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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.075

Issued: 2009.04.07

第75講 再生するか、国立公園

目次
イチローの秘書逮捕起訴
米国はどこへいく──
時のアセス制度のアセスを
壱岐対馬国定公園の旅
影の薄い「国定公園」
霞んでいく「国立公園」
自然公園法の改正と海域保護の課題
脱線―公園事業とは?
再び自然公園法改正 ──外来種駆除を巡って
法律は目的でなく手段である

イチローの秘書逮捕起訴

Aさんセンセイ、景気対策とやらで、ETC搭載車には高速道路の運賃が大幅に値下げ、なんと千円になったそうですよ。麻生サンもたまにはイキなこと、やりますね。
カレとお花見にでも行ってこようっと。

H教授何をバカなこと言ってるんだ。浮かれているんじゃない。少しは「考える」ということをしてみろ!
あんなことをやれば、鉄道やフェリーには大打撃だし、CO2対策から言っても、逆行甚だしい。しかも、一方の民主党はそれを批判するどころか、高速料をただにするなんて言っている。
まったくとち狂ってるな。グリーンニューディールとやらはどこへ行ったんだ!

Aさんあいかわらずへそ曲がりですね。じゃあ、クルマを棄てりゃいいのに…。
でも、ホントに嬉しいこともありました。WBC(World Baseball Classic)で日本が連覇しました! 不調だったイチローですが、最後にやってくれましたね。

H教授ボクは野球音痴なんだ。イチローはイチローでも、別のイチローの話をしよう。

Aさんあ、そうか、小沢一郎サンの公設秘書が逮捕起訴されましたねえ。

H教授うん、なんだか奇っ怪な事件だねえ。贈賄だの利得斡旋だのとおどろおどろしい怪情報が飛び回ったが、結局のところ政治資金規正法の違反だけ。政治家なら誰しもがやっていそうな形式犯に過ぎなかった。
要は小沢サンだけを狙い撃ちにしたということだろう。

Aさんつまり民主党潰しの謀略だと?


H教授ホントのところはわからないが、きわめて意図的で、小沢サン潰し、あるいは民主党潰しが目的だと、言われても仕方がないだろう。
ただ、誰が仕掛けた謀略かはネット上では諸説紛々だ。麻生内閣周辺だとか、規制緩和派だとか、霞ヶ関上層部だとか、果ては米国説までもあるし、シンプルなところでは田中角栄以来の田中派に対する検察の怨念の総仕上げだなどという説もある。
で、だらしないのがマスコミ。検察批判なんてほとんどやらないもんなあ。

Aさん謀略であろうと、なかろうと、違法は違法でしょう。

H教授そりゃそうだが、恣意的すぎるだろう。だったら、まずはウヤムヤなままに終わった検察ウラガネの真相を自ら明らかにしてからにしてほしいね。
小沢サンは政官界のドロドロした裏の裏まで一番知っている政治家だ。
徹底抗戦もいいけれど、この際、すべて暴露して政界を引退するという選択肢もあるかもしれない。

Aさんいずれにしても、これで民主党はイメージダウン。政権交代は遠のいたとして、早期解散なんて話まであるそうですね。

H教授民主党には痛手だろうが、だからといって自民党の人気がアップしたわけでもないだろう。二階サンの変な話だってあるし、「かんぽの宿」疑惑だって未解明なままだ。政治不信層が増えるだけじゃないかな。

Aさんやれやれ、米国でオバマさんを一気に盛り立てたような動きは、日本ではないんですかねえ。

H教授まったくだね。米国だけじゃないよ、フランスだって既成政党に飽き足りない国民の間で、弱冠34歳、年収200万円の郵便局員ブザンスノーを先頭とするNPA(反資本主義新党)が、すごい人気を集め、既成政党を脅かしているそうだぜ。


米国はどこへいく──

Aさんその米国ですが、破綻して公的資本の注入を受けた米国最大の保険会社AIGが、幹部社員に目ン玉の飛び出るような高額ボーナスを支給したといって、国民の怒りを買っているそうですね。1億円を越すボーナスをもらった幹部がぞろぞろだそうですから、呆れちゃいますね。

H教授ああ、しかもそれを、破綻の原因をつくった戦犯たちが受け取ったそうだからな。
もっともオバマさんも、対立候補だったマケインさんも、議会でAIG批判を声高に叫ぶ議員たちも、AIGからの政治献金を受けている。
実は高額ボーナスについては、AIGだけじゃなく、欧米の金融機関なども軒並みそうらしい。
モラルだとか「恥」なんてコトバは、あの世界ではとっくに消えたみたいだな。日本は何だかんだいっても、あそこまではひどくはない。

Aさん米国政府はAIGの高額ボーナスのことを知らなかったそうですね。

H教授そんなことありえないだろう。オバマさんはともかくとして、当局が知らなかったはずはない。法的に拒否できないからと静観していただけだろう。契約がすべてに優先する社会というのは、やはりどこかおかしいね。

Aさんで、米国のグリーンニューディール政策はうまくいっているんですか。太陽光パネルが急速に普及して、失業者対策としても機能しているとテレビでやってましたが。


H教授カリフォルニア州の話だね。オバマさんはよくやっていると思うし、グリーンニューディールで頑張ってほしいけど、米国経済の凋落は依然続いていて、ドルが崩壊して基軸通貨から転落するだろうなどと田中宇氏は予測している【1】
田中氏は温暖化陰謀論者で、その点はまったくナンセンスなんだけど、サブプライムローンから始まる経済危機については、その半年も前からドンピシャと当てただけに気になるところだ。

Aさんドルが基軸通貨でなくなればどうなるんですか。

H教授さあ、見当もつかない。世界が基軸通貨なしの金本位制になるなど、想像するだに怖ろしい。


時のアセス制度のアセスを

Aさんところでセンセイ、以前「時のアセス」をやるべきだとおっしゃってたでしょう【2】。でも、3月20日付の朝日新聞によると、97年に北海道で導入、98年の国の通達で全国の都府県でも導入されています。「公共事業再評価制度」というそうですけど。

H教授うん、そうらしいね。でも、この再評価制度で中止・休止になった事業はわずか2%にとどまっている。つまりほとんど機能していないということだ。

Aさんどうしてそうなるんですか。

H教授白紙諮問じゃなくて自治体の継続か中止・休止かという方針案に対しての諮問であること、その自治体の方針案を作成するのは当該事業の企画・実施部局であることがすべてだろう。泥棒に警察の役割をさせている限り、そうなっちゃうよ。
2%ってのは、「時のアセス」の結果そうなったんじゃなくて、何らかの事情で、事業部局自体が中止・休止の方針を出したところなんだろう。
ボクの言っている「時のアセス」とは似て非なるものだ。
こうなると「時のアセス」と称するもののアセスが必要だね。


壱岐対馬国定公園の旅

Aさんふうん、ところでセンセイ、例の“人妻”と壱岐対馬へ行かれたそうですねえ。いかがだったですか【3】

H教授うん、よかったよ。対馬も壱岐もちょうどシーズンオフ。ホテルも貸切に近い状態だったし、名所旧跡はどこへ行っても、ほとんど人影がなく、リッチな景観を独り占めだったよ。そして海の幸をたらふく食った。

Aさん両方とも長崎県ですよね。

H教授うん、だけど距離的には博多からの方が近い。博多から高速船で対馬の下島へ行き、その日に下島を一周、翌日は上島の北西端にある対馬野生生物保護センターへ行った。
ツシマヤマネコが飼育されているんだけど、動物園育ちのせいか、あまり精悍な感じはせず、やさしそうな眼をしていて、留守番させてきたミオ【4】をつい思い出しちゃった。
一帯は棹崎園地という公園になっていて、海がきれいだったけど、韓国は見えなかった。

Aさん韓国では「対馬は韓国領だ」という人もいるそうですね。


H教授まあ、昔から歴史的なつながりは深いからなあ。
ただ、竹島と違って、国際政治の場でそんなことを言う人はさすがにいない。韓国資本が入ってきたり、韓国人が不動産取得したりはしているようだけど。
対馬は魏志倭人伝にも出てくるくらい歴史的に由緒のある島だ。
上島と下島に分かれているけど、もともとは狭い地峡でつながっていたのを、日露戦争前に運河で切り分けたんだ。
戦争中は日本一の要塞と言われていて、大西巨人の不朽の名作『神聖喜劇』はここでの軍隊体験を描いたものなんだ。大西巨人は知っているだろう?

Aさん知りません(あっさり)。

H教授やれやれ。
で、翌日は壱岐に行き、2泊して島の各地を回った。
対馬は、山また山で湾が入り組んだ細長く大きい島だったけど、壱岐の方はもっと小さく、平坦で円形に近い島だ。
ここも魏志倭人伝に一支国または一大国として出ている、古くから開けた島で、至るところに遺跡があって歴史マニアにはたまらない島だ。ま、ボクにはここの鉱物の方に興味があるけどね。


影の薄い「国定公園」

Aさんちぇっ、いいなあ。壱岐対馬は国定公園ですよね。

H教授うん、環境省の国庫補助事業で作った園地や駐車場の看板には国定公園の文字はあったけど、ショックだったのは、観光のパンフレットにはみごとに「国定公園」のコも書いてなかったことだ。

Aさん知られてないんですか。

H教授観光パンフレットを作成した市や観光協会は当然知ってはいるだろうが、書く必要性を認めなかったんだろう。つまり集客手段として国定公園の名前などもはや不要だとみなしているということだ。

Aさんどうしてですか。

H教授国定公園は国立公園に準ずるすぐれた風景地だよね。逆に言うと、国立公園よりも格が落ちるということだ。だから客寄せのタネにはならないと思われているんじゃないかな。
展望地点や駐車場などに「国定公園」という看板は出ているものの、それ以外はそもそもどこが国定公園かということもわからない。


霞んでいく「国立公園」

Aさん国立公園は違うんですか。

H教授うーん、国立公園だって、どこからが国立公園かわからないことが多いが、それでも国立公園という表示の入った看板はまだあちこちで見られるような気がするなあ。
そういえば、昔の日本地図には国立公園って図示していたけど、最近の地図には出ていない。

Aさんそりゃあひどいじゃないですか。環境省は断固として申し入れしなくっちゃあ。

H教授そりゃあそうなんだけど、国土地理院の五万分の一の地形図にだって昔から図示されていない。そちらの方が先決だって逆ねじ食らわされたら反論できないからなあ。

Aさん情けないなあ。でも、国定公園にしてくれって陳情がかってはいっぱいあったんでしょう?

H教授うーん、1960年代は国定公園も観光地としてのステータスだったからなあ。それと国庫補助事業もあったからな。むしろ、そっちが目当てだったんじゃないかと言いたくなってくるよ。


Aさんそれに壱岐対馬もそうですけど、2つ以上の地名がくっついた名称の自然公園が多いですねえ。

H教授うん、国立公園の場合、日本を代表する風景地が50も60もあっちゃあおかしいというので、1955年くらいまでは数を増やさないという方針をとっていたらしい。だから数を増やさないように、くっつけちゃったんだろうけど、まったく景観のタイプも違うし、利用上の連携もないものを一つの公園にしちゃうと、イメージがかえって拡散する恐れがある。
大山と隠岐だとか霧島と屋久だとかを一緒にするのはおかしいよね。富士と箱根をひとつにして富士箱根はいいとしても伊豆までも一緒にするのは明らかに行き過ぎだと思うね。
こうしたことがかえって国立公園や国定公園の認知度を下げているのかもしれない。

Aさんそういえば日光国立公園から尾瀬国立公園が独立しましたね。

H教授いいことだよ。環境省もそのあたりにようやく気付いたのかな。
新しい発想で自然公園体系を見直すべきときが来たと思うよ。

Aさん同じ時期、若狭湾国定公園から丹後半島や天橋立が独立して「丹後天橋立大江山国定公園」もできましたね。これもその流れですか。

H教授さあ、そうかもしれないが、ここでは里地里山を意識した国定公園を指定したらしいよ。丹後半島の世屋高原だとか、大江山の山麓だとか、里地里山保全活動が行われている地域が公園区域に取り込まれている。里地里山を中心とした新しいタイプの国定公園に発展するといいんだけどね。


自然公園法の改正と海域保護の課題

Aさんところで、前にとりあげた自然公園法の改正はどうなったんですか【5】

H教授うん、改正法案が閣議決定されて国会に提出された。別に対立法案じゃないから、可決は間違いないだろう。

Aさんその割には新聞でもテレビでも報道されませんでしたね。

H教授そんな大騒ぎするほどの大改正に見えなかったからだろう。

Aさんえー、だって自然公園前面の浅海域の保護を目指す画期的な改正じゃなかったんですか。センセイ、そう言ってましたよ。


H教授いや、それはまだ未知数、そうなる可能性はあるけど、まだわからない。
今後、環境省が海洋基本計画【6】なんかも援用して、いかに頑張れるかだよな、うん。

Aさんひとりで納得してないで、中身を話してください。

H教授つまり海域の保護強化に関しては、従来の海中公園地区の名称を海域公園地区に変更して、若干の規制強化を行うこととされただけのようだ。自然環境保全法の方もほぼパラレルで自然環境保全地域海中特別地区を海域特別地区に改めて、同様の規制強化を行う。

Aさん規制強化というと、海中だけじゃなく、海面上の行為も規制されるということですね。

H教授うん、海中公園地区に顔を出している岩礁などでの破壊行為は従来は規制されていなかったが、そういうものも規制されるようになった。

Aさん具体的に何か問題になっているところがあるんですか。

H教授さあなあ。
実際に意味があるのは、動力船の運行について海域公園地区内に区域及び期間を決めて規制──つまり要許可行為──としたこと。また陸域と同じように、海域公園地区内に利用調整地区、つまり立ち入り自体を制限できる地区を指定できるようにしたこと、あとはこれまで海中公園地区では自然公園ごとに指定する動植物の採取捕獲を規制していたんだけど、それを海域公園地区ごとに規制する区域と種を指定するようにしたことかな。


Aさんえー、なんだかよくわからないな。
要はそれまで「海中公園地区」と言っていたものを、「海域公園地区」と改名して、海中だけじゃなく海面上も規制できるようにしたことと、「海域公園地区」の中に「動力船規制地区」と「利用調整地区」を設けるということですか。

H教授まあ、そういうことになる。「動力船規制地区」というのは法律上の名称としては特に定まっていない俗称だけどね。

Aさんその「動力船規制地区」というのは、グラスボートなどを排除する区域ですか。

H教授いや、既得権があるし、一律に排除することは公園利用上マイナスの方が多い。コントロールして無秩序にならないようにしようということだろう。
どれだけの地区を指定しようとしているのかはわからないけど。

Aさん利用調整地区の方は、具体的に問題になっている地区はあるんですか。

H教授さあ、よく知らない。

Aさんなんだ、じゃあ、大した改正じゃないじゃないですか。


H教授いや、実はもうひとつあるんだ。
これまで海中公園地区では自然公園ごとに指定する動植物の採取捕獲を規制していたんだけど、それを海域公園地区ごとに規制する区域と種を指定して規制するようにしたんだ。
仮にこれを「動植物捕獲規制地区」と呼ぼう。海域公園地区では、この「動植物捕獲規制地区」を指定しないと今までの規制も自動的に解除されてしまうから、原則的に現在の海中公園地区はすべて改正と同時に「動植物捕獲規制地区」にするんだろう。
つまり、逆に言うと、「動植物捕獲規制地区」に指定しない海域公園地区、これは現在の海中公園地区より規制の緩い──陸域でいえば、特別保護地区でない特別地域に相当する──海域公園地区が誕生する可能性が生まれたということだ。

Aさんなあるほど、それで、この改正を契機に、海域公園地区をどっと増やして、自然公園の前面海域は大半海域公園地区にしようとするわけですね。

H教授うーん、それはどうかなあ。理論的には可能になったが、現実的にはどこまでそれができるかということもある。
環境省自体がその気になって積極的にそうしようとするかどうか、それに関係省庁がどこまで受け入れるかだろう。自然公園前面の浅海域だと言ったって、結構広く港湾区域や漁港区域に指定されていて、そういうところは難しいだろうな。

Aさん「海域の景観の保護」を図るため、藻場や干潟、景観的に岩礁と一体となった海域をいかに広く指定できるかにかかっているわけですね。

H教授うん、具体的な指定候補地をどれだけ考えているかだけど、下手すれば、区域の拡大はエピソード的なものにとどまりかねない。ま、その場合でも将来に備えての布石だけは打ったという見方も可能だろうが、それじゃあ、ちょっとさびしい。


Aさんうーん、ぜひがんばってほしいですねえ。来年には、名古屋で生物多様性条約COP10が開かれますものねえ。
ところで、いわゆる海面普通地域の面積はどれくらいなんですか。

H教授さあ、環境省の公式な統計資料では陸域しか出ていなかったような気がするなあ。
何かの資料で見た記憶があるけど、国立・国定公園合わせて170万ha程度、陸域面積のちょうど半分くらいだったと記憶している。

Aさんじゃあ、海岸線延長はどれくらいですか? 前面海域が国立公園になっている率は? 国立公園でも自然公園全体でもいいんですけど。

H教授うーん、これも正確な記憶はいけど、自然環境保全基礎調査の一環でデータが出ていたと思う。
…確か、全国の海岸線3万2千kmの半分弱が国立・国定公園に指定されていたんじゃなかったかな。

Aさん普通地域でなら海域も相当程度カバーしているんですね。それを意味のある保護海域にできるかどうかが問題なんですね。センセイ、そんなに悲観的にならないで、ここはひとつ、環境省の頑張りに期待しましょうよ。
ところで海域以外の改正点はなんですか。

H教授第一に目的規定に「生物の多様性の確保」というのを入れた。目的規定の変更というのは法律屋さんにいわせると抜本的な大改正ということになるそうだが、問題は具体的な中身がどう変わるかだよねえ。

Aさんで、どう変わるんですか。

H教授特別地域の中の指定する地域での植物の損傷と、外来生物の放出──つまり持ち込み──が規制される。つまり要許可行為になる。

Aさんまあ、当然と言えば当然ですね。でも特別地域全域じゃないんですね。

H教授全域ということになると、特別保護地区との差がなくなってしまうからかなあ。
あともうひとつは「生態系維持回復事業」の創設だ。例えばシカの食害が問題になっている地域があるが、防護柵を設置したり、追い出したりして食害を防ぐような保全のための事業全体を「生態系維持回復事業」として公園計画に位置づけ【7】、公園事業と同じように積極的に事業を推進できるようにしたことだ。
公園事業は基本的に施設を作り運営する、いわば「施設の概念」だけど、こうした保全のための事業は、むしろ「行為の概念」なんだ。


脱線―公園事業とは?

Aさんところで公園事業ってなんですか。

H教授公園計画──普通は利用施設計画──に基づいて行う事業を公園事業というんだ。
米国の国立公園は基本的に公園当局が土地を管理している、いわゆる営造物公園だが、ホテルだとか、そういう営利を伴うような利用施設は、公園当局の意志を代行して民間が建設運営している。そういうものを「公園事業」と呼んでいるんだ。
日本の自然公園は地域制だけど、公園事業という考えは米国のものをそのまま持ち込んでいる。

Aさんえーと、公園事業は国が執行するけど、地方自治体だとか、民間も国に代わって執行することができるんですね。

H教授うん、環境省以外の国の機関が行うときは環境大臣の同意が要るし、自治体が行おうとするときは大臣の承認が、そして民間が行おうとするときは大臣の認可が必要となるけど、その代わり保護のために規制している行為の許可、つまり公用制限の解除という手続きは不要となる。

Aさん環境省以外の国の機関? あ、そうか。公園利用上必要な車道が利用施設計画に位置づけられていれば、例え国土交通省の国道だったとしても公園事業になっちゃうんですね。

H教授うん、その場合、公園計画の中身を具体的にしようとするときは事業決定という手続きを経て、事業執行の協議をして環境大臣が同意すれば事業執行できるということだ。

Aさんホテルなんかはどうなるんですか。

H教授まったく同じだ。公園計画に宿舎という計画があって、民間も宿舎事業として認可を受ければ公園事業が執行できる。

Aさん公園計画に宿舎がない場合は宿舎、例えばホテルや民宿は建てられないんですか。

H教授その場合は宿舎という計画を追加して公園事業として認可を受けて執行する方法と、そうではなくて、大臣の許可をとってやるという方法がある。
後者の場合は許可基準を遵守しなければいけないが。


Aさんえ、なんだかよくわからないな。認可と許可って同じようなものじゃないんですか。

H教授法律的にはまったく違う概念らしいんだ。
前者は国に代わって執行する、いわゆる特許事業で、後者は公共の福祉のための制限を部分的に解除することらしい。

Aさんでも結果的に、宿舎ができることに違いはないでしょうし、宿舎としてやっていることだって大差ないわけでしょう。
いくら国に代わって執行する公園事業だからといって、自分の土地に建てたホテルなんかだと、経営にまで口出しできるわけではないでしょう。

H教授公園事業の場合は、許可基準に縛られないが、宿舎であれば収容力など事業決定で決められた大枠の範囲でなければ認可されないし、管理計画などで建築物の高さや規模なども縛られている。でも、通常は許可基準よりはゆるい基準だから、許可基準と比べたらかなり大きなものだって建てることは可能だ。

Aさんじゃ、かなりフリーじゃないですか。公園事業だからこそ、規模も含めて、余計に環境保全に配慮しなければいけないんじゃないですか。

H教授うーん、今日はよいところをつくなあ。
そうなんだ。実際問題、法律屋がなんと言おうと、民有地の特別地域なんかだと、わざわざホテルなどを公園事業にする意味は薄いんだ。
意味があるとすれば、原則許可できないような特別保護地区だとか、第一種特別地域、あるいは環境省所管地などの場合だよね。あと国有林も、公園事業でないと、土地を貸さないようだ。
地域制の公園、特に民有地の多い公園では民間の執行する公園事業というのは、もともとかなり無理な制度なんだ。だけど、昔は、民有地の民宿でもホテルでも、大きなものから小さなものまで片っぱしから指導して、公園事業として認可申請させちゃったケースがいっぱいある。今さらそれを公園事業でなくてもいいなんて言えないじゃないか。


再び自然公園法改正 ──外来種駆除を巡って

Aさんヘンなの。まあ、いいわ。話を戻しましょう。
公園事業は本来、国が執行するものですよね。「生態系維持回復事業」なんて、まさにぴったりじゃないですか。

H教授でも、そもそも公園計画で位置づけてなければ公園事業は執行できない。

Aさんだからこそ、「生態系維持回復事業」を公園事業と同様のものに位置づけるような改正をしたわけでしょう。

H教授うーん。

Aさんえ? 何かあるんですか。

H教授現場で困っていることとしては、特別保護地区内における外来生物の駆除問題がある。

Aさんそりゃあ、そうでしょうね。せめて特別保護地区ぐらいは完全に外来種を駆除したいですよね。

H教授ボランティアなんかの助けを借りてね。だが、勝手に駆除したら自然公園法違反になる。

Aさんえー、そんなバカな。いいことをやるんじゃないですか。じゃ、どうしろというんですか。


H教授現行法のままだと特別保護地区内で動植物を採取する時は自然公園法上の許可が必要になる。たとえそれが外来種であっても必要になるんだ。環境大臣名の仰々しい許可書だ。時間も手間もかかる。
それをなんとかもっと簡便にできないかという現場からの声があるらしいんだけど、そのため生態系維持回復事業というのを創設し、それを公園事業並みに扱うことで、許可手続きを不要とするのもねらいらしいんだ。

Aさんえー、そうなんですか。でも、なんだか、かえって面倒くさくなりそうな気がしますけど。

H教授その通りだ。公園計画に組み込み、事業決定するなんていうと審議会にもかけなきゃいけない。そんなもの施行規則をいじって不要許可行為にしちゃえば、よさそうなものだと思うんだけどねえ。

Aさん法技術的に難しいんですか。

H教授さあなあ。法技術的に難しいのかもしれないし、大臣にお願いして許可してもらうというより、国に代わって執行する公園事業の一環だという方が、ボランティアにとってはプライドを満足できるだろうって考えたのかもしれない。


Aさんそれよりは、もっと簡便に許可する方法を考えた方が、よほどいいように思いますけど。

H教授そうだよね。今じゃあ、税金の申告までネットでできる時代なんだから、いくつかの申請行為を限定して、そうしたものはネットで申請を受け付けりゃあいいんじゃないかと思う。

Aさんそういう簡易申請、即決許可のような運用も考えるべきですねえ。それが現場志向ってことじゃないかしら。


法律は目的でなく手段である

H教授なんでこういうふうになるのかっていうと、今の役人の間では、法律を制定したり、改正すること自体が目的になってしまっているような気がするんだ。
法律は目的達成のための手段であって、目的そのものじゃないんだ。だけど、法律の制定や改正は役人の勲章みたいに思ってるところがあるんじゃないかな。運用の改善だけで、ずっとよくなることだっていっぱいあるのになあ。

Aさんなるほどねえ。そういえば、法改正で登場した利用調整地区制度にしても、風景地保護協定制度についても、公園管理団体制度にしても、必ずしもうまく機能してないようですね。

H教授利用調整地区は西大台ケ原だけで、指定したはいいが、入山者が減ったそうだ。そのため立ち入り認定の受付を代行する地元では、受付事務を返上したいと言っている。
なんでも立ち入り認定を受けるためには、書面に入山希望者全員の署名捺印が必要なんだそうで、その煩雑さを嫌ったんじゃないかという話だ。
利用調整地区はそれこそガイド付きツアーとリンクさせて、WISE USE(賢明な利用)と地域振興と自然保護のWIN-WIN関係を目指すべきで【8】、だったら、それこそ代表者からのメールや電話で受け付ければいいだけの話だと思う。
どうも法改正をしても、そのつくった制度をうまく運用し、育てるという発想が欠如しているんじゃないかな。

Aさんへえ、今日はやたらセンセイ、古巣に対して厳しいですね。

H教授え、そんなことはないよ。一歩前進には違いないんだから、評価はしているけど、国立公園の保護と利用についての初心を忘れるなって激を飛ばしているだけさ。
つい先日、『再生する国立公園』(瀬田信哉著、清水広文堂発売 2,200円)という本が発売されて、それを読んで刺激されたからかも知れないけどね。

Aさんへえ、どんな本なんですか。

H教授著者の瀬田サンは元レンジャーで、一時期ボクの上司だったこともあるんだけど、情熱の塊のような人だ。
で、第一章は「レンジャーの日々」ということで、ヤクザから代議士までを相手にした現場での苦闘を綴っている。第二章はレンジャーがそれまで属していた厚生省国立公園部から環境庁自然保護局への移行前夜のことだ。国立公園部の移管に抵抗する厚生省本省の意向に反して、各地のレンジャーが環境庁に移行しようと反乱の狼煙を上げたその記録。あとはまだ読んでる途中なんだけど、ボクもよく知っている先輩たちが次々と登場していて、いやあ、実に面白い。
もちろん、昔の非組織的な時代と違い、今じゃあ、こういうことはしようたってできないようになっちゃったけど…。

Aさん(遮って)センセイがそういう組織にした責任の一端を負っているんじゃないですか。

H教授う、うるさい。ブロック専決制は必要なことだったし、ボクがやらなくてもいずれ誰かがやったよ【9】
ただ、霞ヶ関から物事を考えるんでなく、現地からものを考えること、現地から行動を起こすというレンジャー魂を忘れるなってことを言いたかったんだ。

Aさん(小さく)よくいうわ。自分が楽したいから、ブロック専決制を思いついただけのくせに。
ま、いずれにせよ国立公園の再生を願いたいですねえ。なんといっても日本人の心の故郷ですもんねえ。


H教授うん、そういえばもう4月だ。吉野の桜もボチボチ見頃じゃないかなあ。吉野熊野国立公園というより、「国立公園・吉野」っていう方が、ぴったりくるなあ。
そうだ、高速代もETC搭載車は大幅に値下げしたそうだから、クルマを飛ばして行ってくるか。たまには麻生サンも乙なことをやってくれるなあ…。

Aさんセ、センセイ…。最初に言ったことを覚えてないんですかあ。もう、この人でなし!(憤然と席を蹴って立つ)


注釈

【1】
田中宇氏、米国経済の凋落を予測
【2】時のアセスの導入について
第71講「「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決」
【3】例の“人妻”
第70講「世界同時経済危機の真っ只中で」
第27講「道東周遊随想―世界遺産登録と海域保護」
【4】愛猫ミオ
第72講
第46講「動物愛護を巡って2 ──動物愛護管理法の話」
【5】自然公園法の改正について
第73講「自然公園の新たな海域保護制度を予想する」
【6】海洋基本法と海域保全
第70講「海洋保護区の設定、検討開始」
第55講「その他の話題」
【7】自然公園法における「公園計画」の位置付け
第54講「国立公園ヌーベルバーグ」
【8】地域振興と自然保護のWIN-WIN関係
第64講「エコツー法と特定自然観光資源」
第54講「国立公園ヌーベルバーグ」
【9】国立公園のブロック専決制
第7講「レンジャーの現在と将来」

(平成21年3月29日執筆、同年3月末編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。