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No.268

Issued: 2018.06.28

中国発:「生態環境を前面へ」2017年中国環境白書を読む

目次
大気質の状況
水質の状況
沿岸海域の状況
その他環境の状況等
さいごに

2018年4月16日に行われた生態環境部看板除幕式

2018年4月16日に行われた生態環境部看板除幕式

 2018年5月31日、中国環境白書(「2017年中国生態環境状況公報」)が発表された。今回から「生態環境状況公報」と名前を変え、新たに「生態」の2文字が加わった(これまでは「環境状況公報」)。第13次5ヵ年計画期間(2016-20年)に入ってから、5カ年計画をはじめとしてこれまでの「環境」から「生態環境」へと名を変えるものが相次ぎ、2018年3月に開催された全国人民代表大会(日本の国会に相当)では政府の機構改革が審議され、これまでの環境保護部(「部」は日本の「省」に相当)を再編拡充して4月に新たに生態環境部が誕生した。生態環境部ではこれまで国家発展改革委員会が所管していた気候変動対策(温室効果ガスの排出削減や二酸化炭素排出権取引など)も所掌することになった。
以下、大気質及び水質を中心に白書のポイントを整理してみた。


大気質の状況

全国の状況

【表1】2017年全国338都市大気環境基準達成状況(年平均基準値等を達成した都市の割合。下段()内は2016年データ)出典:2016〜17年中国生態環境状況公報等をもとに筆者作成、※黄砂の影響を除外して計算。

【表1】2017年全国338都市大気環境基準達成状況(年平均基準値等を達成した都市の割合。下段()内は2016年データ)出典:2016〜17年中国生態環境状況公報等をもとに筆者作成、※黄砂の影響を除外して計算。[拡大図

 2017年、全国の338都市のうち、環境基準(国家2級基準)を完全に達成できたのは99都市(29.3%)で[*1]、残りの239都市(70.7%)では6つの評価項目[*2]のうちいずれかの項目が基準を超過した。基準の各項目別の達成状況は表1のとおりである。微小粒子状物質(PM2.5)の達成率が一番悪く(35.8%)、全体の基準達成率が悪い(29.3%)主要な原因になっている。
また、全体として改善が進む中で、オゾンの達成率だけが悪化の傾向にある(82.5%→67.8%)のが特徴である。


[*1]砂塵嵐(黄砂)の影響のあった日を除外した達成率。除外しない場合は27.2%。
[*2]二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)、総粒子状物質(PM10)、微小粒子状物質(PM2.5)、一酸化炭素(CO)及びオゾン(O3)の6項目で、SO2、NO2、PM10及びPM2.5は年平均値、COは日平均値の年間95パーセンタイル値、O3は日最大8時間平均値の年間90パーセンタイル値で基準達成状況が評価される。

重点都市等の状況

【表2】2017年全国74都市大気環境基準達成状況(年平均基準値等を達成した都市の割合。下段()内は2016年データ)出典:2016〜17年中国生態環境状況公報等をもとに筆者作成

【表2】2017年全国74都市大気環境基準達成状況(年平均基準値等を達成した都市の割合。下段()内は2016年データ)出典:2016〜17年中国生態環境状況公報等をもとに筆者作成[拡大図

 2013年初から継続して同一方法でモニタリングしている重点都市等74都市のモニタリング結果を見てみると、表2のとおりである。338都市の集計結果同様PM2.5の達成率が一番悪くなっている(25.7%)。また、オゾンの達成率の悪化が著しい(62.2%→35.1%)。
2013年度以降の変化を見るとオゾンを除き、全体としては徐々に改善傾向にあることがわかる(2013-16年度の結果はこちら→2013-2014年度2015-2016年度


優良天気の割合

【図1】2017年全国338都市環境大気質汚染程度別割合 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成

【図1】2017年全国338都市環境大気質汚染程度別割合 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成[拡大図

 一方、これとは別に優良天気の割合(日平均値の環境基準の年間達成割合等)を見たものが図1である。図中の優及び良の合計値(78.0%)が6項目の環境基準をすべて達成した日数の割合である。全国平均で見ると、1年のうち約8割の日が環境基準を達成していることになる。前年とほぼ同様な状況であった。


酸性雨

【図2】2017年全国酸性雨地域分布 出典:2017年中国生態環境状況公報

【図2】2017年全国酸性雨地域分布 出典:2017年中国生態環境状況公報[拡大図

 酸性雨については、463の都市でモニタリングが行われ、酸性雨が発生した都市の割合は36.1%を占めた。また、酸性雨の発生頻度が25%以上の都市の割合は16.8%、50%以上の都市の割合は8.0%、75%以上の都市の割合は2.8%であった。年々低下傾向が見られる。
酸性雨が発生した面積は約62万km2で、国土面積の6.4%を占めた。酸性雨の主要分布地域は長江以南から雲南省・貴州省高原地域以東、浙江省・上海市の大部分の地域、江西省中北部などに分布している。(図2)。


水質の状況

全体状況

【図3】2017年全国主要流域(10流域)水質類型別割合 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成

【図3】2017年全国主要流域(10流域)水質類型別割合 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成[拡大図

 第13次5カ年計画期間から、即ち2016年から河川及び湖沼(ダム)の基準達成状況評価対象とする全国の測定地点(国が管理評価する地点)を見直し、これまでの972カ所から1,940カ所に大幅増加した。2017年も1,940カ所で測定された。結果は次のとおりであった。
飲用水として利用可能なⅠ〜Ⅲ類の水質の割合の合計は67.9%で、前年より0.1ポイント上昇した。Ⅳ〜Ⅴ類の水質の割合の合計は23.8%で、同じく前年より0.1ポイント上昇した。Ⅴ類を超えるもの(劣Ⅴ類)は8.3%で、前年より0.3ポイント下降した。
 長江流域、黄河流域など全国主要流域(10流域)の1,617カ所の国が管理評価する測定地点における水質の状況は、図3に示すとおりであった。長江、珠江流域などの水質は良好、黄河、松花江流域などの水質は軽度の汚染、海河流域の水質は中度の汚染であった。


重要湖沼(ダム)

【図4】2017年重要湖沼・ダム水質類別分布 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成

【図4】2017年重要湖沼・ダム水質類別分布 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成[拡大図

 全国112の重要湖沼(ダム)の水質汚染状況は表3及び図4のとおりである。飲用に適するⅠ〜Ⅲ類(優、良好)の湖沼(ダム)は70で、Ⅳ類(軽度汚染)は22、Ⅴ類(中度汚染)は8、Ⅴ類を超えるもの(重度汚染)は12であった。主要な汚染指標は全リン、COD及び過マンガン酸塩指数であった。こちらも2016年から対象とする重要湖沼(ダム)を見直しており、それまでの62から112へ50湖沼(ダム)増加した。2012年からの変化の状況は表3に記した。
なお、重度汚染に分類された12湖沼(ダム)のうち6箇所の湖沼は、フッ化物濃度が高い、高PHなどバックグランド(自然)汚染が原因と説明されている。

【表3】2017年重要湖沼・ダム水質状況 出典:2012-17年中国(生態)環境状況公報をもとに筆者作成

【表3】2017年重要湖沼・ダム水質状況 出典:2012-17年中国(生態)環境状況公報をもとに筆者作成[拡大図



地下水

【図5】2017年全国地下水水質類型別割合 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成

【図5】2017年全国地下水水質類型別割合 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成[拡大図

 モニタリングを行った全国5,100カ所の地下水モニタリングポイント中、優良・良好・比較的良好な水質のモニタリングポイントの割合はそれぞれ8.8%、23.1%、1.5%で、比較的悪い・非常に悪い水質状態のモニタリングポイントの割合はそれぞれ51.8%、14.8%であった(図5)。


沿岸海域の状況

【図6】2017年全国沿岸海域水質類型別割合 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成

【図6】2017年全国沿岸海域水質類型別割合 出典:2017年中国生態環境状況公報をもとに筆者作成[拡大図

 全国の沿岸海域の水質は、国がコントロールする観測点(国設測定局)417地点のデータについて海水水質基準のクラス別にみると、Ⅰ類に適合するものが34.5%、Ⅱ類33.3%、Ⅲ類10.1%、Ⅳ類6.5%、Ⅳ類を超えるもの15.6%であった(図6)。主要な汚染物質は無機窒素と活性リン酸塩であった。


その他環境の状況等

 以上紹介したほか、2016年白書では土地、自然生態、騒音、放射線、気候変化と自然災害、インフラ施設とエネルギーについての記載があるが、本記事では割愛させていただいた。


さいごに

 今年の白書を読んでみて、データの分析評価が少し緻密になってきたと感じるところがあった。例えば、大気汚染のデータでは、基準の達成状況の評価に当たり砂塵嵐(黄砂)の影響があった日のデータは除外して評価している点などだ。砂塵嵐が吹くと粒子状物質濃度が高くなることはよく知られている。また、湖沼の水質評価に当たっても自然由来の汚染については注釈を付けている。
これは、環境汚染に対する責任が地方政府に重くのしかかっていることとも深く関係するだろう。最近の中国では、環境改善が進まなければその地域(水域)を管理する地方政府の責任者が問責処分を受ける仕組みが出来上がりつつあり、自然由来の汚染にも敏感になったためであろう。


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記事・図版・写真:小柳秀明

〜著者プロフィール〜

小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
1977年
環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
1997年
JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
2000年
中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
2001年
日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
2003年
JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
2004年
JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
2006年
3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
2006年
4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
2010年
3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。

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