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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.045

Issued: 2006.10.05

第45講 第45講 「安倍新内閣発足と日本の超長期ビジョン」

目次
安倍内閣発足!
悠仁さまお誕生
飲酒運転キャンペーン
25年50歳体制の崩壊
水俣病懇談会の提言
新たな河川行政の芽生え
総合治水と水辺の高密度利用
激動の日本列島
原発とエネルギー
「サハリン2」の教訓
バイオマスのエネルギー利用に向けて
日本超長期ビジョン

安倍内閣発足!

H教授いよいよ安倍政権がスタートしたな【1】

Aさんセンセイの評価は?

H教授そんなのわかんないよ。コイズミさんのときは行政改革、郵政民営化、自民党をぶっこわすとか、旗印やキャッチフレーズがしっかりあったけど、安倍サンの場合はまったくわからない。「美しい日本」ったって、わけわかんないよねえ。コイズミ改革を継承するといいながら、そうでもなさそうだし、そういうわけのわからない安倍さんが総裁選で圧勝するんだから、自民党もよくわからない。


Aさん環境大臣は若林正俊って人ですね【2】。知ってます?

H教授まったく知らない。農水出身の参院の人らしいね。

Aさん結局、安倍政権の評価も新環境大臣の評価も具体的な政策を待ってからということですか。

H教授ひとつだけ確かなことがある。

Aさんなんですか。

H教授初の戦後生まれの宰相誕生ということだ。しかも団塊の世代を一気に飛び越しちゃった。52歳だって。いやあ、若いねえ、驚いた。トップエリートの役人だってまだ局長になるかならないかの年齢だ。

Aさんくっだらない。問題は政策でしょう、政策!

H教授いやあ、ぼくにとっては結構深刻だよ。ボクが30代から40代だった頃、励みだったのは作家の松本清張と作曲家のセザール・フランクだ。
遅咲きといわれた清張は、処女作「西郷札」が40才になるかならないかの頃で、その後「或る『小倉日記』伝」で芥川賞をとったものの、「点と線」で人気作家になったのは50才を過ぎてからだった。
一方、しがない教会のオルガン奏者だったフランクが作曲家デビューを果たしたのが50の頃。しかも初演はすこぶる不評だったらしい。
だからまだまだオレだって…と思ってるうちに、その年齢をとうに過ぎちゃった。
だけど政治家を見渡してみれば、でかい面して権力持ってるのは皆60代から70代にかけてだし、時の総理もコイズミさんも含めて全部年上。そっち方面ならまだまだ若いと思ってたんだぜ。
うーん、でも財界のドンたちはみな60代末から70代だから、まだまだボクも若いな。


Aさんいい加減にしてください! 若い子に色目を使ったって、センセイはもはやゼミ生たちの祖父祖母の世代なんですよ。
先日ゼミ合宿で上高地の平場をちょっと歩いただけで悲鳴を上げてたじゃないんですか。
あ、そうだ。そんな有名になりたけりゃ、植草キョージュと同じことをすりゃいいんじゃないですか。センセイにはぴったりですよ。

H教授(落ち込む)そこまで言わなくたって…。
さ、次の話題に行こう。

悠仁さまお誕生

Aさんやはり秋篠宮の紀子さまに男児がご誕生したことじゃないですか【3】。悠仁(ひさひと)さまって名前もいいですよねえ。

H教授うん、めでたかったねえ。
道理で今年に入って女系天皇論だとか、女性天皇論がぴたっと消えたはずだ。でもこの論議はきちっとしておかなきゃいけないと思うけどねえ。


Aさんえっ? じゃ、ご懐妊されたときから男児とわかってたということですか。ご誕生までご存じなかったって新聞には出てましたけど。

H教授へえ、そうだったのか。じゃ、たまたまか。
ちなみに、女性天皇と女系天皇とは違うからまた勉強しておくんだな。
ま、女性天皇論以前の問題として、家の後継ぎを誰にするかなんて、本来は家族会議で決めるべきものだよね。
でも国の象徴だからそんなことは許されず、皇位継承順位が決まっていて、それは絶対変更できない。皇太子様や成人されたときの悠仁さまの苦悩を国民はもっとお察ししてあげるべきだと思うよ。
他に最近目立ったニュースは?


飲酒運転キャンペーン

Aさん連日、飲酒運転の記事が新聞を賑わせてますね。ああいうのを読むとホント、アタマに来ちゃうわ。なんでやめられないのかしら。新聞で読む限り、飲酒運転ってどんどん増えてません?

H教授冗談じゃない。昔に比べれば激減しているよ。罰金が高くなってるもの【4】
昔だったら新聞に出ないようなものが出ているだけさ。意図的にそうしているんだ。その意図が奈辺にあるかをよく見極めなきゃいけないよ。


Aさんそうなんですか。自治体なんかでも飲酒運転したというだけで免職とか厳しい処分をするようになってますよ。

H教授泥酔運転だとか酒気帯びで事故を起こせば当然だろうけど、軽い酒気帯びだけでそこまで厳しくするのはどうかねえ。
ま、飲酒運転に厳しくなったのは都会じゃ当然だろうけど、田舎で一日にバスが何本かしか走ってないようなところだと、昔はある程度は大目にみていたんだ。
でも今やそれも許されなくなってきた。つまり時代が変わったということなんだろうねえ。

Aさん昔は大目に見た? そんなこと許されてきたんですか。

H教授ぼくがレンジャーのとき、新築祝いだとかなんだとかで呼ばれた。山間僻地だからクルマで行くしかないんだけど、当然、宴会になり、お酒を注ぎに来られ、断れるような雰囲気じゃない。隣は警察署長か営林署長で、彼らも飲んでいる。飲まざるを得ないじゃないか。
彼らは待機させていた部下に運転させりゃいいけど、一人しかいないレンジャーじゃそんなことできるはずもない。だから、酔いが醒めたと自覚してからクルマで帰ったんだ。でも、当時に検知器があればひっかかったかもしれない。

Aさんセンセイ、今はやってないでしょうねえ。

H教授当たり前だよ。ただねえ、ビール一本飲んで、3〜4時間経って酔いを醒ましてからクルマに乗ることは、数年前まではあった。でも今じゃそれで万一ひっかかったらウン十万円の罰金だから、それもやめているよ。
誰か、検問に引っかかる呼気アルコール濃度かどうかがわかる携帯用の安価な検知器を開発してくれないかな。絶対売れると思うけどな。

Aさんセンセ、遅れてますねえ。もうとっくに発売されていて、品切れ状態が続いています。今日(9月27日)の朝日の夕刊に大きく出てますよ。それにねえ、警察の検問から逃れるために使うのは邪道だって書いてましたよ。

H教授へえ、そうだったか。でもなんで邪道なんだ。主観的には酔いは醒めているけど、検問で引っかかったらかなわないし、客観的にも酔いが醒めているかどうかみるために使うってのは、当然の王道じゃないか。


25年50歳体制の崩壊

Aさんセンセイ、そんなこと考えるより、まずは禁酒禁煙に心がけましょうね。
それにしても若林新大臣を迎えて環境省はどう進むんでしょうねえ。

H教授さあなあ。
ところで、それに先駆けて事務次官以下の幹部が人事異動になったんだけど、ちょっと驚いた。

Aさんえ? 大番狂わせですか? 

H教授違うよ。単純なことさ。年齢をみてびっくりしたんだ。
新事務次官が59歳。次期事務次官が確実な環境庁一期生のN氏が56歳。以下、局長クラスはみな50代後半なんだ。

Aさんそれがどうかしたんですか。センセイより皆、お若いじゃないですか。

H教授うるさい。要するに、昔より確実に5歳以上遅くなっている。昔は事務官エリートは50そこそこで局長、われわれレンジャーのトップが準局長クラスの審議官になり、同期の者は役所の世話で転職、つまり天下りするのが常識だった。
一部のトップ官僚以外は25年勤務・50歳で後進に道を譲るという役所の常識が、この十年で完全に崩壊したんだ。
そういえば地方環境事務所長クラスもはや50代半ばで、ほとんど転職していない。
つまり、国家公務員も地方自治体と同じように定年まで勤務するという時代になったんだ。大なり小なり他省庁もそうなりつつあるんだろうなあ。

Aさんそうなるとどんな影響があるんですか。


H教授相対的な高給取りがいつまで経ってもやめられないから、人件費が高くなる。
そうなると民間企業がやっているように55歳で昇給停止しろとかいう圧力も高まるだろう。定年後に天下りできるところも激減するから、非常勤嘱託で再雇用みたいなことも当たり前になってくるかもしれない。
だとすると使命感に燃えて国家公務員になるという野心的な人材は減っていき、安定感だけ求めて、国家公務員にでもなるかというデモシカ役人が増える気がする。
ま、世間知らずなまま、ひとりよがりな正義感や野心だけ燃やすような役人が減るのはいいことだという見方もできるかもしれないけど。


水俣病懇談会の提言

Aさんさ、センセイ。環境行政時評に行きましょう。
環境大臣の私的諮問機関である水俣病懇談会の最終提言が9月1日に出されましたが、一部委員の主張した水俣病認定基準の見直しはついに断念したみたいですね【5】

H教授うん、その代わり未認定患者を漏れなく救済・補償する恒久的な枠組みの構築をはじめとして、胎児性患者の福祉や地域再生の提言などを盛り込んだ。
ともかく認定基準の見直しだけは絶対認められないという環境省側の姿勢はあまりにも固かったし、逆に言うと、認定基準の見直しさえ明言しなければ、何を提言しても実現に努力するという環境省の姿勢を逆手に取ったと言えるかもしれない。


Aさん漏れなく救済・補償するんだったら、認定基準の見直しと結果的に同じじゃないんですか。

H教授そうはいかないだろう。これまでも政府は未認定患者に対してはいろんなことをそれなりにやってきていたんだ。だが、認定患者と同様の補償はできないし、新たな救済・補償も最高裁判決よりは低いものになるだろうから、訴訟に訴える患者も後を絶たないだろう。
10年後か20年後かは知らないけど、認定基準にも手をつけざるをえないんじゃないかな。


新たな河川行政の芽生え

Aさんその他になにかあります。

H教授ちょっとローカルな話題なんだけど、ぼくの住んでいるS市の中央をM川が流れている。県管理の二級河川なんだけど、緩やかにS市を流れていたM川はそのあと渓谷になって、T市に出て再び緩やかに流れ、瀬戸内海に注ぐんだ。
ここの渓谷部にダムを設けて下流の洪水を防ぐっていう計画があって、それがずうっと議論になっている。

Aさんダムができれば渓谷の景観が台無しになるし、生態系への影響も大きいってわけですね。

H教授まあ、そうなんだけど、いろいろと経緯がある。もともとは古く62年に多目的ダムとして計画されたんだ。つまり一大ニュータウン構想があって、その水がめとして考えたのが最初じゃないかな。

Aさんなんだ、もとはそっちなのか。


H教授そのニュータウン構想は頓挫したんだけど、87年には洪水時だけ水を貯める穴あき式の治水ダムに計画変更し、93年に事業採択された。だけど、反対運動がやむことはなかった。

Aさん利水から治水に目的変更して事業継続ですか。似たような話はどこにでもあるんですね。長良川河口堰もそうだったし、諫早干拓だってそうですよね。

H教授ちょっと違うのは県が強硬突破しようとはせず、04年にいったん白紙に返し、流域委員会を公募方式で発足させた。その委員会に97年の河川法改正を受けて、今後100年の川づくりの指針である「河川整備基本方針」と今後30年間の具体策を決める「河川整備計画」の原案づくりを諮問したんだ。当然、このダム計画を将来どうするかで議論が沸騰する。

Aさん流域委員会…。どこかで聞いたような話だなあ。あ、淀川水系のときの話に出てきてましたよね。河川法の改正で各水系に流域委員会の設置が義務づけられたんでしたっけ。

H教授正確に言うとそうじゃないんだ。新河川法では、「河川整備基本方針」を国土交通大臣が決めようとするときは社会資本整備審議会、知事が決めようとするときは河川審議会が設けてあれば河川審議会の意見を聞かねばならないと決めている。
河川管理者、つまり国土交通大臣または知事は、その河川整備基本方針のもとに「河川整備計画」を定めねばならないとしているんだけど、その案を作成しようとするとき、必要があるときには学識経験者の意見を聞かねばならないし、関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならないし、また同計画を定めるときには自治体の長の意見を聞かなければならないと義務づけられたんだ。


Aさんあれ、「流域委員会」なんて出てこないですね。

H教授うん、現実には新河川法の地元住民や有識者の意見を尊重するという趣旨をさらに進めて、河川整備基本方針の案作りの段階で国土交通省の地方整備局長が、学識経験者や地元住民の意見を集約する組織として「流域委員会」をつくるようにしたんだ。このひとつが淀川水系流域委員会だ。逆に言うと、法定の審議会が形式化・形骸化しているって現実への反省を踏まえてのことなんだろうな。

AさんM川は県知事の管理する二級河川だから、県版の流域委員会をつくり、その答申が出たというわけなんですね。

H教授うん、いわゆる「総合治水」ってやつで、今後30年間はダムなしって提言をまとめた。流域内の公園、校庭や水田、ため池を遊水地として活用したりして、対応しようということだ。
田中前長野県知事の脱ダム宣言を住民参加方式で下から積み上げたようなもんだ。

Aさん県はどうなんですか。

H教授新聞で読む限り、建前上はダムは必要という姿勢は崩してない。だけど、それはダムは必要だとする流域の市町村の手前そうしているだけで、本音は撤退じゃないかという気がする。第一そんなカネがないだろう。
いずれにせよ、ここ1〜2年で「河川整備基本方針」をつくり、そのあと「河川整備計画」づくりに着手することになる。

Aさんふうん、この講義でも何度か淀川流域委員会の話を取り上げていますけど【6】、足元でも似たような話があったんだ。

H教授それだけじゃないんだ。河川法改正で環境重視と住民参加を強調したんだけど、M川の場合は「河川整備基本方針」がまだできていないから、具体的な整備のための「河川整備計画」がつくれないんだ。でも予算もあるし必要な整備はしなきゃいけない。

Aさん河川整備計画ができるまでの間は今まで通り、河川管理者が勝手に決めて整備するんですね。

H教授いや、それがM川のS市区間を管理する県のS土木事務所は、「M川上流ルネサンス懇談会」という、NGOや川に関心のある住民を集めた組織を立ち上げたんだ。そこの意見を踏まえて、ちょっとした工夫とアイデアで親水性と環境保全に資する事業を実施するという。ミニ自然再生事業もこの懇談会の意見を取り入れてやりたいと言っている。その懇談会は公開するし、傍聴者も自由に意見が言えるようにすると言う。
つまり法定の河川整備基本方針や河川整備計画ができる前に、市域レベルで有識者と関係住民の意見を集約して、事実上の河川整備計画的なものをつくっちゃって、それにより整備を実施しようとするものなんだ。

Aさんへえ、随分先進的な試みなんですね。S土木事務所の独断でやったんですか。

H教授上の指示のもとでやったかどうかは知らないが、少なくとも上の了解を取り付けてはいると思うよ。
そして、この背後には若い熱心な研究者の働きかけがあったんだ。
こういう試みがどこでもなされるようになると、随分風通しはよくなると思うよ。

AさんS市役所はその懇談会に参加してないんですか。


H教授呼びかけたし、参加の意向はあるようだけど、どのセクションが担当するかが決まらず、まだ参加していない。呆れちゃうよ。

Aさんセンセイ、妙に詳しいけど、その懇談会となんか関係あるんですか。

H教授歳食った地元のキョージュだというんで、無理矢理座長にさせられちゃったんだ。メンバーは皆、川や川の生物に詳しくって、いやあ勉強になるよ。


総合治水と水辺の高密度利用

Aさんぷっ、情けない。でも総合治水の考え方ですけど、それだとリバーサイドだとかウォーターフロントの高密度利用を避けろということになりません?

H教授もちろん、そうだよ。日本は台風も多いし、高波や地すべり地帯も多い災害列島なんだ。治水、つまり堤防だとか護岸だとはもちろん必要だけど、それに100%頼ることはそもそも不可能だという認識に立つ必要がある。

激動の日本列島

Aさんそんなことを言えば、地震や火山だってあるでしょう。

H教授もちろんそうだ。先日、石黒耀という火山マニアが書いた「死都日本」「震災列島」というパニック小説を読んだけど、ますますその感を強くした。

Aさんどういうことですか。

H教授地球科学的にいえば、日本列島の下では北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートの三つのプレートがせめぎ合いながら、ユーラシアプレートの下に潜り込もうとしている。つまりニッポンは地下で四つのプレートがひしめき合い、衝突している。だから世界でも稀な火山と地震の巣になっているんだ。
幸い20世紀は比較的平穏無事で、多くの死者を出したのは関東大震災と阪神大震災ぐらいだった。でも21世紀はどうなるかわからない。「震災列島」によれば、関東の大地震、富士山の噴火、東海地震、南東海地震が連鎖反応的に起きることも考えられる。統計的に言えば、今世紀の前半に関東と東海で大地震が起きることになる。
さらに破局噴火ともいうべき超火山(スーパーボルケーノ)爆発だって、過去十万年に何度も起きている。たった一度の噴火で南九州全体を覆うシラス層ができちゃったんだ。「死都日本」は霧島山が吹っ飛ぶ破局噴火が起きたら…というパニック小説だけど、たった一日で何百万の死者が出て、西日本は数日で機能不全、東日本も安泰ではなくなるという恐ろしくリアルな物語だ。

Aさん要は何が言いたいんですか。


原発とエネルギー

H教授日本の繁栄は都市化・工業化と東京への一極集中がもたらしたものなんだけど、百年、千年単位での持続可能なニッポンということを考えれば、それらからの脱却を考えなきゃいけないということだ。
世界の大都市はニューヨークにせよロンドンにせよ安定した地塊の上にあるんだけど、日本は違うんだ。だったら欧米型のまちづくりに追随するのではなく、日本型の安定と繁栄を考えなくちゃいけない。
災害等のあと、簡単にリセット可能だった江戸時代のまちづくりや暮らしに学ぶことは多いと思うよ。
繁栄にはエネルギーが必要だというんで、原発を日本各地に造ってきたけど、そういう意味では恐ろしいと思うよ。フォッサマグナや中央構造線のすぐ間近に作っちゃったなんて、信じられないよ。

Aさんだからこそ、原発については耐震指針があり、9月19日には耐震指針も強化されたじゃないですか【7】

H教授万が一の事故のときでも、飛行機や新幹線の事故ならば、一過性なんだ。ところが、原発事故が起きたら半永久的に日本列島の相当部分に人が住めなくなってしまう可能性だってないとは言えないんだぜ。想定をはるかに上回る直下型の大地震が起きたらどうなるか、ぞっとしたよ。

Aさんだけど原発をやめて火力発電にしたら、地球温暖化を進行させるばかりじゃないですか。


H教授それだけじゃない。その燃料は石炭にしろ石油にしろ海外からのものだ。そりゃあ、備蓄だとかいろんなことをやってはいるけど、安定供給という面では不安だ。

「サハリン2」の教訓

Aさんそういえば日本企業が出資しているサハリンからの石油・天然ガス開発のプロジェクト「サハリン2」の事業認可をロシア政府が取り消したそうですね【8】。とんでもない話じゃないですか。

H教授いろんな政治的背景があるんだろうけど、建前では環境問題を盾にしているよね。それこそノーネットロス原則を貫徹させるぐらいのことをしておかないと、いつだってこういう問題は起きかねない。
だからこそ国産の再生可能エネルギーをギリギリまで追求する必要があると思うよ。

バイオマスのエネルギー利用に向けて

Aさん再生可能エネルギーといえば、バイオエタノール燃料のことがしきりに言われてますね。エタノールってエチルアルコール、要するに飲用アルコールのことですよね。

H教授うん、C2H5OHだ。ブラジルでは国家プロジェクトとして力を入れている。サトウキビの砂糖を抽出した残り滓を発酵させてエタノールにするんだ。

Aさんあ、昔アントニオ猪木さんが入れあげて山ほど借金をこさえたやつですね。猪木さんって先見の明があったんだ。

H教授いくら先見の明があってもタイミングを見誤っちゃどうしようもない。
ガソリンに混ぜたり、あるいはエタノールだけでもガソリンの代わりになる。日本でも一定のエタノール混入を認めているし、いずれ日本でもエタノール専用車が走るようになるかもしれない。
アメリカでも将来の石油枯渇を見越してトウモロコシからのバイオエタノール生産の技術開発に力を入れている。

Aさんでもやはり二酸化炭素は出るんでしょう?

H教授うん、それはそうだけど、もとが植物でいずれ分解して二酸化炭素になるんだから、増加とはみなさないんだ。

Aさん廃物利用ですね。いいことじゃないですか。

H教授廃物ならいいけど、アメリカでの動きをみていると、廃物じゃなく、食料や家畜の飼料に使っていたものまで利用しかねない。
10年前くらいにマイ箸運動てのがあった。割り箸を使うと森林破壊になるというんだけど、まったくナンセンスな話で、端材や間伐材を使って割り箸をつくっていたんだから、有効利用、廃物利用そのものだったんだ。
ところが近年急速に状況が変わって、今じゃほとんどが中国の白樺林を割り箸をつくるために伐るようになって、本当の森林破壊の元凶になっちゃったんだ。
そう考えると、食とエネルギーで資源の取り合いになる恐れがある。
それにバイオマスの活用を考えるんだったら、やはりまず国内からだろう。

Aさん日本国内に資源なんてあるんですか?

H教授原理的に言えばいくらでもある。
生物体を構成しているたんぱく質などの高分子有機物は嫌気性条件下ではアミノ酸などに分解したあと、酸発酵して有機酸やアルコールになる。エタノール生産はこの時点でアルコールを取り出せばいいわけだし、さらに放置しておくとメタン発酵して、最終生成物として炭酸ガス、水素、硫化水素、窒素などとともにメタンガスが生じる。
つまり生物性のものならなんでも原料になる。生ごみ、家畜糞尿、下水汚泥、焼酎かす…。
こうしたものをバイオエタノールという液体燃料にしたり、あるいはメタンガスにしたりというバイオマスエネルギーの可能性は大きいと思うよ。
そしてなによりも日本では膨大なスギ、ヒノキの放置林があるし、放置林でなくても間伐材あるいは間伐すべき材がある。これらバイオマスのエネルギー利用に向けて技術開発を進めるべきだろう。健全な林業と森林を取り戻し、保水力を高めて災害を減らすことにも寄与する。


日本超長期ビジョン

Aさん(冷淡に)それだけじゃ原発や火力発電に取って代わることはできないでしょう。
それにコスト的にも合わないんじゃないですか。

H教授コストに関しては、化石燃料や原子力燃料に高い課税をして、一方、再生可能エネルギーには優遇措置を講じていけばいいだろう。幸い原油価格も上昇傾向にあることだし、思い切って舵を切り直すべきときが近づいていると思うよ。
前にも言ったけど、超長期社会のビジョンのひとつは総エネルギー需要抑制型の社会をつくること、もうひとつはバイオマスや小規模水力風力太陽光など地域分散型再生可能エネルギーを最大限に活用し、その範囲内で<持続可能で豊かな社会>を目指すことだろう。ロビンスのソフトエネルギーパスってやつだね。
最終的には資源もエネルギーも原則自給すべきで、年間食料生産量や雨量、森林成長量などが人口や生産の上限を規定するし、年間再生可能エネルギー量がエネルギー使用量の上限になる。無限成長の幻想を捨てるべきだ。


Aさんそんなこと言ったら、「昭和30年以前に戻れ」ということになるじゃないですか。
…いや違うか。明治以降には石炭をいっぱい使ってたから、じゃあ「江戸時代に帰れ」ってことじゃないですか。
ヤダ! 絶対ヤダ! センセイだって、そんなことできないでしょう。

H教授なにも今すぐそうしろと言ってるんじゃない。
幸い日本の人口は減少傾向にある。今世紀末には半減するかもしれない。そうなれば食料自給は難しくはないだろう。
また、われわれは太陽のエネルギー、風のエネルギー、水のエネルギーといった自然界のエネルギーのほんの一部しか利用してないんだ。その恵みをもっと効率的に利用できるようにする技術開発と蓄電技術のブレークスルーに全力を傾注すりゃいいんで、その進歩の度合いに応じて化石燃料とか原子力への依存度を減らしていけばいいんだ。

Aさんううん、ほんとかなあ。

H教授あとは大規模自然災害で東京や大阪がぶっつぶれたってなんとかやっていける多極社会というかムカデのような多節型の構造をつくる。
もともと日本は自然の恵みを最大限に活かすとともに、自然のおそろしさには畏敬しつつ順応してきた国なんだ。自然を征服するなんて傲慢なことを思わず、自然の至るところに精霊が宿ってると長い間考えてきたんだ。

Aさんセンセ、なんだかU原先生の言うことに似てきましたね。

H教授あの先生は講演を頼むと目の玉が飛び出るほど高い講演料を請求されるそうだ。言行不一致も極まれりだね。その点ボクなんか、一切そういう話はしない。謙虚なもんだ。

Aさん当たり前です。交通費付きで話を聞いてもらえるだけでも御の字じゃないですか。

H教授うるさい。安倍内閣が発足して成長を謳い文句にしているけど、今こそ「Small is beautiful」というE. F. シューマッハのコトバを噛み締めるべきときだと思うよ。


Aさん出ましたね、得意技。読んでないけど、とりあえずそういうコトバだけ知ってるってやつでしょう。

H教授…(赤面)。


注釈

【1】安倍内閣の発足
【2】若林正俊環境大臣の就任
【3】悠仁親王ご生誕
【4】飲酒運転の罰則強化
平成14年6月の道路交通法一部改正により、飲酒運転に対する罰則が強化され、酒気帯び運転により1年以下の懲役又は30万円以下の罰金、酒酔い運転では3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に加え、2年以上の免許取消が科せられることとなった。
 また、平成16年11月からは、飲酒運転の呼気検査を拒否した人に対する罰則の引き上げも行われている。
【5】水俣病問題
【6】淀川水系流域委員会
【7】原発耐震指針の強化
【8】石油・天然ガス開発のプロジェクト「サハリン2」

(平成18年9月27日執筆 同月末編集了)
★本講の見解はEICおよび環境省の見解とはまったく無関係です。