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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.037

Issued: 2006.02.02

第37講 新春呆談

目次
惨点セット ──耐震偽造、牛肉、そしてホリエモン逮捕!
豪雪
温暖化問題の行方
またまたアスベスト
容器リ法見直し決着!
来年度予算案と環境政策の新たな動向
空港、食う幸
超長期ビジョン検討開始

惨点セット ──耐震偽造、牛肉、そしてホリエモン逮捕!

Aさんとうとう昨日、ホリエモンさんが逮捕されちゃいましたね。もうおしまいでしょう。

H教授昔から違法すれすれの投機や詐欺みたいな手口で金儲けする連中はいたけど、世間では顰蹙を買っていた。それがITと結びつくと、なんとなく時代の寵児みたいに扱われてきたきらいがある。コイズミさんが選挙にかつぎだし、武部サンにしても竹中サンにしてもホリエモンを新時代の旗手だともてはやしちゃったもんな。
ま、ホヤホヤのニュースだから、もう少し様子を見てからものが言いたかったんだけど、ボクが気になるのは、ホリエモンだとかそのエピゴーネンみたいな連中ってのが、傲岸で怖いもの知らずの「恐るべき若者」なのか、それとも裏に外資系とかなんとかの黒幕みたいなのがいて、単なる猿回しのサルに過ぎないのかという点。そしてもう一つは、検察は淡々と違法行為を摘発しただけなのか、なんらかの政治的、社会的な意図があったのかという点だね。
ま、コイズミさんの“カイカク”とやらが、第二、第三のホリエモンを生み出さなきゃいいけどね。


Aさんセンセイ、ホリエモンさんが若いくせに途轍もないお金持ちで、しかもアイドルタレントと浮名を流しているから嫉妬してるんでしょう。

H教授つまらん茶々を入れるな(図星を突かれて不機嫌に)。
とにかくライブドア=ホリエモン問題で前代未聞の東証ストップ。もう片一方の主役、耐震強度偽装事件【1】でも怪しげな人物が続々登場、政治家との癒着も明るみに出つつあって、これも大問題。さらに米国産牛肉の輸入を解禁したばかりだというのに、さっそく特定危険部位の背骨の混入が発覚してあっという間に輸入ストップに追い込まれた【2】
この惨点セットで、さしものコイズミ・フィーバーも陰りを見せてきたね。
郵政民営化会社発足【3】なんてニュースもすっかり霞んじゃった。

Aさんホント、年が明けてまだ一月だというのに、いろいろありますねえ。

H教授うん、牛肉問題だけど、あれじゃほんとうに日本を舐めきってると思われても仕方ないよね。牛肉問題はここへ来て、リスク論の問題じゃなくて、日米関係いかにあるべきかという政治の問題になっちゃったね。
今のところ米国はやけに低姿勢だけど、そのうち居直るんじゃないか、心配だな。

豪雪

Aさんそれはそうと、センセイ、この冬は豪雪で大変ですねえ【4】。多くの地点で最大積雪量を記録したり、孤立した集落が出たりで。

H教授うん、寒さの方も相当なもんだ。暖冬という予報はすっかり外れた。

Aさんやっぱり温室効果ガスのせいなんですか?

H教授さあ、北極振動指数がマイナスだとかいうのが原因だというけど【5】、問題はなんでマイナスになったかだよねえ。温室効果ガスの増加と関係あるという人もいるようだが、ボクにはよくわからない。

まあ、いずれにせよ気象予報【6】というのも一筋縄ではいかないねえ。

Aさん雪かきや屋根の雪下ろしで多くの人が亡くなられました。

H教授うん、謹んでお悔やみ申し上げよう。
山村には若者がいなくなりお年寄りだけというところが多いけど、雪かき・雪下ろしというのは重労働なんだ。ボランティアの希望者も多いらしいけど、ずぶの素人じゃあ難しいし、危険だからねえ。

Aさんへえ、センセイ雪かきしたことあるんですか。

H教授そりゃそうさ。もう40年近く前だけど、岐阜県の平湯温泉というところで中部山岳国立公園レンジャーとして二冬過ごした【7】。12月から3月まで雪に閉じ込められ、毎朝、新聞を取りに行くのにバスターミナルまでの200mをラッセル【8】しなくちゃいけなかった。時々、屋根からドサッと雪が落ちるのがおっかなくて、へっぴり腰で雪かきしたよ。

Aさん自治体も除雪の予算をすでに使い果たしたようですねえ。

H教授うん、先日ある自治体の人が来てぼやいていた。自治体じゃあ、建築確認の部局は、例の姉歯・耐震強度偽装事件で大変らしいし、アスベスト問題でもそうらしい。豪雪でもそうだよねえ。
政府も自民党も民主党も、総論では小さな政府、小さい政府って騒いでいるけど、各論になると、途端にあれもこれもとなって、もうへとへとだと言ってた。
だいたい日本は役人の人数だけから言えば世界きっての小さな政府なんだ。これ以上、“小さな政府”ったってムリだよ。

Aさんところで今年の環境行政の見所はなんですか。


温暖化問題の行方

H教授第一は、やはり温暖化問題だろうなあ。第一約束期間はもう目前だけど、京都議定書の削減目標達成に向けてどういう新たな対策が取れるか、第二約束期間に向けての対話がどうなるか、第二約束期間の日本の対応はどうするのか、それから自主参加の排出量取引のモデル制度はきちんと機能するのか。問題は山積みだねえ。

Aさんやはり日本のスタンスには、ブッシュさんの意向が大きく影響するんですかねえ。

H教授はは、まさか。いくらコイズミさんでもそんなことはないさ。産業界や一部の省庁では米国の反温暖化対策に期待している向きがあるかもしれないけどね。
でも、米国の底流をよく読まず、いつまでもブッシュ政権頼みだと、ダメだと思うよ。ブッシュさんはレイムダック化しつつあるという話もあるし、米上院でもかつては京都議定書批准反対というバード決議が満場一致で可決されたが、最近では温室効果ガス排出抑制を求める超党派のビンガマン・ドメニチ決議が昨年6月に可決された【9】。州や自治体でも動きつつあるんだ。

Aさん環境税はどうなるんでしょうか【10】

H教授ポスト・コイズミ次第じゃないの。その前に例の道路特定財源の一般財源化だとかの特会問題【11】がきちんとケリをつけられるかだね。

Aさんでも、なんだかんだいってもコイズミさんって人気あるし、支持率も高いじゃないですか。ほんとうに続投はないんですか。

H教授ないと思うよ。現在の財政赤字状態からいって、次期内閣は消費税増税問題に直面するのは必至だろう。だからこそ続投したくないんじゃないの。ま、次期内閣がいやなこと──消費税増税── を片付けてくれて、それで不人気になって退陣したあとカムバックという話はあるかもしれないけど。これは大学で同級だったクリシン(栗本慎一郎)の説だけど、さもありなんという気がしないでもない。ま、それもコイズミ・フィーバーが続けばの話だけどね。

Aさん週刊誌情報ですね。そういえばセンセイ、いつだったか立ち読みしてましたね。


またまたアスベスト

H教授う、見られてたのか...。
あとはアスベスト新法と関連法改正、そしてアスベスト騒動の行方だね。新法は今国会で決まるだろうし、建築基準法、労働安全衛生法、大気汚染防止法などの改正もなされるだろうけど、今、建材などで蓄積しているアスベストの始末をどうつけるかだ【12】
地方自治体じゃ、公共の建物で含アスベスト建材を使っていることが発覚すれば、片っ端から封じ込めて、次々と撤去していく方針らしい。そのコストは膨大なものになるよ。民間もそれに追随するとなれば、そもそも廃棄物処理ができなくなる恐れさえある。

Aさんどうしてですか。

H教授アスベストの累積使用量は1,000万トンくらいになるんじゃないかな。建材として使われたものでは、すでに取り壊したものもあるだろうけど、かなりの部分は未だに建物中に蓄積されていると思う。加えて、建材以外にも使われている。
撤去した吹付けアスベストは、特別管理産業廃棄物ということになって処理が大変だ。
だが、アスベストはそれ以外にスレートなどに混入されていることが多い。今までは、そうした含アスベスト建材は減量のため破砕してから安定型処分場に捨ててていたんだけど、飛散防止のため破砕ができなくなっちゃった。アスベスト量の何倍、何十倍にもなるというので、処分場が一挙にパンクしそうなんだ。高温で溶融処理するという方法もあるけど、コストがかかるし、エネルギー消費も莫大なものになっちゃうからなあ。


Aさんどうすればいいんですか。

H教授何度も言うけど、今の被害は遠い過去のアスベスト曝露のせいなんだ。
だけど現在のアスベスト濃度は十分に低いから、含アスベスト建材から放出される量は、ほとんどの場合無視し得るものだ。耐用年数が来て解体する場合は厳重にしなくちゃいけないけど、含アスベスト建材だからという理由だけで直ちに封じ込めたり、取り壊したりするのが、そもそもナンセンスだと思うし、解体時にはどんなに慎重にやったってある程度は飛散するだろうから、かえってリスクが大きいと思うな。
そういうことをきちんと説明せずに、すぐ「封じ込め」「解体」ということになれば、そんなにリスクが大きいのかと余計に心配されて、民間の方もそれに追随する恐れがなきにしもあらずだ。
つい先日、下関駅が全焼しただろう? あれだって、もしアスベストを使用していればそう簡単には燃えなかったはずだ。リスクとベネフィットをこういう時こそ、きちんと考量しなきゃいけないと思うな。

Aさんところで第31講から毎回のようにアスベストを論じていますけど、読者の反応はどうなんですか?

H教授3〜40通のお便りがあったよ。「2人の会話の中で私が疑問に思っていることが全て書いてあってとても分かりやすかったです」、「おもしろいし、環境問題素人の私にもわかりやすく読めました。H教授、長生きしてください(激励!)」「アスベスト問題は多くの死亡者が出ていること今後の長期にわたる対策が必要なことからこのような分かりやすい情報提供は貴重と思量します。」というように概ね好評だった。
それから、


アスベストに関して今の会社でもやっており教授と同じような思いでいます。担当では無いのですがこの問題発生により事業として早急に立ち上がりました。精度や教育が不十分なまま仕事だけが山のように来ています。このまま行って某建築士のような問題が起こらなければ良いのですが・・・・心配してるし、そんな会社が嫌になってます。環境大気は特に方法的には簡便ですので手を付ける会社が多いのではないかと思います、ただ結局、職人技のような部分もあり精度という面では難しく、お客様への心遣いなど人間味も出てしまいますのでどうしても・・・・そこに住む人々のことを考えると・・・・実際、自分の近所のアスベスト測定なんかがあったら自分で確かめないと不安ですよ。
思いつくまま、書いてしまい読みにくい点もございましょうがご了承くださいm(_ _)m」

──というのもあった。

Aさんへえ、大好評じゃないですか。

H教授う〜ん、酷評も2通あった。1通は、

H教授自身の経験をふまえての記事は大変興味深く拝読させていただいたが、現場の杜撰な使用、管理状況についてどこまで把握しているか疑問を感じた。また、弁明じみた発言もあって不快に感じた。

──というもの。どのあたりが弁明じみていたのかなあ。

Aさんもう一通は?

H教授これはキョーレツだよ。

今回のアスベスト問題に興味があってH教授を見るのは2回目です。1回目は最初のときで、客観性に欠けるコメントが多いと思いそれからは見ておりませんでした。工場排気の石綿濃度について、82年〜83年の頃には除外施設がついており、集塵されていたとのくだりがありますが、現実には窓などを開いた状態で操業していたでしょうし工場近隣に高濃度のアスベストが流れていたこともあったと想像が容易です。また、現在の敷地上の石綿濃度規制値は10本とのことですが、大人の安静時の呼吸量は8L/分とすると11,520L/日で、1日111,520本のアスベストを吸入することになります。この2点から、H教授の国側的立場で偏ったコメントをされており、これから日本を背負って立つ働き盛りの日本人がばたばたと石綿で死んでいくとも限らない状況を許して良いと言っている本稿は如何なものでしょうか。ご自身に責任のある事柄になると歯切れが悪くなるのですね。公共性のある行政時評には不向きのようですからご担当を変わられては如何でしょうか

環境カウンセラーをされている方のお便りだ。

Aさんひゃあ、イエローカードどころか、レッドカードですね。
センセイ、国側的立場にいるんですって(笑)。

H教授(苦笑)まあ、お便りの当否は読者の判断に委ねよう。でもボクは現在の環境中濃度でこれからの、つまり数十年先の日本人が相変わらずバタバタと石綿で死んでいくなんてことは到底信じられないし、こういう言説こそが問題だと思うけどね。
ところで、話は変わって、ダイオキシンの一般環境中濃度はppt(一兆分の一)どころかppq(千兆分の一)オーダーの超超微量で、ふつうは測定限界をはるかに下回っているんだ。ところが、こんな超超微量でも、1リットルの空気中にあるダイオキシン分子の数を計算すると、結構な数になるという話を、以前、安井至先生(現・国連大学)のホームページで読んだことがあった【13】。もちろん安井先生は、「だからダイオキシンは危ないんだ」という文脈で言われたわけじゃなく、むしろその逆なんだけど、ちょっとそれを思い出したな。
ちなみにアスベストの数は5ミクロン以上の長さの繊維の数で測ってるんだけど、5ミクロン未満の微小繊維の数も含めれば、もう一桁か二桁増えるだろう。
でも、空気は吸うだけじゃなくて同量吐き出すから、ほとんどがそのまま吐き出されて、肺に突き刺さるのはごくごく一部だということ、そしてWHO【14】が1986年に出したコメントでは「世界の都市部ではおおむね1リットル中1本から10本で、その危険性は検出できないほど小さい」としたことも付け加えておこう。
もちろん、一般環境中のアスベスト濃度を現在の100分の1だとか1,000分の1にできれば言うことはないけど、それがどうすれば可能になるのか、ボクには見当もつかない。

Aさんまあ、まあ、そうムキにならないで。
他にはなにかありますか?

容器リ法見直し決着!

H教授これも今朝新聞で見たばかりのホヤホヤの話だ。詳しい内容はまだ知らないけど、容器リ法見直しの決着がついたらしい。環境省、経産省が中環審、産構審の合同部会に出した報告書が了承されて、部会の最終報告書となったみたいだ【15】。自治体と産業界の現行の費用負担割合を見直す話は最後までもつれたらしいが、結局、事業者の負担する再商品化費用の余剰分を両者で折半することで決着がついたようだ。またレジ袋有料化については直接的な法制化は断念して、事業者に発生抑制などの取り組みの実施状況に関する報告の提出を義務付けるのと、そのための指針のようなもののなかで、量販店での有料化を指導するみたいだ。一方、ペットボトルの中国流出問題は、結局これという具体的な解決策は見つからず、新たな仕組みの導入はないようだ【16】
そういう意味では、ささやかな手直しをしたというに留まってるね。
やはり個別法をちょこちょこ手直しするだけでなく、拡大生産者責任を正面から打ち出す抜本的な廃棄物・リサイクル法制の見直し、そしてそれをサポートする税制改正が必要だと思うな。

Aさんそれがやりたくてもできないからこそ、環境省も悩んでいるんじゃないんですか。「色男、金と力はなかりけり」、ですもんね。


来年度予算案と環境政策の新たな動向

Aさんところで、来年度予算案はどうなったんですか?

H教授来年度の政府予算案では廃棄物の交付金制度はなんとか維持できたようだけど、14%カットされるなどで、環境省予算は一般会計ベースでは対前年度で6%カットの2,207億円となった【17】
アスベストのほうは補正予算で各省分すべて合わせると1,805億円だそうだ。


Aさんなにか目新しいものはありますか。

H教授来年度予算案では「水環境保全施策枠組み再構築事業」が新規に計上された【18】。以前言ったように【19】BODCODに代わる新しい水質指標・基準の設定に正面から取り組むみたいだ。
実行ベースではすでに国立環境研究所の研究者を巻き込んでの勉強会が動いているみたいだし、単に予算獲得・消化というのでなくて、本気で取り組むようだ。結果がどうなるかは、わからないけどね。

Aさん大気の方はどうですか。

H教授予算面ではヒートアイランド対策でクールシティ推進事業が大幅に増額された【20】けど、ま、ヒートアイランドの抜本対策を省庁の枠を取っ払ってやる覚悟があるかどうかだね。それこそヒートアイランド防止法でも考えりゃいいと思うんだけど【21】、まだまるで聞こえてこない。
あとはVOC規制がどの程度円滑に動き出すかだね【22】

Aさん他には、水俣病関連で新しい動きが新聞に載ってましたね。

H教授水俣病に関わってきた医師や弁護士が、統一した診断基準を3月までに作成するという記事だね。年明け早々に第一回会合を開いたらしい。水俣病の判断基準のダブルスタンダート状態【23】を解消させるため、環境省に揺さぶりをかけようとしているんだろうけど、環境省サイドの反応がみものだね。

Aさん自然保護関係はなにかありましたか。

H教授特定外来生物の第二次指定が昨年12月に公布され、この2月1日に指定される予定だ【24】。有名なやつではウシガエルが入ってたな。
でもなあ、ウシガエルにしてもアメリカザリガニにしても、どうしてもっとポピュラーな食材にならないのかなあ。どちらも食ったことあるけど、なかなかいける味だったぜ。スーパーなんかで売り出せばいいのに。

Aさんイヤー! 気持ち悪い。

H教授あとセイヨウオオマルハナバチについてもいよいよ指定に向けて動き出したようで、パブコメを開始した【25】

Aさんそれってなんですか?


H教授施設園芸で主にトマトの受粉に利用されている外来の蜂だ。ハウス(温室)の中に放すんだけど、一般環境に出ていって、在来種のマルハナバチを圧迫している。雑種ができたりすると懸念されてもいるようだ。
現実に農家で使われているので、特定外来生物の指定に反対の声もあって、これまで指定を見送ってきたんだ。弱腰だと批判もあったんだけど、それは一定の周知というか準備期間が必要だという判断だったんだろうな。

Aさん小笠原を世界自然遺産にという話もあるそうじゃないですか。

H教授環境省のホームページには出てなかったけど、先日の新聞に出ていたね。年内に地元調整を終え、来年にもユネスコに推薦する方針だそうだ。

Aさん地元調整って、やはり反対があるんですか。

H教授いや、特に反対運動があるとは聞いていないが、どの島を遺産地域にしたいのか不明だし、民有地もあるからなあ。それに空港問題だって、決着がついていない。
あと、小笠原はもっと大きな問題を抱えている。外来種がめったやたら多いんだ。一番の問題はそれをどうするかだろうな。
平成15年に環境省と林野庁が合同で設置した遺産地域の候補地検討委員会【26】でも、3つの候補地の一つとされたんだけど、「外来種対策が緊急に必要」と特にコメントが付けられたくらいだ。

Aさんそんなに外来種が多いんですか。

H教授もう25年くらい前になるけど、ぼくが小笠原に行った時も外来種の大きなマイマイ(アフリカマイマイ)が至るところにいたし、遺棄されて野生化したヤギも多かった。植物でも結構、外来種が多いらしいんだ。
最近の話では、なぜかアフリカマイマイはほとんど見られなくなったようだけど、さらにそれより悪玉の外来種が話題になっているらしい。グリーンアノールという20cmくらいになるトカゲで、これが貴重な小笠原固有種を食べまくっているそうだ。オガサワラシジミなどは絶滅寸前だという話も聞いているよ【27】。小笠原じゃ、アオウミガメを保護、放流する一方で、アオウミガメを使った料理を出しているんだけど、捕獲したヤギやグリーンアノールなんかも名物料理にしちゃえばいいと思うけどね。


Aさんさっきのウシガエル、ザリガニもそうなんですけど、センセイ、よっぽど悪食なんですね。


空港、食う幸

Aさんところで小笠原の空港建設の方はどうなんですか。

H教授あれも石垣空港と同じで二転三転している【28】。
当初は無人の兄島で計画していて、そのために国立公園指定時に予定地を
特別地域から外していたんだけど、自然保護の世論が高まるとついに断念して、父島の山地部の国立公園の特別地域内に予定地を変更。その後、ここも保護問題から断念した。現在は山麓の軍用機飛行場跡など、自然保護上の問題が少ないところを考えているみたいだ。
小型の旅客用飛行機を就航して、伊豆諸島のどこかで中継してくるとか、小型でも航続距離の長い機種を選定して、短い滑走路の飛行場を造ればいいと思うんだけどね。

Aさんなんで、そういう選択をしないんですか?

H教授さあ。ただ、名機と言われていた国産の小型旅客機「YS11」も、今や製造されなくなっているのに加えて、観光需要を満たすにはある程度の大型の飛行機の就航が望まれるんじゃないかな。
でも、観光のために自然環境を破壊するのは止めるべきだ。住んでいる人たちのことを第一義にした航空路線が開設できればいいと思うんだけどね。数十時間の船旅も乙なものだけど、住民にしてみたら定期航空便は悲願だろうからな。

Aさん今、その話はどこまで進んでるんですか? 石垣空港の方はもうアセスも終わったって聞いていますが。

H教授さあ、知らない。今度聞いてみるよ。
しかし空港問題はどこも大変だな。反対を押し切ってつくった神戸空港は2月開港だけど【29】、どうも当初の予想──というより願望──通りにはならず、大赤字になる気配が濃厚だし、辺野古の話も自治体から新しい案が出てきていて、多分、新市長もその話に乗りそうだ。
今造っている静岡空港だって、閑古鳥が鳴くんじゃないかなあ。
税金がムダに使われ、空港ならぬ、<食う幸>にならなけりゃいいけどね。

Aさんなんか今日は言いたい放題ですね。

H教授うん。今日、新春放談だもん。

Aさんえー、センセイ、まだ気分は正月なんですか。

H教授今度の日曜(29日)が旧正月だから、それが終わるまではいいじゃないか。

Aさんホント、オメデタイ人ですね。“放談”じゃなくて、“呆談”ですよ。


超長期ビジョン検討開始

Aさんところでセンセイ、超長期ビジョンを作れというのが持論ですけど【30】、環境省も検討を始めたそうじゃないですか。

H教授お、そうそう、忘れてた。
中央環境審議会で第三次環境基本計画の策定を進めていて、年末にその素案が発表されたんだ【31】。200ページを越すぶ厚いものだから、まだ読んでいないんだけど、年度内には閣議決定に持ち込むつもりらしい。

Aさん関係ないじゃないですか。話を逸らさないでください。

H教授話は最後まで聞け。
この素案については、実は昨年半ばに中間とりまとめが発表されているんだ【32】。その中で2050年あたりをターゲットにした環境政策の超長期ビジョンを作れといっている。それも現状のトレンドをただ伸ばすんじゃなく、50年先のあるべき社会から現在の政策を見直すというバックキャスト方式を考えろと、まあこういう趣旨だ。

Aさんへえ、審議会に言われて環境省も重い腰を上げたというわけですか。

H教授そんなわけないだろう。中間とりまとめの原案づくりにも事務局としての環境省が関わっていたに決まってるじゃないか。役所のジョーシキだよ。
で、そのための来年度予算も政府予算案のなかで計上された。ついでに言えば、中間とりまとめだって、予算要求に間に合うように出されたんだと思うよ。
予算説明書によると、第三次環境基本計画で将来展望の基本的な方向性を示し、19年度中に具体的なビジョンをとりまとめるそうだ。

Aさんそれは審議会でやるのですか。

H教授データ収集やシミュレーションはコンサルにやらせ、有識者による検討会で議論するところから始めるんじゃないかな。

Aさんへえ、楽しみですね。

H教授うーん、でも難しいと思うよ。

Aさん何がですか。

H教授50年先の社会経済状況がどうなっているかを枠組みというか前提として想定しなくちゃいけない。人口、年齢構成、GDP、エネルギー需給等々だよね。
ところがこうしたものは公的に決定したか、暗黙の了解かはともかくとして、個々に見れば予測は一応はあるんだ。例えば、人口だとか出生率も一応の想定があるからこそ、年金支給ができる。
問題は、それらの見通しは楽観的で願望が入り混じったとしかいいようがないものばかりだということだ。

Aさんそんなの無視して、本当にシビアで客観的なシナリオを書けばいいじゃないですか。

H教授そんなもの作ったって各省は無視するだけじゃないか。だとすると環境省のマスターベーションにしか──。

Aさん(遮り、睨みつけて)センセイ!

H教授う、言いなおそう。環境省の自己満足にしかならない。
かといって各省の参加の元でやれば、甘い技術開発の見通しを語り、ライフスタイルの見直しだとか価値観の転換をお説教するだけの、毒にも薬にもならないものしかできないよ。


Aさんじゃあ、どうすればいいんですか?

H教授それこそ、ソーリがリーダーシップをとって、各省の今までの計画はとりあえず棚上げして、「客観性の高いベストなものを作れ」「各省もそれに全面協力せよ」と言ってくれればいいんだけど、それも望み薄だから苦労すると思うな。
それだけじゃない。予測困難、あるいは予測を口外しづらいものだっていっぱいある。なんせ50年も先の話だから。
確かなのは、キミが生きていれば嫌われ者の婆さんになっているということだけで...。

Aさん(間髪を入れず)そしてセンセイは、墓の中で誰からも忘れ去られているんですね。あ、それは50年先じゃなくて、5年先かも知れないですけど。
それはともかくとして、予測困難、予測口外困難って、例えば?

H教授ホントに減らず口の多いやつだなあ。そんな暇があれば修士論文に取り掛かればいいのに。
ま、いいか。ピークオイル論が今、盛んだけど、50年先に原油は枯渇しそうになっているのか、相変わらず「あと50年」なんて言っているのかわからない。ただ、50年先だと新たな油田発見という事態はもうないだろう【33】
それから巨大な隣人、中国がその頃も統一国家であり続けているのかどうかだってわからない。もし統一国家だとしたらGDPは米国を抜いて世界一になっているだろうし、分裂したとしたらそれはそれで巨大な影響を及ぼす。
暖冬かどうか半年先の予測だって間違うのに、50年先の予測なんてムリだろう。


Aさんじゃ、作るなってことですか。

H教授ノン、ノン。だからこそいくつもの選択肢を考え、常なる見直しを図りつつ、挑戦しなきゃいけない命題なんだ。シジュフォスの神話じゃないけど、挑戦しつづけることに意義がある。

Aさんふうん、挑戦か。

H教授そう、挑戦、挑戦。もうひとつの隣国がどうなるかも考えに入れながらね。

Aさんは?

H教授朝鮮!

Aさん...(シラー)。


注釈

【1】耐震強度偽装事件
【2】米国産輸入牛肉の特定危険部位混入について
【3】郵政民営化準備企画会社発足
【4】豪雪
【5】北極振動と温暖化
【6】気象予報
【7】平湯温泉レンジャー記
【8】ラッセル
登山用語・鉄道用語で、雪を掻くこと。線路や道路上に積もった雪を除去する、雪かき車(ラッセル車)を開発した米国のラッセル社(開発者の名でもある)より派生。海外では通用しない、和製英語の一例。
【9】ビンガマン・ドメニチ決議
【10】環境税についての動向
これまで本講で取り上げてきた話題:
【11】特会問題
【12】アスベスト騒動、新法の制定と関連法の改正など
【13】空気中のダイオキシン分子数
【14】WHO(世界保健機関/World Health Organization)
【15】容器リ法の見直しに関する中環審・産構審合同部会と、最終報告書案
【16】ペットボトルの中国流出問題
【17】平成18年度環境省予算案
【18】水環境保全施策枠組み再構築事業
【19】BODやCODに代わる新しい水質指標・基準の設定について
【20】クールシティ推進事業
【21】ヒートアイランド対策
【22】VOC規制について
【23】水俣病について
【24】特定外来生物について
【25】セイヨウオオマルハナバチの特定外来生物指定について
【26】世界自然遺産候補地検討会(環境省・林野庁)
【27】小笠原の外来種問題
オガサワラシジミ:シジミ蝶の仲間で、日本固有種。開発等により分布域を狭め、近年はグリーンアノールの捕食などの影響で、絶滅寸前もしくは日本初の絶滅チョウとなった可能性も指摘される。1968年に国の天然記念物に指定され、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧I類とされる。
【28】石垣空港問題
【29】神戸空港開港
【30】超長期ビジョンの策定について
【31】第3次環境基本計画の策定に向けて
【32】第三次環境基本計画(中間とりまとめ)
【33】石油埋蔵量と資源枯渇について

(平成18年1月24日執筆 平成18年1月末日編集了)
※本講の見解は環境省およびEICの見解とまったく関係ありません。