一般財団法人環境イノベーション情報機構

事例6-1:宮川森林組合の取り組み(三重県多気郡大台町)“生物多様性”と現場をつなぐ事例集

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1.産直市場グリーンファームの取り組み
2.琴引浜の鳴き砂保全
3.アマモ場の再生
4.宍道湖のヨシ再生
5.森の健康診断
6.宮川森林組合の取り組み
7.アマモが取り結ぶ地域連携
8.野川の自然再生
9.草原の自然が育む生物多様性 人とのかかわりが「二次的自然」維持

[6]宮川森林組合の取り組み(三重県多気郡大台町)

事例6-1:人のための森づくり―宮川森林組合のチャレンジ『自然配植技術』

■豪雨災害のつめ痕 ─なぎ倒されたスギ、散在する岩

5年前の豪雨災害の現場では、マッチ棒のようにも見える木々がなぎ倒され、荒れた河床が露出する

三重県宮川森林組合に勤める岡本宏之さん(38)の運転するワゴンで案内されながら、川沿いの林道を上流に走っていると、車窓から見える川岸の殺伐とした光景に圧倒された。ゆうに川幅の5倍はあろうかという侵食された川縁と、なぎ倒されたスギ、散在する大きな岩。

「5年間前の豪雨災害の跡です。5年前の豪雨で河川という河川が氾濫して、谷あいの河川沿いにもスギヒノキを植えてきたんですけど、それが全部流されて愛知県の伊良湖の方まで流れていったんです。山崩れもたくさん起きました」

今も重機が入り護岸と砂防ダムの工事中だ。当時の災害の大きさがわかる。

「戦後の大規模な一斉造林は自然の『立地』を考えずに行われたんです。特にスギ林のような単層林では単純な根系群になるため崩れやすいんです」

これから向かう上流の植林地も大規模に崩落したという。

案内してもらう現場は、その崩落した斜面を「自然配植技術」という植栽方法で緑化した治山法面だ。

この「自然配植技術」を使って新たな林業の可能性にチャレンジする宮川森林組合を取材した。


今も重機が入り、護岸と砂防ダムの工事をしている

崩落斜面に自然配植技術で植栽した治山法面


■伊勢神宮に材を供給した、清流・宮川が育む森

宮川森林組合は三重県多気郡大台町(旧宮川村)にある。大台町は三重県の真ん中より少し南に位置し、東西に細長く広がる。その中央を清流日本一に何度も選ばれる一級河川宮川が流れる。川の両側には山がそびえ、その山と宮川に挟まれるように細長く集落が存在する。およそ大台町の93%を森林が占める。

「この辺りの地形は熊野灘から大台ケ原(日出ヶ岳)まで10kmほどの距離の間に1700mまで標高が一気にあがるんです。熊野灘からの水を含んだ空気が山に当たって霧になり湿気が多い所なんです」

それが大台町の自然環境を生み出していると岡本さんは言う。大台ケ原に代表される原生林だ。そうして育まれた大台町の森は古くから利用されてきた。

「宮川という名前は伊勢神宮と関係があります。20年ごとの式年遷宮の際にはこの辺りでヒノキを切って台風などの増水時に宮川から伊勢の方へ流して運んだ歴史があります。戦前は薪炭林として自然の木を炭用に切り出していました。チェーンソーが導入されるようになって大量伐採が行われ、戦後のスギヒノキの大規模造林です。今それが50年になり、伐採期を迎えています」

しかし、現状は課題が多い。

「今、植林当初設定した収穫時期にきているんですが、最近スギの風倒木被害が多いんですよ。スギは深根性の樹木です。『立地』を考えずに、凸部に植林されたスギはこれ以上の自分の大きさに耐えられず、極端に風に弱い。全国的にもこのような被害は増えていくと思います」

凸部地形は多くの場合、土が浅く、基盤岩が近いため、根が浅い部分にしか形成されない。木が大きくなると、その大きさを根が支えることができなくなって、風に弱くなるということだ。

伐採期を迎えても利用されない木材市場の低迷、立地を考えずに植えた一斉一様の植林による倒木被害。この現状を踏まえ、宮川森林組合は20世紀のモノづくりの反省に立った、これからの林業を考えている。

■自然のあり様に学び、そこに人の思いを入れる、それが自然配植技術

宮川森林組合の岡本宏之さん

岡本さんは『立地』という言葉をよく使う。宮川森林組合が取り組む自然配植技術はこの『立地』を大事にする。「自然のあり様」に学び、そこに「人の思い」を入れるという植栽技術だ。

「自然のあり様」とは主に『立地』と『遷移』。

「山」とひと口に言っても、そこには様々な環境が存在する。例えば方位によって陽の当たり方も違うし、標高や水の流れ方、またそこが岩場なのか土砂なのかによっても異なる。そこに適した様々な樹種が育つ。

自然配植技術は、その場所の立地を読み解きそこに適した樹種を選び植栽していく。また森が遷移していく経過を考えて、その役割を担う樹種を入れて植栽する。

「完全に裸地状態になってしまった森というのは、いきなり高木種を植えようとしても森になっていかないんです。原因の1つは光が強すぎること。先駆的な木を添えてあげて森林になっていくプロセスを手伝ってあげる訳です。森の階層構造を考えて、高木もあれば、亜高木、低木もあるという森づくりはどうしたらいいかを立地を見て判断して、こういう場所にはこういう樹種を配置してという技術的な根拠に基づいて図面を作っていきます」

高度な技術と専門的な知識を要する方法だ。

そしてそこに「人の思い」を加える。

「人の思い」とは、造林目標のことである。将来どんな森にしていきたいのか、「木材を生産する森」なのか、「美しい景観を創る森」なのか、「土砂崩れに強い治山林」なのかを決める。

自然配植技術は「決して自然のために木を植えるのではない」と岡本さんは言う。「人の暮らしのために木を育てるのが基本やと思っています」

■植えても植えても森になっていかない 失敗が原点

それにしてもどうして自然配植技術にたどり着いたのだろう?

「『海と山は友達』ということで漁協の方が森に広葉樹を植えていただくという取り組みをしたんです。漁業関係者の方たちがたくさん来ていただいて、大量の木を植えてもらったんです」

「ところが植えても植えても森になっていかないんですよ。原因としては、シカに食べられたり、ウサギに食べられたり、枯れたり。で、同じ事を数年繰り返してしまったんですね」

「それまではスギ・ヒノキ以外は一緒くたに『雑木』と考えて、雑木はどんな植え方しても大丈夫、という感覚で。それが全然森になっていかない。『どうしたんだろう?』と悩んで」

「それで人間的にまったく恥ずかしい話しなんですけど、植えても植えてもダメな理由を最初どこに持っていったかというと、苗木屋さんなんです。

苗木屋さんに、『あんたんとこの苗木あかんよ』って。そしたら、『いや、苗木は大丈夫や』って。

『悩んでるんだったら紹介してあげますわ』と自然配植技術協会の高田研一先生に師事した造園屋さんを紹介してもらったのが始まりです」


取材・執筆:山﨑佳子


この特集ページは平成22年度地球環境基金の助成により作成されました。