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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.013

Issued: 2004.02.05

第13講 都市の生理としての環境問題−花粉症・ヒートアイランド・都市景観

目次
花粉症
ヒートアイランド対策
都市景観と街づくり
船舶の排ガス規制導入へ

花粉症

H教授どうしたんだ、浮かぬ顔して。

Aさんあーあ、やだやだ。また花粉症【1】のシーズンなんですよ。
もううんざりだわ。センセは大丈夫なんですか。

H教授ああ、なんともないよ。


Aさん(小さく)そうか、鈍感な人は花粉症にならないのか。

H教授え?

Aさんいや、なんでもないです。でも、これってやっぱり環境問題じゃないんですか?

H教授まあ、広い意味では環境問題なんだろうな。都市部の方が発生率が高いことから、大気汚染との関係が疑われてる。

Aさん具体的にはどういうことなんですか?

H教授都市部以外の方がスギ花粉が多いから、普通に考えれば郊外の方が発生率が高くなってもいいんだろうけど、現実は逆に都市部の方が多くなっている。つまり、大気汚染など都市部特有の環境問題との複合的な影響が疑われるわけだ。

Aさんなるほどね。ところで、花粉症って大昔からあったんですか。


H教授ぼくが子どもの頃は聞いたことがなかったなあ。高度経済成長が始まってから、広葉樹の林【2】をどんどん切っちゃって、スギやヒノキの一斉造林を始めたからじゃないかなあ。
現在では森林面積の3分の1以上、国土面積の4分の1がスギ、ヒノキの造林地だ。
そのうち半分はなんの手入れもせず、放置されているそうだ。そうしたところでは、ひょろひょろした弱々しい木ばっかりで、もはや材としても使いものにならず、ただ花粉をまきちらすだけ。

Aさんえー、どうしてですか。もったいないじゃないですか。


H教授高度経済成長の初期の頃に、大々的な人口の流動化が起こりだした。つまり、若者がどんどん都会に出ていったんだ。山村は人手が減って、林業の担い手は不足しがちになった。
一方、ほぼ同時期に、燃料革命や化学肥料の普及が重なって、薪炭林【3】が不要になった。里山の雑木林では、10〜20年の周期で伐採して燃料に使うのと同時に、落ち葉などを堆肥に活用するなど、エネルギー的にも物質的にも循環型の生活が成り立っていた。里山林というのは、そうして人手が入ることで維持されてきた二次的環境だから、価値を失ったことで放置され、著しく荒廃していったんだ。


Aさんへえ、踏んだり蹴ったりじゃないですか。

H教授そう、だから、林野行政も大転換を図ることになった。
山の木々は一斉皆伐されて、スギ、ヒノキの造林地になった。林業の大規模化・機械化が進められていったわけだ。
当初は国有林会計も黒字になるなど成功したようにみえたものの、高度成長のあおりで、人件費が高騰するとともに、貿易が自由化され、外国産の材木が安価に流通するようになると、国内の林業は一気に斜陽化してしまったんだ。
人工林というのは、下草刈りや間伐、枝打ちなど折にふれ適切な作業をしていかないとよい材にはならないんだけど、人手不足や価格競争で外国産材に太刀打ちできなくなるなど、もはやマメな林地管理の作業を続ける意欲さえ失って、完全に放棄されるようになったというのが全体的な傾向だろう。これは、外国、特に東南アジアや南米などでの熱帯林の破壊を招くという別の問題も生んでいる。
日本は国土の67%が森林という世界屈指の森林率を誇っているのに、林業は片隅に追いやられ、木材需要の8割までが外材に頼るという木材輸入大国になっちゃった。国有林経営をやっている林野庁もリストラにつぐリストラで、ギブアップ寸前。ほんと、ヘンな話だよね。

Aさんその放置された人工林はそのまま放っておくとどうなるんですか?

H教授さあ? 台風なんかで倒れたり、へたすればほうぼうで山崩れを起すかもしれない。ま、100年か200年もすれば、もとの広葉樹林になるかもしれないが、その間の災害のもとになりかねない。

Aさんじゃ、どうすればいいんですか。

H教授第1講でいったように、いまいくつかの地方自治体では、危機感をもって、緑の公共事業【4】だなんていって、こうした森林の手入れだとか、間伐材の利用だとか、針広混交林化だとかをやろうとしているし、地球温暖化防止対策で森林の吸収機能の評価が追い風になって、農水省も「バイオマスニッポン総合戦略【5】」だとか、昨年末に出した農林水産環境政策基本方針【6】なんかでも、こういう動きを加速させようとしているみたいだけど、それには1日もはやく、従来型の公共事業を見直さないといけないよね(→「ズッコケOBが語る環境省論」)。

Aさんあのお、センセイ。どんどん花粉症の話題から外れていってしまうんですけど。


H教授そうそう、ゴメン。ぼく自身がまだ花粉症じゃないから、あまり切迫感がない。でも、女房も次男も数年前から花粉症には悩まされてるみたいだ。
でもねえ、ライフスタイルが変わったことによる体質の変化というのも相当あるんじゃないかなあ。花粉症以外じゃ、小児アトピー性皮膚炎なんてのも随分増えているような気がするな。


Aさんじゃ減ったものって、なんかあるんですか。

H教授たとえば、冬の手の平や指先のヒビ、シモヤケなんて代表例だろう。冬でも室内は暖かくて、給湯設備が整ったためだろうな。それに昔の子どもってのは、たいていリンゴのような赤いほっぺたをして2本の青い鼻汁を垂らしていたもんだけど、最近そういう子どもは見たことがない。こういうのもライフスタイルの変化が影響しているかもしれない。

Aさんライフスタイルの変化ってなんだろう。食生活の変化ですか、それとも化学物質とか食品添加剤とかそういうものですか。環境ホルモン【7】じゃないんですか。

H教授さあねえ、でもぼくが聞いた中で、おもしろかったのは、花粉症やアトピーが寄生虫との共生をやめたせいで増えたという説。

Aさんはあ? 寄生虫との共生?


H教授うん、昔は100%、今でいう有機農産物を食べていた。肥料はし尿だよね。だから、カイチュウ、ギョウチュウ、サナダムシのような寄生虫が、たいてい腸内に棲んでいて、しばしば虫下しを飲まされたもんだ。つまり否応なく、共生していた。無論、寄生虫は悪さもしたけれど、アレルゲンに対する抵抗力、免疫力をつけていたというんだよね。
でも、化学肥料や農薬を使うようになり、そうした寄生虫を人体から徹底的に駆除してしまったことで、免疫力やアレルゲンに対する抵抗性が低下したというんだ。
実証するのはむつかしそうだけど、なるほどなあと思えるだろう。

Aさんふうん、もしそれが正しければ、花粉症は文明病ってことになりますね。

ヒートアイランド対策

H教授そうかもしれない。同じように、文明化・都市化の生理現象としての環境問題にヒートアイランド現象【8】がある。ヒートアイランドって知ってるよね。

Aさんまかしといてください。都市部の気温が周辺地域に較べて高くなる現象で、地図上に等温線を描くと都市部が島のようになる現象ですね。

H教授そう、都市部ではエアコンだとか自動車の排熱が多いうえに、地面もコンクリートで固められてるから、その排熱が気化熱として奪われにくくなっちゃうんだ。
例えば東京都心部の気温はこの100年間で、3.8度も上昇している。いわゆる地球温暖化現象で全球平均温度の上昇が100年間で0.6度なんていわれてるから、いかに大きいかわかるよね。


Aさんそうですよね。クーラーなんていうけど、じつは室内の熱を外に出して外を暖めてるんだから、地域にとってはヒーターですもんね。
で、表があんまり暑いから、室内に入ってますますクーラーを強くして、よけいに表を暑くしちゃって、という悪循環。それで冷房病になっちゃうんだから世話ないですよね。
でも、センセイの家だって各部屋にエアコンつけてるじゃないですか。

H教授来客のあるとき以外はほとんど使ってないよ。ちゃんと環境のことは考えてるんだ。

Aさんただケチなだけでしょう。学校の研究室じゃ、遠慮なく使ってるんだから。

H教授え? あれは部屋ごとに切れたんだっけ?(とぼける)
それよりも、暑いからって人の研究室に勝手に入り込んで、コーヒーを沸かして飲んでたのはどこのだれなんだ。


Aさん(舌を出して)しまった。やぶへびだった。
ま、でも冬は過ごしやすくなったかもしれないですね。
それはそれとして、政府のヒートアイランド対策はどうなってるんですか。


H教授ヒートアイランド現象自体はずいぶん昔から言われていた。東京とか大阪といった自治体では屋上緑化への補助だとかで、ヒートアイランド対策をはじめ出したけど、政府では、いわゆる消極的権限争い(→第5講)で、主務省庁すら長い間決らなかった。
2年前、ようやく関係府省会議が発足、当初は課長レベルだったけど、その後、局長レベルに格上げされ、昨年末には「ヒートアイランド対策に係る大綱骨子案【9】」をまとめた。
今年度中には数値目標も入れた大綱を策定するとのことだ。この大綱が将来新法制定までいくのかどうかだねえ。

Aさんどんな内容なんですか。

H教授人工排熱の低減、地表面被覆の改善、都市形態の改善、ライフスタイルの改善という4本柱だけどねえ、正直言って、ヒートアイランド現象自体がなくなるなんてことは到底考えられない。ヒートアイランド現象の進行が若干でも改善されればめっけもんてところじゃないかな。

Aさんえ? なんで、なんで?

H教授これは長らく、消極的権限争いがつづいたことと関係あるんだけど、ほとんどの現実的に考えうるメニューは、実は別の行政目的のためにそれなりに実施されてきているんだ。例えば、有力なメニューである都市内の緑地を保全し、増やすことなんてのは、ヒートアイランド現象とは関係なく、それなりに進めてきたよね。省エネだってそうだ。
各省にしてみればヒートアイランド対策にも寄与するって名目で増額要求しやすくはなるだろう。だけど、ヒートアイランド対策の本線となる、抜本的な政策というのは考えにくいから、どの省も及び腰だったんだ。


Aさん対策の本線になるはずの抜本的な対策って?

H教授ヒートアイランドの真の元凶ってなんだと思う。

Aさんえ?

H教授都市化とエネルギー消費の増大だよ。そして、これこそがいままでの日本の発展を担ってきたんだ。
都市部でのエネルギー消費はある試算では注がれる太陽エネルギーの1割にも達するという話を聞いたことがある。田舎の100倍くらいになるんじゃないかな。
でも都市を解体して、田舎へもう一度人を帰すなんて、できる話じゃないだろう?
つまりヒートアイランド現象の完全解消なんて、まず不可能なんだ。

Aさんじゃ、なにもするなっていうんですか。

H教授そんなこと一言もいってないよ。シジュフォスの神話じゃないけれど、人が人であろうとする限り、少しでも進行を食い止めるための最大限の努力をしなくちゃいけない。
そして同時に、都市化ということの意味をもういちど問い直さなきゃいけないんだ。

Aさんあーあ、やっぱり将来は田舎に住もうかなあ。その方が「環境にやさしい」んですよねえ。

H教授そんなことはない。そりゃ、田舎に住んで自給自足の生活をしてりゃそうだろうけど、クルマを乗り回して買い物したりする生活なんだから、1人当たりのエネルギー消費でみりゃ、都会人の方がぐんと少ないさ。

Aさんセンセイの話聞くと混乱しちゃうなあ。どうすればいいのかわからなくなるじゃないですか。


都市景観と街づくり

H教授混乱するのは時代それ自体が混乱しているからさ。
例えば、都市の問題でいうと、建築基準法が都市再生とかなんとかの理由で、規制緩和された。傾斜地なんかのマンションなんかだと最高地盤より下の部分は、地下室扱いになり―俗に「地下室型マンション」なんて言われているよね― 、高さ規制が実質的に大きく緩和されたし、容積率にも地下室部分を算入しなくていいみたいな特例ができるなど大幅緩和された。これまで高層マンションがつくれなかった地域で建築が可能となり、各地で「景観利益」が侵害されたとして反対運動が起きている。

Aさん景観利益?
眺望権とか景観権とかいうのは聞いたことがありますけど...。

H教授眺望権ってのは、自宅からの眺望を楽しむ権利と言うことで、それを建物なんかが建って阻害するのは眺望権の侵害だっていう意味で、使われるけど、他人の家からの眺望を妨げないっていう義務の方はあまり感じられないから、違うんじゃないかな。
景観権ってのはよく知らないけど、ま、似たような意味かもしれないね。

Aさん上から読んだら、景観権、下から読んだら県関係か...。

H教授バカ! ともかく、住民がまちの景観や風致を享受する権利というべきもので、同時に住民自身がそれを乱さないようにする義務を負う。
ところが、住民や市が景観利益という観点から建築基準法以上の厳しい自己規制を敷いていているところで、この規制緩和が悪用されて、とんでもない地下室型高層マンションが計画され、裁判沙汰になっている例があるんだ。
一方で、ちょうど今、住民意見を取り入れた街づくりの推進を謳って、建築物の色彩まで規制する「景観形成法」という新しい法律をつくろうとしているけど、これは本来でいえば順序が逆だよね。


Aさんどういうことですか?

H教授つまり、景観形成法のスキームがあって、それに乗った規制緩和であればいいんだろうけど、一方で土地価格の流動化とマンション建設を加速させることによって、都市再生という名の、ゼネコン、不動産業界の救済をねらった―あ、これはボクの独断と偏見だけどね― 規制緩和の流れがありながら、もう片一方では、住民主導の景観利益を街づくりのルールにするという2つの流れが交錯してみえてしまう。混乱するわけだね。
本来、生活に関わることについては、国は標準を決めればいいのであって、地域・地域では、特に住民が入った組織が決めるのであれば、上乗せ、下出し、横出し なんでもありというのが地方分権の本旨じゃないかな。

Aさんで、裁判の結果は?

H教授景観利益をめぐる裁判では、建築基準法の高さ制限よりきつい制限を地元住民と市でルール化している地域で、建築基準法の高さ制限めいっぱいまで建てようとした高層マンションが景観利益に反すると訴えた裁判で地裁、高裁段階では、住民側勝訴の例も出ている。国立市や名古屋白壁地区の住民訴訟だ。
地下室型マンションの判例はまだないと思うけど、ぼくの知っている例では、高さ10メートル以内、つまり3階建て以下に限るとか、厳しい規制がかかり、そのうえに住民たちがそれ以上の暗黙の街づくりルールで厳しい自己規制をしてきて、落ち着いた風情の低層住宅地をつくりあげてきた「第一種低層住居専用地域」に、実質5階建ての大きな地下室型マンションが建てられるという問題が発生し、景観利益に反するとして裁判沙汰になっている。

Aさんでも、法律の基準を一応満たしていれば仕方ないんじゃないですか。

H教授そういう見方もできるというか、従来はそれが主流だった。でも実際には、そんな場合でも、いままでは要綱をつくったりして、行政指導で、そうした暗黙の街づくりルールをカバーしていたことが多かったんだ。
でもそういう行政指導は不透明でけしからんという時代になってきたんで、都市計画法の「地区計画制度」で、それを法定化しようとしていた矢先に起きた事件なんだ。
問題は暗黙の合意としての街づくりのルールがある場合に、それが実定法上は担保されていない段階での景観利益が民法上の保護に値する権利といえるかどうかだよね。


Aさんセンセイはどう思ってるんですか?

H教授これまでの常識じゃむつかしいんだろうけど、やっぱり時代が変わりつつあるんだろうと思うよ。先に述べたいわゆる国立事件の判決(東京地裁)や名古屋白壁地区の仮処分決定(名古屋地裁)などが出されていることは、こうした景観利益が民法上の保護に値する権利であるという見方が法的に成立しうることの証左じゃないかな。
昭和40年代の前期、各種公害法規がなお未整備で不十分な中、司法が先導的な判決を出し、そのことにより、公害行政が飛躍的な進化を遂げたこと―例えば無過失責任制度【10】の公害法規への導入など― もあるから、司法が立法、行政をリードすることだってあるんじゃないかなあ。
まあ、こういったことを意見書として裁判所に提出した。

Aさん法律にド素人のセンセイが? そりゃ逆効果じゃないですか?


H教授な、なんだと! 法律は法律家や法学者のためにあるんじゃない。国民のためにあるんだ。ぼくは国民の一員としての素朴な意見を述べただけだ。


Aさんはい、はい、わかりました。ところでセンセイ、今回は環境省のあまり絡んでいない環境行政の話に終始しましたね。

H教授はは、ある人から、アンタのは環境行政時評じゃなく、環境省行政時評だっていわれたからね。でも、ヒートアイランドの関係府省会議では環境省は国土交通省とならんで事務局、取りまとめ役になっている。もっとも環境省自身の施策はあまりなさそうだけどね。

Aさんほかに何か動きはありましたか。

船舶の排ガス規制導入へ

H教授うーん、今年に入ってからは取材をさぼってるんだけど、そうだなあ、船舶について、はじめて排ガス規制をすることになりそうだ。

Aさんへえ、今までなかったんですか。
...なんにもセンパクだったんですね。


H教授く、くだらん!
...それはさておき、移動発生源【11】というとクルマばかりに注目が集っていたけど、船舶からの排出量の占める割合は、SOx【12】では大阪兵庫京都の近畿三府県では46%、NOx【13】でも近畿地方では16%に達するそうで、結構多いんだよね。
マルポール条約【14】が来年にも発効しそうだというので、海洋汚染防止法【15】を改正して規制する方針のようだ。日本船籍の船は大半クリアしそうだけど、外国船籍の船まで規制されるらしいよ。


Aさん移動発生源ならもうひとつ鉄道はどうなんですか?

H教授さあ? でも鉄道はほとんど電化されてるから必要ないだろう。
それより飛行機排ガスがまだ残っているんじゃなかったかな、いちど調べてみよう。昔、光化学スモッグに飛行機排ガスが大きく関係しているなんて説もあったしな。ま、いささか珍説、奇説の部類かもしれないけど。

注釈

【1】花粉症
花粉に対するアレルギーによっておこる鼻炎、眼症状である。原因となる花粉が発生する時に一致して発生する。症状は、クシャミ、水性鼻汁、鼻塞、眼のかゆみ、流涙の他、場合によっては頭痛、全身倦怠等の症状も現れることもある。歴史的には、古代ローマの記録にも同様の症状が記録されており、19世紀末に、これらの症状が花粉によって起きることが解明された。日本における研究では、1960年に、ブタクサ花粉症について研究発表がなされたのが最初で、その後、1964年にはスギ花花粉症等が報告され、多くの花粉が関係していることが知られるようになった。近年、日本では、花粉症の患者数は極めて多く国民病とまで言われるようになっている。原因となる花粉は、春季に飛散するスギ、ヒノキ等、秋季に飛散するブタクサ、セイタカアワダチソウ等がある。ことに、スギは、第2次世界大戦後、荒廃した山野に盛んに植林したスギが成長し、今や大量の花粉を飛散するようになり、大きな影響を及ぼしている。また、花粉症の発症については、大気汚染も関係するとも言われており、特に、ディーゼル排出微粒子等の粒子状物質が鼻粘膜に影響を与え、花粉の体内への侵入を容易にしている可能性が高いと言われている。
花粉症保健指導マニュアル(環境省環境保健部)
【2】広葉樹の林
暖温帯には常緑の広葉樹が優占する森林が成立している。これらの種は、寒さや乾燥に適応した小型で厚い葉を持ち、葉の表面にクチクラ層が発達していて日光を反射して光ることから照葉樹林と呼ばる。
優占する樹種によりシイ林、カシ林、タブ林などと呼ばれることもある。温暖で夏に雨が多く、冬に乾燥する気候条件下で成立。ヒマラヤ山地から中国南部、台湾、沖縄を経て日本の南西部に至る東アジアの暖温帯に分布。主な樹種はカシ類、シイ類、タブノキやクスノキなどのクスノキ科、サカキやヤブツバキなどのツバキ科など。
階層構造が発達し、着生植物やつる植物も比較的多いほか、林床にも常緑の種が多いため林内は暗く、湿度も高い。
日本の照葉樹林の分布域では昔から土地利用、改変が行われていたため、現在まとまった自然林は少なく、本州では社寺林や急斜面などに断片的に残っている。なお、中国南部から日本に至る地域で、照葉樹林を活用しつつ発達した「照葉樹林文化」は、数十年単位でくり返される焼畑を中心にソバや雑穀を栽培する農耕文化で、水稲栽培以前に発達した。
一方、冬に落葉する広葉樹が優占する森林は、夏緑林とも呼ばれ、北半球ではブナ類、ナラ類、カンバ類、ハンノキ類、カエデ類、シデ類などが多い。照葉樹林に比べると樹木の種類が少なく、構造も単純で明るい。林床にササ類が生育するのが日本の落葉広葉樹林の特徴。
冷温帯を中心に広く分布し、日本では本州中部や東北地方、北海道などに分布する。本州中部の山地では海抜800〜1,600mに分布する。
落葉広葉樹林の分布するこれらの地域を落葉広葉樹林帯または夏緑樹林帯と呼ぶ。暖温帯の照葉樹林と並んで人間活動の盛んな地域に分布するため、人為の影響を受けやすい。
【3】薪炭林
文字通り、薪や炭材を採るために使われてきた林。用材にはならない雑多な木からなる林の意味で、「雑木林」と呼ばれることも多い。広葉樹などの二次林で、薪炭以外にも、農用林などとしても使われてきたものが多く、里地、里山の中心的存在。 暖温帯ではシイ類、カシ類、冷温帯ではコナラ、ミズナラ、クヌギ、アカマツなどがおもな構成種だが、暖温帯では照葉樹林が伐採されてコナラ、アカマツなどに置き換わっていることもある。 人間の管理により維持されてきた林であり、放置されるとササ類の侵入・繁茂などが起こり、やがて自然植生の構成種に置き換わってゆく。その過程で、雑木林に特有な動植物種が消失することもある。 近年、環境保全上の価値および歴史的・文化的価値が見直されつつある。「新・生物多様性国家戦略」(2002年3月政府決定)では「里地里山の保全と持続可能な利用」の中で雑木林を含む里地里山の重要性が述べられている。
「新・生物多様性国家戦略の概要」(環境省)
【4】緑の公共事業
国内産の木材価格の低迷が各地の森林荒廃を招く中で、森林の公益性機能に着目した従来の枠にとらわれない公共事業の創出を訴える声が高まってきた。 木材としての市場価値だけでなく、森林の持つ公益的機能を評価して、その保全や維持管理等に公的資金を投入する一方、そうした作業を地元森林組合などが担うことで、雇用機会の増進を図り、地方への人材定着の促進を図り、失業対策などのねらいも持つものと期待される。
【5】バイオマスニッポン総合戦略
バイオマスの総合的な利活用に関する戦略として、農林水産省、環境省、文部科学省、経済産業省、国土交通省の各省が、アドバイザリー・グループの意見も踏まえて取りまとめたもの。2002年12月17日に閣議決定した。
「バイオマスの総合的な利活用」とは、「動植物、微生物、有機性廃棄物からエネルギー源や生分解素材、飼肥料等の製品を得ること」をいい、その生産、収集、変換、利用の全体をカバーする総合的な戦略づくりを進めることが同総合戦略の目的となる。
背景としては、国内では年間9,100万トンの家畜排泄物、同1,900万トンの食品廃棄物など大量のバイオマス資源が発生し、その利活用が、[1]地球温暖化防止、[2]循環型社会の形成、[3]農林漁業、農山漁村の再活性化、[4]競争力ある戦略的産業の育成 などにつながると期待され、推進が必要と認識される一方、[1]日本の資源、技術、ノウハウを活かした競争力のある総合的なバイオマス利活用が不十分、[2]国民各層のバイオマス利活用に関する共通認識の欠如といった問題点が見受けられることが指摘されてきた。
同戦略では、民間における市場原理に基づいたバイオマスの総合的な利活用を基本とし、利用可能なバイオマスを循環的に最大限活用することにより、将来にわたって持続的に発展可能な社会を実現することをめざし、バイオマス利活用に関するいくつかのシナリオを描いて、それぞれに合わせた具体的な数値目標を示している。
地域レベルでは「廃棄物系バイオマスを炭素量換算で90%以上、未利用バイオマスを炭素量換算で40%以上活用するシステムがある市町村を500程度構築する」との目標を設定。一方、全国レベルの目標として「廃棄物系バイオマスが炭素量換算で80%以上活用され、未利用バイオマスが炭素量換算で25%以上活用される」などを盛り込んでいる。
また、バイオマス資源の利活用推進のための課題を整理し、課題ごとに、基本的な取り組み方針や4省が実施する具体的な行動計画を提示している。
バイオマス・ニッポン総合戦略
【6】農林水産環境政策の基本方針
農林水産省の循環型社会構築・地球温暖化対策推進本部の第8回会合(平成15年12月25日開催)で決定されたもの。副題に「環境保全を重視する農林水産業への移行」と記され、以下のような基本方針を打ち出している。
(1)大量生産、消費、廃棄社会から持続可能な社会への転換、
(2)農林水産業が持っている自然循環機能の維持増進、
(3)農林漁業者の自主努力と消費者の支援促進、
(4)都市と農山漁村との対話促進、
(5)農林水産省による環境保全型農林水産業の支援
の5つの基本認識の下、
(一)情報開示、
(二)国民の意見を反映した政策づくり、
(三)住民やNPOなど多様な主体の施策への参加、
(四)他の環境関連施策との連携、
(五)環境保全重視型農業のための指針策定、
(六)補助事業、制度資金での環境保全重視、
(七)公共事業での環境配慮と情報開示、
(八)施策ごとの目標の設定と評価、
(九)科学的知見に基づく施策実施、
(十)農林水産省の業務に対する環境マネジメントシステムの導入
の10項目のめざすべき方向性に沿って施策を実施するとし、各項目で実施する具体的な施策の内容、平成20年度までの取り組みの進展を示す工程表も作成している。
「農林水産環境政策の基本方針」の決定について(農林水産省報道発表)
【7】環境ホルモン
正式には内分泌攪乱化学物質という。シーア・コルボーン他著による「奪われし未来」やデボラ・キャリバリー著による「メス化する自然」により内分泌攪乱化学物質が世界的な関心を集めた。研究者や機関によって定義が確定していないが、「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」(2000年11月改定)では「動物の生体内に取り込まれた場合に、本来、その生体内で営まれている正常ホルモンの作用に影響を与える外因性の物質」とし、疑われる化学物質として65物質をあげている。
「内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題」(環境省 環境保健部)
「内分泌攪乱化学物質問題への環境庁の対応方針について−環境ホルモン戦略計画SPEED'98−」(環境省環境保健部)
【8】ヒートアイランド現象
都市部において、高密度にエネルギーが消費され、また、地面の大部分がコンクリートやアスファルトで覆われているために水分の蒸発による気温の低下が妨げられて、郊外部よりも気温が高くなっている現象をいう。等温線を描くと、都市中心部を中心にして島のように見えるためにヒートアイランドという名称が付けられている。特に、夏季においては、家屋内の熱を冷房によって外気に排出することにより、外気温が上昇し、それにより更に冷房のためのエネルギー消費を増大させるという悪循環を生み出している。環境省においては、ヒートアイランド現象を抑制するための実態調査を実施し、その対策手法について検討を行っている。
【9】ヒートアイランド対策に係る大綱骨子案
ヒートアイランド対策に関係する行政機関が相互に密接な連携と協力を図り、ヒートアイランド対策を総合的に推進することを目的に設置された「ヒートアイランド対策関係府省連絡会議」の第5回会議(平成15年12月15日(月)開催)において示された骨子案。 平成14年9月6日に第1回が開催された同会議は、当初課長級を構成員として開催されてきたが、その後、平成15年10月16日(木)の第4回会議で設置要綱を見直し、局長級会議に格上げされて、骨子案の取りまとめに至っている。
「ヒートアイランド対策に係る大綱骨子(案)」
ヒートアイランド対策関係府省連絡会議
【10】無過失責任制度
事業者が大気汚染および水質汚濁等により健康被害を起こした場合には過失の有無を問わず賠償責任を認める制度。事業者の責任を強化して被害者の円滑な救済を図るため、1972年に民法の過失責任の原則の例外として大気汚染防止法(1968)および水質汚濁防止法(1970)で導入されたもの。 被害者が民法の規定によって損害賠償を請求するためには、損害の発生、原因行為と結果発生との間の因果関係、違法性及び加害者の故意又は過失を立証しなければならないが、大気汚染等の分野ではこれらのうち故意過失の立証をしなくてもよいこととされた。無過失責任の例は、イタイイタイ病裁判で使われた鉱業法や、国際法の分野でも宇宙損害賠償条約、原子力損害に関する諸条約、油濁民事責任条約等にみられる。刑事法の分野でも、公害罪法は公害により人を死傷させた者を一定の場合について過失の有無を問わず処罰することとし、法人の両罰規定も置いている。アメリカ法でも公害、麻薬、食品、商標等に関するいわゆる公共的犯罪については故意も過失も要件としない厳格責任(strict liability)が認められている。
【11】移動発生源
大気汚染の発生源のうち、移動するものを、「移動発生源」と呼ぶ。自動車、船舶、航空機、鉄道車両(デイーゼルエンジン駆動)など、燃料を燃焼させることによって動力を得て走行、移動し、大気汚染物質である窒素酸化物や粒子状物質を排出する発生源の総称。これに対して、工場などの移動性のないものは「固定発生源」と呼ばれる。
自動車について、大気汚染防止法(1968)で大気汚染物質・燃料の性状を排出規制している(第2条第10項、第19条、第19条の二)。一方、船舶からの大気汚染物質の排出については、国際海事機関(IMO)において、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等を対象として国際的な規制の枠組みに係る審議が行われ、平成9年に海洋汚染防止条約締約国会議において「船舶からの大気汚染に関する規則」が採択された。また、航空機からの大気汚染物質の排出については、航空法により、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物及びばい煙について、国際民間航空機関(ICAO)の排出基準に適合した航空機でなければ航空の用に供してはならないこととなっている。
【12】硫黄酸化物(SOx)
硫黄の酸化物の総称で、一酸化硫黄(SO)、三酸化二硫黄(S2O3)、二酸化硫黄(SO2)、三酸化硫黄(SO3)、七酸化二硫黄(S2O7)、四酸化硫黄(SO4)などがある。ソックス・SOxともいう。
石油や石炭などの化石燃料を燃焼するとき、あるいは黄鉄鉱や黄銅鉱のような硫化物鉱物を培焼するときに排出される。 大気汚染物質としての硫黄酸化物は、二酸化硫黄、三酸化硫黄、および三酸化硫黄が大気中の水分と結合して生じる硫酸ミストが主となる。硫黄酸化物は水と反応すると強い酸性を示すため、酸性雨の原因になる。
日本では、硫黄酸化物による大気汚染問題は、高煙突、重油脱硫技術、排煙脱硫技術、天然ガスなどへの燃料転換などの普及により沈静化しているが、途上国を中心に、依然、深刻な問題となっている。
大気に係る環境基準(環境省)
【13】窒素酸化物(NOx)
窒素の酸化物の総称であり、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、三酸化二窒素、五酸化二窒素などが含まれる。通称ノックス(NOx)ともいう。
大気汚染物質としての窒素酸化物は一酸化窒素、二酸化窒素が主である。工場の煙や自動車排気ガスなどの窒素酸化物の大部分は一酸化窒素であるが、これが大気環境中で紫外線などにより酸素やオゾンなどと反応し二酸化窒素に酸化する。そこで、健康影響を考慮した大気環境基準は二酸化窒素について定められているが、排出基準は窒素酸化物として基準値が決められている。窒素酸化物は、光化学オキシダントの原因物質であり、硫黄酸化物と同様に酸性雨の原因にもなっている。また、一酸化二窒素(亜酸化窒素)は、温室効果ガスのひとつである。
大気汚染に係る環境基準(環境省)
【14】マルポール73/78条約
船舶の運航やその事故による海洋の汚染を防止するための条約で、正式には「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」と呼ばれる。1978年2月に採択され1983年から国際的に発効。日本は1983年6月に加入した。
1973年に国際海事機関(IMO)で採択された「船舶による汚染防止のための国際条約(マルポール条約)」は、オイル、化学物質、梱包された有害物質、汚水や廃棄物などによる汚染を念頭に置いたものであったが、技術上の問題点等があり未発効のままであった。その間にもタンカーの事故による海域の汚染などが生じたことから、1978年のIMOのタンカーの安全と汚染防止に係る会議において、1973年の条約に統合する形で本条約が採択された。油類、バラ積み有害液体物質、梱包されて輸送される有害物質、汚水及び廃物の全てが規制対象となっている。
MARPOL 73/78(IMO)
船舶安全法及び海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について(環境省報道発表 平成9年2月17日)
【15】海洋汚染防止法
船舶、海洋施設及び航空機から海洋に油、有害液体物質等及び廃棄物を排出し、船舶及び海洋施設において油、有害液体物質等及び廃棄物を焼却することを規制している。また廃油の適正な処理を確保し、排出された油、有害液体物質等、廃棄物その他の物の防除並びに海上火災の発生及び拡大の防止並びに海上火災等に伴う船舶交通の危険防止のための措置を講じて、海洋の汚染及び海上災害を防止する(1970年法律136号)。国土交通省所轄。さらに海洋の汚染及び海上災害の防止に関する国際約束の適確な実施を確保し、海洋環境の保全並びに人の生命及び身体並びに財産の保護に努めることを目的とする。
油や有害物質の排出による水産動植物資源への損害等、ごみ等の浮遊による美観、自然環境への悪影響等をはじめ、固形物の堆積による海底地形変更、着色の汚水による海の色の変化、温水による海水温の上昇等もすべて海洋の汚染として考えるべきである。
海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(総務省法令データ提供システム)

(平成16年1月18日執筆・文:久野武、同月末編集終了)