No.023
Issued: 2004.12.02
第23講 二つの山場と三位一体改革
Aさんセンセイ、秋も深まったですね。先日、カレと・・・
H教授(遮って)へえ、まだ懲りずにカレをつくったのか。
Aさんほっといてください!
で、カレとハイキングに行ったら、紅葉の奥から鹿のさびしげな声が聞こえてきて、とてもロマンチックだったわ。「奥山に紅葉踏み分け泣く鹿の声聞くときぞ秋は悲しき」って知ってます?
H教授馬鹿にするな、謎の歌人猿丸太夫だろう。これについちゃあちょっとウルサイんだぜ。猿丸太夫はじつは万葉の歌聖・柿本人麻呂だという珍説があるんだけど、これについてある雑誌で論じたことだってあるぐらいなんだ。
ま、それよりも秋の鹿の鳴き声ってのは、発情してるってことだ。キミと同じで、要はサカリがついたってわけだな。
Aさんし、失礼な。レディに向かってなんてことを。
H教授え? Readyに向かって? なんの準備だ。マサカ結婚準備に向かってじゃないよな。
AさんLady ですよ、Lady。決まってるじゃないですか!
H教授キミは異星人かと思ったら、日本人だったんだな。道理でLとRの区別がつかないはずだ。
AさんThank youとNice to meet youしか知らないセンセイにそんなこと言われるスジアイはありません!
さっさと時評に行きましょう。センセイの懸念(第21講その1)が的中、ブッシュさんが再選されましたね。
H教授うん、総得票数で300万票以上の差だから、文句なしだな。
チェチェンの惨劇のあと、投票日直前にダメ押しのビンラディンのメッセージ。アルカイダがブッシュ再選の後押しをしたみたいなもんだ。
Aさんまた、そんなことを。でも日本経済にとってはブッシュさんの方がよかったって話もありますよ。
H教授「人はパンのみによりて生くるにあらず」って言うじゃないか。
大体、ファルージャのことどう思うんだ。破壊の限りを尽くしておきながら、肝心のザルカウイには逃げられたっていうか、逃げるようにしむけたというか...。
Aさん(慌てて)センセ、センセイそれ以上はダメッ! 編集部に怒られます。
時評1 京都議定書発効確定と炭素税の行方
H教授そうか、じゃ興味のある人にはボクのホームページ(http://www.eurus.dti.ne.jp/~hisatake/)で11月16日の日録でも見てもらおう。
ところで 京都議定書発効が決まった。来年の2月16日だそうだ【1】。
Aさんでもロシアはホットエアーを売るだけ売っといて、第二約束期間の方はさっさと逃げるんじゃないかっていう観測もあるみたいじゃないですか。
H教授うん、その可能性はある、というより大きそうだし、そうなれば泥棒に追い銭ってことになるから、逃げられないような縛りを工夫しなければいけない。
だけど、それは日本にもいえることだぜ。
Aさんは、どういうことですか?
H教授だって、第一約束期間にはホットエアーを買ったり、CDMや森林吸収で稼いだとしても、90年比△6%達成できないのは明らか。達成できなかった分は三割増しというペナルティを払って第二約束期間に繰り越せることになっている。
でもアメリカが参加しないだけでなく、ロシアが逃げ出し、途上国が数値割り当てを拒否したら、第二約束期間の話なんてふっとんじゃうかもしれないし、日本だって、そうなることを期待してるむきだってないとはかぎらない。
Aさんそんなこと国民が許しません!
H教授そんなのわかんないよ。ガソリン代や電気代が上がるのはイヤという国民の方が多いかもしれない。
だから、そうさせないためにも、今のうちから炭素税ってシステムを導入しなければいけないと思うんだけど、これがどうなるのか。
Aさんそういえば環境省案が出てましたね。
H教授うん、去年の中環審専門委員会答申では炭素換算トンあたり3,400円だったけど(→第9講)、こんどの案では2,400円で3割減らしてる【2】。家計負担は年3,000円だそうだ。
鉄鋼やセメントのような多排出企業や中小企業には減免措置も導入して、税収は年5,000億円、この7割を温暖化対策に充てて4%カットできるという試算で、その他の施策と合わせて、辛うじて90年比△6%達成だそうだ。
Aさん税収が去年の答申と比べると半分に減りましたね。
H教授ともかく産業界がOKしてくれるようぎりぎりまで税率を下げた感じだね。
それに対して産業界はガソリン1リットルあたり1.5円くらいの税率ではなんの抑制効果も働かないと批判している。
だったらもっと税率を上げろというのが普通だと思うけど、だから炭素税は不要だという。変な批判だね。
Aさん経産省の方はどうなんですか?
H教授数日前に対策案をまとめたそうだ【3】。それによると省エネ法の強化や「流通・物流効率化法」の制定などで5%カット。あとは京都メカニズムや吸収源プロジェクトで、炭素税を導入しなくても90年比△6%達成だそうだ。
Aさんほんとですか。センセイはどう思われるんですか。
H教授単なる数字合わせの作文に決まってるよ。これで達成すれば対策案策定チームに1,000万円の報奨金、その代わり未達成だったら1,000万円のペナルティを課すようにしたら、チームはただちに解散するんじゃないか。
Aさんまた暴論を。じゃ、環境省案の方は?
H教授とにかく炭素税というスキームをまず入れることが重要なんだという環境省の気持ちはわかるけど、やはり税率が低すぎると思うね。
あるNGOがトン当たり6,000円〜15,000円にしろっていってるけど、たしかに環境省案(2,400円/炭素トン)では抑制効果は期待できない。
もちろん環境省は税による抑制効果よりもこの税収で行う温暖化対策に期待しているんだろうけど、それがどれだけ効果があるか、なんの担保もないもんなあ。まあ、二酸化炭素対策が必要だという普及啓発効果はあるだろうけど。
道路特会が数兆円の規模であるんだから、ガラポンしてこれとの統合再整理を図ればいいんだろうけど、そうなると経産省とそのバックの産業界だけじゃなく、国土交通省とゼネコンまで敵に回すことになるからなあ。
Aさんどうすればいいんですか。
H教授でも財務省は本来は味方のはずなんだ。なんせ税収を増やしたいんだもの。それに京都議定書がいよいよ発効するんだから、これほどの助っ人はいないはずだ。
ま、問題は自民党税調や政府税調がどういう判断を下すかだ。
このまま炭素税導入を認めるか、時期尚早で却下するか、あるいは導入の方向性だけを確認するが、一年ずらして、その間に道路特会やエネ特会との関係を再整理したうえで、再提案しろというか。
ただ単に却下ということはないと思うけどなあ。
Aさんそれはいつごろ決まるんですか。
H教授12月早々には決まるんじゃないかなあ。
Aさんえー、じゃあ、この時評が掲載される頃には決まってるかもしれないじゃないですか。まちがった予測して、恥かかなきゃいいですけどね。
ま、汗かかないぶん、恥かいてもいいか。
H教授うるさい、でもこういうところにこそコイズミさんに蛮勇を奮ってほしいんだけど、ま、ないものねだりしてもしょうがないか。
Aさんじゃ温暖化対策大綱の見直しは?
H教授まず炭素税をどうするかが決まってからだろう。その結論を待って、来春までに外野を巻き込んでの省庁間での戦争になるんだろうな。
でも産業界や経産省だって一枚岩じゃないと思うんだけどね。最後まで炭素税導入反対でいけるかどうか疑問だ。
90年比△6%を達成できなくても、炭素税まで導入してがんばったけど ―というのと、炭素税すら導入しなかった というのとでは、国際社会の受け止め方―もちろんアメリカは別として― が違うと思うよ。ま、いずれにしても、今が最大の山場だ。
で、もうひとつ、また別の山場が来てるんだ。
Aさんもうひとつの山場って。
時評2 惨身痛い改革
H教授三位一体改革って知ってるだろう。
Aさんえーと、まず三位一体とは天の父なる神様とイエスキリストと聖霊の関係のことです。だから...。
H教授こらこら!
Aさん冗談ですよ。20講でも22講でも反対だ!って吠えてたじゃないですか【4】。
地方分権の観点から国の補助負担金を撤廃すること、その分に見合う税源委譲を行うことと地方間格差を交付税で調整すること、この3つを同時にやるというコイズミ内閣の目玉ですよね。
そして今年度は1兆円補助負担金を削減したけど、来年度はさらに3兆円削減するというので、そのメニューを出せと全国知事会に要望して、全国知事会がとりまとめたんですよね。
で、そのなかにごみ処理施設整備の補助金が入ってたから、センセイがとんでもないことだって怒ってると、まあこういうわけです。
H教授うん、で、その後どうなったか知ってるか。
Aさんたしか、環境省の方ではごみ処理については補助金じゃなくて目的限定の交付金という対案を出しましたよね。
H教授じつは知事会の要望はごみだけじゃあないんだ。義務教育だとか社会保障だとか治山治水だとか、いっぱいあって、環境省関係はごくわずか。
で、環境省関係ではごみのほか国立公園などの施設整備の補助金の廃止なども含まれている。
環境省はごみは交付金に衣替え、国立公園以外の自然公園の施設整備補助は廃止、国立公園施設整備は直轄に切り替えるといった対案を出していたんだ。もちろん他省庁もそれぞれ対案を出して、すったもんだ。
そして数日前、「政府与党の基本方針」というのがまとまった【5】。
Aさんえ、じゃあ、もう山場は過ぎたじゃないですか。
H教授ところがその基本方針なるものが、中身がさっぱりわからないんだ。地方案を尊重しつつ検討するみたいな話で。そんなもの、基本方針とはいわないよ。ふつうの日本語じゃ、「尊重しつつ検討した結果」を基本方針というんだ。
Aさんなあるほど、お得意の玉虫色ってわけですか。いや、先送りか。
H教授さあ、でもホントは内々に決めてるんだと思うけどな。
新聞にデカデカと出てるんだけど、そのほとんどが義務教育の国庫負担金の話で、残りが社会保障と治山治水の話。それらについてもマスコミは知事会案支持のスタンスなんだけど、環境省の話なんてまったく出てこないんだ。
環境の時代だなんてウソじゃないかって思っちゃうよ。
Aさんでも、どうなるんでしょう。センセイの予測は?
H教授義務教育にしても社会保障にしても治山治水にしても各省庁側の応援団がいっぱいいるから、各省庁の顔をある程度たてて、その代わり環境省の代案なんてのはあっさり却下、つまり人身御供にされるんじゃないかと悲観的になっちゃうんだ。
Aさんそれはいつごろ決まるんですか。
H教授12月早々には決まるんじゃないかなあ。
Aさんえー、じゃあ、この時評が掲載される頃には決まってるかもしれないじゃないですか。まちがった予測して、恥かかなきゃいいですけどね。
ま、汗かかないぶん、恥かいてもいいか。
H教授こらこら、さっきとまったく同じセリフじゃないか。また原稿料目当てのページ稼ぎだなんてあらぬ批難を受けるぞ。
Aさんはいはい、でも三位一体改革って地方分権の推進のためなんですか、それとも国の歳出削減のためなんですか。
H教授ま、呉越同舟じゃないかな。
財務省はなんといっても歳出削減、とにかく莫大な借金を背負っているからな。総務省、つまり旧自治省は政府部内では自治体の側に立つから、地方分権推進のためといっているし、全国知事会もこれに乗った。
官邸はなんだろう。なんでもいから目立つ改革をしろってとこかな。
だけどこの三位一体改革とやらで、何が何でも国の支出を税源委譲分を差し引いての実質一兆円削減を目指すらしいから、やっぱり財政事情がメインだろう。
Aさんふうん、でも地方自治体だって借金をいっぱい抱えているんでしょう。
H教授そう、痛みをわかちあおうって話だから、三位一体改革というよりは国、自治体、国民の三方一両損改革っていった方が正確かもしれない。
でもねえ、残念だったのはごみ処理の場合、一番実態を知り、補助金がなくなればどうなるかをよく知っているはずの自治体の環境部局の現場の声がまったく聞こえてこなかったことだ。
時評3 地方分権と国立公園管理
H教授それと国立公園の施設整備から一切、都道府県が手を引くというんだけど、これも納得しがたいなあ。
Aさんだって国立公園は国が管理するのが本来でしょう。
自然公園法でもそうなってるんでしょう。
H教授そりゃあ、アメリカみたいな土地の所有権・管理権を公園当局(国)が持っている営造物制の公園ならそれでいいよ。
でも日本みたいな地域制の公園では、民有地がいっぱいあって、集落があったり、農林業なども営まれているんだから、国ばかりでなく都道府県や市町村、民間も含めて関係者が連携しながら、みんなでいい公園を造る努力なしではやっていけないと思うよ。
そもそも自然公園法には管理なんて言葉はないし、指定や計画策定、許認可は誰がやるか決められているけど、施設の整備や清潔の保持なんかは関係者が協力してやるように、条文にも明記されている。つまり、関係者が協働して国立公園を管理しなさい、というのが日本の自然公園制度なんだ。
日本の場合、国立公園の「国」というのは Nation とか State より Country の方がふさわしいと思うな。
Aさんたしかセンセイが現役のレンジャーの頃はそうだったんですよね【6】。
H教授うん、その頃の単独駐在レンジャーは現場の最先端で職住一体。自然保護の情熱はあったし、地域と住民への愛着は深かったし、地域の自然のことはよく知ってたけど...。
Aさん遮って)センセイ、自然のことは知らなかったんじゃないですか!
H教授う、うるさい。とにかく単独駐在の若いレンジャーは自然公園法以外の一般的な行政や法律の知識は乏しかった。それを補い支えてくれたのが都道府県であり、市町村だ。
とくにレンジャーが個人的な思いで突っ走ろうとするとき、都道府県の自然保護課などにレンジャー仲間の先輩やベテラン技術屋さんが係長とか補佐とかでいて、ブレーキをかけたり、サポートをしてくれた。
当時の許認可は軽易なものは都道府県知事権限、それ以外は大臣権限だったけど、都道府県知事権限のものだって、レンジャーが事実上担当してたし、大臣権限のものだって都道府県の意見進達が必要だった。さらに許認可に際しては市町村の意見を聞いたりもしてたんだ。
また施設整備は補助を受けて都道府県がやっただけでなく、当時は所管地だけだった直轄事業だって、都道府県の要望を踏まえて決定し、施工まで都道府県に委任してたから、実質的には10割補助の都道府県事業みたいなものだった。
まして、清掃だとか草刈なんかの管理行為は、レンジャーが中心になって都道府県や市町村、観光協会などの地元団体が一体となってやったものだった。
Aさんそれがどうして?
H教授地方分権法だ。あれでがらっと変わった。
国立公園に関することは全て国、と地方分権が間違って伝えられているけど、地方分権法で明確に区別したのは、指定や計画の樹立権限者、許認可の権限者だけなんだ。国や都道府県の担当者をはじめとする関係者が協働して、いい国立公園を造っていくという、自然公園法の根幹が変わったわけではないんだ。
なのに、どこかで国立公園の管理は国がやるべきだという地方分権論になっちゃった。都道府県の自然保護課のベテラン技術屋さんたちもおかしいと思っているんじゃないかなあ。
そのうえに今回の自然公園等施設整備補助金なんだけど、これも今回の三位一体改革で命運が尽きてしまいそうだ。日本の自然公園制度の本質がちっともわかっていないんじゃないかな。
ごみといい、国立公園といい、こと環境省に関する限り「惨身痛い改悪」だなあ。
時評4 環境ホルモン再説
Aさんお得意のお寒い駄洒落で〆るんですか(苦笑)。
ところで第16講で環境ホルモンの話をしてくれましたよねえ【7】。
センセーションを巻き起こした低用量仮説(暴露が微量なほど影響が顕著なことがありうる)はありそうにないし、環境ホルモン物質の現在程度の環境濃度では人への影響は考えられないって。
H教授うん、多くの研究者の間ではそういうコンセンサスが得られているみたいだってね。
Aさんでも先日BSで「地球大異変」という全3回のシリーズものの第2編で「水が危ない!」という米国のドキュメンタリーが放映されてたんですけど、センセイの話とまるでちがってましたよ。
H教授え? どういう話だったの?
Aさんカエルがどんどん減ってるんですって。
H教授うん、それは事実みたいで、IUCNだかWWFが警鐘を発してた。ぼくも環境ホルモンの生態系へのリスクについて、これからも研究すべきだと以前話しただろう。
Aさんで、ヒョウガエルとかいうカエルの減少はトウモロコシ畑に使うアトラジンとかいう農薬がオスをメス化(雌雄同一個体化)することによる生殖阻害が原因だって実験で判明したそうです【8】。
H教授ふうん、TBTの陸上版か。で?
Aさんところが実験では、メス化は農薬が微量な場合のみ起きたそうですよ。つまり低用量仮説は実証された! という話です。
H教授えー?
Aさんそれだけじゃありません。米国の4地域―うち3地域は都市部で、1地域は農村部なんですけど― で、そこの男性の精子を顕微鏡下で比較したそうですけど、農村部のものは明らかに活性度が低くって、その原因として考えられるのは水道中の微量の農薬だけだそうです。これって明らかに環境ホルモンですよねえ。
H教授うーん。両方ともにわかには信じられないなあ。
Aさんそれから「ベルーガ」という白クジラの数が、ガンで減少しているらしいんですが、細胞を使った実験で、その原因は水中のごく微量の化学物質の「カクテル」だってわかったそうですよ。
つまり、複数の化学物質それぞれが単独では影響がないほど微量であっても、それらのあるセットでは影響が出てくるとか、つまり複合汚染というか相乗効果が細胞レベルで実証されたそうです。
センセイ、そういう相乗効果ってあるものなんですか。
H教授もちろんありえないことはないだろうけど、実際はほとんどが相加効果だって聞いたことがある。
だって、そういう相乗効果がある物質の組み合わせを必死になって製薬会社が探しているんだけど、ほとんど見つかってないそうだ。
アスベストを扱う労働者で喫煙者に肺がんが多いけど、これだって相加効果じゃなかったかなあ。
ましてや、ひとつの物質で影響がみられないもの同士の組み合わせで顕著な影響がみられるなんて信じられないなあ。
Aさんでも、センセイの話と真っ向から食い違ってますよ。
H教授その話が事実だとしたら、テレビで放映される前に学会で一大センセーションを巻き起こしているはずだよなあ。でもそんな話は聞いたことはないし、環境ホルモン騒ぎを煽り立てた日本の一部の研究者だってそんなことはいってないみたいだよ。
Aさんじゃ、ウソだって?
H教授そんなことはいってないさ。
でもねえ、ぼくは役人上がりで、所詮は耳学問の徒だ。
そんなぼくにできることは、環境問題のインタープリターたらんとして最新の正しい情報や動向を自分なりに咀嚼してできるだけわかりやすくキミたちに通訳して伝えることだと思ってるんだ。
正直いってどこまで正確な報道番組なのか疑わしいと思っちゃうんだけど、研究者はいちはやくこの報道の元ネタを調べて学術的に正確なコメントしてほしいよね。
それでなくても映像の効果は大きいんだもの。
時評5 環境リスク学を読む
Aさんなるほどねえ。ところで先日、中西準子先生の「環境リスク学」(日本評論社刊)を読みました【9】。
H教授ほお、キミも読んだか。どうだった?
Aさんいやあ、スゴイ女性ですねえ、中西先生って。感激しました。
H教授うん、ボクもときどきホームページを覗いて勉強させてもらってる。
下水道からの環境負荷を調べて、建設省(当時)とつるんでた教授の不興を買い徹底的に干されたこと。その間に人口密度が減るに従い公共下水道の費用対効果がわるくなり、集落下水道システムさらには個人下水道システムの方がすぐれていることを証明したこと。リスク研究に転じてからは、健康リスクに関して異種リスクの評価を損失余命で比較する手法を開発されたこと。
いやあ、ほんとにすごいねえ。最近ではダイオキシンや環境ホルモンやBSEなどの騒ぎのときも歯に衣着せぬ冷静な批判をされている。
Aさんええ、同じ大学の先生でもこれほどちがうのかと思いました。
H教授へん、悪かったねえ。でも環境省のことはいい評価をされてないだろう。
Aさんええ、評判悪いですねえ。どうしてでしょう。
H教授直接的にはダイオキシンや環境ホルモンに対する環境省の対応が過剰反応、過剰規制だと思われたんだろうけど、先生の目からみると全般に環境省の政策は費用対効果の観点が希薄で、しかも異種リスクの相対的優先度みたいなことに無頓着と写るのかもしれないねえ。
Aさんそうなんですか。
H教授まあ、環境省には環境省なりの言い分もあると思うから、それをいつか聞いて紹介するけどね。
あとねえ、中西先生は人への健康リスクは一人ひとりの命を救うことを目的にリスク評価をすべきだが、生態系リスクについては種の絶滅を防ぐことを目的にリスク評価をすべきだとされている。
Aさんえ? だけど種の絶滅を防ぐって目的はいいんじゃないですか。
H教授たしかに人とちがい、他の生物は一匹一匹の命を救うことを目的にすべきでないのは事実だけど、個体数の減少だとか分布域の狭小化でなく、種の絶滅さえ防げればいいというのにはちょっと首を傾げたね。ま、水生生物保全のための亜鉛の環境基準【10】に異を唱えられたのも、この辺が原因かもしれない。
でもボクはロンボルグ【11】が種の多様性はほとんど減じていないと論じているのを読んだときと同様の違和感を覚えちゃったんだ。
タガメやメダカも種それ自体は絶滅していないが、今ではほとんどみることがなく絶滅危惧種になっているという事態はやはり健全といえないのでないだろうかとぼくなどは思っちゃう。
Aさんなるほどね。
さあ、次講は年が明けてからですね。その頃は2つの山場とも越しているでしょうから、センセイの当たるも当たらぬも八卦の結果がわかりますね。楽しみだわ。ウフ。
H教授それではよいお年を。それから中越地方のみなさん、これから寒い冬ですが、どうかお身体を大事にしてお過ごしください。
注釈
- 【1】京都議定書発効
- 環境省大臣談話等「京都議定書の発効を迎えて」(平成16年11月5日)
- 【2】炭素税に関する中環審専門委員答申(去年/第9講)
- 第9講・その3「温暖化対策税の在り方を巡って」
- 【3】経済産業省案
- 京都議定書の約束達成に向けた道筋(産業構造審議会・総合資源エネルギー調査会 エネルギー環境合同会議 配付資料)
- 同会議(16.11.18開催)配付資料一覧
- ※新総合物流施策大綱の策定について
- 新総合物流施策大綱 第2回フォローアップについて
- 【4】三位一体改革反対(第20講、22講)
- 第20講・その4「ごみ処理施設補助金廃止?」
- 第22講・その4「時評5 ─混迷・漂流する廃棄物問題」
- 【5】三位一体改革、「政府与党の基本方針」など
- 同 説明資料>平成17年度予算編成の基本方針(案)
- 同 配付資料>三位一体の改革について(政府・与党)
- 経済財政諮問会議>平成16年会議結果>第30回記者会見要旨
- 内閣府>地方分権改革推進会議:内閣府>地方分権改革推進会議 同「三位一体の改革についての意見」(平成15年6月6日)
- 地方税財政制度改革(三位一体の改革)に関する意見(平成16年5月26日 地方財政審議会)
- 【6】センセイが現役レンジャーだった頃の話(第7講)
- 第7講・その3「レンジャー私史」
- 【7】環境ホルモンについて(第16講)
- 第16講・その3「環境ホルモンのいま」
- 【8】カエルの減少と農薬の影響について
- 参考 アトラジンによるカエルの雌雄同体:室内研究と野外研究との連携(タイロン B. ヘイズ)
※International Symposium on Environmental Endocrine Disrupters 2001 (2001年12月17日(月)開催、セッション4「野生動物への影響」より - 【9】中西準子「環境リスク学」(日本評論社刊)
- 「環境リスク学―不安の海の羅針盤―」日本評論社刊のページ
- 書評※「中西準子のホームページ」
- 【10】水生生物保全のための亜鉛の環境基準
- 第7講「亜鉛の環境基準をめぐって(付:レンジャー今昔物語)」
- 【11】ロンボルグ
- 第12講・その「ロンボルグの波紋」
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
(執筆 平成16年10月26日、同月末 編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの公的見解とはまったく関係ありません。
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。