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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.050

Issued: 2007.03.08

第50講 第50講「我、疑う故に我あり ──反温暖化対策論考」

目次
ベトナム旅情
ついに到達、50講!
都知事選 ―二人の環境庁OB
我、疑う故に我あり―「水伝」ブーム
温暖化を疑い、反温暖化対策論を疑う
もし地球が寒冷化したら…
テキストテキスト
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ベトナム旅情

Aさんセンセイ、今年の“人妻”との旅【1】はベトナムだったらしいですね。どうだったんですか。

H教授(疲れた表情で)ホーチミン市に着いてから突然の下痢に見舞われて、今も完全には止まってないんだ。

Aさんいやしく食べあさったからじゃないですか。

H教授う、うるさい。ま、確かにベトナム料理は美味かったけどな。

Aさんそもそもなんでベトナムに行こうなんて思われたんですか。


H教授ボクの学生時代はベトナム戦争の時代だった。貧しい小国でありながら、フランスを破って独立を果たし、その後のベトナム戦争でついに強大な米軍を打ち破ったベトナムという国に昔から興味があったんだ。

Aさんで、行かれてどうだったんですか。

H教授解放戦線が活躍していた頃に抱いていたベトナムのイメージとの落差が大きすぎて戸惑ったなあ。

Aさんというと?

H教授昔は質素で清潔で勤勉な農業国というイメージがあったんだけど、とにかくハノイもホーチミンもクルマとバイクの洪水だ。歩道はバイクや屋台に占領され、信号も少なくて、交通マナーは最悪だから、道路を歩いて横断するのがなによりも怖かった。交通事故も3回見たし、人口当たりの交通事故の死者は日本の数倍。あれほど都市化が進行しているとは思わなかった。

Aさん交通公害大気汚染が心配ですね。

H教授うん、同じ社会主義国でもクルマが極端に少ないキューバとは大違いだったなあ。
貧しいなりに、すごいバイタリティは感じたが、そのバイタリティを生み出すモチベーションが経済的な豊かさへの渇望のような感じが拭えなかった。
ガイドさんと話をしても、とにかく若い人たちは政治とか国家とか地球環境とか、公的なものへの関心は乏しそうだった。
それに土地や建物や生産手段の私的所有はドイモイ政策の結果、事実上フリーになったから、基幹産業に占める国営企業の率が高いというだけで、そもそもどこが社会主義なのかがわからない。社会主義を名乗る政党の独裁が政治的に行われているだけの資本主義国じゃないかと思っちゃった。
都市対農村、高齢者対若者の矛盾対立も日本以上じゃないかな。
かつてのベトコンの老いた戦士たちは、今のベトナムをどう見ているのかなあなんてふと感じてしまった。


Aさんじゃあ、ベトナムが嫌いになったんじゃないですか。

H教授いやあ、でもアオザイに身を包むベトナム女性は清楚だけど官能的だったから、前にもまして好きになった。ま、そういう女性はレストランや観光施設でしか見なかったけどね。あ、田舎では中学生や高校生の制服が白いアオザイで、清々しかったなあ。
それにクルマや電化製品は日本製が圧倒的に人気が高いらしく、日本との合弁企業も随分みかけたから、なんとなく親しみが持てた。
戦争の爪跡は表面上ほとんど感じられなかったけど、ある土産物屋のそばで多くの若い女性が刺繍しているのを見たら、全員が障害者だった。枯葉剤が多くの障害者を生んだんじゃないかな。他にも手足を失くされたお年寄りを何人もみたから、社会の深層ではまだまだあるんだろうねえ。
ま、しょせん、数日だけの無責任な旅人の印象だけど。

Aさんベトナムの環境政策としては、何が重要なんでしょうか。

H教授国土計画、そして緊急なものとしては交通政策だな。あのバイクの群れが経済成長とともに乗用車に代わったら、都会は完全にパンクしてしまうな。国土の長期ビジョンと土地利用政策をドッキングさせ、その一環として公共交通の充実や交通規制の強化とそれに関するインフラ整備を真剣に考えなきゃいけないんじゃないかな。
日本もODAでいろいろやっているみたいだけど、米仏はもっと力を入れる責務を負っていると思うなあ。

ついに到達、50講!

Aさんところでセンセイ、今回はいよいよ50回目ですよ、50回。満4年。いやあ、よく続きましたねえ。

H教授そうだよねえ。これも読者のおかげなんだけど、不思議だねえ、キミは大学こそ卒業したもの一向に大学院を卒業する気配のないまま、こうして居座り続けている。一体、いつになったら修士論文を書きあげて社会に出ていくんだ。
それに50回、4年間も続けてきたうちに、キミの顔にも小皺が目立つようになったぞ。


Aさん(憤然として)悪かったですね! センセイはその間に還暦を迎えて、歯は3本抜けちゃうし、まもなく4本目がお陀仏確実。糖尿病と高血圧の予備軍から正規軍に昇格しちゃうし、山登りをしても膝にガタがきて降りられなくなっちゃう。今年に入ってからは腰痛に悩まされるようになったし…。

H教授(遮って)わかった、わかった。小皺は取り消すから、もうそれ以上は勘弁してくれ。

都知事選 ―二人の環境庁OB

Aさんところで都知事選に浅野サンが出るそうじゃないですか。これでおもしろくなりそうですね。

H教授うん、どちらも環境庁、現・環境省と縁のある人物だ。ある意味じゃOBだ。

Aさんえ? そうなんですか。

H教授うん。シンタロー氏はかつて環境庁長官をやっていたことがあった。一方の浅野サンも、ぼくがえびの高原【2】でレンジャーをしていた頃に自然保護局(当時)の法令担当の係長をしていた。

Aさんえっ? じゃあ、どちらも面識はあるんですか。

H教授どっちも顔を見たことがある程度だけどね。


Aさんへえ、じゃ、どちらを応援するんですか。

H教授ボクがどっちを応援しようが、…
(以下、キョージュの都知事候補評がありましたが、編集部判断により、あえて伏せさせていただきますことをご了承ください)。

Aさんさ、ぼちぼち本論にいきましょうか。
えーと、前講以降の主だったできごとですが、法律関係では食品リサイクル法改正案と温泉法改正案がまとまって、国会へ提出されるそうです。
SEAのガイドラインがまとまりパブコメにかけたという話もあります。
それから自動車NOx・PM対策の今後の方向についての審議会の意見具申も出されました。また、環境省と国立環境研究所が中心になった「2050日本低炭素社会プロジェクトチーム」が40年後にはCO2の7割削減が可能って発表をしました。
一方、自然の分野では自然公園法50周年を迎えて指定及び管理運営のあり方についての検討会の提言がまとまったそうです。
今回はどれを取り上げますか。

今月の環境行政時事問題

1)食品リサイクル法改正案
2)温泉法改正案
3)SEAガイドラインのパブコメ募集
4)自動車NOx・PM対策に関する審議会意見具申
<自動車NOX・PM法>
5)2050日本低炭素社会プロジェクトチーム発表
<日本低炭素社会プロジェクトチーム>
6)自然公園の指定及び管理運営のあり方について

H教授ひぇえ、そんないっぱいあるのか。今回はベトナムから帰ったばっかりだから、パス、パス。50回記念ということで、もっと気楽な漫談でいこう。

Aさんもう、そうやってすぐさぼろうとする。

我、疑う故に我あり―「水伝」ブーム

H教授うるさい。ところでキミ、「水伝すいでん」って知ってるか。

Aさん人を馬鹿にしないでください。幼稚園児だって「田んぼ」ぐらい知ってますよ。

H教授いや、水田じゃないんだ。江本某の書いた「水からの伝言」の略で、同工異曲のフォトエッセイのようなものが何冊も出ているんだけど、数年前から秘かなブームになっているらしい。

Aさんあー、水にきれいな言葉をかけると、雪になるときにきれいな結晶ができるけど、汚い言葉をかけると壊れた結晶しかできないという例のトンデモ本ですね。
道徳の授業で使われているって問題になりましたね。センセイ、読んだんですか。
マサカ、信じているんじゃないでしょうね。


H教授お、よかった、よかった。その言い方だとキミも少しはマトモなんだな。

Aさん当たり前じゃないですか。それがどうかしたんですか。

H教授いやあ、ボクは数年前行きつけの歯医者の待合室でぱらぱらと見て、詐欺まがいの新手の宗教かオカルト商法だと思ったんだけど、最近ちょっとショックなことがあった。

Aさんどうしたんですか。

H教授「あの本を読んで、マジで感激した」って言うゼミ生がいて、気になって加入しているmixiのレビューを見てみたら、大学生のコメントが600近くもあって、実にその95%がもろ感激しているんだ。

Aさんへえ、まあスナオっていえばスナオなんですね。アタシやセンセイみたいにひねくれてないんだ。

H教授だって常識じゃありえないことだろう。だったら、どうしてまず「疑う」ってことをしないんだ。だから前講の「あるある」でも簡単にだまされちゃうんだ。
マイナスイオンがどうだとか言われるとすぐ信じ込んでしまう。今じゃ大手電機メーカーまでがマイナスイオンなるものを商売に使っちゃう。
EM菌なるものだってそうだ。生ゴミの堆肥化に際して有効なのは事実だろうが、「EM菌が地球を救う!」みたいなEM菌万能論者になっちゃうと、有害無益だ。
俗悪な麻原某に帰依したオウムの若者をみんなが嘲笑ったけど、本当に嘲笑えるのかどうか心配になってくる。

Aさんま、活字になって、しかも一見実験結果らしきものが写真であったりすると信じちゃいがちですもんね。

H教授卒論でもそうだけど、本や資料に書いてあることをそのまま信じ込んでいて、文献批判、資料批判がまるでできていない。「我、疑う故に我あり」くらいのパッションを持ってほしいね。

Aさん文献批判、資料批判ってどういうことですか。

H教授捕鯨問題を考えてみよう。
クジラはオキアミを食べるというけど、それだけではなくて、実は大量の魚も捕食している。捕鯨を禁止し、クジラが増えた結果、今じゃ人類の消費量の何倍も食べていて、海洋生態系を破壊している。だから、捕鯨を再開して健全な海洋生態系の復元をすべきだ──これは日本の水産庁の主張【3】なんだけど、卒論でもこういう主張を鵜呑みにしてしまい、捕鯨再開論無条件支持みたいなってしまうことがある。

Aさんということは水産庁の主張はウソだってことですか。

H教授ある種のクジラは増えたこと、そして大量の魚を捕食しており、そのため漁獲量が減っている状況も出現していることは事実のようだ。

Aさんじゃあ、水産庁の主張はもっともなんじゃないですか。センセイは捕鯨再開に反対なんですか。

H教授これは前にも言ったことだけど、ぼくはどちらかというと消極的賛成派なんだ【4】。だけど、この水産庁の言い方はやはり正当化しすぎだと思うな。
だって、クジラが大量の魚を捕食して魚が減れば、今度はクジラの方が自然の摂理で頭数が減ってくる。クジラの頭数が減れば魚の方が今度は増えてくるのというのが本来的な自然の姿で、健全な海洋生態系の復元のために捕鯨をするなんていうのは、傲慢そのものだと思うよ。
クジラが減らない範囲内で捕鯨をするのはヒトの生存、食糧確保のためにやむをえない殺生だということで留めておくべきだと思うよ。

Aさんそれと文献批判、資料批判とどう関係するんですか。

H教授つまり日本側の捕鯨再開論の文献、資料ばかり読んでいるうちに、いわば洗脳されてしまう。別に結論として捕鯨再開論を支持するのはいいんだけど、疑うことはいっぱいあるはずだ。例えば、日本の遠洋捕鯨が一時期クジラ類──特にナガスクジラ類──の激減に影響を及ぼしたんじゃないとか、イヌイットの原住民生存捕鯨の延長に日本が反対したのはIWCで捕鯨再開が否決された報復だったのではないか、またそれは妥当だったのかとか。
まあ、こういう対立する見解がある場合には、できるだけニュートラルに、予見を持たずに両方の資料を読みこみ、そして両方とも疑い、自分のアタマの中で徹底的に咀嚼することが必要だと思うよ。だからこそ、スキルとしての英語力が必要なんだ。


Aさんそうか、捕鯨再開反対論なんてのは読もうと思うと、基本的に英文ですもんね。でも、センセイ、学生にそんなこと言っておきながら、ご自分はほとんどというか、まったく英語文献なんて読まないじゃないですか。

H教授(じろっと睨んで)読めないから仕方ないじゃないか。その代わり、鵜の目鷹の目でおかしいところはないかと疑いながら日本語文献を読んでるよ。

温暖化を疑い、反温暖化対策論を疑う

Aさんでも、センセイ、だったら「地球が温暖化している」ことだって疑わなきゃいけないことになりますよ。

H教授そうだよ。一度は疑い、自分でいろんな資料を当たって、自分で判断することが必要なんだ。温暖化だってそうだ。
80年ごろに温暖化問題が米国から輸入された頃には、カナダとの酸性雨問題で窮地に追い込まれた米国、特に酸性雨の加害者とされたD社が、酸性雨問題など大したことのない小さい問題だと言わんがために温暖化問題をでっちあげたんだという陰謀説が環境庁の中でも囁かれていたぐらいだ。
ま、温暖化が本当かどうかということと、その政治的利用とは分けて考えるべきで、温暖化は本当だったけど、それを米国やD社が政治的に利用するという側面があったのは事実だと思うよ。
今だって、石油業界と原子力業界とじゃあ、温暖化対策をめぐる意見は真っ向から食い違うことになって当然だろう。
第12講(その2)でも、温暖化への異論反論の話をしたけど【5】、ネットで探せばいろんな反温暖化対策論者がいるから、彼らがどういうことを言っているかを知っておくことは必要だと思うよ。
池田信夫氏や田中宇氏のブログだとか、あるいは「2ちゃんねる」の温暖化板とか、いろいろある。
ただし、重要なのは、温暖化説を疑う以上に、こうした反温暖化対策論者の説も疑わなきゃいけないということだ。


Aさん反温暖化対策論というのはどういうことですか。

H教授反温暖化対策論者にもいろいろいる。
最初に温暖化否定・懐疑論者がいる。温暖化なんて起きていないだとか、起きているかどうかわからないってわけだ。

Aさんえー、どういう論理ですか。だってグラフをみれば一目瞭然じゃないですか。

H教授反温暖化対策論者で経済学者の池田信夫氏の1月26日付けと2月2日付けのブログ記事に対して、それぞれこんなコメントの書き込みがあった【6】
「ほんとに地球温暖化なる現象があり、その原因のほとんどが人間活動によるものであることが事実ならば、それを回避する行動も必要でしょうが、そもそも地球温暖化なるものからして恣意的な統計によって作り出されているフィクションである可能性が極めて高い」(1月26日付けのブログ記事に対するコメント)
「地球上の「点」で観測された気温の平均値で温暖化を論じるのが如何に間違っているかは、物理のセンスがあればすぐわかることです」(2月2日付けのブログ記事に対するコメント)
池田氏自身は人為により温暖化していること自体は認めていると口先では言ってるんだけど、そういう彼の記事に対して、こんなコメントがいっぱい書き込まれているんだ。


Aさんなんですか、それ。前のものは恣意的な統計だという根拠を何も言ってないし、後のやつはまるで意味不明じゃないですか。だったら、“物理のセンスがある人”は温暖化しているかどうかをどう判断するのかを言わなきゃ。これじゃあ何も言ってないのと同じじゃないですか。

H教授ま、IPCCの第二次報告書の頃は温暖化そのものへの懐疑論が結構あった。年ごとの温度は太陽や地球の変動で揺らぐから、去年より今年の方が寒いことなんかいくらでもある。だから長期のトレンドがどうかということになるんだけど、そうなるとデータの取り方とか信憑性だとか統計処理の方法をめぐって異論もあった。
今じゃあ研究者でこういうことをいう人は姿を消したけど、さっきの書き込みのようなことをいうやからは後を絶たない。
でも矛盾のない温暖化否定論を組み立てることは今でも可能だよ。

Aさんえ? 例えば?

H教授温暖化を主張する科学者やマスコミはすべて温暖化を捏造する秘密結社に属していて、データを偽造し、皆を騙しているという陰謀論を唱えることは可能だろう。
先ほどの書き込みのうちの前者はまさにこういうことを主張しているんだろう。

Aさんそんな馬鹿な。

H教授国際情勢解説者だという田中宇氏なんかも温暖化否定論者で、その類の陰謀説をぶってるよ【7】
氏の温暖化否定論は、安井至先生がブログで反論されておられるから、そちらを参照してほしいけど、面白いのは陰謀説の方だ。
氏によると、温暖化危機説を煽っているのはイギリスのブレアさん。彼は米国を陰で操って世界を米英覇権のまま存続させようとしていて、その最大の武器が温暖化問題の政治的利用ということらしい。


Aさん米英覇権のために温暖化対策をやろうとしているというんですか。そんなバカな。だったらなんでブッシュさんは温暖化対策に後ろ向きなんですか。

H教授ブッシュさんは米国の覇権など重荷だから、脱ぎ捨て身軽になって国際資本のもとで金儲けに勤しみたい勢力の代表だそうで、だから米国覇権をつづけさせられる温暖化対策などやりたくないんだそうだ。

Aさん冗談でしょう。ブッシュさんのイラクでの遣り口なんか見ていると、米国の覇権主義そのものじゃないですか!

H教授世界は米国の覇権を簡単にやめさせてくれない。だから、あえて失敗確実なイラク政策を選択したそうだ。そうすれば世界は米国を見捨てて身軽になれるそうだ。氏によるとブッシュさんやネオコンは「隠れ多極主義者」だそうだよ。

Aさん(目をシロクロ)

H教授論理のアクロバットもここまでくれば芸だね。
ま、いろんな複雑な仮定やありえない仮定をいくつも置けば温暖化否定論を組み立てるのは可能だけど、そんな仮定を置くよりは、現に温暖化しているということを認めた方が、よほど合理的だよね。こういう考え方を「オッカムの剃刀」という。

Aさんまた意味のない雑学が出てきた。

H教授うるさい。これは科学哲学上の重要な概念なんだ。つまり、必要以上に複雑な仮説を立てて説明するよりも、単純な仮説で説明できることの方が正しいことが多いという経験則のことだ。
一方で、懐疑論者とは逆に、なんでもかんでも温暖化に結びつける論者もいる。都会で熱帯夜が増えたのも温暖化のせいだなんていう論法がメディアなどでも結構まかり通っていて、こういう「なんでも温暖化論者」の存在が、かえって懐疑論者につけこまれる原因にもなっている。


Aさんだって熱帯夜の増えたのはヒートアイランド現象のせいでしょうけど、温暖化の進行も少しは寄与しているんじゃないですか。

H教授寄与しているったってごくわずかなんだから、ここで温暖化を騒ぎ立てることはヒートアイランド現象の真犯人を隠蔽する役目を負うことになるじゃないか。

Aさんなるほどねえ。で、温暖化否定・懐疑論以外には?

H教授温暖化自然現象説がある。温暖化は起きているけど、それは太陽の磁場の変化だとか地球内部の脈動が主因だといった説だよね。
第三次報告書の頃には温暖化懐疑論者は影を潜めたけど、こういう論者は今でも後を絶たないみたいだ。やがて公表される第四次報告書第一作業部会の本文にはそれに対する詳しい言及があると思う。

Aさんこの説はセンセイどう思うんですか。


H教授ボクは素人だから、全否定はできないし、科学は多数決で決めるものじゃないけど、直感的におかしいと思えることの傍証がある。

Aさんそうですよねえ。だって温室効果ガスが産業革命前から40%も増えているんですもんねえ。

H教授それは傍証とはいえない。それは温暖化の原因じゃなく、自然現象としての温暖化の結果だという説を彼らは唱えているからね。詳しい理屈は忘れたけど。

Aさんへえ? そういう屁理屈もあるんですか。じゃあセンセイの言う“傍証”ってなんなんですか。

H教授産業界は総じて──原子力業界を別にすれば──、温暖化対策なんて歓迎しないはずだし、現に環境税の導入や国内排出権取引制度の構築に猛反対しているよねえ。
だとすれば、この説に見込みがあるのなら、産業界がこういう説のスポンサーになってどんどん研究費を出して、学会誌などで研究発表していけばいいじゃないか。なのに、まったくそうはなっていないということが、この説がピント外れだという最大の傍証だと思うな。

Aさんなあるほど。あとは、温暖化そのものは認めるけど、温暖化対策は否定する立場の人たちですね。

H教授温暖化は人為的な原因で起きているのは事実だが──いかにも口先だけって感じがありありなんだけど──、対策は不要だという論者だ。
日本ではネットが中心だけど、アメリカなんかじゃこういう立場にたつ大衆ジャーナリズムが結構あるらしい。読んだことはないけど。

Aさんセンセイ、コトバづかいは正確に。「読めないけど」と言わなくっちゃ。

H教授う、うるさい。
で、これにはいろんなバリエーションがある。
いつだったかプーチンさんが「わが国は寒い国だから温暖化は歓迎だ」と言ったことがあるし、農業生産にはいいところだってあるだろう。つまり温暖化のプラスマイナスを計算すればマイナスにならないという説がその一つだ。

Aさん温暖化好影響論ですね。他には?

H教授マイナスはマイナスだろうが、たかだか2度や3度上がるくらいだったら、それほど大したマイナスにはならないという温暖化軽視論者もいる。
全球平均で2〜3度ということは、影響を著しく受ける地域では5〜6度も上がることだってあり得るということに気づいてないのか、わざと無視しているのか、それが日本じゃなければそれでいいと考えているのか知らないけどね。
あとはどんな排出抑制対策を取ったって、温暖化を高々数年遅らせるぐらいの効果しかない。それくらいだったら悪影響が現に出だしてから堤防を築くだとかの「適応策」を打てばいいし、排出抑制対策に必要な巨大な経費を、新エネルギーの技術開発や途上国が緊急に必要としている貧困対策だとかに充てた方が費用対効果がいいという有象無象のロンボルグ【8】信者が山ほどいて、最近の反温暖化対策論はこちらが主流のようだ。
中には温暖化など大した問題じゃないが、原油が枯渇すれば大変だから、省エネルギーをもっと進めるべきだし、そのために炭素税をとるべきだなどという論者もいて、まったくバラバラだな。


Aさんじゃあ、反温暖化対策論者にもいろんな考え方があって、彼らは彼らの間で百家争鳴というか、内ゲバしているんじゃないですか。

H教授はは、それが普通だよね。ところが不思議なことにボクの見た範囲内では、反温暖化対策論者間ではまったくそういう論争などないみたいだ。「温暖化を煽る環境省とメディア憎し」「京都議定書ナンセンス!」でお互いにエール交換しているみたいだから、あきれちゃうよ。

Aさんふうん、でもIPCC第一作業部会報告が承認されたり、スターンレビューが出されたりしたんだから、彼らの命運は尽きたんじゃないですか。

H教授いやあ、余計に意気軒昂みたいだぜ。年内には温暖化の影響などについてのIPCC第二作業部会の報告書が出るはずだけど、そうなればもっと盛んになるかもしれない。
ただねえ、ボクらが考えなくちゃいけないのは、こういう雑多な反温暖化対策論者がネット世界でかくも跳梁跋扈しているのはなぜかということだ。
ひょっとすれば産業界や経済官庁だけでなく、われわれ国民自体が、温暖化など起きていないかもしれないし、起きたとしても大した問題じゃないんだと思い込みたい気持ちがどこかにあって、それが反映しているんじゃないかなあ。
いずれにせよ、温暖化問題が典型的だけど、さまざまな社会的な問題は、はじめに予断というか結論ありきでスタートし、そのための都合のいいデータだけ集めれば、どんな結論でも出せちゃうようなところがあるということを忘れちゃいけない。


Aさんはいはい、十分心します。

H教授キミの場合はオトコの問題だってそうだ。はじめに予断を持ってしまい、それに合う面しか見ようとしないと、最後は悲劇が待っているんだということを忘れちゃいけない。

Aさんいえいえ、ワタシの場合はもはや悲劇じゃなく茶番劇【9】ですから(軽くいなす)。

もし地球が寒冷化したら…

H教授ところで一つキミに聞いておこう。
自然現象として地球が周期的に寒くなったり暖かくなったりすることがあるよね。
短い現象で言えば例えばエルニーニョ、ラニーニャだとか北極振動とか言われているものだ。
何千年、何万年とかいう長期の単位になれば、氷河期だとか間氷期だとか言われるような事象がある。
IPCC第一作業部会の報告では、ここ数十年は長期の自然現象としての温暖化・寒冷化は顕著なものは認められていないし、これからも数百年のオーダーではそうしたことはないみたいだけど、もし、遠い将来、自然現象として地球が寒冷化する、つまりこれから氷河期に向かうことがはっきりしたら、ヒトはどうしたらいいんだろう。


Aさん化石燃料をどんどん使い温室効果ガスを人為的に出して、寒冷化をストップさせるべきかどうかということですか。そんな現実性のない話をしたって仕方がないじゃないですか。自然現象としての寒冷化と人為の温暖化とじゃあ、そもそも進み方の時間の単位も違うでしょうし。

H教授そりゃそうなんだけど、一方じゃ、遠い将来海洋大循環がとまって急激に寒冷化するかもしれないなんて話もあるから【11】、あえて思考実験として聞いているんだ。

Aさんうーん、寒冷化がストップできるんならいいんじゃないですか。

H教授つまり寒冷化をストップさせるためには、積極的に温室効果ガスの人為的な排出をするべきという説だな。

Aさんセンセイは違うんですか。

H教授万一、数十数百年という短期間で急激な寒冷化が自然現象として起こるんなら「適応策」は必要だろうが、それでも人為的に大気の組成を変えるようなことは、例えできたとしてもするべきじゃないというのがボクの立場だ。
多分、そのときは圧倒的少数派になっちゃうだろうと思うけどね。
どちらが正しいというのじゃなくて、価値観の問題かも知れないけど、人為でそこまでやるのはヒトの傲慢だと思うし、思わぬ副作用―それも激甚な──があるかも知れない。
もっと大自然に対して謙虚であるべきだと思う。

Aさんふふ、センセイは教え子に対してもっと謙虚であるべきだと思いますけどね。


注釈

【1】“人妻”との旅
【2】えびの高原
【3】捕鯨問題と水産庁の見解
【4】捕鯨に対しては、消極的賛成派のキョージュ
【5】温暖化 異論反論
【6】反温暖化対策論者・池田信夫氏のブログ記事
【7】国際情勢解説者・田中宇氏の温暖化陰謀説と、安井至先生の反論
【8】ロンボルグ
【9】もはや悲劇じゃなく茶番劇…
【10】海洋大循環の停止と急激な寒冷化の可能性

(平成19年3月4日執筆、同年3月6日編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。