一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.064

Issued: 2017.04.21

三菱UFJモルガン・スタンレー証券クリーン・エネルギー・ファイナンス部主任研究員・吉高まりさんに聞く、二国間クレジット制度(JCM)を含む地球温暖化対策としての排出権取引を中心とした国内外の環境金融の状況

吉高 まり(よしたか まり)さん

実施日時:平成29年4月6日(木)11:00〜
ゲスト:吉高 まり(よしたか まり)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 1985年明治大学法学部卒業後、米国投資銀行、証券会社、非営利団体国連環境計画日本協会等に勤務。
  • 1997年米国ミシガン大学自然資源環境大学院環境政策科を卒業。在学中に世銀グループの国際金融公社(IFC)技術環境部で途上国における環境事業の社会インパクト調査に携わり、その後もエコファンドの環境起業リサーチ及びスクリーニングを実施。
  • 2000年8月に東京三菱証券株式会社(現在、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社)に、クリーン・エネルギー・ファイナンス委員会立上げのため主任研究員として入社。入社以降、途上国での温室効果ガス削減事業の資金枠組みを推進するため、アジアを中心に中南米、アフリカなどのCDMプロジェクトのコンサルティング、クレジット創出に係る制度設計を実施。またJCMを含む日本政府による多数の調査事業に従事。昨今は、ESG投資、気候変動ファイナンスなど、日本の環境ビジネスの支援に資する、金融関連の分野にコンサルティングの業務が広がっている。
  • 2008年度より慶應義塾大学大学院政策メディア研究科特任教授。
  • 2020年度より三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社経営企画部副部長 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト。
目次
環境と社会問題とビジネスが結びつくことを知り嬉しくなった
途上国を対象にするCDMという排出権取引は、途上国での事業にお金を持っていくためのツールとして有効
手続きに時間がかかりすぎるのを避け、ビジネスの展開に合わせる必要がある
環境が企業の価値を評価する軸になれば、世界が変わる
金融は、社会の変革の中で起きるビジネスチャンスをサポートするのが本来の使命

環境と社会問題とビジネスが結びつくことを知り嬉しくなった

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のクリーン・エネルギー・ファイナンス部主任研究員である吉高まりさんにお越しいただきました。吉高さんは、日本で黎明期にCDM(クリーン開発メカニズム)【1】に取り組まれ、この分野の第一人者として多くの実績を残されています。本日は、日本政府がCDMに替わって進めようとしているJCM(二国間クレジット制度)【2】を含め、地球温暖化対策としての排出権取引を中心とした国内外の環境金融の状況についてお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、吉高さんが国際的な環境金融の分野に携わられるようになった経緯など、自己紹介を兼ねてお話いただけますでしょうか。

吉高さん―  私は大学の法学部を卒業した後、IT企業に勤めてから金融業界に転職いたしました。転職先がアメリカの投資銀行の日本現地法人で、その後ニューヨーク本社に赴任することになったのです。この頃はアメリカのバブル期と重なる一方、1992年にはリオデジャネイロで地球環境サミットが開かれ、1993年にはビル・クリントンが大統領に、アル・ゴアが副大統領に就任した時でした。
バブルはいつかはじけるのではないかと思う一方、このままでいいのかという不安を感じていました。単なるお金を稼ぐためだけでなく、自分のやりたい仕事はなにか、何か社会に貢献する仕事ができないかと考えていました。そのような時、英語の勉強に通っていたニューヨーク大学に、「ビジネスと環境」という社会人向けの夜間開講の講座があることを知ったのです。私は、日本の学生時代から国際関係論をとるなど国際的な問題に興味をもっていましたが、ニューヨークにおける環境問題への盛り上がりに驚きましたし、「ビジネスと環境」講座では、毎回米国で環境ビジネスを実践している方の話を聞くことができ、環境と社会問題の解決とビジネスが結びつくことを知り嬉しくなったのを覚えています。

大塚― 環境とビジネスを結びつける点で、アメリカは進んでいたのですね。吉高さんにとっては、素晴らしい巡り合わせだったのだと思います。

吉高さん― しかし、ニューヨーク大学で「ビジネスと環境」講座を担当されていた先生に相談したところ、このテーマを深く理解するにはまず環境の知識をつける必要があるということで、ニューヨークでの赴任が終わってから日本に戻り、まず環境の勉強に取り組むことにしたのです。

大塚― うまくいきましたか。

吉高さん― 日本に戻り、以前からの仕事を続けながら、環境について勉強する大学を探しました。しかし、当時の日本には環境を本格的に教えてくれる学部などはほとんどなく、社会科学分野では皆無だったのです。大学の法学部の先生に相談したところ、日本の大学院などでは、基礎的な内容に偏りがちなので、アメリカの大学(院)の方が実践的で目的にあっているのではないかと示唆をいただいたのです。

大塚― 適切な示唆だったのでしょうね。

吉高さん― いろいろと調べた結果、ミシガン大学にビジネススクールと環境スクールを統合したプログラムがあることを知り、留学を決意しました。その時に考えたのは、留学して勉強をした後には、金融の分野から離れ、環境ビジネスのコンサルタントを目指すことでした。
ミシガン大学では、環境を一から勉強しました。生態系、熱帯雨林保護、ライフサイクル分析、都市計画、環境経済や政策など、まさにあらゆる分野を勉強しました。ところが、1年目が終わった時、このように広い環境の分野で専門家になろうとしても、生態学者でもエンジニアでもない私が1年や2年では無理だろうと落ち込んでしまったのです。1年目が終わった夏休みに、世界銀行グループの1機関で途上国の民間セクターに資金の貸し出しなどを行うIFC(国際金融公社)【3】で、環境部門のインターンをする機会がありました。私が環境金融の世界に入ったのは、この経験が大きかったと思います。つまり、環境ビジネスはあらゆる分野にかかわり、作ることができるので、強みの分野である金融に環境とのつながりを持つ仕事ならできるのではと確信したのです。

途上国を対象にするCDMという排出権取引は、途上国での事業にお金を持っていくためのツールとして有効

大塚― ミシガン大学の大学院修了後は、どのような仕事をされたのですか。

吉高さん― しばらくの間、ニューヨークに在住しながら世界銀行やグリーンマーケット会社のコンサルタントに携わっていたのですが、体調を少し崩したこともあり日本に戻りました。
日本では環境金融の仕事はほとんどありませんでした。金融機関で派遣の仕事をしながら、エコファンド【4】の立ち上げのための調査に関わりました。このことが、1999年の日興エコファンドの創設につながったのです。そして、2000年に現在の会社に入社いたしました。そのきっかけは、既に退職されている副社長さんに誘われ排出権ビジネスについてご提案したことでした。

大塚― 京都議定書は1997年に採択されていますが、CDMを活用するプロジェクトはどのような状況だったのでしょうか。

吉高さん― 私がCDMにかかわったきっかけの1つは、先ほども述べましたように、IFCで私が担当した途上国での事業に伴う環境影響の調査でした。また、IFCのファンドに途上国の環境ビジネスに資金を提供するものがあったことからも分かるように、途上国でも環境ビジネスが立ち上がる状況だったのです。
私が、エコファンドの立ち上げに関わり考えた結論は、途上国を対象にするCDMという排出権取引は、途上国での環境事業に直接お金を持っていくためのツールとして有効ということです。2000年には京都議定書は発効していませんでしたが、この分野に詳しい国立環境研究所の山形与志樹【5】さんにサポートいただきながら、先ほど申し上げた当時の副社長にCDMに取り組むことを提案し、認めていただいたのです。
入社後、クリーン・エネルギー・ファイナンス部が立ち上がり、プロジェクトの具体的な内容についても検討を始めました。その最初が、タイ国でのもみ殻バイオマス発電のプロジェクトでした。というのは、CDMの事業として、排出権取引ビジネスが目的であれば多量の削減量のあるフロンガスの削減、あるいは大規模な水力発電などが当時有望でした。しかし、私たちの部署には社会貢献の目的もあり、コベネフィットとして、途上国の主産業である農業から大量に廃棄される農業廃棄物の処理と再生可能エネルギー供給に着目したのです。

大塚― 確かに、東南アジアの国々のもみ殻の量はものすごいですね。

カンボジアもみ殻発電CDMプロジェクトのサイト写真

カンボジアもみ殻発電CDMプロジェクトのサイト写真

吉高さん― ASEANをはじめとする多くの途上国では、大量の農業廃棄物の処理が必要であると同時に、経済発展のために発電量を増やすことも必要なのです。そのため、もみ殻バイオマス発電は有効でした。その他にも、椰子殻、キャッサバ、生活ごみなどにも取り組みました。ところが、続いて計画したカンボジアのもみ殻発電プロジェクトは、カンボジア初のCDMプロジェクトだったのですが大変苦労しました。

大塚― どのようなことが理由だったのですか。

吉高さん― 何といっても大きな問題は日本からの技術移転がうまく進まなかったことです。カンボジアは、ご存知のように、ポルポト政権時代に高い技術や知識をもつ人材がいなくなり、そのままの状況だったのです。最初から日本の企業とパートナーシップを組めばよかったとも思いますが、当時は日本の企業はCDMに積極的にかかわってくれませんでした。

大塚― カンボジアの状況は、私も訪れたことがあるのでよく分かります。

吉高さん― このプロジェクトでは、環境省からCDM実施可能性調査の支援をいただき、NEDO【6】の事業実施支援もいただいていたにもかかわらず、2012年までに排出権を移転する計画が遅れた上に、排出権の移転手続きにも時間がかかり大変でした。

大塚― とはいえ、ご苦労された甲斐があり、カンボジアの発展に貢献されることになったのでしょう。

吉高さん― はい、本事業はカンボジア初のバイオマス発電であり、CDM事業でした。タイでは、もみ殻発電が当たり前のようにされていたのに、コメの輸出量が多い隣国のカンボジアではもみ殻がまったく利用されていなかったのですよ。その後、同国で徐々にバイオマス発電が広がっています。これまで活用されていなかったもみ殻を使ったもみ殻発電が始まったことは、これからの経済発展に役立つと思っています。


手続きに時間がかかりすぎるのを避け、ビジネスの展開に合わせる必要がある

大塚― 話題を少し変えさせてください。
一昨年のパリ協定が採択されたCOP21で、日本政府はCDMに替わるような制度としてJCMの活用を強調しました。JCMの特徴を、CDMとの比較などをとおしてご説明いただけますか。

吉高さん― JCMの考え方については、私もご提案してまいりました。私の考えの基本にあるのは、CDMを長い間試行錯誤しながら行ってきた経験から、手続きに時間がかかりすぎるのを避け、ビジネスの展開に合わせる必要があるということです。排出権の組成や取引に関わるのは企業なのですから。
もう1つ感じていたことがあります。日本企業はCDMに参加するとしても、排出権を買うだけの参加になることが多かったのです。しかし、本来CDMは民間の技術移転や投資を促進する流れをつくることが大事なはずです。特に日本の技術移転を考えると、CDMの枠組みではなく、二国間で行う方がニーズのあるところに必要な技術を提供する現実的な仕組みだと考えました。

大塚― EU諸国も、CDMよりJCMの方が有効と考えているのでしょうか。

吉高さん― 元々、EUはCDMを多く活用していました。そして徐々に、CDMにもJCMに適用されているような標準化した排出削減量の算定方法を作るなど、CDMを柔軟で現実に合うように変えてきたと思います。今後の方向は、パリ協定が発効し、第6条において他国における削減努力の移転について定義されており、今後、詳細が交渉され、各国が具体的な動きを示す中ではっきりしてくると思います。

大塚― 日本政府は、国際的にみてもJCMへの対応は迅速だったように感じます。

吉高さん― そうですね。おっしゃる通りです。

大塚― 民間の事業も含め、日本はこれからJCMをどのように活用していくといいのでしょうか。

吉高さん― 現在、私どもの会社も多くのJCMプロジェクトに関わらせていただいています。日本の技術を活用することで多様なJCMが可能であり、非常に重要なメカニズムであることは間違いありません。ただし、CDMに日本の技術がそれほど多く活かされなかったのも事実なので、その理由を検証しておく必要があるように思います。その1つは、日本がもつ技術の内容に関わっていそうです。日本の強みがはっきりしているのは、再生可能エネルギー技術などよりも省エネ技術でしょう。省エネ技術は、必要とされる技術レベルは高いのですが、大量の排出権を得にくいのです。また、必要とされる経費が高い傾向もみられます。
CDMでも同じですが、JCMによるクレジットのボリュームを増やすには、補助金やその他の公的金融手法をテコにして民間資金を呼び込むことが肝要です。今申し上げたような日本の技術の特徴を考えながら、課題を克服していく必要があると思っています。

大塚― JCMの今後の活用については、国際的な課題を含めていかがでしょうか。

吉高さん― そうですね。いろいろと難しい問題があると思います。私が考える最も基本的な点は、JCMすなわちJoint Crediting Mechanismにおいて最重要といってよい、「信頼」あるいは「信用」を意味するクレジッティング(クレジット)を今後どう位置づけていくかでしょう。
CDMもそうですが、JCMもクレジットですから、民間がJCMを活用するインセンティブを付与する制度になるかにかかっているように思います。日本では、環境省と経済産業省が多角的に検討していると思います。いずれにしても、まだまだ試行錯誤などが必要かもしれず発展途上ですが、日本が世界に対して気候変動に対する貢献を表す確かなツールとなっていくことでしょう。

海外講演(COP22ジャパンパビリオンサイドイベント)

海外講演(COP22ジャパンパビリオンサイドイベント)

国内講演(G7富山環境大臣会合プレイベント)

国内講演(G7富山環境大臣会合プレイベント)



環境が企業の価値を評価する軸になれば、世界が変わる

大塚― いろいろと伺ってまいりましたが、吉高さんが証券会社にお勤めの立場から、気候変動と金融あるいは環境と金融について考えておられることを、改めてお話しいただきたいと思います。

学生への講義

学生への講義

吉高さん― 最初に申し上げたように、この分野に関わり始めたころは、特に日本では金融業界と環境問題はすごく離れた存在でした。大きな変化のきっかけになったのが、「環境」が「金融」に関わることを具体的に示したエコファンドで、今思うと、エコファンドは金融業界に対する啓もう啓発だったように感じます。それに関われた私はすごくラッキーでした。
しかしそれ以来、赤道原則など「責任投資」という流れはあるものの、「環境」と「金融」はまだまだ離れた関係だったように感じています。状況が大きく変わり始めたのは、2015年に金融安定理事会【7】が気候変動を金融資産のリスクとして考慮するように、そして関連する情報を金融や事業会社に開示するようにという示唆を出したことです。さらに、国連にはESG投資【8】と呼ばれる責任投資原則(PRI)がつくられているのですが、世界最大のアセットをもつ日本の国民年金を管理するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)【9】が、一昨年、その原則にしたがうことに署名したのです。これら一連の動きが、大きな転換期になったのです。こうした動きの中で私の環境金融の仕事の幅も広がり、最近ではESG投資目的の機関投資家や事業体から、日本ではこれから市場が広がることが期待される、グリーンボンドに関するご相談もよく受けるようになりました。
そもそも、カーボンクレジット取引は、経済市場の外部不経済である環境価値を金銭化し、環境のためのプロジェクトに資金を流すツールです。排出権は1つの手段であり、本来は環境のために民間の資金がもっと使われ、ひいては社会全体の課題解決のために民間の資金が使われる仕組みをつくることが重要なはずです。今まさに、その転換期にきていると感じています。

大塚― 吉高さんがずっとお考えになっていたことですね。

吉高さん― やっとギアが入ったという感じです。今までは、環境への投資は、たとえば公害防止技術への投資のように、ネガティブな側面とセットになっているようなところがみられました。これからは、ポジティブというか、環境がビジネスチャンスになる可能性がどんどん高まるのです。環境が企業の価値を評価する軸になり、そこに資金が集まるようになれば世界が変わると思います。金融はその担い手になるべきだと考えます。
パリで開かれたCOP21などに出席するとよく分かるのですが、この2、3年の変化はものすごいと思います。世界の年金基金が集まりグリーンボンドを買いますとか、FacebookやGoogleやAmazonがRE100【10】を進めますと宣言するのです。世界の動きに比べ、日本は遅れていると感じます。

大塚― グローバルな視点からいい話を伺いました。


金融は、社会の変革の中で起きるビジネスチャンスをサポートするのが本来の使命

大塚― 最後に、日本の地球温暖化対策について、吉高さんのお考えを伺いたいと思います。

吉高さん― 温暖化対策に掲げられた目標の数字の妥当性とか、そういう話ではないのですが、国際的な環境金融の立場から述べさせていただきます。
再生可能エネルギーへの転換や省エネルギーを推進しているFacebookの担当者に、「どうしてそういうことに力をいれるのですか」と聞いたことがあるのですが、「なぜやらないのですか」という返答でした。この言葉が世の中の流れを示しており、このような動きが間違いなく加速されていきます。たとえば、近々開かれるオリンピックで大量のエネルギーが使われると思いますが、一方で、環境にとってメリットをもたらす大きな変化を生みだすチャンスになると思います。すべてのことに当てはまるのでしょうが、家庭生活や日常のライフスタイルなどでも、大きな転換期がこの20〜30年に起き、世の中のビジネス構造が変わるような気がしています。それを今学生にも伝えています。

大塚― 私たちも、新たな方向を進んでいきたいと感じます。本当に最後になりますが、EICネットの読者に向け、吉高さんから個人的なメッセージをお願いできますか。

吉高さん― 私は、環境や社会に貢献できるビジネスをしたいと考え活動してまいりました。いろいろなことにチャレンジしてまいりましたが、最近始めたことの紹介をさせていただきたいと思います。
それは、気候変動への適応に対するビジネス界の意識改革です。ご承知のとおり、気候変動によってもたらされる負の影響を最小限にとどめようとする適応は、これから世界的にも大変重要なテーマになっていきます。私は、適応ビジネスに関して日本が非常に大きなポテンシャルをもつと思っています。たとえば、日本には四季があることにも関係し、自然災害に対するさまざまな知恵があります。共感をもてるポジティブなストーリーを作ることにより、新たなビジネスチャンスが生まれると思います。
最近は、IOTやAI、あるいはビッグデータなど、情報関連の急成長がもたらす状況は、それ自体が、実は環境ビジネスに関わるのです。たとえば、シェアリング・エコノミー【11】やサーキュラー・エコノミー【12】も環境ビジネスの側面をもつのですよ。その中で、もっとニューエコビジネスベンチャーが生まれてくるのではないかと期待します。
金融は、社会の変革の中で起きるビジネスチャンスをサポートするのが本来の使命です。このEICネットをご覧の皆さまに、さまざまな分野が環境ビジネスとして新たな社会つくりに貢献することをご理解いただき、新しいビジネスを創っていっていただきたいと思っています。

大塚― 本日は、吉高さんから長い間携わってこられた国際的な環境金融の動きについて、特に新しい展開を見据えたお話をいただきました。これからも、ますますご活躍いただきたいと思います。どうもありがとうございました。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券クリーン・エネルギー・ファイナンス部主任研究員・吉高まりさん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券クリーン・エネルギー・ファイナンス部主任研究員・吉高まりさん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。


【1】CDM(クリーン開発メカニズム:Clean Development Mechanism)
 京都議定書に定められた温室効果ガスの排出権取引のメカニズムで、先進国と途上国が共同で温室効果ガス削減プロジェクトを途上国で実施し、そこで生じた削減分の一部を先進国がクレジットとして得て、自国の削減に充当できる仕組み。
【2】JCM(二国間クレジット制度:Joint Crediting Mechanism)
 日本が世界の温室効果ガス排出削減に貢献するため、途上国の状況に柔軟かつ迅速に対応する技術移転・対策実施の仕組みを構築する制度で、日本の貢献を定量的に評価し日本の削減目標の達成に活用するもの。
【3】IFC(International Finance Corporation:国際金融公社)
 1956年に設立された世界銀行グループの一機関で、貧困の減少や生活改善を目的に途上国の民間セクターへの投資支援や技術支援を行う。181カ国がメンバー国で、本部はアメリカに置かれている。
【4】エコファンド
 投資信託の一形態で、環境対策に積極的に取り組み、その成果が株価にも好影響をもたらしている企業に重点的に投資するもの。日本では、1999年に始まった日興エコファンドが最初である。
【5】山形与志樹(やまがたよしき)
 国立環境研究所・地球環境研究センター・主席研究員。気候変動リスク評価研究室に所属し、グローバルな視点から、システムアプローチに基づく地球温暖化リスク評価などを行っている。
【6】NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:新エネルギー・産業技術総合開発機構)
 日本のエネルギー・環境分野と産業技術の開発研究の一端を担う国立研究開発法人。1980年に設立された新エネルギー総合開発機構を前身とし、事業の拡大とともに名称変更を繰り返してきた。現在の職員数は約1064名。
【7】金融安定理事会(Financial Stability Board, FSB)
 金融安定化フォーラムが発展し2009年に発足した国際機関。国際金融に関し、措置・規制・監督などを行う。事務局はスイスの国際決済銀行内に置かれ、現在のメンバーは、日本を含む世界の24カ国、欧州中央銀行、欧州委員会、世界銀行など4つの国際金融機関、6つの国際組織。
【8】ESG投資
 財務情報といった従来からの投資尺度だけでなく、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)などの非財務情報も考慮しつつ、収益を追求する投資手法のこと。責任投資(RI: Responsible Investment)、持続可能な投資(SI: Sustainability Investment)などとも呼ばれる。
【9】GPIF(Government Pension Investment Fund:年金積立金管理運用独立行政法人)
 厚生労働省が所管する独立行政法人で、日本の公的年金のうち厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う。世界最大規模の運用資産を保有する。
【10】RE100(Renewable Energy 100%)
 事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟する国際イニシアティブ。
【11】シェアリング・エコノミー(Sharing Economy)
 遊休資産を活用するなどにより、経済的優位性を高める試みであり、ソーシャルメディアによる情報の活用や貸し借りの成立のための信頼関係の担保が必要になる。アメリカなどで大規模に展開されている。
【12】サーキュラー・エコノミー(Circular Economy:循環型経済)
 これまで提唱されてきたような資源循環の効率化だけでなく、原材料に依存せず、既存の製品や有休資産の活用などにより価値創造の最大化を図る経済システム。

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