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No.195

Issued: 2011.07.07

中国発:2010年中国環境白書を読む

目次
2010年白書、9のポイント
2010年の環境汚染状況
第12次5カ年計画期間中の重点対策は?
最後に

2010年中国環境白書発表の様子(中国環境保護部HPから)

2010年中国環境白書発表の様子(中国環境保護部HPから)

 2011年6月3日、今年の中国環境白書(「2010年中国環境状況公報」)が発表された。
 同日に行われたプレスリリースでは、環境保護部李干傑副部長(副大臣に相当)が白書の9のポイントについて総括している。2010年中国環境白書の要点を過去の傾向と比較しながらまとめてみた。

2010年白書、9のポイント

 白書では冒頭で2010年に講じた各種の措置の成果について、次のように総括している。

[1]主要汚染物質排出削減任務は目標を上回って達成
 化学的酸素要求量(COD)二酸化硫黄(SO2排出量は2005年に比べてそれぞれ12.45%、14.29%低下し、両方とも第11次5カ年計画で定められた削減任務(注:2005年比で10%削減)を上回って達成した(表1)。
 環境インフラ施設(注:下水処理場排煙脱硫装置など)の建設は猛烈な勢いで進み(図1、2)、立ち遅れた生産能力(注:古い効率の悪い生産設備)の淘汰は空前の規模で行われ、環境質は継続的に改善された。
(注)表1及び図1、2は筆者が参考のために挿入したもの。

表1 汚染物質排出削減実績
  二酸化硫黄(SO2) 化学的酸素要求量(COD)
2006年 +1.55% +0.99%
2007年 -4.66% -3.24%
2008年 -5.95% -4.42%
2009年 -4.60% -3.27%
2010年 -1.32% -3.09%
2010年末までの累計 対2005年比 -14.29% 対2005年比 -12.45%

中国政府発表資料等をもとに筆者作成。割合(%)は特に断りがない限り前年比


【図1】第11次5か年計画期間、都市下水処理場整備の推移
[拡大図]

【図2】第11次5か年計画期間、脱硫装置整備の推移
[拡大図]

【写真】農村環境総合整備事業の一環として整備されるミ箱(新彊ウイグル自治区の農村で筆者撮影)

[2]環境保護の向上と経済発展の総合作用は日増しに出現
 環渤海、海峡西岸、北部湾など5大地域重点産業発展戦略に係る環境影響評価が完成した。各プロジェクトの環境影響評価は絶えず深化し、要求に適合しない59のプロジェクトの受理・審査却下、環境影響評価報告書の差し戻しを行った。これらプロジェクトの総投資額は904億元に上った。

[3]重点流域・地域の汚染防止対策を絶えず強化
 河川・湖沼を“休養生息”させる措置を強化し、2009年度重点流域計画執行状況の審査評価を実施した。
 関係部門が連携して地域の汚染連携防止メカニズムを構築整備し、国務院弁公庁は「大気汚染連携防止業務の推進と地域の大気質改善に関する指導意見」を発出した。上海万博、広州アジア大会の大気質保障任務を円満に完成した。

[4]人びとの健康に損害を与える突出した環境問題の解決に尽力
 飲用水の安全保障業務及び重金属汚染対策を全面的に展開した。中央財政部門は重金属汚染防止対策専門項目を新たに設け、2010年に初めて重金属汚染防止対策専門資金15億元を準備し、重点防止地域の総合対策、新技術モデル及びその普及を支持した。環境法執行の監督を絶えず強化し、突発環境事件に適切に対処することができた。

[5]農村の環境保全と自然生態保護業務を継続して強化
 農村環境の整備モデルを展開するとともに、国際生物多様性年の活動を組織化し、生態建設モデル地域業務体系を完成させた。

[6]環境保護の基礎的戦略的業務に大きな成果
 中国環境マクロ戦略研究が円満に完成し、戦略研究総合報告及び専門報告等の一連の重要な成果をまとめた。水汚染コントロールと対策科学技術重大専門プロジェクトは攻めの段階に入った。

[7]政策法規、環境保全計画、環境モニタリング及び国際協力を着実に推進
 環境法規を絶えず改善し、環境経済政策の役割は日増しに効果が現れ、第11次5カ年計画執行状況中期評価は順調に完成した。科学技術をさらに強化し、環境モニタリング業務を加速推進し、国際環境協力は顕著な成果を上げた。

[8]核と放射線安全監督管理レベルが上昇
 核エネルギーと核技術利用の安全状況は良好で、放射性汚染防止対策業務を着実に展開した。全国の放射線環境質状況は良好な状態を維持している。

[9]環境保護キャパシティビルディングをさらに強化
 環境保護キャパシティビルディングは積極的に進展し、環境保護系統の組織機構の整備が進展した。


2010年の環境汚染状況

 同じく白書の冒頭で2010年の環境汚染の状況について次のように総括している。この総括は2009年と全く同じであり変化はみられない。
(1)表流水の汚染は依然として比較的深刻な状況にあり、7大水系は全体として軽度の汚染状態であり、湖沼(ダム)の富栄養化問題は突出し、沿岸海域の水質も全体的にみれば軽度の汚染状態にある。
(2)都市の大気質は全体的にみれば良好であり、酸性雨の分布地域に変化はない。
(3)都市騒音は全体的には比較的良い状況にある。

 それでは次に、白書の各論をもとに具体的な汚染状況の概要について見てみることにする。

水質汚染の状況

【図3】2010年七大水系水質類別割合比較移

【図4】中国の七大水系

 7大水系(長江、黄河、珠江、松花江、淮河、海河、遼河)の汚染状況を見たのが図3である。図中の水質分類のうちI〜III類は飲用水として利用可能な水質である。204の河川(本川及び支川)の409か所で国が直接管理する測定断面でのモニタリング結果は、I〜III類が59.9%、IV・V類が23.7%、劣V類(V類より劣る)が16.4%となっている。主要な汚染物質(指標)は過マンガン酸塩指数(COD-Mn)、生物化学的酸素要求量(BOD)及びアンモニア性窒素(NH3-N)であった。南方地域にある水量が豊富な長江と珠江の水質は比較的良好であるが、松花江と淮河は軽度の汚染、黄河と遼河は中度の汚染、海河は重度の汚染であるとしている(河川の位置は図4参照)。これらの傾向は2009年と変わりない。
 また、国が直接管理する26の重点湖沼(ダム)の汚染状況は表2及び図5のとおりであり、飲用に適するII〜III類の湖沼はわずかに6で残り20はIV類以下であった。全体的に窒素及びリンを主因とする富栄養化が進んでおり、重度の富栄養化した湖沼は1(雲南省のデン池)、中度の富栄養化した湖沼は2、軽度の富栄養化した湖沼は11、その他は中栄養の状態であった。


表2 2010年重点湖沼・ダム水質類別
湖沼ダム類型 個数 I類 II類 III類 IV類 V類 劣V類
三湖(太湖、デン池、巣湖) 3 0 0 0 0 1 2
大型淡水湖 9 0 0 3 0 3 3
都市内湖 5 0 0 0 2 1 2
大型ダム 9 0 1 2 2 1 3
総計 26 0 1 5 4 6 10

主要な汚染指標は全窒素、全リン 出典:2010年中国環境状況公報をもとに筆者作成

【図5】2010年26重点湖沼・ダム水質類別分布

【図5】2010年26重点湖沼・ダム水質類別分布

2011年3月に訪れたデン池の水質は以前より若干改善されていた(筆者撮影)

2011年3月に訪れたデン池の水質は以前より若干改善されていた(筆者撮影)


大気汚染の状況

 都市の大気汚染の状況については二酸化硫黄(SO2二酸化窒素(NO2及び粒子状物質の3項目についてモニタリングが行われている。まず、全国471の県級レベル以上の都市でのモニタリング結果は図6のとおりであり、3級基準(特定工業地区に適用される最も緩い基準)にも達していない都市数は8となっている。
 酸性雨の分布状況は図7のとおりである。494の市・県でモニタリングが行われ、249の市・県で酸性雨が出現した(50.4%)。このうち酸性雨の発生頻度が75%以上の市・県は54で11.0%を占めた。

【図6】2010年全国471県級以上の都市 大気環境基準達成状況

【図6】2010年全国471県級以上の都市 大気環境基準達成状況

【図7】2010年全国酸性雨地域分布

【図7】2010年全国酸性雨地域分布


廃棄物・主要汚染物質の排出状況

 全国の工業固体廃棄物(日本の産業廃棄物に概ね相当)の発生量は18.1%増え、約24.1億トンに達した。図8からわかるように毎年増加の一途をたどっている。
 一方、主要な汚染物質である化学的酸素要求量(COD)と二酸化硫黄(SO2)の全国総排出量は前年比でそれぞれ3.09%、1.32%低減した(図9、10)。

【図8】工業固体廃棄物発生量の推移

【図8】工業固体廃棄物発生量の推移

【図9】化学的酸素要求量排出量の推移

【図9】化学的酸素要求量排出量の推移

【図10】二酸化硫黄排出量の推移

【図10】二酸化硫黄排出量の推移


第12次5カ年計画期間中の重点対策は?

 プレスリリースを行った李干傑副部長は第12次5カ年計画期間中に取り組むべき主要な業務として以下の点を強調している。

  1. 第12次5カ年計画期間中環境保護部は、(1)飲用水の安全、(2)大気汚染、(3)重金属汚染、(4)土壌汚染、のような突出した問題に重点を置くことで準備をしている。
  2. 河川湖沼を“休養生息”させる措置を引き続き堅持し、問責審査を厳格にし、飲用水水源地保護を堅持し、重点流域の水汚染防止対策を推進する。全国重点都市の飲用水水源地の環境状況評価を強化し、都市飲用水水源地の環境保護計画を実施する。
  3. 地域大気汚染連携防止の新メカニズムを完全なものとし、大気環境質の改善に努力する。12次5カ年計画重点地域の大気汚染連携防止計画制定実施予定であり、北京天津河北、長江デルタ、珠江デルタを含む重要地域の大気汚染連携防止業務を大いに推進する。同時に自動車汚染防止制度を健全なものにしていく。
  4. 11次5カ年計画での成功の基礎の上に立って、汚染物質総量削減業務を引き続き推進する。多種類の汚染物質の総合的同時削減を実施する。12次5計では総量削減する汚染物質を2種類から4種類に増やした。(立ち遅れた生産能力の淘汰等)構造調整による削減を中心にした上で、さらにプロジェクト実施による削減と管理による削減を継続強化する。県政府が建設する汚水処理場プロジェクトを全面的にスタートさせ、家畜・家禽養殖場からの汚染物質排出削減、農業分野の汚染物質排出削減を進める。
  5. 民生に関係する突出した環境問題を解決する。今年の業務の重点は、汚染物質排出削減重点産業の監督管理の強化と重点産業の重金属汚染対策。

最後に

 白書では2010年の汚染物質排出削減目標は無事達成できたが、新たな5カ年計画の下で環境改善への要求はなお高く2015年目標に向かってさらに高いハードルが待っていることを明らかにした。
 前回も紹介したが、中央政府は省エネ・環境保護実施のための2011年度支出として1,591億8,500万元(約2兆円)(前年比10.3%増)を計上している。その具体的な内訳は、省エネ・排出削減資金として945億元、太陽光発電プロジェクト等再生可能エネルギー利用・リサイクル推進に122億元、天然林資源保護プロジェクト推進に140億8,400万元、生態系復元プロジェクト実施・耕地の森林への復元成果の定着に327億元などとなっている。第12次5カ年計画下で中国の環境対策はますます本格的になってきているといえよう。

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写真・図表・記事:小柳秀明

〜著者プロフィール〜

小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
1977年
環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
1997年
JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
2000年
中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
2001年
日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
2003年
JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
2004年
JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
2006年
3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
2006年
4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
2010年
3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。

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