発展型って【5】

H教授あれは目先の変わった普及啓発の一手段に過ぎない。超長期の目標年次のビジョンを定め、それに向けてのシナリオとプログラムを考える...。そういう計画手法が日本には今までなかったもんなあ。そして持続可能、つまりエネルギー・資源抑制型社会の未来像を描かなければいけない。もちろん、そのときに経済や社会、雇用や交通体系などもろもろのことがどう変わっているか、変えなきゃいけないかを示すことが必要だ。

Aさん2050年っていったら、技術開発だって大幅に進んでいるでしょうから、作りようがないんじゃないですか。未知のエネルギー源も実用化されているかもしれないじゃないですか。

H教授もちろん5年、10年ごとの見直しは必要だし、その時点で実用化したものについては取り込んでいかなきゃならないけど、現時点で実用化のメドがたたないもの、例えば核融合だとか、高速増殖炉だとか、メタンハイドレードだとか、CO2の固定・廃棄だとかいった超楽観的な技術要素【6】をそうしたビジョンに入れることは厳禁だ。

Aさん一応、将来構想だったら、各自治体でも総合計画みたいなものを作っているじゃないですか【7】

H教授もっとも基礎的なデータである人口見通しですら願望が入り混じってデタラメだ。
ぼくの住んでいる市では一時期人口が急増し、総合計画では2010年の想定人口を20万人とした。最近になって、これは難しそうだというので、下方修正して13万人にしたんだけど、残念ながら11万人でストップ。多分、今後は減り続ける一方だよ。

Aさんますます少子高齢化が進んでいきますものねえ。でもそうしたビジョン作りは難しそうですねえ。

H教授定量的なものじゃないけど、国連大学の安井先生の書かれた「シナリオ・低エミッション都市」(http://www.yasuienv.net/LowEmissionCity.htm)は参考になるよ【8】

大増税時代と環境税

Aさんで、環境税は結局、見送りになったんですね。

H教授うん、先日決まった与党の税制改正大綱【9】では来年度から定率減税の段階的廃止が決まったし、諸般の情勢からは、2〜3年後の消費税アップはまちがいなさそうだ。大増税時代に入りそうなんだけど...。


Aさん(遮って)やだ、増税反対!

H教授だれだって増税はいやだよ。環境税だって朝日新聞の世論調査では反対が賛成を上回ったくらいだ。
環境税の話は別にするとしても、日本は800兆円もの借金を未来の世代に抱えているんだもん、ある程度の増税は仕方ないと思うよ。もっとも歳出の方ももっと落とさないとダメだよね。とくに公共事業なんてのは、数年間凍結するくらいの覚悟がなきゃダメだよ。でも、そっちは相変わらずの大盤振る舞いだもんね。

Aさんそんな増税時代だというのに、環境税導入は見送りになったんですね。どうしてかしら。

H教授ま、なんだかんだいっても2〜3年後には導入必至だと思うけど、基礎産業界が徹底して反対の音頭をとったからなあ。

Aさん反対の論理は?

H教授税率が低すぎてCO2抑制にならないというのがひとつ。これは前講でも言った【10】からパスしよう。

Aさんバカバカしくて反論する気にもならないですね。マサカそれだけじゃないでしょう?

H教授いくら税率が低くてもエネルギー多消費産業の鉄鋼などの基礎産業界には負担が大きく、国際競争に負けて、その分、中国などでの生産量が増える。中国などでの排出抑制技術、つまり省エネ技術はまだまだ低いので、中国での二酸化炭素排出量が急増し、結果的に全地球での排出量が増えてしまうというものだ。

Aさんそうなんですか?

H教授うん、それはそうだと思うよ。前出の安井先生がHPでみごとな反論を展開されてるけど、付加価値の小さいものの製造は人件費がより低い国に流れるのは当たり前で、そうなれば排出量が増えるのは仕方がなく、だからこそ先進国での排出削減とCDMが重要になってくるんだ。
途上国がある程度豊かになるまで削減数値目標を押し付けることはできないとボクも思うよ。つまり全球的な温暖化対策がはじまって、功を奏するようになるのは数十年先ってことだ。うまくいったとしてね。


Aさんつまり先進国から排出抑制しなくっちゃいけないってことですね。でも米国って先進国中の先進国じゃないですか。

H教授それは錯覚で、安井先生はじつは米国は超巨大な途上国だといわれる。だから日本の第二約束期間へのスタンスは先進国へ向かうか、巨大な途上国へ向かうかの岐路ということになる。

Aさんセンセイもそう思われるんですか。

H教授ま、一種のレトリックだろうけど、イラク侵攻などと併せ考えると、言いえて妙だと思うよ。第二約束期間での日本の温暖化対策は環境税とCDMが中心で、外国との排出権取引はあてにせず、むしろ国内で実施するのが急務だと思うよ。

Aさんどうしてですか。排出権取引がメインになるのかと思ってたけど。

H教授どっから排出権を買うんだ。ロシアや旧東欧圏だって、ぼちぼち経済復興がはじまるだろう。ホットエアーなんてあてにならないし、しちゃいけないよ。
でも排出権取引は国内では有効だと思うよ。そのためには発生源に排出上限を割り当てることが必須になるけど、また経産省や産業界が反対するだろう。これを突破できるかどうかだな。
来年度政府予算案では、環境省の新規予算で自主参加型排出権取引制度の試行が決まった。これへの産業界の対応が試金石だな。

地方分権と環境行政 ―三割自治

Aさんそうそう、政府予算案ですが、三位一体改革、辛うじて、ごみ処理施設について補助金廃止ではなく、交付金化が決まりましたね。

H教授でも環境省の予算は減額になったし、国立公園施設整備補助金はなくなったし、環境監視の補助金もなくなっちゃった。環境省にとっては「惨身痛い改悪」にはちがいない【11】


Aさんうーん、センセイは地方分権・主権論者だといっておきながら、そういう評価ってNIMBYっていうか、典型的な総論賛成、各論反対に見えちゃうんですよね。

H教授うーん、そう聞こえるか。それはボクの不徳のいたすところだな。
要は税源委譲は徹底的にすべきだし、そのうえで開発に関わる公共事業なんかは地方の自己責任とすべきなんだけど、環境だとか教育だとか弱者救済に関しての切り捨てをさせちゃいけない仕組みがいるってことなんだ。それがないままの三位一体改革だったから反対した。
もちろんガチガチに国が地方をしばるってのは反対で、地方の創意工夫を最大限生かさなきゃいけないよ。とくに環境なんてのは地方行政が切り開いてきたもんな。

Aさんふうん、センセイは県にもおられたことだし、センセイの地方環境行政論を語ってくださいよ。

H教授じゃ、本講のメインディッシュは自治体環境行政論とするか。でもボクがある程度わかるのは市町村よりも県―あ、正確には「都道府県」だけど、簡単に「県」で通すよ― だから、とりあえず県に限定して論じることにしよう。
まず総論部分からいこうか。「三割自治」ってよくいわれるよね。どうしてだと思う?

Aさんそりゃあ、法とカネと人で中央が地方を支配しているからでしょう。
だから地方行政は“痴呆行政”だって言っているヒトもいますよ。


H教授ま、法はしょうがない。国が制定したもんだから、法の解釈などは国がするのは当然だ。もちろん連邦国家にするんなら―そしてボクは決して反対じゃない― 話は別だけど、実現性のない話をしたってしかたがない。
カネというのは?

Aさん税収は、国税3・地方税2だけど、それを使う段階では国2・地方3となり、その分、国から地方に補助金や地方交付税交付金が流れます。このカネが中央支配の源泉ですね。

H教授それだけじゃない、地方税を新設したり、地方債を発行するにも総務省などの許可がいるし、国直営の事業だって自分の地域でやってくれれば地方は大歓迎だ。

Aさんそうしたものを背景に、県の幹部職員にも各省から出向してきているのでしょう?

H教授うん、副知事だとか総務部長なんてのは自治官僚―あ、今は総務省だな― が大半だし、土木部長や農林部長は国土交通省や農水省からというところも多い。

Aさんひどいじゃないですか。三割自治どころか、一割自治じゃないですか。

H教授だから11講で言ったように、ふつう県の職員が国の職員に会うときはアポをとったうえ、ワンランク上が対応する。国の課長には県の部長、国の補佐には県の課長ってね。しかも立ったまま応対させられることも多いそうだ【12】
まあ、財務省主計局と他省庁の関係もそうだ。主計の主査、つまり課長補佐に各省の課長が呼びつけられ、ぺこぺこ頭を下げる。


Aさんヒッドーイ!!

H教授やっぱりカネが権力の源泉だ。
(ひとりごと)でも不思議だなあ。カネを稼ぐのはボクなのに、どうしてボクの方がワイフにぺこぺこ頭をさげなきゃならないのか...。

Aさん(無視して)だから県は国にぺこぺこするんですね。

脱線 ―ウラガネ考

H教授でも昔はもっとひどかったらしいよ。40年近い昔だけど、ボクが某県に出張に行ったとき、翌朝迎えに来た県職員がボクが自分で宿泊費を払ったのをみてびっくりしていた。公共事業を持っていた省庁なんかでは、宿泊費はもちろんのこと往復のキップまで県に手配させる例が、決して稀ではなかったらしいんだ。もちろん出張旅費をもらっていながらだよ。

Aさんそんな無茶な。詐欺横領じゃないですか。センセイもそういうことしたことあるんですか。

H教授してないよ。こと環境庁に関する限り、それだけじゃなくて、向島の料亭接待もノーパンシャブシャブも銀座の高級クラブにも無縁だったよ【13】

Aさんへえ、環境庁の役人ってそんなに清潔だったんですか。センセイをみてたらとてもそうは見えないけどなあ。

H教授うるさい。でも別に環境庁の職員が清廉潔白なんじゃないさ。要は誘いがなかったんだ。なんせ、カネ(予算)もチカラ(権限)もないから甘いお誘いなんてくるはずがない。
逆に言うと、環境庁は、厚生省の公害部局と自然公園部局を中心に、各省の環境関連部署をかきあつめて成立した省庁なんだけど、そのときいささかでも旨味、つまり、カネ、チカラに加えてヒト―「天下り先」 を加えてもいいかもしれないな― があるような部署を、決して各省は手放さなかったんじゃないかと疑ってるんだけどね。


Aさんいちどくらい甘い誘惑ってのを経験してみたかったんじゃないですか。

H教授ボクの役人時代の夢はね、そういう甘い誘いに対して、「役人を舐めるのか!」と一喝することだったけど、はは、まったくそういうチャンスはなかった。

Aさんへえ、じゃ環境庁は真っ白なんですか。

H教授そんなことはないよ。それどころか昭和54年だったと思うけど、カラ出張事件で派手にマスコミに叩かれたことがあるんだ。でもねえ、逆説めくけど、環境庁には他省庁のように地方自治体だと外郭団体だとかにつけ回しできるところがなく、カラ出張でしかウラガネを作れなかったんだよね。

Aさんえー、環境庁までがそんなことを?

H教授当時は接待文化、贈答文化の真っ只中。民間じゃ交際費を湯水のごとく使っていた時代だ。役所というのは決して特殊な世界じゃない。ある意味では社会を写す鏡なんだ。おそらくすべての役所でやっていたさ。
問題はそれをどういうふうに作り、どういうふうに使っていたか、ごく一部の者以外、まったく知らなかったことだ。
でもそれから以降、環境庁はウラガネづくりはぴたっとやめちゃった。おそらく日本の役所の中では一番早かったんじゃないかな。


Aさんじゃあ、今でもやってるのは、あるいは一番最後までやってたのは?

H教授ケーサツとケンサツ、それに一部の省の地方支分部局だとか言われている。本当のところは知らないけど

Aさんセンセイ、だんだん本筋から離れていっちゃった。自治体の話に戻しましょう。環境行政における自治体と環境省の関係です。
(一拍置いて)でもやっぱり興味があるなあ。地方自治体でもそういうウラガネはあったんですか

H教授そりゃそうさ。ボクも県にいるときは食糧費やウラガネでお客さん接待、いわゆる官官接待をしたよ。それが当時の常識だったんだ。下戸の課長なんかほんといやいやながら、仕事としてやむなくやってたって感じだった。もちろんずうっと昔にそういうウラガネつくりはやめちゃったけどね。
なかには個人的な飲み食いまで平気で庶務につけ回しをやる管理職も結構いたけど、ボクはそういうことはしなかったぞ。

Aさんあたりまえじゃないですか。別に自慢することじゃないですよ。

環境省と自治体環境部局の関係 ―主従か仲間か

H教授そりゃそうだけど、自慢したくなるくらいだったということだ。
で、環境省と地方の環境行政の関係だけど、今は知らないから環境庁時代の話に限定しておこう。
環境庁では、―少なくとも課長のレベルでは― 地方支配しようなんて気はまるでなかったと思うよ。
むしろ先進的な地方自治体の環境部局には教えを乞い、そうじゃない自治体の、弱い立場にある環境部局に対してはなんとかバックアップしたいと主観的には思っていた。
だって、環境庁そのものだって、国に先んじて環境行政を進めてきた先進的な自治体が作らせたようなもんだもの。中央省庁の中で、もっとも地方と対等に近い関係だったと思うよ。


Aさんそんな主観の話じゃありません。客観的にどうかってことです。

H教授わかった。でもねえ同じ環境行政とはいっても、自然保護行政、というか自然公園行政と公害・環境管理行政は出自も中身も違うから分けて話をしよう。
まず自然保護・自然公園行政なんだけど、前講でも言ったように、一緒に国立公園を管理しているという意識がどちらにもあったと思うよ【14】

Aさんえ? どうして?

H教授出自とも関係あるんだけど、戦後、国立公園行政が再スタートできたのは、国立公園に思い入れの深いGHQの指導によってなんだ。
で、レンジャー制度がスタートしたけど、それをバックアップする体制が当時の厚生省にはほとんどなく、自治体にオンブにダッコしてもらうしかなかった。
ボクだってレンジャー時代は県の無給併任技師の辞令をもらって、出張旅費だとかの面倒をみてもらった。
しかも厚生省時代はレンジャー採用者は県にも実働部隊、つまり係員だとか係長、せいぜい課長補佐ぐらいで出向し、レンジャー、本省、県をぐるぐる回ってたから、特に県のベテラン技術屋さんの方でも対等な仲間意識が強かった。環境庁時代にもその名残が色濃かったと思うよ。今はどうか知らないけど。

Aさんじゃ、公害・環境管理行政の方は?

H教授公害・環境管理行政を主導したのは先進的な自治体で、その実働部隊は技術屋さん。県の技術屋さんは現場を知ってるし、技術もある。一方、環境庁の技術屋さんは現場も知らないし、BODだって学生時代はともかく、役人になってからは自分で測定したことはほとんどないだろう。おまけにどちらも人数が少ないから、顔見知りになる機会もいっぱいあって、やはり別の意味で仲間意識は強いと思う。だから他省庁から環境庁に出向してきた人は、そうした県との関係には驚いていた。
それに公害規制を実際に行うのは県で、法律や規制基準をつくるのは環境庁だったけど、自治体が上乗せ基準をつくることを法的に認知していたし、環境基準生活環境項目あてはめをするのは県だから、自由度も高かった。


Aさんでもオカネでしばってたんじゃないですか。

H教授たしかに県の環境部局は補助金や委託費を欲しがってたけど、トップや財政部局は必ずしもそうじゃなかったところが多かった。補助金がつくというので、渋々予算化したところだって稀じゃなかったから、しばるというよりは応援したいという気持ちだった。

Aさんその割には各県のアセス条例にしても環境基本計画にしても環境省のものと瓜二つじゃないですか。環境省がそうさせていると思われちゃいますよ。

H教授公害規制にしたってSEAにしたって先進的な取り組みを始めたのは一部の県なんだ。
キミのいうようなことになる県が多いのは、その県の環境部局の職員の能力だとか発想が貧困なんじゃなくて、環境省のコピーみたいなものしか認めようとしない県のトップや財政・企画部局の意向の方が大きいと思う。
それともうひとつは地方公務員のもつ体質だとか文化が大きいと思うね。

国家と地方の公務員文化

Aさん同じ公務員でも国と地方じゃそんなに違うんですか。

H教授もちろんだよ。これは特にスジワル案件に関してなんだけど、地方公務員は上に弱いって感じた。

Aさんスジワル案件?


H教授うん、常識的にいえば、法令、前例等からして、認めるのが困難なものの扱いだ。国では、バカな大臣がスジワルなことを言い出すと、次官、局長クラスが諌める、バカな局長がそれを阻止できず、課長クラスに命じると、今度は課長クラスが抵抗する。バカな課長がそれを受けて課に持って帰ると課内の実務部隊のブーイングにあう。そういう文化みたいなものがあるんだ。

Aさん地方自治体は違うんですか。

H教授上の言うことにはもっと従順だと感じたな。

Aさんなんかもうひとつピンと来ないなあ。

H教授あるとき、知事が側近に環境庁案件で、ポツンと「こういうふうにできないかなあ」と漏らしたことがある。で、側近から部長経由でボクのところに「知事の厳命が出たから、直ちに環境庁と交渉してこい」という連絡があった。
ところがこの話、どう考えてもスジワルなんだ。だから、ボクが知事に会って説明させてくれと言ったんだけど、ごちゃごちゃ言わずにさっさと上京しろって、こうなんだ。

Aさんへえ、それでどうしたんですか。

H教授仕方がないんで、別の緊急案件があるからって強引に知事に会い、その話の後、事情を説明し、到底ムリですって言ったら、「おお、そうか、それじゃ仕方ないなあ」で終わっちゃった。

Aさんどういう案件だったんですか

H教授ハハ、案件の中身は忘れちゃった。

Aさんそれじゃあ、説得力ないじゃないですか。

H教授じゃ別の話をしよう。鳥獣の飼養許可かなんかの件で、申請者が部屋に来て、担当に話をしていたんだけど、担当は「できない」って一点張りで追い返した。ボクは着任早々だったんで、口を挟まず、あとでどういうことか聞こうと思っていたんだ。
しばらくして、局長が担当のところにきて、「認めてやれ」って一言いい、「わかりました」と担当が受けちゃった。
つまり、その申請者は担当のところから直接環境局長のところに行き、直談判したんだ、ひょっとしたら知り合いだったんかもしれない。で、そのあと担当に事情を聞いた。


Aさんで、担当の答えは?

H教授「本来好ましくない案件だが、不可能ではない」って言うんだ。
だったら、事情を斟酌して許可してやれるんなら、はじめからそうすればよかったし、好ましくないってことで断ったんなら、局長にもきちんと反論すべきだって叱りつけたけど、キョトンとしていたなあ。
ま、国でも上の言うことはなんでも従うのもいれば、地方でも言うべきことはきちんと言ってる人もいるから、程度問題だけどね。

Aさん個人差はあるけど、バックには文化の差があると?

H教授うん、各省の場合はボトムアップが基本で大臣なんてのはお客様扱いだけど、県の場合はルーチン以外はトップダウンってことが多いし、知事ってのは公選制で、何期もやっていると何でもよく知っているし、それに人事権を持ってるからなあ。

Aさんでも、N県じゃT知事と県職員の仲がギクシャクしているじゃないですか。

H教授ギクシャクしていても強行突破しているじゃないか。でも郵政民営化が持論のコイズミさんが郵政大臣だったときだって、結局なにもできなかったし、田中真紀子サンだってそうだったから、その差は大きいと思うよ。

Aさんなるほどねえ。

H教授でも、そのことをネガティブにとらえることはない。だからこそ、地方の場合はトップをやる気にさせられさえすれば相当のことができるということなんだ。
それが環境行政黎明期に起こったことだ。先進的な地方自治体が国を包囲して環境庁をつくらせた。


Aさんそして今は、改革派知事が続々出現していますもんねえ。

H教授そう、先進的な自治体が切り開き、国が重い腰を上げ、その国の動向をみて、他の地方自治体も動き出すというのが、環境行政のパターンだね。

地方分権の本音と建前

Aさんでも先進的な一部の自治体以外はどうして遅れてしまうんですか。

H教授そりゃあ、貧しくて開発志向の強い県はどうしてもそうなっちゃうよ。でも、そういう時代は終わったし、終わらせるべきだと思う。

Aさんそういえばセンセイも、天下りだったんですよね。

H教授40歳くらいで課長級で派遣された。だけど他省からの天下りでは30歳で課長、40歳で部長というのがパターンだった。環境庁がいかにカネも権限もなかったかが、よくわかるね。

Aさん悔しかったんじゃないですか。

H教授全然。大部屋の方が気楽だし、同い年くらいの係長クラスとはよく飲み歩いたし、たまには若手職員とバイトの女性たちとも飲んだりして、結構仲良くなれたもん。大体そういう帝王教育なんて受けてないから、そっちの方が気楽だ。
それと、こういう天下りシステムはね、悪いことばっかりじゃない。県ってのは人脈世界でいろんなしがらみがあるから、しがらみのない国から来た役人が取り仕切った方がいいことだってある。
それにしても20代で課長なんてのはあんまりだと思うけど。


Aさんところで、県と国の関係ってどうなってるんですか。

H教授県は2つの面を持っているんだ。ひとつは国の下部機関として、国の仕事の一部を代行して行う、これを委任事務といい、もうひとつは自治体本来の仕事で、固有事務というんだ。
地方分権法で、今は法定受託事務と自治事務と名前は変わったんだけど、本質的にはあまり変わってないんじゃないかな。
それにどちらにしても、カネとヒトでしばりつけているから、県の職員は知事を頂点にするピラミッドの一員でありながら、一方では各省の意向に沿わねばならないということになる。

Aさん環境部局の場合は知事の命に従うとともに、環境省の系列下にあるということですね。

H教授そういうことになる。だから知事の意向と環境省の意向が食い違うと厄介なことになる。ただ、さっきもいったように環境省が地方を支配しようとしているというよりは、地方の環境部局でも内心、環境省と同じ発想や価値観を持っていることの方が多いから、環境省に言わせている面も結構あると思うよ。

Aさんなるほどねえ。

H教授それに各省庁間は基本的に独立しているから、開発担当部と環境部局が省庁間の代理戦争をすることだってありうる。
こうした場合、以前だったら知事は大抵、開発サイドに立ってたから、環境部局はたいへんだったんだ。


Aさんどうしてですか。

H教授ぼくのいた頃、ぼくのいた自治体では、トップは公共事業に関してはとにかく補助金をとってこいの一点張りだったもんなあ。まあ、今はだいぶ違うと思うけど。

Aさんでも人事は知事の下でやるんだから、国とは違うんじゃないですか。

H教授うん、部局間で省庁間の代理戦争をやるとは言っても、いつお互いの立場が変わるかもしれないから、そういう意味では激しくやりあっても、省庁間の争いよりは陰湿・険悪じゃなかった。特に事務屋さんの場合はそうだった。

自治体環境部局の組織論

Aさんところで、県の環境部局というのはどういうセクションに分かれているんですか。

H教授うん、その前に県全体の部構成の中で、環境関連部局がどうなっているか、みてみよう。まず大きくいって、環境関係のセクションだけで部または局を構成しているか、それとも環境以外の他のセクションと一緒になっているかに区別される。
大きな県では、環境部または他の部のもとではあるが、半独立している環境局のようなものを構成しているところが多い。でも中小の県では生活環境部だとかで、医療や福祉なんかと一緒のところも多い。一時は行革ばやりで、ボクのいた県でも環境局が廃止されて、生活環境部に統合された。

Aさんで、課ベースではどうなんですか。

H教授自然公園の施設整備だけは商工部系列の観光課が所管していたり、鳥獣保護関係の一部は林務部が所管していたりするところもあるけれど、基本的には環境省の1つまたは2つの局や部に対応して、ひとつの課があるというのが多いね。
逆に言えば、環境省のひとつの課が、県のひとつの係くらいと思ってりゃいいよ。ぼくは県で最初に自然保護・自然公園とアセスをやり、そのあと公害をやったから、環境庁関係のほとんどの仕事を、ざっとではあっても、県という立場から経験した。


Aさん環境部局はやっぱり技術屋さんが中心なんですか。

H教授自然保護・自然公園関係では専門の技術屋さんを採用している県と、林務や土木からのローテーションでやっている県がある。
以前は許認可だけでなく、設計なんかも自分でやってたなあ。
公害・環境管理関係は化学職などの専門の技術屋さんが中心だ。ぼくのいた県では抜き打ちの立ち入り検査などで常時何人か県内を回り、採水・採気とその測定なども自分でやっていた。
そういう意味では霞ヶ関の技官よりもっと泥臭い技術屋さんたちだった。

Aさんそういう技術屋さんたちの人事はどうなってるんですか。

H教授人事は知事の意向を反映するとはいえ、基本的には国と同じ、職種によるシマシステム【15】で、技術屋の場合、ふつうはそのシマのトップが事実上の人事権を持っている。

Aさんどういうところを異動するんですか。

H教授異動とはいっても公害・環境管理関係の技術屋さんの場合は、環境部局内のほかは食品衛生、環境衛生といった旧厚生省関係の部課、それに環境研究所だとか保健所を回ることがほとんどだ。
こうした技術屋さんたちをどの県でも昭和40年代後半から毎年大量に採用したから、今じゃその処遇に困ってるんじゃないかな。
自然保護・自然公園関係の専門の技術屋さんを採用しているところでは、動きようがないので、ずうっと同じところってことも多い。

Aさんやっぱり昇進なんかじゃ国と同じで、事務屋さん優位なんですね。

H教授国と同じ、いやそれ以上に事務系優位だ。あ、お医者さんを除いてだけどね。公害・環境管理の技術屋さんは課長ポストがせいぜいいくつかあるだけで、そこから上にはいけないというところがほとんだ。部局長のポストをもっているのは、いくつかの県に限られている。
もっと技術屋さんが昇進できるようにすべきだし、各地にある保健所長なんてのは医者でなければならないなんて変な規制があるけど、こういうものをまずとっぱずすべきだね。


Aさん自然保護関係は?

H教授自然保護・自然公園関係で専門の技術屋さんが課長に就いているケースはきわめて稀だ。これもなんとかすべきだね。

Aさん今までは公害・環境管理と自然保護・自然公園ばっかりだったですねえ。廃棄物関係はどうなんですか。自治体じゃ最大の課題でしょう?

H教授そりゃそうなんだけど、廃棄物行政はもともと厚生省水道環境部の系列下だったんで、ボクはほとんど知らないからパスさせてもらおう。

出向秘話

Aさんまた<逃げ>がはいりましたね。ま、いいわ、ところでセンセイもそうだったけど、環境省からの県への出向って多いんですか?

H教授さっきも言ったように、レンジャー関係では厚生省時代は実働部隊としていっぱい出向していたけど、環境庁になってからは激減した。やはり他省庁と同様、課長ポストでなきゃいやだって言い出し、県の方ではそこまでのメリットは乏しいからそうなっちゃった。
だから環境庁になってからは全国で課長ポストを数個持っているだけで、旧自治省だとか旧建設省とは大違いだ。なんせカネもチカラもないからなあ。


Aさん県の仕事は面白かったんですか?

H教授ああ、キミも含めて学生には国際公務員に憧れるのが多いけど、国際公務員はだれを見て仕事をするんだと思う?

Aさん

H教授地球市民だ。だけど、それはきわめて観念的な話で、実際にはそんなもの見えないよね。国家公務員の相手は国民だけど、これもなかなか実感しがたく、相手は他省庁や団体の長ということになる。ま、レンジャーを別にしてね。
その点、地方公務員は県民の顔が見える分、仕事は面白いし、プライベートでも充実した時間が過ごせたと思うよ。

Aさん要は公私ともども飲む機会が多かったから面白かったんでしょう。

H教授へへ、ばれたか。あと、県にいると、環境庁との板ばさみになることが多く、それが苦しいといえば、苦しいんだけど、逆にいうと、板ばさみじゃなくて、両方を操っていると自分で思い込めるようになれば楽しいよ。
そしてぼくはやっぱりこれからの環境の新しい風は地方から吹くしかないと思ってるよ。


Aさんなんか県にいたときの失敗談てないんですか。

H教授うーん、着任早々、ある意味じゃ大きな恥ずかしい失敗を2つも重ねちゃった。

Aさん(目を輝かせて)え? え? どんな?

H教授やれやれ、キミはそんな話になると元気になるんだなあ。
最初は全国植樹祭のときだ。着任後、半月も経たないうちに全国植樹祭が開催され、環境庁の事務次官がやってきたんだ。当時はまだ接待文化華やかなりし頃だから、当然夜は知事招宴となる。ボクは環境庁からの出向だというので、その席に連なった。
まだ県の幹部の顔と名前も知らないなかでの、初宴席だから緊張してピリピリだったよ。
隣の県幹部らしき人がそう緊張せずに飲みなさいよと、酒を注いでくれる。
で、ボクの悪い癖はアルコールを一定量以上摂取すると、ときとしてパタンキューとところかまわず寝てしまうことがあることなんだ。なんと、これをしょっぱなにやっちゃった。
次官と知事に足を向けてグーグーと寝てしまったんだよ。あとで聞くと、隣の県幹部は副知事だった。

Aさん(笑いをかみ殺して)一気に悪評が立ったんじゃないですか。

H教授うん、一部じゃ大物、豪傑だって冷やかしの声もあったけど、恥ずかしかった...。


Aさんで、もうひとつは?

H教授もうひとつは着任1ヶ月後のことなんだけど、児童の巣箱づくりかなにかのコンクールの表彰式に環境局長の名代として、挨拶のあと、知事名の表彰状を授与することになってたんだ。
人の名前は、時として難しいことがあるから、表彰相手にはちゃんと振り仮名をつけてくれよと事務方に頼んでおいたんだけど...。

Aさんやはり読めないのがあったんですか。

H教授うん、表彰状を読み上げはじめて、最後に知事の名を読む段になってからのことだ。知事の姓は知っていたが、名前の正式な読み方を知らないことにハタと気づいたんだ。ええい、まあいいやと適当に読んだんだけど、間違いだった...。
児童の父母からそのことが局長に伝わり、たちまち局内の話題になっちゃった...。

読者のお便り&訂正

Aさんよくそれで役人生活をまっとうしましたよねえ。さあ、ほかになんかありますか。

H教授あ、そうそう。訂正とお詫びをしておかなきゃならない。
前講でアトラジンのことについて触れ「研究者はいちはやくこの報道の元ネタを調べて学術的に正確なコメントしてほしいよね」と言ったろう【16】。そうしたらさっそく琉球大学の山口先生(海洋生物学専攻)からお便りをいただいた。


Aさんへえ、専門の研究者からのお便りってはじめてじゃないですか。

H教授うん。それをまず紹介しておこう。

http://www.cc.u-ryukyu.ac.jp/~coral/BiologyI/Atrazine.htm
上は私の講義のために調べた情報です。
カエルの問題は、中南米の公園内のような明らかな環境の悪化要因が見られない場所で進行中であって、それが危機感の元になっています。アトラジンの問題は氷山の一角でしょう。アメリカ大陸にはアフリカから大量の粉塵が飛来していて、その中に病原微生物などもあって、それがカリブ海のサンゴの病気を引き起こしているのではないかという仮説もあります。

H教授やっぱりそういうことをきちんと発信しておられる研究者がいるんだよねえ。
それから第17講で「もともと白保の人たちは離島からきたらしく、海岸に住んで漁業を営んではいたけど、漁業権そのものは持っていなかった」【17】って書いたけど、これも記憶違いだったようで、山口先生からのお便りでは「白保の漁民の反対は八重山漁協全体による漁業権放棄の同意に対抗できなかったのであって、漁業権を持たなかったのではないと記憶しています。漁協の赤字経営対策で、規模の拡大のための統合が進められてしまった結果、地域の支部の声は多勢に無勢でした。当時の石垣市長が民主主義は多数決だと公言して反対派住民を押さえつけようとした経緯もありました。」とのことだった。

Aさんありがたいですねえ。専門の研究者でも読んでいる人がいるんだから、あまりいい加減なことしゃべっちゃあダメですよ。

H教授(小さくなって)はあい。
で、アトラジンの環境ホルモン作用の低用量仮説を実証したという話に関して山口先生のご意見をお伺いしたんだ。
「論文を出した研究グループはこれを主張しているし、データが正しいものであれば説得力があります。これに反論している(薬屋スポンサーの?)研究者は高濃度領域での追試をやっているだけで反論にならないし、また、暴露する時の発生時期についても「影響を受ける窓」が開くかどうかに対する検証をやっていないようです。
生命機能の現象には、カスケードという上流下流関係で反応系が一気に進むこともあります(たとえば哺乳類の性決定)ので、ある特定の短いタイミングでしか影響が起こらないことは色々あると考えられます。」というお返事だった。
だとするとヒトに対しては当面問題ないとしても、環境ホルモンの低用量仮説についてももっと研究してみる必要がありそうだな。


Aさんなるほど。ほかには?

H教授やはり前講の(環境リスク学を読む)のなかで中西先生の生態系リスク論について、
「個体数の減少だとか分布域の狭小化でなく、種の絶滅さえ防げればいいというのにはちょっと首を傾げたね」 ―という感想を述べたんだけど【18】、どうも誤読だったようだ。この場合の「種の絶滅」は、日本でとか世界でとかということでなく、任意の面積において適用可能な方法論として述べられたのだそうだ。

Aさんそんなの誤読してたんですか。

H教授面目ない。
でも同じようなお便りが中西先生のところに多数あったそうだ。だからご自身のHPの雑感284で改めて解説しておられる(http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak281_285.html#zakkan284)。
ま、漁業管理の方法論がベースになっているようで、収穫とか捕獲とかいう概念に無縁な生物群にまで適用可能かどうか、ぼくにはよくわからないけど。

Aさんま、センセイみたいな研究者じゃない環境ディレッタントには難しかったかも知れませんねえ。

H教授まったく初春からキミはうるさいねえ。
もう一通、これに関連して前講で「タガメやメダカも...絶滅危惧種になっているという事態はやはり健全といえない」【19】と書いたことに次のようなお便りをいただいた。


先生、「健全」というのはどんな状態なんでしょうか。またこの国は、いつ頃までが健全だったんでしょう。江戸時代ですか。欧米だったら、産業革命以前でしょうか。
私も時々、きちんと基準を決めずに「環境に良い」とか「悪い」とか言ってしまうんですが、もうそんな「環境カラサワギ」に繋がるような言動はやめんといかんなぁ と反省しています。
さて、「今の便利で長生きができる生活を手に入れるために、私たちはたくさんの環境を壊してきた」ことは間違いない事実です。
すると、健全な状態に戻る(あるいは、する)ということは、きっと「便利で長生きのできる生活」をかなり我慢(犠牲に?)しなければならないということにつながりますよね。
先生は、ご自身では、衣食住などのどこら辺りまで具体的に我慢できますか。あるいは、もうしてますか。私などは、今の生活にドップリつかってそんな「我慢」について行ける自信は全くないです。
いずれにしても、「健全」な状態に戻す(あるいは、する)ということは、相当の覚悟を決めて行動する必要があって、今後も環境破壊をしないで生活して行く、なんて不可能に思えるんです。
まぁ、こんなことを考えて行くと、私にとって「健全」な状態にもどすなんて、「絵空ごと」、「白昼夢」みたいなものとしか思えません。(だからと言ってこのまま手をこまねいて、環境を破壊し尽くしていいと言っているわけではありませんが・・・。)
その点、中西先生の考え方は、地に足の着いた現実的・合理的・理性的な考え方で、私たちの未来像を「絵空ごと」では無く、示してくれる唯一(?)の手法だと思えるんです。

Aさんふうん、随分手厳しいご批判だけど、センセイの言ったことは、そもそもこんな意味だったんですか。

H教授うーん、今以上に不健全な状態を進行させるのはやめよう、少しでも健全な状態に取り戻すよう努力しようということで、江戸時代に返れだなんてことは言ってないつもりだけどなあ。中西先生の論をボク同様に誤読されてのことかどうか定かでないけど、中西先生も苦笑いされるかもしれないなあ。

Aさん具体的にはセンセイはどうすべきだと?

H教授少なくとも少子化時代に入り、人口減少は間違いないんだから、新たな大規模な面的開発はやめるべきだと思うよ。つまり海面埋め立てや森林の大規模宅地化だね。また水際線をこれ以上いじるのは極力避けるべきだ。
それとなんでも規制しろという意味じゃないけど、BAT(Best Available Technique)原則、つまり法規制があろうがなかろうが、環境汚染物質や人為的な化学物質の環境中への放出はコスト的、技術的に可能な限り抑制していくよう努めなければならないと思うよ。
そしてボクたちもこれ以上の便利さや快適さを闇雲に求めるよりは、別のものに価値を見出していくべきだと思うなあ。

Aさんそうですねえ。センセイはDVDもなければケータイも写メールなし、メイルなし。大古車はもちろんナビなしですもんね。
で、爪楊枝の先のようなわけのわからない鉱物の結晶さえ見てればご満悦で。

H教授う、うるさい!

Aさんいえ、ワタシもそんな趣味があればいいなあと思って...。

H教授もうオトコにはこりごりってわけか?

Aさんいえ、それはまた別、えーい、ほっといてください。それよりも2005年のみどころは?

H教授そりゃいっぱいあるよ。環境省だけに限っても、とりあえずは温暖化対策大綱がどうなるか、そして「惨身痛い改悪」後どういう体系を再構築するかだな。また環境省所管のいろんな法律がいっぱいあるんだけど、それに基づく基本方針つくりだとか、計画の見直し、さらには容器リ法など法それ自体の見直しだとか自動車リサイクル法が施行されるだとか枚挙にいとまがないくらいだ。
キミも大きな目と長い目でこうした流れをきちんと見据えるんだな。

Aさん大きな目も長い目も必要かもしれないけど、センセイの場合、まず正月ボケから目を覚ますのが先決ですね。

H教授...。


注釈

【1】ロシアの京都議定書批准と、発効の確定
京都議定書は、(1)55ヶ国以上の批准、(2)批准した附属書I締約国の1990年のCO2排出量が附属書I締約国全体の55%以上 ―という2つの発効条件を満たした後、90日後に発行することとなっている。
2004年11月18日に、ロシア連邦が京都議定書批准書を国連に寄託したことによって、同議定書は2005年2月16日に正式発効する。
なお、京都議定書の批准をすませた国は128ヶ国(2004年11月18日現在)。うち、批准手続きを済ませた附属書I締約国は日本を含めて36ヶ国で、その1990年のCO2排出量は附属書I締約国全体の61.6%を占める。
【参考】京都議定書
第23講「時評1 京都議定書発効確定と炭素税の行方」
【2】第10回気候変動枠組条約締約国会議(COP10)
国連気候変動条約事務局(UNFCCC)COP10のページ
EICネット>国内ニュース「COP10が閉幕 適応策に関する行動計画など採択」
COP10概要(環境省報道発表資料)
全国地球温暖化防止活動推進センター
【3】COP11とCOP/MOP1
気候変動枠組条約の次回会合である第11回締約国会議(COP11)は、2005年11月7日〜18日に開催される。開催地は未定で、2005年前半にホスト国を募ることになっており、申し出のない場合はドイツ・ボンでの開催となる。同期間に、京都議定書の批准国で開く第1回締約国会合(MOP1)が併催される。
COPとCOP/MOPは国際法的に異なったアジェンダだが、COPの補助機関会合(SB)が京都議定書のSBとしても機能する。暫定的アジェンダはCOP11とCOP/MOP1で別々に準備されるが、SBでは1つの暫定的アジェンダが準備され、条約と議定書の両方の内容が入る。条約と議定書の区別は、アジェンダの中で明確にされる。COPとCOP/MOPの会議は別々に行われるが、関連した議題があれば、締約国の合意のもとに合同で会議を開くこともできる。また、閣僚級会合(ハイレベルセグメント)は合同で開かれる。
【4】ブエノスアイレス作業計画
温暖化への適応(=洪水、干ばつ、海面上昇に伴う堤防建設など気候変動による影響への対応策)に関する5か年行動計画「適応策と対応措置に関するブエノスアイレス作業計画」のこと。
Buenos Aires programme of work on adaptation and response measures (409 kB)
【5】循環型社会に向けた3つのシナリオ
平成14年版 循環型社会白書
【6】超楽観的な技術要素について
核融合炉
高速増殖炉
メタンハイドレード
【7】【参考】各自治体の総合計画等について
知恵の環 地域環境行政支援情報システム
【8】市民のための環境学ガイド(時事編:2004年版)
シナリオ・低エミッション都市
【9】平成17年度税制改正大綱(平成16年12月15日)
自民党HPより
【10】炭素税(環境税)論争に対するキョージュの見解
第23講「時評1 京都議定書発効確定と炭素税の行方」
【11】惨身痛い改革
第23講
【12】県職員への国の職員の対応について
第11講
【13】環境庁役人の接待について
第15講 「地球にやさしく」の陥穽
【14】国立公園管理と都道府県
第23講
【15】シマシステム
第21講
【16】環境ホルモン騒ぎと、研究者への注文
第23講
【17】白保の漁民と漁業権
第17講「新石垣空港をめぐって」
【18】中西先生の生態系リスク論について
第23講
【19】タガメやメダカも種それ自体は絶滅していないが、今ではほとんどみることがなく絶滅危惧種になっているという事態はやはり健全といえない...
第23講

(平成16年12月25日 執筆完了 平成17年1月6日 編集完了
参考:「H教授のエコ講座 独断と偏見の地方環境行政論」(「瀬戸内海」第38号(瀬戸内海環境保全協会04.6))
註:本講の見解は環境省およびEICの公的見解とはまったく関係ありません。