No.027
Issued: 2005.04.07
第27講 道東周遊随想と愛知万博
道東周遊随想―世界遺産登録と海域保護
Aさんセンセイ、しばらく顔をみなかったですね。
H教授うん、10数年ぶりに早春の道東を回ってきたんだ。網走国定公園、阿寒国立公園、釧路湿原国立公園などなどだ。
Aさんへえ、マサカ研究で行ったわけじゃないですよね。研究に無縁なセンセイが。
H教授(苦笑)あいかわらず減らず口だけは変わらないな。まあ、1週間キミの顔を見ずに済んでせいせいしたよ。
Aさんワタシもです! 珍しく意見が一致しましたね。ところで何しに行ったんですか。
H教授道東の自然公園【1】を、一利用者としての立場から実感しようと思ったんだ。
Aさん早い話が観光ですね。流氷は見られました?
H教授(渋い顔)ずうっと沖合いに流出したみたいで、せっかく砕氷船に乗ったのにカケラも見えなかった。で、その翌々日釧路に出て、レンタカーで釧路湿原を回り始めたら、季節外れの猛吹雪に遭遇。あっという間に10cmくらい積もってしまい、ほうほうの体でホテルに引き上げた。なごり雪なら風情もあるが、なごり吹雪じゃあなあ。
Aさんふふ、日頃の精進を物語ってますね。ところで誰と行かれたんですか。
H教授人妻とだ。
Aさんな、なぬー!?
H教授バカ、誤解するな。最愛のミオを置いて、人間の方の妻と行ったという意味だ。
Aさんミオ? あー、例の太っちょメスネコですね。で、レンジャーとは会ったんですか?
H教授うん、昔馴染みが地区自然保護事務所に赴任していて、何人かと飲みながらいろんな話を聞かせてもらった。ちょうど、知床の世界遺産【2】をめぐる地元の会議が終わったところでね。
Aさん世界遺産の話題は以前取り上げましたよね【3】。たしか最近じゃ熊野古道が登録され、話題になったような...。
H教授世界遺産条約ってのがあって、自然遺産と文化遺産と、それらの複合遺産の3種類に分類される。熊野古道は文化遺産の方だ。
自然遺産としては、日本では屋久島と白神山地の2つが登録されている。ほかにも名乗りを挙げているところがいっぱいあって、政府としては候補地を3つにしぼったんだけど、最終的に推薦したのは知床だけだった。
Aさんそうそう、思い出しました。保護のための管理体制がきちんとしているかどうかってことでしたよね。小笠原と沖縄・奄美はまだ体制が整っていないということで推薦から外されたんですね。でもまだ登録されてなかったんですか。
H教授うん、政府が推薦したものをIUCNが諮問機関になって審査するんだけど、海域の保護体制に問題ありと指摘されたんだ。確かに欧米と違って日本では海域の保護規制は弱いからなあ。
Aさんどういうことですか。だって国立公園でしょう。
H教授第7講でも言ったように日本の国立公園の問題はいろいろあるんだけど【4】、そのひとつに海域の保護規制が弱いことがあげられる。欧米ではエスチュアリー(Estuary)といって河口周辺の浅海域の保護に熱心なんだけど、日本の国立公園は景観保護からスタートしているうえ、各省の縦割り行政の中で、自然保護とか生態系保全の観点からの規制はほとんどできなかったんだ。国立公園の前面1kmの海域はおおむね国立公園にはなっているんだけど、ほとんどの場合、普通地域で特別地域には指定できない。普通地域だと大規模な埋め立てなんかの開発についても届出を義務付けているだけなんだ。
Aさんそんなのおかしいじゃないですか。環境省はそれでいいと思っているんですか!
H教授思うわけないじゃないか。自然公園法では許可制の特別地域は陸域に限るってあって、厚生省時代からそれをなんとかしたいというのが念願だったんだ。だけど、関係各省が頑として言うことをきかなかったんだ。1970年になってようやく、陸域の特別保護地区に相当する海中公園地区っていう制度ができたけど、指定できたのはサンゴ礁の一部や、海藻群落の一部など、点みたいなものでね。
Aさんじゃあ、その海中公園地区以外は環境省は関与できないんですか。
H教授埋め立てなんかの場合、国立公園の前面海域は普通地域だけど、特別地域の陸に接する部分の改変にひっかけてなんとか規制しようとしたり、普通地域の届出に対しても自然公園法に規定する措置命令をちらつかせたりして歯止めをかけようとしてた。また、自然公園以外でも公有水面埋立法【5】のアセスでいろいろ口出しはしてきたけどパンチがもうひとつねえ。
Aさんじゃ、海域の保護はいわばノーズロだったんですか。
H教授キミは若い割に古めかしい言葉を知っているな。さては年齢詐称か? それにしても品のない言葉だから無闇に使うものじゃない。
Aさんこの間、センセイが教えてくれたんじゃないですか。
意味はよくわからないんですけど、品がないんですか?
H教授う...まあ、あまり使わない方がいいと思うよ(ごまかす)。
それはともかく、海域の保護といってもいろんな観点があって、水産資源保護の観点からは水産庁系列の規制があるんだ。水産資源保護法や、あるいは都道府県の漁業調整規則とかね。
Aさんじゃ、それなりに規制はしてるんですね。環境省は関与できないだけで。
H教授漁業を阻害するような行為に関してはね。ただ問題は、漁業のもたらす環境へのインパクトを誰がどうやってチェックするかだ。海中公園地区と自然環境保全地域の海中特別地区以外は生態系保全の観点からの規制はないといってもいいんじゃないかな。
そこをIUCNは衝いてきたんだと思うよ。特に海棲哺乳動物の保護に関しては、クジラの例【6】をみてもわかるように欧米は異常に神経質なのに対して、知床ではトド漁なんてのもやってるからな。
Aさんふうん、具体的にはどういう指摘だったんですか。
H教授前面1kmの海域について、漁業者、漁業団体の同意のもとで海域管理計画を5〜10年以内につくり、自主管理措置により保護するとしていたんだけど、それをもっと早く、もっと広くできないかということだったようだ。その回答期限が今月末で、そのための関係者による最終会議が開かれていたんだ。
Aさんへえ、センセイはそれを知っていて様子を見にいったんですね。
H教授マサカ。そんな修羅場があるなんて知ってたら、「おーい、元気かあ。飲みにいくか」なんて電話できなかったよ。
Aさんそりゃあ、電話された方はメイワクだったでしょうねえ。
H教授で、ようやく沖合い3kmまでの海域管理計画を3年以内に策定するってことで基本合意が得られたとのことだ。夏には登録の可否が決まるらしい。
東北海道地区自然保護事務所は、知床の自然遺産問題のほか、釧路湿原の自然再生事業【7】なども所管していて、毎晩深夜まで残業でたいへんらしい。アタマが下がる思いだったよ。
でも情報公開しつつ、ひざ詰め談判で自治体や漁業者団体などの地元合意を取り付けるという手法は、今後の国立公園管理にも生かせると思うよ。
Aさん同じ役人でも大阪市とえらい違いですね。
H教授キミ、またマスコミの論調にそのまま乗ってるな。
Aさんだってカラ残業でしょう。それに変な手当てもいっぱいあるというじゃないですか。
H教授残業時間管理をしてないだけじゃないの。カラ残業の人もいるだろうけど、それ以上のサービス残業しているひともいっぱいいると思うよ。
給料が高いだとか変な手当てがあるったって、新聞社やテレビ局の社員や銀行員の給料とは段違いだもんなあ。
国だって大都市は物価が高いからっていって、大都市手当てなんてのがあって、ボクも恩恵に与かったけど、これもちょっと考えるとおかしな制度だ。でも、こちらの方は誰も何も言わず、大阪市だけがスケープゴートになっちゃってる感じだな。
ま、景気の悪いときは役人叩きをしておけばいいって、庶民の劣情に媚びたって気がするなあ。もちろん役人の側もおかしなところは直さなければいけないけど、役所を叩くなら、まず垂れ流しの公共事業だとか赤字三セクだと思うよ。
Aさんこの話をしだすと止まらなそうだから、やめましょう。
で、北方四島は見ました?
H教授ああ、吹雪の翌日からいい天気で、納沙布岬から間近に歯舞群島や国後島が見えたよ。もう半ば忘れられた存在になったムネオさんを思い出した。
Aさんムネオさん? あの逮捕された元衆院議員の鈴木宗男サンですか。
H教授うん。
北方四島については一括返還か二島先行かという議論があるのは知ってるよね。
Aさんええ、政府の公式見解は一括返還。鈴木宗男サンは二島先行論だったんですよね。それが失脚の遠因なんですか。
H教授ムネオさんは二島先行論者だと思われていたけど、じつはそれは単なる建前で、本音は返還無用論者だったらしい。返還そのものも不要だし、返還なんか受けたらかえってお荷物になる、それよりは漁業の安全操業という実を取った方がいいし、そのために援助するんだとオフレコで言ったのが明らかにされて、それが政府与党の逆鱗に触れたんだと思うよ。
もちろん、援助そのものでムネオさんが潤うという構造があったんだろうけどね。
Aさんそんなこと言ったんですか。それじゃ売国奴と言われても仕方ないじゃないですか。ほんと、日本人として許せないですね。
H教授でもムネオさんがオフレコで言ったことは傾聴すべきだと思うよ。
Aさんセンセイまでなんですか。ワタシ授業で習いました。国家の存在意義は領土の保全と国民の安全の確保だって。
H教授ふうん、じゃ竹島とか尖閣諸島も取り返すべきだとキミは言うの?
Aさん当然じゃないですか。なにを言ってるんですか。
H教授別に人も住んでないし、たいした資源もないよ。
Aさんそれが国家としてのレゾンデートルなんです!
H教授やれやれ、竹島問題も揺れてるし、中台でも反国家分裂法で揉めている。領土問題は昔から躓きの石だよね。
でもねえ、まともな政治家なら、竹島・尖閣諸島を取り戻せなんて、誰も真剣には思っていないんじゃないかな。だけどそんなことは金輪際口に出せない。「国家」という共同幻想はそれだけ根深いんだろうな。
100年前だったら、人が住んでなくて資源もないところなんて、日本も中国も韓国も関心を示さなかった。そもそも、「わが国固有の領土」なんて発想自体がなかったと思うよ。つまり、キミの言う国家概念とは近世の欧米で生まれた産物なんだ。具体的には領海とか専管水域とか排他的経済水域だとかが言われ出してからのね。
Aさんそんなこといったって...。
H教授沖の鳥島という小さな岩礁があるだろう。激しい波浪で崩壊して、水面下に沈んでしまう恐れがあるからといって、排他的経済水域維持のために、毎年2億円をかけてコンクリートで補強工事をしてるんだ。なんか悲しい滑稽さだね。鳥も魚も国境なんて意識してないし、それが自然なんだ。
「国家」とは、真の共産主義者なら遠い将来死滅すべきものだというし、アナーキストなら直ちに廃絶すべきものだと言う。ムネオさんが意識していたかどうかは別にして、そういう国家概念の虚妄を見事に衝いたわけだ。それが、失脚につながったとしたら、皮肉だよね。
Aさんだけど、北方四島には人が住んでたんだし、今も住んでます。地下資源だってあります!
H教授北方四島に関して言えば、発言権が一番あるのは日本でもロシアでもないよ。「固有の領土」なんて概念ができる前から住んでいて、追い払われたアイヌの人たちだと思うよ。彼らは先祖が眠る北方四島の自然を守ることが先決だというんじゃないかな。
Aさんほんとセンセイってへそ曲りですね。でも北方四島が環境行政と何の関係があるっていうんですか!
H教授ひとつは政治と行政の関係を見るってことだね。環境行政と環境政治はいかにあるべきかを考える材料になる。
北方四島に関しては、全島を環境保全と住民のエコロジカルライフ、つまり循環、共生、参加、国際的取組という環境基本計画の4つのキャッチフレーズを実践する「日ロ・アイヌ国立公園」にする。
そして、ロシア住民と日本の旧島民、そしてアイヌの代表による委員会が管理する。
もちろん必要な資金は、無条件に日ロ両国が負担する。
──ってのは、どうかな。気宇壮大だろう。
Aさんばっかばかしい。いい歳をして。
H教授キミキミ、キミの修論がパスできるかどうかはぼくの胸三寸にかかってるんだから、口は慎むように。
Aさんアカハラじゃないですか!(編註:「アカハラ」は、アカデミック・ハラスメントの略称)
どうでもいいですけど、センセイの言ってることはリアルポリティックスから離れた、まったくの空論ですよ。
H教授そんなのわかってるよ。現実の場面では国益が前面に出てくるのは当然だし、ボクが政治家だったらやっぱりそうすると思うよ。だけど、それだけでいいのかっていう思いを、いつもどこかで考えてべきなんじゃないかな。
Aさんはいはい、土産話はその程度にして、ほかの話題にいきましょう。
愛知万博に思う
H教授愛知万博、通称「愛・地球博」がオープンした。テーマは「自然の叡智」だ。キミは行くの?
Aさんええ、もちろん行きたいです。だからエスコートしてくれる「白馬の騎士」、ホワイトナイトを探しているの。
H教授ホワイトナイト? ホリエモンVSフジ・サンケイグループ騒動で出てきたコトバだなあ。でも意味がわかって使ってるのかなあ。
Aさんそんなのどうでもいいんです。響きがいいじゃないですか。
ただねえ...。
H教授うん、どうした?
Aさん「愛・地球博」なんて言ってるけど、要は景気浮揚、地域振興のための万博誘致というのが先行して、“環境”とか“自然の叡智”なんてテーマは後から考えたものでしょう。おまけに海上の森問題だとか、跡地で考えた新住事業のインフラ整備に利用しようとしたとか、いろいろあったから、ちょっと抵抗あるんですよねえ【8】。
H教授そんなの気にする方がおかしい。自治体は地域振興を第一義的に考えるのは当然だ。民間企業が儲けを第一義的に考えるのと同じだもん。結果として環境保全に資すればいいんだ。政治家は人柄がよくても政策が悪ければなんにもならない。政治とか行政は、すべて結果責任なんだ。
Aさんそうなんですかねえ。
H教授そうじゃないのは趣味の世界。ボクだって環境役人になったり、大学で環境を教えているのは第一義的には食うためだもの。食うためだからこそ、プロであり、プロだからこそ、ある種の責任が生まれ、途中で投げ出すことが許されないんだ。
Aさんそうか、信念や善意だけじゃダメなんだ。地獄への道は善意で敷きつけらめれているか...。
H教授お、気の利いたセリフ知ってるじゃないか、マルクスだな。
ただ、愛・地球博でボクが気にしているのは、これに投じた資源やエネルギー、オカネが長期的に見て回収できるだけの結果をもたらすかどうかなんだ。
Aさん回収って?
H教授この博覧会を見て、どれほどライフスタイルが変えられえるだけのインパクトが与えられたかどうかだ。
Aさんそんなの計算できるわけないじゃないですか。
H教授だけどほとんどの人が「ふーん」と見るだけで、なにも変わらないんだったら意味がないということになる。もちろん入場料がばんばん入って、それで結果として黒字になって、環境保全事業に充当できるならそれでいいんだけどね。
でも新聞なんかで見る限りは、技術楽観主義へ人々を赴かせる危険性があるように思う。水素化社会への過剰期待なんかだよね。
Aさんでも技術革新は必要でしょう。
H教授そりゃそうだけど、それに寄り掛かってしまったらダメだと言ってるんだ。物理的・経済的欲望を自制しつつ、精神的に充足した生きかたを模索する意識を醸成できるかどうかだ。
Aさんそういう展示もあるみたいですよ。
H教授でも一方じゃあ、弁当持込禁止だとか、コンビニでもお握りのような安価なものは売ってないらしいよ【9】。明らかに「愛・地球」だとか「自然の叡智」とかいうテーマに逆行しているし、見直すべきライフタイルと反対方向へ行っているような気がする。
Aさんところでセンセイは行くんですか。
H教授いまのところ予定はない。それに大阪万博、つくば科学博、沖縄海洋博にも行かなかったから、これだけ行くってのもなあ。
Aさん(呆れて)えー、なんでですか。
H教授お祭りや人ごみはあまり好きになれない。だからTDL(東京ディズニーランド)だってUSJ(ユニバーサルスタジオ)だって行ったことがないんだ。
Aさん!!(絶句)
国会提出法案概説
H教授ところで、国会で審議されている法案に少し触れておこうか。
Aさん環境省提出法案は何本なんですか。
H教授5本だけど、1本は前講で紹介した地方環境事務所設置に伴う環境省設置法の改正【10】だからパスしておこう。
Aさんで、あと4本のうち、2本はごみ関連と温暖化関連ですね。
H教授うん、温暖化対策法を改正して、事業所ごとに温室効果ガスの排出量の公表を義務付けるというものだ。インベントリー整備の一環だね。
AさんPRTRのように、自主削減措置の強化を期待するわけですね。
H教授それだけじゃない。おそらく将来は国内の排出権取引制度もできると思うんだけど、その基礎づくりの意味があると思うね。
Aさん「京都議定書目標達成計画【11】」とか環境税【12】の方はどうなってるんですか。
H教授昨日(29日)達成計画案が発表されたって新聞にでてた。なんとか折り合いがついたんだね。今日からパブコメを募集して5月に閣議決定という予定らしい。ただ追加的予算措置には言及していないし、環境税については「真摯に総合的に検討を進めるべき課題」としているだけらしい。今後とも水面下で厳しい調整というか折衝がつづくんだろうな。まあ想定された内容だけど新味がないな。
H教授産廃についての規制強化。2003年に発覚した岐阜市での大規模産廃投棄事件(約57万m2)、それに去年、中国・青島に「資源」として輸出した廃プラスチックに、再生できないものが混入していたという事件が起き、これに対応した改正だ。廃棄物処理法は、改正に次ぐ改正で継ぎはぎだらけになってしまい、プロ以外はわけがわからない法律になってしまった感があるね。もちろん規制強化は賛成だけど。
Aさんであとの2本は、どういうものなんですか?
H教授ひとつは湖沼水質保全特別措置法の改正【14】。都市近郊の湖沼は典型的な閉鎖性水域でなかなか水質が改善しないというので、水質汚濁防止法の特別法のような法律を20年前につくったんだ。それ以降も何回か改正して規制を強化してきたんだけど、それでも効果が捗々しくないというので、さらに規制を強化するというものだ。
今度の改正で、目新しいものとしては湖辺環境保護地区というものを導入し、水質浄化能力をもつ植物などの採取に届出義務を課そうとするものだ。公害対策にも、規制対策だけではダメで、生態系保全の視点を導入しようという動きが活発だけど、そのひとつだね。
Aさん水質浄化能力を持った植物として代表的なのは、葦ですね。確か琵琶湖では条例をつくってましたね【15】。
H教授そうそう。葦は富栄養化のもとであるN(窒素)やP(リン)を吸収し成長するし、葦原は小魚の産卵や生育、避難場としても貴重な存在なんだ。でも誤解されがちなんだけど、葦は保護するだけじゃダメで定期的に刈り取らなきゃいけない。
Aさんえ、そうなんですか。
H教授そりゃそうさ。放っておけば枯れて分解して、またNやPを放出する。だから刈り取った葦の活用法を考えないと、ごみの増大につながってしまう。昔は屋根を葺くのに使ったりしたんだけど、今じゃそんなことはしないからなあ。せいぜいヨシズくらいだろう。焼酎をつくるという話もあったけど、どうなったかなあ。
Aさんなあるほど。ライフスタイルもかかわってくるんですねえ。
H教授葦原だけじゃなく、藻場・干潟も含めた海、湖沼、河川の水際線周辺の保全・復元を行うスキームを全国的に考えなきゃいけないと思うよ。ところで、葦(ヨシ)は、「アシ」と読むこともある。もともとはアシだったんだけど、アシは「悪し」に通じるとして、ヨシ(善し)と読み変えるようになったなんて話しも聞いたことがある。真偽のほどはしらないけど。
Aさんへえ〜、どうでもいいような雑学だけは、よくご存知なんですね。
H教授うるさい。で、最後のひとつが、特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律【16】だ。これは新法だね。
公道を走らずに、工事現場や田畑で使用される特殊なクルマの排ガス規制を行うというものだ。
Aさんそんなの、負荷だってたかが知れてるでしょう。
H教授そうでもないらしいよ。普通のクルマが厳しい排ガス規制で締め付けられているのに較べると、台数ベースではわずかでも、負荷量ベースでは、NOxの4分の1、粒子状物質の8分の1を占めているらしい。
Aさんそれで今国会は終わりですか。
H教授(苦い顔で)うーん、超党派の議員立法で、例のサマータイム法案が提出されそうだ【17】。
Aさんいい機会じゃないですか。センセイも、ライフスタイルを変えなくっちゃ。
H教授放っておいてくれ!
だけどサマータイムを導入すれば、事前準備に相当の手間と莫大な費用がかかるんだぜ。一説では公的機関だけで年間1,000億円もかかるといわれている。そこまでしてやる意味があるかどうか...。
読者のお便り
Aさん(無視して)最後に、オオクチバス【18】についてお便りをいただいたので紹介しておきましょう。
「...さて、今回お便りさせていただいたのは、皇居の御濠における調査結果の解釈のことについてであります。皇居の御濠の調査結果に関しましては、『皇居のお堀でブラックバスが大繁殖して全体の7割〜8割を占めるとして大問題になっていましたが、実際に水抜して調査した結果、匹数割合で全体の0.59%しかいなかったことはあまり知られていない事実です』との指摘があったということですが、この指摘には重大な考察が2点抜けております。
1つ目として、掻い掘りが行われる前の1年間の間に計11回の駆除事業が行われてきており、掻い掘りは取り残しのオオクチバスを駆除するために行われているのであり、個体数としては当然少なくなることが予想されることです。ですからこれが“何も手を加えない状態”でのオオクチバスと在来種の個体数の実態を反映しているものとは考えるべきではありません。
2点目として、影響を考察するのですから個体数比で示すことに意味はなく、重量比で考察すべきでしょう。重量比に換算しますと、最後の掻い掘りの段階であるにも関わらず健全な状態であるとは言い難い結果になっています。詳しくは環境省特定外来生物選定会議第3回オオクチバス小グループ会合において...委員より提出された以下の資料に的確に指摘されておりますのでご覧いただければ幸いです。(皇居の御濠のデータだけではなく、他にもいくつかオオクチバスが問題である証拠が挙げられています)
以上に示しましたとおり、(先の指摘は)オオクチバスの問題性を認める発言であると言わざるをえないでしょう。」
H教授なるほどねえ。ボクが言うより説得力がある。
Aさんでも最近アンケートやお便りが少ないですねえ。センセイもワタシも、もうだいぶ飽きられてきちゃったのかな。
H教授仕方ないだろう。ボクだってキミにはもうあきあきしているよ。いまは春だけど(笑う──自分だけ)。
Aさんそれはこっちのセリフです。そういうおじんギャグにはうんざりだわ!
でもそれとこれとは話は別。読者のみなさん、アンケートに答えてくださいね。でないと、編集部から打ち切りの通達がくるかもしれません。
H教授いいじゃないか。ネタもだんだん乏しくなってきたから、別に打ち切られたって構わないんだけど。
Aさんだめですよ。センセイ、ますます勉強しなくなっちゃうじゃないですか。
H教授ひとのことより自分はどうなんだ。修士論文の見通しは立ったのか。
Aさん(聞こえないふり)ああ、もう4月ですねえ。サクラ咲くか...。
注釈
- 【1】自然公園
- 自然公園法(1957)に基づいて指定される、国立公園、国定公園、都道府県立自然公園を総称して、「自然公園」と呼ぶ。自然景観の「保護」と、自然ふれあいの増進による「利用」を目的として管理される。
- 【2】世界遺産
- 世界遺産条約に基づき登録されるもの。世界遺産リストに登録される“遺産”には、自然遺産と文化遺産及びそれらの複合遺産がある。
- 【3】世界遺産の話題
- 【4】日本の国立公園制度の問題点
- 【5】公有水面埋立法
- 【6】クジラの例
- 【7】釧路湿原の自然再生事業
- 【8】愛知万博について
- 【9】愛知万博での食べもの持ち込みについて
- 愛知万博での食べもの持ち込みについては、来場者からの苦情が殺到したため、食中毒対策などに配慮し、かつ、テロ対策として禁じているペットボトルや缶、ビン入りの飲み物を除いて、持ち込みを解禁する方針を固めたと、3月30日に万博協会より発表された。
- 【10】環境省設置法の改正
- 【11】京都議定書目標達成計画
- 【12】環境税
- 【13】廃棄物処理法
- 【14】湖沼水質保全特別措置法
- 【15】滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例
- 【16】特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律
- 【17】サマータイム法案について
- 【18】オオクチバス
この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
4月5日編集了
註:本講の見解はEICおよび環境省の公的見解とまったく無関係です。
筆者HP:http://www.eurus.dti.ne.jp/~hisatake/
※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。