一般財団法人 環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.028

Issued: 2005.05.06

第28講 有機汚濁と水質総量規制

目次
続・愛知万博
水俣病新救済策発表
オオクチバス、特定外来生物に指定!
水質総量規制とは?
回想・水質総量規制
有機汚濁指標―COD、BOD
その他の有機汚濁指標
第六次水質総量規制に向けて

Aさんセンセイ、今日(4月25日)JR福知山線でひどい事故がありましたねえ。

H教授ああ、まだ詳細は不明だけど【1】、多くの人が亡くなられたみたいだ。ボクもときどき乗る列車だし、しかも乗るときは一番前の車両に乗るようにしていたから、テレビを見てぞっとした。亡くなられた方のご冥福をお祈りしよう。

Aさん乗用車の事故なら自分の注意で大半は防げますけど、列車事故の場合は、乗客の自己管理によるリスク低減なんて不可能ですもんねえ。

H教授そうなんだ。だからこそ事故原因を徹底的に究明して、再発防止に全力を尽くすべきだ。

Aさんところでセンセイ、新学期がはじまりましたね。

H教授うん、新入生ってのは初々しくっていいねえ。

Aさんはいはい、どうせアタシャ初々しくないすれっからしですよ。で、新入生になんか言われました?

H教授(渋い顔で)センセイ、わたしのおじいちゃんにそっくりと言われた...。

Aさんふふ。まあそんなところでしょうね。でもよかったじゃないですか、親しみを持ってもらって。
で、今月は何か新しい動きがありましたか。

H教授いやあ、年度替わりはバタバタしていて、ろくに新聞を読むヒマもなかったんだ。だから、今日はいつもヒマをもてあましているキミの方から問題提起してごらん。

Aさんシ、シッケイな...。
(気を取り直して)ホリエモンさんとフジサンケイグループが和解しました。

H教授そんなのどうでもいいじゃないか。米国型資本主義の尖兵になった青二才と日本型資本主義の老醜を晒した守旧派が呉越同舟で野合しただけの話だろう。米国では会社は株主のもの、日本では会社は経営者をトップとする会社構成員のもの。でもねえ、会社は社会のモノにすべきなんだ!

Aさん相変わらずわけのわからない一刀両断ですねえ。

H教授うるさい! ほかには?

Aさん中国で反日デモが盛んです。


H教授都会と農村、都会内部で貧富の差が広がるなど、中国はいろんな内部矛盾を抱えているんだろうなあ。それを逸らすために反日を持ち出したし、国民の方も政府批判はできないからそういう形でうっぷんを晴らしてるんだろう。
でもこれで日本企業が撤退したり、中国観光客が激減したら、困るのは中国だよね。中国政府は当初外交カードとして使おうとしたんだろうけど、こりゃやばいと思って抑えにかかりだした。抑えられればいいんだけど、そう問屋が下ろすかどうかはわからない。これは韓国も同じだ。
日本も国旗・国歌の強制をしたり、国連の常任理事国入りを目指してなりふり構わぬことをしているからこういうことになる。いずれにせよ日本の中・韓大使館に落書きしたり、在日中韓の人たちにいやがらせをしたりという、同レベルで対応するようなことだけは絶対しちゃいけないし、させちゃいけない。断固とした取締りをすべきだ。
迂遠なようだけど、中国や韓国からの留学生が日本贔屓になるような政策や中国語・韓国語教育を充実させるなどの対策をとらなくちゃいけないんだ。

Aさんでも日本はODAだってすごくやってるでしょう。

H教授人口が多く、GDPもでかいから絶対額は多いが、対GDP比では先進国では少ない方だ。なのに、もう4年連続で減らしているし、しかも中国へのODAはやめることを決めた。使い道や使い方は問題だけど、ODA自体を減らすなんて愚の骨頂だよ。
ま、そういう問題はともかくとして、環境問題じゃなにかないか。


続・愛知万博

Aさん前回とりあげた愛知万博ですけど、ソーリの鶴の一声で弁当持込がOKになりました【2】

H教授うん、さすがコイズミさん、ポピュリスト(大衆迎合主義者)の面目躍如たるものがあるねえ。
それにしても利用者から殺到する苦情には対応せず、トップからの頭越しの指示には従うってのは、まったく発想が逆だ。正当な理由があって、持ち込み禁止にしたのなら、ソーリだろうが誰だろうが、つっぱねるべきだ。
つまり正当な理由はなかったんだ。食中毒防止だとかなんだとかいってたけど、そんなのはまったくの口実で、会場内飲食店の利益擁護だけだったとしか思えない。

Aさんなあるほど、彼らの利益が上がれば、それだけ万博自体の収益も上がるんでしょうねえ。

H教授そういうこと。しかもなお悪いのはソーリが言った手作りの弁当の持込だけを認めて、あとのものは今までどおり。つまり言われた最低限のことしかしていない。どうしてコンビニの弁当やおにぎりがダメなんだ?

Aさんでも弁当持込を認めたらごみが増えたそうですよ。

H教授本来の愛・地球博の趣旨だと、展示をみれば、これまでの社会とライフスタイルを見直し、“自然の叡智”に見習おうという気になるはずだろう? そうはならず、ごみが増えたというだけでも、この愛・地球博は破綻したといえるんじゃないか。

Aさん相変わらずの毒舌ですねえ。でも見ないで批判だけしていても説得力ないですよ。

H教授そんなのモノによるよ。犯罪者にしか、犯罪を批判できないのか?

Aさんむちゃくちゃだ(絶句)。でもワタシ、絶対カレを見つけて、愛・地球博に行きますからね。

H教授─(独り言)まるで、“愛痴急迫”だなあ...。


水俣病新救済策発表

Aさんところで水俣病の件ですが【3】、環境省が新救済策を発表しました。今秋をめどに実施したいとのことです。

H教授でも水俣病の認定基準は変えないんだろう。つまり新たな救済の対象になる人は水俣病じゃないままってことになる。一方、大臣が「すべての水俣病被害者に謝罪したい」と言ったそうだから、この文脈では水俣病となるよね。こういうダブルスタンダードを患者さんたちが納得するかなあ。
ほかには?


オオクチバス、特定外来生物に指定!

Aさん何回かオオクチバスのことを取り上げましたが【4】、特定外来生物法の施行令を閣議決定し、特定外来生物に指定したそうです。施行は6月1日だそうです。

H教授問題は密放流をどうやって阻止するか。そしてどういう方法でどこまで駆除するかだねえ。
ほかには?

Aさんあとは温暖化対策もそれほど進展なかったようですし...。
センセイ、他に何かありましたか。

水質総量規制とは?

H教授新聞には出てなかったようだが、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海を対象とする第六次水質総量規制についての中環審小委員会報告案が出された。環境省のホームページに全文が出ているから読んでごらん。先日、パブリックコメントの募集があって、来月中にもこの報告案をベースに中環審答申が出されるはずだ【5】

Aさんその前にわかりやすく説明してください。総量規制ってなんですか?

H教授総量規制という仕組みは大気にもあるけど、今日は水質総量規制の話に絞るよ。
もう30年以上前になるけど、急激な高度経済成長の負の遺産として、日本の空も水も汚れに汚れてしまった。

Aさんそれで大きな反対運動が津々浦々に起きて、公害対策基本法ができたり、環境省の前身の環境庁ができたんですね。


H教授そうそう、そして政府も大気汚染や水質汚濁に本格的に取り組みだしたんだ。水質汚濁に関しては水質汚濁防止法に基づいてBOD(生物化学的酸素要求量)COD(化学的酸素要求量)の厳しい規制を開始したり、下水道整備をはじめたりして、急速に汚濁状態は改善されたんだけど、汚濁が改善されなかった水域もあった。ひとつは前回言った都市近郊の湖沼だし、もうひとつは東京湾や大阪湾を含む瀬戸内海などの内海、内湾だ。このふたつは共通しているところがある。何だかわかるか。

Aさん閉鎖性水域で、水の交換が悪いということでしょう。

H教授うん、しかも都市に近接しているから負荷量も大きく、植物プランクトンの栄養になるN(窒素)P(燐)が底泥から溶出したり、外部からの流入量も多いから、プランクトンも増殖しやすく、それがさらにCODを押し上げる。

Aさんいわゆる内部生産CODですね。

H教授そう。そこで東京湾、伊勢湾、瀬戸内海に関してはもっと大胆な規制を行うことにした。瀬戸内海ではすでに瀬戸内法に基づいて大規模発生源のCOD負荷量を半減させるという荒療治を行ったんだ【6】。それまでの規制は、どんなに厳しくても濃度規制だったから薄めて大量に流せばOKだったんだけど、はじめて量規制を行った。その延長線上にこの3つの内海、内湾を対象にした水質総量規制制度が、水質汚濁防止法および瀬戸内法を改正して昭和53年にスタートしたんだ。

Aさんつまり、これらの閉鎖性海域に流入するCODの総量を規制するってわけですね。

H教授流入するCOD総量については内海、内湾ごとに、5年後の都府県別・発生源種類別の削減目標を決めた。これを総量削減基本方針という。そして規制対象となる事業場については総量規制基準という厳しい量規制の排水基準を決めた。第五次総量規制からはCODのみならず、内部生産CODの元であり富栄養化の原因となるN、Pもその対象とした。
第五次総量規制は平成16年度を目標年度としていたので、いよいよ平成21年度を目標年度とする第六次総量規制を始めようとするものだ。

Aさんじゃ、エンドレスに規制強化が続くわけですか?

H教授環境基準が100%達成できれば、強化の必要性はなくなるんだけど...。

Aさん依然として達成していないんだ。

H教授うん、水域ごとにいえば、ある程度の汚濁はやむをえないという水域──これをC類型というんだけど、ここで定められている環境基準は100%達成されているけど、もっとも清浄なレベルであるA類型の水域の環境基準は依然として達成率がよくないんだ。

Aさんでも、CODやN、Pの濃度レベルは下がっているんじゃないですか?

H教授東京湾、大阪湾では下がっているが、あとのところはそれほど明瞭ではない。

Aさんじゃ削減目標を決めたけど、あくまで目標にすぎなくて、現実には目標どおり削減できてはいないんだ。

H教授そうじゃない。削減目標というのは技術的に削減可能な、実現性のあるものとして設定されるものだ。目標は達成しても、それがすぐに環境基準を達成するようにリンクさせているわけじゃないんだ。

Aさん着実に削減されているとしたら、にもかかわらず濃度レベルが低減していない水域があるのはどうしてなんですか?

H教授東京湾や大阪湾では改善してるけど、他の水域では水域面積当たりの負荷量はもともと小さい上、削減量はごくわずかなんだ。それにもともとそういう水域ではCOD濃度は低いから、そういう意味ではCODの中身だとか、指標性──つまりCODが現実の水環境の何を表しているのかということも、議論の対象になりそうだ。


回想・水質総量規制

Aさんところでセンセイはこの水質総量規制にタッチしたことはあるんですか。

H教授第三次総量規制立ち上げのときの担当課長だった。

Aさんじゃ、結構詳しいんだ。

H教授いや、実は課内に総量規制室っていう半独立の組織があって、そこに全部まかせっきりだったから...。

Aさんじゃ、センセイはまったく汗を流さなかったんですか。

H教授いや、一度だけ汗を流した、といっても冷や汗だけど。

Aさんへえ、どんな?

H教授水域ごとに現地で関係都府県の担当者を集めてブロック会議を開くんだ。で、ときの上司が瀬戸内海のブロック会議にオレも出席するからゴールデンウィークのど真ん中にセットしろって総量規制室に命じた。

Aさんなんでまた。

H教授自分が瀬戸内海出身だから故郷に錦を飾りたかったんだろう。里帰りの旅費節約にもなるし。

Aさんくっだらない。で、どうなったんですか。

H教授総量規制室から話を聞いて、もう怒り心頭さ。眦を決して上司のところに乗り込んだ。さすがにひざが震え、冷や汗を流したけど、ようやく撤回させた。だって、関係府県の担当者の恨みを買いたくないもの。

Aさんホントに、それだけが理由だったんですか。


H教授...いや、こっちだってゴールデンウィークぐらいのんびりしたかったから...。

Aさんやっぱり自分のためだったんですね!

H教授おかげでその上司からはすっかり嫌われちゃった。

Aさんはーん、それが新規補助金立ち上げに非協力的だったり【7】、製紙工場からのダイオキシン排水騒ぎをセンセイのマッチポンプだといいふらしたり【8】っていう、伏線になっているわけか。
オトナの世界って複雑かと思ったけど、意外にコドモっぽいんだ。


有機汚濁指標―COD、BOD

Aさんセンセイ、ところで水質に関連して、前から疑問に思ってることがいくつかあるんですけど。

H教授お、なんだ。

Aさん水質総量規制の主目的はCODの改善ですよねえ。
水質環境基準が決まってますけど、生活環境項目の代表的な指標が河川ではBOD、海域と湖沼ではCOD。なぜ河川がBODで海域と湖沼はCODなんですか。

H教授おいおい、いきなり剛速球だな。

Aさんえ? そうなんですか?

H教授うん、ぼくが県の公害規制課長になり、はじめて水環境関係にも携わったんだが、レクチャーで最初にした質問がそれだった。

Aさんで、どうだったんですか?

H教授一応の説明らしきものがあったけど、あまり説得力がないような気がした。環境庁に戻って水質保全局にいたときも、何度か同じ質問をして、そのときは納得したような気がしたけど、もうひとつぴんと来なかったなあ。つまり一応の理屈付けはあるらしいんだけど、もう忘れちゃった【9】

Aさんなんだ、センセイも知らないのか。じゃ、河川水でCODも測れるし、海水や湖沼の水でBODも測れるんですね。

H教授そりゃそうだよ。

Aさんじゃ、BODとCODの数値間の関係はどうなってるんですか。一応の換算式みたいなものはあるんですか?

H教授測ってるものが別だから、換算などできるわけがない。もちろん、ある水域でずうっと長期的に両方を計測して統計解析すれば換算式はできるかも知れないが、イコールオールジャパンでの換算式にはならない。
第一、そんな換算式があるのならどちらか一方で測ればすむことだ。

Aさんなるほど、そりゃそうですね。でもどちらも有機汚濁の指標なんでしょう。

H教授そもそも有機汚濁ってなんなんだ?

Aさんえーと、有機物が多いと水は濁ります。

H教授じゃ有機物って?

Aさんえーと、炭素化合物の総称じゃなかったですか。

H教授じゃ、CO2は有機物か?


Aさんいい加減にしてください! 質問してるのはワタシです!

H教授いやあ、どんどん質問していくと結構わかっているようで、わからないことがいっぱい出てくる。それを確認したかったんだ。

Aさん特にセンセイみたいな耳学問オンリーの人はね。

H教授うるさい。有機物というのは、そもそもは生体起源や生体を構成しているものすべてを指してたんだけど、同じものを無機的に、つまり生命活動を介さなくてもできることもあることがわかってきたから、有機物とか有機化合物というのを科学的にぎりぎり定義することはムリがある。

Aさんじゃ意味がないということですか。

H教授そんなことはない。一般的、常識的な使い方をすれば十分に意味がある。つまり生体起源や生体を構成している炭素化合物で、種類はいっぱいあって、主たる構成元素は炭素、水素、酸素ぐらいに理解しておけばいいだろう。そして水中での有機物の相当部分はプランクトンなど微生物とその死骸が占めているって。
で、有機物は自然の循環の中で分解されるという特徴がある。

AさんなかなかBOD、CODにいかないですね。

H教授もう少し我慢しろ。つまり水中に溶けている酸素が豊富なところでは、バクテリアが酸素を用いて分解する。主たる最終生成物は炭酸ガス(CO2)と水(H2O)。

Aさんそれが好気性分解ですね。

H教授酸素がほとんどないようなところでは別のバクテリアが分解してくれる。この場合の最終生成物はメタン(CH4)と炭酸ガス。これを嫌気性分解という。

Aさん陸上でも有機物は分解するんですか。

H教授もちろんだよ。物が腐るということは分解途上にあるということだ。これが一瞬に起これば、燃える──つまり燃焼ということになる。

Aさん有機物って、いっぱい種類があるでしょう。全部必ず分解するんですか。

H教授簡単に分解するものと、分解しづらいものがある。紙や木は分解しにくいし、石炭なんかもっと分解しにくくて、人間の歴史程度のタームでいえば永久に分解しないといえるかもしれないけど、地球史的視点に立てば分解する。
それが自然の循環ということの意味だ。


Aさんあーあ(欠伸)。

H教授で、水中に酸素の多い条件下で有機物は酸化分解するという特徴を生かして、水中の有機物の量を間接的に測る指標がBODやCODなんだ。

Aさんそんな面倒なことをしないで、直接、有機物の量を測ることはできないんですか。

H教授今はTOC(総有機炭素量)の測定法もあるけれど、昔はそれほど一般的じゃなかった。
で、BODというのは実際にバクテリアに分解させて消費された酸素の量のことで、有機物の量を間接的に表してるわけだ。

Aさん確か、5日間、20℃という条件でしたよね?

H教授そう。だから5日以内に分解される有機物の量を間接的に表す指標になる。

AさんCODは?

H教授CODはバクテリアではなく、酸化剤を用いて減った酸素の量を測るわけだ。
だから用いる酸化剤によってその数値は変わる。外国では重クロム酸ソーダ(Na2Cr2O7)を使うのが一般的だが、日本では昔クロム公害というのがあったから忌避されて過マンガン酸カリ(KMnO4)を使っている。だから諸外国のCODと日本のCODは測るものが違っていて、そもそも比較は不可能だ。

AさんBODとCODは測定法としては、どちらが優れているんですか。

H教授一概にいえない。現実に起きている自浄作用を再現しているという意味ではBODだが、測定に5日間もかかるという難点がある。あと、N-BODの問題がある。

AさんN-BOD?

H教授アンモニアの影響だ。アンモニア(NH3)は生体起源のものが多いが、炭素化合物でないから無機物とされる。ところがアンモニアは、ある種のバクテリアの働きで水中の酸素を消費して亜硝酸イオン(NO2-)や硝酸イオン(NO3-)に酸化される。これを硝化というんだけど、このとき消費された酸素量もBODの一部にカウントされてしまう。有機物の量を間接的に測るだけではなくなってしまうんだ。

Aさんつまり何を測ってるのかよくわからないということですね。では、CODは?

H教授CODは過マンガン酸カリで酸化分解される有機物の量を間接的に測ってるだけだから、現実のバクテリアが分解している易分解性有機物の量を直接的に表すわけではない。かといって、難分解性のものもひっくるめた総有機物量とも必ずしも相関するわけではなく、現実の環境中のいったい何を反映して測っているのかよくわからないという批判がある。

Aさんつまり両方ともなにを測ってるのかよくわからないというわけですね。

H教授だから専門家の間ではBOD、CODとも評判はよくない。

Aさんじゃあ、さっさと変えればいいんじゃないですか。

H教授そうはいかない。だって今までのデータはすべてBOD、CODだから、過去との関連が断ち切られてしまうのは、行政的にはきわめてまずい。

Aさん過ちを改むるに憚るなといいますよ。

H教授でもねえ、微視的にみれば、あるいは厳密にアカデミックな立場からすると、何を測ってるのかわからないと言えるのかもしれないけど、今までのBOD、CODの数字が工場排水や現実の汚濁水域の汚染度・汚濁度を、例外はあるにせよ、おおむね反映しているのも事実だと思うよ。研究論文じゃないんだから、それほど厳密でなくてもいいじゃないかというのもひとつの考え方だ。
ただ低濃度水域でのBOD、CODは現実での汚染度・汚濁度をどの程度反映しているか、どの程度信頼性があるかといった問題があるのは事実だし、BODにしても5日間じゃなく3日間で測る国もあって、国際比較が困難という問題がある。

Aさんなるほどねえ。ところでBODとCODの換算式はないにせよ、BODが高ければCODも高く、BODが低ければCODも低いと一般的に言えるんですか。

H教授例外はあるだろうが、そう言ってもいいんじゃないかな。もっとも、その例外がどの程度かは知らないけれど。


その他の有機汚濁指標

Aさんで、BOD、CODが高ければ有機汚濁が生じていて、その場合は有機性の浮遊物質も多いはずだからSS(浮遊物質量)も高く、自浄作用の分解過程で酸素をどんどん消費しちゃって、DO(溶存酸素)は低い。その逆も一般的に言えるわけですね。

H教授一般的な傾向としてはね。でもその間の関係を数式に表せるほどのものじゃない。

Aさんじゃ、いっそのことBODやCODを有機汚濁の代表的な指標とするのでなく、SSやDOを代表的な指標にできないんですか? どっちも環境基準が決められてるんだし。

H教授SSの大半が有機性の浮遊物質だったらいいけど、条件次第で無機性の浮遊物質が多いことも考えられ、BOD、COD以上に、有機汚濁の指標としては信頼性がないということじゃないかな。単なる「濁り」というんだったらそれでいいと思うけど、豪雨や底泥からの巻上げからくる濁りを人為、特に排水規制でコントロールするのは難しいから、意味がないともいえる。

Aさんじゃ、DOは?

H教授風が強かったり、波が荒かったりすると空気中から酸素が補給されるから、これも有機汚濁の指標、特に発生源からの排水規制とのリンクということから考えると使いづらいんじゃないかな。

Aさんじゃあ専門家は有機汚濁の環境基準や排水基準の指標としては何がいいって言ってるんですか。

H教授国際比較という観点からはTOCがいいといってるらしい。原理は知らないけど、今じゃ測れるそうだ。
問題は、なぜ有機汚濁が問題かということだ。見た目の汚濁を問題とするのか、酸素消費による貧酸素化がもたらす漁業被害や生態系の攪乱を問題にするのか。
TOCってのはよく知らないけど、後者の観点からすると、易分解性のものも難分解性のものも一緒に測ってどういう意味があるのかが気になる。硝化を抑える方法もあるみたいだから、それでBODを測った方がいいような気もする。

Aさんじゃあ、透明度はどうですか。河川じゃムリだろうけど、海域や湖沼ならいんじゃないですか。それに専門的技術のない一般市民でもできそうじゃないですか。

H教授透明度というのは、白い円盤をだんだん吊り下げていって、どこまでその円盤が見えるかということなんだけど、天候によって大幅に数字が変わるな。

Aさんじゃ、他に何かないんですか? センセイだって簡易指標を開発する必要があるって言ってたじゃないですか。


H教授水生生物による指標なら、一応はある。昔から白い鳥が来る水域は汚いけど黒い鳥が来る水域は清冽だなんて話を聞いたことはあるけど、規制にはリンクできそうにないなあ。

Aさんうーん、困りましたね。

H教授だけど、「透視度」を使うという方法はあるかもしれない。中西準子先生も言っておられたけど。

Aさん透視度? 透明度じゃなくて?

H教授1メートルの長さのガラスの筒の底に十字が書いてあって、筒の上から水を注いでいって十字がどこまで見えるかで、汚濁の程度を判断するんだ。

Aさんへえ...。

H教授ボクは、BODもCODもSSもDOも透明度も、自分では一度も測ったことがないんだけど、唯一、透視度だけはやったことがあるんだ。

Aさんセンセイ、それで環境庁の水質行政を担当していたんですか!?

H教授霞ヶ関の技官なんて大学時代はともかくとして、役人になってからはほとんど自分では測定したことはないと思うよ。そこが県の技術屋さんとは大違いなんだ。

Aさんそれでいいんですかねえ。

H教授(苦笑して)いいんじゃない。県と対等の立場で、県の技術屋さんから謙虚に学ぶ姿勢さえあれば。ま、それが片鱗もない鼻持ちならないのもいるけれど。


Aさん(小さく)センセイだったりして

H教授え?

Aさんいや、なんでもないです。早く透視度の続きを話してください。

H教授ま、一般の水域なら1メートルじゃ足りないのがほとんどだろうな。だけど素人考えだけど、底の十字を何段階か薄くした筒をつくっておいて、それで測るという方法だったら実用性が出てくるかもしれないし、透明度との換算式だってできるかもしれない。どうしてもダメだったら、そのときは折畳式で筒の長さを延長すればいい。
事業場排水なんてのはBOD、CODに替えて透視度の排水基準を作ったらどうかと思うんだ。


第六次水質総量規制に向けて

Aさんふうん。で、話を元に戻しますけど、第六次総量規制でなにか目新しい考えは出されているんですか。

H教授うん。ひとつは、三湾についてはさらに規制強化をするが、大阪湾以外の瀬戸内海は基本的に現状維持でいいという方向のようだ。
大阪湾以外の瀬戸内海はもともとCOD濃度は低く、こうした低濃度領域ではCOD指標そのものを考え直すという観点が入ったように感じた。もう一つは干潟の保全を前面に打ち出したことだ。量的にはさほどではないにせよ、浄化機能があるうえ、干潟の持つ生態系保全の重要性に着目したようだ。

Aさんなんかそれって前講の湖沼水質保全特別措置法の改正の話に似てません?【10】

H教授そう、水質にしても大気にしても、排出規制だけではダメで、そうした自然の力をうまく使うことが環境保全の面でも人間生活にうるおいを持たせる意味でも重要だというのが、少なくとも環境省内での共通認識になったんだね。
で、浄化機能に関して言えば、干潟はただ保全するだけじゃなく、潮干狩りなんかで浄化してくれた貝などを系外に出した方がいい。死んで分解しちゃったらまた元の木阿弥になるからね。前講の葦と一緒だ。ま、葦とちがって、貝などの場合は鳥などの動物によって系外にある程度は出ていくけどね。

Aさんでも、大阪湾以外の瀬戸内海は現状維持だけでいいんですか。

H教授水質規制という意味ではね。でも「埋立の基本方針」は見直して、自然海岸の前面海域や藻場干潟なんかの埋め立ては面積の大小に関わらず全面禁止にすべきだと思うよ。いずれにせよスナメリが行き交うほどの豊かな生態系が戻るための多面的な施策をいろいろ考えるべきだろうな。

Aさんへいへい、わかりやした。ところでさっきの水質指標についての、センセイのご意見だけど、どの程度信用したらいいんですか。

H教授なんだって!

Aさん(しどろもどろに)ご、ごめんなさい。ただ、センセイは厳密な意味では水質のプロじゃないからと思って...。

H教授ボクはかつて水質保全政策で給料をもらってたんだぜ。だからプロだったんだ!!

Aさんそ、そりゃそうでしょうけど...(口ごもる)。

H教授(ニヤっとして)だからプロはプロだけど、同時に研究畑じゃまったくのド素人なのは確かだ。だからボクの耳学問で作られた個人的な意見というか、独断と偏見に満ちた愚見がどの程度的を得ているか、実はまったく自信がない。だから専門家に教えを乞いたくってこの場を借りたんだ。
ま、そういう意味では、さしずめキミは単なる刺身のツマだな。

Aさんセ、センセイ、そんなことのためにこのEICネットを利用しているんですか。いくらなんでもひどいんじゃないですか。原稿料を返せって抗議がきますよ! それに、読者からの怒りの手紙が殺到しても知りませんからね。

注釈

【1】JR西日本福知山線における列車脱線事故について
事故概要
  • 発生日時:平成17年4月25日(月)9時18分頃
  • 場所:福知山線 尼崎駅〜塚口駅間(兵庫県尼崎市)
  • 列車:宝塚駅発 同志社前駅行 快速列車(7両編成)
  • 死傷者数:死亡者107名、負傷者460名(4月30日 17:30現在)
    ※関係機関により240名救出。
【2】「愛知万博に思う」
【3】「時評4 ─水俣病関西訴訟最高裁判決」
【4】オオクチバス論議
【5】第六次水質総量規制について
【6】瀬戸内法による規制導入の経緯と先見性
【7】新規補助金立ち上げ裏話
【8】製紙工場からのダイオキシン排水騒ぎ
【9】CODとBODの違い(EICネット 環境Q&Aより)
【10】湖沼水質保全特別措置法改正について
アンケート

この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

(平成17年4月25日執筆、同年5月6日編集了)
★「瀬戸内海」第39号(H16年10月、社団法人瀬戸内海環境保全協会)の拙稿を一部参考にしました。
註:本講の見解は環境省およびEICの公的見解とはまったく関係ありません。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。