一般財団法人環境イノベーション情報機構

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.184

Issued: 2010.11.11

COP10の残したもの〜名古屋議定書 愛知ターゲット〜

目次
議定書とターゲットの採択
今後の展開

最終日に議事を進行する松本環境大臣

 生物多様性条約第10回締約国会議、通称COP10が10月に愛知県名古屋市で開催され、無事に閉幕しました。外務省の発表【1】では179の締約国の代表と13,000人以上が参加し、参加者の上でも、交渉された内容についても、その歴史上、最重要クラスの生物多様性条約の締約国会議となりました。その活動を数多くのボランティアや地域の方々が支えていました。
 「街行く人がこんなにCOPのことを知っているのは初めて」(前回の会議を開催したドイツ)、「タクシーの運転手まで利益配分の話をしていた」(国連関係者)、「途上国を代表して感謝」(マレーシア代表)など、海外のゲストや国連職員も愛知・名古屋の暖かいホスピタリティに感謝していました。
 ただ会議の交渉は、大変厳しいものとなりました。結果として、恒例となっている深夜までの交渉が行なわれただけではなく、その幕切れも10月30日の未明、名古屋議定書の交渉が議長提案の採択という劇的なものとなりました。作業部会では調整がつかず、最終日に議長が政治的決着に持ち込んだというのは、過去のCOPや国連の会合でもかなり珍しい、大胆な賭けでしたが、松本環境大臣は採択の木づちを下ろすことに成功しました。


NGOブース

会場のパネル

議定書とターゲットの採択

 主要な成果として、「名古屋−クアラルンプール補足議定書」、2010年以降の生物多様性保全の目標を定めた「愛知ターゲット」、遺伝資源へのアクセスと利益配分についての「名古屋議定書」が誕生しました。無事に日本の開催地の名前のついた議定書やターゲットができたのです。
 今回採択された2つの議定書について、一つは、「(責任と救済に関する)名古屋・クアラルンプール補足議定書」という、カルタヘナ議定書の追加的な議定書となっています【2】
 これは、遺伝子組換え生物の国境を越える移動から生物多様性に損害を与えた場合の責任とその賠償に関する取り決めを定めるものになっています。
 「愛知ターゲット」は、主に2020年(一部2015年や2050年の長期目標もあり)に向けて、生態系の保全を中心とした目標となっています。生物多様性の認識を高めていくこと、持続可能な漁業を促進していくこと、絶滅危惧種のなかでももっとも減退している種の保全状況を改善していくこと、悪化した生態系の15%以上を回復すること、陸地については17%、海域については10%を保全していくこと、など特定しやすい数値目標や2020年や2010年までといった期限が付いていることが特色となっています。
 資金については、生物多様性関連の資金援助についても増量していくことが掲げられましたが、例えば政府開発援助(ODA)を10倍・100倍といった数値は取り下げられました。

COP10開会式

コンタクトグループと呼ばれる小グループでの議論


 もう一つの名古屋議定書、正式には「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する名古屋議定書」とは、遺伝資源を利用した研究開発やその利益を遺伝資源の提供者と利用者の間で公正かつ衡平に配分に関する規則を定めたものになっています。条約の3つ目の目標について、いよいよ議定書という枠組みの中での議論がスタートする見込みとなりました(今後は署名を開始して50カ国が批准していくプロセスに入っていきます)。
 名古屋議定書をめぐる議論では、連日、発展途上国と先進国の対立についての議論がなされましたが、派生物・加工品を含めるのかどうか、過去の利用に対してどこまで時間的に遡って適用するのか、不正利用があった場合の監視や法の適用をどうするのかといったポイントについて、議論の溝が埋まらない部分も残しながらも、今後も議論が継続していくこととなりました。時間や法の適用についてはある程度先進国にも受け入れられる内容となっている半面、発展途上国が要求した資金のメカニズムが明記され、議定書がスタートした場合に日本が拠出することを約束するなど途上国にも受け入れられる要素が入った内容となっています。

電車のつり革広告

中庭でくつろぐ参加者

今後の展開

閉会式でのジョグラフ事務局長

 地方自治体、企業、そして若者や女性など幅広い層の人々が参画していけるように、さまざまな会合やイベントも開催されました。都道府県や市町村などの自治体にとっては国際自治体会議やその進捗をみていくシンガポール指数もスタートします。
 さらに、若者や児童にとっては、ユースやこども会議が開催されました。さらに産業界にとっても、「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)の最終報告や経団連の生物多様性民間参画イニシアティブなどが発足しました。世界各国の里山と類似したモデルから、伝統的な知識と科学的な知識を融合させていくSATOYAMAイニシアティブもスタートしました。
 決議のなかでも、日本の提唱で今後の10年を国際生物多様性の10年とすることを国連に呼び掛けていくことが決まりました。今後は、生物多様性を知るという段階から、行動したり、他の国々と連携して実施していくことが重要となります。
 まずは直近の12月の気候変動枠組み条約での森林保全などに関わる議論、来年の国際森林年、2012年のインドでのCOPやブラジルでのリオプラス20、2015年のミレニアム開発目標など、さまざまなターゲットや節目を大事にしながら、2020年には着実に愛知ターゲットを達成していく勢いをつけていくことが重要となります。


SATOYAMAイニシアチブイニシアティブのイベントでの弁当

著者


※著者より:関係者・ボランティアの皆様、ありがとうございました。

【1】COP10の開催概要
外務省 生物多様性条約第10回締約国会議の開催について(結果概要)
【2】カルタヘナ議定書について
第020回 生物多様性条約の実施のための知られざる法制度:カルタヘナ議定書

記事・写真:香坂玲・来野とま子

〜著者プロフィール〜

香坂 玲

東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国UEAで修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。
環境と開発のバランス、景観の住民参加型の意思決定をテーマとして研究。
帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学、中央大学研究開発機構の共同研究員、ポスト・ドクターと、2006〜08年の国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授。