一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.072

Issued: 2017.12.20

東京大学名誉教授・福代康夫さんに聞く、海洋における有毒有害生物の移動に伴う生態系への影響やバラスト水規制

福代 康夫(ふくよ やすお)さん

実施日時:平成29年11月20日(木)15:00〜
ゲスト:福代 康夫(ふくよ やすお)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 1948年東京都生まれ。
  • 東京大学農学部水産学科卒業後、大学院農学系研究科水産学専門課程入学。博士課程修了前の1975年に中退し、岩手県の三陸沿岸にある北里大学水産学部の助手となる。
  • 1982年に農学博士の学位取得。1983年より東京大学農学部、1990年助教授に昇任。1995年アジア生物資源環境研究センターに配置換、2003年教授に昇任。魚貝類を毒化させ、食中毒を引き起こす有毒単細胞微細藻類と、赤潮を形成して魚貝類を殺す有害微細藻類の分類、生活史と生態を研究。東南アジアなどの調査研究機関と共同で、発生機構や広域化機構について調査研究をするとともに、被害防除のための監視体制構築の技術的支援と、研究者育成のための国際技術研修会を開催。
  • これら基礎調査研究の成果に基づき、ユネスコ傘下のIOC(政府間海洋学委員会)主催の国際技術研修会に講師として参加・指導、WESTPAC(西太平洋海域小委員会)ではHAB(有害微細藻類研究事業)の代表者として共同調査研究を推進。また、UNEP(国連環境計画)のNOWPAP(北西太平洋地域海行動計画)で実施されている日本海沿岸域における有害微細藻類協同監視事業にも日本代表として実行委員会に参加。また、IMO(国際海事機関)のMEPC(海洋環境保護委員会)に日本代表として「船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約」とその関連各種実施指針の作成にかかわっている
目次
食中毒で子どもを亡くしたフィリピンの漁師のひと言がきっかけに
環境意識の高まりとともにバラスト水の移動による被害に関心が高まる
船舶由来の可能性が高い
海運業界とともに条約や国際的な取り決めの策定を進める
条約の発効は大きな前進
環境を守るお金をみんなで受け入れることを考えてみてほしい

食中毒で子どもを亡くしたフィリピンの漁師のひと言がきっかけに

大塚理事長(以下、大塚)― 本日のインタビューは、東京大学アジア生物資源環境研究センターなどで、長年にわたり海洋における有毒有害生物の発生・広域化の解明や、被害防止のための監視体制の構築について研究されている、福代康夫さんにお越しいただきました。福代さんは、環境省中央環境審議会水生生物保全環境基準専門委員会委員、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)西太平洋地域小委員会副議長など、国内外で広くご活躍で、現在は東海大学客員教授をされておられます。
今年(2017年)の9月、船舶のバラスト水【1】によって海洋環境に影響を及ぼす水生生物の越境移動を防止するための、バラスト水管理条約【2】が発効したことを受けて、外来の海洋有毒有害生物の移動に伴う生態系への影響やその対策について伺いたいと思います。
最初に、福代さんが海洋有毒有害生物、特に食中毒を引き起こす有毒単細胞微細藻類【3】に焦点を当て、研究されてこられたいきさつを教えていただけますか。

福代さん― 大学院生で就職先を探している頃に、岩手県の三陸町(現・大船渡市)に北里大学水産学部ができたので助手として行きました。赴任して3年目に、大船渡湾でホタテガイやカキに高濃度の麻痺性毒が蓄積し、食用に適さなくなるという事件が起こったのです。1961年(昭和36年)に同様の現象があり、その時はアカザラガイ【4】というホタテガイに似た貝による食中毒事件も起こったのですが、その後なかなか研究が進んでおらず、ちょうど私が原因プランクトンの生態や分類が専門だったので、働くことになったのです。

大塚― 北里大学にお勤めの時にはどのような研究をなされたのですか。

福代さん― シガテラ【5】という、今でも世界で毎年2〜3万人が発症する食中毒の原因種の分類と生態を調査したり、フィリピンで、大船渡と同様の食中毒が起こっていることを発見したりしました。

大塚― フィリピンでも起きたのですね。

福代さん― 海で採ってきた貝で子どもを中毒死させてしまった漁師から、「二度と自分のような思いを他の人にさせないように頑張ってくれ」と言われました。考えてみると、この漁師のひと言が研究を続けることになった一番大きなきっかけです。

アカザラガイ(三重大学 木村妙子先生提供)

アカザラガイ(三重大学 木村妙子先生提供)

シガテラの原因と考えられている藻類、Gambierdiscus toxicus(国立環境研究所 河地正伸先生提供)

シガテラの原因と考えられている藻類、Gambierdiscus toxicus(国立環境研究所 河地正伸先生提供)

船舶のバラスト水による外来生物の移動・拡散の概略図
[拡大図]

バラストタンク内の様子

バラストタンク内の様子


環境意識の高まりとともにバラスト水の移動による被害に関心が高まる

ホンビノスガイ(三重大学 木村妙子先生提供)

ホンビノスガイ(三重大学 木村妙子先生提供)

大塚― バラスト水が海洋環境に影響を与えているのではないかと注目されたのはいつ頃でしょうか。

福代さん― 1991年に発行されたIMO(国際海事機関)【6】のニュースレターでは、ヒトデやワカメなど日本起源の生物もリストアップされており、生物移動による生態系かく乱や社会生活への問題を引き起こしているという認識はあったのですが、船にとっては、バラスト水は絶対に必要なものですから、具体的な対策をどうしたらいいかわからないというのが、その当時のIMOを含めた海運界の対応だったのではないかと思います。

大塚― その後、研究が進む中で、バラスト水について明らかになったプロセスをお聞かせください。

福代さん― 2000年前後はWSSD(持続可能な開発に関する世界首脳会議)【7】や、リオデジャネイロで開かれた地球サミットでのアジェンダ21など、環境意識がものすごく高まっていた頃で、国際機関も生態系かく乱の原因の1つとしてバラスト水に関心を持っていました。海運では世界唯一の国際機関であるIMOが、何らかの対策を立てなければいけないという状況になっていたのです。IMOが地球環境ファシリティから資金を得て立ち上げたグローバラスト【8】のホームページには、東アジアからブラジルに運ばれたカワヒバリガイ【9】によって、ブラジル経済が大打撃を受け週に1回は停電しなくてはいけないとか、北米原産のクシクラゲ【10】がカスピ海・黒海に侵入し、カスピ海の漁業が壊滅状態になっている映像レポートが載っています。

大塚― 細菌だけでなく貝などの動植物もバラスト水によって移動する可能性があるのですね。

福代さん― 気がついてみると、結構周りにも例があります。最近もネットサーフィンをしていてびっくりしたのですが、船橋市の漁協直販店のホームページにいくと外来種のホンビノスガイ【11】が特産品で売られているのです。この貝は東京湾内にすでに定着し、漁業の対象となっているのでダメとは言えないけれども、明らかに侵入生物なのです。小学生とこの話をした時、生物種が1種増えたから多様性が多くなっていいじゃないですかと言われたこともあります。

大塚― 難しい話ですね。

福代さん― 生態系を守ろうという話は、往々にして現在の生態系を守ろう、時を今日で止めましょうという話になります。でも、本来はどういう環境が理想なのかという議論が必要です。1年先を見るのか、10年先を見るのか、それとも100年先か。ホンビノスガイが来て、今まで生物がいなかった、酸素の少ない泥地に居着いたから、ある意味、東京湾での特産品が1種類増えてよいことじゃないかなと思う時もあります。本当に難しい話ですね。


船舶由来の可能性が高い

大塚― 原因について、可能性の絞り込みはできているのでしょうか。

福代さん― 船舶由来の可能性が高いのですが、ほとんどが推定証拠です。フィリピンで1983年に大規模な中毒事件を引き起こしたピロディニウム・バハメンセ【12】という学名の有毒単細胞微細藻類がいます。名前から想像できるように、20世紀初頭にバハマで最初に記録された種です。その30年後ぐらいに中近東で、1970年代になってパプアニューギニアで報告され、それから東南アジア、特にインドネシア、フィリピン、マレーシアに広がっていったのです。主に沿岸域に発生し、二枚貝を毒化させて、その貝を食べた人を中毒させる問題を引き起こしています。特にフィリピンやマレーシアのサバ州では広範囲の発生が知られ、過去30年間で200名以上の死者を含む2000名以上の患者を出しています。最初にお話しした、私の貝毒研究に進むきっかけもこの種が原因です。
20世紀初頭から長い間、パプアニューギニアや東南アジアの国は、コプラ【13】をヨーロッパに輸出していました。帰りにスエズ運河を通って紅海でバラストを汲み、パプアニューギニアで排水していたのです。その水の中に中近東の紅海で発生していたピロディニウムが取り込まれ、アジアに運ばれて来ていたのではないかと考えている研究者がおります。私も実際に中近東に行って、ピロディニウムを採集し、遺伝子を調べてアジアに出ているピロディニウムと比較したかったのですが、湾岸戦争などがあって果たせませんでした。
これがバラストで移動した有毒プランクトンの最初の例だと言われています。推定はできるのですが、なかなか学術的な証拠がないのです。

有毒単細胞微細藻類のピロディニウム・バハメンセ(東京大学 岩滝光儀先生提供)

有毒単細胞微細藻類のピロディニウム・バハメンセ(東京大学 岩滝光儀先生提供)

大塚― 陸上の動物だとヒアリなどが大きな話題になっていますが、海洋、特にバラスト水のかく乱についてもう少し詳しくお話いただけますか。

福代さん― バラスト水による侵入生物として話題になっているのは、海産生物だけではなく、ブラジルのカワヒバリガイや、ヨーロッパからアメリカに運ばれたゼブラガイ【14】など淡水生物もあります。淡水産の貝が船体に付着して、大洋を越えるということはあり得ません。しかも、カワヒバリガイもゼブラガイも食用としては無価値なので、積極的に移植することもありません。そうなると、やはりバラスト水が原因と考えられ、それがポイントオブノーリターン(point of no return)を遥かに超えて、原状回復ができない状況になっているということです。

大塚― バラスト水というのは海水かと思っていました。

福代さん― ヨーロッパ、中国、北米あるいはブラジルなどには、河川港が多くあります。ヨーロッパの河川港から、カナダ・アメリカ国境の5大湖に船がそのまま入って排水しますし、そうなると生物が異なる大陸の淡水域から淡水域へと移動している可能性もあります。その状況が、バラスト水処理装置の策定の難しさにもつながっています。海水を電気分解してつくった塩素系の薬剤で生物を殺す装置が作られていたのですが、淡水域で取水する場合は、塩をいつも船に積んでなければいけないという、変な話も出てきています。

琵琶湖のカワヒバリガイ(三重大学 木村妙子先生提供)

琵琶湖のカワヒバリガイ(三重大学 木村妙子先生提供)

ゼブラガイ(三重大学 木村妙子先生提供)

ゼブラガイ(三重大学 木村妙子先生提供)


海運業界とともに条約や国際的な取り決めの策定を進める

大塚― 産業界への影響もIMOを中心とする条約作りの後押しになっていると聞いています。国際条約や国際的な取り決めの策定過程について、お話いただけますか。

福代さん― IMOにはバラスト水管理条約策定以前には生物を対象にした条約を作った経験がありません。立場によって主張がまったく異なるし、海運業界はまったく受け身の立場で、自分たちが加害者ではあるけれども、どうしたらよいのかわかりませんでした。
バラスト水には、コレラのような病原菌からワカメのような海藻、赤潮を起こすような単細胞の藻類、魚の卵など多種多様な生物が含まれます。バラストの取水口には、ゴミが入らないようにだいたい1センチくらいの目の網が張ってあるのですが、1センチより小さいものは入り込みます。時には、網を通るほど小さかったカニがバラストタンクの中で成長することもありうるわけです。総合的に防ぐには、どうしたら良いか、IMOにいた時に海運関係の方からずいぶん聞かれました。

大塚― 1センチとかはかなり大きいですね。対応策はどのように話し合われたのでしょうか。

福代さん― 2002年頃までは、船で電力が限られている中で効率良くろ過をするということでコンセンサスが得られていました。今、条約では10ミクロン以上の生物が殺滅対象になっていますが、ろ過でそれより大きいものを殺せば良いのではないかというコンセンサスが一時期できました。それから、もう1つ、通常の海運のオペレーションは変えないというのが大原則でした。バラスト水処理をするために、一日長く停泊することは考えられないと、海運関係者から要望されたのです。

大塚― それは世界共通ですか。

福代さん― 世界共通です。例えば、ノンバラスト船というアイディアが日本にありました。ノンバラスト船とは、バラスト水を持たないのではなく、いつでもずっと持っているタイプの船で、安定を良くするために船の横幅が今より広がります。ところが、港にある荷積み、荷卸しのクレーンは現在の船の幅で設計してあるから、幅の広い船では施設を変えなければ利用できません。これではダメなんですね。
そんな中で、突然10ミクロン以下のバクテリアの話が出てきたわけです。2002年頃だったろうと思います。コレラ菌がアメリカのアラバマ州の港から中米に運ばれたという事例です。コレラ菌も処理対象、殺滅対象にしなければいけないとブラジルが言い出し、コレラが蔓延した中南米の国はこぞって賛成したのです。それまで、ろ過だけを考えていた処理法の前提が崩れてしまったのです。それで、条約で規定する処理方法に化学処理、またはUV照射【15】が必須となりました。

条約の発効は大きな前進

バラストタンク内の生物調査

バラストタンク内の生物調査

大塚― 薬剤が出てきたのはこの時が初めてですか。

福代さん― いえ、薬剤使用の案は議論の開始時からあり、ビタミンKなどかなりいろいろなものが提案されていました。ただ、薬剤使用の問題は2点あります。1点目は値段です。2点目は、国際航路の船が入るすべての港で薬剤を補充する準備が整っていなければならず、もしそうでなければ補充できる港に迂回しなければないことです。これは先ほどお話した海運のしきたりを変えることになりますから、薬剤単独は無理だろうということで、その他の方法(UV照射)も併せて検討されました。

大塚― バラスト水の管理条約では、具体的な処理方法も取り決めたのですか。

福代さん― 処理方法自体は、物理処理や化学処理など開発に携わる人が得意な方法を考えることであるとして、IMOが具体的方法を示したことはありません。ただ、処理後にバラスト水に含まれている生物量の基準を決め、それ以下になる方法であればどのような方法でもいいということになっています。すなわち、処理後に排出するバラスト水の中に存在しても良い生物量に制限をかけたことです。過去に環境に影響を与えていたと思われる生物の卵や稚仔の大きさと考えられる0.05ミリメートル以上の大きさの生物は、バラスト水1トン中に10個体未満とされており、これはとても厳しい数字です。頭の中で、一辺1メートルの立体を考えていただき、その中に芥子粒程度の大きさの生物が10個体以上あってはいけない、という基準ですので、それを守ることと、守られていることを検証することがとても大変な基準です。
また、条約で決まっている基準はもう1つあります。それは上記の基準を満たす装置を搭載するまでに守るべき暫定基準ですが、沿岸から200海里以上離れたところ、該当する海域が航路上に無ければ50海里以上離れた、水深が200メートル以上の海域で、搭載しているバラスト水の95%以上を交換できれば、処理をしたと認めるという取り決めです。バラスト水を取水する港湾にいる生物は、沿岸から遠く離れたところ、深いところでは生きられない、という考え方です。
条約がすでに発効したわけですが、それ以降の取り決めとして、すべての船は2019年以降に受けるIOPP【16】検査までに装置を搭載しなければならないことになっています。この検査は車でいう車検みたいなものですが、今から2年後の9月8日から始まる5年間に受ける検査の時には装置の搭載完了を確認されるわけです。ですので、2024年9月以降には国際航路に従事するすべての船舶に装置が搭載され、バラスト水による生物移動はなくなるといえるわけです。

大塚― 発効したバラスト水管理条約は、ベストとは言えないまでもベターであり、水生生物の移動にブレーキがかかったと言ってよいですね。

福代さん― 間違いなく、装置を載せればバラスト水で生物が移動することは極力抑えられると胸を張って言えるでしょう。それまではまったく対策が取られてこなかったので、大きな前進です。バラスト水管理条約では、水だけが対象ではなくタンク内の沈殿物もできるだけ除去することも決まっています。タンクの底に溜まっている泥の中にいる生物も、ろ過することによってかなり除けます。

環境を守るお金をみんなで受け入れることを考えてみてほしい

大塚― 最後になりますが、国際的に進んできたバラスト水の問題に、これだけはぜひ言っておきたいということをお伺いできればと思います。

福代さん―  1つは、生物撹乱というのは海運、海事で起こるだけではなくて、日本の場合、水産活動によって起こることが多いという事実です。もう1つ申し上げたいのは、生物が分布を広げようというのは、生物そのものがもつ自然の力とも言えるものです。たとえば、地球温暖化で熱帯系の生物がどんどん北上してきている可能性があるとしたら、その原因を生物種ごとに突き詰め、対策を立てていかないといけないと思います。 ところで、バラスト水の場合は、処理装置そのものが1台につき1億円とか2億円もします。それから運転費用も1回につき200万〜500万円といわれています。また、バラスト水交換も1回につき200万円と言われています。そのお金をどうするのかについて、冗談で話したことがあります。簡単に言えば、船会社はそのためにかかった値段を荷物に転嫁すればいい、荷主は物の値段に転嫁すればいい、という話になるわけです。そうすると、一番最後にツケを払うのは物を買う人、私たちですね。言い換えると、環境を守るのに必要なお金として、私たち皆が受け入れなければいけないわけですよ。環境を守るとはどういうことなのか、考えてみていただければと思います。

大塚― バラスト水を巡るさまざまな話題について、分かり易くお話しいただきました。本日は、どうもありがとうございました。

東京大学名誉教授の福代康夫さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。

東京大学名誉教授の福代康夫さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。


【1】バラスト水(Ballast Water)
船舶のバラスト(底荷、船底に積む重し)として用いられる水のこと。貨物船が空荷で出港するとき、安定を増すため荷の代わりに港で水が積み込まれて、貨物を積載する港まで運ばれ、積載と同時に船外へ排出される。積載する水に含まれる水生生物が外来種として生態系に影響を与えることから、国際条約による規制が進められている【2】。
【2】バラスト水管理条約
正式名称は「「2004年の船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約」。国際航路を航行する船のバラスト水とタンクの底にたまる泥に含まれる生物の排出に伴う環境への被害を防ぐための条約。2004年2月にロンドンで開催された国際海事機構(IMO)会議で採択され、30か国が批准、批准国の合計商船船腹量が世界の35%以上となった日の12ヶ月後に当たる2017年9月に発効した。日本は2014年に条約を締結し、海洋汚染防止法の一部改正法が条約発効日から施行されている。
条約の目的は、生物が、船舶のバラスト水を介して本来の生息地ではない海域に移入・繁殖することによる海洋環境悪化を防止すること。このため、バラスト水排出規制、現存船へのバラスト水処理設備の設置の義務化、船舶検査、証書発給、外国籍船への立ち入り検査(PSC)等による規制の担保を定めている。
【3】有毒単細胞微細藻類
カキ・ホタテなどに麻痺性毒や下痢性毒を蓄積させる原因種。1961年に大船渡湾で発生した死者1名を含む21名の患者を出す中毒事件の原因種は、アレキサンドリウム・タマレンセという単細胞微細藻類と特定されている。その後も東北・北海道などで広く貝毒原因微細藻類が大量に発生し、水産庁と厚生省(当時)が貝の出荷基準を作るなど大きな問題になった。現在有毒単細胞微細藻類は全国各地の沿岸域に発生しているため、各県の水産・衛生担当部局が監視体制を組んでおり、毒化した貝類などが市場に出回らないようにしている。
【4】アカザラガイ(赤皿貝)
生息域は北海道南部から東北地方で、潮間帯から水深10メートルに生息。気仙沼などで養殖が行われており、市場に流通するのは養殖されたもので流通圏はほぼ産地に限られる。
【5】シガテラ(Ciguatera)
カリブ海、インド洋、太平洋など熱帯域の海洋に生息する有毒渦鞭毛藻が作り出す毒素が、生物濃縮によって魚介類に蓄積され、それを人間が摂取することで発生する食中毒。日本でも沖縄などで発生が報告されている。皮膚のかゆみや水に触れたときに感電したような感覚に襲われるなどの症状が1年以上も続くことがある。
【6】IMO(国際海事機関)
船舶の安全及び船舶からの海洋汚染の防止等、海事問題に関する国際協力を促進するための国連の専門機関として1958年に設立。日本は設立当初に加盟国となり、理事国。2016年1月現在、171の国・地域が正式に加盟し、3地域が準加盟国となっている。
【7】WSSD(持続可能な開発に関する世界首脳会議)
2002年8月26日から9月4日まで(首脳による会議は9月2日から9月4日まで)南アフリカ共和国のヨハネスブルグで国際連合により開催された、地球環境問題に関する国際会議。ほぼすべての国際連合の加盟国や多くの非政府組織(NGO)が参加し、最終的には持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言などが採択された。 そのほかにも、各国や多様な関係主体によって、数多くの文書が作成された。
【8】グローバラスト(GloBallast)
GEF(地球環境ファシリティ)/UNDP(国連開発計画)/IMOが協働したグローバルバラスト水管理プログラム。バラスト水を通じた有害水生生物、微生物、疾病の移動を減らすための開発途上国の支援を行っている。
【9】カワヒバリガイ(川雲雀貝)
二枚貝の1種。中国南部原産の淡水産二枚貝だが、日本を含むアジア各地へ分布を広げている外来種。日本では特定外来生物に指定されている。水路をふさぐほど増殖し除去も困難で、大量斃死して水質の悪化を招き、水道や水力発電の施設に付着するなどの被害が問題化している。
【10】クシクラゲ
有櫛(ゆうしつ)動物門に属する無脊椎動物の総称。多くのものは体に色素がなくほぼ無色透明。組織のほとんどが水分でできている。黒海においては生息する魚類を食べつくし、漁業やこれをベースとした貿易を破壊している。黒海とアゾフ海に生息するイルカの個体数も、そのエサとなる魚の絶滅により激減している。
【11】ホンビノスガイ
二枚貝綱マルスダレガイ科の1種。潮間帯の砂や泥の中に生息する。日本では主に、市川市・船橋市地先の三番瀬で漁獲される。また、東京湾最奥部の干潟域では潮干狩りでも採取される。日本での繁殖が確認されたのが比較的近年で、アサリ漁場に多く生息するため、かつては邪魔者として扱われることが多かった。しかし、食味の良さが注目され、2007年頃から首都圏(2010年代からは京阪神でも)の鮮魚店やスーパーなど販売チャネルが拡大し、水産物として採貝される機会が増えたため、2013年には漁業権が設定されるまでになった。
【12】ピロディニウム・バハメンセ(Pyrodinium bahamense)
有毒渦鞭毛藻の1種。麻痺性の毒を作り、【3】で記した有毒単細胞微細藻類の一種。
【13】コプラ(copra)
ココヤシの果実の胚乳を乾燥したもの。灰白色で約40-65 %の良質脂肪分を含む。主に東南アジア諸国や太平洋諸島で生産され、住民の貴重な現金収入源になっている。圧搾したコプラ油は、生のココナッツミルクなどに比べて酸敗の恐れが少ないことから、マーガリンなどの加工食品の原料油脂になるほか、生体への攻撃性の少なさから石鹸、蝋燭など日用的な工業製品の原料になる。コプラ油の絞りかすは有機肥料、家畜飼料になる。
【14】ゼブラガイ
殻長約3cm(最大約5cm)の固着性二枚貝で、黒海,カスピ海,およびロシア、トルコ、ウクライナなどの河川に分布。足糸で硬い表面に付着して群生する。北米のエリー湖などに運ばれ,在来種の二枚貝の成長阻害・窒息、ろ過により湖水の透明度を上げ沈水植物を増加させるなど群集構造を変化させる。船舶の汚損、発電所などの取水施設の通水障害などの影響も出ている。
【15】UV照射
化学物質処理と並ぶ主なバラスト水処理方法。UVランプを使って、UVCと呼ばれる波長200〜280mmの紫外線を発生させ、これをバラスト水に直接照射して、殺菌・生物の不活性化をする。装置が単純で薬剤などを一切使用しないことなどから、バラスト水管理条約が適応される船舶の半数以上が採用している。
【16】IOPP(International Oil Pollution Prevention Certificate) (国際海水汚濁防止証書)
マルポール条約に基づき発給される。船舶が油の排出防止に関する規則に従って検査を受け、条約に定める要件に適合していることを証明するもの。国際航海する総トン数150トン以上のタンカー及び国際航海する総トン数400トン以上のタンカー以外の船舶が対象。
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