No.008
Issued: 2001.08.20
COP6再開会合が残したものその成果と課題
ドイツ・ボンで開催されたCOP6(気候変動枠組み条約第6回締約国会議)再開会合の結末は、世界中に安堵をもたらしました。米国が不支持を表明し、発効が危ぶまれた京都議定書が、生き延びたからです。会合に参加した主要各国は、京都議定書の運用ルールについておおまかな点で合意。京都議定書を発効させるカギを握る日本(第5回「どうなる京都議定書 COP6再開会合の焦点」参照)も、最終的に合意を表明しました。これを受けて各国は、批准に向けた国内体制を整備することになります。日本も、いよいよ温暖化対策に本腰を入れるべき時が近づいてきました。
EICネットより...
(1)国内ニュース【関連ニュース 4件】
- 環境省が地球温暖化対策推進本部を設置(環境省、2001.08.06発表)
- 小泉首相、パウエル米国務長官に京都議定書に対する日本の立場を説明(首相官邸、2001.07.24発表)
- 総理大臣談話「COP6再開会合での合意歓迎」(首相官邸、2001.07.23発表)
- COP6再開会合、議定書運用ルールを合意(環境省、2001.07.23発表)
(2)海外ニュース【関連ニュース 5件】
- UNEP アフリカは温暖化防止に伴う発展のチャンスを逃してはならない(国連、2001.07.27発表)
- ボン合意 各国批准に向けて動き出す(国連、2001.07.23発表)
- ボン会議 合意に達す(EU、2001.07.20発表)
- アメリカ・イタリア 気候変動研究協力を約束(アメリカ、2001.07.19発表)
- 気候変動ガス削減の内訳(ドイツ、2001.07.17発表)
(3)環境用語【登録用語14件より抜粋】
(4)環境イベント【検索結果 5件】
- [東京都] 環境NGOによるボン会議報告会(開催日 8/21) No.479
- [大阪府] 地球温暖化CDMフォーラム2001(開催日 8/29) No.418
- [東京都] 陸域生態系の吸収源機能に関する科学的評価についての研究の現状(開催日 8/30) No.452
- [東京都] 2001年度 都民のためのコープ環境講座 地球環境問題についてまなぶ!(開催日 9/15) No.430
- [東京都] 温暖化政策と政府の取組み(開催日 9/20) No.470
議論の争点は何だった?
おもな争点【1】は4つありました。(1)森林による二酸化炭素(CO2)の吸収をどこまで認めるか、(2)途上国の温暖化対策への援助、(3)排出量(排出権)取引などの「京都メカニズム」【2】の詳細、(4)削減目標を守れなかった場合の罰則などの措置―の4つです。
会合では、米国抜きで議定書を発効させることを前提に討議が進められました。そこで、そのためのカギを握る日本の合意を取り付けるため、日本の主張を大幅に認める合意案が作成されました。日本は従来から、日本の削減目標6%のうち、森林によるCO2吸収分の算入を3.7%まで認めるよう主張していました。また、今回の会合では、削減目標を守れなかった場合の罰則規定を議定書に盛り込むことに強硬に反対しました。
何が決まった?
4つの争点については、それぞれ次のように決まりました。
[1]森林によるCO2の吸収
各国の事情に応じて削減分に参入できる上限が定められました。日本に対しては、要求を上回る3.8%が認められました。植林以外に下刈りなどの森林管理や農地・牧草地の管理、植生の回復などもCO2を吸収する手段として認められました。
[2]途上国支援
これまでの援助とは別に、既存・新規の基金を通じて途上国の温暖化防止活動などを支援することが決まりました。EU(欧州連合)などは年間4億1000万ドルを拠出することを約束しました。
[3]京都メカニズム
排出量を先進国同士で売買する排出量取引が認められました。
ただし、取引を利用できるのは排出枠の1割以下という制限が設けられました。
[4]遵守
削減目標を達成できなかった場合には、未達成分の1.3倍を次期目標に上乗せすることが決まりました。ただし、日本などの強硬な反対により、この罰則規定に法的拘束力を持たせるかどうかは、議定書発効後にあらためて協議することになりました。詳細な合意内容はこちら【3】、具体的な交渉の経緯は、こちら【4】を参照してください。
成果と課題は?
米国の離脱表明で発効が危うくなった京都議定書が、この危機をのがれ、主要各国が運用ルールに合意したことは大きな成果といえます。しかし同時に、多くの課題が残されました。
ひとつは、ルールの細部が合意できなかったこと。細部の文書化作業は、10月にモロッコ・マラケシュで開催されるCOP7(気候変動枠組み条約第7回締約国会議)に先送りになりました。今回の大筋での合意を受けて、「骨組みはできた」として批准作業に着手する国もありますが、日本は、「ルールの細部で合意できない限り批准作業を開始できない」との立場をとっています。
もうひとつは、温暖化ガスの世界最大の排出国、米国が参加していないこと。米国の排出量は、先進国全体の36.1%(1990年時)を占めています【5】。米国が加わらない議定書のルールには限界があると懸念されています。
日本に対しても、大きな課題が残されました。国内の温暖化ガス削減をどう進めるか、です。議定書が発効すれば、日本は90年の排出量に比べて6%の削減が義務付けられます。森林吸収分の算入が大幅に認められ負担は軽減されたものの、削減目標の達成は容易ではありません。99年時点の排出量は、すでに90年より6.8%も増えているからです【6】。
特に増え方が大きい家庭や事務所などの民生部門(99年で90年比約17%増)や、車などの運輸部門(同約23%増)をどう減らしていくか、有効な政策【7】と同時に、私たち一人ひとりの努力や工夫が一層重要になります。
- 【1】おもな争点
- 環境省「主要論点について」
- 【2】京都メカニズム
- 環境省「京都メカニズムの概要」
- 【3】合意内容の詳細
- 【4】具体的な交渉の経緯
- 【5】米国の排出量は先進国全体の36.1%(90年当時)
- 環境省「京都議定書発効の要件(議定書25条)」
- 【6】日本では、すでに90年より6.8%(99年時点)増えている
- 環境省「1999年度(平成11年度)の温室効果ガス排出量について」
- 【7】地球温暖化対策にかかわる政策
- 環境省「地球温暖化防止対策の在り方の検討に係る小委員会」報告書
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(記事:土屋晴子、イラスト:大堀由紀子)
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