一般財団法人環境イノベーション情報機構

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No.042

Issued: 2003.02.27

移入種(外来魚)一掃!皇居外苑で環境省が掻い掘り作戦を実施

目次
掻い掘り作戦の実施現場、「牛ヶ淵」
注目を集める移入種問題
皇居外苑の移入種問題
今回の「掻い掘り作戦」について
皇居外苑のお濠、牛ヶ淵にて投網で魚の捕獲調査(2003.2.27)

皇居外苑のお濠、牛ヶ淵にて投網で魚の捕獲調査(2003.2.27)

掻い掘り作戦の実施現場、「牛ヶ淵」

水が抜かれ干上がった牛ヶ淵(2003.2.27)

水が抜かれ干上がった牛ヶ淵(2003.2.27)

 今年、掻い掘り作戦を実施したのは、皇居外苑に13あるお濠のひとつ「牛ヶ淵」(東京都千代田区)。営団地下鉄の九段下駅から徒歩数分、北の丸公園に隣接し、上流側は田安門の土橋で「千鳥ヶ淵」につながり、下流側では清水門の土橋が「清水濠」と分けています。古い文献には、銭貨を載せた牛車が落ちて、ついにあがらなかったことが「牛ヶ淵」の名前の由来とも書かれている例もみられます。

 皇居外苑のお濠の水が抜かれるのは、1973年の「凱旋濠」の掃除以来30年ぶりのことだとか。2月25日(火)に、下流の水門を開放すると、下流側の「清水濠」にヘドロ混じりの水が流れ込み、みるみる水位が下がっていきました。

 牛ヶ淵は面積約1万6,000平方メートル、水深は約1.5メートルでほぼ平ら。大きさや水門の位置などから水が抜きやすく、また作業資材の置き場も確保できるなど好条件が重なり、掻い掘り作戦の実施現場として選ばれたとか。ここで水底状況や魚の捕獲方法の適性などに関する知見を得て、今後の皇居のお濠全体の管理体制等について検討していくための材料を得る、そのための予備調査というのが今回の作戦の位置づけになるそうです。
 実は、昨年度には最下流の「日比谷濠」に隣接する「凱旋堀」で掻い掘り作戦を実施しようとしたとのこと。ところが、水門の位置が高すぎたことや、作業ヤードのスペース確保ができなかったことなどから断念。濠の条件はそれぞれ異なり、牛ヶ淵での知見がそのまま生かせるわけではないものの、在来種・移入種ともその生息状況の実態把握や、掻い掘りの効果などもわかっていない現状で、実施の意味は小さくはありません。


注目を集める移入種問題

 移入種問題は、近年、生物多様性保全の観点から大きな注目を集めています。

 持続可能な地球環境の保全が世界的な課題となる中で、移入種問題は生物多様性保全のために解決すべき最重要課題のひとつとして、国際的にも認識が高まってきています。
 1992年にブラジルのリオ・デジャネイロで開催された「地球サミット(環境と開発に関する国連会議/UNCED)」で採択された生物多様性条約でも、第8条に移入種(外来種)に関する締約国の義務規定が記されています。2002年4月にオランダのハーグで開催された第6回締約国会議では、「生態系、生息地、種を脅かす外来種の予防、導入、影響の緩和に対する指針原則」が採択され、締約国での移入種(外来種)への対応が求められるようになっています【1】
 また、国際的な自然保護の連合団体である「国際自然保護連合(IUCN)」の「種の保存委員会(SSC)」は、2000年2月に「外来侵入種による生物多様性喪失防止のためのIUCNガイドライン」をまとめ、2001年には「世界の外来侵入種ワースト100」を発表しています。

 国内でも、環境省が2002年3月に閣議決定した「新・生物多様性国家戦略」において、生物多様性の問題点を、

  1. 種の減少・絶滅、生態系破壊の危機
  2. 里地里山など人間の働きかけにより成立してきた場での自然の質の変化、動植物減少
  3. 移入種による日本固有の種への影響

 の「3つの危機」として整理している【2】ほか、2002年8月には移入種(外来種)に関する対応方針をまとめ【3】、この中で移入種の概念や生物多様性に対する影響の現状、予防策についての考え方、実施すべき調査・研究・モニタリングの内容、定着した種の管理や問題についての普及・啓発などについて整理したのと併せて、国内移入種を網羅したリストを作成し、公表している。
 独立行政法人国立環境研究所でも、海外で分布域を広げ悪影響を及ぼしている動植物種で、日本に侵入して定着する可能性のある約100種の危険侵入種(移入種)に関するデータベース作成に着手しています。

 また、日本生態学会が外来動植物2,000種のうち、生態系への影響が特に深刻な種を「侵略的外来種ワースト100」として選定・発表しています(2002年9月)【4】

 一方、専門家外の一般市民には、むしろ釣りなどのレジャーやペット飼育の後始末とのかかわりや、駆除にまつわる動物愛護の観点などから大きな関心を集めているといえます。

 レジャー・フィッシングの普及とともに在来種への影響が顕在してきているブラックバスの放流等にかかわる諸議論、またペットとして飼育されていたアライグマなどが捨てられ野生化し、定着することで及ぼす在来種への影響、野生化タイワンザルと在来のニホンザルの交雑個体が発見され、全頭捕獲・安楽死というショッキングな対応が報道され議論が紛糾した和歌山混血ザル問題、毒蛇のハブを退治するために導入されたもののハブではなく日本固有の希少種で絶滅が危惧されるアマミノクロウサギ(奄美大島)やヤンバルクイナ(沖縄島北部)などが捕食されているマングース問題、さらには小笠原の離島で放棄されたものが野生化・繁殖して個体数が激増し、島内の草を食べ尽くすなど甚大な影響を及ぼしたため捕獲・排除されたノヤギ問題などなど、多くの問題が報道され、話題を呼んできています。

 中でも、在来種の小魚や稚魚を食べ荒らし、内水面の生態系に著しい影響を与えるため、各地で議論を呼んでいる北米原産のブラックバス(オオクチバス・コクチバス)やブルーギルの移入種(外来魚)問題は、再放流禁止にかかわる規制や罰則、また大々的な駆除作戦の実施などの取り組みも検討・実施され、多くの人の注目を集めています。


皇居外苑の移入種問題

 国内各地で話題になっている移入種問題、皇居外苑のお濠でもかねてから問題になっていました。
 環境省自然環境局皇居外苑管理事務所によると、皇居外苑のお濠には、江戸時代からの歴史的自然である在来種としてジュズカケハゼやモツゴ、ヨシノボリなどが生息しています。
 1975年から概ね10年ごと(1993年以降は5年ごと)に実施されてきた皇居外苑濠の魚類相調査では、1975年の調査でオオクチバスの生息が、また1984年の調査でブルーギルの生息が確認されましたが、当時の捕獲割合は約2割以下とのことです。これが、1998年の調査では13濠中の8濠でブルーギルおよびオオクチバスの移入が確認され、しかもその捕獲割合の平均はオオクチバスで2%、ブルーギルは83%にのぼるなど、移入種(外来魚)の生息数の急速な増加が目立ってきていました。翌1999年および2000年にフォローアップ調査を実施した結果、8濠平均の捕獲割合が、1999年のブルーギル89%、オオクチバス1%、2000年のブルーギル78%、オオクチバス5%となり、2001年度からの皇居外苑濠移入種対策事業として5ヶ年計画が実施されることになりました【5】


今回の「掻い掘り作戦」について

投網で捕獲された、在来種のモツゴ(左)と移入種のブルーギル(右)

投網で捕獲された、在来種のモツゴ(上)と移入種のブルーギル(下)

 2月25日(火)からはじまった、今年の掻い掘り作戦では、27日(木)に投網・地引網による捕獲調査をおこない、これを受けて明けて3月3日(月)の週から本格的な魚類捕獲調査を行う予定とのことです。
 取材に出掛けた27日(木)の午前中には、投網を2回、地引網1回で、合計60余のモツゴと、ブルーギル12個体が捕獲できています。現在の水深は、場所により異なるものの、捕獲エリアでは約40cmほど。水底はどす黒いヘドロで埋まり、気温が上がるとともに特有のヘドロ臭も漂ってきていました。網にかかる魚もヘドロの中から見つけ出すような状況です。

 今回の捕獲では、思いのほか移入種(外来魚)のブルーギルが少ないようにも思われました。聞くと、既に昨年夏から投網や刺し網、地引網、カゴワナなどの方法を駆使して駆除対策に乗り出してきていたとのことです。まだまだ水も多く残っているためいないことはないだろうから過大な評価はできないものの、この1年間に取り組んできた駆除作戦がある程度の効果をみせているともいえるわけです。秋には、夏にふ化したブルーギルやブラックバスの稚魚もだいぶ捕れたとのことでした。

 捕獲した魚は、在来種については移入種の入り込んでいない濠に離し、一方ブルーギルなどの移入種は事業に協力する東京水産大学に持ち込まれ、胃の中身などを調べられます。

 今後、週明けにはさらに水を落として徹底的な捕獲を行う予定とのことです。事業担当者によると、水位が下がると堆積したヘドロのために網が使えなくなり、いわゆる「見つけ捕り」ともいわれる、跳ねる魚を個々にタモ網などで掬い取る地道な方法に頼らざるを得ないとのこと。
 今回の駆除作業により他の濠での捕獲等に関する知見を得るとともに、徹底駆除後に年を経てどのような個体数推移が見られるかなどを追跡していくことも目標のひとつとなるとのことでした。


引網で魚を捕獲する/岸辺側(2003.2.27)

地引網で魚を捕獲する/ボート側(2003.2.27)


【1】環境省報道資料
生物多様性条約第6回締約国会議の結果について
【2】首相官邸
新・生物多様性国家戦略
【3】環境省
移入種(外来種)への対応方針
【4】日本生態学会の対応
日本生態学会HP
外来種ハンドブック(地人書館HPより)
【5】皇居外苑濠の移入種対策について
環境省報道資料 皇居外苑濠移入種対策事業の実施について(平成13年9月11日)
ブルーギル増え、本来の魚類相ピンチ 皇居外苑濠での移入種対策実施へ

(記事・写真:下島寛)