一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.022

Issued: 2013.10.11

第22回 三井住友信託銀行・高倉透取締役常務執行役員に聞く、金融が環境保全や環境創造に果たす役割

高倉 透(たかくら とおる)

実施日時:平成25年9月19日(木)
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:高倉 透(たかくら とおる)さん

  • 1962年生まれ、84年住友信託銀行入社
  • 05年高槻支店長、02年リテール企画推進部長、09年人事部長、同年統合推進部長、10年執行役員統合推進部長を歴任。12年より三井住友信託銀行取締役常務執行役員、三井住友トラスト・ホールディングス常務執行役員に就任
  • 趣味は読書、水泳。
目次
百年以上も前に、煙害と伐採で荒廃し果てた別子銅山を緑の山に戻そうと決断し、植林をはじめた
環境への積極的な配慮を企業自らが内部で行うことも大事ですが、仕入れの段階などで使うものすべてにおける環境負荷まで把握する必要がある
企業の取り組みを評価し融資の条件に活かすだけでなく、企業の取り組みの改善にも資する情報を提供できるよう配慮している
生物多様性に貢献されている企業に優先的に投資するファンドを作った
日本でも社会的に関心が高まってきたという手応えを感じるのは、不動産の分野
本業の仕事の中で環境への配慮を考えていくことはますます大事になる

百年以上も前に、煙害と伐採で荒廃し果てた別子銅山を緑の山に戻そうと決断し、植林をはじめた

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。高倉さんは長年にわたり三井住友信託銀行において、金融の分野で環境問題の解決に向け活躍されておられます。本日は、金融が環境保全や環境創造に果たす役割、あるいは今後の環境戦略などについて、お考えを伺いたいと思います。どうぞ、宜しくお願いいたします。
早速ですが、貴行の特色について、今日までの歩みを含めお話しいただけますでしょうか。とくに、貴行が重視されてこられた金融商品の開発における環境への取り組みをご説明いただきたいと思います。

高倉さん― 最初に当社の成り立ちから申し上げます。現在の三井住友信託銀行は、住友信託銀行、中央三井信託銀行、中央三井アセット信託銀行の3行が昨年4月に合併してできた会社です。
私は旧住友信託銀行の出身です。環境に対するベースとなる考え方あるいは信条に繋がる話として、入社以来、諸先輩から教えられてきたのが「住友」の歴史です。「住友」は、江戸時代に幕府から四国の新居浜にある別子銅山の経営を任せられましたが、銅の精錬で排出される亜硫酸ガスによる煙害や、燃料として大量の木を伐採したことにより、別子の山は「はげ山」になっていたのです。もう百年以上も前のことですが、当時の「住友」の総理事が「山を荒蕪するにまかしておくことは、天地の大道に背く」と、山を緑に戻すことを決断し、大造林計画を作って毎年100万本を超える植林をはじめたのです。その努力が受け継がれ、今は銅山も閉山していますが、木々が青々と繁っています。私も行ったことがありますが、山の上まで豊かな緑に覆われています。「住友」は発祥の時代から、環境に配慮しながら自然の中でしっかり生きていくことをモットーに成長してきた企業なのです。

大塚― 百年も前に植林を行ったことは、画期的だったと思います。

高倉さん― 私どもが環境問題に本格的に取り組み出したのは、旧住友信託銀行について申し上げると2003年です。そのころ、社会的責任投資(SRI)【1】という考え方がヨーロッパで台頭してまいりました。日本でもこういう観点で有価証券を運用することが、社会から支持される時代になるだろうと考えました。当時としてはかなり先行していたと思いますが、年金のお客様向けの投資ファンド及び個人のお客様向けの投資信託で、SRIのファンドを立ち上げたのです。

大塚― どちらの立ち上げも2003年だったのですか。

高倉さん― はい、2003年です。そのころちょうど、社内にCSR推進室(CSR:企業の社会的責任)の原型となる部署もできました。投資ファンドは今も販売していますが、残念ながら、日本ではSRI投資が広がっていると言える状況にはなっていません。しかし、我々は根を絶やすことなく、こうした運用手法の意義を理解していただけるよう、さまざまな工夫をしながら、来たるべきときが来るのを待とうと考えています。

大塚― 貴行は本業で環境を良くしようと努力されていると理解しています。CSRの動きとはどのような関係になるのでしょうか。

高倉さん― 我々は、CSR推進室の活動もそうですが、本業で環境を良くするための取り組みをしっかりと進めていこうと考えています。CSRの観点に立って、本業を展開する会社を目指しているのです。

大塚― その一端をご紹介いただければと思います。

高倉さん― 有価証券の運用業務は我々の本業の柱の一つです。お客さまからお預かりしている年金の資産やその他の資産を、CSRに資するように運用することで貢献していきたいと考えています。ちなみに、私どもがお預かりしている資産と、当社のグループ会社の三井住友トラスト・アセットマネジメント及び日興アセットマネジメントが預かっている資産を合わせると、日本で最大規模の有価証券を運用していることになります。
ヨーロッパでは、ESG(環境 Environment・社会 Social・ガバナンス Governance)を意識した投資にウェートがおかれています。日本ではまだまだこうした状況には至りませんが、少しみえはじめた芽生えを大切にしながら、今後も前向きに取り組んでいこうと思っているところです。
もう少し具体的に申しますと、株式投資を行う際に、自然環境に大きな負荷を与えるような会社を投資銘柄から除くことが1つです。言い換えますと、積極的に投資する銘柄として、CSR活動を実践している会社を選ぶということです。ヨーロッパでのESGを意識した投資行動は、我々が2003年からはじめたSRI投資の発展形として捉えています。

大塚― 貴行では「自然資本格付融資」が大きな柱と伺っておりますが、今ご説明いただいた考え方の一環ということでしょうか。

環境への積極的な配慮を企業自らが内部で行うことも大事ですが、仕入れの段階などで使うものすべてにおける環境負荷まで把握する必要がある

高倉さん― 先ほどから申し上げている有価証券の運用業務のほかに、環境の観点で注力したいと考えたのが、1つは融資、もう1つは不動産です。「自然資本格付融資」は融資の分野での大きな柱です。
ここで、金融機関としての信託銀行の特徴を簡単にお話しさせてください。あまり一般に馴染みがないかと思いますが、融資の業務はメガバンクと同様の業務を行っているとご理解いただいて結構です。先ほど申し上げた有価証券の運用業務は我々の方が圧倒的に大きな規模で取り組んでおりますし、不動産は信託銀行しか行っていません。
そういう事業基盤の中で、本業としてCSRを実現していこうと考え、環境格付融資にも取り組んできました。融資先の企業の環境に配慮した取り組みをスコアリングして、スコアの高い企業には金利などの面で特典があるようにしているものです。この取り組みをはじめてから気づいたことがあります。環境への積極的な配慮を企業自らが内部で行うことも大事ですが、それにとどまらず原材料や部品などの仕入れの段階で使うものすべてにおける環境負荷まで把握する必要があるということです。欧米の状況をみても、企業が行っている事業で、仕入れた材料等が環境に害を与えていると分かった場合、そのままでは、その事業を継続できないという時代になってきているのです。
我々の自然資本を意識した環境格付融資は、融資先の企業が鉱山、農地、山林からすべての調達過程で土地、大気、水、生物相にどれだけ環境負荷を与えているかを把握し、リスクを認識し、改善に役立てていただけるような仕組みになっています。従来の環境格付融資と比較して、より長く社会に貢献できる仕組みになっているのではないかと思っています。

大塚― スコアリングをされる際に、今ご説明いただいた内容が含まれているのでしょうか。

高倉さん― そうです。

大塚― スコアリングのシステムは、貴行の中で作られているのですか。

高倉さん― 我々がスコアリングを行うわけですが、供給側でどれだけ環境負荷があるかを計算する仕組みをもっておられる企業と提携しています。

大塚― 大変なご苦労があろうかと思いますが、分かりやすい例でお話しいただけますでしょうか。

企業の取り組みを評価し融資の条件に活かすだけでなく、企業の取り組みの改善にも資する情報を提供できるよう配慮している

高倉さん― この仕組みを最初にご利用いただいたのはサンデンという会社です。この会社は、カーエアコンのコンプレッサーや自動販売機を製作しています。同社が製品を作るときに使う部品について、どこからどれだけ仕入れたかという調達情報をもとに、我々の融資のオプションサービスとして、同社のサプライチェーンにおいて世界のどの地域でどれだけの環境負荷を与えているのかを算定して、報告しました。例えば、部品の製造過程における環境負荷が、中国で水問題が起きている地域に関係すると思われる場合があれば、それは重要な経営リスク情報の1つとして、企業の業務改善に使っていただける仕組みになっています。このように、企業の取り組みを評価し融資の条件に活かすだけでなく、企業の取り組みの改善にも資するデータが得られるよう配慮しているのです。

大塚― 先を見たすばらしい発想だと思います。しかし、日本はヨーロッパに比べ立ち後れているとのお話ですが、将来性についてはどのように感じておられますか。

高倉さん― 将来的には、この発想が広く認められるようになるのではと思っています。ただし、日本の多くの方々が意識して取り組む状況になるまでにどのくらいかかるか、変化のスピードについてはまだ分からないですね。自然資本格付融資も第1号は出来たのですが、後続がまだ出ていない状況です。私どもも、プロモーションの方法などを工夫して、現在提供させていただいているサービスがもっと活用されるよう努力しなくてはと考えています。

大塚― 是非進めていただきたいと思います。

生物多様性に貢献されている企業に優先的に投資するファンドを作った

大塚― 少し話題を変えさせていただきます。2010年に、世界で初めて企業の生物多様性の取り組みに着目した投資信託を開始されたわけですが、その狙いですとか、どのような反応あったかをお話しいただけますか。

高倉さん― 2010年に愛知県名古屋市で開かれたCOP10(第10回生物多様性条約締約国会議)で、注目された議論に関係しています。最大のポイントは、生物多様性に貢献されている企業に優先的に投資するファンドを作ったことです。このファンドは現在も公募により販売していますが、これも爆発的に人気が出ている状況ではありません。ただ、このファンドを継続的にお持ちいただいているお客様もおられますし、追加購入されるお客様もおられます。

大塚― 国際的な話題もいくつかいただいていますが、改めて環境と金融の関係を国際的にみると、UNEP(国連環境計画)の動きなどとも連動し、ヨーロッパで先行しているということでしょうか。

高倉さん― ヨーロッパで関心が高いですね。従前からそうだったと思います。そして、ヨーロッパの企業がアジアに進出してくる中で、このままでは問題であると思うようになったのではないでしょうか。

大塚― 日本人は環境に対する独特の感性をもっていると思いますが、ヨーロッパ人の方が環境を保護し育成しようとする意識が強いのでしょうか。

高倉さん― そうかもしれませんが、ヨーロッパ人の方が大切なものを自ら護る努力をしないと、侵害されるリスクがあると思う度合いが日本人より強いのではないでしょうか。私にもよく分かりませんが、ヨーロッパでは古くから隣国と国境を接していたので、いろいろな意味で侵害されるリスクが高かったのに対し、日本は島国で侵害されたことが少なく、侵害されることへの不安が今も少ないのかなと思います。

日本でも社会的に関心が高まってきたという手応えを感じるのは、不動産の分野

大塚― 高倉さんが言われるような背景があろうかと思います。
ところで、国際的にも日本においてもこれからの環境戦略は、金融が牽引していくのが1つの道かと思います。高倉さんは、どのようにお考えでしょうか。

高倉さん― 金融とともに、日本でも社会的に関心が高まってきたという感触があるのは、不動産の分野ですね。例えば様々な地域で構想されているスマートシティもそうですし、住宅地域や工場地域でも、省エネをはじめとする環境との共存が大きなテーマになり、個人も企業も強い関心をもちはじめています。
国土交通省の主導でつくられた建築環境総合性能評価システムである「キャスビー」(CASBEE)【2】の不動産マーケット普及版にも、我々が導入を提言し最初から検討メンバーに加えていただき取り組んでいます。行政とも協働し、環境にやさしい建築物、ひいては環境負荷の少ない生活や生産活動ができるよう、我々の本業で貢献していこうとしており、相当の手応えを感じています。

大塚― 東日本大震災もありました。また、日本は人口が減少傾向にあるなかで、コンパクトシティをはじめ都市の再開発への関心が高まっていますが、不動産分野はまさに深く関係しているのですね。

高倉さん― そのとおりです。具体例を紹介しましょう。神奈川県藤沢市で、パナソニックが中心になってスマートタウン構想に取り組んでいます。パナソニックをはじめとする9つの企業と藤沢市が推進している環境配慮型の街づくり事業で、我々もそのメンバーに入っています。この事業の中心は、それぞれの建物はもちろんですが、街で消費されるエネルギーを全体としてマネジメントしようという構想です。その場所はパナソニックの工場跡地ですので、一種の再開発ともいえますが、今までの街づくりより環境配慮のレベルがはるかに高くなっています。

パナソニックの『Fujisawaサスティナブル・スマートタウン』のコンセプトイメージ図


大塚― この計画は、どの程度進んでいるのでしょうか。

高倉さん― 来年春の街びらきに向け、造成が進んでいる段階です。

大塚― 藤沢市が参画しているのも特徴ですね。

高倉さん― 道路や公共施設の整備も合わせた官民連携の事業です。私が知る限り、ほかの地域からも、藤沢市と同様の構想について相談がきています。

大塚― 今お話しいただいたようなプロジェクトでは、空間的な広がりをもつ対象地が必要ですね。

高倉さん― 最近は、メーカーなどの企業が都市部にお持ちの工場跡地などを再開発しようとする際に、環境調和を前面に出した新しいコンセプトで取り組みたいという動きが増えています。

大塚― そのような動きの中で、信託銀行のサポートが重要になるということですね。

高倉さん― そうですね。当社にも、我々が協力させていただけるよう不動産について環境の観点から企画を行う専門部署もありますし、都市計画に精通しているスタッフもおります。

本業の仕事の中で環境への配慮を考えていくことはますます大事になる

大塚― 新しい動きに期待しています。
最後になりますが、EICネットは企業関係の方をはじめ多くの方々にご覧いただいています。今までのお話しと重複することもあろうかと思いますが、EICネットの読者の皆様に、高倉さんからのメッセージをお願いいたします。

高倉さん― 冒頭で申し上げましたように、「住友」の歴史を振り返っても、百年以上前に「はげ山」を緑に戻すという決断をしたことで、我々は今もその恩恵を受けているわけです。環境を大切にすることは大前提と思っています。
我々の1日の時間の使い方をみると、仕事に費やしている時間が長いですね。プライベートの時間に、個々人の取り組みとして環境配慮に取り組むことはもちろん大事です。しかし、一企業人として本業の仕事の中で環境への配慮を考えていくことはますます大事になると考えています。特に、我々の子ども、孫、さらにその後の世代に良い環境を受け継いでいけるよう、皆で取り組んでいければと思います。

大塚― どうもありがとうございました。本業として、これからも日本そして世界を視野に、よりよい環境つくりに貢献していただきたいと思います。

三井住友信託銀行 取締役常務執行役員の高倉 透さん(右)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(左)。

三井住友信託銀行 取締役常務執行役員の高倉 透さん(右)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(左)。


注釈

【1】社会的責任投資(Socially Responsible Investment:SRI)
企業が利益の追求だけでなく、組織としての活動が社会に与える影響に責任をもつ「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)」とともに重視されるようになったもので、「企業の社会的責任」の状況を考慮して行う投資を指す。
【2】キャスビー(CASBEE, Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency)
建築環境総合性能評価システムのことで、国土交通省が主導し財団法人建築環境・省エネルギー機構内に設置された委員会で開発された。評価の着眼点は、地球環境および周辺環境への配慮、ランニングコストにおける無駄のなさ、利用者にとっての快適性などである。