No.262
Issued: 2017.06.30
中国発:「量から質重視へ」2016年中国環境白書を読む
2017年6月5日、恒例になった中国環境白書(「2016年中国環境状況公報」)が発表された。第13次5ヵ年計画期間(2016-20年)に入って最初の環境白書だ。今回の白書はこれまでのものと比べてコンパクトな編集になっているのが特徴だ。具体的には、
[1] 講じた施策などを解説するコラム欄が廃止され、環境質の状況に関する記述中心の編集になった。特に大気質、水質状況に関する記述が充実。
[2] これまで10年間重視してきた主要汚染物質排出総量の削減状況に関する記述がなくなった。
ことがあげられる。
第13次5カ年計画では、主要汚染物質排出総量の削減だけでなく、たとえば5年間でPM2.5の平均濃度を18%以上低下させるなど実際に環境濃度を低下させることを目標に掲げ、質重視の方針を打ち出したが、白書の編集もこれを反映したものと言えよう。また、昨年5月の中国環境保護部の組織改編に伴い、汚染物質排出総量抑制司(「司」は日本の「局」に相当)を廃止したことも関係しよう。
以下、大気質及び水質を中心に白書のポイントを整理してみた。
大気質の状況
(全国の状況)
2016年、全国の338都市のうち、環境基準(国家2級基準)を完全に達成できたのは84都市(24.9%)で、残りの254都市(75.1%)では6つの評価項目【*】のうちいずれかの項目が基準を超過した。基準の各項目別の達成状況は表1のとおりである。微小粒子状物質(PM2.5)の達成率が一番悪く(28.1%)、全体の基準達成率が悪い(24.9%)主要な原因になっている。
【*】二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)、総粒子状物質(PM10)、微小粒子状物質(PM2.5)、一酸化炭素(CO)及びオゾン(O3)の6項目で、SO2、NO2、PM10及びPM2.5は年平均値、COは日平均値、O3は日最大8時間平均値で基準達成状況が評価される。
(重点都市等の状況)
2013年度から継続して同一方法でモニタリングしている重点都市等74都市のモニタリング結果を見てみると、表2のとおりである。338都市の集計結果同様PM2.5の達成率が一番悪くなっている(18.9%)。ただし、2013年度以降の変化を見ると徐々に改善傾向にあることがわかる。(2013-14年度の結果はこちら)
(優良天気の割合)
一方、これとは別に優良天気の割合(日平均値の環境基準の年間達成割合等)を見たものが図1である。図中の優及び良の合計値(78.8%)が6項目の環境基準をすべて達成した日数の割合である。全国平均で見ると、1年のうち約8割の日が環境基準を達成していることになる。
(酸性雨)
酸性雨については、474の都市でモニタリングが行われ、酸性雨が発生した都市の割合は38.8%を占めた。また、酸性雨の発生頻度が25%以上の都市の割合は20.3%、50%以上の都市の割合は10.1%、75%以上の都市の割合は3.8%であった。この数年間で低下傾向が見られる。また、酸性雨が発生した面積は約69万km2で、国土面積の7.2%を占めた。酸性雨の主要分布地域は長江以南から雲南省・貴州省高原地域以東に分布している。(図2)。
水質の状況
(全体状況)
第13次5カ年計画期間から、即ち2016年から河川及び湖沼(ダム)の基準達成状況評価対象とする全国の測定地点(国が評価する地点)を見直し、これまでの972カ所から1,940カ所に大幅増加した。
2016年、I類の水質の割合は2.4%、II類は37.5%、III類は27.9%、IV類は16.8%、V類は6.9%、V類を超えるもの(劣V類)は8.6%であった。河川の主要な汚染指標は化学的酸素要求量(COD)、生物化学的酸素要求量(BOD)及び全リンであった(図3)。
なお、水質分類のうちI〜III類は飲用水として利用可能な水質である。
(重要湖沼(ダム))
全国112の重要湖沼(ダム)の水質汚染状況は表3及び図4のとおりである。飲用に適するI〜III類(優、良好)の湖沼(ダム)は74で、IV類(軽度汚染)は23、V類(中度汚染)は6、V類を超えるもの(重度汚染)は9であった。主要な汚染指標は全リン、COD及び過マンガン酸塩指数であった。こちらも2016年から対象とする重要湖沼(ダム)を見直し、これまでの62から112へ50湖沼(ダム)増加した。
(地下水)
モニタリングを行った全国6,124カ所の地下水モニタリングポイント中、優良・良好・比較的良好な水質のモニタリングポイントの割合はそれぞれ10.1%、25.4%、4.4%で、比較的悪い・非常に悪い水質状態のモニタリングポイントの割合はそれぞれ45.4%、14.7%であった(図5)。
沿岸海域の状況
全国の沿岸海域の水質は、国がコントロールする観測点(国設測定局)417地点のデータについて海水水質基準のクラス別にみると、I類に適合するものが32.4%、II類41.0%、III類10.3%、IV類3.1%、IV類を超えるもの13.2%であった(図6)。主要な汚染物質は無機窒素と活性リン酸塩であった。
その他環境の状況等
以上紹介したほか、2016年白書では土地、自然生態、騒音、放射線、交通とエネルギー、気候と自然災害についての記載があるが、本記事では割愛させていただいた。
さいごに
環境統計の進展により白書での記載内容は年々充実してきているものの、各種統計データの集計方法、基準となる考え方、母集団等に変化がみられるので、経年変化が追いかけにくく、時には連続性がなくなっていることに注意する必要がある。
今回の白書では、冒頭紹介したように主要汚染物質排出総量に関する記述がなくなったが、参考までに筆者が昨年度までの白書や中国環境統計年鑑をもとに作成したSO2とCODの排出量の経年変化について、筆者がとりまとめたものを図7及び図8に示しておく。
関連Webサイト
- 2016年中国環境状況公報(中国語)
- 2015年中国環境白書から
- 【第243回】中国発:深刻な環境汚染に改善の兆し―2014年中国環境白書を読む
- 【第234回】中国発:2013年中国環境白書を読む
- 【第221回】中国発:2012年中国環境白書を読む
- 【第208回】中国発:2011年中国環境白書を読む
- 【第200回】中国発:第12次5カ年計画下の重要環境政策文書出揃う
- 【第195回】中国発:2010年中国環境白書を読む
- 【第178回】中国発:金融危機下で環境保全を前面に−2009年中国環境白書を読む
- 中国の環境保護行政が自信をつけた1年―2008年中国環境白書を読む
- 中国の環境データは信用できる?―2007年中国環境白書を読む
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記事・図版・写真:小柳秀明
〜著者プロフィール〜
小柳秀明 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
- 1977年
- 環境庁(当時)入庁、以来約20年間にわたり環境行政全般に従事
- 1997年
- JICA専門家(シニアアドバイザー)として日中友好環境保全センターに派遣される。
- 2000年
- 中国政府から外国人専門家に贈られる最高の賞である国家友誼奨を授与される。
- 2001年
- 日本へ帰国、環境省で地下水・地盤環境室長、環境情報室長等歴任
- 2003年
- JICA専門家(環境モデル都市構想推進個別派遣専門家)として再び中国に派遣される。
- 2004年
- JICA日中友好環境保全センタープロジェクトフェーズIIIチーフアドバイザーに異動。
- 2006年
- 3月 JICA専門家任期満了に伴い帰国
- 2006年
- 4月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所開設準備室長 7月から現職
- 2010年
- 3月 中国環境投資連盟等から2009年環境国際協力貢献人物大賞(International Environmental Cooperation-2009 Person of the Year Award) を受賞。
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