一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.021

Issued: 2013.09.10

環境省水・大気環境局 小林正明局長に聞く、日本の水・大気環境の課題と対策

小林正明(こばやしまさあき)さん

実施日時:平成25年8月21日(水)
ゲスト:小林正明(こばやしまさあき)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 長野県出身。
  • 長野県立松本深志高、東大法卒、1979年(昭54)旧環境庁に入庁。
  • 環境影響評価課長、大臣官房秘書課長、大臣官房審議官などを経て2012年8月から水・大気環境局長。
目次
これだけ密に住民が居住する中での除染は、世界的にも前例がない
除染は復興のため、すなわち避難している人びとが帰還し生活を再建できることが目的
安全が保たれる中間貯蔵施設を何とか確保したい
PM2.5にかかわる基本的な問題は、全国の測定網がまだ整備途上にあることと、PM2.5の組成が十分に解明されていないこと
建物の中に抱えられてしまっているアスベストを確実に処理することが現在も重要な課題
解体現場でのアスベスト処理は、これからが正念場
水という環境は生物も含めて理解する必要性が大きくなっています
水や大気を含む環境を感じ取る、いわば感性を養っていくことが、環境行政の基盤にもなる

これだけ密に住民が居住する中での除染は、世界的にも前例がない

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、環境省で東日本大震災の復旧・復興の要となる除染をはじめ、大気および水にかかわる環境問題を担当されている、水・大気環境局の小林局長にお話しを伺いたいと思います。
早速ですが、除染の進捗状況からお願します。

小林さん― 放射性物質の除染は日本にとって経験がないだけでなく、世界的にも、これだけ密に住民が居住する中での除染は前例のないことなのです。しかし、とにかく復興のためには除染が欠かせません。環境省として、全力をあげていろいろな模索をし、いろいろな工夫を編み出しながら取り組んでいます。具体的には、震災の直後から除染についてさまざまな技術を開発し、24年度から本格的な除染作業に着手しています。
住民の方が避難しなければならなかった除染特別地域については、国の事業として除染を行うこととなりました。その対象が11市町村です。それ以外に、除染を自ら行っておられる市町村が福島県内で40、関東・東北の近県の市町村を含めて合計すると100になります。

大塚― 地域により状況が違うわけですが、環境省としては、すべてに適用できる方針を作ろうとしているのですか。

小林さん― そうですね。どういう技術を使えば効果的な除染ができるかについて、試行を繰り返してきた成果に基づいて、具体的な除染のガイドラインを作っています。ガイドラインは、Q&Aの形の説明もつけ使いやすくなっています。もちろん、線量が高い地域とそれほどでない地域がありますので、それぞれが効果的に運用できるよう、ガイドラインをこれからも進化させていく必要があると思っています。

大塚― 環境省のロードマップでは、2年目あるいは3年目が除染の大きな節目になると思いますが、現在の進捗状況をどのようにお考えでしょうか。


愛宕神社の除染(福島県田村市)

除染は復興のため、すなわち避難している人びとが帰還し生活を再建できることが目的

小林さん― 新しい法律(平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法)もでき、それに則って環境省が責任をもって行うことになりました。福島県の避難地域11市町村は、居住域や農地などの生活周りでの除染を、24、25年度の2カ年で行う計画を立てています。ほかの市町村では、数年単位の計画を立てている場合が多いのですが、国が責任をもっているところはなるべく前倒しにし、生活周りについては2年で目処をつけようとやってきました。
実際の進捗には、地域によるバラツキがあるのはたしかです。除染計画は地元のご了解を得る必要があり、なかなか予定どおりに進まなかったこともあります。たとえば、賠償問題の解決や避難地域の設定が除染計画の前提として必要となり、除染の進捗がずいぶん遅れているところがあります。

大塚― お話のように、環境省も一所懸命されていると思いますし、もちろん地元の市町村も努力されておられるのですが、マスコミ報道では、批判を含むさまざまな意見が目につきます。今後、とくに力点を置こうとされているのはどのようなことでしょうか。

小林さん― 申し上げましたとおり2ヶ年計画でやってきており、順調に進んでいるところもあります。非常に難航しているところ、これからまだまだやらなければならないところもあります。そのような中でも、常に全体的な状況を直視し、必要があれば見直しも考えなければと思っています。「原点」に戻るというか、除染は復興のため、すなわち避難している人びとが帰還し生活を再建できることを目的にしているのですから、「除染は除染」「復興は復興」ではなく密に関連づけようと考えています。たとえば、除染をしてもインフラの復興がなければ結局は戻れません。除染の作業と復興の作業に加え、たとえばインフラの整備をいかに連携して進めていくかが今後の大きな課題です。除染の場所についてもメリハリをつけ、住宅とか子どもが活動する場所はなるべく早く、一方で広い面積を占める森林などについては、専門家の知恵を借りて最善の方法を見出しながら進めていこうと考えています。


墓地の除染(福島県双葉郡大熊町)

安全が保たれる中間貯蔵施設を何とか確保したい

除染特別地域の除染の進捗状況(平成25年8月現在)

除染特別地域の除染の進捗状況(平成25年8月現在)

大塚― 除染と密接に関連することですが、中間貯蔵施設の建設も大きな問題と思います。現在はどのような状況なのでしょうか。

小林さん― 除染を進めていく中で何が大きな課題かというと、所有者の同意をいただくことと、もう1つはとりあえずの置き場所として仮置き場を設定することです。仮置き場は、あくまでも仮の場所ですから、最終的には長期にしっかりとした形で保管ができる中間貯蔵施設を造ることを目標にしています。逆に言うと、これができると仮置き場も仮に置いておけばいいので、じゃあ提供しましょうとなると思います。中間貯蔵施設の目処をしっかり立てなければいけないのです。環境省は、3つの町に中間貯蔵施設を造らせていただきたいと考えています。どのような施設が造れるか、本当に安全に保管ができるかを調査させていただきたいと、昨年夏からお願いしてきました。現在、2つの町で調査が進み、もう1つの町でもいろいろとご相談しているところです。地元のご理解を得て、安全が保たれる中間貯蔵施設を何とか確保したいのです。

大塚― 被災地の方々はもちろん、日本も世界も注目していると思います。是非、具体的な方向性を見出していただきたいと思います。

PM2.5にかかわる基本的な問題は、全国の測定網がまだ整備途上にあることと、PM2.5の組成が十分に解明されていないこと

PM2.5の環境基準達成率と整備局数の推移。
「一般局」:一般環境大気測定局、
「自排局」:自動車排出ガス測定局。

大塚― 次の話題に移らせていただきます。今年の春先から、PM2.5に関するニュースが毎日のように新聞やテレビで取り上げられました。大気汚染への対処という視点から、現状をどのようにお考えでしょうか。

小林さん― 大気汚染対策は、環境行政・公害行政の原点ともいえます。これまで、硫黄酸化物についてはかなり早い段階で目処がつきましたし、窒素酸化物のように難しい物質に対してもずいぶん成果をあげてきています。PM2.5については平成21年に環境基準を設定しましたが、環境基準の達成率もまだまだというところです。大気物質の専門家からも、PM2.5がどういうところから出てきて、どういうメカニズムで生成されるかなど、解明しなければならない課題が多いと指摘されています。 そういう意味で、国内の発生源も見きわめなければなりませんし、アジアの大陸から流れ込んでくるものにも目を向けなければなりません。対策を考える上では、最初の発生源だけでなく、二次的に生成されるものも含め、幅広い視点から取り組む必要があります。行政としては、研究者と連携し、一方で各自治体とも連携し、長期的な方向性も見据えて取り組んでいこうと考えています。

大塚― 平成21年に設定された、現行の環境基準を見直すこともあるのでしょうか。

小林さん― PM2.5の環境基準には、年単位の値も短期的な日平均値もありますが、今のところ基準値の達成率ははかばかしくありません。 PM2.5にかかわる基本的な問題の1つは、全国の測定網がまだ整備途上にあることです。現在、六百数十の測定局がありますが、PM2.5の全体の動向の把握には不足しています。もう1つの基本的な問題は、PM2.5の組成が十分に解明されていないことです。組成の解明とともに、先ほど述べたように測定局をもう少し増やすことにより、原因の究明と対策につなげていきたいと考えています。PM2.5とも関連する自動車の排気ガス対策の例をあげると、継続的に計っている測定局での粒子状物質の濃度は確実に下がってきています。かねてから進めている自動車の排気ガス対策は、ある意味では既にPM2.5対策の一部になっているともいえますが、より系統的な測定と原因究明、そして有効な対策つくりに着手したいと考えています。

大塚― 硫黄酸化物や窒素酸化物に起因する大気汚染に対し、日本はその対策をリードしてきたと思います。PM2.5対策でも、アジアあるいは世界を視野に進めていただければと思います。

小林さん― 中国をはじめとするアジア各国との連携が欠かせませんので、積極的に取り組んでいきます。

池袋サンシャイン60から筑波山方面を撮影

池袋サンシャイン60から東京スカイツリー方面を撮影


建物の中に抱えられてしまっているアスベストを確実に処理することが現在も重要な課題

民間建築物の年度別解体棟数(推計)[拡大図

大塚― 少し話題を変えさせていただきます。今年6月に大気汚染防止法の一部改正が行われましたが、そのポイントであるアスベスト対策について、どのような背景があり、どのような内容で、何を期待されているか、そのあたりのことをお話しいただければと思います。

小林さん― 東日本大震災も1つの契機になっています。アスベストは、我が国の大気汚染対策の大きな課題で、平成元年以降、大気汚染防止法で製造工場を規制し、解体現場についても規制を強化してきました。ところが、震災の時にもアスベストが飛散していないかという危惧が生じたのも事実です。
これまでも、1,224ヶ所においてモニタリングをして、若干でも懸念があるところについては注意を促してきています。ところが、建物の中に抱えられてしまっているアスベストがありますので、これを確実に処理することが現在も重要な課題になっています。このような点について、現行の制度で十分かを専門家からなる審議会で議論していただいたところ、いくつか改善すべき点が浮かび上がってきました。これが、法改正をした理由です。

大塚― アスベストによる被害の深刻さを考えると、より適切な対策を立ててほしいと思います。主たる改正のポイントをご説明ください。

小林さん― 2つあります。1つは、解体業者にしっかり経験を積み知識を深めていただくよう努力してきたのですが、関係者の意見を聞きますと不十分な点もあったようです。解体業者でなく、建物のオーナーや所有権をもつ発注者が、作業にかける費用や時間についても大きな影響力をもつケースがあるということです。そのため、届出をする義務を「解体業者」から「発注者」に変えることにしました。ただし、現在国で決めている作業基準を、専門家である解体業者に守ってもらうのは当然のことで、発注者と解体業者がそれぞれ責任を持ち合うことにしたのが今回の改正のポイントです。
もう1つは、アスベストが実際にどこにどのくらいあるかが十分に把握されていない危惧があるため、法律で事前の調査を義務づけました。さらに、調査結果の情報を外に貼り出すような形でオープンにするようにしました。

解体現場でのアスベスト処理は、これからが正念場

大塚― これからも、解体件数は増えていくのでしょうか。

小林さん―国土交通省と連携して情報を収集しています。今はまだ解体は道半ばで、ピークは平成40年頃で、解体件数は今の二倍くらいになりそうです。ピークを過ぎても解体はつづきますので、解体現場でのアスベスト処理は、これからが正念場ということです。このことも、今回の法改正を進めた契機になっています。

大塚― アスベストへの対策は、事前調査をはじめ基本的なことが大事ですね。

小林さん―そうですね。関係省庁の調査などもありますので、それらの結果も活かしたいと思っています。そして、何よりも大事なのは実際に解体するときの事前調査です。事前調査を法改正で義務化したわけですが、なんといってもアスベストは非常に深刻な健康被害をもたらすことを、関係者は共有しなければならないと思っています。
また、今回の法改正には直接関係ないのですが、審議会からは、優秀な解体業者や解体の専門家を育てることも考えるようにと、宿題をいただいています。
それと、アスベストにかんしては、解体現場での業者の労働は厚生労働省、建築材料のリサイクルは国土交通省が担当していますので、環境省を含む三者の連携を密にしていきたいと思っています。

水という環境は生物も含めて理解する必要性が大きくなっています

大塚― 大気に比べると水にかかわる問題は少ないように思われますが、国際的な状況も含めて、現状をどのように理解されておられますか。

小林さん― 水環境については、いろいろな努力がなされ、全体として良くなってきたといえそうです。しかし、河川の水質が良くなってきているのに比べ、内湾や湖沼の水質についてはまだまだ課題が大きいと思っています。とくに、問題の様相が変化してきているという専門家の指摘もあります。

大塚― 具体的にはどのようなことなのでしょうか。

東京湾の赤潮

小林さん― 環境省は、水中の窒素やリンの濃度、あるいはCOD(化学的酸素要求量)【1】の濃度などに着目し、水質から水環境を考えてきました。しかし、だんだんと大きな問題になってきたのは、赤潮【2】であったり、貧酸素に起因する青潮【3】だったりします。赤潮はプランクトンの大量発生、青潮はプランクトンの大量死が原因ですから、海の水の問題が生態系の問題と非常に深くかかわっていて、そういう意味では、水という環境は生物も含めて理解する必要性が大きくなっています。そうなってきますと、物質循環という枠組みでの理解が必要になり、一方では海岸の護岸などともかかわりがでてきます。
水環境についても、より広い視点に立つ取組みが必要になってきていると感じています。たとえば、今までの環境基準は個々の物質に着目しているのですが、もう少し総合的な指標、たとえば水の透明度とか、海の下層の溶存酸素(水中に溶解している酸素)濃度についても目標を設定するような課題も浮かび上がってきます。

大塚― 海を保護するには森を保護しなければならないと言われるように、環境の相互関連性が大事ということですね。
ところで、世界には安全な飲料水が入手しにくい国が多くあるわけで、日本の水環境の技術が問題解決に貢献してほしいと願っています。

小林さん― 環境省としても、アジア各国に日本の技術の提供や、水環境を守るための制度つくりの協力など、いくつかのプロジェクトを進めています。各国との連携を強化・拡大し、できれば水ビジネスも活用できるような形で貢献したいですね。今後の大きな課題にしたいと思っています。

兵庫県明石海峡を撮影(せとうち風景フォトコンテスト入選作品より)

神戸市須磨区須磨浦山上より神戸港を撮影(せとうち風景フォトコンテスト入選作品より)


水や大気を含む環境を感じ取る、いわば感性を養っていくことが、環境行政の基盤にもなる

香川県綾川大谷池(瀬戸内海フォトコンテスト入選作品より)

大塚― 最後に、水と大気の環境問題を担当されている立場から、エコチャレンジャーをご覧いただいている方々にメッセージをいただきたいと思います。

小林さん― 水とか大気あるいは空気は、生命の基盤になる役割をもつという意味で重要です。空も海も湖も非常に大きな塊ですので、これらのどれをとっても、構造や機能を科学的に理解することが必要ですし、日本であれば日本の社会システムとして機能するように取り組んでいくことも必要です。この場合、山から川を通じて里海までつながっているという視野で見ていかなければならないと思います。
一方で、水にしても空気にしても身近にあるもので、先ほどの透明度ではありませんが、見たり触れたり感じたり、いろいろな生物と共存していることを感じ取る力も大事になると思います。そういう意味では、大人もそうかもしれませんが、とくに子どもが日常的に自然と十分に触れあえない状況が気になっています。水や大気を含む環境を感じ取る、いわば感性を養っていくことが、環境行政の基盤にもなるからです。環境省自身がもう少し活動の幅を広げていかなければならない部分ともいえますが、そういう気持ちを大事にしながら政策を打ち出していきたいと考えています。科学的な理解の積み重ねがベースにあるとともに、みんなが感じ取れる環境という視点にも敏感でありたいと思います。我々も努力しますので、環境に関心をおもちのエコチャレンジャーの読者の皆様方にも連携していただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

大塚― 水と大気にかかわる多くの問題を抱え、今後もご苦労が多いかと思いますが、環境行政のリーダーとしてますますのご活躍をお祈り申し上げます。本日は、どうもありがとうございました。


環境省水・大気環境局長の小林正明さん(左)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(右)。


注釈

【1】COD(化学的酸素要求量)
水中の有機物を酸化剤で分解する際に消費される酸化剤の量を酸素量に換算したもので、水中の有機物による汚濁状況を測る代表的な指標。
【2】赤潮
プランクトンの異常増殖により海水が変色する現象。有害プランクトンの増殖やプランクトンの分解過程で酸素消費量が増え溶存酸素が欠乏し、魚介類の大量死をもたらす。
【3】青潮
大量発生したプランクトンが死滅し下層に沈殿し、低層で生分解される過程で酸素が消費され貧酸素水塊ができる。この貧酸素水塊が湧昇現象によって表層に達するのが青潮で、赤潮と同様に魚介類の大量死をもたらす。
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