一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.228

Issued: 2014.01.09

2014年を展望する ──2013年環境重大ニュース

 新しい2014年が始まりました。今回は、去る2013年を環境の視点から振り返ってみたいと思います。本稿が、環境問題の来し方行く末を考えるきっかけの一つになることを願いつつ。

 なお、選定はEICネット環境ニュース編集部の独断によるものです。ご意見・ご感想などは、文末のアンケートフォームよりお待ちしています。どしどしお寄せください。

極端な気象現象が世界中で頻発。国内では連日の記録的猛暑が続き、国内最高気温も更新

 2013年の夏は連日の猛暑が襲いました。8月10日には日本国内で2007年8月16日以来(約6年ぶり)の40℃超の気温が観測されたほか、各地で猛暑日が記録されました。翌々日の8月12日に高知県四万十市で国内観測史上最高気温となる41.0℃を観測したのは、まだ記憶に新しいところです。
 また、台風や竜巻、集中豪雨による洪水など自然災害の脅威を実感した一年でもありました。台風26号が東日本付近を通過した10月16日、伊豆大島では記録的な豪雨となって大規模土石流が発生し、39人もの死者・行方不明者が出ています。
 国土交通省では、こうした土砂災害が最近20〜30年で1.5倍に増えていると発表しています。一方、9月になって気象庁は、2013年の夏がこれまでに類を見ない極端な天候になったこととその原因について分析する検討結果を示すとともに、気温の長期的変化傾向について二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化の影響が表れているとの見解を示しています。また、これに先立つ8月30日には、警報の発表基準をはるかに超える豪雨や大津波等が予想され、重大な災害の危険性が著しく高まっている場合に発令する「特別警報」の運用を開始しました。
 フィリピン・レイテ島に台風30号が直撃し、甚大な被害が発生したのは11月ことでした。アジア以外でも、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアなど世界各地で極端な気象現象が頻発し、まさに地球温暖化の影響が実感される今日この頃と言えます。

深刻化する福島第一原発の放射能汚染水問題と今後のエネルギー政策

 原発関連のニュースは、2013年になっても過熱しています。特に注目されたのが、東京電力福島第一原発の放射能汚染水の問題でした。
 4月以降、高濃度の汚染水が地下貯水槽やタンクなどから相次いで漏れていることが報道されました。原子炉建屋地下に1日約400トンもの地下水が流入することで日々増えていく汚染水。8月には約300トン/日が海洋に流出しているとの試算も公表されました。国は、建屋を囲んで地中に凍土壁を作って地下水流入と汚染水の流出を防ぐ計画を発表していますが、これほどの規模のものは前例もなく、実効性や長期的な持続可能性などに疑義が呈されるなど課題は多く残ります。

 一方、7月には原発の再稼働に向けた安全審査のための新規制基準の施行が原子力規制委員会より発表されました。シビアアクシデント対策(深刻な事故への対策)や新たな基準を既設の原発に遡って適用する法的仕組み(バックフィット)、テロ対策などを新設し、耐震・対津波性能の強化や自然現象や火災等への考慮とともに電源の信頼性やその他設備の性能などについても強化されたものです。12月には核燃料施設の新規制基準も正式決定しています。
 政府は、民主党政権の「2030年代に原発ゼロ」を撤回して、原発を「安全性の確保を大前提に引き続き活用していく、エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源」と位置付けた、新しいエネルギー基本計画(素案)を公表しました。

関連リンク

中国の大気汚染問題が深刻化。日本に波及も! 〜2013年の流行語にもなった「PM2.5」

2013年1月14日の北京市内(正面は大気汚染で霞む米国大使館)

12月8日未明の米国大使館近くの通り、AQIは爆表寸前

 2013年春先から大きな話題となった「PM2.5」の猛威。中国でPM2.5による高濃度の大気汚染が発生、海を隔てた日本でも濃度上昇が観測されたことで、流行語の一つに列せられるほどの国民的な危機感及び関心を呼びました。
 2月には専門家会合が注意喚起のための暫定指針値(日平均値 70μg/m3)を示し、翌3月5日には熊本県などで初の注意喚起が実施されています。11月には、2013年前半の実績等を踏まえて、専門家会合から運用に関する改善策として、見逃し事例や空振り事例を減らすための判断方法等が示されました。

 当EICネットのEICピックアップコーナーでは、春と冬に二度、「中国発:中国大気汚染」(前後編)をお送りしています。こちらもぜひご参考にしてください。

IPCCが最新の評価報告書(AR5)の第1作業部会報告書を公表 〜大気中CO2濃度が400ppmを超えた歴史的な年に

気候政策と研究の関係

 2013年9月、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は、6年ぶりとなる第5次評価報告書の第1作業部会報告書を公表しました。世界で行われている膨大な研究論文をレビューし、気候変動問題について最新の科学的認識を整理し報告することを目的にしているIPCCは、1990年8月の第1次評価報告書の発表以来、数年おきに評価報告書(Assessment Report)を発表してきました。
今回のAR5では、研究者が第1次報告書以降になされた研究の論拠を整理して、温暖化については疑う余地がなく、特に20世紀後半以降の温暖化は人間活動により排出された温室効果ガスによることを、改めてより明記しています。また、将来の気温上昇を求めるシナリオについて、これまで同様の結果が確認され、それに伴い海面上昇もより大きい値で起こりうると指摘されました。2014年中には残る2つの作業部会報告書及び総合報告書の発表が出揃い、2020年以降の次期枠組みの合意に向けた国際交渉が本格化します。
時系列的には少し遡ることになる5月、国連気候変動枠組条約事務局が「大気中のCO2濃度が400ppmを超えた」との声明を発表し、世界中に衝撃をもたらしました。1958年から大気中のCO2濃度の観測を継続するハワイのマウナロア観測所での観測結果を受けて、「人類は歴史的な境界を越え、新たな危機領域に突入した」と危機感を表明するとともに、国際社会に対して地球温暖化防止の取り組みを強化するよう求めています。ちなみに、日本の大気中CO2濃度月平均観測値が観測史上初めて400ppmを超えたと気象庁が発表したのは、2012年5月のことでした。
人類が化石燃料を大量に消費するようになった産業革命以前、地球の大気中のCO2濃度は280ppmでした。年々増加して、400ppmを超えることになった2013年。IPCCが「地球温暖化による気温上昇を2℃程度に抑える目安」として位置づけたのが、400ppmという値でした。これを超えると、気温上昇を抑制できなくなる可能性があるというものです。

三陸復興国立公園の創設と東北海岸トレイルの開通 〜“日本流ロングトレイル”の黎明

みちのく潮風トレイル コースマップ例
[拡大図]

 東日本大震災によって被災した三陸地域の復興に貢献するため、2013年5月に創設された「三陸復興国立公園」。旧陸中海岸国立公園に、青森県の種差海岸階上岳県立公園及び八戸市鮫町の2地区を編入し、新たに設定されたものです。同国立公園の創設を核としたグリーン復興ビジョンのプロジェクトの一つに「東北海岸トレイル(愛称「みちのく潮風(しおかぜ)トレイル」)」の整備が掲げられてきました。青森県八戸市蕪島(かぶしま)から福島県相馬市松川浦までを対象に設定する長距離自然歩道で、地域の自然環境や暮らし、震災の痕跡、利用者と地域の人々などを様々に「結ぶ道」となることをめざすものです。
 3月には愛称の「みちのく潮風(しおかぜ)トレイル」が決定し、11月に入って、青森県八戸市蕪島から岩手県久慈市小袖までの約100kmの区間で路線の設定及び整備計画が決定及びルートマップ作成が発表されました。環境省では、今回開通した区間での標識等の整備を進めると同時に、残る約600kmの区間についても路線設定等の作業を進めていくとしています。

 自然や文化を楽しみながら山や街道で長距離にわたって歩行する旅やそのためのコースのことを欧米ではロングトレイルと呼んで、多くの人たちが楽しんでいるとともに、地元住民等を中心に受け入れ・盛り上げる文化が盛んです。利用方法もテントや宿に泊まりながら一気に踏破したり、一部区間だけを歩いたり、いくつかに分けた区間ごとの歩行をつなげてトータルで全区間を踏破したりと、さまざま。
 日本でもこうしたロングトレイルの旅が注目され始めています。日経BP社が「2013年のヒット予測ランキング」の第1位に『日本流ロングトレイル』を選定して、関係者等の注目を集めたのは約1年前。はたして、ロングトレイルの認知と利用は定着してきたのでしょうか。

富士山の世界文化遺産登録と入山料論議

シーズン中は山頂まで人の列が絶えない富士山登山。入山料の徴収は、登山道整備など環境保全や登山者の安全対策等に使うものとしています。同時に、夜を徹して登って山頂でご来光を拝む“弾丸登山”など無謀で過剰な登山への抑制についての必要性も指摘されます。(2012年7月28日 未明の富士山頂直下にて)

春の富士山

 6月22日、富士山の世界文化遺産への登録が決定しました。三保の松原の扱いが議論を呼びましたが、無事に三保の松原を含んだ登録として認められています。
 世界遺産となって初めて迎えた2013年の登山シーズンで話題になったのが、入山料の問題。その目的や使途、徴収の対象や方法、効果などについてさまざまな論議があった中、5合目以上への登山者を対象に、1人1,000円の任意の保全協力金として試験徴収を実施しました。7月25日からの10日間での実施の結果、合計約3万4千人から約3400万円が寄せられています。
 入山料は、環境保全や登山者の安全対策、富士山の普遍的価値の情報提供等に使うとしており、トイレの新設や改修、モニタリング、持続可能な環境保全の仕組みづくりとその意識啓発や情報提供、救護所の新設・拡充や指導員の配置などを計画しているようです。近年、特に夜を徹して登り山頂でご来光を拝む“弾丸登山”など無謀で過剰な登山の危険性なども指摘されます。環境保全や安全対策には、利用者・登山者の意識の改善も欠かせません。

 なお、富士山を含む山域の環境保全の重要性を山岳関係者および広く国民一般に理解してもらうとともに登山者等が山域を利用する際の行動指針を共有することを目的とする「山はみんなの宝」憲章(制定・広報の事務局は、NPO法人山のECHO)が、2013年6月に多くの団体・個人の賛同を得て制定されたことも特記されます。

「山はみんなの宝」憲章(2013年6月27日制定)

「水銀に関する水俣条約」が採択される 〜2020年以降の水銀製品の製造や輸出入を原則禁止に

 2013年10月、熊本県水俣市で「水銀に関する水俣条約(the Minamata Convention on Mercury)」の外交会議が開催され、全会一致での採択と92か国(EU含む)による条約への署名が行われました。
 同条約は、水銀が人の健康及び環境に及ぼすリスクを低減するため、水銀の産出、使用、環境への排出、廃棄など、そのライフサイクル全般にわたる包括的な規制を定めた初の国際条約。2010年6月の第1回会合(ストックホルム)以降、5回にわたる政府間交渉を経て、2013年1月にジュネーブで開催された第5回会合で合意されていました。
 国連環境計画(UNEP)によると、2010年の人間の活動による大気中への水銀の排出は世界中で約2000トンと推計されています。その6割を小規模金採掘と石炭燃焼で占め、それらの水銀は気流に乗って世界を巡り、海洋に流れ込み、魚介類によって濃縮され、人体に取り込まれていくことになります。同条約の批准によって、2020年以降に水銀入りの体温計や蛍光灯の製造や輸出入、廃棄などが規制されることになります。

新たなカーボンオフセットクレジットの認証制度がスタート ──Jクレジット制度の発足

 2013年4月、新しいカーボンオフセットのクレジット認証制度、「Jクレジット」が発足しました。これまで、経産省が国内クレジット制度(国内排出削減量認証制度)を、経済産業省がオフセット・クレジット(J-VER)制度をそれぞれ独自に運営していたものを統合して移行したものです。両制度とも、京都議定書の第一約束期間をいったんの区切りとしていたこともあり、2013年度以降の制度のあり方について、環境省・経済産業省・農林水産省の3省で議論を重ねてきていました。

 J-クレジット制度については、EICピックアップ 第219回国内における新たなCO2のクレジット制度が発足 ──国内クレジット制度とJ-VER制度を統合した「J-クレジット制度」をお送りしていますので、ご覧下さい。

40周年を迎えたワシントン条約 〜危機的状況にある野生動植物の保護に向けて

 1973年に米国ワシントンで行われた会議で採択されてから40周年の節目の年を迎えたワシントン条約。正式名称「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)」が示すように、野生動植物種の国際取引がそれらの存続を脅かすことのないよう規制するのが目的です。絶滅のおそれの程度により、野生生物種を附属書I(商業目的の国際取引が原則禁止)、附属書II(商取引に輸出国の許可が必要)、附属書III(IIとほぼ同じ扱い、原産国が独自に決められる)に掲載し、国際取引が規制されることになります。
かつては珍しい野生生物の生体取引や、象牙・べっ甲・毛皮などの装飾品や医薬品原料の取引などが主に報じられてきましたが、近年は身近な食生活への影響なども社会的な関心を呼んでいます。
3月にタイ・バンコクで開催されたワシントン条約第16回締約国会議でも、フカヒレ目当ての乱獲で激減しているシュモクザメなどのサメ類が新たに取引規制の対象として附属書IIに新規掲載されるなどの決定がされました。一方、ウナギについても直前に米国政府がアメリカウナギの規制について検討を始めたことを受け、“ウナギが食べられなくなる”と報道され、大きな注目を集めました。結局、今回のワシントン条約の会議では議題に上ることなく閉幕を迎えましたが、ウナギを取り巻く状況は厳しさを増しています。2月に環境省が公表した環境省版レッドリストの第4次見直し(汽水・淡水魚類)では、これまで「情報不足(DD)」としていたニホンウナギが「絶滅危惧IB類(EN)」に指定されることになったのに加え、国際自然保護連合(IUCN)も7月に発表したレッドリストの最新版では掲載を見送ったものの、ニホンウナギを含む19種のウナギについて資源状況の評価が実施され、掲載が検討されました。

 なお、6月には野生生物保護の国内法である「種の保存法」「外来生物法」がともに改正され、保護に向けた規制が強化されています。

環境省、「低炭素社会創出ファイナンス・イニシアティブ」により、低炭素プロジェクトに出資を決定 〜グリーンファイナンスの推進に向け

 2013年、環境省は「低炭素社会創出ファイナンス・イニシアティブ」による低炭素プロジェクトへの出資を決定しました。経済再生と低炭素社会の構築を同時に実現するための一つの手法として、いわゆるファンドを使って投資を呼び込む、グリーンファイナンスへの取り組みを推進しよういうもので、ファンドの創設によって、民間の出資・融資を促し、官民で事業の展開を図っていくというメカニズムです。 地域低炭素化出資事業を行う補助事業者として、グリーンファイナンス推進機構が選定され、バイオガス発電、太陽光発電事業などへの出資が決定しています。

 なお、同機構には、当環境情報センターも社員として参画して、その普及・推進に協力しています。

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