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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.078

Issued: 2009.07.15

第78講 日本政府、「中期目標」決定

目次
M・ジャクソンとアメリカンドリーム
選挙の夏近し
「中期目標」と「低炭素社会」ビジョンの変遷
昨年の政権交代―日米の対比
今後の見通し
「中期目標」は京都議定書の二の舞にならないか?
日本の社会構造を変えるために
逆転の発想を!
地球寒冷化説の逆襲?
水俣病問題最終解決へ近づいたか
今月のサプライズ

M・ジャクソンとアメリカンドリーム

Aさんセンセイ、M・ジャクソンが急死しましたね。ワタシの母が嘆き悲しんでました。

H教授お母さんには悪いが、ボクはビートルズ世代だから、M・ジャクソンのことはほとんど知らないし、あまり興味もない。ただ、面白いと思ったのは、彼以前のアメリカンドリームに乗った黒人シンガーは、ナット・キング・コールにしてもベラフォンテにしても、常識的なジェントルマンだった──あるいはそう装っていたよね。
それに比べると、彼はあまりに破天荒な生き様で、世間の顰蹙を買うことも多かった。だいたい、なんであんなに整形に次ぐ整形で顔を変えなきゃならなかったんだ。まるでわからない。

Aさんえ〜、ひどいなあ。マイケル・ファンからの苦情が殺到しますよ。
センセイは“破天荒”って言いますけど、いつまでも子どもの心を失わない純真さがマイケルの素晴らしさじゃないですか。

H教授まあ、ぼくの偏見だ。彼の孤独な死と、荒涼とした遺書は、アメリカンドリームの持つ危険な側面を現しているかのようだし、もしかするとアメリカンドリーム自体の変質を意味しているのかもしれないな。


選挙の夏近し

Aさんまた、お得意の、意味あり気に思わせるだけの、どうでもいいテキトーなセリフが出たわ(キョージュ、にやっとする)。
それはともかくとして、都議会選挙もはじまりました。解散総選挙も近そうですし、いよいよ夏、政治の季節ですね。
千葉市長選では民主党の無名候補が快勝しました。横須賀市長選でもコイズミさんまでが応援した与野党相乗り候補に、新人無名候補がマサカの勝利をおさめました。自公与党の苦戦やサプライズが続いています。やはり自公政権はもう持たないんじゃないですか。

H教授そのことと民主党が勝利するかどうかはまた別問題。今日行われた兵庫県知事選は民主党は独自候補を立てず与野党相乗りだし、静岡県知事選は候補一本化に失敗するし、もう一つ、しゃきっと日本を変えるって姿勢が見えない。
それに決定的な汚点にまではなりそうにないが、鳩山サンの献金疑惑も表面化しているし、厚労省女性局長の逮捕にまで発展した、障害者団体向け郵便料金割引制度を悪用した事件では、民主党の大幹部であるI氏の名前も取り沙汰されている。だから、これから解散総選挙まで何が起こるかわからない。
ただ、何が起きたとしても麻生サンの続投はないだろうという気がする。
ま、ボク個人としては、麻生サンはお粗末には違いないが、愛すべきキャラクターだと思っている。
もっと恐いのは橋下=東国原新党なんてのができて、それが一挙に台風の目になって、そちらと組んだところが勝利しちゃうってことだ。そうすれば「お笑い無責任内閣」。
ま、万一、そんなポピュリスト政権ができても、すぐに幻滅の嵐が襲うだろうけどね。

Aさんポピュリスト?

H教授大衆迎合ということだ。いわば前講で言った「即自的な民意」をおだてあげるような政権だ>【1】

Aさんでもどうして“幻滅の嵐”が襲うのですか?

H教授税金はできるだけやすく、福祉や行政サービスはできるだけ手厚く、しかも公共事業で道路も鉄道も空港も整備なんてのはできるわけもない。破綻するに決まってるじゃないか。
ま、「お笑い無責任内閣」ができるくらいなら、まだいいが、そのあとはもっと恐いのは、××のようなファシストまがいが政権をとったりすることだ。
もうこれで下らないおしゃべりは終わりにしよう。“環境行政時評”なんだから。


「中期目標」と「低炭素社会」ビジョンの変遷

Aさんぷっ、下らないおしゃべりをしているのは、さっきからセンセイですよ。
さて、6月の最大のトピックは、麻生サンがとうとう「中期目標」を発表したことですね。大体前講で予想した通りで、「足して二で割る」を地で行ったかのように、対90年比で△8%でした>【2】

H教授うん、6つの案の真ん中が対90年比△7%だったけど、それに1%上乗せして、それを対05年比として表わすとキリがいい△15%になるそうだ。
05年比でいうとEUは△14%らしいから、それを上回っていると言いたかったのかもしれない。対90年比でいうと米国は±0%で、EUは△20%だけど、米国の数字は△28%ぐらいまでの可変性をもっているという話だし、EUも条件付で△30%までの隠し球を持っている。
それはともかく、対90年比がこれまでの国際標準だったのを、麻生サンはなんの臆面もなく05年比にしちゃったんだけど、そのことを正面切って批判したメディアはどこもない。それどころか、当たり前のように追随しちゃって(対05年比で)△15%というのはあきれちゃったな。
ボクは意地でも対90年比を使わせてもらうけどね。

Aさんま、いずれにせよ、これで先進国の「中期目標」の提案はほぼ出揃ったわけですね。
それにしても随分紆余曲折がありましたよねえ。一度きちんと振り返っておきましょうか。

H教授そうだな。ポスト京都の議論は以前から行われていたけど、日本で大きく話題になったのは一昨年5月のことだ。当時の安倍ソーリが国際交流会議「アジアの未来」晩餐会で「美しい星への誘い」として演説したのが「美しい星50」。2050年までには全世界の人為的なGHG排出を現在の半分にしようと訴えた>【3】
で、それからまもなくして「21世紀環境立国戦略」を閣議決定。ここでも2050全球GHG半減を訴えていた>【4】

Aさん産業界や経済産業省はそれを飲んだんですね。

H教授だって、45年も先の未来のお話だもん。
ただ、今後5年、10年先の具体的定量的な政策には、一切触れてなかったのが特徴的だった。
当然、「中期目標」もパスだし、第一、2050年に全球半減はいいけど、日本はどの程度カットするかにも触れていなかった。

Aさんそしてその数ヵ月後、参院選惨敗。それでも続投宣言した安倍さんですが、ある日、唐突に政権を投げ出しちゃったんですね。


H教授うん、あとを継いだのは福田サン。福田サンもそれなりに温暖化対策には熱心だったようで、昨春には産業界の反対を押し切って、国内排出量取引制度の試行の導入の方向性を打ち出した>【5】
また、経済産業省が「中長期エネルギー需給見通し」(→63講その2)で牽制球を放ったにもかかわらず、洞爺湖サミットを控えて、「福田ビジョン」を公表。これをその後「低炭素社会づくり行動計画」として閣議決定した>【6】
そこでは2050年には日本は現状より60〜80%カットと明言していた。そして税制の環境シフトも行うとしていた。

Aさん60〜80%カットは、多くの先進国ですでに言明していた削減の範囲と軌を一にするものでしたけど、それなりに2050年の日本を「低炭素社会」にするという意志を鮮明にしたんじゃないですか。

H教授だけど、同時に多くの先進諸国は、すでにそのための中期目標としての2020年のGHG排出量の目標を明言していたけれども、それには一切触れていなかった。
触れようと思ったって、何にも決まってなかったからだけどね。

Aさんそしてその方向性すら打ち出せないまま、昨秋、福田内閣もまた政権を投げ出しちゃいました。センセイ、怒ってましたねえ。
でも、福田サン、いいときにやめたんじゃないですか。そのあとリーマンブラザース破綻に始まる経済危機が日本を直撃したけど、やめなかったら火達磨になってましたよね。


昨年の政権交代―日米の対比

H教授降りかかる火の粉をかぶる覚悟もなくて、政治家になる方が間違ってるんだ。
ま、それはともかく、福田サンのあとは今の麻生サン。
新内閣誕生直後に、「100年に一度の大津波」といわれる経済危機が世界を襲い、麻生サンは温暖化対策なんてことを考える余裕もなく、それに翻弄されっぱなし。
失言や漢字の読み間違いの続出くらいなら、まだご愛嬌ですまされたけど、思いつきでいろんなことを言ってはすぐ取り消したり、ぶれたりしてリーダーシップのカケラも見受けられなかった。党内閣内からの不祥事も後を絶たなかったし、側近中の側近だった鳩山サンとも「かんぽの宿」問題で袂を分かってしまった。
まさに、ブッシュ政権末期のような状況だ。


Aさんその米国をみてみましょう。同じ政権交代でも海の向こうではだいぶ違うようですね。昨年末の大統領選挙でオバマさんが勝利しました。国際協調など無視してカウボーイ気取りで世界をひっかきまわし、最後は野垂れ死にのような終わりかたをしたブッシュ政権と異なり、オバマさんは国際協調主義を宣言。環境政策でも、京都議定書を離脱し、温暖化対策に背を向け続けたブッシュさんとは180度異なる、温暖化対策積極論をぶちあげました。


H教授うん、その極め付きが「グリーンニューディール政策」>【7】。大統領就任直後から経済危機・雇用対策としての環境対策を強力に打ち出した。
もちろん米国の不況は依然として深刻で、回復の兆しは見えないけど、オバマさんの支持率はいまだ圧倒的で、麻生サンとは大違いだ。

Aさん日本でも日本版グリーンニューディールを、と環境省などがいろいろ動いたし、それなりの成果がないわけじゃなかったですけど>【8】、麻生サンの主力は目先の人気取りに行っちゃいましたからね。
定額給付金12,000円に、休日の高速道路乗り放題1,000円…。

H教授うん、さらに旧態依然たる公共事業ばらまき路線など、あれやこれやで補正予算はなんと15兆円! 即自的な民意は喜んだかもしれないが、対自的な民意は完全にそっぽを向いちゃったといっていいだろう。
雇用対策、景気対策として産業構造を環境対応型のものに転換していこう、ビジネスチャンスとしてとらえようという発想が、皆無というわけではなかったんだろうけど、欧米との対比ではきわめて希薄だった。

Aさんちょっと話を元に戻しましょう。オバマさんは中期目標も明言したんですね。


H教授うん、2020年にはGHGは対90年比0%(対05年比△20%)にまで減少させるという新方針を打ち出した。これだけをみれば、大したことはないと言えそうだが、それまでのブッシュ政権はなんと2025年まではGHG排出は増え続け、2025年からは減少させるという方針だったから>【9】、ガラッと変わったという印象を与えた。
また対90年比0%というのもまだ可変的で、途上国取り込みのためにはもっとカットということもありうべしということのようだ。
米国のアキレス腱は伝統的に議会との軋轢。クリントン大統領末期のとき、ホワイトハウスではそれなりに温暖化対策をやろうとしたが、議会は全会一致で京都議定書否認にまわったことがあったほどなんだ。
6月末にはC&Tの排出量取引制度創設を軸とする、米国版温暖化対策法案ともいえる「クリーンエネルギー・安全保障法」案が、ギリギリだったけど下院を通過した。
いずれにせよ、この法案が上院を通過できるかどうかが今後のみものになっている。

Aさんこれで日本以外の先進国の中期目標は、ほぼ出揃っちゃったわけですね。
で、日本では、官邸に中期目標を定めるための委員会が設けられたんですけど>【10】、今年に入っても環境省・NGOと経産省・産業界の対照的な意見を収斂させることはできず、ついに対90年比+4%から△25%までの6つの案を官邸に提出。麻生総理の政治決断に委ねることになってしまったわけですね。そしてついにその結論が出ました。


今後の見通し

H教授日本での政治の極意は、「足して二で割る」ことだと思われてる節があるんだけど、麻生総理が選択したのはまさにその通りだった。
この案に対してはすぐさま中国、国連が反応し、物足りなさを表明した。
また、洞爺湖サミットでは、G8諸国は2050全球GHG半減の長期目標を宣言で明示したが、翌日開かれた主要排出国会議では新興国の抵抗で2050GHG半減は盛り込めなかった。
その轍を繰り返さないために、イタリアのラクイラで来週開かれるG8サミット>【11】の宣言案と、その翌日開かれる新興国を含めた「主要経済国フォーラム」の宣言案では、ともに「2050全球GHG半減」に加えて「先進国は少なくとも対90年比80%削減」を入れたらしい。
後者は新興国側をなんとしてもポスト京都で、なんらかの定量的な削減枠組みに取り込みたいとの意図から、先進国側により厳しい表現にしたようだ。
とりあえずはこれがCOP15の前哨戦となるだろう。

Aさんいずれにせよ12月にコペンハーゲンで開かれるCOP15で、中期目標、いわゆる「ポスト京都」の最終決着がどうなるかが決まるわけですね。

H教授COP16まで先送りという可能性だってゼロじゃないと思うがね。


「中期目標」は京都議定書の二の舞にならないか?

Aさん日本の中期目標は中国や国連に「低い」って批判されてます――そのこと自体はその通りだと思いますが――対90年比△8%って、そもそも達成可能なんですか。
このカット分はCDM国際排出量取引などの京都メカニズム分や森林吸収分を含んでない、いわゆる「真水」なんでしょう。マトモな政策手段も持ってないのに、そんなことできるんですか。


H教授おっ、かなりシビアだな。

Aさんアタシ、10年前の京都議定書と同じになるんじゃないかと心配なんです。
京都議定書のときは日本は産業界の主張を入れて、当初対90年比0%を主張しました。結果的には京都メカニズム・森林吸収込みの対90年比△6%で決着しましたが、最終的にはどうなるんでしょう。
産業界の当初の主張の90年比0%だって、達成できないことは明らかじゃないですか。
08年から12年までの平均値だったら、対90年比+5〜+10%くらいになるんじゃないですか。

H教授さあ、どうなんだろう。公式には政府は今だって、対90年比△6%は達成可能だという看板は下ろしてないんじゃないかな。日本がもっと不況になって生産活動が落ちれば、排出量も落ちると期待している輩もいないとは限らない。
でも、ま、常識的に言えばキミの言う通りだろうな。でもそれはどうしてだと思う?

Aさんセンセイ、いっつも言ってましたよね。技術革新にだけ頼っていて、一向に社会的経済的構造を変えようとしないからだって。
10年前から環境税は“検討する”をひたすら繰り返しているだけ。国内排出量取引制度はようやく昨年秋から試行が始まった程度で、世界の取引市場とのリンクなんていつになるか見当もつきませんよね。自然エネルギーの固定価格買取制度もようやく太陽光発電に限ってだけの小規模なものがはじまっただけ。世界の流れからは圧倒的に遅れています。

H教授だから、それはどうしてなんだ。
別に「低炭素社会」だけではなく、「循環型社会」、「自然共生型社会」、「持続可能な社会」、「生物多様性保全」とかいろんなことが言われ、基本法ができたりして、理念としてはかなり一般化しているけど、GHG削減策に典型的なように、所詮はお経の文句って感が拭えない。一体、それはどうしてなんだ。環境税を導入すれば、そしてその税額を上げれば、GHG排出抑制ができるのが確かなのに、どうしてやらないんだ。


Aさんうーん、どうしてでしょう。どうしてなんですか。やはり民意が大して望んでないからでしょうか。


日本の社会構造を変えるために

H教授そりゃそうには違いないが、そう言ってしまえば、実も蓋もない。それに世論調査などでは一応は望んでいるということになっている。だから、日本でなぜできないかを、もう少し、社会の構造として考えてみようじゃないか。
まずは経済成長の鈍化やマイナス成長が死ぬほど恐い。シビアな環境対策を産業構造に組み込み、ビジネスチャンスにしようなんて姿勢がまるでない。
そして各省各部局、いやそれだけでなく自治体から民間大会社までを貫いている、内部構造としての横並び主義で、それが結果としての現状維持につながってしまう。
ある政策を推し進めようとするとき、やり方の一つは補助金などのオカネとヒトだ。でもいろんな省庁部局にはすべて族議員がくっついていたりして、一つの政策や一つの省庁部局に突出した予算や人員をつけるわけにはいかない。
だから結局のところシーリング体制、省庁一斉横並びの対前年比何%の世界になってしまう。これは予算だけじゃない。定員だって、税の減免だって同じ力学が働き、掛け声とは裏腹に抜本的な変革ができない仕組みになっている。
民間だって基本的に同じだ。「赤信号、みなで渡れば恐くない」って奴なんだ。

Aさん民間はともかく、役所だったら、そんなのソーリにリーダーシップがあればできるんじゃないですか。

H教授例えば予算を考えてみよう。ある政策に何兆円なんて予算を投入しようとすれば、大増税すれば別だけど、財源が限られているから、逆に何割も予算を削減しなきゃいけないところがいっぱい出てくる。
そりゃあ、削られる側は必死の抵抗をするだろう。ボクが役人だってそうするさ。
そしてソーリが常識人というか凡人だったら、理論武装されて攻められりゃ、対抗できないだろう。


Aさんぷっ、要するに非常識な人間がソーリだったら変えられるかもしれないって訳ですね。

H教授そんなことは言ってない。確固たる信念とそれへの揺るぎない国民からの信頼がよほどなければ、平時に予算をがらっと変えることはきわめて難しいんだ。
つまり予算面からの横並び主義は変えるのが難しく、それが閉塞感を生み、コイズミさん流のコーゾーカイカクへの期待が国民的に高まったんだ。
でも、コイズミさんだってこの面では結局大したことは何もできなかった。
もちろん、これは予算だけじゃない。定員にしたって、税制にしたって、権限にしたって、すべて同じ力学が働いている。
でも平時の予算を大きく変えるのは難しくとも、補正予算ならば話は別だ。
ところが、麻生サンはこの補正予算15兆円で旧態依然たる目一杯のバラマキをしちゃった。
目玉のはずの「日本版グリーンニューディール」が――中身についてはボクは異論があるけど>【12】――15兆円の一割にしか過ぎないということが、すべてを物語っている。

Aさんじゃ、どうすればいいんですか。


逆転の発想を!

H教授ひとつの解は高級官僚の政治的任命制度だけど、これは危険な側面も持っている>【13】
また、ボクは予算編成についても革命的な案を言ったことがあるんだけど、読者の反応は皆無だった。
つまり、「各省ごとに義務的経費を除いて、公共事業やその他の政策的経費については最低限50%は各省が自発的にカットする。その代わり、カット分の3分の1は各省に戻して、各省の責任で自由に予算編成できるようにして、査定もしない。残りの3分の1は各省の縄張りを越えた政治予算にし、公募方式で各省に競争させる。残る3分の1を借金返済に充てる」というものだったんだけどねえ>【14】

Aさんフィフティフィフティ方式>【15】の変形みたいな案ですね。

H教授人事システムについても、法文系キャリア優位のもとでシマごとに縄張りが決まっている現状について、「シマ内部に自浄のためのシステムは存していない。自浄システムを内部にビルトインする唯一の現実的な手段は、不祥事を起こした者のポストはすべからく他のシマで埋める」と喝破したつもりだ>【16】。ボクは枡添サンは個人的には好きじゃないけど、今度の医政局長と保健局長の人事については、ついにその聖域を打ち破ったという意味では評価している。

Aさんセンセイが法文系キャリアで、同じことを言ったら評価できるんですけどねえ。

H教授(無視して)縦割りの是正についても「各省庁は縦割りになってるんだから、(首相)補佐官がいくつもの省庁に関連しているなんらかのシングル・イシュー、つまり単一課題を担当し、それで各省を横に串刺しするようにすりゃあいいんだ。そして補佐官ひとり当たりスタッフを最低でも何十人か付けて、そのシングル・イシューに関する指揮命令権を持たせりゃあ少しは変わるかもしれない。例えばバイオマス担当補佐官とかね。ことバイオマスに関する限り、農水省も経産省も環境省も、担当官はそこの大臣よりも担当補佐官の指示を優先するシステムでも作らなきゃあ、動きっこない。最終的にはすべての役人は縦の序列で動くとともに、新たにできた横の系列からの指示にも従わなければならないようにすればいい」と言った>【17】けど、これも決してできない話ではない。
つまり、抜本的な政策転換を行うには、それを受容し駆動する基礎となるような、システムというか、組織原理のようなものや、<常識>をもう一度見直す必要があるんだ。


Aさん例えば?

H教授ボクは何度も言ってるぜ、手近なところではオリンピックの開催時期をズラせというのだってそうだ>【18】
公共料金体系を環境負荷がもっとも少なくなるようにガラッと変えるというのも何度も言っている。
「権利」と「義務」を時によっては逆転させろっていうのもそうだ>【19】
また、これだけネットとケータイが普及してきたんだから、サラリーマンの勤務の過半は在宅で可、あるいは在宅を義務付けるなんてすると、労働のイメージもガラッと変わるし、都市の難問のかなりの部分が解決できる。
少子化をホントに憂うんなら、私生児優遇策をとりゃあいいんだ。現にフランスはそうしている。
こういう大胆な発想でもって、いろんな世の中のシステムをもう一度見直すんだ。

Aさん(小さく)アタシャ、大学院の指導教員をまず見直すかなあ。


H教授中期目標に話を戻せば、意味のある中期目標にするためには、いずれにしても、そうしたシステムの根本的な見直しを行い、新たな政策転換を受容させる仕組みづくりが必要だし、それには十分な検討と周知と準備の期間が必要だ。
さらに価値観を根底的に転換させるには10年でも足りないくらいだが、温暖化対策は待ったなしだから、本格的な削減は2020年からということにする。
だから今決めるのは、2050年対05年比80%減、あるいは95%減をゴールとしての、2040年と2030年の目標。そしてそれが未達成のときに世界に示す覚悟のほどだ。なけなしの外貨を、未達成率に応じて世界にドーンと拠出することを宣言する>【20】
またもや京都議定書の二の舞みたいなことになれば、スッテンテンの裸になると宣言する。
こういうふうに、自らをがけっぷちに追い込んでしか、太平洋戦争敗戦のときのような大転換はできないだろう。(大演説)


地球寒冷化説の逆襲?

Aさんはいはい。ところで水を差すようですが、6月1日の夕刊には『太陽どうした? 活動鈍く ──200年ぶり、地球「ミニ氷河期」可能性』という記事が出ていました。太陽の活動がここ2年ほど急速に鈍くなってきているというんです。温暖化どころの話じゃないんじゃないですか。

H教授うん、正確には、11年周期で黒点数は増減を繰り返すんだけど、最小期を過ぎて活発にならなきゃいけない時期だのにまだなっていないという記事だ。
反温暖化対策論者の池田氏の6月7日のブログ「太陽活動は弱まっている」では「(温暖化どころか)寒冷化が起こる可能性があると研究者は懸念しはじめている。広大な宇宙の摂理の中では、人類の活動が与える影響はよくも悪くも微々たるものである。「人類が地球を救う」などという発想は、西欧的な自民族中心主義の変種にすぎない」と言っている>【21】
また今年はじめの日経新聞の記事でも「05年以降地球の平均気温は下がり続けている」という記事が出ていて、反温暖化対策論者や温暖化懐疑論者を喜ばせている。

Aさんホントのところどうなんですか。


H教授前者の話で黒点の活動が鈍いままになっていることは事実だけど、でも11年の周期変動が地球への日射に及ぼす変動は微々たるものだそうだ。詳しくは国環研の江守サンの書いた日経Ecolomyの記事を読んでほしい>【22】

Aさん「05年以降地球の平均気温は下がり続けている」っていうことについてはどうなんですか。

H教授キミ、温暖化って言ったって毎年毎年直線的に上がるわけじゃない。それこそ太陽の脈動や地球内部の脈動などさまざまな要因に規定されていて、毎年上下するのは当たり前。20年、30年というロングタームでトレンドをみるもので、2年や3年でわかるわけがない。2月8日の安井先生の記事をよく読んでみるんだな>【23】

Aさんでも太陽活動と地球の平均気温って、なんとなくリンクしているかも知れないじゃないですか。

H教授ああ、もちろんその可能性はゼロとは言えない。
10年後になっても太陽の黒点活動はなおも縮小していき、それまで毎年地球の平均気温は基本的に下降して、誰の目にも氷河期に向かっていることが明らかになる可能性が皆無とはいわない。
でも少なくとも現時点では、同じ寒冷化でも、そんな可能性よりは、地球のどこかで超大火山、スーパーボルケーノが噴火し、その噴煙が全球を覆い、太陽光を遮って数年以上にわたる気温低下を招くという確率の方がまだ高い気がするなあ。


水俣病問題最終解決へ近づいたか

Aさんそれと水俣病については何度も取り上げてきましたが、今国会で急に話がまとまり、与党PTチーム案に民主党案を大幅に取り込んだ「水俣病被害者救済法案」がまとまり、この時評がアップされる頃にはもう可決されているのでないかという話ですね>【24】

H教授うーん、あまりに話が急テンポで進みすぎてよくわからない。被害者の救済という意味では以前より広くなったのは事実だろうが、依然として反対している被害者団体もあるようだし、分社化ということの意味ももうひとつボクにはよくわからない。
それにいわゆるダブルスタンダード問題>【25】がどうなったのかも新聞だけではよくわからないので、とりあえず今回は評価を保留しておこう。ただ残念ながら「最終解決」ということにはなりそうにない。


今月のサプライズ

AさんほかにもPM2.5環境基準案が決まったとか、POPs条約締結国会議で決まった8物質についての国内法対応として、それら8物質を化審法の第一種特定化学物質に指定する方針を決めたとか、国土交通省は淀川水系流域委員会の休止を決めたとか、いろいろありますが、とりあえず、今日はこれで終わりにしましょうか。
あれ、センセイ、今日は灰皿がきれいですね。

H教授あ、うん。(照れくさそうに)実は思うところあって禁煙したんだ。

Aさんえー、キ・ン・エ・ン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ウ、ウソでしょう。人類最後の一人になっても吸い続けるなんて豪語していたじゃないですか。やめて何時間ですか。

H教授もう5日だ。


Aさんひぇえー、驚いた。
あの冷酷無比極悪非道傍若無人言語道断阿鼻叫喚支離滅裂のセンセイが回心したんだ。
奇跡だ、奇蹟だ、センセイ、鬼籍に入っちゃうんじゃないですか。

H教授…。

Aさん(涙ぐんでキョージュの手を握り締め)センセイ、きっと日本だって変わります。低炭素社会は実現します、いえ実現させなければいけません…。
(しばらく経って不思議そうに)でも何があったんだろう…。



注釈

【1】即時的な民意
第77講「低炭素化社会―戦略の不在と高炭素化政策」
【2】政府の中期目標
第77講「間近に迫る日本の中期目標選択とキョージュの転向」
【3】安倍ソーリによる「美しい星50」の提唱
第53講「「美しい星50」戦略を祝す」
【4】「21世紀環境立国戦略」の閣議決定
第54講「「21世紀環境立国戦略」再説」
【5】国内排出量取引制度の試行導入
第62講「国内排出量取引制度の検討開始へ」
第72講「自然エネルギー復興に向けて ──拡大PPP論」
【6】洞爺湖サミットと、「福田ビジョン」「低炭素社会づくり行動計画」の策定
第66講「福田ビジョンの可能性と限界」
第68講「「低炭素社会づくり行動計画」閣議決定」
【7】グリーンニューディール政策
第72講「2009年、霧中の旅」
【8】日本版グリーンニューディールの取り組みと成果
第76講「低炭素革命(1)」
【9】米国の温暖化対策の傾向
第1講「キョージュ、温暖化対策を論じて暑く、もとい熱くなる」
第38講「温暖化四方山話」
【10】中期目標策定のための委員会
首相官邸>地球温暖化問題に関する懇談会(中期目標検討委員会など)の開催状況
【11】
G8サミット ラクイラ会議
【12】「日本版グリーンニューディール」に対するキョージュの異論
第76講「低炭素革命(1)」
第77講「間近に迫る日本の中期目標選択とキョージュの転向」
【13】高級官僚の政治的任命制度
第76講「脱線―ポリティカル・アポインティーについて」
【14】予算編成に関するキョージュの革命的な提言
第48講「07年度政府予算案決定」
【15】フィフティ・フィフティ方式
第59講「カーボン・オフセットとフィフティ・フィフティ」
【16】官僚の人事システムの現状と課題
第21講「環境行政の人的側面」
【17】省庁縦割りの是正について
第46講「安倍政権の滑り出し」
【18】抜本的な政策転換のために、組織原理の<常識>を見直す
第67講「「とりまとめ予算」の謎」
【19】権利と義務の逆転
第76講「バカンス革命?」
【20】意味ある中期目標を打ち出すための“覚悟”
第77講「間近に迫る日本の中期目標選択とキョージュの転向」
【21】太陽活動と人類の影響について
反温暖化対策論者・池田信夫氏のブログ記事
【22】11年の周期変動が地球への日射に及ぼす変動について
国立環境研究所・江守正多氏
【23】05年度以降の地球の平均気温について
気候と気象の違い(市民のための環境学ガイド)
【24】水俣病被害者救済法案
水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法案(第171回国会 衆法一覧より)
【25】水俣病のダブルスタンダード問題
第39講「水俣病再説」
第53講「最近の話題3 ──水俣病のダブルスタンダード問題」

(平成21年7月5日執筆、同年7月7日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。