一般財団法人環境イノベーション情報機構

事例7-2:アマモが取り結ぶ地域連携(熊本県葦北郡芦北町)“生物多様性”と現場をつなぐ事例集

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キーワード
1.生物多様性で暮らす
2.鳴き砂を守る
3.海のゆりかご
4.活動のアイデア
5.人工林の間伐
6.天然林の再生
7.海の森づくり
8.都会の生物多様性
事例
1.産直市場グリーンファームの取り組み
2.琴引浜の鳴き砂保全
3.アマモ場の再生
4.宍道湖のヨシ再生
5.森の健康診断
6.宮川森林組合の取り組み
7.アマモが取り結ぶ地域連携
8.野川の自然再生
9.草原の自然が育む生物多様性 人とのかかわりが「二次的自然」維持

[7]アマモが取り結ぶ地域連携(熊本県葦北郡芦北町)

事例7-2:高校生が“海の森づくり”で、山と海をつなぐ(後編)

■山と海のかかわりの気づきを、活動の力に

魚つき林の手入れと植林も、林業科の活動のひとつです。

冬の間は調査も真夜中。「夜の海はわくわくする」と、生徒たちは楽しみにしています。

真夜中の冬の干潟で、移植するアマモの掘り取り作業。ヘッドライトの小さな灯りだけが頼りです。

夜中に掘った移植用苗を、次の日の日中に2本ずつに束ねます。寝不足の眠い目をこすりつつ、アマモが乾燥しないよう手早くこなしていきます。

アマモ場の再生、とくに株の移植作業を担当し、実戦部隊として重要な役割を果たしているのが、県立芦北高校林業科の“アマモ班”の生徒たちです。「海はすぐそばにあるけれど、遊びにも行かないし関心もなかった」という高校生、しかも林業を学ぶ生徒たちが、先輩から後輩へとリレーしながら、海の環境とアマモにかかわって6年になります。

芦北高校には農業科、林業科、福祉科の3科があり、林業科は「地域と共に森を育て、海を育む。地域から地球環境を創造する」をスローガンに、環境保全の実践を進めてきました。アマモ場再生の活動は、3年生の授業である課題研究のテーマのひとつ。09年は35人のうち7人がアマモを選択し、全校生徒に協力を呼びかけながら活動しました。

6年前、林業科の梅田和弘先生に、町役場を通じて「プロジェクト」から参加の誘いがありました。「林業科では、海外で森づくりのボランディアを長く行っていますし、佐敷湾内の島で魚つき林の保全活動を10年来実施しています。アマモは、山と海をつなげて環境を考える貴重な学びの場になると思いました」と梅田先生。

モニタリングの対象と研究テーマは、機関ごとに次のように分担しています。芦北高校は、移植したアマモの成長測定と生残率のモニター、県立大学は自然アマモ場と移植アマモ場の環境測定と自然アマモ場のモニター、熊本県水産研究センターは同じく環境測定と自然アマモ場の水産生物の調査、などです。調査内容は別々ですが、月例の調査日は同じ日にし、助け合いながら行います。また年に数回、町役場や漁協に集まって、互いの調査研究結果について情報交換し、今後の計画を確認し合う場をもっています。

アマモの移植や播種は、芦北高校アマモ班の担当。しかし多くの人手を必要とするため、県の研究機関だけでなく漁協や町役場、芦北高校のアマモ班以外の生徒、環境アセスメント企業など、合計30、40人が参加してにぎやかに行っているといいます。

梅田先生は「大和田先生には、アマモの生態や生活史、移植や播種の方法など、基礎的なことを教えてもらいました。また研究テーマの設定や方法についても、折りにふれ指導をいただいています」と、専門研究機関とともに活動できることを評価しています。

佐敷川と湯浦川が注ぎ込む佐敷湾には、土砂の堆積から港湾を守る長さ850mの防波堤が築かれ、佐敷港内と外海を隔てています。防波堤沿いの港内側には、先端から200m、幅20mほどの広さに自然のアマモがかろうじて残っていました。

アマモ場を広げるおもな活動は、(1)自然アマモを間引き、かつてアマモ場だった防波堤の外側に移植する、(2)種を採取してまく、(3)種を採取して陸上の水槽で苗を育て移植する、などの方法で行っています。

年度ごとに、芦北高校アマモ班の研究テーマと活動内容を紹介しましょう。

04年は、基礎調査から始めました。防波堤内側の自然アマモの分布面積と本数をカウントし、生息する生き物も調査。また種を採取し、保存温度と発芽の実験も行っています。

05年は、種のまきつけ床の比較実験をし、麻袋で発芽率がいいとの結果を得ました。そしていよいよこの年、防波堤の外側への移植を開始。これは12月の真夜中の作業です。まず自然アマモの株を掘ります。夜が明けて日中に株を2本ずつ束ねる作業をこなし、その夜、真夜中の干潮時に植えつけるのです。05年には20m×50mの範囲に1600株も移植しました。


移植したアマモの生育調査。

06年には、前年の移植苗の生育調査を毎月実施。また、植えつけ密度による生育の比較実験も行いました。12月には700株以上を防波堤の外に移植。この年、アマモの密度が高い区域は水の透明度が高いことを、生徒たちは発見しています。

07年は、過去2年分の移植の生育調査を毎月継続。アマモの生育に合う土壌の研究をし、泥より砂のほうが適していることを確認しました。この年の移植場所は、05年と06年の移植場所の間で行い、3年分の移植場所が帯状につながる“面的な再生”が期待されました。

ところが翌08年の9月、大雨で洪水が発生。大量の泥が佐敷湾に流れ込んで、防波堤から離れている06年と07年の移植アマモが全滅。初めて挫折を味わったのでした。しかし気を取り直し、この年は05年よりもさらに防波堤寄りに700株を移植しました。

被害もありましたが、一方でうれしい発見もありました。これまでに移植した苗から種がこぼれ、波に運ばれて広い範囲で自然に発芽していることがわかったのです。また、助成金で漁協に大型水槽が設置され、採取した種から大量の苗をつくることもできるようになってきました。

そこで09年に初めて、種から育てた苗を昼の干潮時に植えつけるという、画期的な試みを行いました。自然アマモの移植は、花芽をつける前で状態が安定している冬でないと行えませんでした。しかし実生苗の植えつけは、昼に潮が引く春になってからでも問題ありません。4月に行われた植えつけには、熊本県知事も参加。今後、地域に参加を呼びかけ多くのひとが海の環境活動にかかわれる可能性を、皆が実感したといいます。

梅田先生とともにアマモ班を指導している、林業科実習教師の大久保有美子先生は、「アマモを通してアマモ班の生徒たちは本当に多くのことを学び成長しています。この活動の影響で進路を決めた子もいますよ」と、うれしそうです。


初夏、種がつまったアマモの花枝を採取します。花枝は、稲ならば穂の部分にあたります。

花枝はネットに入れて海中に置き、茎や葉の部分を腐らせます。数ヵ月後、腐った花枝から種を取り出し、成熟した種だけを選別します。根気のいる作業です。


この春卒業した平木里南さんは、「洪水の泥でアマモが埋まったことで、山が荒れると海も荒れる、森と海がつながっている、と実感しました。森も海もひとの手入れが必要だとわかって、整備の仕事をしたいと思い森林管理局に就職を決めました」といいます。

同じく橋本浩次郎さんは、「アマモをやらなかったら山は山、海は海で分けて考えていたと思います。自然はつながっていて、山とか海とかどちらかに偏っても環境はよくならないと気づきました。芦高の生徒で本当によかったと思っています」と笑顔です。

平松龍之典さんも「自分たちが植えることでアマモが増えました。海や山にゴミを捨てると結局自分にそのゴミが戻ってくるのと同じで、いいことも悪いことも自分たち次第」と話します。この2人も森林管理局に就職が決まり「仕事は山だけれど、アマモで学んだぼくたちは、海のことまで考えて山の仕事ができるはず」と、頼もしく語っていました。

「なんだこれー!?」。なじみのない海には、見たことのない不思議な生き物がいっぱい。

アマモ班の活動記録ファイル。写真のほかに楽しいイラストもたっぷり。皆の宝物です。


■今後の展開と課題

芦北高校を中心とした活動によって、04年にはアマモが1本もなかった防波堤外に、1075m2ものアマモ場が誕生しました。内側の自然アマモ場も、2118m2から3298m2へと約1.5倍に拡大し、調査で見つかる生き物は、数も種類も多くなったといいます。

大和田先生は「藻場の再生や海洋資源保全などの問題は、八代海全体で考えなくてはならない課題です」といいます。そして、八代海沿岸に、課題解決に取り組む機関や組織のネットワークを立ち上げることが必要だと提案します。

芦北町役場、農林水産課林務水産係の告畑(つげはた)一彦係長は、「佐敷湾での研究や実証試験は最終段階にあり、これまでの成果を本格的な実施に向けて検討すべき時期にあると考えています。自分の農地を肥えた土地にするように、豊かな海を取り戻すため漁業者と住民とが一体となった取り組みにしていきたいです」と話します。

今後どのような仕組みがつくられ、いかに連携と役割分担がなされていくのか、展開が期待されます。

(取材・執筆:大浦佳代)

この特集ページは平成22年度地球環境基金の助成により作成されました。