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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.063

Issued: 2008.04.10

第63講 風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題

目次
新銀行東京に桜は咲くか
キョージュ、チベット騒乱を憂う
ガソリン暫定税率期限切れをめぐるドタバタ劇
温暖化対策の国内動向
「長期エネルギー需給見通し」の陥穽
温暖化関連国際会議の行方
国内排出量取引制度の動向
第2次循環基本計画決定さる
ボン・ボヤージュ

Aさんセンセイ、どこかへ出かけてたんですか。しばらくお会いしないうちにすっかり春になって、年度も今日で変わってしまいました。

H教授うん、桜花爛漫だな。昨年よりだいぶ早い。これも気候変動の影響かな。

Aさん梶井基次郎は「サクラの木の下には死体が埋まっている」と言ったそうですね。

H教授くだらないことを知ってるな。

Aさんなに言ってるんですか。センセイが教えてくれたんじゃないですか【1】。でも、「サクラの季には腐臭が漂う」という方が正解じゃないんですか。

H教授おいおい、なんだ、いきなり。


新銀行東京に桜は咲くか

Aさん石原サンの肝入りで作った新銀行東京が事実上破綻しているのに、その再建に東京都は400億円も出資することが決まったそうですね。
どう考えてもデタラメじゃないですか。税金ですよ、税金。これを腐臭と言わずして何と言うんですか。

H教授ま、ボクは東京都民じゃないし、銀行経営のことなど何も知らないから、なんとも言いようはないな。

Aさん再建計画なんてうまく行くはずないじゃないですか。

H教授さあなあ、世の中、何があるかわからないから、うまく行くことが絶対ないとは言えないだろう。競馬の万馬券に当たる確率よりは相当低いと思うけど。
石原サンは、破綻の原因は元の経営トップの乱脈経営だって決め付けてるけど、元の経営トップにしたって別に私腹を肥やしたわけでもなさそうだから、彼にも言い分があると思うよ。それに、そもそも石原サンには任命責任もあれば監督責任だってあるだろう。
だのに都議会は石原サンの言い分を鵜呑みにして、元経営トップの参考人招致すらもやらなかった。しかも具体的な再建計画の中身すら明らかにしないまま可決しちゃった。ホント不思議だよねえ。
400億円出資してホントに再建可能だと思うのなら、万一破綻した場合に少なくとも石原サンは1億円、賛成した都議も1千万円は私財を投じるぐらいの覚悟は持ってほしいねえ。

Aさん万一みごと再建して利益を出した場合は?

H教授そりゃあ利益の5%を石原サン、賛成した都議にも応分のボーナスを出してやればいいだろう。そうすれば真剣に議論すると思うよ。

Aさんまた無茶苦茶を。

H教授じゃ、本題に入る前に海外の事件も見ておこう。


キョージュ、チベット騒乱を憂う

Aさんチベットで騒乱が起きましたね。

H教授まあ、起こるべくして起こったんだろう。例えCIAの工作のようなものがあったとしてもね。
おそろしく広い国土に十数億の人間がいるんだ。そして、多くの民族がいて、宗教や風俗、文化も違えば、地域による経済格差もすさまじいものがあるんだもの、統一国家である方が不自然というものだ。
遠い将来は間違いなく、単一国家でなくて連邦制のようなものに移行せざるを得ないんじゃないかな。さもなければバラバラに分解してしまうか。

Aさんじゃ、これからどうなっていくんですか…。

H教授少なくとも、チベット、内モンゴルについては、住民が望むなら独立国家になるのが普通だろう。
ソ連も解体したんだ、いずれはそうなるんじゃないかな。できればソフトランディングしてほしいけどね。

Aさん(読者に)センセイは中国に行ったことはないんです。思い付きと思い込みだけの典型的な床屋政談ですから、気にしないでくださいね。
そうそう、今日はエープリルフールですから。


ガソリン暫定税率期限切れをめぐるドタバタ劇

Aさんところで、センセ、いよいよガソリンの暫定税率が期限切れで、今日(4月1日)から大幅値下げですって。

H教授ああ、混乱するだろうなあ。でも今日からというのはどうかなあ。今日以降に仕入れしたガソリンは廉くなるけど、在庫はそうじゃない。
でも、赤字覚悟で在庫のものも含めて値下げするスタンドも出ているようだし、一方じゃ1ヶ月後には衆院再可決でまた元に戻る可能性も高い。
まったく何をやってんだか。

Aさんぎりぎりの3月の最終週になって、福田サンが21年度から特定財源から一般財源化すると言い出しましたけど、なぜもっと早く言い出さなかったんでしょうかねえ。
そうすればまた違った展開になったかもしれないのに。

H教授さあ、ボクら下々にはわかるわけもないけれど、ひょっとすると福田サンはわざと言い出すタイミングをぎりぎりまで遅らせたのかもしれない。

Aさんはあ? どういうことですか。

H教授早くに言い出せば、確実に政府・与党内からはブーイングの嵐で、撤回せざるを得なかったかもしれない。
だって、一般財源化は政治屋じゃないマトモな政治家なら誰でも考えることだし、コイズミさんだって安倍サンだってやりたかったんだけど、やれなかったんだ。
それくらい革命的なことなんだ。

Aさんどうしてですか。

H教授道路特定財源というのは不透明なブラックボックスで、土建屋国家の象徴みたいなものだし、多分いろんな利権がそれにべったりくっついているんだと思うよ。
その一般財源化は、国鉄民営化や郵政民営化よりもっと難しいことだと思うよ。
国鉄や郵政の民営化は対労働組合が大変だったろうけど、与党としてはやりたかったことなんだ。だけど、道路特定財源の一般財源化というのは、与党の最大のメシの種をつぶすようなものなんだもの。
現にあれだけデタラメな使い方がぼろぼろ出てきて、世論も特定財源をおかしいと思う人が圧倒的になった。
そして、野党となんらかの妥協の道を探さなきゃいけないというぎりぎりのタイミングでの福田発言だった。
それでも与党の幹事長も国交相も、一般財源化に対してどこか突き放したような冷淡な発言だったろう。それだけ特定財源というものが与党にとって魅力的なんだ。

Aさんでも31日の閣僚協議会では、福田サンの方針でいくと決めたってありましたけど。

H教授野党が拒否したからどうせできないとタカをくくっているか、面従腹背を決め込み、一般財源化を隙あらば阻止するか、骨抜き・形骸化させようと思っている輩も多いに違いないと思うよ。
それこそ国交省は必死になって巻き返しを図るだろうしね。

Aさんでもなぜ野党はノーだったんですか。

H教授さあ、小沢サンに聞いて見なければわからないけど、いっときでもガソリン値下げという成果を国民にアピールし、選挙戦を有利にしたかったのかも知れないし、福田サンの言う一般財源化にしても実現する担保が何もないことに警戒感を持ったのかもしれない。


Aさんだって首相の発言ですよ。そんな軽いわけないでしょう。

H教授細川首相(当時)は国民福祉税構想をぶちあげ、あっという間に撤回した。もう十年以上前の話だけど。
ま、スジ論としては道路特定財源制度をやめるのなら暫定税率は廃止というのが正しいんだろうけど、日本の財政赤字や新たな行政需要を考えればそんなのは空論で、ボクは暫定税率維持という福田サンの発言は至極もっともだと思うけどね。
それに年末に発表した民主党の税制改革大綱じゃ、福田発言とそう大して変わっていないはずで、ガソリン値下げ、値下げと騒ぐのはどうかと思うな。

Aさんでも世論調査では、暫定税率廃止、ガソリン値下げを歓迎する国民が多数派みたいですよ。

H教授そりゃあそうだろう。誰だって税金は廉い方がいいに決まってるし、行政サービスは手厚い方がいいに決まってるから、世論調査すればそうなっちゃうだろう。
だけどできないものはできないに決まってるし、国民にだってそれはわかっている。だから政治家には国民への説明責任が必要なんだ。

Aさんこれからどうなるんでしょう。

H教授さあ、わからない。この時評がアップされる頃には新たな展開があるかもしれないけど、一寸先は闇だね。
ボクの持論【2】は、暫定税率分は環境税の一部にすることなんだけど、展開次第でその可能性はゼロではないかもしれない。もちろん道路族や国交省の巻き返しによって頓挫する可能性の方が高いだろうけどね。

Aさんそれにしてもこの問題に関して、環境省サイドの発言がまったくないというのも情けないですね。

H教授ま、国交省を敵に回したくなかったんだろう。たとえ特定財源のままでも、道路に関連しての環境対策にオカネが回るのは間違いないだろうしね。

Aさんそんなもんなんですかねえ。

H教授そんなもんなんだよ。


温暖化対策の国内動向

Aさんところで温暖化対策の国内の動きはどうなっているのですか。

H教授いろんな動きがあるようだ。
温暖化対策法の改正案が3月始めに閣議決定されたが、これは改正法が成立したらまた取り上げよう【3】
いずれにせよ京都議定書第一約束期間に今日から突入した。これからもいろんな動きが出てくるだろう。

Aさんえ? もうとっくに突入しているんじゃないですか。

H教授日本の場合は会計年度ということで、一部例外はあるものの、基本的には今日、4月1日からなんだ。
じゃあ、3月からの動きを簡単にとりまとめておこう。
福田サンは1月のダボス会議で「ポスト京都で国別総量目標を定める」とはじめて明言し、帰国後も国内排出量取引制度に積極的な姿勢を見せている【4】。このこと自体は環境省サイドの動きに乗ったようだが、中身的には経産省サイドに近いようだ。

Aさん「積み上げ方式」に「セクター別アプローチ」ですね。

H教授うん、発電や鉄鋼、セメントなどエネルギー多消費産業など8つの部門、つまりセクター別にGHGの削減可能量を積み上げるって方式で、このこと自体には環境省も異議申し立てはしていないようだ。
一方では、この方式を具体化するための包括提案を気候変動枠組条約事務局に提出、洞爺湖サミットでの合意取り付けを目指しているようだ。

Aさんで、日本の積み上げた結果は出たんですか。


「長期エネルギー需給見通し」の陥穽

H教授うん、明らかにそれと連動させて3月下旬に経産省が「長期エネルギー需給見通し」の改定案を出し【5】、その中で2020年と2030年のCO2排出量の試算結果を出している。

Aさんへえ、どんな結果だったんですか。

H教授現状固定ケース、努力継続ケース、最大導入ケースの3つのケースで見通しを述べているんだけど、新聞によると、対90年比で2020年にはそれぞれ+20.4%、+8.0%、△3.1%。2030年だと+27.3%、+6.9%、△15.3%としている。
あと電源として、またぞろ原発の9基から13基の新増設を謳っていて、これは先月閣議報告された原子力委員会の2007年版原子力白書ともひょうそくを合わせている【6】

Aさん最大導入ケースで2020年でやっと△3.1%ですか。だって、京都議定書では2008〜2012年の平均で対90年比△6%を達成すると約束したんでしょう。その約束を守れるって大見得切っちゃってるのに、2020年には2008〜2012年よりCO2の排出量が増えちゃうっていうんですか。

H教授まあ、京都議定書の△6%は京都メカニズム分と森林吸収分を合わせた△5.4%を含めての結果だから、増えてるとは言えないだろう。
そもそも京都議定書の△6%が達成できるかどうかについても、ボクはきわめて懐疑的、というか、新銀行東京の再建が成功する確率と同程度以下じゃないかと思ってるよ。
政府は3月末には削減量を上積みした目達計画の改定を閣議決定し【7】、あくまで達成できるとしているけどね。

AさんEUは2020年に対90年比で20%削減を目指していますよね。それと較べると、あまりにも落差がありすぎで、国際的にも問題じゃないですか。

H教授いつも対90年比で言われるんだけど、その90年という基準年自体を変えるよう日本は主張している。90年だと日本は二度のオイルショックを経て、すでに相当の省エネを達成しちゃってるからねえ。
それに例えば単位GDPあたりのGHG排出量でいうと、日本はEUなどよりまだまだ排出抑制が進んでいて、2020年でようやくEUが日本に肩を並べる程度じゃないかな。

Aさんそれは産業界や経産省の言い分じゃないですか。センセイはどう思われるんですか。それにその「積み上げ方式」や「セクター別アプローチ」についてのご意見は。

H教授まあ、産業界の言い分はある意味もっともなんだけど、決定的に欠けている視点があると思うな。


Aさんそれはなんですか。

H教授IPCC第4次報告書【8】と対比させると、日本流のやり方じゃ、地球、いや人類の危機である気候変動に対応できない可能性が強い。
日本は今までもっぱら省エネ技術の徹底で対応してきたし、今も技術的なブレークスルーでなんとかしようと思ってるみたいだけど、もうひとつ必要なのは成長の限界を知るということと、そのための社会的なシステムのブレークスルーなんだ。

Aさんよくわからないな。

H教授省エネの徹底で、エネルギー効率を上げて単位エネルギー当たりのGHGの排出を半分にすることはできるかもしれない。でもそれだけじゃダメだってことだ。

Aさんどうしてですか。

H教授例えば冷蔵庫を考えてみよう。初期の電気冷蔵庫と今のものでは、エネルギー効率の面で比べると今の方がはるかに省エネ・高効率化している。でも国内の冷蔵庫全体で消費する電力量は決して減っていない。電源構成の話や発電効率の話をするとややこしくなるけど、冷蔵庫起源のGHG排出量はトータルでは減っていない。
クルマだってそうだ。燃費はどんどんよくなっているが、クルマ全体でのガソリン消費量は減っていない。

Aさんあ、そうか。クルマも冷蔵庫も、台数が増え、大型化して、しかもいろんな機能がどんどん追加されてますもんね。


H教授つまり化石燃料起源エネルギーの需要=供給量全体を何としてでも、場合によっては強権的な手段を使ってでも大幅に減らさなければいけないという視点が欠けていると思うな。
そのことは「積み上げ方式」や「セクター別アプローチ」にしてもそうだ。
いずれも現在のトレンドでものごとを考えている。
エネ効率の向上の技術的可能性に焦点をあてているみたいだけど、2020年や2030年のCO2排出量はエネ効率だけで決まるんじゃない。もうひとつエネルギー需要=供給総量や生産量という要素がある。これを単なるトレンドやGDPの伸びの予測―というか願望―で決めるのはとんでもない話だと思うよ。

Aさんつまりトレンドではなく、バックキャスティング方式【9】が必要だということですね。

H教授うん、超長期目標から出発して、2020年や2030年に何%GHGをカットしなければいけないかという大枠がまず優先されなければならない。
そして、そのために環境税、国内排出量取引、国内CDM、自然エネルギー固定価格買取制、クルマへの重課税や渋滞税制度と公共交通機関や自転車の優遇策、電力の累進料金制、カーボン・オフセットやフィフティ・フィフティの制度化といった社会的なシステムの大胆なブレークスルーが必要なんだ。
少なくともEUはその方向を目指していると思うし、それでしか持続可能な低炭素社会の実現は不可能だと思う。

Aさんでもそんなこと、国民が受け入れるかしら。誰だって豊かで快適な暮らしを望むのは当然じゃないですか。貧しくなるのはイヤでしょう。

H教授エネルギー消費に制約を受けるけど、だからといってGDPは下がるかもしれないし、下がらないかもしれない。上がることだってあるかもしれない。
経済成長を絶対視することから脱却しろといってるだけで、問題は何に豊かさを求めるかだ。
終戦時にはあの混乱の中で価値観の大転換だって受け入れたんだ。もともと稲作文化の地域コミュニティで、助け合って生きてきた国民なんだから、大丈夫だよ。
問題は格差だ。絶対的な貧困なら話は別だが、日本みたいな国は貧しいか貧しくないかは隣人との比較なんだ。だから物質的な格差の拡大は避けた方がいい。

Aさんでもそんな社会ってあまり楽しくないんじゃないですか。自由がなさそうだし。

H教授そんなことはないよ。
現にボクはグルメにもブランドにも興味がない。いい服もクルマも最新の電化製品も別に欲しいと思わない。
家族と友人がいて、石を採りに行けて、本が好きなだけ読めれば、それで十分だ。


Aさんウソばっかり。アルコールとニコチンも必要でしょう。

H教授う、まあ、そう言われればそうだな。
ま、老子の「足るを知る」というコトバを今こそ噛み締めるべきだと思うな。
あと、キミも非エネルギー消費型の趣味を何か一つは持った方がいいとは思うけどね。

Aさん放っておいてください。余計なお世話です。センセイと人生を論じる気は毛頭ありませんから。
それより、国際的な動きはどうなんですか。「積み上げ方式」に「セクター別アプローチ」という日本の提案は受け入れられそうなんですか。


温暖化関連国際会議の行方

H教授洞爺湖サミット関連会合がもう動き出している。その皮切りが3月中旬の千葉で開かれた「気候変動・クリーンエネルギー及び持続可能な開発に関する閣僚級対話」だ【10】。G20といわれる主要先進国と新興経済国の20カ国が集まった。そこで「積み上げ方式」と「セクター別アプローチ」を披露したそうだ。

Aさん各国の反応はどうだったんですか。

H教授手法そのものは認知されたようだが、この時点では先ほどの「長期エネルギー需給見通し」の改定案が出されていなかったから、「2020年に最善でも対90年比△3%」は言わずに済んだんだけど、言えばすさまじいブーイングにあったんじゃないかな。
途上国からは「すべての主要排出国がセクター別の積み上げ方式による中期目標を定める必要がある」とする日本の提案に、「途上国にも先進国と同じ義務を押し付けるのか」と猛烈な反発があったそうだ。
日本政府は、「共通だが差異のある責任」原則は当然の前提であるという釈明を余儀なくされたそうだ。
最終的にG20では日本の提案については「議論を深める必要性を共有する」という結論で、それを洞爺湖サミットで報告するそうだ。
例によって日本政府は、日本提案の有効性が各国に認識された、と手前味噌な自己評価だけど、どこまでホントかいなという気がしないでもない。

Aさんそれから以降も温暖化絡みの国際会議があるんでしょう。

H教授うん、G20はこれで終わりだけど、実はバリ・ロードマップ【11】の実質的な議論を担う気候変動枠組条約の特別作業部会が、3月31日から4月4日まで、タイのバンコクで開かれている。京都議定書の作業部会も同時開催だそうだ。
ここでも「積み上げ方式」と「セクター別アプローチ」を日本側から提起するようだけど、今度は「2020年最善でも対90年比△3%」という日本の総量目標の経産省案も知られているから、どういう議論になるのか興味深いね。


Aさん現時点では△3%は日本政府の案じゃないんですね。

H教授うん、経産省案のひとつだ。もう一つは+8%案。つまり対90年比で2020年には△3%から+8%の間のどこかというのが、経産省の現在の表向きの考え方。環境相はそれに対して△3%でも国際的にも非常識だとして、異議を唱えている。

Aさんじゃあ、これから7月の洞爺湖サミット、いや5月の神戸の環境大臣会合までに、経産省VS環境省のバトルがはじまりそうですね。


国内排出量取引制度の動向

Aさん国内排出量取引制度の方はどうなっているんですか。

H教授経産省、環境省、官邸それぞれが研究会をつくっているけど【12】、導入の方向には間違いないだろう。5月中には一定の結論が出るんじゃないなか。

Aさん争点は。

H教授まずはキャップの決め方だろう。
決める手法自体は福田サンが「積み上げ方式」といっている以上、それでいくしかないんだろうが、経産省は「長期エネルギー需給見通し」を前面に出してきて、それでキャップを決めるというだろう。
「最善でも2020年対90年比△3%」じゃどうしようもないという環境省サイドは、さっき言ったさまざまな社会的なシステムの導入を前提とした、より厳しいキャップを主張するんじゃないかな。
いずれにしても国別総量目標との関連で議論が沸騰するだろう。

Aさん他には?

H教授いつからかというのも争点になるだろう。経産省は第一約束期間終了後の2013年からと主張するだろうし、環境省はできるだけ早く第一約束期間途中からという主張になるだろう。

Aさんうーん、総量目標の話もあるし、7月まで目を離せないですね。できれば、密室の中ででなく、公開の場でバトルをしてほしいですね。

H教授ポスト京都や国内排出量取引の問題は経産省VS環境省のバトルで終わらせちゃいけない。
大体が政府部内だけで決める問題じゃないんだ。国会もあるし、自治体もある。
議論の場をどれだけ広く深く設定し、誰がそれを裁定するかの枠組みを決めなきゃいけないと思うけどな。
4月の半ば過ぎには、福田政権発足後初の国政選挙となる山口補選がある【13】。争点は年金、格差に道路特定財源と暫定税率問題だろうけど、この問題も取り上げて争点にしてくれないかな。

Aさんそりゃ、ムリでしょう。
でも、環境問題は温暖化、気候変動ばかりじゃないですよね。


第2次循環基本計画決定さる

H教授そりゃそうだ。
じゃあ、3月末に閣議決定された第2次循環基本計画の話だけしておこうか。

Aさんへえ? そんなの新聞に出てました?

H教授うーん、ボクも気づかなかった。EICネットではじめて知った。

Aさん新聞に出る環境問題って、今や道路特定財源の話と温暖化ばっかりですものね。あとたまにアスベストの話ぐらいで。

H教授まあ、言っても詮ない話だ。だからこそEICネットみたいなのが必要なんだ。

Aさんそうですよね。役に立つ話がいろいろ出てますものね。
(小さく)この時評を除いては、ですけど。
ところで第2次循環基本計画で、何か特徴的なことがあるんですか。

H教授うん、循環基本計画循環型社会形成推進基本法、略称循環基本法が根拠法になっている【14】。一方、廃棄物処理法でも廃棄物処理施設整備計画という計画がある。今回は目標年度は違うものの、この2つがセットで作成され、同時に閣議決定された。実は、ここでも温暖化対策との絡みが意識されているんだ。

Aさん具体的には?

H教授第2次循環基本計画では、「循環型社会と低炭素社会・自然共生社会への取組の統合」というのが一つの目玉になっていて、廃棄物由来のGHG削減の取組強化を謳っている。廃棄物発電の導入拡大やバイオマス系循環資源の利用拡大だね。
そして廃棄物処理施設整備計画では目標値として「ごみ焼却施設の総発電能力」を新たに設定し、2012年までに1.5倍増を掲げている。
すでに20年度予算でも、ごみ発電熱回収バイオ資源の利用促進費を増額している。

Aさん温暖化対策と銘打った方が、予算を取りやすかったんでしょうね。

H教授ま、その通りには違いないけどね。
もっとも温暖化対策の本線としては、省エネ機器への更新が勧められているが、となると古い機器が廃棄物になる可能性も大きく、温暖化対策と廃棄物排出抑制は一種のトレードオフになってしまうという問題点もあることを忘れちゃいけない。

Aさん他には、何かありますか?


H教授循環基本計画は第1次のものと同様、目標値を掲げていて、第1次の目標を改定しているんだけど、「1人1日当たりのごみ排出量」という新規の項目も設定、目標値は2015年までに10%減とした。
それから第1次計画では、「物質フロー指標」として資源生産性、循環利用率、最終処分量という入口、循環、出口に相当する大目標を掲げていた。第2次計画ではそれだけじゃなく、その補助指標やモニター指標も設定した。またより具体的な「取組目標」も設けていたんだけど、それに関してもモニター指標を設定した。

Aさんでも廃棄物行政は3つのRといいながら、実際にはリサイクルばっかりで、リユースリデュース対策は手薄だったでしょう【15】
なにかそれに関して動きはないんですか。

H教授まあ、具体的なツールとなるものを環境省は持ってないからなあ。
それでも環境大臣の肝入りで「ペットボトルを始めとした容器包装のリユース・デポジット等の循環的な利用に関する研究会」を立ち上げた【16】
ペットボトルを対象にボトルの肉厚を厚くしてリターナブルボトルを導入、その回収にデポジット制度の創設を目指すようだけど、業界や経産省の抵抗も強いだろうし、そもそも環境省の所掌としてそこまでできるのかという疑問もないわけじゃない。

Aさん事務局は本気なんですか、それとも言いだしっぺの大臣向けへのパフォーマンス?

H教授さあ、どうだろう。でも出来れば素晴らしいことだと思うけどな。


ボン・ボヤージュ

Aさんあと、エコツー推進法が4月から施行され、同法に基づく基本方針案がパブコメにかけられているじゃないですか【17】

H教授その話は来月にしよう。一昨日、長い船旅から帰ったばかりで疲れているんだ。

Aさんえ、船旅? それでいなかったんだ。どこへ行ってたんですか。

H教授小笠原だ。それこそエコツーの本場だ。だから、小笠原の資料・情報も整理した上であらためて話そう。うーい、まだ船酔いが残っているみたいだ。

Aさんず、ずるいー、アタシには資料作成の仕事を押し付けておいて、センセイはさっさと奥サンと旅に行くなんて、あまりにも自分本位じゃないですか。エゴイスト!

H教授いいんだよ。これをエゴツーリズムという。
はい、お後がよろしいようで。♪ボン・ボヤージュ、ボン・ボヤージュ♪、あらよっと。

Aさん…(怒りに絶句)。



注釈

【1】サクラの木の下には…
第15講
【2】キョージュの持論
第62講「山場に来たガソリン暫定税率延長問題」
【3】温暖化対策法の改正
EICネット「地球温暖化対策推進法改正案 閣議決定」
【4】温暖化対策に関する福田首相の姿勢
第61講「ダボス会議は政策転換の表明か?」
第62講「国内排出量取引制度の検討開始へ」
【5】長期エネルギー需給見通しの改正について
資源エネルギー庁「長期エネルギー需給見通し(案)について ─エネルギー起源CO2排出量の見通し─」
【6】原子力白書
平成19年版原子力白書(平成20年3月原子力委員会)
内閣府原子力委員会「原子力白書」
【7】改正目達計画の閣議決定
京都議定書目標達成計画快晴の閣議決定
【8】AR4
第49講「IPCC第四次報告書の波紋」
第52講「温暖化・気候変動問題最新動向」
【9】バックキャスティング方式
第37講「超長期ビジョン検討開始」
【10】G20
G20対話(千葉市開催)
G20対話結果(3月17日報道発表)
同議長サマリー(3月28日報道発表)
【11】バリ・ロードマップ
第60講「検証:COP13」
【12】国内排出権取引制度に関する政府の研究会
環境省「国内排出量取引制度検討会」
首相官邸「地球温暖化問題に関する懇談会」
【13】山口第2区補選
山口県>衆議院山口県第2区選出議員補欠選挙について
【14】循環基本計画と循環基本法
第2講「資源生産性概念を論じる ─循環型社会形成推進基本計画案公表」
【15】手薄なリユース・リデュース対策
第14講「廃家電横流しは悪か?」
【16】ペットボトルを始めとした容器包装のリユース・デポジット等の循環的な利用に関する研究会
環境省 ペットボトルを始めとした容器包装のリユース・デポジット等の循環的な利用に関する研究会を設置
【17】エコツーリズム推進法
第41講「エコツーリズム推進法案」
第42講「エコツーリズム推進法案をめぐって」
アンケート

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なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

(平成20年4月1日執筆、同年4月4日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。