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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.012

Issued: 2004.01.15

第12講 2004新春 環境漫才

目次
プロローグ
イラクと京都議定書
地球温暖化―異論反論オブジェクト
ロンボルグの波紋
淀川水系のその後
エコツアー振興策
環境省百手観音
新規補助金獲得秘話
持続可能社会の構築

プロローグ

H教授明けましてオメデトウ。今年も元気でがんばれよ。

Aさんセンセイ、気は確かですか。まだクリスマスですよ。あーあ、すっかりぼけちゃったんだ。前からその気配はあったけど。可哀想に(涙)


H教授(あわてて)バカ、これは正月掲載予定の時評なんだ。そんなルールもわからないのか。卒業させないぞ。

Aさんなあんだ、そうならそうと言ってくれればよかったのに。

H教授今日は仮想新年だから、とくにテーマを決めず、四方山話と行こう。


Aさんその前にセンセイ、先日12月13日に鹿児島でEIC主催のセンセイの講演をやったんでしたよね。
どうでした? 「なんでAさん来ないんだ!」とブーイングがすごかったんじゃないですか?

H教授ああ、盛況だったよ【1】。鹿児島県との共催で、県の推薦したNGOの人の講演もよかった。でもキミのことなんてだれも気にしてなかったよ。

Aさんそんなあ(ふくれる)。


H教授今回はパワーポイントを使って講演したんだぜ。パワポデビュー第一戦だ。情報が売りのEICの講演会なんだから、それぐらいしなくちゃあな、エヘン。

Aさんウッソー。パワポどころかOHPもセンセイ、使えないじゃないですか。信じられなあい。センセイが作って、センセイが操作したんですか?

H教授そんなことできるわけないじゃないか。じつはレジュメを作ったら、いつのまにか事務局の方でそれをパワポ化してて、操作もするからって、ムリヤリやらされちゃった。

Aさんそんなことだと思ったわ。ところで、聴衆の男女比は?

H教授そんなこと関係ないだろう!

Aさんだって、センセイ、鹿児島だったらオレの話聞きに女性が殺到するはずって言ってたじゃないですか!

H教授...。
さ、前講以降のできごとについておさらいしておこうか。


イラクと京都議定書

Aさんセンセイ、イラクのフセイン元大統領が拘束されました。よかったですよねえ。

H教授(白けた表情)なにがいいんだ。ブッシュにフセインを拘束する国際法上の権利がどこにあるんだ。フセインがならず者なのは言うまでもないとしても、じゃ、ブッシュは...。

Aさん(さえぎって)ちょ、ちょっとセンセイ。これ以上はまた編集部にカットされますよ。


H教授わかっているよ。これ以上は言わない。でもねえ、どこの新聞にも書いてないけど、環境問題にも大きな影響が生じるかもしれないんだぜ。

Aさんえ? どうして?

H教授だって、このまま米国が望むようにイラクの治安が回復し、親米政権ができたりしたら、ブッシュやネオコンの意気は揚がるし、今年の大統領選でも再選確実。京都議定書【2】は発効しなくなるかも知れないんだぜ。


Aさんあとロシア一国の批准で発効でしょう。なんだかんだ言ったって、ホットエアー【3】が売れなけりゃ困るからロシアは批准するだろうって、先月センセイ言ったじゃない。

H教授ブッシュが勢いに乗って、復興利権や石油利権をエサに、ロシアに批准を断念させることだってあるかもしれないじゃないか。

Aさんあ、その心配はないですよ。

H教授え? どうして?

Aさんだって、ブッシュさんは京都議定書のことなんて、アタマの片隅にもないですよ(笑)。

H教授もっと悪いじゃないか。


Aさん心配ないですって。
イラクの人たちは反フセインかもしれないけど、反ブッシュ、反ネオコンでもあるんだと思いますよ。
それよりCOP9(第9回気候変動枠組条約締約国会議)の結果はどうだったんですか。

H教授うん、12月初旬にイタリア、ミラノで開催された。森林吸収【4】にかかる細目がまとまったけど、第二約束期間【5】の話は先送りになったみたいだ。あと、COP9では条約事務局が現行対策ベースでの2010年の温室効果ガス排出予測が明らかにされた。

Aさんへえ、どうだったんですか。

H教授'90年比の排出増減率と京都議定書達成目標値との比較をみてみよう。まず日本が'90年比6%増で議定書目標から12%オーバー。米国は32%増で39%オーバー。米国と同様、脱京都議定書を標榜しているオーストラリアが27%増で19%オーバー。カナダは27%増で33%オーバーで、一方、EUは'90年比1%減で7%オーバー。ロシアは11%減で11%過剰達成ということになってる。これが前講で言ったホットエアーだ。


Aさんうーん、くっきりと分かれてますねえ。

H教授ああ、途上国だって、米国の数字見てりゃ、ばかばかしくて、排出抑制しようなんて気なくしちゃうよねえ。

地球温暖化―異論反論オブジェクト

Aさん現に地球温暖化が起きていて、その原因が温室効果ガスの増加だってはっきりしていて、放っておけば取り返しのつかないことになるのがこれだけ科学的にはっきりしているのにねえ。

H教授ところが科学的にはそれほどはっきりしていないという人たちもいる。はっきりしているのは温室効果ガスが増加してきていることだけでねえ。

Aさんえー、そんなあ。

H教授ここ100年、温暖化してきていることは確からしいんだけど、それは温室効果ガスの増加というより太陽磁場の変化の方が効いているんじゃないかという説がある。


Aさんでも、仮にそうだとしても温暖化に温室効果ガスが寄与していることは確かなんでしょう?

H教授うん、それはボクもそう思うよ。でもそれが主犯か従犯かじゃ、だいぶちがうよねえ。
それからね、温暖化が進むと海水の蒸発が盛んになる。つまり大気中に水蒸気が増えてくる。実はね、この水蒸気も温室効果を持っているんだ。

Aさんじゃ、ますます深刻じゃないですか。

H教授ところが、水蒸気が増えてくると当然雲の量も増えてくるだろう? この雲は太陽を遮って冷却効果をもたらすって話だ。

Aさん??


H教授つまり結果的に水蒸気の増加は温暖化を加速させるのか、ブレーキをかけるのか、実はよく分かっていないらしい。だから、IPCCの報告書も温暖化の予測に大きな幅をもたせているんだ。

Aさん(悲鳴をあげるように)でも! いずれにせよ、温室効果ガスの排出抑制に努めねばならないのだけは確かですよね。

H教授京都議定書どおりにするには高いコストがかかる。そんなコストをかけて抑制しても、結局のところほんのわずかの期間、温暖化を遅らせるにすぎない。だったら、そのコストは、むしろ温暖化で被害が出そうになったときに、被害防止策を取ったり、被害者の救援に充てた方がよっぽどコストパフォーマンスがいいという話もある。
一方じゃ、温暖化すれば農作物にいいということを言う人もいるくらいだからな。

Aさんそんなばかな! まさかセンセイも賛成してるわけじゃないですよね。


ロンボルグの波紋

H教授あったりまえじゃないか。温室効果ガスに限らず、自然の生態系を大きく改変するようなことは極力押さえるというのが、ボクのスタンスだ。だから、断固とした温室効果ガス排出抑制対策を取るべきだと思うよ。
でも、この手の話が今年 ―いやもう年を越したから去年か―、去年になって増えたような気がするな。代表的なのが、ロンボルグの「環境危機をあおってはいけない」だよね。
環境危機説を煽る定番話に真っ向から挑戦している。いやあ、この本はじつに面白いよ。


Aさん他にはどんな話をしているんですか。

H教授環境が悪化しているなんてのは真っ赤なウソで、われわれの環境や生活は、途上国も含めてどんどんよくなっているということを膨大なデータで論じている。化石燃料をどんどん使って科学技術を進めていけば、化石燃料に替わるエネルギー源だってヒトはきっと見つけて実用化していくにちがいないって言ってるよ。生物多様性【6】だって減少していないって。


Aさんだって、毎日何十種という動植物が滅んでいるんでしょう?

H教授毎日一種という話から毎日100種まで随分幅がある。で、ロンボルグは滅んだとされている動植物が、その後、見つかったりすることも多く、いずれにせよ見積もりがあまりにもオーバーだってよ。

Aさんホントなんですか?

H教授絶滅種の見積もりに関する個々のデータに関しては彼の言う通りかもしれない。
でもねえ、生物の『絶滅』というのは、普通、個体数の減少からはじまって、分布域の減少分布域の分断・孤立化それぞれの分布域における個体数の減少孤立した分布域の消滅 と進んで、最後の生息地がなくなることで「絶滅」とされる。
つまり、この途中段階でも生物の多様性は減少しているんだ。だから、ロンボルグが「絶滅」という最終段階のみを問題にして、生物多様性はほとんど減少していないなんていうのはとんでもない間違いだと思うよ。
日本で言うと確かにメダカやタガメは滅んだわけじゃない。でも、昔は至るところで目にしたものが、めったに目にしなくなったことだけは確かだ。それこそが生物多様性の減少じゃないかな。
ロンボルグが言っている、「多くの種類が滅んだという報告があったけど、よく調べたらそうじゃなかった」という話、そのことは事実だろうけど、滅んだという報告があったこと自体が(本当に個体数=ゼロになっていたのかはともかく)、個体数の極端な減少を意味しているんじゃないかな。それは絶滅に向かう中間過程にあることを示していて、生物多様性の減少だとボクは思うよ。


Aさんへえ〜、なるほどね。 ところで、わたしたちの環境や生活はよくなっているんですか。

H教授うん、よくなっていることも多いのは事実だ。でもそれはどこかにツケを回しているだけかもしれない。それに環境がよくなったのも、警鐘を乱打する人がいたからこそだと思うよ。
有名なカーソンの「沈黙の春」【7】だって、学問的には問題の多い書だと思うけど、あの書があったからこそ、農薬の改良がグンと進んだんだ。もちろん、狼少年を弁護するわけじゃないけど、みんなが狼少年を受け入れる素地はあったんだ。
一言でいえば、こんな生活ばかりしていると、いつかはお天道様の罰があたるんじゃないかという庶民のひそかな恐れにフィットしたからだと思うよ。
そして、そういう感覚を大事にしていかないといけないと思うな。ただ、狼少年の時代は終わったと思うけどね。

Aさんでも、ロンボルグはそういう感覚を捨てろってわけですね。


H教授そう、で、彼の最大の問題は、いままでのトレンドがそうだったから、これからもそうだという根拠のない思い込みというか、技術至上主義じゃないかな。彼は技術者じゃないからこそ、工学技術信仰があるのかもしれない。ま、それでもロンボルグはあれだけのデータを集めたんだからえらいと思うよ。
ただねえ、こわいのは彼のエピゴーネンが続出したり、彼の論説の一部をシタリ顔で使って、自分のやることを正当化しようとする人間が出てくることだと思うよ。


Aさんセンセイは、ブッシュさんがそうじゃないかって言いたいんでしょう?

H教授ま、そうだ(乾いた笑い)。

Aさんなんかセンセイ、今日はいつもの元気がないですね。

H教授絶望の虚妄なるは希望の虚妄なるに等し、か(溜息)。

Aさんは? なんですかその寝言みたいなのは。

H教授魯迅だよ、魯迅!!

Aさん老人ねえ。センセイは老いを嘆いているんだ。

H教授魯迅も知らないのか! もう、キミ大学院なんかさっさとあきらめたら?

淀川水系のその後

Aさんはいはい。ところで淀川水系流域委員会【8】の方もなにか動きがあったようですね。

H教授うん、新聞情報でしか知らないけど、近畿地方整備局の河川整備計画【9】原案に対する最終意見書を出した。地方整備局は依然として、5ダムは有効だとしているけど、流域委員会では5ダムすべてについて、「中止も選択の一つとし、抜本的な見直しが必要」と結論付けている。地方整備局では1〜2年かけて検討し、結論を出すそうだ。


Aさんどうなりそうなんですか。

H教授そんなことボクにわかるわけないじゃないか。
ま、無責任な予想をすれば、流域委員会も5ダムすべて中止すべきだと強く言ってるわけじゃないし、地方整備局も地元市町村との関係もあるだろうから、最終意見書を参考にしつつも、5ダム全部中止ということにはならないんじゃないかなあ。
しかし、関東では尾瀬の登山口に当たる戸倉に造られようとしていた戸倉ダムが建設中止となった。工事に着工していたにも関わらず、水需要を見直した結果、中止を決めたものなんだけど、こういう例もあるからどうなるかわからない。
まあ、でも行政との対話という意味では、ひとつの雛型になるのかもしれないね。

エコツアー振興策

Aさんところで、小池環境大臣はエコツアー【10】にご執心のようですね。

H教授うん、着任早々、振興のために懇談会を設置したみたいだ。ご自分が言い出しっぺみたいだよ。


Aさんエコツアーはコスタリカやガラパゴスなんかで盛んだそうですね。日本ではどうなんですか。

H教授少人数のガイド付きツアーという意味では知床、小笠原、屋久島、西表なんかではかなり行われているみたいだね。問題はガイドのインタープリター【11】能力が玉石混交で、利用者にはそれを見分ける術がないこと。その収益が地域の環境保全に還元されてないし、地域の雇用や経済にも目に見えるほどの貢献はしていないようだ。
だからライセンス制だとか、国立公園の利用調整地区【12】制度とのリンクだとか、いろんなアイデアがありそうだ。来春には、いやちがった今春か、ええい、ややこしい、2004年の3月中には結論を出すそうだから、乞うご期待だね。

環境省百手観音

Aさんでも環境省も各方面にいっぱい手を広げて、いろんなことを来年 ―あ、今年だ―、今年中に結論を出すと言ってますね。大丈夫かしら。

H教授そうだな。この時報でいままで取り上げたものだけでも、温暖化対策税(→第9講)に、亜鉛の排水基準(→第7講、第9講)、VOC(→第10講)、環境基本法見直し(→同)、エコツアー(→本講)だろう。土壌汚染対策法や環境教育法(→第5講)や自然再生推進法(→同)だって宿題はいっぱい残ってる。
移入種問題だって新法を作るって言ってるし、遺伝子組み換え生物もある。廃棄物だって課題続出だし、ディーゼル排ガス(→第10講)もあるから、ホントたいへんだよねえ。
あ、そうそう3Rプロジェクト(→第11講)なんてのもあった。


Aさんはやばやと役人をリタイアしてよかったでしょう。

H教授その代わり誰とは言わないけど、できのわるい女子学生の面倒をみなくちゃいけない。

Aさんワタシだって、「キョージュ」だっていうだけのお粗末なセンセイの相手しなくちゃいけないんですよ! 誰とは言わないけど。

H教授はは、痛みわけか。さ、今日はこれで終わろうか。

Aさんまだ、紙数が残ってます。

H教授だって、今夜はイブだぜ。ボーイフレンドと食事しなくていいのか。


Aさんなに言ってるんですか、今日は仮想正月でしょう!

H教授(小さく)可哀想に...、行くところがないのか。(涙)

新規補助金獲得秘話

Aさんうるさいんです! ワタシャ、学問に生きるんだから。
センセイ、前講で新しい補助金を立ち上げたと言ってたでしょう。その話を聞きたいんですけど。

H教授ああ、もう15年以上前だな。水質規制課長のときだけど、新規の予算要求で河川の直接浄化の補助金を出したことがあるんだ。

Aさん直接浄化って、川底のヘドロをさらえたりするんですか?


H教授ほんとうはそういうソフトこそが必要なんだけど、日本の補助金事業は、ハードというかハコモノというか、施設の建設だけを対象にすることが普通なんだ。
直接浄化にはいろんなやり方があるんだけど、川のそばに浄化装置を置いて、川の水をそこに引き入れて浄化してから再放流することにして、その浄化装置の補助金を要求したんだ。

Aさんあれ? ワタシの田舎の川ではもっと前からなんかそんなのやってましたよ。

H教授そうなんだよ。旧・建設省の河川環境整備事業【13】の補助制度には、河川の直接浄化事業もメニューに入っている。だから熱心な自治体の首長がいるところでは、そのメニューを使ってやっていたんだ。だけど、普通はメニューにはあってもそんなのは、やりっこなかった。だって、自治体での担当は環境部局でなく、土木部局の河川課かなんかだから。
それでも一応メニューにあるから、新規要求はきわめて困難が予想された。それでも要求せざるをえなかった。


Aさんどうしてですか?

H教授実は予算要求っていうのは、係で議論し、課で議論し、局で議論し、と段々と絞り込みつつ、上に上がっていくんだ。で、当時の水質規制課のある係長が奇想天外、まったく実現の可能性がないけれど非常に面白いアイデアをあげた。
これはおもしろい、ユニークだというので、とうとう局議【*】の場まで上がってしまった。ぼくはその頃は水質規制課じゃなかったから局議の場ではじめて知ったんだけど、これはおもしろい、庁議【*】の場でのおもしろい話題提供になるというんで、ここも通過。庁議にまであがっちゃった。
そしたら事務次官がこれはおもしろい、ひとつがんばってみろと言い出した。単なる話題提供のつもりで出しただけで、万に一つの可能性もないのはわかっていたから、こんなのガンバルつもりは毛頭ないんだけど、すんなりと下ろさせてくれそうにない。それで、少しは可能性のある骨っぽい代案の新規要求を考えろということになった。
ちょうどそのときぼくが水質規制課長になった。しかたなく苦し紛れに考え出したのがこの補助金だった。


Aさんでもそんなの旧建設省の縄張りを荒らすことになるから、できないんじゃないんですか?


H教授建設省の補助対象は河川法適用河川【14】なんだ。河川法では一級河川、二級河川、準用河川と区分しているんだ。だけど、よく調べてみると実態は河川でも、準用河川にもなってないものがあることがわかった。これを普通河川というらしい。
河川法適用河川は国の行政財産だけど、普通河川は形式的には大蔵省(現・財務省)が管理する普通財産ってことになっているらしい。ついでにいえば道路もそうだね。道路法の道路や、誰がいつ作ったかがはっきりしている道路以外に、昔から存在している道がある。里道というんだけど、これも普通河川と同じ扱いらしい。

Aさんで、その普通河川を対象に要求したんですか。なんかセコいですねえ。

H教授うるさい。で、新規の補助金なんて普通じゃ通るわけがないから、議員の力を借りて大蔵に圧力をかけるしかないというんで、理解のありそうな議員を十数人ピックアップした。それからは、議員会館参りの毎日だったなあ。

Aさん何人かで行くんですか?

H教授いや、ぼくひとりさ。それに、局長がその頃変わったばかりで、予算局議も庁議にも出てなかったから、なんでそんなくだらない予算要求をしたんだ、オレは知らんと突き放され、一切協力してくれなかった。

Aさん議員さんの反応はどうでした?

H教授説明を聞いてがんばってくださいねと言われるのがせいぜいで、真剣に興味を持って聞いてくれた議員は少なかったねえ。
で、だんだんこちらも働きかける議員の数を絞っていって、最後はふたりの議員に集中。秘書さんに「毎日毎日ご苦労さんですねえ」って慰められたよ。

Aさんへえ、で、さいごは?


H教授このふたりは大蔵の主計にそれぞれのパイプで働きかけてくれたみたいだ。そしてダメ押しになったのはこの話を聞きつけた自民党の政調会長が興味を示したことだと思うよ。わずか5,000万円だったけど、予算がついた。
でもねえ、結局のところこっちへ来た5,000万円というのは、本来自然保護局 ―今は自然環境局って言ってるけど、ぼくの本家だよね―、そこにいくはずのところのものを削って持ってきたんだって。おかげで、自然保護局の諸先輩からは出入り禁止を言い渡された。

Aさんそのお世話になった議員センセイを銀座かどこかで接待したりはしなかったんですか?

H教授え? まったくなにもなしだよ。キミ、なにを考えてるんだ。役人イコール接待なんて考えちゃダメだぞ。

Aさんそうか、環境省って ―あ、当時は環境庁でしたっけ― おカネないですもんね。で、その予算はいまも生きてるんですか。

H教授もちろんだよ、水辺の緑地整備だとか、普通河川の水環境改善にまで補助対象を広げて、予算も一桁増えたみたいだ。と、言っても微々たるものだけど。


Aさんいまでもそういう新規予算の要求には政治家のお世話になるんですか?

H教授さあ? どうだろう?

Aさんなんだ、知らないんですか。
ところで、予算要求といえば、2004年度の政府予算案が固まったそうですね。

持続可能社会の構築

H教授ああ、そうみたいだね。新聞情報しか知らないけど、あんまり新味がないねえ。各省一律に予算を数%削るだけなんて、そんな時代はもう終りにしなくちゃ。しかも廃棄物の予算まで削るなんて、なに考えてるんだろうね。

Aさんでも年金だ、福祉だ、国際協力だ、景気対策だって、いろんなことがいっぱいあるけど、そのなかで環境というのはどう考えればいいんでしょう。

H教授「持続可能な社会【15】の構築」というのが、それを理解するうえでのキーワードだと思うな。環境やエネルギーだけでなく、年金も赤字国債も福祉も防衛も高速道路も「持続可能な社会」というフィルターを通して見てみればいい。そうすると新たな世界がきっと見えてくるよ(断言する)

Aさん(感心して)ふうん...、なぁるほどねえ。

H教授で、見た結果を教えてほしいんだ。見たらどうなるかなあって、ふと思いついたんだ。でも、最近は老眼がひどくて、自分じゃ見えないんだ。な、頼んだぞ。それじゃあ。

Aさんセ、センセイ...そ、そんなあ。


注釈

【1】EICの環境セミナー in 鹿児島
EICの環境セミナー in 鹿児島 ―21世紀、新しい時代の環境を考える―
【2】京都議定書(Kyoto Protocol)
1997年12月京都で開催されたCOP3で採択された気候変動枠組条約の議定書。2003年12月現在で、未発効。日本は1998年4月28日に署名、2002年6月4日に批准。2003年11月現在の批准国数は、120カ国。
先進締約国に対し、2008〜12年の第一約束期間における温室効果ガスの排出を1990年比で、5.2%(日本6%、アメリカ7%、EU8%など)削減することを義務付けている。また、削減数値目標を達成するために、京都メカニズム(柔軟性措置)を導入。京都議定書の発効要件として、55カ国以上の批准、及び締結した附属書I国(先進国等)の1990年における温室効果ガスの排出量(二酸化炭素換算)の合計が全附属書I国の1990年の温室効果ガス総排出量(二酸化炭素換算)の55%以上を占めることを定めている。
The Convention and the Kyoto Protocol(UNFCCC) 英語
京都議定書の概要(環境省地球環境局)
京都議定書の締結及び地球温暖化対策推進法の一部を改正する法律について (環境省地球環境局)
京都議定書の骨子(外務省)
【3】 ホットエアー(Hot Air)
京都議定書で定められた温室効果ガスの削減目標に対し、経済活動の低迷などにより二酸化炭素(CO2)の排出量が大幅に減少していて、相当の余裕をもって目標が達成されることが見込まれる国々(旧ソ連や東欧諸国)の達成余剰分のこと。この余剰分の排出枠が先進国に「排出権取引」を通じて売却され、先進国の実質的な排出削減を阻害することが懸念されている。
なお、英語の"Hot Air"には、熱気、温風、暑気などのほか、くだらない話、ナンセンス、大言壮語、空手形などの意味を持つ。これらの国の余剰分は、自国の努力による削減量ではないため、「空手形」という意味を込めて揶揄され、定着していったという経緯がある。
UNFCCC COP9 Official Website(COP9 Climate Change Convention/英文)
EICネット 国内ニュース「COP9で森林吸収源CDM実施のための細則決まる」
【4】森林吸収
2003年12月にイタリアのミラノで開催された第9回気候変動枠組条約締約国会議(COP9)では、京都議定書に定められ、COP7以降2年間かけて検討・協議してきた吸収源CDM(クリーン開発メカニズム)の定義・ルール・手続きについて確定、採択された。詳細の内容は、林野庁のホームページ上に公開されている。 京都議定書では、二酸化炭素の排出削減の達成に関して、炭素を貯蔵できる特定の土地利用の変化と林業を、排出削減分の一部として算入を認めている(いわゆる「炭素吸収源(シンク)」)。つまり、植林等により増えた森林等によって、大気中の二酸化炭素が樹木中に固定され、取り除かれたものとみなし、その分を化石燃料消費による二酸化炭素排出と相殺できるとするもの。 こうした考えに基づき、先進国と途上国が共同で温室効果ガス排出削減プロジェクトを実施し、達成された温室効果ガス削減分の一部(認証排出削減量)を先進国が自国の削減量として充当することを認める制度が「クリーン開発メカニズム(CDM)」であり、そのうち森林整備によりCO2の吸収固定を行うタイプのものを森林吸収という。
UNFCCC COP9 Official Website(COP9 Climate Change Convention/英文)
EICネット 国内ニュース「COP9で森林吸収源CDM実施のための細則決まる」
【5】第二約束期間
京都議定書における数値目標は2008年〜2012年の「第一約束期間」に設定されており、これに引き続く2013年〜2018年を「第二約束期間」と呼ぶ。この数値目標交渉が2005年から2007年までの間に行われることになっている。 なお、第一約束期間では、温室効果ガスの削減への取り組みの第一段階として、締約国の温室効果ガス総排出量を1990年から少なくとも5.2%を削減しなければならないと規定されている。日本には、第一約束期間の5年間における温室効果ガスの平均排出量を、基準年(CO2、CH4、N2Oついては1990年、HFC、PFC、SF6については1995年)の排出量から6%削減するという目標が割り当てられている。
環境省総合環境政策局「温暖化対策税制の検討状況について」
【6】生物多様性
もとは一つの細胞から出発したといわれる生物が進化し、今日では様々な姿・形、生活様式をみせている。このような生物の間にみられる変異性を総合的に指す概念。
生物多様性条約など一般には、
 ・様々な生物の相互作用から構成される様々な生態系の存在=生態系の多様性
 ・様々な生物種が存在する=種の多様性
 ・種は同じでも、持っている遺伝子が異なる=遺伝的多様性
という3つの階層で多様性を捉え、それぞれ保全が必要とされている。
種内の多様性(遺伝子の多様性)が低下すれば種の遺伝的劣化が進み、絶滅の危険性が高まる。生態系の多様性が低下すれば多様な種が棲み分けられる生息環境が崩壊し、種が絶滅する可能性が高まる。種間の多様性はこれら双方の基となり生物多様性の要といえる。
生物多様性は生命の豊かさを包括的に表した広い概念で、その保全は、食料や薬品などの生物資源のみならず、人間が生存していく上で不可欠の生存基盤(ライフサポートシステム)としても重要である。人間活動が大きくなるとともに、生物多様性は低下しつつあり、地球環境問題のひとつとなっている。国際的には生物多様性条約に基づく取り組みが進められ、日本でも生物多様性国家戦略の策定を受けて総合的な取り組みがされている。
【7】沈黙の春
1962年に出版されたレイチェル・カーソンの著書。日本訳は、1964年に『生と死の妙薬』のタイトルで単行本として出されたが、1974年『沈黙の春』というタイトルで新潮文庫に収められ、それ以来、日本でも多くの読者に親しまれている。農薬や殺虫剤等の化学物質が大量に使用された時に自然の生態系はどうなるのか、生物そして人間はどうなるのか問いかけた警告の書である。また同時に、人間が自然環境とどのように共生していくべきなのかを考えさせるものとなっている。
本書が取り上げた残留性の高い有機塩素系農薬や、急性毒性の強い有機リン系農薬のほとんどは今日では使用禁止になっているが、本書に書かれたワシの生殖能力の異常は今日の環境ホルモンの問題につながるものであり、今日でも意味のある著書といえる。
レイチェル・カーソン日本協会
書評:環境の破壊と荒廃にブレーキをかける書 レイチェル・カーソン『沈黙の春』(上遠恵子)
「沈黙の春」(四六判変形、新潮社)
「沈黙の春」(文庫、新潮社)
【8】「淀川流域委員会と脱ダムの提言」
平成9年の河川法改正により、河川管理の目的として、従前の「治水」・「利水」に加えて、「河川環境の整備と保全」が追加されている。
これまでの「工事実施基本計画」に替わり、長期的な河川整備の基本となるべき方針を示す「河川整備基本方針」と、今後20〜30年間の具体的な河川整備の内容を示す「河川整備計画」が策定されることになった。後者では、地方公共団体の長や地域住民等の意見を反映する手続きを導入。これに基づき、全国20水系で流域委員会が設置され、すでに8流域において整備計画が作成されている。
淀川水系の整備計画についての意見を聴く場として2001年2月に近畿地方整備局により設置された「淀川水系流域委員会」は、河川や防災、環境などの専門家や自然保護活動団体の代表など55人で構成。2003年1月にまとめた同委員会の提言「新たな河川整備をめざして −淀川水系流域委員会 提言−」では、ダムについて「生活の安全・安心の確保や産業・経済の発展に貢献してきている」と評価する一方で、「地域社会の崩壊など」をもたらすことや「河川の生態系と生物多様性に重大な悪影響を及ぼしている」などと批判し、計画段階や工事中のものも含めて「原則として建設しない」と明記した。
淀川水系流域委員会
同 脱ダムの提言について
【9】河川整備計画
従来の河川法では、水系ごとに「工事実施基本計画」において河川工事の基本となるべき事項を定めることとしていたが、1997年の改正により、これを「河川整備基本方針」と「河川整備計画」に区分した。
「河川整備基本方針」に沿った「河川整備計画」では、工事実施基本計画よりもさらに具体的な川づくりを明らかにし、地域の意向を反映する手続きを導入することとした。この「河川整備計画」の策定は、社会・経済面や技術面と並んで、環境面からの分析結果を意思決定に確実に反映させ、地域住民、専門家に対し十分な情報公開や意見収集を行い、これを公表しなければならない。
洪水や高潮、地震等の防災、取水や排水、河川空間(高水敷や堤防周辺)の利用、漁業活動、舟運やレクリェーション等の河川の利用・活用、河川の水質や生態系の保全等の河川環境に関する現状の課題に対して、基本的な対応の考え方、現在行っている具体的対策、これから実施しようとする具体的対策を盛り込む。
河川事業の計画段階における環境影響の分析方法に関する検討委員会 提言 国土交通省河川局 記者発表資料
国土交通省河川局「河川整備基本方針、河川整備計画について」
【10】エコツアー
自然や人文環境を損なわない範囲で、自然観察や先住民の生活や歴史を学ぶ、新しいスタイルの観光。なお、地域住民の働き場が組み込まれていることなど観光収入が地域にもたらされることも必要条件として概念に含める場合も多い。
1980年代後半、地球環境の保全意識の高まりとともに、環境保全について学ぶことも観光の重要な目的であるとの認識ができてきたこと、また、マス(大衆)による観光活動(マスツーリズム)が自然環境を悪化させるひとつの要因とみなされるようになったことなどを背景として登場してきた。特に、途上国においては、地域にもたらされる観光収入により、環境を大切な資源として認識することとなり、貧困等に起因する環境破壊が防止されると期待されている。
日本エコツーリズム協会
【11】インタープリター
自然観察、自然体験などの活動を通して、自然を保護する心を育て、自然にやさしい生活の実践を促すため、自然が発する様々な言葉を人間の言葉に翻訳して伝える人をいう(interpret=通訳)。植生や野生動物などの自然物だけでなく、地域の文化や歴史などを含めた対象の背後に潜む意味や関係性を読み解き、伝える活動を行なう人をさす。一般には、自然観察インストラクターなどと同義に用いられることも多い。
なお、インタープリターの行なう活動をインタープリテーション(自然解説と訳されることも多い)という。
インタープリテーション協会
自然体験型環境教育の簡単用語集(財団法人キープ協会)
【12】利用調整地区
将来にわたって自然公園の風致景観を維持するとともに、適正な利用を推進するため公園計画に基づき特別地域内に指定される公園利用の制限地区(自然公園法第15条)。
指定地区の公園利用者数を制限するため地区内に公園利用者が入る場合には、環境大臣又は都道府県知事(指定認定機関(法第17条)が指定されている場合は指定認定機関)の認定を受けなければならないこととされている(法第16条)。2002年の自然公園法改正で創設された制度であり、具体的な地区指定、認定機関の指定はまだ行われていない。
自然公園法の改正について
自然公園法 第15条
【13】河川環境整備事業
河川法(1964・国土交通省所管)に基づいて国土交通省が所管する河川整備事業のひとつで、1969年からはじまった。具体的には水質浄化や清浄な流水の確保を図る「河川浄化事業」、環境護岸、せせらぎ水路、散策路等の整備を行う「河道整備事業」、河川水面利用の適正化や推進を図る「河川利用推進事業」があり、国直轄事業と都道府県補助事業がある。
河川審議会から答申を受けた「今後の河川環境のあり方」(1995)や目的に「河川環境の保全と整備」を加えた河川法改正(1997)を背景として積極的な事業展開が図られている。
【*】
局議とは局の課室長以上の会議。 庁議とは部局長、官房三課長以上の最高幹部の会議で、現在では省議。予算局議に関しては係長以上が出席する。
【14】河川法と、同法適用河川
河川法は、国内の河川整備のあり方などを規定する法律で、1964年に制定された。所管は、国土交通省。
明治時代以降の近代河川管理制度は、「治水」を目的に始まり、戦後の高度成長期に急増した水需要に対応するため「利水」が目的に加わった。さらに、水質などの環境悪化の深刻化、また地域の個性を生かした川づくりへの高まりなどを受け、1997年の改正で、「環境保全」「地域住民の意見の反映」の観点が盛り込まれている。
1997年の法改正では、従来、河川整備について水系ごとに河川管理者が定めていた「工事実施基本計画」に代えて、「河川整備基本方針」と、それに基づく20〜30年間の具体的な整備目標となる「河川整備計画」の2段階で策定することが定めらた。同計画の策定に当たっては、必要に応じて学識経験者や住民などの意見を聴くことになり、水系ごとに流域委員会が設置されている。
同法では、国土交通大臣が指定した一級河川(1999年時点で13,935河川)、都道府県知事が指定した二級河川(1999年時点で7,029河川)を対象とし(これらには湖沼も含まれる)、また同法の一部を準用し、市町村長が管理する河川を準用河川と規定し、河川区域内での工作物の新築、河川の流出の占有等を行う場合、また河川保全区域内において工作物の新築などを行う場合は、河川管理者の許可が必要となる。一級、二級および準用河川以外の河川を「普通河川」という。
河川法(総務省法令データ提供システム)
「河川法の一部を改正する法律」について(国土交通省河川局)
【15】持続可能な社会
国際的なキーワードとしては、Sustainable Development(SDと略し、日本語では「持続可能な開発」もしくは「持続可能な発展」などと訳される)。環境と開発は不可分の関係にあり、開発は環境や資源という土台の上に成り立つものであって、持続的な発展のためには、環境の保全が必要不可欠であるとする概念で、1980年に国際自然保護連盟(IUCN)、国連環境計画(UNEP)などが取りまとめた「世界保全戦略」に初出した。
1992年のリオ会議でも中心的な考え方として、「環境と開発に関するリオ宣言」や「アジェンダ21」に具体化されるなど、今日の地球環境問題に関する世界的な取り組みに大きな影響を与えるものとなった。日本の環境基本法では、第4条等において循環型社会の考え方の基礎となっている。
1984年国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」(WCED=World Commission on Environment and Development、委員長の名前をとってブルントラント委員会とも呼ばれる)が1987年に発行した"Our Common Future"(邦題『地球の未来を守るために』)と題する最終報告書の中では、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」と説明し、広く世界の支持を受けた。

(平成15年12月24日執筆・文:久野武、2004年1月14日編集終了)
(参考:南九研時報33号(平成14年4月))