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H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.084

Issued: 2010.01.19

第84講 2010年新春呆談 ―― 平成維新のその先は?

目次
またも先送りか ─COP15
平成維新論―付:江戸時代論

Aさんセンセイ、明けましておめでとうございます。

H教授ああ、オメデトウ。今年こそ、修士論文にメドをつけろよ。

Aさん(顔を顰めて)ハイハイ、センセイこそセクハラでクビにならないようにしてくださいね。あ、そうか、センセイ、年末に喜寿になられたんですね。もうそんな娑婆っ気のない歳になったんだ、可哀想に。

H教授放っておいてくれ。大体、喜寿って誰の話をしているんだ。

Aさんえっ、だって65歳になられたんでしょう。四捨五入で70歳じゃないですか。

H教授喜寿は77歳、70歳は古希というんだ。ホントに教養のない奴だな。

Aさんあれえ、確か、センセイのブログにそう書いておられましたよ。
ぷっ、誰かに、間違いを指摘されたんですね。

H教授(聞いていない)ついでに言っておくと80歳が傘寿、88歳が米寿、90歳が卒寿、99歳が白寿だ。まだあるぞ。119歳が頑寿、120歳が昔寿、そして天寿はなんと250歳だ。

Aさん都合の悪いことは聞こえないんですね。便利な耳だこと。
2010年は多様性COP10の年ですけど、まずは先月の総括をしておきましょう。
COP15も終わりましたし、来年度の予算案も固まりました。普天間基地の問題だとか、他にもいろいろあります。


H教授普天間の話【1】は半年待とう。政治は善意でも正義の志でもない、結果責任なんだ。
政府間合意をひっくり返すことは無責任なうえ不可能で、愚挙だという評価が一般的だが、ネットなどを見ていると、米軍は別に沖縄に駐留したくて駐留しているんではなくて、日本官僚がお願いして駐留してもらっているんだなんて説もある。
グアム移転なんて話が万一うまくいけば、鳩山サンの評価は一気に稀代の名宰相ということになる。そうなる可能性は低いとは思うが、完全にゼロではないかもしれない。

Aさんそういえば鹿児島の馬毛島に移転を唱える人もいましたね。

H教授朝日新聞の投稿だね。面白いとは思うが、ボクは馬毛島のことには無知だから、評価は控えておこう。


またも先送りか ─COP15

AさんCOP15の総括をしましょう。情けない結果でしたね。

H教授まあ、ボクはもともと悲観論者=ペシミストだから、想定の範囲内だな。

Aさんひとりで納得しないでください。大体、悲観論者っていうけど、センセイの生き方見てると、随分と能天気で楽天的なような気がするんですけど。

H教授そりゃ、その方が楽しいもの。ボクは陽気なペシミストなんだ。まずい結果に終わっても、自分の予測が当たったって誇らしげに思えば、不幸も少しは和らぐじゃないか。

Aさん予想が外れて、意外にいい結果に終わった場合は?

H教授それこそ素直に喜べばいいんだ。

Aさんなんだか、訳わかんないなあ。ま、いいか、それでCOP15の中身の話をしてください。


H教授まず、結論。コペンハーゲン合意というんだけど、この合意では、途上国への資金支援を除いては、定量的なことは、何一つ謳っておらず、すべてメキシコのCOP16に持ち越した【2】
長期目標、つまり、世界全体の2050年での削減目標については、科学の要請に基づき大幅削減するとしたのみ。先進国における2050年の削減目標についても記述はなし。

Aさん「科学の要請に基づき」ってどういうことですか。

H教授正確に言うと、「気温上昇は2度を超えるべきでないという科学的な見地を認識し」ということだ。IPCCの見解では、そのためには2050年までに全世界でGHG排出量の半減が必要とされているから、遠回しに全球半減ということを仄めかしているという見方もできる。

Aさんじゃ、そうはっきり書けばよかったのに。

H教授だから、それができなかったんだよ。あとコペンハーゲン合意では、中期目標、つまり2020年については、先進国は総排出量の削減を約束している。どの程度の削減かは各国の自主判断に任せるんだけど、今月中に各国の総排出量の削減目標をリスト化するということになった。


Aさんなんだか経団連の「自主行動計画」に似てきましたね。途上国の削減についてはどうなんですか。

H教授これはもっとあいまいだ。途上国については、各国が総排出量の削減計画でなくても、単位GDP当たりの排出量削減率等のなんらかの定量的な削減計画を定めるとした。だから削減計画とは言いつつ、総排出量が増えることもあり得る──というか、ほとんどそうなるだろう。そして、やはり今月中にリスト化されることになった。
この削減計画の取り組み状況について国際的な検証を受け入れるかで揉めた。中国などが激しく抵抗したが、国際的な支援を受けた取組については検証を受け入れるということで、最後になんとか折り合いがついた。

Aさんふうん、で、あとは途上国への支援策ですね。

H教授うん、今年から2012年までの三年間で先進国は300億ドルを提供する。また、先進国は途上国に対して2020年時点では年1000億ドルの資金流通が可能になるよう努力するそうだ。

Aさんそのコペンハーゲン合意をCOP15の総会で承認したとか採択したというわけでもないんでしょう。なんだか、随分持って回った言い方でしたよね。


H教授うん、コペンハーゲン合意は主要20数カ国で立案したんだけど、190カ国のメンバーからなるCOP15の総会は、その「合意に留意するという決定を容認した」んだそうだ。日本政府の見解はこれを事実上の承認だとしている。

Aさんヘンなの。
じゃ、新たな議定書はCOP16まで先送りですね。京都議定書の延長ということはないんですか。

H教授コペンハーゲン合意では「COP16で、一つ、または複数の法的枠組を採択する」としている。だから、京都議定書の延長も大いにあり得る。米中は、日欧などは京都議定書の延長で、そして自分たち米中はまた別の枠組でなどと考えているのかもしれない。

Aさんピークアウトについてその「合意」ではどう言っているんですか【3】
それに植林はCDMの対象になっても、森林の減少防止は対象になっていないということに対しても途上国は不満を漏らしてますよね。

H教授ピークアウトだけど、途上国が減少に転じる時期は、先進国より遅くなるという当たり前のことしか言っていない。
あと、森林減少の防止や吸収源対策に資金が回る仕組みを作るとしている。


AさんCOP15が、明確なポスト京都のビジョンを作れなかったのはなぜなんですか。

H教授すでにCOP15の前哨戦段階で、途上国と先進国の歩み寄りが難しいことははっきりしていた。だから、COP15では、法的拘束力のあるポスト京都の新たな議定書を決めることは断念していた。そして、その代わり首脳級会合を開き、政治的な合意文書の採択を目指したんだ。

Aさんあの「合意」の内容なら、中国、インドなどの新興国だってOK、つまり「採択」にしたっていいんじゃないですか。

H教授そりゃあそうなんだけど、あの合意案は主要先進国や米国や中国を含めた有力な二十数カ国でまとめあげた妥協の産物なんだ。それに対して、温暖化の被害を真っ先に受ける島国や南米やアフリカなどの最貧国が怒った。

Aさん削減の具体策があまりにも乏しいからですね。

H教授それもそうだし、その原案づくりにそもそも参加すらできなかった、ということへの反発もあるだろう。
もはや途上国はひとつのグループじゃないんだ。事実、中国、インド、ブラジル、南アフリカの四カ国はBASICという新たなグループを発足させた。つまり新興国グループだ。中国は今年中には日本を抜いてGDP世界第2位になるだろう。最貧国と同じ「途上国」というコトバで一くくりにするにはムリがあるよ。

Aさんうーん、そもそもどのようにして、その合意文案は作られたんですか。


H教授国連作業部会というのが動いていて、ここがポスト京都の原案をまとめることになっていたんだ。だが、各国の主張の隔たりが大きすぎて、部会案は削減目標など定量的な事項については、両論併記というか、複数の選択肢を示すにとどまり、首脳級会合に舞台が変わった。
首脳級会合や個別折衝で調整が続けられ、COP15の期間中も揉めに揉めたんだけど、最終的には対立点はすべて棚上げ・先送りみたいな形にすることで「合意」ができたんだ。

Aさんその作業部会はCOP15で解散するアドホックなものだったのが、COP16まで存続することになったんですね。
ところで日本はCOP15でどんな活躍をしたんですか。

H教授頑張ったと思うよ。だけど、日本の新聞を読む限りは、2020年対90年比25%カットで世界をあっと言わせた割には、存在感に乏しいような気がしたな。

Aさん外国紙はどうなのかしら。あ、そうか、センセイにはムリなんだ(キョージュ、目を伏せ、下を向く)。
じゃあ、今月末のリストアップがどんなものになるか、そして年末のCOP16がどうなるかですね。でもCOP16も同じことの繰り返しで終わるんじゃないかしら。こんなに人類益のことを忘れて、国益を追うことだけに終始してていいのかしら。
これが本当の「COP=コップの中の嵐」ですね。フフ、我ながらうま言い回しだったわ。

H教授なんだ、キミも陽気なペシミストになったじゃないか。


平成維新論―付:江戸時代論

Aさん…。
(話題を変える)ところで昨年の環境の重大ニュース、十大ニュースでもいいんですが、選びませんか。

H教授そんなのEICの編集部がやってくれているからいいじゃないか【4】
(だいぶお屠蘇が回ってきている)ウーイ、それより、ボクは今まさに平成維新が起きているんじゃないかという仮説を立てているんだ。

Aさんそういえば「平成維新の会」ってのが、ありましたよね。

H教授キミも古いこと知っているねえ。大前研一さんが言い出しっぺで、小ブームになったけど、いつの間にかとんと聞かなくなった。
明治維新は1853年のペリーの黒船来航がきっかけではじまり、攘夷か開国か、勤皇か佐幕かで国論を二分。尊皇攘夷派はいつの間にか開国派に転向しつつ、1867年の大政奉還を経て、翌年の明治新政府樹立となった。
つまり幕藩体制ではどうにもならないということで、内紛が起きた。そして新たな時代の姿は見えないまま、逆戻り不能な政権交代となった。

Aさんで、新たな時代がくっきりと見えてくるまでに、戊辰戦争やら西南戦争やらと、やはり十年くらいかかりましたね。


H教授うん、黒船来航に匹敵するできごとが、91年のバブル崩壊だろう。
古き良きニホンはどんどん変わっていき、「失われた十年」やら、コイズミ改革やらいろいろあったが、18年後の2009年の鳩山内閣成立でもって、明治以来ついぞ変わらなかった官僚依存体制の打破に行き着いた。
今度の予算編成を見ても、そうだよね。良い悪いは別にして、ボクらの常識は通用しなくなった。

Aさんそうか、それで平成維新というわけですね。戊辰戦争やら西南戦争に匹敵するできごとがこれから起きるにせよ、時計の針は戻らないというわけですか。
平成維新ということは、明治維新が近代の夜明けだったように、何かの夜明けには違いないということですね。

H教授(もごもごと)ま、そういう見方も可能だろう。


Aさんなんですか、口ごもった言い方をして。

H教授江戸時代の260年間、飢饉で死んだ人はいっぱいいるし、一揆で処刑された人だっている。だけど、明治維新以後の70年間の日清・日露そして支那事変から太平洋戦争で死んだ人の数に比べたら微々たるものだ。
つまり明治維新は、1945年の敗戦に至る、悲惨な大量の死で彩られた歴史の始まりだ、という評価も可能ということだ、ウーイ(急速に酔いが回っている模様)。

Aさんでも江戸時代は身分制度がありました。切捨てゴメンの世の中だったんですよ。

H教授切捨てゴメンなんていうけど、実際に切り捨てたら大変なことになったよ。
お巡りさんはピストルを持っているけど、発砲しているのを見た人はほとんどいない。それと同じさ。

Aさんでも士農工商の身分差がありました。


H教授明治維新後だって華族制度があった。
大体、江戸時代は権力は中級武士が握っていたが、彼らはカネがなかった。権威は藩主や朝廷が持っていたが、きわめて不自由。カネは商人が持っていて、自由は──御政道に口出ししない限り──庶民が持っていた。
権威、権力、カネ、自由が分散する江戸時代のシステムは、それなりに合理的だと思うぞ。
明治の元勲たちのデタラメで自堕落な私生活を見てみろよ。
幕藩体制は消えるべくして消えたんだろうが、本当に優秀で開明的で清廉な人たちはむしろ幕府側にいて、榎本武揚以外は幕府に殉じて消えてしまったんだ。小栗上野介、中島三郎助、そして長岡藩の河井継之助、惜しい人物を失くしたよ(興奮しきり)。

Aさん抑えて抑えて。読者のみなさん、酔っ払いの戯言ですから、気にしないでくださいね。

H教授えーと、何の話だったっけ。


Aさんつまり、平成維新は何の始まりになるのかは、まだわからないということですね。
そして、それを新たな時代の夜明けにするにはわれわれの努力や参加が欠かせないとおっしゃりたいんでしょう。
でもどちらにしたって、それが判明する頃には、センセイも愛するミオちゃんもとっくに死んじゃってますから。ね、センセイ。
…あれ、寝ちゃってる。今回はほとんど環境行政の話をしていないじゃない。ホント困ったセンセイだ。たるんでるわ、ちょっと活を入れなくちゃあ!


註:環境に直接関係しない部分等は、編集部判断によりカットさせていただきました。筆者のブログでお読みいただけます。

注釈

【1】普天間基地の移転問題
第21講「時評2−普天間飛行場の辺野古沖移設を巡って」
【2】コペンハーゲン合意
「環境省 COP15・COP/MOP5の結果 公表」
【3】ピークアウト
第65講「神戸でG8環境大臣会合開催さる」
第68講「「低炭素社会づくり行動計画」閣議決定」
【4】環境重大ニュース
EIC ピックアップ「2009年環境重大ニュース」
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(平成22年1月6日執筆、同年1月12日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。