一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.049

Issued: 2016.01.22

第49回 関荘一郎環境事務次官に聞く、2016年の環境行政の展望

関 荘一郎(せき・そういちろう)さん

実施日時:平成28年1月6日(水)13:30〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:関 荘一郎(せき・そういちろう)さん

  • 環境事務次官。大分県出身。
  • 1978年(昭53年)東大工卒。環境庁入庁。2012年環境省地球環境局長、2014年地球環境審議官を経て、2015年7月より現職。
目次
1971年の環境庁発足から45年、人でいえば45歳という最も働き盛りのこの時期に相応しい環境行政を押し進め、国民の期待に応えたい
最優先課題である東日本大震災からの復旧・復興
しばらく中断していたG7環境大臣会合が、COP21の成功を受けて久しぶりに再開
リオデジャネイロのオリンピック・パラリンピック2016が過ぎると、つぎの東京に国内外の関心が高まってくる
45年前の環境庁発足時には主に公害・汚染対策を担当していた環境省が扱う内容はきわめて広がっている

1971年の環境庁発足から45年、人でいえば45歳という最も働き盛りのこの時期に相応しい環境行政を押し進め、国民の期待に応えたい

大塚理事長(以下、大塚)― 2016年の年頭にあたり、環境行政の責任者である関荘一郎環境事務次官からお話を伺うことになりました。大変お忙しいなか、エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 本年も環境にかかわる重要な課題が数多くございますが、それぞれについてお伺いする前に、本年の環境行政の基本方針、あるいは環境省としての意気込みなどについて、お話しいただきたいと思います。

関次官― ご指摘いただいたように、環境省は大変多くの課題を抱えておりますが、振り返りますと前身の環境庁が発足したのが1971年ですので、今年が45年目にあたります。人でいえば45歳という最も働き盛りになったともいえますので、それに相応しい環境行政を押し進め国民の期待に応えたいと、このように考えております。
 課題は多々ありますが、中でも大きなものは今年3月で丸5年が経過する東日本大震災であり、これからの5年間は復興・創生期間として被災地の自立に繋がるよう、国として全力で取り組んでいく必要があります。環境省といたしましても、引きつづき福島の復興を最優先課題と認識しており、除染と中間貯蔵施設の整備、指定廃棄物の処理などに全力で取り組んでまいります。
 もう1つの大きな課題である地球温暖化対策につきましては、昨年12月のCOP21でパリ協定が採択されました。この協定は2020年以降、すべての国が参加する国際的な枠組みであり、日本にとっては悲願の国際ルールが採択されたことになります。今年は地球温暖化問題の解決に向け、世界が新たなスタートを切る重要な年になると感じております。


最優先課題である東日本大震災からの復旧・復興

大塚― 関さんが最優先課題としてあげられた、東日本大震災からの復旧・復興に関しもう少しお伺いいたします。今年3月に5年目の節目を迎えること、平成28年度に除染実施計画が完了予定であることなどを踏まえ、現在の状況をどのように捉えておられるのでしょうか。

関次官― 福島の皆さまが帰還されるのに、もっとも重要な政策の1つが除染だと考えております。除染実施計画に基づき、平成28年度中に居住制限区域の除染を終えることが閣議決定されております。現在、環境省が取り組んでおります11市町村の除染については、そのうち4町村で除染が終了し、3町村で宅地除染が終了しています。ほかの4市町では現在除染作業中ですが、なんとか来年度中にすべての地域で除染が終了できるよう、2万人に近い作業員により作業を進めているところです。

大塚― 予定通り進めていただきたいと思います。一方、難しい問題も多い放射性廃棄物の取り扱いについてですが、国が責任をもつことになっている放射性セシウムの処分について、現状と今後の見通しをご説明ください。

関次官― 法律に基づき、8000Bq/s【1】を超える放射性廃棄物を指定廃棄物と呼んでいますが、ご承知のとおり、指定廃棄物は福島県と周辺5県で大量に発生し、その処理が重要な課題になっております。福島県につきましては、昨年12月に既存の管理型処分場の活用を地元のご英断で受け入れていただき、これが今後の福島の復興に向けた大きなきっかけになると大変感謝しております。引きつづき安全安心の確保に万全を尽くしつつ、地域住民の皆さまのご不安やご懸念を解消できるよう努めてまいりたいと考えております。
 ほかの5県につきましては、各県に1カ所ずつ災害にも耐えうるしっかりとした施設を造り、そこに指定廃棄物を集約し管理するのが環境省の方針です。これまで、各県の地元からご理解をいただけるよう丁寧な説明に努めてまいったつもりでおりますが、調査候補地や一時保管をしていただいている自治体から厳しいお声をいただくこともありました。今後も地元の皆さまがたに誠意をもってご説明し、ご理解いただけるよう努めたいと考えております。

大塚― もう1つ気になっているのは、放射線による健康影響です。影響が現れるまでに長時間かかることも考えられ、住民の方々は大変心配されておられます。この点についても、お考えを聞かせていただければと思います。

関次官― 住民の皆さまの健康にかかわる安全と安心の確保は、震災からの復旧・復興の重要な柱の1つと考えております。環境省は、福島県が県民の中長期的な健康管理のために実施しておられる県民健康調査に、財政的・技術的な支援を行うとともに、調査に携わる人材育成への支援も行っています。また、住民の方々との接点が多い保健師や教師の方々を対象に、健康不安に対する正確な情報を伝えるための研修会を開催するなど、リスクコミュニケーション事業も推進しております。加えて、昨年2月のことですが、原発事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議の中間報告を取りまとめていただき、この取りまとめを踏まえた環境省の当面の政策を策定したところです。今後とも、県民の皆さまのご不安の解消に向け必要な対策を講じていきたいと、このように考えております。

しばらく中断していたG7環境大臣会合が、COP21の成功を受けて久しぶりに再開

大塚― 話題を変えさせていただきます。最初にもご指摘のあった地球温暖化対策が、グローバルにみた最大の課題であろうと思います。COP21を踏まえ、日本政府および環境省の方針をお聞かせください。

関次官― COP21が成功裏に終了したことを受け、昨年末の12月22日に、総理を本部長とする地球温暖化対策推進本部の会合が開かれ、パリ協定を踏まえた地球温暖化対策の取り組み方針をとりまとめたところです。主要な点は3つあります。
 第1は国内における対策で、この春までに法律に基づく地球温暖化対策計画を策定することになりました。第2は政府が自ら率先して進めるための政府実行計画で、同じくこの春までに策定することになりました。第3は国民の皆さまも一丸となり温暖化対策を一層強化していただくことで、「国民運動」と名づけています。
 加えて、地球温暖化対策で重要な途上国支援と技術開発のイノベーションを目指し、「ACE2.0(エース2.0)」という略称で呼ばれる「美しい星への行動2.0」【2】を推進し、日本の国際社会への貢献を高めていく方針が確認されております。

パリで開催されたCOP21(会場の様子)

パリで開催されたCOP21(会場の様子)

COP21においてステートメントを行う丸川環境大臣

COP21においてステートメントを行う丸川環境大臣


大塚― 大きな枠組みについてお話しいただきましたが、具体的な質問をさせてください。たとえば、業務・家庭部門でのCO2排出量の40パーセント削減という目標は、野心的で実現には大きな努力が必要と感じますが、どのように達成していこうとお考えでしょうか。

関次官― 日本はCO2排出量を、2030年までに2013年に比べ26パーセント削減すると、昨年7月に国際公約いたしました。この目標をつくったとき、各分野での対策により、削減量をどれだけ積み上げられるかを決めており、ご指摘のように、家庭部門と業務部門は約4割の削減が必要になります。家庭・業務部門への主なエネルギーの供給側である電力については、政府が決めたエネルギーミックスの電源構成の実現が対策の中心になります。一方の需要側については、技術開発とも関連し、エネルギー効率が高くCO2排出量が少ない機器をいかに普及させていくかが重要になります。このことが、政府内における環境省の温暖化対策の主な役割になっています。
 このため環境省では、来年度の予算編成でも重点化をしています。第1は、省エネ・再エネ利用を面的な拡張を含めて最大限に促進していくことです。第2は、先進的な技術の実証導入を支援することにより、技術の水平展開を推進することです。第3は、環境金融【3】の活用や先ほど申し上げた「国民運動」をつうじた普及の促進です。CO2排出量の40パーセント削減はもちろん簡単ではありませんが、これらの方針に基づき、2030年に向け着実に進めていきたいと考えております。

大塚― 広がりをもった「国民運動」の推進は不可欠と思います。舵取りをよろしくお願いいたします。
 ところで、今年は日本で大きな国際会議が数多く予定されており、5月には富山市でG7環境大臣会合が開催されます。この会議はCOP21以降の最初の大きな国際会議になるわけで、日本のプレゼンスを高める絶好の機会になると思います。

関次官― G7環境大臣会合【4】は、実はしばらく中断しておりました。久しぶりの再開となったのは、COP21の成功を受け、G7の国々が環境問題に対しもう一度結束し前進しようという気運が高まったもので、私どもはきわめて重要な会議になると捉えております。具体的なアジェンダの詳細はこれから詰めていくところですが、地球温暖化対策はもちろん、世界が直面している大きな環境問題にできる限り具体的な方向性を打ち出していければと考えております。また、開催地の富山市は優れた環境の試みや街づくりを行っている都市であり、日本の先進的な取り組みを世界に発信する場にしたいと考えております。


リオデジャネイロのオリンピック・パラリンピック2016が過ぎると、つぎの東京に国内外の関心が高まってくる

大塚― 最初のご指摘のとおり、震災からの復旧・復興と温暖化対策以外にも、環境省が取り組むテーマは多く、低炭素社会・循環型社会・自然共生社会の構築を統合的に進めようとされているわけですが、今まで触れられていない施策や方針について、代表的なものだけでも紹介をお願いいたします。

平成28年度環境省重点施策の4本柱

平成28年度環境省重点施策の4本柱
※PDFファイルはこちら

関次官― 福島をはじめとする被災地の環境回復や地球温暖化とならんで、循環共生型社会の構築がきわめて重要な政策と認識しております。
 循環型社会の形成については、とくに3R【5】に着目して政策を進めてまいりましたが、3Rのうちのリサイクルはかなりの成果があがっており今後はさらなる高度化を目指すこととし、ほかの2つのRであるリデュースとリユースに重点を置き推進していきたいと考えております。
 自然共生社会の実現については、その基盤として、森と里と川と海を一連の自然のつながりの中で捉え、自然の恵みを現在そして将来にわたって享受できることを目指す「森里川海プロジェクト」【6】に着手しており、今年はこのプロジェクトを一層強化していきたいと考えております。

大塚― 大事なポイントを簡潔にご紹介いただきましたが、もう1つお伺いしたいと思っておりました。2020年に開催予定の東京オリンピック・パラリンピックのことですが、8月開催ということで、熱中症対策をはじめ、環境面での対策がいろいろ必要であろうと思います。今の段階でお話しいただけることがあれば、ご紹介いただけないでしょうか。

関次官― 今年はオリンピック・パラリンピックがブラジルのリオデジャネイロで開催され、それが過ぎると、つぎの東京に国内外の皆さまの関心が高まってくると思っております。オリンピックは、今回に限らず「環境オリンピック」にするという発想が世界の流れでもあり、日本の提案の中にもさまざまな環境配慮がなされています。
 環境省では、一昨年の8月になりますが、「環境にやさしいオリンピック・パラリンピック」に向けた取りまとめを行っております。さまざまな課題がありますが、とくに低炭素化、水質改善、3Rにかかわる日本の技術を駆使した工夫を中心にしたいと考えています。そして、先ほどご指摘いただきましたように真夏に開催されるわけで、最近の日本は温暖化の影響もあり猛暑が予想されますので、そういう中で選手の方や観客の方が、快適で安全で安心できるオリンピックになるよう全力を注ぎます。今までも熱中症対策、あるいはヒートアイランド対策を環境政策として実施してまいりましたが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、一層の対策を東京都やオリンピック委員会等々と連携して準備しているところです。

45年前の環境庁発足時には主に公害・汚染対策を担当していた環境省が扱う内容はきわめて広がっている

大塚― 最後になりますが、EICネットは非常に多くの方々にご覧いただいております。EICの読者の皆さまに向け、関さんからのメッセージを是非お願いしたいと思います。

関次官― 45年前に環境庁が発足したとき、環境庁が担当しておりましたことは、主に公害、そして汚染対策でした。ところが、45年経った今、扱う内容がきわめて広がってまいりました。それぞれの環境問題に対し、幅広い分野からの専門的な知識が必要になったとも言えます。私どもの環境省の職員も、さまざまなバックグラウンドをもつようになり、また私どもが相談などをさせていただく専門家の方々は、ありとあらゆる学問分野に広がっている状況です。
 おそらくEICネットをご活用になっておられる皆さま方は、いろいろな職業や専門性をもっておられると思います。環境問題が多様化し、その対策においてもきわめて多様な専門性が必要になっているからこそ、EICネットなどを利用・活用されておられる方々をつうじて、環境問題への理解と問題解決に向けた情報伝達を進めていただくことが必要になってきたと感じております。環境省だけで環境問題を解決できるものではありません。世の中のいろいろな立場の方々が、1つのフォーラムの上で情報を共有し知恵を出しあい、直面している問題に対応していくことがますます重要になっているのです。繰り返しになりますが、そのようなネットワーク社会が実現し、皆さま方と環境省が一緒になって環境問題に取り組んでいけることを願っております。

大塚― 東北大震災からの復旧・復興、地球温暖化対策などの環境問題への取り組み、そしてよりよい環境を創りだそうとする環境省の強い意志を伺うとともに、ある意味ではEICネットへのご注文もいただいたように感じました。今日はお忙しい中をありがとうございました。


環境事務次官の関荘一郎さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。

環境事務次官の関荘一郎さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。


注釈

【1】Bq/s(ベクレル/キログラム)
 放射能を表す単位で、放射性物質が1秒間に崩壊する原子の個数を指す。放射性セシウム(セシウム134、137)の食品衛生法(平成24年4月1日施行)における基準値は、飲料水で10Bq/s、一般食品で100Bq/sなど。
【2】美しい星への行動2.0(Actions for Cool Earth: ACE 2.0)
 2015年12月に日本政府が表明した、途上国支援とイノベーションからなる2つの貢献を指す。途上国支援としては、2020年に官民合わせて約1兆3000億円、現在の1.3倍とし、地熱発電、都市、防災インフラなどの日本の得意分野で貢献を行う。イノベーションとしては、革新的エネルギー・環境技術の開発強化に向け、「エネルギー・環境イノベーション戦略」を策定し、2国間クレジット制度(JCM)などを通じ優れた低炭素技術の普及を推進する。
【3】環境金融
 環境負荷を低減させる事業などに資金が直接使われる投融資と、企業行動に環境への配慮を組み込もうとする経済主体を評価・支援することで、このような取組を促す投融資。
【4】G7環境大臣会合
 今年5月15−16日に富山市で開催が予定されており、日本以外の参加国はイタリア、カナダ、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、EU。
【5】3R
 循環型社会を形成する上で重要な、廃棄物にかかわる3つの取り組みの英語の頭文字をつなげたもので、リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の3つのRを指す。
【6】森里川海プロジェクト
 環境省が2014年12月に、「つなげよう、支えよう森里川海」と銘打って省内に立ち上げたプロジェクト。環境省だけでなく、地方公共団体、有識者、先進的な取り組みを実施している団体などと対話や議論をしながら、森里川海の恵みを将来にわたって享受し、安全で豊かな国づくりを行うための基本的な考え方と対策の方向を取りまとめることを目指している。