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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.048

Issued: 2007.01.11

第48講 第48講「2006年の総括と2007年の展望 ―附:ハワイ秘話」

目次
フセイン処刑
2007年度政府予算案決定
2006年の総括―EIC選定重大ニュース
進む温暖化、強まる危機感、進まぬ対策
混沌とするリサイクル法制
水俣病50年と漂流・漂着ごみ
キョージュの選んだ重大ニュースあれこれ
拡大ミティゲーションの新展開
キョージュのハワイ

Aさんセンセイ、明けましておめでとうございます! 今回はホントのお正月ですね【1】

H教授うん、キミが珍しくクリスマスも年末カウントダウンも彼氏と過ごしたからな。で、どうだった?

Aさんストップ! その話はなしにしてください。もうやっぱりアタシャ、恋よりも研究に生きるオンナだってよくわかりました。
センセイ、クリスマスは?


H教授すっぽんを食べに行ったけど、ま、いいじゃないか、そんな話。

フセイン処刑

Aさんところで年末も年末。ぎりぎりになってフセインさんの死刑執行がありましたね。
暴君の最後って哀れですねえ。

H教授暴君には違いないけど、民衆が立ち上がって倒したルーマニアのチャウシェスクの最後よりオトコらしかった。いくら圧政とはいえ、フセイン統治下のイラクの方が、現在のイラクよりまだましだったと多くのイラク人は思ってるんじゃないなか。やはり革命は輸出できないということを学ぶべきだろう。
今年も世界の前途は多難だよ。イラクにアフガン、イラン、イスラエル。今年も、中東が世界の火薬庫だろう。

Aさんところで年末の予算編成はどうだったんですか【2】

2007年度政府予算案決定

H教授相変わらず変わり映えしないねえ。救いは税収の伸びを反映して国債発行高が30兆円から25兆円まで割り込んだこと。政府予算案の総額では対前年比4%の増加で82兆9千億円で、自動的に増額せざるをえない予算(「当然増」)も多い中で、公共事業をなんとか削減したことかな。その代わり、「格差是正」、「再チャレンジ」とか「教育再生」とか「美しい国」とか掛け声ばっかりで、実際のところ目玉となるようなものは何もなかった。


Aさん借金を返さなきゃいけないから、公共事業なんかも削減していかなくちゃ仕方がないし、新規予算にそんな回せるわけがなかったんじゃないですか。

H教授そりゃそうなんだけど、だったら発想を変えたらいいんだ。

Aさんどんな風に変えろっていうんですか。

H教授各省ごとに義務的経費を除いて、公共事業やその他の政策的経費については最低限50%は各省が自発的にカットする。その代わり、カット分の3分の1は各省に戻して、各省の責任で自由に予算編成できるようにして、査定もしない。残りの3分の1は各省の縄張りを越えた政治予算にし、公募方式で各省に競争させる。残る3分の1を借金返済に充てる ――なんてのはどうかな。

Aさんそうすると、どうなるんですか。

H教授例えば環境省でいえば、なかなか予算の増えない国立公園の管理費やNGOとの協働といったソフト予算に自分の裁量で回せるようになると思うよ。


Aさんそんなことすれば財務省なんて必要なくなるじゃないですか。

H教授必要がなくなる分、財務省自体を縮小すりゃいいじゃないか。そうすればまた予算が浮く。

Aさんでも、それだってやっぱり各省横並びじゃないですか。

H教授だからそこに風穴を開けるため、カット分の3分の1を集約して、予算を各省より公募した政治予算にするという案を出したんだ。

Aさんセンセイの言うようにしたら環境省は自分の力で相対的に必要性の小さくなった予算を大幅にカットしてよそに振り向けられると思いますか。省内自体も縦割りだし、いろんな圧力があってできないんじゃないですか。
もしセンセイがそのカットされる予算の担当課長だったら、あらゆる屁理屈をこねて抵抗するんじゃないですか。

H教授お、キミも役人生態学が少しはわかってきたじゃないか。でもどうかなあ、時代も変わってるし。この場合、あらゆる屁理屈をこねて、よその課に持っていかれないよう、新規のソフト予算を考えるんじゃないかな。

Aさんホント無責任に好き勝手言ってると言われますよ。
それにしても税制改正では、環境税なんて一昨年以上に問題になりませんでしたね。道路特定財源の一般財源化も、「必要な道路を造ってあまったら一般財源化」なんて、わけのわからないというか先送りみたいな結果に終わってしまいました。
それに佐田行革大臣や本間税調会長が不祥事やスキャンダルで辞職に追い込まれたりして、なんだか安倍サンの支持率も急降下しているみたいじゃないですか。


H教授知り合いの阪大の人が言ってたけど、本間某なんてのは昔からまったく人望のない、知る人ぞ知る権力志向剥き出しのトンデモさんだったみたいだよ。だったら任命責任を問われるのは当然じゃないか。

Aさんセンセイ、本間サンの失墜がうれしそうですね。センセイと同い年だというのに、新地のママを愛人にもって栄耀栄華の限りを尽くしたという有名人ですもんね。「他人の不幸は蜜の味」じゃないんですか。


2006年の総括―EIC選定重大ニュース

H教授う、うるさい。それより去年のおさらいだ!

Aさんはいはい。わざわざ拾い出さなくてもEICネット編集部が選んだ2006年の国内、海外の10大(重大)ニュースがちゃんとEICネットに出ていました【3】。下記の通りですが、なんかコメントありますか。

H教授うーん、国内では今までなんらかの形で取り上げたのが、結構入っているね。海外ニュースの方は、ボクのよく知らないものがいくつも入ってるなあ。
その割に「サハリン2」事件が入ってないな【4】。国内ニュースか海外ニュースかは判然としないが、サハリン2プロジェクトの推進は、ロシアの強引な言い分を日本側が飲む形で決着しそうだ。

Aさん去年の10大ニュース、センセイだったらどういう風にまとめますか。

進む温暖化、強まる危機感、進まぬ対策

H教授ま、ぼくなりに整理すると第一位は「進む温暖化、強まる危機感、進まぬ温暖化対策」ってことかなあ。
EICネット選定の国内第1〜3位と海外第1〜3位までがそれに関連する。
「進む温暖化」ってことで言えば、米国の国立大気研究センターなどの研究結果では北極圏の氷床の後退は予想以上だという。2040年にはホッキョクグマが絶滅するんじゃないかなんて話もあって、米国もホッキョクグマの保護に乗り出したそうだ。
温暖化については危機感だけは強まっている。英国のスターン博士が英国政府の依頼によりまとめられたスターン・レビューが出されると、大きな話題になった。それによると、気候変動対策に要する経費はせいぜい世界全体のGDPの1%だけど、何もしないでいるとその被害はGDPの20%にも達するという。まだぎりぎり間に合うから直ちに大胆な気候変動対策を取るようにと要請した。
また、ゴアさんの映画「不都合な真実」がヒットしている【5】。これも気候変動の恐怖を訴えたものだ。
日本でも第三次環境基本計画温室効果ガス半減社会の超長期ビジョンを早急に決めるとし、英国と手を組んで共同研究をはじめた【6】
一時期「水素化社会」というのが騒がれたが、昨年はバイオエタノールが国際的にブームになる一方で、CO2の地中隔離がしきりに叫ばれるようになった【7】
温暖化対策ってことで言えば、京都メカニズムに対応できるよう温暖化対策法を改正したり、COP12で2008年中に京都議定書以降の新たな枠組みを作るってことを決めたりしているけど、本線の環境税や国内排出権取引制度の構築に関してはまったく進んでいないし、温室効果ガスの排出量については、昨年は原油の高騰があったにもかかわらず、一向に減少していない【8】
去年あたりから、世界各国で原発復帰への動きが盛んになってきたのも気がかりだ。


Aさん今年の見通しはどうですか。

H教授残念ながら基本的にそれほど変わらないと思うな。2008年の米国大統領選挙の結果次第では大きく進展する可能性はあると思うけどね。

Aさん10大ニュースの第一位というより、温暖化=気候変動問題だけで10大ニュースのうちの5つか6つぐらいノミネートされそうですね。第二位、というか第二グループはなんですか。

混沌とするリサイクル法制

H教授「混沌とするリサイクル法制」でどうだい。容器リ法は改正されたけど、せっかく構築されたペットボトルの国内リサイクル制度が、中国への廃ペットボトル流出によって崩壊の危機に瀕している。レジ袋有料化の話も、容器リ法改正では直接的には対応できなかった【9】
一方、容器リ法に続く家電リ法改正の方は検討を開始したけど、廃家電の国外流出の現状把握が先決として、次期国会での改正は見送られたようだ【10】


Aさん今年の見通しはどうですか。

H教授付則で見直しが決められているから、年内には改正に持ち込めるだろう。現行の4品目をいくつまで増やせるか、処理費の後払い制度を先払い制度にできるかどうかが焦点だけど、それはなんとかなりそうな気がする。問題は廃家電の国外流出に的確に対応できる制度化ができるかどうかだ。つまりペットボトルの話もそうだったけど、廃棄物=非有価物という現行法制だけではどうにもならなくなってきたということだ。
ぼくはペットボトルにしても廃家電にしてもリユースという観点からは海外流出には肯定的だけど、それでもきちんとしたリユース法制が必要になってきたんじゃないかと思う【11】

Aさんそういう動きは具体的にあるんですか。

H教授さあ、どうなんだろう。昨年はPSE法騒ぎがあったけど【12】、こういう問題意識はまるでなかったような気がするな。
あとねえ、家電リ法に関して言えば回収4品目を何品目にするかという「ネガティブ・リスト方式」の見直しではなく、全家電製品を原則回収対象とし、これとこれだけはそこから外しても構わないとする「ポジティブ・リスト方式」の導入を真剣に考えるべきときにきていると思うんだ。

Aさんあ、残留農薬の流通に関してはポジティブ・リスト制度が昨年5月末から施行されたんですね。

H教授うん、鳥獣保護法の狩猟鳥獣の指定も、元々そうなってるよね。外来生物法だって、今度見直すときにはポジティブ・リスト方式を検討すべきなんじゃないかな。


水俣病50年と漂流・漂着ごみ

AさんあとEICネット編集部の挙げたもので、何かコメントありますか。

H教授国内第5位の「水俣病公式確認から50年」については、第39講で論じた【13】。その後、与党プロジェクトチームが未認定患者の救済に関して、今夏の「全面解決」を目指して検討を続けてきたが、ここにきて、すべての未認定患者の賛意を得る解決策の提示は断念したという新聞の記事が出ていた。


Aさんやはり水俣病病像論に踏み込まないでの全面救済はムリがあるんでしょうね。

H教授そうだろうな。あと第7位の漂流・漂着ごみ問題は、今年中に決着をつけてほしいね。

Aさんどういうことなんですか。

H教授海岸を歩けばわかるけど、打ちあげられたごみがいっぱいあるし、海底にもたまっている。その処理責任がどこにあるかという話だ。

Aさん法的にはどうなんですか。

H教授そんなものは簡単、捨てたものの責任だ。だけど誰がどこで捨てたかわからないから問題になるんだ。

Aさんでも、法的区分としては、一応は一般廃棄物になるわけでしょう。だったら市町村の責任じゃないんですか。

H教授市町村民が捨てたものならそうだろうが、ほとんどが当該市町村民以外のもので、外国から漂着したものも多い。そんなのがなぜ当該市町村の処理責任なのかって反発するのも当然だと思うよ。それでなくたって市町村にとって、ごみ問題は頭痛の種なんだ。
廃棄物処理法で「一般廃棄物の処理が市町村の自治事務だ」としているのは、自分たちが出したごみを自分たちでつくっている基礎自治体が処理するのは当然だという論理なんだ。
でも漂着・漂流ごみは明らかに自分たちが出したごみじゃないからな。
そういう意味では観光地で観光客の捨てるごみも似たようなものだけど、この場合は観光収入もあるから、市町村も渋々処理してるんだろうな。


Aさん現実には誰が処理しているんですか。

H教授地元の団体やNGOなどがボランティアでごみ拾いをしていることが多い。昔は集めたごみを海岸で燃やしたりしていたんだけど、近年は燃やすことにも批判がある。市町村の協力でなんとか処理しているんだろうけど、市町村の方だって「もうゴメンだ」という声も出ているんじゃないかな。
廃棄物処理法や海洋汚染防止法の改正で海への一般廃棄物の投棄は禁止されたけど、そんなのは当たり前の話で、問題は誰がどういう形で処理するかだよね。
昨年、関係省庁会議が設置されたけど、ぜひ年内にでも現実の対処策を決めてほしいな【14】

キョージュの選んだ重大ニュースあれこれ

Aさんなるほどねえ。ところで今まではEICネット環境ニュース編集部選定の重大ニュース――いや10大ニュースかな―― を論じてきたんですけど、それに漏れたもので重要な出来事はありますか。

H教授いろいろあるさ。その最たるものはNHKの恣意的な報道に端を発した随意契約問題だろう【15】。そして環境省は簡単に膝を屈してしまった。なんでもかんでも競争入札で、「廉かろう悪かろう」が大手を振ってまかり通るようになったら誰が責任を取るんだろうな。

Aさん他には?


H教授国内では淀川水系流域委員会の休止問題【16】。ローカルな問題みたいだけど、90年代に入ってからはじまった情報公開、住民参加、地方分権の流れに棹差すもので、この行方を見守る必要があると思うよ。
どうも安倍内閣になってからコイズミさんのいいところは引き継がず、悪いところだけ増幅させて引き継ぐようなキライがないでもない。この事件もそのひとつだね。今後を見守っておこう。

Aさんそれから神戸製鋼のデータ改竄事件も忘れちゃいけないんじゃないですか【17】。つい最近では電力会社のダム測定データの改竄・隠蔽といった報道もあったし。CSRとかコンプライアンスなどと騒いでいる割には、産業界のどっか根っ子のところが腐りはじめてるんじゃないかという気がします。

H教授それに加えて安倍内閣は企業減税だとか、どうも企業に甘いのも気になるなあ。景気回復ったって、全然実感がわかないだろう?

Aさんそんなところですか。ところで今まで挙げた以外のもので、今年のみどころはなんですかねえ。

H教授自然保護生物多様性の分野でもいろいろ動きがありそうだ。
自然公園の指定と管理の見直しもどうやら環境省は本気で取組むみたいだし【18】、第三次生物多様性国家戦略の検討も本格化しそうだ。多様性条約COP10も日本に誘致するみたいだし、いずれこの場でもじっくり議論しよう。

Aさんあ、そうそう、センセイ、前講でレンジャーアンケートの結果を報告すると言ってましたけど、あれはどうなったんですか【19】

H教授担当する学生に単純集計だけじゃなく、きちんと分析し、考察するように言ってたんだけど、海外に遊びにいっちゃった。


拡大ミティゲーションの新展開

Aさんしようがないなあ。その他に何かありますか。

H教授ぼくが言い出しっぺの「拡大ミティゲーション」の話だけど、例のSさんがボクの尻を叩いてもらちがあかないと喝破され、ご自分で肉付けされた立派な論文をウェブに発表されている。ボクの思いつきからはじまったものが、こんな論文になるなんて夢にも思わなかった【20】。キミ、ちゃんと目を通しておけよ。

キョージュのハワイ

Aさんえー、正月なんだから、少しくらいのんびりさせてくださいよ。アタシャ、本当はハワイにでも遊びに行こうかと思ってたくらいなんですよ。
あ、そうそう。ハワイといえば、センセイ、役人時代の最後の頃ハワイに留学してたそうですね。今までその話まったくしてなかったじゃないですか。ちょっとその話をしてくださいよ。

H教授そんな話いいじゃないか。キミにとっても読者にとっても、別にタメになるような話じゃないから。

Aさんなに言ってるんですか。センセイからタメになる話を聞こうなんて誰も思ってません(きっぱり)。

H教授…。


Aさんそもそもなんでハワイに留学なんて話が出たんですか。

H教授(渋々)別に行きたくって行ったわけじゃない。人事異動なんだ。ボクは国立環境研究所での勤務を3年過ぎていて、異動すべき時期がきていた。一方、ボクが行くはずの次のポストが都合で空かなくなったから、緊急避難という意味もあったらしい。この際、英語を勉強し、研究の雰囲気を学んでこいという親心もあったのかもしれないな。
行き先は東西センターという連邦議会の有名な付属研究所【21】で、Visiting Fellow ということだから、知らない人がみたらハクがつくかもしれないじゃないか。

Aさんなんの研究をしてたんですか。


H教授東西センターは冷戦のさなか、環太平洋諸国を米側に取り込もうという政治的な意図もあって設立されたという話を聞いたことがある。
だから環太平洋諸国とのネットワークがある。こうした諸国の自然保護制度の情報をアンケート等で入手し、それの比較検討考察をして、日本の自然保護制度の検討の参考に供しようと思ったんだ。

Aさんへえ。名目はご立派ですね。

H教授(憮然として)で、向こうへ行き、その話をたどたどしい英語でしたら「こんなのを知ってるか」と渡された英語の本がある。
『太平洋地域の自然保護地域制度要覧」という本だった。アンケートもインタビューもないよな。もうとっくにそういうことがされていた。

Aさんぷ。じゃあ、どうしたんですか。

H教授落ち込んだけど、よく考えればその本をデータベースにして、現地を見てまわり、わからないところだけインタビューしてまとめてみようという風に方向転換した。

Aさんちょっと待って。本を読むのは辞書があればなんとかなるとしても、インタビューなんてセンセイの語学力でできたんですか。

H教授できるわけないじゃないか。だから東西センターの世話で、ハワイ大学の英語ぺらぺらの日本人院生に通訳として協力してもらうことにした。ただねえ…。

Aさんただ?

H教授通訳ったって、ただ英語がうまいだけじゃダメなんだ。行政システムや自然保護制度に習熟していないと、ほんとうの意味での通訳は難しい。


Aさんじゃあ、どうしたんですか。

H教授うん、何箇所かインタビューに行ってそのことに気付いた頃、ちょうど英語学校に午前中通うことになった。行ってみると、宿題が毎日山ほどあり、研究どころじゃなくなった。

Aさんへえ、じゃその代わりに英語がうまくなったんですか。

H教授英語学校の生徒は日本人が大半なんだ。だから休み時間や放課後は日本人だけが集まって日本語が飛び交う。こういう環境じゃあ、うまくならないよなあ。
だけどここでも友人がいっぱいできて楽しかったよ。学生に戻った気分だった。

Aさんでも研究所にいたからには成果物を出さなきゃいけないんじゃないですか。

H教授うん。で最後の方は随分悩んだ。でもある時、天啓が閃いたんだ。
というのはハワイ諸島やグアム、サイパン、パラオなどの保護地域を回ったりしたんだけど、そこの話を聞くとき、日本の国立公園や保護地域の制度の話をしても、まったく向こうの人には理解できないみたいなんだ。もちろん通訳を介しての話だけど。

Aさんそうかも知れませんねえ。日本の制度は「地域制」って言って、国際的には珍しい制度じゃなかったですか。

H教授うん。だったら太平洋地域の人たちに日本の制度の概要と課題、問題点などをわかってもらうための論文を書いて、普及啓発した方がよほど世のため人のためになるんじゃないかと閃いたんだ。


Aさんえ、でもセンセイに英語の論文が書けたんですか。

H教授もちろん日本語でだよ。そしてさっきの日本人院生に英訳してもらえばいいじゃないか。
だから終盤はほとんど半徹夜の状態が続いたんだけど、環境庁の友人の力も借りて、なんとか『日本の保護地域制度』という論文を書き上げた。これがボクの最初の論文だ。

Aさんで、英訳もしたんですか。

H教授ボクが帰国したあと、日本人院生がそうしてくれるはずだったんだけど、東南アジアのどっかの国のNGOに就職したとかで連絡が取れなくなって、そのままだ。

Aさん…(呆れてものも言えない)。
あ、それは日韓共同研究でも使った手ですね【22】。はーん、ルーツはそこにあったのか。

H教授ところでキミ、役人の評価は相対評価だって知ってるか。

Aさんはあ、なんですか、突然。

H教授優秀な前任者のあとだと評価は厳しくなる。後任に優秀な奴が来ると後からだけど評価は落ちてしまう。

Aさんそりゃそうですね。


H教授ボクの前任はわざわざ東西センターに行きたくてその道を切り開いたオトコで、当然英語ぺらぺら。で、ボクの後任はというと、なんと外務省出身で環境庁きっての英語の名手。

Aさんじゃあ、最悪じゃないですか。センセイは大学受験のとき以来、英語とはまったく無縁に過ごしてきたんでしょう。

H教授うん、その通り。だから最悪だな。完璧な落第生。
でも落第生ほど母校への愛着は強いものなんだ。だからぼくは米国はキライだけど、ハワイや米国人は好きなんだ。
それにいいことだってあった。東西センターは冷戦が終結したこともあって、米国にとっての存在意義が低下し、猛烈なリストラがなされていた。
だからそこの環境部にしたら生き残り策を日本の環境庁との連携に求めていた。ボクの前任や後任はそうしたパイプ役も結構したらしいんだけど、ボクには一切そういうことは求められなかった。
ボクの語学力ではムリだって、始めから諦めてたみたいだ。そういう意味では気楽だった。

Aさんで、ハワイに8ヶ月いて ”Thank you” と “Nice to meet you” 以外にも少しは英語はできるようになったんですか。

H教授もちろん。ハワイ・ユー( ”How are you?” )。
じゃあ読者のみなさん、今年もよろしくご哀読ください。

注釈

【1】今回はホントのお正月ですね。
【2】平成19年度政府予算について
【3】EICネット
【4】「サハリン2」について
【5】ドキュメンタリー映画「不都合な真実」
日本公開は、1月20日。
【6】温室効果ガス半減社会についての話題
【7】バイオエタノール・ブームと、二酸化炭素の地中隔離
【8】温暖化対策法の改正
【9】容器包装リサイクル法の改正と課題
【10】家電リサイクル法の見直し
【11】廃棄物の海外流出に関するキョージュの見解(リユースの観点から)
【12】PSE法騒ぎ
【13】水俣病公式確認から50年
【14】漂流・漂着ゴミに対する国の対策について
【15】随契問題
【16】淀川水系流域委員会の休止
【17】データ改竄事件
【18】自然公園の指定と管理の見直し
【19】レンジャーアンケート
【20】拡大ミティゲーション論
【21】東西センター
【22】“例の手”のルーツ

(2007年1月4日執筆 同月4日編集了)
註:本講の見解は環境省及びEICの見解とはまったく関係ありません。