一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.034

Issued: 2002.10.03

『欧州モビリティ・ウィーク』報告マイカーから、徒歩・自転車・公共交通機関等へのシフトを目指す

目次
「モビリティ・ウィーク」って何をするの?
ジュネーブでの「欧州モビリティ・ウィーク」
クライマックスは「カー・フリー・デー」
1日かぎり、1週間かぎりのイベントでなく
道路が自転車レース場に大変身(ジュネーブ)

道路が自転車レース場に大変身
(ジュネーブ)

 私たちの生活を便利にしてくれる自動車。しかし、一方で、大気汚染や騒音、交通渋滞、路上駐車など様々な影響が生じていることも事実です。こうした問題に悩んでいるのは日本の都市ばかりではありません。大量の交通量が集中する欧州の諸都市でも事情は同じです。
 そこで生まれたアイデアが、まずは1日、街中の一部を車の入れないエリア(カー・フリー・エリア)とし、市民に徒歩や自転車、公共交通機関を試してもらおうという試み、いわゆる「カー・フリー・デー」です。今年から、欧州では、この取組をさらに1週間に拡大し、「欧州モビリティー・ウィーク」をスタートさせました。
 今回は、国際都市、スイスのジュネーブからの現地報告を交え、「欧州モビリティー・ウィーク」についてお伝えします。

「モビリティ・ウィーク」って何をするの?

 「モビリティ・ウィーク」は、移動方法を見直そうというキャンペーン週間です。街の中の移動手段は、個人の車だけではありません。バスや電車といった公共交通機関もありますし、さらに、自転車やローラー・スケート、キックボードなど「ノー・モーター」の様々な方法があります。大気汚染や騒音を減らし、人々の生活の質を向上させることができるような、持続可能な方向に移動手段をシフトさせていこうというのが「モビリティ・ウィーク」の趣旨です。
 もともと欧州では、毎年9月22日を「カー・フリー・デー」と決め、「街中ではマイカーなしで」をキャッチフレーズに、車に乗らない生活を実験してみようという試みが行われてきました【1】。この日、欧州の諸都市では、市街地の中心部にカー・フリー・エリアを設置し、公共輸送機関を無料にするなど様々なチャレンジを行ってきました。この取組は世界中に広がり、昨年には1,300以上の都市が参加するまでに。この成功を受け、今年4月、欧州委員会は、1日限りではなく、1週間にわたってキャンペーンを実施する「欧州モビリティ・ウィーク」の設置を決定しました。
 「欧州モビリティー・ウィーク」は、「カー・フリー・デー」までの1週間、つまり9月16日から9月22日までになります。日によって異なるテーマが設けられており、例えば、9月16日(月)は公共輸送機関の日、18日(水)は自転車の日、20日(金)は家族や子供に配慮した移動手段の日となっています。そして、22日は例年どおりの「カー・フリー・デー」。なお、参加都市は地域の状況に応じて、テーマを追加したりすることもできます。
 今年、「欧州モビリティー・ウィーク」には、パリ、ブリュッセルなど欧州の300都市が参加。「カー・フリー・デー」には、今年も世界中の1,300以上の都市が参加しました。


ジュネーブでの「欧州モビリティ・ウィーク」

 国際都市として知られるスイスのジュネーブも、新たに始まった「欧州モビリティ・ウィーク」に参加しています。ジュネーブは、もともと1998年から「カー・フリー・デー」に参加しているので、こうした試みには5回目の挑戦となります。
 スイスの都市でも、自動車による大気汚染は深刻な問題となっており、大気汚染による疾病や死亡の53%は交通に起因するものとなっています。スイスでは、子供のぜん息症例のうち約12,500件、大人のぜん息症例の約33,200件が、交通に起因するものだとされています【2】
 こうした中、ジュネーブ市では、「環境と健康」を重要なテーマの一つとしてモビリティ・ウィークに取り組みました。個人個人の車の利用が減れば、大気汚染や騒音の被害が減るというのも一つですが、車に乗らずに歩いたり、自転車に乗ったりすれば、健康もアップし、一石二鳥だというのが今年のポイントです。「あなたの健康のためにも1日30分の運動を」とアピールして、車から降りましょうというわけです。ジュネーブ市では、交通手段の問題としてだけでなく、より広い意味でライフスタイルを見直していこうという姿勢が伺えます。
 「モビリティー・ウィーク」一週間を通した試みとして、情報コーナーが設置され、レンタサイクルも増設されました。情報コーナーは、市内数カ所に設置され、「環境と健康」に関する資料や「カー・フリー・デー」のイベント案内、市内のウォーキング・マップ、レンタサイクルの案内などを配付していました。ジュネーブ大学の前の情報コーナーには、市の職員が常駐し、市民からの質問に応じていました。また、ジュネーブには、赤十字、州、市、環境団体及び企業などが協力して設立したレンタサイクル機関「GENEV'ROULE」があるのですが、モビリティ・ウィーク中はこのスタンドが増設されました。
 さらに、曜日ごとのイベントとして、9月18日は「自転車の日」として、子供を中心にした自転車パレード、9月20日には地元の学校が参加した絵画展などがありました。子供自転車パレードは各町内会による試みでしたが、子供達は自転車だけでなく、ローラー・スケート、キックボードなどいろいろな移動手段を楽しんでいました。特段、交通規制もされていなかったため、自動車交通量はいつもどおり。その中を、色とりどりの風船で飾った100台以上の自転車が横切っていく様は、自動車利用者にとって実にインパクトのある光景でした。

「モビリティ・ウィーク」情報提供ブース

「モビリティ・ウィーク」情報提供ブース

子供自転車パレード 道路を横断中。

子供自転車パレード 道路を横断中。


* TOKYOカーフリーデーの活動

日本でも、カーフリーデーの実施に向けた取り組みがあります。2年前に世界と並ぶ9月22日にあわせて開催された「TOKYOカーフリーデー2000」では、さまざまな団体・組織の参加による実行委員会の結成によって実現しました。「カーフリーデー」について知ってもらい、都市交通問題への関心を広めていくことを目的としたものです。昨年からは、欧州カーフリーデーの協賛都市としても登録されているそうです。
その成果や、欧州のさまざまな都市で実施されてきたカーフリーデー関連イベントの紹介、参加都市の実行組織のために作成された「欧州カーフリーデーマニュアル」の翻訳紹介などが掲載された雑誌「車は家でお留守番 〜カーフリーデー実施マニュアルガイド」(NPOレインボーパレードの機関誌「RAINBOW」のVol.3として発行、さんが出版より1,000円で発売)も発行されています。
今年も、9月22日・23日に、都立代々木公園の一画で、カーフリーデーの実現について考え、議論する円卓会議が実施されました。(下島)

クライマックスは「カー・フリー・デー」

「会場」図 黄色の道路が封鎖される

「会場」図 黄色の道路が封鎖される

 欧州モビリティー・ウィーク」の最終日は「カー・フリー・デー」。ジュネーブでも、市内中央部に車の入れない「カー・フリー・エリア」が設置され、様々な催しが行われました。
 「カー・フリー・デー」のメインは、マイカー以外の代替移動手段を試してもらうこと。今年はレンタサイクルに加え、ローラー・スケートの貸し出しもありました。また、例年、「カー・フリー・デー」には公共交通機関(路面電車、トローリバス、バス、そして湖をわたる船も)やパーク・アンド・ライド用の駐車場が無料になります。ジュネーブ市内は公共交通インフラが充実しており、バスの路線も市内を網の目のように走っています。バスレーンも厳しく管理されているため、朝のラッシュ時てもバスの走行はスムーズ。こうした公共交通機関のよさも体験してもらおうというわけです。


ここから先は「カー・フリー・エリア」。フリー・マーケット開催中

ここから先は「カー・フリー・エリア」。フリー・マーケット開催中

 「カー・フリー・エリア」の中では、自転車レースやコンサートなど路上の広い空間を活かしたイベントが開催されました。今年のカー・フリー・エリアは、日曜日ということもあり、休日を過ごす人で賑わうレマン湖畔沿いの通りとジュネーブのダウンタウンの一部(パキ地区)になりました。警察や商店街が協力して道路を封鎖し、車の進入をストップ。土曜日、日曜日と2日間にわたって、ダウンタウンの路上が巨大なフリー・マーケットに変わりました。日曜日はより広い範囲の道路がブロックされ、親子連れが自転車やローラー・スケートをのびのびと楽しんでいました。普段は自動車のための道路が、人々のコミュニケーションやレクリエーションの場に変身するのも、このイベントのユニークな点です。
 また、エリア内には環境NGOや国際機関、州や市のブースも並び、市民が熱心に質問したり、資料をもらう姿もみられました。今年は、「環境と健康」というテーマにそって、体脂肪率や運動能力などの健康チェックコーナーも人気でした。体脂肪率が高めだと「運動しましょう、もっと歩きましょう! 自転車もいいんですよ」という厳しい指導が。。。


 そしてもう一つ、今年の会場で人気を集めたのは、地場産の農産物を使った特設レストラン。地域で生産されたものを、地域で消費すれば、余分な輸送エネルギーをカットすることができるというわけで、ジュネーブ市は独自に、重点プログラムの一つとして「地域農業」を取り上げていました【3】
 レストランのおばさんも「ソーセージも野菜も、全部ジュネーブ産よ」と誇らしげ。農家が地場産の野菜、果物、花、ワイン(ジュネーブはおいしいワインの産地でもあります)、チーズなどを販売する産直市場も開催され、賑わっていました。

自転車で訪れる人も多かった

自転車で訪れる人も多かった

全部、地場産の野菜だよ! ちなみにここも元は道路

全部、地場産の野菜だよ! ちなみにここも元は道路


1日かぎり、1週間かぎりのイベントでなく

ジュネーブの公共交通機関。左からバス、トロリー・バス、路面電車

ジュネーブの公共交通機関。左からバス、トロリー・バス、路面電車

 今年は、地元の新聞で取り上げられたこと、また、午後から天気が回復したこともあって、かなりの人出となりました。日曜日には郊外に出かけてしまった市民も多かったようですが、「カー・フリー・デー」の会場も昨年以上の盛り上がりを見せていました。
 ただし、「カー・フリー・デー」も「モビリティ・ウィーク」も、1日限り、あるいは1週間限りのお祭りとして、「面白かった」で終わってしまうのではもったいない。例えば、今年、ジュネーブの一連のイベントで提示されたのは、ヘルシーで地域に根ざしたエコロジカルなライフスタイルです。
 毎日運動がてら通勤通学でよく歩き、公共交通機関を利用し、食事には地場産の新鮮な農産物を取り入れて、休日はサイクリングや散歩。。。幸い、ジュネーブには、こうしたライフスタイルを続けるのによい条件がそろっています。路面電車やバスなど公共交通機関はよく整備され、自転車道や歩道、そのマップも充実しています。そして何よりも、街がさほど大きくなく、コンパクトであること。市街地のすぐそばに田園地帯が広がり、新鮮な農産物を買うこともできます。あとは、一人一人がこうしたライフスタイルを続けていけるかどうか。「欧州モビリティ・ウィーク」の効果が持続的なものとなるのか、今後が注目されます。


【1】カー・フリー・デー
この取組は、1997年にフランス北西にあるラ・ロシェルという町から始まり、翌年にはフランス全土、欧州各地に広がりました。カー・フリー・デー発祥の地、フランスでは、もともと、そして現在でも、"En ville, sans ma voiture"(街中ではマイカーなしで)の日と表記されており、欧州のフランス語圏(ベルギーやスイスの一部など)でもこのように表記されています。「カー・フリー・デー」はこれを英語に通称化したものです。
【2】データ
ジュネーブ市パンフレット「健康と移動」より
【3】
バーゼル大学予防医学研究所(ISPM)によれば、スイス地場産のアスパラガスは、アメリカからの輸入物に比べて、輸送エネルギーが大幅に少なく、これに伴って排出されるCO2の量も10分の1以下ですむとされています。(バーゼル大学予防医学研究所「健康と環境」p.14)
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(記事・写真:源氏田尚子)

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