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事例6-2:企業との協同―多種多様なニーズに応える多種多様な森づくり“生物多様性”と現場をつなぐ事例集

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4.宍道湖のヨシ再生
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7.アマモが取り結ぶ地域連携
8.野川の自然再生
9.草原の自然が育む生物多様性 人とのかかわりが「二次的自然」維持

[6]宮川森林組合の取り組み(三重県多気郡大台町)

事例6-2:企業との協同―多種多様なニーズに応える多種多様な森づくり

■社会貢献としての森づくりから、山の自然を回復する拠点づくりへの提案

富士通中部システムズの森

宮川森林組合は自然配植技術を用いて新たな可能性を持った森づくりを進めている。「四季を感じる豊な森」「治山林」「多樹種混合造林」「多様な種子の発信源となる自然回復拠点の森」などだ。

これらの森づくりは企業との協同でも取り組んでいる。

「富士通中部システムズの森」は丸2年経った森だ。皆伐跡地の造林未栽地を自然回復の拠点のモデルにしようと植栽した。

当初、企業から社会貢献活動として「森づくりをしたい」という問合せがあった時、今までの反省を踏まえて、こちらから植栽計画を提案させて下さいとお願いしたそうだ。これまでのやり方は、「きれいなサクラやモミジを植えましょう」というものだったそうだ。

「最近は経済性の問題で伐採跡地の造林未栽地が多いんです。皆伐後は放置しておくとシカの食害がひどく自然豊かな森には戻らないのです。さらに、裸地化・草地化が進行し、山の斜面において土壌侵食が激しくなり、山崩れへと繋がります。一度崩れた山は、同じ植生の回復は見込めません。また、雑木は単に植えれば森になっていくという訳ではないことも失敗から学んでいましたから。そこで、将来どんな森にしていきたいのかという造林目標を話し合い、『地域の自然回復拠点、種子の発信源』になるような森づくりをしましょうという提案にご賛同いただきました。企業さんも年間何百万というお金を出してやっていただくわけですから、こちらもそれだけの事をお返ししないと継続性はないと思っています。社会貢献という満足感だけでなく、環境貢献という成果としての結果を示したいなと。株主総会でも報告できるようなものをです」

岡本さんは森林組合と企業との新たな関係に期待する。

■植える樹種にとっての「郷土」を選んでやると手間をかけなくても育っていく

防鹿ネットの内側ですくすくと育つ苗木

「富士通中部システムズ企業の森」の植栽地を案内してもらった。

植林地としては見慣れない光景があった。黄色いシカ除けの網に囲われて3年目の苗木が植わっているのだが、それがいくつかランダムに配置してある。従来の、苗木が規則一様に並んだ植栽の光景とは違う。そして植えられた一本一本に樹種の名前を書いた杭が打たれていた。樹種はおよそ100種。

かなりの手間ひまがかかっているように思えるのだが?

「自然配植された木は寿命が長いし、病気に強い。木は「郷土(ごうど)」に植えてやると病気にならないし、寿命も長い。「郷土」とはその樹種が生息するのに適したぴったんこの場所のことです。例えば屋久島はスギの郷土で、適した場所だと寿命も長く1000年以上の大木になります。それがヤクスギですね。手間がかからないから結果的にコストもかからないんです」

また、自然配植技術による企業との森づくりは参加者への効果も生んでいる。

「自然配植技術の植え方を説明すると、『なんでこの空いた所に植えないの?』『なんでこんな植え方をするの?』と必ず質問されます」

「そんなとき、周辺の森を観察してもらって、たくさんの種類の木が生えていることを確認してもらいます。それらの木にはそれぞれ特性があって、役割があるんです。いくら人がサクラがきれいだからと言って、サクラばかりを植えた森にするのでは、その木の特性や役割を無視することになって、結果、森全体にとってもよいことにはなりません」

「人にも体育が得意な人、算数が得意な人、親切な人と色々、性格があるように木にも、たくさんの性格があります。この森林の植栽目的は、立地が許す限り、多様な樹木を植栽して、周辺森林の自然回復拠点を目的として計画しているんです。ですから、ただ無作為に木を植えてしまうと、木(命)の立つ瀬がありません」

「光に強く、早く大きくなるけれども寿命が短い種類、強い光は苦手だけれども、光に強い樹種の影で育っていって、将来的に大木になる種類。自分の木の形を持っていて直線的に大きくなる木、それに対して環境に合わせて水平的に枝を伸ばす木、小さい木…などなど、さまざまな木を植えていきますが、それらの木の特性と立地を考えて、植えた木の役割をまっとうさせてあげることが重要です。この木はこのような役割を持っていて、数年経って秋になればきれい実をつけ、野鳥がやってきますといったことを説明しています」

「そうした説明を、時間をかけてきっちりしていくと、植えられる方にも意味づけができてものすごくていねいに熱心に植えていただける。そうすると、『また、来年見にきたいわ』と思い入れを持って、実際に来ていただいています。子どもさんも参加されるのですが、『木って色んな役割があるんだね、自由研究で調べてみようかな』と。森を戻していくのは大変、今残っている緑が大切で尊いということがわかってもらえればいいなと思っています」

自然配植による森づくりの手ごたえはどうなのだろう?

「まだ結果は出ませんが想定図に近づいてきているので間違いではないかなと感じています。モニタリングの経過はホームページでも見られるようにしてあります」

今後どのように森が育っていくかが楽しみだ。


■建築材以外にも市場ニーズがある ─値崩れしない広葉樹の原木

水土里の森の植栽地。画面左側が自然配植技術で植栽した斜面。防鹿ネット(パッチ)で囲んである。右側は、来年の植栽予定地だ。

苗木の1本1本に樹種の名前が書かれている。他樹種混合造林として、一本の木の価値を高めていくことを目標にしている。

「宮川用水 水土里(みどり)の森」は植えて1年の森。こちらの造林目標は「多樹種混合造林」である。

岡本さんは将来の木材市場のニーズを見据える。

「要するに景気が悪いんですよ、林業は。このままの森づくりを続けていっても今問題になっている放置森林ですとか、所有権さえも放置するような山がどんどん増えていくんじゃないですか」

今までの林業はほとんど100%と言っていいくらい建築材に用途が限定しているそうだ。そしてそのほとんどを2種類の樹種スギとヒノキに限定して林業をしてきた。

「岐阜にある広葉樹専門の原木市場に見に行ったんですよ。そこで聞いたのが、スギやヒノキは最高の頃と比べて何分の1くらいにものすごく値下がりしたけど、広葉樹はそんなに下がってないよって。理由は色んな業種の人達が買いつけに来るそうなんです。家具職人や漆器、建築業、日本刀を作っている人とか。だからある一方の業種が不景気でも他の業種が後押しするから値崩れしないんだそうです」

岡本さんは木材の市場ニーズというのは建築材以外にもたくさんあるということに気づいたという。

「多種多様な森づくりをして多種多様なニーズに応えていくというのが森づくりの原点であり、結果として森林の生物多様性を育んでいくのではないかと考えています。20世紀のモノづくりは、スギやヒノキを等間隔にどのような立地でも標準化して、1ha5千本という感じで1m何十センチ間隔で植えていくという森づくりでした。結果、大木が育つポイントの立地や山崩れの危険のある立地、景観のポイントとなる立地といった、立地のもつ経済価値のポテンシャルに違いがあるのを無視してきたんです」

「カッコいい言い方をすると、林業って一次産業でモノづくりをする立場の人間やと私は思っています。今の林業はまとまって収穫する工業的な大量生産大量消費のような考え方の林業だと思うんです。そういうところも大切やと思うんですけども、もう一方で山に生えている一本の木の価値を高めていく林業もあってもいいんじゃないかと思いまして。大台町の立地、大台ケ原を最上流部とした急峻な山の立地を考えると、色々な樹木が育つ可能性がある立地かなと考えて、そういう森づくりにチャレンジしてみようかなと取り組んでいます。日本全国一様じゃなくて大台町のこの山はこういう森づくりができるよね、という事を現場から判断していくことが大切かなと」


取材・執筆:山﨑佳子

この特集ページは平成22年度地球環境基金の助成により作成されました。