No.087
Issued: 2010.04.12
第87講 鳩山内閣誕生から半年
難産の末、温暖化対策基本法案まとまる
H教授やっと温暖化対策基本法の案がまとまったなあ。
Aさん前講の話とは違いがありましたか【1】。
H教授そりゃおおありさ。国内排出量取引制度は大発生源に対するキャップ、つまり総排出量規制制度があって、はじめて成立する概念だと思うんだけど、例外的にではあっても原単位方式も認めることありうべしとしている。
Aさん原単位方式というのは、生産量や生産額の単位あたりのGHG排出量、つまり排出係数を年々下げればいいという話ですね。だから、生産量が大きく伸びたときは総排出量が増えることもあるっていうことでしょう?
H教授うん、鉄鋼などエネルギー多消費の産業団体とその傘下の労働組合が総排出量規制に猛反発したのに配慮したって話だ。
でもねえ、貧しい途上国が原単位方式や対BAU方式を言うのは理解できるが、先進国が言うべきじゃないと思うな。
温暖化対策基本法に関する前講の話
Aさんえーと、原単位方式は中国やインドで中期目標に取り入れてますよね。単位GDP当たりのGHG排出量を、中国は40〜45%、インドは20〜25%減らすのを目標とするそうですが、対BAU方式って、なんですか?
H教授BAUは「Business As Usual」。文字通り、現状のままで推移したと仮定した場合の目標年度に予想される排出量より、目標年度にどれだけ減らすかというものだ。2020年の中期目標でいうと、ブラジルが37.5±1.5%程度削減を目標とし、お隣の韓国は30%削減を目標とするそうだ。
Aさんじゃ、絶対量がどれだけ減るか、そもそも減るのかということもわからないわけですね。変なの。
でも日本も原単位方式も認めるとすると、国内排出量取引の制度設計がいへんですね。
H教授そもそもが原単位方式などたとえ例外としてでも認めるべきじゃなかったと思うよ。経済同友会だっておかしいと言ってるぐらいだ。
Aさん産業界や労働組合の意を汲んだって話ですが、政府部内にもそういう意向があったということですか。
H教授うん、環境省と経産省の対立構造は基本的に変わってないみたいだ。
Aさんところで、2020年の25%カットでも2050年の80%カットでもいいんですが、そのうちどれだけを国内の排出努力で削減して、どれだけをCDMによる海外での削減や、海外からの排出権購入で減らしたとみなすか、その割合については何か言っていますか?
H教授いわゆる「真水論」だね。これが、もろに温暖化対策税やキャップの話と連動するから、重要な論点なんだが、依然として不明のままだ。
4月に入ってから環境省の行程表(ロードマップ)案が公表されたが、そこでは一応「真水100%」としているが、多分紛糾するんじゃないかな。
この行程表のもとになっているのが、環境省の中長期ロードマップ検討会での議論だ。2020年の中期目標に関しては、3月19日にこの検討会が、「さまざまな施策を講じることにより、今ある技術だけでも国内で25%のカットは可能」とのロードマップ(行程表)の叩き台を出した【2】。
Aさんそれに必要な経費や国民負担はどうなんですか。
H教授上の資料ではそれには触れていない。3月26日に同じ会議が開催され、そこで議論されたそうだ。その結果は発表されていないが、そのときに提出された叩き台はすでに公表されている【2】。
Aさんそれにはどう書いてあるんですか。
H教授2020年時点で33兆円の投資が必要。ただし、競争技術等で縮減するものもあるので、それを差し引くと20兆円だそうだ。
で、海外への輸出も考慮すると、45兆円の新市場と125万人の新規雇用が見込まれるし、関連産業への波及効果も考えると118兆円の市場規模、345万人の雇用規模に達するそうだ。
Aさん潰れていく産業や失われる雇用などもあるんじゃないですか? そういったマイナス効果はどうなんですか?
H教授マイナスの影響は評価してないそうだから、そういう意味では説得力がどうかなあという気がする。
ただGDPはこの対策を実施したときから5年で1%程度は押し上げるという試算を出している。
Aさん具体的にはどういう施策をやれば達成可能だと言うんですか。
H教授今まで言われていた施策の総動員だ。排出量取引、温暖化対策税導入、税のグリーン化、再生エネルギーの全量買取を大前提として、住宅・建築物では省エネ基準の義務化、エコカー減税の継続、高効率給湯器等の普及、住宅新築に際しての太陽光発電の義務化等々だね。
Aさんほかに目立った点は?
H教授原発は8基増設し、稼働率も近年は60%台だが、それを最大88%にするとしている。温暖化対策基本法の議論のときに、原発推進への舵を切っちゃったんだね。
原発推進に否定的だった社民党も最後には飲んでしまった。
Aさん再生可能エネルギーの占める率はどうなんですか。
H教授基本法では、2020年に一次エネルギー供給に占める割合を現況の5%弱から10%にするとしている。
経産省のエネルギーの中長期需給見通しでは2020年には9%となっており、それを基本法との関係で10%にしなければいけないというので経産省は四苦八苦しているんだが、このロードマップでは12.6%にするとしている。
経産省の猛反発は必至だろうなあ。
Aさんセンセイのコメントは何かありますか。
H教授GDPがどうとか市場規模がどうだとかについて、ボクは経済学のことはさっぱりわからないからコメントのしようがない。そりゃあ、GDPが大きくなれば結構なんだろうけど、なんとなく信じがたいところがある。というか、希望的観測あるいは願望が入り混じっているような気がしてならない。
それに政策そのものには異論はないけど、なんといっても総エネルギー抑制という視点が決定的に欠けていると思う。
もともと温暖化基本法は随所に「経済の成長、雇用の安定、エネルギーの安定的供給の確保」という配慮規定があるんだけど、これって公害対策基本法に当初あって、公害国会で削除された「経済との調和」条項に似てると思わないかい?
Aさんつまり経済成長神話から、いまだに抜け出せていないということですね。
H教授うん、このことは今まで何度も言ってきたから繰り返さないけどね。
そもそも2020年に25%カットという基本法の目標は、「国際的な枠組み構築と意欲的な目標が合意されたと認められる日以降の政令で定める日からの施行」ということになっていて、それこそ空文化する可能性だって大きい。
もしこれが空文化すれば、それこそ2050年80%カットなんて雲散霧消しかねない。
温暖化対策基本法に関する前講の話
Aさんそういえば、EUは早々とメキシコで開催されるCOP16でのポスト京都の新たな枠組みは構築できないとあきらめ、COP17での最終合意を目指すことにしたそうじゃないですか。
H教授うん、このままじゃ前途は暗い。
反温暖化対策論者が言うように、「温暖化なんて起きてないし、これからも起きない」「仮に起きても大したことはないし、なんとかなるさ」って思い込みたくなるね。
IPCCは人為で温暖化が起きていることは9割まで確かだと言っているが、逆に言うと1割くらいはそうじゃないかもしれないじゃないか。その1割の可能性にかけたくもなっちゃうね(自嘲)。
Aさんでもポスト京都の国際的な枠組みができないとどうなるんですか。
H教授とりあえずは各国がそれぞれ生き延びるための適応策を講ずるんだろうな。
温暖化だけなら、知恵を絞れば日本は切り抜けられるだろう。
気候変動で農業生産が極端に落ちたりして、適応できない国なんかは、最終的には人口は減少してバランスがとれることになるというのが古典的な考え方。
でも、グローバルな時代になって、難民の大量発生で、民族紛争などが連鎖的に起きて、世界全体が混乱に陥ることは必至だね。
Aさんもう一つは、オイルピークが過ぎたことが誰の目にも明らかになり、原油価格が極端に高騰することでしょうね。
でもそうなると、GHG排出に自動的にストップがかかる。つまりフィードバック装置が働くということになりますよね。
H教授そのフィードバック装置が発動しておさまるかどうかだけど、ボクは悲観的だな。
いずれにせよ、そのためにも再生可能エネルギーの開発を進めることが必要なんだけど、もうひとつはエネルギー抑制型の社会システムをなんとしても構築することだろう。
そのための世界のモデルになることを目指さなきゃいけない。
別のリスクを背負い込むことになる原発の推進に血道を上げているときじゃない。
Aさんつまり都市化、脱第一次産業の流れを逆流させることですね。
H教授うん、そのためにも国内排出量取引だとか国内CDMが必要なんだ。
Aさんそうなれば改めて農山村の森林の価値が見直されるし、都市と山村の格差が小さくなり、農林漁業が雇用の受け皿になるというわけですね。
H教授うん、成長とか豊かさの概念を見直すべきだ。エコロジカルフットプリントという視点からの開発許容限度内で、なおかつ国連開発計画が提唱する、医療、教育、貧困などの観点を総合した「人間開発指標」を満たしている国はキューバだけだという話もある。第77講で話したブータンなんかもそれに近いかも知れない【3】。
そうした新たなモデルになることを日本は目指すべきだ。
Aさんそんなの不可能ですって。
H教授でも自発的にそうするか、結果的にそうせざるをえないところまで追い込まれるかどうかは別にして、そうなっていく可能性はあると思うな。
Aさん
カドミウム問題に見る省庁間の消極的権限争い
Aさんまあ、その問題はさておいて、なぜかカドミウムが問題になりましたね。一体どういう問題なんですか?
H教授カドミウムというのは重金属の一種で原子番号は47、元素記号はCd。
富山県神通川流域の一部でカドミウム汚染を引き起こし、悲惨なイタイイタイ病を引き起こしたことは有名だ。上流の神岡鉱山から亜鉛精錬の廃水が流れ込んだんだ。
Aさんカドミウムを過剰に摂取すればイタイイタイ病になるんですね。
H教授イタイイタイ病の原因物質はカドミウムとされ、裁判でも被害者・原告側が全面勝訴した。
で、食品衛生法で玄米についてはカドミウム1ppm未満を食品規格基準としている。規格基準を満たさないコメは焼却処分にするとともに、さらに0.4ppm以上1ppm未満の玄米についても農水省が買い上げて食用として流通しないようにしている。
またそういう汚染米を産出する水田については環境省が農用地土壌汚染防止法に基づき土壌改良を推し進めてきた。
ちなみにカドミウムは日本では硫化物として硫カドミウム鉱という黄色い粉状、皮膜状で産出するが、初成鉱物でなく、亜鉛鉱の二次鉱物のようだ。カドミウムは亜鉛の同属で、閃亜鉛鉱のような亜鉛の鉱物に必ず微量含まれているんだ。
Aさん鉱物オタクの話は結構ですから。
コメ以外の畑作物の規格基準はどうなっているんですか。
H教授食品衛生法ではまだ決めてなくて、国際的にはFAO/WHO合同食品規格委員会、通称コーデックス委員会で基準値原案が出され検討されている段階のようだ。
国内でも、厚生労働省が検討をしていたらしい。そのためには畑作物の実態調査が必要で、農水省の調査結果を用いた。その結果、健康被害の恐れはないとして食品規格基準の設定を先送りした。
Aさんじゃあ、安心じゃないですか。
H教授いや、農水省の調査は、カドミウムの汚染が懸念される地域からの畑作物は除いたというんだ。一方、汚染地帯を含めた畑作物の調査は、環境省が実施していて、その調査ではコーデック委員会の提示した国際基準値案を超えたものもあったんだ。その調査の結果を厚生労働省に伝えていなかったということで、朝日新聞が大きく取り上げた。
環境省に言わせると、環境省の調査は、厚生労働省が食品規格基準を決めた場合の対応を決めるための調査で、規格基準を決めるための調査ではないとのことだ。だから、食品規格基準が定められないことになったため、厚生労働省には伝えなかったと主張しているそうだ。
Aさんへえ…。
H教授新聞情報によると、厚生労働省や農水省はコメ以外の畑作物のカドミウム汚染対策は農用地土壌汚染対策法に基づいて環境省がすべきだと主張している。一方、環境省はそのためには食品規格基準を厚生労働省が決めることが先決と言っているそうだ。
ただ内実は、それ以外にもいろいろあるのかもしれない。
Aさんセンセイ、どう思われます?
H教授厚生労働省が食品規格基準を決めたがらないのは、決めると生産者がその基準を常時満たしているかどうかのチェックが法律的に必要になるからじゃないかなあ。
常識的に言って、ごくごく一部の地域以外は汚染されていないのは明らかだから、食品規格基準など決める必要はない。
局地的な汚染の話については、環境省が農用地土壌汚染対策法のスキームを用いて対策すればいいということじゃないかな。
Aさん環境省がそれをしないのはどうしてですか。
H教授そのためには健康影響について専門家の先生の決めたなんらかの基準が前提となってくる。その前提となるのは厚生省の食品規格基準をおいてほかにないということだろう。
Aさんなんだか、卵が先か鶏が先かみたな話ですね。
H教授むしろ局地公害の話を思い起こさせるね。
全国的な汚染が懸念される物質については環境基本法によって環境基準を決め、それを維持達成するために大気汚染防止法、水質汚濁防止法など個別法に基づく排出規制などをしている。
でも、全国的な汚染は心配ないが、特定工場周辺などで局地的な汚染が懸念される物質については、環境基準は決めてないが、個別法での規制は行っている事例はある。
例えば大気汚染防止法で言えば塩化水素などがそうだ。
でも、そのときだって、どの程度以下の濃度だったら安全かという一種の環境基準的なガイドラインやクライテリアはやっぱり必要だ。でないと規制するのは難しい。
Aさんじゃ、厚生労働省が従来の食品規格基準とは別の類型の基準を決めて、その類型の基準については、全国的には心配ないのでチェックしないが、局地的に懸念される地域については環境省が農用地土壌汚染対策防止法のスキームで対応するってことにすればいいんじゃないですか。
H教授お、キミもなかなかいいこと言うじゃないか。要は省庁間の縦割り行政の話で、それこそ鳩山内閣としてはきちんと交通整理すればいい話だと思うけどな。
ま、ボクは土壌汚染というのはまったくタッチしたことのない行政なのでよくわからないけどね。
Aさんでも国際基準だか、その案があるのなら、それをそのまま使えばいいんじゃないですか。
H教授うーん、それを言うと環境基準の健康項目もそうなんだよね。同じヒトなんだから何も国ごとの基準を作らなくたって、国際基準を作ればいいということになってしまう。
それにコメで規格基準が決まってるんなら、コメの平均的な摂取量と各畑作物ごとの平均的な摂取量を比較すれば、簡単な計算で決められそうな気もする。
問題は今回の調査でもそうだけど、風評被害をおそれて農家が調査に協力してくれないことだ。
エコポイントの新たな展開―住宅エコポイント
Aさんそりゃあそうでしょうが…。
あとエコポイントの話ですが、家電に加えて住宅に対しても適用されることになったそうですね。
H教授うん、エコ住宅の新築や、エコリフォームが対象になる。
エコ住宅は省エネ法のトップランナー基準相当のものや、省エネ基準を満たす木造住宅。エコリフォームは断熱改修が対象らしい【4】。
でも根本的な疑問としては、このエコポイントは結局のところ税金での助成ということになる。省エネ家電やエコカー、そして省エネ住宅への助成というのは、金持ち優遇策じゃないかということだ。
Aさんそりゃあまあそうかも知れませんが、温暖化対策としての意味があるじゃないですか。
H教授だったらまずは植樹などの緑化にエコポイントを付与すべきだ。
緑化することはCO2の吸収源になるわけだし、エコ家電やエコカー、エコ住宅が本人にメリットがあるだけなのに対して、緑化だったら本人だけでなく、景観上よくなったり、潤いとかを与えられたりといった、周囲の住民たちにとってのメリットもあるじゃないか。
そしてそれは造園樹木などの生産農家にとってもメリットがあり、都会から地方への税の再配分になる。つまりWIN-WIN関係になると思うよ。
Aさんあ、センセイ、大学は造園学教室の出身だから造園を贔屓しているんでしょう。
H教授うん、それをエコ贔屓という。
Aさんまたオジンギャグか…。
水俣病被害者完全救済に向け前進
H教授あと、もっともホットなニュースとして、水俣病訴訟で裁判所の和解案が出され、国も原告もそれを飲むことにした。
Aさんじゃあ、やっと完全解決に一歩近づいたわけですね。
H教授そうなればいいんだけどね。ちょっとおさらいをしておこうか。
Aさんこの時評でも何度も取り上げていますが、一番最後が第59講(その3)でしたね【5】。
H教授うん、水俣病はもっとも悲惨な公害病で、水俣市のチッソから排水された無機水銀が有機化し、食物連鎖で有機水銀により汚染された魚を食べることにより発症した。
当初チッソと国は裁判で争ったが、原告が全面勝訴した。
それ以降、水俣病患者には賠償金が支払われるようになったが、そのためには水俣病と認定されなければならない。
その認定基準が厳しいもので、水俣病認定基準を満たさないとされた人たちが裁判を行っていた。
Aさんそれがどんどん長期化していったんですね。
H教授うん、だが95年、村山内閣のときに政治決着がなされた。訴訟を取り下げれば、一定の補償をしようというものだ。
多くの被害者団体が裁判を取り下げ、その政治決着を受けいれた。
だが、一部の人たちはそれを拒否し、裁判闘争を継続した。04年に最高裁判決が出て、国側の敗訴が確定し、賠償を命じた。
それがきっかけで未認定の人たちが新たな裁判を起こし、これに対して自公政権下でプロジェクトチームをつくって、再度の最終政治決着を目指す案を07年に作成したというところまで、この時評では話した。
Aさんそれから以降の話を簡単にまとめてください。
H教授昨年夏、つまり麻生内閣末期のときだけど、「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」、略称水俣病被害者救済法が成立した【6】。
そのなかで「救済を受けるべき方々をあたう限りすべて救済」と明記し、法にある「救済措置」の方針を策定・公表するとした。
そして、昨年暮れに救済措置の方針についての考え方案を策定公表した。
これらは従来のものと比して、未認定患者をできるだけ幅広く救済するという内容だった。
そして3月に熊本地裁はおおむねこの救済措置の方針に沿うような和解案を提示し、これに基づき環境省と原告の水俣病不知火患者会とが和解協議し、ようやくまとまったものだ。
Aさんどんな内容なんですか。
H教授救済対象は、手足の先や全身性の感覚障害が中心で、共通診断書と公的診断書を基に、判定は原告側と被告側の双方が参加する第三者委員会で行う。
救済対象の人の年齢は、チッソの水銀排水を停止した翌年の69年11月生まれまでの人に延ばし、さらにそれ以降であっても母親の毛髪の水銀値が高い場合は対象にするとした。また、救済対象者の居住地域についても一部地区を追加した。
Aさんそして救済対象者には一時金と療養手当てを支払うんですね。
H教授うん、訴訟を起こしていない被害者にも同様の救済措置をとるそうだから、これで完全解決になればいいんだけどね。
救済措置は今月上旬に閣議決定し、来月には申請の受付を始めるそうだ。
生物多様性に関連してーマグロ、トキ、イルカ
Aさんなるほどねえ。あと生物多様性関連でもいろいろありました。
まず、地中海・大西洋のクロマグロのワシントン条約による国際取引禁止が否決されました。
日本外交の久しぶりの勝利ですね。センセイ、今度トロを食べさせてください。
H教授バカ。大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の推定ではクロマグロは74年の30万トンをピークに減少を続け、今では8万トン弱にまで減少しているとのことだ。そして、日本政府はそれを否定するだけの科学的データを持っていない。
とすると、国家エゴだとか、ごり押しと言われても仕方ないんじゃないか。
Aさんでも、日本は厳重な資源管理で減少は防げると主張してるんじゃなかったですか。
だったら国際取引を禁止しなくてもいいじゃないですか。
H教授厳重な資源管理と口先だけ言っても、ICCATによる漁獲ルールを多くの国の漁業者は守ってこなかったんだから、どうしようもないだろう。
だったら、ワシントン条約による国際取引禁止に替わる、厳重な資源管理を担保するような提案を併せてしないとダメだと思うよ。
結局、日本は種の絶滅のことを真剣に考えてはいないと批判されても仕方がない。これで生物多様性COP10を名古屋で開催するって言ったって、先が思いやられるねえ。
Aさんうーん、そうするとこの問題はまだ尾を引きそうですね。太平洋マグロにも波及するかもしれないですね。
H教授いずれ波及することは間違いないと思うよ。
H教授うん、悪い話といい話と両方あった。
悪い話の方は、佐渡島のトキ保護センターで順化ケージの隙間からイタチかテンが侵入し、トキを9羽殺したという話。もっと早く対応しておけばよかったのに、「トキ遅し」だった。
いい話の方は、放鳥されたトキがいつのまにかカップルをつくり産卵したという話だ。「トキの過ぎゆくままに」ということだ。
Aさん「トキの流れに身をまかせ」でもいんじゃないですか。
H教授うむ、「身をまかせたから、みごもった」だろう。ま、悲喜こもごもだな。“万事塞翁が鴇”ということだろう。
Aさんところで生物多様性に関連するかどうかわかりませんが、和歌山県太地町で行われているイルカの追い込み漁を潜入取材した「ザ・コーヴ」という作品がある映画祭のドキュメンタリー部門で受賞したそうですね。
H教授正直言って愉快じゃないね。
ボク自身は心情的にはイルカをああいう形で捕獲するのはどうかと思うし、見たくもないし、できればやめてほしいとも思う。
でも、いずれにせよヒトは他の生物を食べなければ生きていけない。だとすれば、食用に獲るのであれば、当該の生物が絶滅に瀕していない限り、それを倫理的に非難することは難しい。
だから問題は、そのイルカがどんな種類のイルカか知らないが、クロマグロのように絶滅が危惧されるほど減少しているかどうかだと思うよ。
Aさんイルカ漁は法律違反じゃないんですか。
H教授生物学的にはイルカは小型の鯨類で、大型のクジラではないからIWCの規制には触れないはずだ。あとは漁業調整規則に違反しているかどうかだね。違反していたとすれば、イルカ漁をやめるか、漁業調整規則自体を変更するかだね。
いずれにせよ、かつて日本人はクジラを捕獲したら、肉は食用にするだけでなく、すべて余すことなく利用し尽した。そしてクジラに感謝し、慰霊祭まで行っていた。
ただ鯨油を採るためだけにクジラを乱獲し、それ以外の部分は海に捨てた白人にはとやかく言われたくないね。食文化の多様性を認めなくっちゃあ【8】。
Aさんでも、その映画監督によると、食文化云々の話じゃなくて、イルカには水銀が著量含まれていて危険だからという主張だそうですよ【9】。
H教授それはどうかなあ。だって食物連鎖で高濃度の水銀を含んでるのはクジラも同じだ。いずれにせよ、毎日毎日イルカやクジラの肉を食べてれば別だけど、普通はそうじゃないだろう? 年間摂取量からすると問題にならないと思うよ。
だから本心は、知能が高く愛らしいイルカを殺して食べるのは、野蛮だと思ってるんじゃないかなあ。
Aさんそういう意味じゃ、日本では食べるわけでもないのに、野良犬野良猫を毎年30万匹以上も殺していることの方がもっと問題ですね。
H教授ま、その通りだが、それでも昔よりはマシになったんじゃないかな。少なくとも野良犬自体を見かけることは減ったし、避妊手術も当たり前になっている。
Aさんそれはそうとしてセンセイ、見たんですか。その映画。
H教授「ザ・コーヴ」か。見てないよ。
Aさんやれやれ。ところでセンセイ、第81講(その4)でバカンス革命の話をされてましたが【10】、政府も大型休暇を地域ごとに変えようとする案を考えているそうですよ。
H教授フン、まだまだ中途半端だな。
なぜか腰が引けている感じながら、拡大排出権取引というか拡大CDMの話も動き出しそうだし、「新たな公」などといってボクの持論である受益者負担の話も概念的には取り入れ始めた。
そのうち拡大ミティゲーションや、拡大フィフティフィフティの話だって取り入れるぜ【11】。
どうだ、先見の明があるだろう。エヘン(そっくりかえる)。
Aさん“浅見の迷”でしょう。
あ、そんなそっくりかえったら、あぶないですよ。ほら、ひっくりかえっちゃった。
…アタマを打っちゃったのかな、ピクリとも動かないわ。…死んじゃったかな。
H教授こら、人を勝手に殺すな(むっくり起き上がる)。
Aさんあ、アタマにすごい「ザ・コーヴ」!
H教授…。
注釈
- 【1】温暖化対策基本法に関する前講の話
- 第86講 温暖化対策基本法制定?
- 【2】環境省「中長期ロードマップ検討会」の叩き台(案)
- 「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ(議論の叩き台案)」
ロードマップ実行に当たっての視点・課題(必要な経費や国民負担等について) - 【3】ブータンの話
- 第77講 もう一つのヒマラヤ国家ブータン
- 【4】住宅版エコポイント
- 住宅版エコポイント制度を実施へ
住宅エコポイントの概要 - 【5】H教授による「水俣病概説」
- 第59講 環境雑感―水俣病新救済案、家電リ法見直し、第三次生物多様性国家戦略閣議決定
- 【6】水俣病被害者救済法の成立
- 水俣病被害者救済法の概要
- 【7】トキの話
- 第69講 トキ放鳥 ―幸の鳥と鬨の声
- 【8】捕鯨と食文化の多様性
- 第15講 獲るべきか獲らざるべきかそれが問題だ 〜クジラ〜
- 【9】サ・コーヴ
- ルイ・シホヨス監督のインタビュー
- 【10】キョージュ提唱のバカンス革命について
- 第81講 シルバーウィークとバカンス革命
- 【11】キョージュの持論と提案
- 拡大排出権取引について
第51講(その4)「低炭素社会に向けて ──拡大排出権取引」
受益者負担の話
第74講 単年度予算に異議あり─直轄整備に負担金は不要か?
拡大ミティゲーション
第43講 「拡大ミティゲーション論 拡大フィフティフィフティ
第59講 「拡大フィフティ・フィフティ
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
(平成22年4月4日執筆 同月8日編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。
注:環境に直接関係しない部分等は、編集部判断によりカットさせていただきました。筆者のブログでお読みいただけます。
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。