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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.058

Issued: 2007.11.08

第58講アフリカの心、日本の心―サンコン氏との対談

目次
防衛省を解体せよ
老舗よ、オマエもか! ──赤福
サブプライムローン
時評1 水俣病与党プロジェクト対策案まとまる
時評2 浜岡原発差し止め請求判決が出る
「ポスト京都」の万華鏡
万華鏡・その1 ──IPCCとゴア氏にノーベル賞
万華鏡・その2 ──米国上院の動き
万華鏡・その3 ──経済同友会の動き
万華鏡・その4 ──松下電器の場合
万華鏡・その5 ──世論調査で環境税容認に
万華鏡・その6 ──バイオ燃料の新たな動き
万華鏡・その7 ──「2050低炭素社会プロジェクト」再説
アフリカと日本―サンコン氏との対談から
読者からのお便り

防衛省を解体せよ

Aさんセンセイ、この1ヶ月間もいろいろありましたねえ。防衛省元次官の不祥事、相次ぐ食品表示の虚偽の発覚、サブプライムローン問題。他にもいろいろありました。
それにしても、あの防衛省の守屋って元次官はヒドイですね。

H教授ああ、この時代にあんなのがまだいただなんで、ヒドイ話だよね。
ボクは今、小さな地方都市の市役所の倫理審査会の仕事もやらされているんだけど、相談の中には「人事異動で中学校のときの同級生が<利害関係者>になった。彼とワリカンで飲みに行くことは倫理規定に違反しないか」なんてものまであった。


Aさんそんなことまで! いくらコンプライアンスの時代だからと言って、ちょっとやりすぎじゃないですか。それと較べて、この守屋って人のやったことは、ひどすぎませんか?

H教授もちろんそうなんだけど、もっと気になるのは防衛省の体質だ。守屋某はあれだけ昔っからおおっぴらにゴルフ接待を受けていたんだから、防衛省中でも早くから広く知られていた話だと思うよ。
それが次官まで昇進して、大物次官と言われるようになったこと自体が問題だ。
歴代の次官だって注意してやめさせなきゃいけなかったのに、そうせず次官まで引き上げたというのは、代々似たようなことをやっていたと言われても仕方がないんじゃないか。
部下だって諫言できないまでも、もっと早くにマスコミか何かに内部告発があってもよかったのに、それが今までなかった。それだけじゃない、絶対に新聞やテレビでは言わないけど、防衛省の記者クラブの連中だって知っていたんじゃないかな。
つまり、同じ穴の狢が防衛省にはわんさか巣食っているんじゃないかと勘ぐりたくなる。
昔はともかく、今の中央省庁にそんな役所があるなんて、夢にも思わなかったな。

Aさんケーサツやケンサツも──中央ではどうか知りませんけど──、地方では似たようなことをつい最近までやってたんじゃないですか。

H教授うーん、治安に深く関わっている役所ほど、上意下達が徹底している昔ながらの封建社会なんだよね。
あれじゃあ、シビリアンコントロールがどうのこうのと言ったって、信用されないよね。
マジメな自衛官が泣くよ。

Aさん歴代の大臣は何をやってたんでしょうね。そんな噂ぐらいは聞いていたはずでしょう。


H教授ああ、その通り。
まったく知らなかったとしたら無能そのもので、そもそも大臣になる資格がないし、聞いていながら役人と敵対したくないだとか、防衛庁の省昇格問題に差し障りがあるからといって、黙認していたとしたらもっと悪い。いや、中にはご相伴にあずかったのもいたらしいから、「なにをかいわんや」だね。
夫と一緒に進んで接待を受けたという守屋夫人だってどうかしているよ。彼女だって新聞くらいは読むだろう。自分の受けている接待ゴルフが世間の非常識、いや、犯罪だということに気付かなかったのかねえ。

Aさんでもあの元次官は証人喚問では、接待だけで便宜供与はなかったと証言していますが。

H教授ちょっと信じがたいが、仮に直接の便宜供与の指示がなかったとしても、某商社の某専務が大物次官とツーカーの仲だということは省内周知の事実だったんだ。だったらそれだけで、プレッシャーを感じたとしても不思議はない。部下連中は某商社から持ち込まれた案件なら、半ばムリ筋でもたいがいは通そうとしたんじゃないかな。
防衛省に骨のあるマトモな官僚がいれば、そもそも守屋某が次官に昇進することなんてあり得なかっただろう。

Aさんこれで守屋氏と対決した小池サンの評価がアップするんじゃないですか。

H教授その時点で底なしの接待漬け疑惑を突きつければよかったけど、それもやらなかったんだから、大して評価できないねえ。
いずれにせよこの際、防衛省からもう一度防衛庁に戻せと言いたいよね。いや、それどころか一度解体して、出直しを図るべきだと思うよ。

老舗よ、オマエもか! ──赤福

Aさんところで赤福に比内鶏と、相変わらず食品の不祥事が続いていますね。で、昨日(=30日)は船場吉兆までが発覚。なんだか、この世界ではモラルハザードが起きているんじゃないですか。

H教授まあ、昔からいつだって似たような事件は起きているから、そう早々と断言すべきじゃないだろう。
ところでボクが関係しているある研究会で、「老舗」についての研究報告を聞いたことがある。いろんな老舗に対してアンケートやインタビュー調査を実施し、「老舗とはむやみに規模拡大を図らず、顧客第一、信用第一で、CSRなんてコトバがない時代から社訓としていわばCSRを実践してきたところで、だからこそ代々続いてきた」って結論だった。


Aさんそれがどうかしたんですか。

H教授その老舗の典型例として挙げて、絶賛していたのが、例の赤福だった。

Aさんへ?(絶句)

H教授やはり外からいくらアンケートやインタビューしてみても、わからないものだなあと思ったよ。

サブプライムローン

Aさんところで、米国のサブプライムローンの問題が、夏ぐらいから大きく取り上げられてますね。幸い日本への連動は大したことはなかったようですけど、ヨーロッパまで銀行の取り付け騒ぎが起こる騒ぎになりました。アタシャ、センセイと同じ経済オンチですからよくわからないけど、センセイもびっくりしたでしょう。

H教授サブプライムローンってコトバ自体は知らなかったけど、中身はこの春から知ってたよ。

Aさんえ? ウソでしょう。

H教授ウソじゃないよ。温暖化懐疑論者の田中宇氏が3月にブログで取り上げてて、それで知ったんだ。でも一向にマスコミが取り上げないから、また田中氏一流の偏見・独断・誇張かと思ってたんだけど、少なくともこれだけはみごとに的中した。
でも強力な情報網を持つマスコミなのに、一民間人より遅いというのはどういうわけだろう。


時評1 水俣病与党プロジェクト対策案まとまる

Aさんさあ、ぼちぼち環境絡みのニュースにいきましょうか。
水俣病の問題は何度か取り上げてきましたけど、与党プロジェクトの結論が出ました。
一時金150万円、療養手当て月額1万円で2つの被害者団体と概ね合意したそうです。これで政治決着といくんでしょうか。

H教授第55講でも言ったように【1】、95年の政治決着と同じ結果になる可能性が強いと思うよ。拒否する団体がまだあって、訴訟になれば最高裁ですでに判例が出ているから、国側敗訴となるのは確実だ。
水俣病の認定基準を変更して、まず水俣病と認めることからスタートする以外はダメだと思うよ。もはやカネの問題じゃなくプライドの問題だと思うけどなあ。救済策というコトバ自体、使うのはやめるべきだと思うな。

時評2 浜岡原発差し止め請求判決が出る

Aさんそれから浜岡原発の運転差し止め訴訟の判決が、26日に静岡地裁で出されました。国側の全面勝訴でしたね。

H教授うん、全面的に国、電力会社側の言い分を認めた。03年の高速増殖原型炉「もんじゅ」の設置許可訴訟、06年の北陸電力志賀原発2号機の差し止め訴訟【2】と地裁段階での敗訴が続いていたから、国も中部電力もほっと胸をなでおろしただろう。

Aさんでも当然原告側は控訴するでしょう。


H教授あの手の裁判は一般的に高裁、最高裁と上にいくほど、現実容認になる傾向が強いから、逆転判決は期待できないと思うなあ。
ともあれ、昨年原子力安全委員会が新たな耐震設計審査指針を策定【2】し、それに基づいて中電が安全性の評価を終えていることや、柏崎・刈羽原発が先般の中越地震で想定以上の規模の震災にあったにもかかわらず、炉心部は一見それほど大きな被害を受けなかったこと【3】も、裁判官の心証形成に相当影響したんじゃないかな。

Aさんうーん、でもそれでいいんですかねえ。

H教授柏崎・刈羽原発の炉心部は、見た目はたいした損傷はないように見えるかもしれないが、実は核分裂反応を制御する制御棒の一本が引き抜けなくなっていることが先日わかったんだ。それほど安心できる状況じゃないと思うよ。
それに浜岡原発は、東海地震という、今後数十年内には確実に起きるとみられているプレート境界のひずみが解放されるタイプの大地震の震源想定地域のど真ん中に位置しているんだ。日本最大の活断層であるフォッサマグナにも近いから、直下型地震が襲う可能性だって否定しきれないんじゃないかな。

Aさん万一のときの不安は残るってわけですね。

H教授うん、億一か兆一かわからないが、炉心崩壊が起きた場合の被害はちょっと想像がつかないものがある。だから判決は判決として、地震危険地域の既存原発は耐震度アップだけじゃなく、長期的には廃炉の方向に持っていかなきゃいけないと思うよ。


「ポスト京都」の万華鏡

Aさんさて、毎度おなじみ温暖化ですが、COP13の予備会合がいよいよ始まりましたね。本番前だというのに、すでにいろんな動きが出てきているようじゃないですか。

H教授うん、いろんな動きが同時多発的に出ている。予備会合の動きは次回にみることにして、周辺部での動きのいくつかを見てみようか。

万華鏡・その1 ──IPCCとゴア氏にノーベル賞

Aさん―まずは、今月12日、ノーベル平和賞がIPCCとアル・ゴアさんに与えられました。

H教授これはCOP13に向けてのノーベル平和賞委員会の強いメッセージだろうし、ブッシュさんに対する手厳しい批判だと思うよ。

Aさんでもゴアさんに対しては異議のある人もおられるようですね。


H教授『不都合な真実』で温暖化の深刻な影響を訴えているにもかかわらず、ゴアさんの私生活が必ずしも<環境に優しくない>という言行不一致への批判に加えて、その論にもオーバーな部分があって科学的に正しいとは言えないという話だね。
読者からもそういうお便りがあった。
いずれも納得しがたい部分があるのは事実だけど、前者は誰しも少しくらいは覚えがあるだろうし、ボクだってないわけじゃない。程度の問題で、その「程度」があまりひどければボクのゴアさんへの評価は変わるかもしれないけど、やはり温暖化対策の重要性をアピールし続けた功績は大きいと思う。
後者に関しては不正確な部分だけ指摘すればよいだけで、功績を全否定するには当たらないだろう。

Aさん「環境」でおカネを稼ぐっていえば、某先生の『環境問題はなぜウソがまかり通るのか・2』がヒットしているそうですね。センセイはもう読まれましたか?

H教授まだ読んでないけど、大体どんな内容か想像がつくよ。第14講でも一度取り上げたことがあるけど、部分部分は正しい内容をつないで壮大なウソを作り上げているアクロバットはみごとだよね【4】
でも安井先生の以下のブログを読んで、買ってまで読もうという気もなくしちゃった。

先日、毎日新聞の某記者と、この著者について雑談をしました。その記者が言うには、「その著者は、『今回の著作で4000万円の所得を得た』と言っていたそうだよ。考えてみると、世の中意外とチョロイのかもしれない。
「市民のための環境学ガイド」の今月の環境

Aさん4000万円なんて想像もつかないから、うらやましいとは思いませんけど、この時評が本になって、10万円くらい印税が入ればうれしいなあ。

万華鏡・その2 ──米国上院の動き

H教授バカ。
話を元に戻すぞ。18日には米国上院で「米気候安全保障法案」が提出されたという記事が出ていた。温室効果ガスを排出量取引や技術開発の積極的な投資で2050年には対05年比で63%減らすというもので、自主的削減に期待するというブッシュ政権に真っ向から異議を唱えている。
この法案は従来温暖化対策に消極的と言われた共和党議員も共同提案者に入っているし、なによりも電力業界最大手などの産業界からも支持されているということだ。

Aさんへえ、日本じゃ排出権取引にも環境税にも産業界も経産省も反対で、ブッシュ政権と同じく自主的削減に任すべきだという考えですよね。

万華鏡・その3 ──経済同友会の動き

H教授うん、で、今月に入って経産省と環境省の大臣、次官が公然とバトルを開始した。ま、それでも10月11日の中央環境審議会と産業構造審議会の合同部会では、産業界の自主行動計画の目標を13業界について年1300万トン上積みすることに決めた。
ただねえ、産業界の代表と言えば経団連と思われているけど、経済4団体といって、日経連とか商工会議所とか経済同友会とかがあるんだ。面白いのは、そのうちの経済同友会の代表幹事が、(10月)16日の記者会見でポスト京都について、経団連の各国の自主的な目標設定という方針に反対、義務的な目標にすべきだとし、環境税や排出権取引制度にも賛成の意向を表明した。
環境省はわが意を得たりと思ってるんじゃないかな。
経済同友会の方が世界をよく見ているという気がするよね。いずれにせよ産業界も一枚岩じゃないことが鮮明になった。


万華鏡・その4 ──松下電器の場合

Aさん松下電器が今後3年間で二酸化炭素排出量を総量として30万トン減らすと発表したそうじゃないですか【5】

H教授うん、それまで個別各社では単位生産量当たりのCO2排出量を減らすこと、つまりエネルギー効率のアップを目標としていた。それをはじめてCO2絶対量の削減という形で目標を明言した。こうした動きが産業界全体に広がるきっかけになればいいよね。


万華鏡・その5 ──世論調査で環境税容認に

Aさん一方じゃ、今月始め内閣府が公表した世論調査でも環境税賛成派が反対派を上回ったそうですね【6】

H教授この数字だけで世論を判断するのは危険だし、実際に導入となれば総論賛成、各論反対になる恐れが強いけど、05年のときとまったく同一の調査だとすると、賛成派が躍進したという見方はできるだろう。それだけ温暖化影響が誰の目にも明らかになったからな。
もはや懐疑派【7】(第12講、第50講)の中でも、温暖化そのものが起きていないという温暖化否定論者はほとんど駆逐されたんじゃないかな。自然現象主因論者が未だいるとはいえ、彼らにしたって人為的な温室効果ガスの排出が、温暖化にまったく寄与していないとまで強弁する論者はさすがに“絶滅”寸前なんじゃないかな。


万華鏡・その6 ──バイオ燃料の新たな動き

Aさん大阪府ではバイオ燃料の試験販売がはじまりました【8】。なんでも建築廃材から取り出したバイオエタノールが原料でそれをガソリンに3%混ぜているそうです。

H教授いわゆるE3だね。3%だとどうにもならないからせめて10%、E10にしたいと環境省は考えているようだが、とりあえずモデル事業みたいな観点で大阪府に委託したそうだ。
ただ、ガソリン業界の方はイソブテンと反応させてから混ぜる「ETBE方式」を推していて、依然と対立関係が続いているようだ。どうも世界の動きより相当テンポが遅い。
問題は食料との競合で、そういう意味では廃材を使うというのはいいんだけど、安定的に供給できるか。それとコストだね。

万華鏡・その7 ──「2050低炭素社会プロジェクト」再説

Aさんまあ、原油価格の値上がりが続いていますから、いずれはコスト的にも対抗できるんじゃないですか。
ところで21日付けの朝日新聞では2月の「2050低炭素社会プロジェクト」【9】のことを大きく報じてましたね。

H教授うん。あの報告では2050年に対90年比でCO2の70%削減は可能だとし、その二つの道筋を大まかに記している。ひとつは技術指向・都市集中型で、もうひとつは自然回帰・地域分散型だ。このことを今頃になって大きくとりあげた。
この二つのパターンの選択肢を示し、どれを選択するかは国民に委ねるというのは、何年か前の循環白書の未来ビジョンで示した三つの選択肢と同一の発想だね【10】
ちなみにその後の「21世紀環境立国戦略」【11】はそこの選択を依然として示していない。戦略なんだから基本的な方向性を示すべきだと思うけど、現実にはふたつの流れが微妙に交差、というかミックスしたものにならざるを得ないだろう。
パブコメが終わり、取りまとめ中の新しい生物多様性国家戦略【12】では、多分後者に近い方向性を示しているんだと思うけど、そういうふうに進めるかどうかはわからない。


Aさんまあ、二つの選択肢というのも多分に観念的なもので、現実には切り分けられるものでもないんでしょう。

H教授ただ少なくとも個人の内面の価値観としては、明確にしておいた方がいいと思う。
それは先日オスマン・サンコンさんと対談したときに感じた。

アフリカと日本―サンコン氏との対談から

Aさんえ? 「笑っていいとも」のお笑いタレントとですか。また、なんで?

H教授お笑いタレントなんていっちゃ失礼だよ。サンコンさんは生真面目なインテリだよ。今ではタレント活動より全国での講演旅行を主にしているみたいだ。

Aさんそもそもなんの対談だったんですか。また、なんでサンコンさんだったんですか。


H教授大阪にあるUNEP支援法人のGEC(地球環境センター)が設立15周年ということで、一般向けの記念行事をすることになったんだ。そうなると集客力のある知名人に特別講演をお願いしようということになる。
一種の客寄せパンダは昔からやられている手法で、有名人だったらなんでもいいと、それこそ関西のお笑い界のドン、K・Eサンなどもよく使われていた。
ただGECの場合、やはり単なる客寄せパンダじゃなく、タレントではあっても環境問題に理解と関心のある人を呼ぼうとしたみたいだ。その特別講演のあとボクと対談させようということを考えたんだ。

Aさんへえ、でも対談相手がなんでセンセイなんですか。

H教授知らないよ。ま、GECの研修とはいろいろ持ちつ持たれつで、気心が知れているからじゃないかな。キューバにも一緒に行ったしね【13】

Aさんいつもヒマだし、呼んでもらえるだけでうれしくて、ギャラのことなんか気にせずに飛びつくと思われたからでしょう。
でもセンセイ、どうせなら女優さんと対談したかったんじゃないですか。それこそ若き日のマドンナ、吉永小百合サンとか。

H教授はは、それこそギャラだけでGECの予算が吹っ飛ぶんじゃないかな。ま、そんな超大物でなくても、元アイドル女優のM・Aサンなんかだったらよかったと思ったけど、ボクの決めることじゃないからなあ。
ま、意外性というのを考えたのかも知れない。

Aさんじゃあ、今日のメインテーマはそれだ。その対談の内幕を話してください。
対談といってもあらかじめのシナリオのようなものはあるんでしょう。


H教授そんなものないよ。だって、講演内容に即して対談しなくちゃいけないんだけど、そもそもどういう講演内容になるかってことも本番になるまでわからなかった。
行事の運営を受託した制作会社も事前に把握できず、彼らの作った想定ではサンコン=アフリカ=野生動物ということで、ボクがレンジャーの体験を生かして日本とアフリカの野生動物保護対策を語るということになってたんだ。
二人だけの対談じゃなく、FM局のDJが進行役で、そういうふうに振るとなってた。

Aさんへえ、そんな話されたんですか。

H教授いや、直前にサンコンさんの『大地の教え』という本にはじめて目を通して、この想定は違うなと思ったんだ。
だから、当日の打ち合わせで、進行役は無理に話題を野生動物に振らず、サンコンさんとボクのぶっつけ本番の対談に任せろということにしちゃった。
本番直前にサンコンさんが到着されたんで、楽屋でちょっと話をしてライオンやチンパンジーの話じゃないということは確認したんだけど、具体的な進行まで話し合う時間はなかったからヒヤヒヤものだったよ。
でもああいうタレントというのは、楽屋では高慢な態度をとる人が多いという話を聞いたことがあるけど、サンコンさんは腰が低い、気さくな人だったよ。

Aさんふうん。で、どんな講演をされたんですか。

H教授「アフリカというとライオンと思われるかも知れませんが、ライオンを生まれてはじめてみたのは上野動物園でした」って聴衆を笑わせて、自分の少年時代の話からはじめられた。
サンコンさんはギニアのボッファという地方都市で少年時代を送られた。ボッファには当時は電灯も水道もなく、早朝の井戸の水汲みから一日が始まったらしい。そこでの人々の生計は主として陸稲栽培だった。厳しい生活だったけど、そこでは自然を熟知し、自然に順応して生きていくとともに、人々は助け合い、特に家族は助け合って生きていたというような話をいろんなエピソードを交えて語られた。
ボッファから大学進学のため始めて首都のコナクリへ行かれ、そこから国費留学生としてパリに行かれた。その後、ギニア外務省に入られ、日本の他、ワシントンDCなどを回られたということだ。


Aさんで、文明に接するようになればなるほど、自然との距離、他者との距離は遠くなる。それでもっと自然を大事に、自然と接して、自然を愛する心を忘れるなということになるわけですか。ちょっと定番すぎるんじゃないですか。

H教授そういうふうに要約してしまえば、それまでだけど、いろんな具体的なエピソードを交えて話されるものだから、ボクだけじゃなく、4〜500人いた聴衆もうんうんと頷いてたよ。そういう自然に対する傲慢さが温暖化を招いたんだという指摘はきっとサンコンさんの実感だと思うよ。

Aさんセンセイとの対談では何を話されたんですか。

H教授ボクにとって、サンコンさんの話は、アフリカと日本では風土や文化、風習はまるで違うけど、違和感がなかった。だから、随分懐かしい話を聞くような気がするってところから始めた。事実、50年前の日本を知ってる人間にとって、サンコンさんの話はすうっと入っていくんだ。
結構意気投合しちゃったよ。
サンコンさんはイスラム教徒なんだけど、樹木にも魂があるなんて話を聞くと、なんだか万物に精霊が宿るという日本の八百万の神の世界とあまり変わらないような気がする。
ご本人もそのことは肯定されてたよ。


Aさんへえ、イスラムの教えと随分違うような気がするけど。

H教授イスラム教だってキリスト教だって仏教だって、結局のところは地域地域での自然との関わり方との中で形成された人々の価値観に即して変容し、受容されていくんだと思うよ。
自然を征服すべきフロンティアと考えるか、自然の恵みとともに生きていくと考えるかによってまるで違うんだ。マルクス風に言えば、宗教は上部構造だけど、その内容は下部構造によって規定されるんだ。

Aさんで、ギニアと日本はそういう意味では似てるって言いたいんですか。

H教授サンコンさんの話や著作を読む限りそんな感じがする。どちらも、もちろん自然は厳しい面も持っているけど、基本的に豊かで、自然によって生かされているということを実感できた社会だったんだ。

Aさんえ? 過去形ですか。

H教授うん、サンコンさんは大の日本贔屓で、日本に何十年も永住されているけど、それでも毎年ボッファに帰られるそうだ。だが、そのボッファも昔とは違ってきたと寂しそうに語っておられた。

Aさんだったら日本に永住などせずに、昔の生活に戻られればいいんじゃないんですか。

H教授そんなこといえば、ボクだってテレビやクルマを捨てられないよ。実は誰だって、昔に戻ることなんてできやしないんだ。
だからさっきの未来の選択肢に即していうと、技術指向・都市集中の流れは止められないけど、自然回帰・地域分散、つまり昔の方がいいことがあったんじゃないかという歯止めを自分の中で意識的につくっておくことが、文明の暴走にブレーキをかけることにつながっていくんだと思うよ。


Aさんふうん、で、サンコンさんは日本のどこが気に入って永住したんですかねえ。

H教授「義理と人情」だそうだ(笑)。

Aさん日本だと稼げるからじゃないですか。

H教授はは、もちろんそれはそうだろうけど、それだけじゃないと思うよ。やはり日本が好きな何かがあるんだ。それに、稼いだオカネで最貧国のギニアで学校を作ったりしておられるんだから、純粋な人なんだと思うな。
ボクたちこそ、アフリカと言えば大地に深く結びついて暮らしている人々のことでなく、まずライオンとアフリカ象とチンパンジーしか思い浮かばないことを反省しなきゃいけないな。

Aさんはいはい、で、センセイとの対談でその記念行事は終わりですか。

H教授いやいや、ここからが本番なんだ。GECは途上国の人を呼んで研修しているんだけど、研修が終わり祖国へ帰ってからの活動にどう研修を生かしているか、という報告をキューバとレソト王国の研修生からしてもらい、それにボクのコメントを挟むことになっていた。実のところ、それまでレソト王国なんて知らなかった。

Aさんアタシも今はじめて聞きました。

H教授周囲を南アフリカ連邦に囲まれた小さな国だ。
サンコンさんのギニアもそうなんだけど、ああいうアフリカの途上国では、日本の戦前の農村部のような絶対的な貧困と、日本の60年代のような急激な工業化によるすさまじい公害が混在している。おまけにグローバル経済にいやおうなく組み込まれているから、生活の中にも欧米型の「文明」、例えばペットボトルなんかも入ってきていて、廃棄物問題なんかも深刻になる。
列強の植民地支配下で呻吟した後遺症が今も色濃く残っているうえに、先進国が原因の温暖化で、真っ先に、そしてもっとも深刻な影響を受けるのは、途上国の人々なんだ。
しかも日本などは資源の多くをそういう国に負っている。
だから、ODAなどは施しでなく、償いであり、義務なんだと思うよ。
そしてもう一つ忘れてはならないのは、GECの研修などでは日本は教える立場、途上国は学ぶ立場と短絡しがちなんだけど、途上国の人たちの中に残っている、昔ながらの自然とのかかわり方、人同士のかかわり方からボクらもまた学ぶことがあるし、学ばなきゃいけないということだ。


Aさんへえ、センセイ、ゼミ生相手にいびっているいつものセンセイとは違って、今日は随分マジメじゃないですか。

H教授冗談言うなよ。今のゼミ生はまじめに授業にもゼミにも出てくるから、いびったりしないよ。「よく遊び、よくサボり」のキミのときには随分注意はしたけれどな。

読者からのお便り

Aさんちぇっ、ヤブヘビだったか。
最後に、読者からの前講へのご意見を紹介しておきましょう。

しばらく前まで林学方面では伐採後の再造林放棄地のことを放置林と呼んでいました。これは文中にあるのとは全く別物ですね。
また、文中でAさんとH教授の使う意味が微妙に違うようで、分かりにくくなっています。ここで出てきた「放置林: Aさん」はいわゆる「不成績造林地」のことですね。本当に放置しておいていいようなところ、自然に任せて「放置林: H教授」にしてよい場所がどれほどあるのか疑問です。
地滑りを起こさなくても土壌浸食で河川や海に影響したりするでしょうし、流木の供給源になったり鉄砲水の元になったりしそうです。
不成績造林地には「これ植えたときノルマ達成のことだけで収穫のこと考えてなかっただろ」みたいなところが多く、だからこそ不成績になるのですが、急傾斜だったりアクセスが悪かったりする場所が多くあります。

ほんとうに放置しておいてもいいところがあるのかという、この方の疑問に対してはどうお考えですか。

H教授現実的には財政の面からいっても放置せざるを得ないんじゃないかな。
別の読者からのお便りでは、まったく逆に、


人が手を加えて里山を保全したものは、自然環境から見ると環境破壊に繋がると思いますが、如何かな?
また放置林は自然環境に入らないのかな、放置して山崩れが起きるのも自然で、これが川から流れ出て干潟を形成すると思っていますが、如何かな?

というのもあった。ここまでいくと、確かに財政負担は少なくて済むが、いくらなんでもちょっと行き過ぎじゃないかなという気がする。
要は程度問題じゃないかなあ。
あと、最初の方のお便りによると、林学では「放置林」というコトバの使い方はまったく別らしいね。だとすればおっしゃるとおり、ボクのコトバの遣い方はあまり正確じゃなかったようだ。でもなんとなく意味がわかってもらえたようだから、いいとしてもらおう。

Aさんへ? センセイ、そんないい加減なことでいいんですか?
センセイの大学での専攻はなんでしたっけ?

H教授

(編集部注:キョージュは林学出身だそうです。もっともヒノキとスギの区別もつかないのではとのもっぱらの噂です)


注釈

【1】「水俣病の政治決着」に関する本講での話題
第55講「水俣病新救済案の行方」
【2】「志賀原発の差し止め訴訟」および「原子力安全委員会による耐震設計審査指針」に関する本講での話題
第39講「原発開発の新動向」
【3】「柏崎・刈羽原発の中越地震による被害状況」に関する本講での話題
第55講「中越沖地震と柏崎刈羽原発」
【4】部分部分は正しい内容をつないだ壮大なウソ
第14講)「ダイオキシンの余波と、リサイクルの功罪?」
安井至先生のブログ
【5】松下グループの温暖化対策
【6】内閣府発表の世論調査
【7】「温暖化懐疑派」に関する本講での話題
【8】大阪府におけるバイオ燃料の試験販売開始
【9】「2050低炭素社会プロジェクト」に関する本講での話題
【10】循環白書の未来ビジョンで示した3つの選択肢
【11】「21世紀環境立国戦略」に関する本講での話題
【12】「第3次生物多様性国家戦略」に関する本講での話題
【13】GECとのキューバ紀行

(平成19年10月29日執筆 同年11月6日編集了)

(本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。)