No.009
Issued: 2003.10.02
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
プロローグ
Aさんあーあ、夏休みももう終りか。センセイ、夏休みはどっか行かれました?
H教授うん、沖縄は八重山諸島に行ってきたんだ。向こうで台風14号にぶつかっちゃって、帰りの飛行機が欠航。2日も足止めを食らった。おかげで東京での大事な会議もキャンセル。ひどい目にあったよ。
Aさん大事な会議って?
H教授環境庁出身の大学人でつくった「環境行政学会」【1】のメンバーなんかとの重要な打ち合わせだ。
Aさんなんだ、飲み会か。
H教授(図星をつかれて)シ、シッケイな!
Aさん(無視して)で、何しに八重山諸島まで行ったんですか。
H教授(あきらめて)家族サービスさ。で、30年ぶりに西表へ寄ったんだけど、自然はよく保たれてたよ。でも「秘境」という感じはもうなくなってたね、道路も見違えるほど立派になってたし。あそこまで道路整備する必要があるのかなと思ったよ。
Aさん大きな自然破壊さえなけりゃ、いいことじゃないですか。住民にとっても、観光客にとっても。
H教授西表には、上原と大原という2つの大きな集落が3〜40km離れてあるんだ。それを結ぶ道路がセンターラインの引かれたりっぱな2車線の道路で、幅広い歩道までついてるんだ。夜、この道をドライブしたんだけど1台も対向車に出会わなかった。そりゃ、道路整備は必要だろうけど、ここまで立派な道路が必要なんだろうか。ところどころ未改修の部分があるんだけど、これだってセンターラインや歩道こそないけど、すれ違い可能な舗装道路なんだぜ。これで十分じゃないかと思うけどなあ。
Aさん授業でセンセイがよく言ってた、道路よりも道路事業って奴ですね。
H教授そう、調べたわけでもなんでもないけど、直感的にそう思ったね。こんなオカネがあったんだったら、道路事業じゃなくて、もっとほかのこと、例えばごみ問題だとかに使うべきだったと思うなあ。
Aさんはいはい、今月の無責任な放言はそこまで。前講以降の環境行政でなにかトピックスはありました?
夏のできごと・1 --亜鉛の環境基準決着
H教授うん、じつは石垣島に足止めを食らわせられてる間に前講、前々講で取り上げた亜鉛の環境基準の決着が一応ついた。
Aさんへえ、どうなったんですか。
H教授専門委員会報告どおりで答申がなされた【2】。
Aさんじゃ、産業界は反対を引っ込めたんですか?
H教授まだ議事録も公表されてないから経緯は知らないけど、産業界にしても問題は環境基準じゃなくて排水基準の強化だからね。環境基準を維持達成するための方策、排水基準のあり方等について別途専門委員会で検討することになったから、一歩後退して主戦場をそこに移したということじゃないかな。ま、これもぼくの憶測だけどね。
Aさん排水基準は環境基準の10倍ということじゃないんですか。
H教授健康項目【3】の場合は慣例として、そうなっているけど、これは一応、生活環境項目【4】という整理だから、10倍には縛られないはずと産業界は思ったのかもしれないね。
それに健康項目での10倍というのも、一種の割り切りだからねえ。だからこれからどうなるか見物だね。
夏のできごと・2 --環境基本法見直しに向けて
Aさんほかにはなんかありました。
H教授EICネットの国内ニュースでも紹介されていたけど、環境大臣が記者会見で環境基本法の改正を視野に入れた「環境基本問題懇談会」を設置【5】し、来春までに基本的な考え方をまとめるそうだ。
Aさんへえ、環境省もやる気満々ですね。それとも大臣の発案なんですか。
H教授そんなことしらないよ。だけど超一般論としていうと、こういう話の大半は事務方が絵図を書いて、それを大臣に言わせる、つまりボトムアップのことが多かった。
でもたまには大臣が言い出しっぺのトップダウンということがある。その場合も筋がいいものとよくないものがある。後者の場合は事務方が大臣を説得して押し留めようとするんだけど、押しとめられなかった場合、こういう懇談会なんかで時間稼ぎをして大臣交代を待つというケースがないわけじゃない。
Aさんで、今回の場合はどうなんですか? って聞いてるんです!
H教授だから知らないって言ってるだろう! もっとも、大臣は先日(9月22日)の小泉第2次改造内閣の発足で交代しちゃったよなあ【6】。
まあ、ボトムアップかトップダウンかはともかくとして、内容的には筋の悪い話ではないと思うよ。でも、思い通りの改正ができるかっていえば、おっそろしくむつかしい話だろうな。
Aさんいまの環境基本法【7】ではどこが不十分なんですか。
H教授どちらにしても基本法なんだから理念的、抽象的にならざるをえないんだけど、抽象的に過ぎる嫌いがあることは事実だよね。
環境基本法に基づく環境基本計画【8】では循環、共生、参加、国際的取組の4つのキーワードを挙げていて、それはその通りだと思うけど、基本計画に記載されているものは従来からの各省の施策みたいなのが中心で、新たな展開に関しては具体性に欠けるところが多いよね。
Aさんセンセイの言い方も抽象的すぎますよ。もっときちんと言ってください。
H教授環境と経済の統合、戦略的環境アセスメント【9】、生態系保全のための環境基準概念の導入、廃棄物と循環資源の拡大生産者責任【10】の適用の明言、化石燃料使用や環境への人為的負荷の可能な限りの抑制理念、公共事業の自然共生事業化、NGO・市民の政策参加、いっくらでもあるよ。
そうした新たな潮流を現行の環境基本法や環境基本計画で読み込むことは可能だけど、環境基本法や環境基本計画がそれに先導的・主導的な役割を果たしているとは言えなくなったのも事実だからなぁ。
Aさんですが、センセイのいま挙げたような話はどれももっともな話ですから、簡単なんじゃないですか。
H教授ちょうど自民党総裁選が小泉圧勝で終わって、これから解散・総選挙なんて話がでてるけど、争点はもっぱら景気回復だよね。環境問題だとか持続可能な社会の構築なんてだれも口にしていない。
さっき挙げたどの課題ひとつとってみても、言うは易しだけど、実際に徹底してやるには、いま言われているコーゾーカイカクよりもはるかにむつかしい既成概念と社会構造の変革が必要になってくるし、GDPで表現される景気の回復には反することもあるだろう。
そうなれば、産業界はもちろん、政治家だって各省だって、いやそれだけじゃない、国民だって、そうやすやすと飲むと思えないなあ。
Aさんなるほどねえ。相当な力技が必要ってことですね。センセイが環境省幹部だったら真っ先に逃げてたでしょう?
H教授こら、またキミは...。
(しばらくおいて)ま、そうかもしれないねえ。
夏のできごと・3 --RDF事故
Aさん8月にはRDF(ごみ固形化燃料)【11】発電所で大きな事故がありましたよねえ。
H教授もともとRDFは大きな矛盾を抱えていたんだけど、思わぬ形でその破綻が明白になったねえ。
Aさんえ? 矛盾?
H教授そう、RDFっていうのは可燃ごみを乾燥圧縮成型して燃料にするんだけど、そもそもごみの分別・資源化の方向に来ている社会の基本的な方向からすれば逆行している。
Aさんえ? そうなんですか?
H教授だって、RDFはプラスチックなんかが入ってなければ熱量不足になってしまう。廃プラ分別・資源化という動きには逆行していると言えるんじゃないかな。
それに生ごみなんて乾燥させるには化石燃料も必要だしね。
ただ、ごみの減量や分別・資源化と口で言うのは簡単だけど、実際にはむつかしい。
RDFはそれよりも現実に出てくる大量の可燃ごみを一括して燃料として利用しようという発想だった。
ごみの焼却は地元の反対が強いけど、RDFの製造だったらそれほど抵抗がないだろうし、ダイオキシンの発生抑制にもなる。経済的にも引き合うって言うんで、一時ブームになった。だけど、どうやらRDFの引き取り先もそう簡単には見つからないみたいだし、今回の三重県の事故がきっかけで方々で事故を起していたことも明らかになった。技術としてもまだまだ未完成なものだったんだよねえ。
Aさんじゃ、RDFはやめるべきだと?
H教授いや、そこまでは言わない。ただ、限定的・補完的、そして現時点ではなお未成熟な技術だということを知っておくべきだ。
少なくともRDFの安定的な引き取り先を見つけてからでないと、安易には取り入れられないと思うな。
夏のできごと・4 --淀川水系5ダムのその後
Aさんあ、それからこれも本講で何回も取り上げている淀川水系5ダムについての新聞記事がありましたねえ。
H教授うん、9月5日に国交省近畿地方整備局が流域委員会に河川整備計画【12】の原案を示したんだけど、5ダムについては「調査検討を行う」とだけしていて結論を先送り、流域委員会のメンバーから批判を浴びたって記事だよね。
これ以上の憶測は控えて、とりあえず読者に情報としてだけお知らせしておこう。
Aさん夏休みはこんなところですかねえ。
で、今日のメインデイッシュはなんですか? 予告通り環境ホルモンですか?
温暖化対策税の在り方を巡って
H教授環境ホルモンは、いずれ機会をみてということにしよう。それほど緊急性もないということが明らかになりつつあるみたいだし。それより8月末に中央環境審議会の専門委員会が「温暖化対策税の具体的な制度の案―国民による検討・議論のための提案」という報告をまとめて環境大臣に提出した【13】。
ここでいう温暖化対策税とは、いままでしばしば炭素税だとか環境税【14】だとか呼ばれていたものだけど、今回はこれを話題にしよう。
環境省のHPでも公表されてるんだけど、キミ読んだ?
Aさんあったりまえじゃないですか。バカにしないでください。
H教授そうか。じつはあの報告をまとめるにあたって重要な役割を果たしたのがAIM(アジア太平洋地域統合モデル)【15】なんだ、名前だけで中身は知らないけど。
ところで、専門委員会メンバーで、AIMの開発を行った森田恒幸さん(国立環境研究所社会環境システム研究領域長)が9月4日に肝不全で亡くなられた。まだ53歳の働き盛りだったけど、余りの多忙さに医者に行く暇もなかったみたいだから、ある意味では壮絶な討死を遂げられたといえるかもしれない。
学者らしからぬ、きさくな人でぼくも昔、随分お世話になったし、一緒に遊んだこともある。謹んでご冥福をお祈りしよう。
Aさん優秀な人ほど早死するんですねえ。センセイはきっと長生きできますよ。
H教授ありがとう、キミに言われると涙がでるほどうれしいよ。
Aさん(拍子抜けして)へえ、随分今日は素直ですねえ。
H教授(相手にせず)専門委員会報告のまえに温暖化対策の現状をまず押さえておこう。簡単に整理して話したまえ。
Aさん(すらすらと)えーと、1997年にCOP3で京都議定書【16】がまとまりました。先進国全体で2008年から2012年までの平均値で温室効果ガスを1990年比で5.2%カットするということが決り、日本は確か6%カットということだったですよね。
ただし国内だけの削減努力ではむつかしいというので、森林吸収分を認めたり、排出権取引だとか、CDMだとか言った「京都メカニズム」【17】が導入されたんだけど、その細目をめぐって、紛糾。
そうこうしているうちに世界最大の排出国である米国が京都議定書を離脱したんですよね。
ようやく2001年のCOP7【18】で京都議定書の運用ルールがまとまりました。昨年に入ってからは京都議定書の批准が相次ぎ、日本も批准。
発効要件は先進国の55%以上の国が批准し、その国々の温室効果ガス排出量が全体の55%以上。あとロシア一国が批准すれば米国抜きで発効するところまで来て、ロシアも批准の方針を打ち出しているので、遅くとも来年中には京都議定書が発効されることになります。
H教授お、よく知ってるな(ちょっと見直す)。
Aさんだって、就職試験対策で必要なんですもの。
H教授まずは卒業できるかどうかだな。
Aさんひっどおい!
H教授で、国内での動きは?
Aさん日本では2004年までをファーストステップとして温暖化法【19】ができたり、温暖化対策大綱【20】を決めたりしてますけど、現在の排出量は依然として1990年比で8%ほど増加してます。
H教授そう、一方EU全体では京都議定書では8%カットが義務付けられているんだけど、すでに'90年比でマイナスになっている。原因はいろいろあるんだけど、そのひとつとして炭素税の導入や化石燃料の自然エネルギーへの転換が挙げられる。
日本では2004年、2007年にそれまでの対策をチェックし、必要に応じて追加的な対策をとるとしているんだ。こういうバックグラウンドのなかで、今回の報告が出された。
Aさんでも米国抜きの議定書発効に意味があるんですか。
H教授もうブッシュの命運は尽きたよ。イラクの大量破壊兵器も見つかりそうもないし、イラク国民の反米感情は高まるばかり。米英兵の死者も増える一方で、イラク侵攻と占領政策の失敗は誰の目にも明らかだ。
だから米国内での人気がガタ落ち。ネオコンも見る影のない凋落振りらしいよ。
いずれ一国主義から国際協調主義への復帰という路線が陽の目をみるだろうし、排出権取引市場という実利面もあるから、政権交代で京都議定書に復帰するという可能性はあると思うよ。
Aさんまたセンセイの妄想、願望癖がでましたね。
H教授うるさい。で、温暖化対策税の専門委員会報告だけど、読んだといってたね。じゃ、かいつまんで説明してごらん。
Aさんまかしといてください。まず追加的な対策、施策を講じないと'90年比6%カットはきわめてむつかしいということですね。
現行水準の技術で新技術を導入しない場合は'90年比13.7%増で、現在よりも5%以上増加。
追加的な対策、施策を行政は講じないけれども、企業が合理的な省エネ技術を自律的に導入するとした場合は同じく7.6%増。化石燃料に新たに炭素税を課税して、その価格インセンティブによる排出抑制効果を計算した場合、炭素換算トン当たり3,000円という低率では5.7%増、同じく30,000円といった高率でも0.2%増。
これらは現状より削減はできますが、いずれも'90年比ではプラスになっています。
しかし炭素換算トン当たり3,400円という低率でも、その税収を温暖化対策の補助金などに活用した場合は'90年比で2.4%減とはじめて'90年比でマイナスになるとしています。
これと同等の削減を価格インセンティブによる排出抑制で行おうとすれば、炭素換算トン当たり45,000円という高率課税が必要だそうです。
いずれにせよ'90年比2%程度の排出抑制ができれば、それに森林吸収や京都メカニズムの分を加算して'90年比6%カットは可能だという試算をしています。
この試算にさっきのAIMが使われたんですね。
このモデルは公開されてるから、だれにでも検証可能だそうですけど、センセイも使ってみました?
H教授ぼくはそういう意味での研究者じゃないって常々言ってるだろう。恥をかかせるなよ。
Aさんそういう意味も、こういう意味も、そもそも研究者じゃないでしょう。
H教授うるさい。で、次は?
Aさん課税のやりかたですが、できるだけ薄く広く国民に分担してもらうために最上流、あるいは上流で課税してそれを価格に転嫁する方法が妥当だと言ってます。
さっきの炭素換算トン当たり3,400円ケースでは一世帯あたり月460円だそうです。
もちろん温室効果ガスを排出しないようなところへは税の減免が適用されるとしています。目的税かどうかについてはとりあえず結論は出していません。
ここまでのところでセンセイの評価はどうですか、あ、センセイに評価なんてできるわけないですね。なんか感想ありますか?
H教授まったく、一言多いね、キミは。
このままだと発電に関しては原発が温暖化対策税の影響を受けない分、コスト的に有利になってしまうんじゃないかってことがひっかかるなあ。
もともと、日本の温暖化対策は原発の推進を前提としているから、当然のことかもしれないけど、個人的にはこれ以上の原発の推進には疑義が残る。
でもまあ、あとは妥当じゃないかな。排出権取引なんてのはぼくは好きじゃないけど、合理的なのは確かだし。
Aさんなぜ排出権取引が好きじゃないんですか。前講へのアンケート回答で「排出権取引をどう評価するか」という質問もあったことですし、説明してくださいよ。
H教授COP3でEUが排出権取引に消極的だったのは、国内の排出抑制努力を妨げる恐れがあるからだということだったけれど、それだけじゃない。
カネさえあれば排出権を買えるというウルトラ資本主義的システムが心情的にひっかかるんだ。
それに、排出権取引を最初に導入したのは米国、SO2対策で用いて、もっとも廉価なSO2対策だと自慢してるんだけど、米国はGDPあたりのSO2排出量は日本より一桁も高いんだぜ。まずはきちんとした規制をしろといいたくなるよ。
Aさん相変わらず非論理的な浪花節ですね(笑)。
ワタシは排出権取引は合理的でいいと思ってるんですけど、さきほどの「炭素換算トン当たり3,400円ケースで税収を温暖化対策の補助金等に当てれば、炭素換算トン当たり45,000円ケースの価格インセンティブによる排出抑制効果と等しい」というところがひっかかるの。
H教授え? どうして?
Aさんだって、45,000円ケースでその税収を温暖化対策の補助金等に当てればもっと排出抑制効果はあるはずですよね。
H教授うん、そりゃ、まあそうだ。
Aさんどうしてそれを試算しなかったのかしら。2013年以降の第二約束期間【21】にはもっと大胆な排出抑制が必要になるんでしょう。じゃ、第二約束期間を先取りする形で世界に範を垂れるぐらいの排出抑制をすべきじゃないかなあ。
H教授...まあ、いまでもエネルギーは欧米に比べて割高だから、そんな高率課税は到底実現不可能だと思ったんじゃないかな。
Aさんでもそうした場合、どの程度CO2の排出抑制が可能になり、その場合のわれわれの生活はどうなるのかというイメージというかビジョンをプラス面もマイナス面も含めて提示することこそが必要なんじゃないですか。
それこそ価値観とかライフスタイルの見直しの第一歩じゃないのかなあ。センセイ、いつも授業でそう言ってたじゃないですか!
H教授(小さく)そうは言ってもなあ。それに専門委員会報告でも最後にほんの少し触れてあるよ。
Aさんここですね。
「産業構造など経済の姿は、...速く大きく変わる...経済等の影響を緩和するために、あるいは、より広い他の社会的経済的な目的のために、税収を活用したり、他の税を減免」「税率を、課税による価格インセンティブ効果だけで相当な排出削減量を確保できる程の高い水準とし、その税収は温暖化対策以外の施策や一般的な減税に活かす、との考え方についても、国民の意見を」。
でも、それにとどまらず、その高率の税収を温暖化や環境対策に生かすという考え方だってあるでしょう。
H教授キミ、今日は過激だなあ。宝塚へ行ったんだろう。
Aさんハ?
H教授宝塚カゲキ(笑―自分だけ)
Aさん(軽蔑の目で)サッブー、そんなオジンギャグで誤魔化さないでください!
H教授すみません。(小さくなる)
Aさんま、いいわ。あとは他の石炭・石油税だとか揮発油税だとかのエネルギー税制などとの関係ですね。
現にそれで温暖化対策に寄与している側面もあるわけで、しかも去年だったか、税率を変更し、税収の増加分の半分を環境省で使えって言ってきたわけでしょう。
でも、専門委員会報告では「役割分担を明確にし、調整を図る必要がある」としか言ってないですね。
なんだか奥歯に物がはさまったような言い方のような気がしたけど。
H教授他省庁の管轄にあるものだから、環境省の審議会としてはそんな思い切ったことは言えないよ。
Aさんじゃ、センセイはどう思われるんですか。
H教授ぼくは税制のことはよくわからないし、調べてる時間もない。だから発言する資格なんてないよ。
Aさんいいじゃないですか、一国民としての独断と偏見でズバッと言って下さいよ。
H教授じゃ、思いつきの無責任な放言だということで、いくつか言わせてもらおう。
税制全体を環境シフトというか持続可能性社会構築のためにシフトするのが大前提。
つまり税収中立の原則の下で、環境負荷の大小や持続可能社会に寄与するかどうかの指標により、消費税だとか事業税の税率を決める。当然のことながら大規模な開発なんかは既存税以外に開発税だとか自然改変税をとる。都市住民には水源税という形で...。
Aさんちょ、ちょっと、いまは温暖化対策税に関連する税制の話に絞ってください。
H教授しょうがないなあ、これからが佳境だったのに。じゃ、あとひとつだけ、税の過半は地方税にする。循環型社会の構築には地方主権の...。
Aさんストップ! だれもそんなこと聞いてないですって。早く話を戻してください。
H教授わかった、わかった。よく知らないから誤魔化そうと思ったんだけどなあ。
われわれが電気やガソリンなどのエネルギーを使用したり、クルマを買ったりすると、いろんな形の税を間接税として払うことになる。こうした税の多くはエネルギーの安定供給や道路整備という特定の目的のために国や地方の特定財源として使われているし、特別会計として別勘定に繰り入れられることも多い。
エネルギー税制に関しては、エネルギーの有効利用の促進ということで、温暖化対策に寄与するようなものにも使われているのは専門委員会報告でも述べられているとおりだ。
あと、専門委員会報告ではほとんど述べられていないんだけど、自動車関連の税金の多くが道路整備という特定の目的のために使われている。だけど、運輸部門からのCO2排出も大きなウェイトを占めているし、相対的に公共交通機関より環境負荷の大きい自動車関連の税金については、その目的を道路整備からCO2削減も含めた自動車環境負荷対策に変更すべきじゃないだろうか。最低限、目的に道路整備だけじゃなくて自動車環境負荷対策を付け加え、その使途を道路整備から公共交通の補助育成を含めて環境保全に大幅にシフトさせるべきじゃないかなあ。
温暖化対策税に関しては、こうした既存のエネルギー税制や自動車関連税とのトータルで、最低限市民が節電を心がけざるをえなかったり、マイカーでの遠方への単独ドライブを躊躇する程度の水準の税率とし、税収は専門委員会報告でも言ってるように、排出抑制への補助金だとか奨励金みたいなものに回して排出抑制へのインセンティブを図るものにすべきだろうなあ。
要はエネルギーやクルマの過度の利用を経済的に抑制するよう誘導するとともに、質素な生活のほうが得で楽しいと思えるような社会意識を醸成することが必要だと思うよ。
あ、あと結果的には原発推進になってしまうような税金の使われ方には反対だな。
Aさんなんだか随分抽象的で、温暖化対策税はどの程度の水準がいいのか、それだけじゃよくわからないじゃないですか。
H教授(むっとして)じゃ、キミはどう思うんだ。
Aさんだからとりあえずはエネルギー関連税と自動車関連税と新設の温暖化対策税のトータルでどれぐらいの税率にし、税収のどれぐらいを温室効果ガス削減の補助金等にすれば、森林吸収だとか京都メカニズムを差し置いて、'90年比で国内の総排出量△6%になるかという試算をぜひお願いしたいわ。
それだけじゃなく、そうしたときの社会や経済、雇用はどうなってるんでしょうか。きっと激変するんでしょうね。そのへんもぜひシミュレーションしていただきたいわ。
H教授それをキミの卒論のテーマにしたらどうだい。AIMを駆使して。
Aさんまた、無茶苦茶を。センセイが経済にも弱いことがよくわかりました。(呆れ顔)
H教授いずれにせよ温暖化対策税の導入は不可避だと思うよ。来年はその税率や課税方法、エネルギー関連税との関係を巡る攻防が環境行政のひとつの焦点になるだろうと言うのが本講の結論かな。
注釈
- 【1】「環境行政学会」とは?
- 南九研時報34号「環境行政ウオッチング」(平成14年6月発行)には、以下のような記載がある。
-
H教授そうそう、いよいよ「環境行政学会」が旗上げした。環境庁出身の大学人が20人にもなったので、大同団結して、環境行政のありかたをみんなで議論しようということになった。将来は社会に発信できればいいなと思ってる。それで先日、皆生温泉でみんな集まったんだ。
Aさんこの「環境行政ウオッチング」と同じですね。
H教授え? どういうこと。
Aさん(ニッコリと)だって、今号は「共生社会と環境倫理」というタイトル。毎号、毎号タイトルだけは立派だけど、中身はセンセイの与太話。その学会だって、どうせ昔馴染みと飲み会やるための看板でしょう。
でも、20人ってすごいじゃないですか。センセイでも勤まるとわかったから、安心して環境庁、現・環境省も人を送り出したんですね。
昔、炭鉱では先導役でカナリアに有毒ガスの検知をさせて、大丈夫とわかってから、人間が行ったそうですね。センセイは大学に送られたカナリアだったんだ。そういえばよく囀りますもんね。あ、いけない、もう時間だ。カレが待ってる。センセイそれじゃあねえ、バイバイ!(走り出す)H教授(顔を真っ赤にして)お、お、おい、それが教師に対しての言い草か!(と怒鳴るが、もう彼女は去ったあと)
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- 【2】亜鉛の環境基準にかかわる話題など
- 中央環境審議会の水生生物保全環境基準専門委員会では、亜鉛の環境基準項目設定やクロロホルム等の要監視項目の設定(水質汚濁防止法に基づく)等についての専門委員会報告をまとめ、(紆余曲折を経たものの)平成15年9月12日付けで答申された。
ここでは、環境基準も単にヒトの健康、生活環境だけでなく、生態系保全の観点からもういちど考え直さなければならないとして議論が重ねられてきた。
...詳しくは第7講へ。 - H教授の環境行政時評 第7講
- 環境省報道発表:「水生生物の保全に係る水質環境基準の設定について」
- 環境省 中環審答申について及び専門委員会報告など
- 【3】健康項目
- 水質汚濁に係わる環境基準について1971年に人の健康の保護に係わる環境基準項目が定められ、1993年3月に改正された水質環境基準において、生活環境項目と共に、人の健康の保護に関して、各種有害物質の基準値が全国一律の示された。
カドミウム、全シアン、鉛、六価クロム、ヒ素、総水銀、アルキル水銀、PCB、ジクロロメタン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,3-ジクロロプロペン、チウラム、シマジン、チオベンカルブ、ベンゼン、セレンの23項目について環境基準が定められている。1999年硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、ふっ素、ほう素の3項目追加されて26項目となった。 - 【4】生活環境項目
- 公害対策基本法(1967年)に基づき、1971年環境庁告示で「水質汚濁に係わる環境基準について」として定め、1993年の環境基本法に基づき、公共用水域の水質保全行政の目標として達成し維持されることが望ましい基準として水質環境基準が定められた。
これには、人の健康の保護に関する基準(健康項目)及び生活環境の保全に関する基準(生活環境項目)の2つがある。健康項目は全国一律の基準であるが、生活環境項目については、河川、湖沼、海域の各公共用水域について、水道、水産、工業用水、農業用水、水浴などの利用目的に応じて設けられたいくつかの水域類型ごとに基準値を決定する仕組みである。水質汚濁に係る環境基準で、生活環境を保全するうえで維持することが望ましい基準として設定された項目をいい、pH、BOD、COD、SS、DO、ノルマルヘキサン抽出物質、大腸菌群数、全窒素、全燐等について基準値が設定されている。 - 環境省「環境基準のページ」 水質汚濁に係る環境基準について
- 環境省「環境基準のページ」水質汚濁に係る環境基準について>別表2 生活環境の保全に関する環境基準・河川(湖沼を除く)
- 環境省「環境基準のページ」水質汚濁に係る環境基準について>別表2 生活環境の保全に関する環境基準・湖沼
- 環境省「環境基準のページ」水質汚濁に係る環境基準について>別表2 生活環境の保全に関する環境基準・海域
- 【5】環境基本問題懇談会
- 2003年が環境基本法制定10年を迎えることから、環境省では、環境政策を取り巻く状況の変化や環境政策の大きな進展を踏まえて、環境問題への取組のあり方などについて根本から検証するため、「環境基本問題懇談会」を設置することとしている。懇談会では、環境大臣ほか環境省幹部も同席し、環境政策や経済・社会などの有識者による議論を年度内に5回予定し、年度末に報告書をまとめる予定。
第1回は、9月18日(木)13:00より環境省内会議室において開催された模様。 - EICネット 国内ニュース 「環境基本法制定10年 環境問題取組みの方向性を見直す懇談会設置」
- 【6】小泉第2次改造内閣の発足
- 首相官邸「第2次改造内閣の発足」(平成15年9月22日)
- 環境省 小池百合子環境大臣
- 【7】環境基本法
- それまでの公害対策基本法、自然環境保全法では、対応に限界があるとの認識から、地球化時代の環境政策の新たな枠組を示す基本的な法律として、1993年に制定された。
基本理念としては、(1)環境の恵沢の享受と継承等、(2)環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等、(3)国際的協調による地球環境保全の積極的推進が掲げられている。この他、国、地方公共団体、事業者、国民の責務を明らかにし、環境保全に関する施策(環境基本計画、環境基準、公害防止計画、経済的措置など)が順次規定されている。また、6月5日を環境の日とすることも定められている。 - 総務省 法令データ提供システム→「環境基本法」
- 【8】環境基本計画
- 環境基本法(1993)の第15条に基づき、政府全体の(1)環境保全に関する総合的・長期的な施策の大綱、(2)環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項を定めるもの。内閣総理大臣が中央環境審議会の意見を聴いて、閣議決定により定めることとされている。1994年12月に策定され、2000年12月に改定されている。
循環、共生、参加、国際的取組を長期的目標に据付けて、地球温暖化対策、循環型社会の形成、交通対策、水循環の確保、化学物質対策、生物多様性の保全、環境教育・環境学習などに重点をおいて施策を展開していくこととされている。 - 環境省「環境基本計画」
- 外務省「環境基本法及び環境基本計画」
- 【9】「アセス法アセス」
- 環境影響評価法の手続により行われる環境アセスメントの略称・通称。これに対して、法制定以前の閣議決定に基づいて行われた環境アセスメントは、しばしば「閣議アセス」と称される。
環境影響評価法は、施行からまだ年月が短いことから、このような過渡的な略称・通称が用いられている。 - 【10】拡大生産者責任
- 生産者が製品の生産・使用段階だけでなく、廃棄・リサイクル段階まで責任を負うという考え方。具体的には、生産者が使用済み製品を回収、リサイクルまたは廃棄し、その費用も負担すること。OECD(経済協力開発機構)が提唱した。循環型社会形成推進基本法にもこの考え方が取り入れられている。
拡大生産者責任を採用すると、リサイクルしやすい製品や廃棄処理しやすい製品の開発が進み、リサイクルや廃棄処理にかかる費用が少なくなると考えられている。費用が少なくなるのは、回収費用やリサイクル費用を生産者が負担するため。生産者は費用を製品価格に上乗せすることもできるが、製品価格が上がると販売量が減る可能性がある。そこで、製品価格を上げないよう回収やリサイクル費用の削減努力が生まれる。 - 中環審 廃棄物・リサイクル制度専門委員会(第4回)の配布資料より
- OECD「拡大生産者責任ガイダンス・マニュアル」について(平成13年7月)
- 【11】RDF(ごみ固形化燃料)
- 生ごみ・廃プラスチック、古紙などの可燃性のごみを粉砕・乾燥した後、生石灰を混合して圧縮・成型した固体燃料のこと。乾燥・圧縮・形成されているため、輸送や長期保管に便利で、冷暖房・給湯・清掃工場の発電用熱源として利用される。石炭との混用が可能であり、セメント焼成にも利用できる。発熱量は、1kg当り5,000kcalで、石炭に近い。
RDF発電は、安定的で完全燃焼するため、ダイオキシンや焼却灰の減少につながるとして、大規模なごみ発電施設用の燃料として期待されていた。1997年6月には、「RDF全国自治体会議」が設立され、導入促進を決議している。なお、現行法の体系下では、原料が廃棄物であるために、RDFの製造は一般廃棄物の中間処理方法のひとつとみなされ、市町村が事業主体となる。
2000年、固形燃料化施設(RDF製造装置)もまた、ダイオキシン規制の対象施設となった。粉塵の飛散防止、廃ガス処理、ダイオキシンの濃度測定などが義務付けられている。 - 三重県北勢生活環境部 発表 三重ごみ固形燃料発電所(RDF貯蔵槽)事故に伴うダイオキシン類等環境調査結果(2003.9.26)
- 三重ごみ固形燃料発電所RDF貯蔵槽の鎮火について(2003.9.27)
- 【12】河川整備計画
- 従来の河川法では、水系ごとに「工事実施基本計画」において河川工事の基本となるべき事項を定めることとしていたが、1997年の改正により、これを「河川整備基本方針」と「河川整備計画」に区分した。
「河川整備基本方針」に沿った「河川整備計画」では、工事実施基本計画よりもさらに具体的な川づくりを明らかにし、地域の意向を反映する手続きを導入することとした。この「河川整備計画」の策定は、社会・経済面や技術面と並んで、環境面からの分析結果を意思決定に確実に反映させ、地域住民、専門家に対し十分な情報公開や意見収集を行い、これを公表しなければならない。
洪水や高潮、地震等の防災、取水や排水、河川空間(高水敷や堤防周辺)の利用、漁業活動、舟運やレクリェーション等の河川の利用・活用、河川の水質や生態系の保全等の河川環境に関する現状の課題に対して、基本的な対応の考え方、現在行っている具体的対策、これから実施しようとする具体的対策を盛り込む。 - 国土交通省河川局 記者発表資料 河川事業の計画段階における環境影響の分析方法に関する検討委員会 提言
- 国土交通省河川局「河川整備基本方針、河川整備計画について」
- 【13】温暖化対策税制
- 中央環境審議会では、地球温暖化防止のための税制についての専門的な検討を行うため、総合政策部会と地球環境部会の合同部会を設け、その下に「地球温暖化対策税制専門委員会」を設置。第1回会合は2002年10月17日(水)に開催されている。 同専門委員会は、翌2003年8月29日に「温暖化対策税制の具体的な制度の案〜国民による検討・議論のための提案〜(報告)」を公表。現在、11月28日までの日程で意見募集を行っている。なお、2002年12月には、それまでの審議を取りまとめた「我が国における温暖化対策税制に係る制度面の検討について」も発表している。
- 環境省総合環境政策局「温暖化対策税制の検討状況について」
- EICネット 中央環境審議会の「温暖化対策税制制度案」検討結果に対する意見募集を開始
- EICネット 温暖化対策税制の制度面を具体的に検討した報告書を作成
- EICネット 地球温暖化防止のための税制を検討する専門委員会を中環審に設置
- 【14】環境税もしくは炭素税
- 二酸化炭素の排出に対する課徴金制度のこと。化石燃料を燃焼した場合に排出する二酸化炭素の量に応じて課税し、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を低減させる目的の税金を指す。 OECD内では、炭素税に関する多くの提案がなされ、オランダやスウェーデンなどの国はすでにこれを採用し、日本を含む他の先進諸国においても導入が検討されている。環境税はもともとは炭素税の別名であったが、近年では、二酸化炭素排出も含めて、もう少し広義な意味で環境に負荷を与えるもの(環境の利用者)に対する課徴金制度を指すことが多い。 日本では、経済産業省により、エネルギー特別会計のなかで石油に対して石油税として電力会社や石油元売会社などに課税していたが、2003年度から「石油・石炭税」(仮称)等に改め、石炭等に対しても課税し、増収分を温暖化対策に充てることとしている。しかしこの「石油・石炭税」は環境省が導入を検討しているCO2の排出量に応じて幅広く課税する環境税(炭素税)とは性格が異なるものとされている。
- 環境省資料「平成15年度の既存関連税の見直しについて」 中央環境審議会 地球温暖化対策税制専門委員会(第11回)資料より
- 【15】AIM(アジア太平洋地域統合モデル)
- AIMモデルは物質循環を考慮したモデルであり、国立環境研究所(NIES)地球環境研究グループの温暖化影響・対策研究チームがアジア太平洋地域における温暖化対策評価モデルとして開発したもの。酸性雨対策にも有効とされる。 対象地域は中国、韓国、日本を含む東アジア太平洋地域。このモデルによると、中国、韓国等の硫黄酸化物(SOx)の排出と越境移流により、酸性雨が最重要な環境問題のひとつになっていると指摘している。このため国立環境研究所では硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、アンモニア(NH3)、非メタン揮発性炭化水素(NMVOC)などの発生量マップを作成している。また、国または地域別の発生、輸送、変質、沈着モデル(酸性雨長距離輸送モデル)も作成している。
- 独法国立環境研究所・環境儀「AIM研究の歩み」
- 環境省資料「温暖化対策の経済性評価−数量モデルによる評価」 中央環境審議会地球環境部会 目標達成シナリオ小委員会(第6回)資料より
- 【16】COP3と京都議定書
- 本来COPとは、任意の条約の締約国会議(The Conference of the Parties)を指す略称だが、1997年に京都で開催された「気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)」の第3回締約国会議(いわゆる「京都会議」;COP3)の開催以降、同条約締約国会議を示す用語として一般化している。 前述の第3回会議は、1997年12月1日から10日まで、京都で開催されたが、いくつかの問題で国益や思惑がからんで紛糾した。最終的にはぎりぎりのところで合意が成立し、第1回締約国会議の決定(ベルリン・マンデート)に従って、先進国の温室効果ガスの排出削減目標を定める法的文書とともに、排出権取引、共同実施、クリーン開発メカニズムなどの柔軟性措置が「京都議定書」の形で採択され、今後の地球温暖化防止対策に向けて大きな一歩を踏み出すこととなった。 同議定書は、先進締約国に対し、2008〜12年の第一約束期間における温室効果ガスの排出を1990年比で、5.2%(日本6%、アメリカ7%、EU8%など)削減することを義務付けている。また、削減数値目標を達成するために、京都メカニズム(柔軟性措置)を導入。 議定書の発効要件として、55カ国以上の批准、及び締結した附属書I国(先進国等)の1990年における温室効果ガスの排出量(二酸化炭素換算)の合計が全附属書I国の1990年の温室効果ガス総排出量(二酸化炭素換算)の55%以上を占めることを定めている。
- 環境省地球環境局「地球温暖化防止京都会議」
- 外務省「地球温暖化問題 気候変動枠組条約、京都議定書とは」
- 外務省「COP3」
- 全国地球温暖化防止活動推進センター「関連条約・法律の年表」
- 「京都議定書(Kyoto Protocol to the UNFCCC)」(英文)
- 【17】「京都メカニズム」と、排出権取引、CDM
- 温室効果ガス削減数値目標を達成を容易にするために、京都議定書では、直接的な国内の排出削減以外に共同実施(Joint Implementation: JI、第6条)、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM、第12条)、排出量取引(Emission Trading: ET、第17条)、という3つのメカニズムを導入。さらに森林の吸収量の増大も排出量の削減に算入を認めている。これらを総称して京都メカニズムと呼んでいる。 共同実施と排出量取引は先進締約国間で実施され、コミットメント達成を目的とした国内行動に対して補完的であるべきと要求されている。CDMは先進国の政府や企業が省エネルギープロジェクトなどを途上国で実施すること。 この京都メカニズムや、その無制限の適用に関しては、NGOやEUからの批判も強い。
- 環境省地球環境局「京都メカニズム情報コーナー」
- 環境省地球環境局「京都メカニズムに関する検討会」
- 【18】COP7
- 「気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)」の第7回締約国会議。2001年10月29日から11月9日までモロッコ国マラケシュ(Palais des Congre)で開催された。 米国の京都議定書離脱表明にもかかわらず、京都議定書の中核的要素に関する基本的合意(ボン合意)を法文化する文書が採択され、京都議定書の実施に係るルールが決定された。これにより、先進国等の京都議定書批准が促進されることになった。COP7で採択されたものは、7月のCOP6再開会合(於:ボン)で合意された途上国支援に関する決定及び吸収源、遵守、京都メカニズム等に関する決定。これにより、途上国支援のための3つの基金が正式に設立された。
- 環境省地球環境局「気候変動枠組条約第7回締約国会議(COP7)について」
- 全国地球温暖化防止活動推進センター「COP7に関わる動き」
- 【19】地球温暖化対策推進法
- 地球温暖化対策推進法は、1998年10月2日の参議院本会議で可決、10月9日に公布。正式名称は、「地球温暖化対策の推進に関する法律」。 COP3での京都議定書の採択を受け、まず、第一歩として、国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取組むための枠組みを定めたもの。温暖化防止を目的とし、温室効果ガスの6%削減を達成するために、国、地方公共団体、事業者、国民の責務、役割を明らかにしている。 2001年11月のCOP7(モロッコのマラケシュ)における京都議定書の運用細目にかかわる合意を受け、京都議定書締結の承認とこれに必要な国内担保法の成立のために、2002年6月に一部を改正する法律が制定されている。これにより、京都議定書目標達成計画の策定、計画の実施の推進に必要な体制の整備、温室効果ガスの排出の抑制等のための施策等を定めることとされている。
- 環境省地球環境局「地球温暖化対策推進法について」
- 環境省地球環境局「京都議定書の締結及び温暖化法の一部改正(法)について」
- 【20】地球温暖化対策大綱
- 日本における、京都議定書の約束を履行するための具体的裏付けのある対策の全体像を明らかにしている基本方針。政府等の100種類を超える個々の対策・施策のパッケージをとりまとめたもの。 地球温暖化対策推進法改正における京都議定書目標達成計画は、新大綱(2002年)を基礎として策定される。基本的な考え方として、「環境と経済の両立」「ステップ・バイ・ステップ アプローチ(節目の進捗見直し)」「各界・各層が一体となった取り組みの推進」「地球温暖化対策の国際的連携の確保」を方針におく。 ただし、あくまで大綱であり、方針を示してはいるものの、具体的な実施方法については各個別法に譲るので、その充実いかんにより、目標達成の実現が決せられるものであることに留意しておきたい。
- 環境省地球環境局「新たな地球温暖化対策推進大綱の決定について」
- 【21】第二約束期間
- 京都議定書における数値目標は2008年〜2012年の「第一約束期間」に設定されており、これに引き続く2013年〜2018年を「第二約束期間」と呼ぶ。この数値目標交渉が2005年から2007年までの間に行われることになっている。 なお、第一約束期間では、温室効果ガスの削減への取り組みの第一段階として、締約国の温室効果ガス総排出量を1990年から少なくとも5.2%を削減しなければならないと規定されている。日本には、第一約束期間の5年間における温室効果ガスの平均排出量を、基準年(CO2、CH4、N2Oついては1990年、HFC、PFC、SF6については1995年)の排出量から6%削減するという目標が割り当てられている。
- 環境省総合環境政策局「温暖化対策税制の検討状況について」
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なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。
参考 南九研時報41号(平成15年9月)(予定)・南九研時報34号(平成14年6月)
(執筆終了9月23日・文:久野武、編集終了9月末日)
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